織斑一夏の無限の可能性35
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Episode35:学年別トーナメントG―隠れ巨乳は偉大なり―

 

 

 

 

 

 

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【簪side】

 

 

私は―――何でも出来る姉に羨望の想いを抱いていた。 誰からも好かれる姉の事が羨ましくて、羨ましくて、羨ましくて、羨ましくて、羨ましくて、―――そして嫌いだった。

 

姉を陽とするなら、出来損ないの私は陰。 誰もが姉というフィルターを通して私を見る。 何でも出来る姉、更識家十七代目当主の妹、IS学園最強の生徒会長の妹、誰も私を見てくれない。

 

あの人が私を気に掛けてくれるたびに私はあの人を遠ざけた。

 

右手中指に填められたクリスタルの指輪に視線を向ける。 ―――やっと完成した私だけの専用機、打鉄弐式。 やっと手に入れた私だけの力。

 

 

「私は勝ち上がってみせる......」

 

 

そして姉の影に隠れるだけの存在ではなく、私を―――「更識簪」を―――世界に認めさせる。

 

だから明日の準々決勝戦も当然勝たなくてはならない。 そう、あの織斑一夏を倒さなければならない。

 

今日の試合、試合を後に控えていた私と本音は悪の帝王―――織斑一夏の三回戦の模様を控室に設置されたモニターで観戦していた。 観戦した私の胸の内には”戦慄”、”衝撃”、”嫉妬”という色んな感情が渦巻いていた。

 

これまでは学園の一般生徒が相手だったからこそ、彼の脅威に気付けなかったのかもしれない。 

 

アメリカ代表候補生、そして専用機持ちである中国代表候補生をも圧倒したあの強さに戦慄を覚え、あの姉すら為し得なかった第一形態での単一仕様能力の発動という衝撃。 

 

そして彼が本格的にISに触れたのはこの学園に入学してから。 

 

私だって寝る間を惜しんで努力に努力を重ねてきた。 姉と比べられる劣等感にも挫ける事無く、私を見てもらうために私は簪であるがために努力をして、代表候補生にまで上り詰めた。

 

そんな私の専用機も用意される事になり、私の努力が少しでも報われた気がした。

 

でも―――

 

私の専用機開発は後回しにされた。 世界初のIS男性操縦者のための専用機「白式」開発の煽りを受けて、開発スタッフ全員が「白式」開発に携わる事になった。 当然、私の専用機は開発を中止された。

 

どうして?

 

どうして、私だけ......。

 

後から出てきただけの彼が、ただ世界初のIS男性操縦者という理由だけで、私の専用機開発は蔑ろにされた気がした。

 

彼はこのトーナメントでも順調に勝ち進めている。 実力があるのは分かる。 

 

でも、私だって―――

 

胸を渦巻くドス黒い感情が日に日に肥大していく。

 

彼はこの学園で有名だ。

 

世界初のIS男性操縦者であの世界最強のブリュンヒルデの弟でもあるから。

 

彼の周りには常に色んな女の子が傍にいる。

 

皆、気付いていないんだ。

 

彼は人を誑し込む悪の帝王なんだ。

 

だから私は明日、証明してみせる。 色情狂な悪の帝王に正義の鉄槌を下す。

 

ヒーロードラマのように、悪は栄えない。 最後に必ず滅びるのだから。

 

既に今日の試合の模様を録画した端末で彼の戦闘パターンを割り出していく。

 

織斑一夏とそのパートナーであるシャルル・デュノア、彼らを打倒するために。

 

 

 

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【一夏side】

 

 

コンコン。

 

シャルロットと話をしていると、ドアをノックする音が聞こえる。

 

時間は既に夜九時を回っている。 こんな時間に出歩いてたら鬼の千冬姉にシバかれるぞ。

 

 

「どちら様ですかぁ?」

 

 

ドアを開けると、そこに立っていたのは妖艶な笑みを浮かべるその女性はいつもの制服ではなく、ラフな私服姿だった。 なめらかな肌に蕾のような桃色の唇。 真意の見えない不透明性、故に神秘的に見える不思議な魅力を持った女性、IS学園最強の生徒会長、更識楯無。

 

部屋着なのだろう、胸元の空いたシャツにショートパンツ。 開いた胸元から覗くその深い谷間は俺の瞳を、心を、掴んで離さない。

 

性格はアレだが、容姿とそのスタイルの良さに関して言えば、俺のドストライクゾーンでもある。 

 

 

「こらこら、鼻の下伸びてるぞ」

 

 

ドキッとして、瞬間、右手で鼻を抑えてしまう。 いくらルームメイトであるシャルロットや時折忍び込んでくるラウラのいたいけな姿を毎日のように視姦......じゃなくて、見ているとはいえ、そうそう慣れるものではない。 IS学園に来るまで異性の体に触れたのは時折実家に帰ってくる千冬姉に抱き枕にされた時くらいのものだからだ。

 

クソッ、伝説のおっぱい戦士がこれくらいで怖気づいて、どうするんだっ!

 

俺は誰だっ? 世界中のおっぱいを手中に収めんとする伝説のおっぱい戦士ではなかったのかっ!?

 

奮い立てっ、俺のマイオッパイハート!!

 

しかし、目の前の楯無先輩は俺の動揺など気にもせず、胸元をはだけさせたまま、深い谷間を強調してくる。

 

ふぉぉぉぉぉぉぉぉっ、おっぱいが、おっぱいがぁぁぁーーーっ!

 

埋もれたい、あの深い双丘の谷間に、顔を埋めてみたいっ!!

 

 

「ふふふ、気になる? 私の......おっぱい」

 

 

えぇ、えぇ、気になりますともっ!

 

俺は勢いよく首を縦にブンブン振るっ!

 

 

「私のおっぱいに―――埋・も・れ・て・み・る?」

 

 

―――私のおっぱいに埋もれてみる?

 

 

―――私のおっぱいに埋もれてみる?

 

 

―――私のおっぱいに埋もれてみる?

 

 

一瞬、何を言われたのか理解できなかった。 楯無先輩の素敵な言葉が頭の中で何回もリピート再生させられる。

 

えっ? いいんですか? おっぱいに埋もれていいんですか? 埋もれちゃっていいんですか?

 

 

「え? あ、はい、是非ともお願いし―――げふぅ!」

 

 

さぁ、今から楯無先輩のおっぱいでウフフと思った瞬間だった―――後頭部に重い衝撃が加わり、思わず頭を抱え、蹲ってしまう。 涙目ながらに衝撃の原因を探ろうと後ろを振り向けば―――悪魔がいた―――。

 

幻覚だろうか、俺に拳骨をかました右手からシューシュー煙を上げているように見えるのは。

 

 

「一夏、何をやっているのかな?」

 

 

絶対零度の雰囲気を醸し出すシャルロットに思わず俺は後ずさってしまう。

 

 

「い、いえ、あの、これは、その、ですね......」

 

 

「もう一度聞くよ。 何をしていたのかな、おっぱい好きの一夏は?」

 

 

ひぃっ! その声音は嘘を許さないといった感じに強い口調だった。

 

 

そんなガクガク震えるしかない俺の前に悠然と立ち塞がるのは我らが生徒会長、楯無先輩だった。

 

 

「もう駄目じゃない。 一夏君、怖がってるじゃない」

 

 

俺の前にしゃがみ込んで、何をするのかと思えば、腕を伸ばし俺の頭を抱え込む。 つまり俺の頭は見事な双丘に埋もれてしまうわけで。

 

 

「な、何をしているんですかっ! 更識先輩っ!」

 

 

「何って、可愛い後輩を悪魔さんから守ろうとしてるだけだけど」

 

 

火に油を注ぐような事を平然と言ってしまう楯無先輩に、シャルロットも肩を震わせる。

 

 

「この乳獣......僕の一夏を、僕の一夏を......」

 

 

え? 何? 確かにここはおっぱいパラダイスなのだが、目の前の暗黒のオーラを醸し出すシャルロットさんのおかげで、楯無先輩のおっぱいの感触を楽しむ余裕もありません。

 

 

「シャルロット? あの、と、取り合えず、お、落ち着け。 な」

 

 

「おっぱいに埋もれて、鼻の下伸ばしてる一夏は黙ってて」

 

 

「ひぃっ!」

 

 

シャルロットの髪があまりの怒りに逆立って見えるような気がするのは何故でしょうか?

 

 

「うふふ、怖いわぁ〜」

 

 

そんなシャルロットの暗黒のオーラも意に介さず、笑顔で目の前のシャルロットに負けず劣らないドス黒いオーラを醸し出すのは我らが生徒会長、楯無先輩。 念願のおっぱいに埋もれてるはずなのに、おっぱいの感触を楽しむ事も許されない、この現状―――生殺し状態です。

 

 

「僕の一夏を誘惑するのは止めていただけませんか、乳獣先輩」

 

 

先制攻撃を仕掛けたのは俺のルームメイトであり、パートナーでもあるシャルロット・デュノア。 その口撃に先輩のこめかみに青筋が立つ。

 

 

「あらあら、一夏君の独占はいただけないわね、ヤンデレ乳女」

 

 

ビキビキビキっ!

 

そんな幻聴が聞こえてきてしまいそうな程にシャルロットの怒りのオーラ―が増大する。

 

 

「僕の、一夏を誘惑しないでっ!」

 

 

「ふざけないでっ、一夏くんは私の、なんだからっ!」

 

 

あの、俺はモノじゃありませんけど......しかし俺を奪い合う二人の美女......これはこれで......。

 

そんな幸せ思考も長くは続かなかった。 俺を抱き抱える楯無先輩の力がさらに強まり、ギューーッと俺の頭を締め付ける。 しかも眼前には楯無先輩のふくよかなおっぱい。 息継ぎする場所も当然なかった。 慌てて楯無先輩の腕をタップし、気付いてもらおうにもシャルロットとの口論に白熱しているためなのか、気付いてもらえない。

 

無くなる酸素。

 

当然、呼吸というのは人間にとって必要なものであり、酸素がいきわたらなくなれば、意識は遠のいていくものである。

 

あぁ、おっぱいに埋もれて死ねる......これも伝説のおっぱい戦士からしたら本望なのかもしれない。

 

弾に数馬、童貞のまま散ってしまうのは不本意だが、俺はおっぱいに埋もれて先に逝く。 同じ童貞仲間としてお前達より先に童貞卒業を夢見ていたが、おっぱいで死ねるのもある意味、本望。 ......さらば、我が人生。 我が人生、結末はおっぱいに埋もれて俺は幸せだった......。

 

 

............

 

 

.........

 

 

......

 

 

...

 

 

 

「......か。 ......ちかっ! 一夏っ!」

 

 

ぼやける視界。 徐々に光を取り戻す世界。 目の前には俺を涙目で心配そうに覗き込むシャルロットに楯無先輩。

 

 

「ん? あれ、俺って......?」

 

 

「よかったっ、一夏っ!」

 

 

目を覚まし、上体を起こした俺に抱き着くシャルロット。 あの、シャルロットさん、ノーブラですか? そんなに密着するとおっぱいの感触がダイレクトにっ!

 

 

「ごめんね、一夏くん」

 

 

そして後方から俺に抱き着いてくるのは楯無先輩。 ふぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ、後ろからもおっぱいが、おっぱいがぁぁぁぁぁぁっ!!

 

 

「乳獣先輩、一夏は僕のものなので離れてもらえませんか?」

 

 

「ヤンデレ乳女に渡すわけないでしょう?」

 

 

がるるるる、とお互いを牽制し合う二人。 まるで前門の虎、後門の狼である。 このままでは本当に人生が幕を下ろしてしまいかねないので、二人を宥める。

 

 

「取り合えず、二人とも落ち着いて。 それよりも楯無先輩、こんな時間に来たって事は何か用事があったんじゃないんですか?」

 

 

取り合えず、話題転換して、この危機を脱しなければ。

 

 

「あぁ、そうだったわ」

 

 

今まで失念したかのように、ポンと手を叩く楯無先輩。 本当、この先輩は俺をオモチャにして遊んでるだけじゃないのか?

 

 

「明日は私の妹との試合でしょ。 対戦相手にこんな事を言うのもアレだけど、妹を、簪を頼むわね」

 

 

楯無先輩の妹、更識簪。 まだ直接の対面はないけど、白式の件とか諸々の理由で俺を毛嫌いしているって聞いた事はある。

 

 

「一夏くんなら、あのラウラ・ボーデヴィッヒの闇を晴らした一夏くんなら、妹の、簪の闇を晴らしてくれる―――そう思えちゃうの」

 

 

更識簪、天才の姉を持つが故の苦悩。 比べられる事の苦しみ。 闇を作る事の原因となった姉では出来ない、あの子の心の闇を晴らしてほしい、それが楯無先輩の願いだった。

 

俺も最強と謳われた姉を持つ身。 その簪って子の比べられる苦しみは理解できる。

 

男だから―――守られるだけの存在になりたくなかった。

 

俺のトラウマにもなっている誘拐事件。 守られるだけの存在である事を自覚した事件だった。 

 

俺は弱い―――だから強くなりたいと思った。 ISに触れて、前世での知識や経験が俺の中に入り込んできた時は混乱した。 でも、今はその知識や経験のおかげで強くなる事ができた。 それでもまだ足りないと思う。 ―――俺は強くなりたい。

 

この学園に来て、大事な存在がいっぱい出来た。 だから、だからこそ俺を好きだと言ってくれる皆を守る力が欲しい。

 

俺の目標でもある楯無先輩の妹、彼女もただ強くなりたい、認められたい、その想いが誰よりも強いのかもしれない。 だから、こんな俺でも力になれるのなら力になりたい。

 

 

「任せて下さい、楯無先輩。 俺にどこまで出来るか分からないですけど、出来る限りの事はしてみますから」

 

 

笑顔で。 IS学園最強の楯無先輩の不安を少しでも取り除けるように。 俺は笑顔で応える。

 

 

「......本当に女たらしよね、一夏くんって」

 

 

ボソッと小声で何かを囁く頬を赤く染める楯無先輩。 その横にはムスッとした表情のシャルロットは無言で俺の頬をつねる。 あれ? 何か俺って変な事言った?

 

痛いっ、痛いって。

 

しかし、IS学園に来て、俺はたくさんのおっぱいに囲まれる事が増えたのは事実だっ!

 

今までは千冬姉のおっぱいしか知らなかったが、ここはまさにおっぱいヘブンっ!

 

見事に実った箒の巨乳に、セシリアやシャルロットの見事な美乳、そして鈴やラウラの微乳ならずロリ乳っ! さらに楯無先輩という箒に勝ると劣らないこの美巨乳っ! ぼかぁ、幸せだっ!!

 

 

「またいやらしい事考えてる」

 

 

頬をつねるシャルロットの不機嫌がさらに増大していくのを感じながら今日も夜は更けていくのだった......。

 

 

............

 

 

.........

 

 

......

 

 

...

 

 

 

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*◇*◇*◇*◇*◇*◇*

 

 

 

 

【本音side】

 

 

目の前にいるかんちゃんは空中投影ディスプレイを凝視しながらカタカタとキーボードを打ち込みながらも今日の試合に向けて、専用機の最終チェックを行っていた。

 

幼い頃から一緒に過ごしてきた私の幼馴染のかんちゃん。

 

天才の姉を持つが故に、劣等感を感じていたかんちゃんが今回のトーナメントにかける想いは強い。 更識楯無の妹、としてではなく、更識簪という個人を認めてもらう。 ただ、その想いを胸に秘めて。

 

私にも姉がいる。 のんびり気質な私とは違う真面目なお姉ちゃん。 でも、私は私。 布仏本音として、気ままに楽しく過ごしていければ、それだけでよかった。 だから劣等感とかも感じた事はない。 でも、かんちゃんは更識家の子息。 私よりも周囲の重圧は凄かった。

 

私がかんちゃんのために出来たのは傍にいる事だけ。

 

でも、それだけじゃ、かんちゃんの苦悩を和らげる事は出来なかった。

 

だから、今日の試合では期待していたりする。 おりむーなら、世界最強の姉を持つプレッシャーを感じさせない、自分の道を突き進むおりむーなら、かんちゃんを救ってくれる、と期待してしまうのだ。

 

 

「今日、悪の帝王を抹殺......」

 

 

あはは、おりむー。 不慮の出来事とはいえ、かんちゃんからしたら自分の専用機開発チームを奪われる形になったから私怨もあるみたい。 しかも女の子のおっぱいばかり追いかけ回してるから変な誤解も生んでるみたいだし。 まぁ、でもおりむーならかんちゃんの事を救ってくれるかもしれない、そんな期待をどうしてもしてしまう。

 

何でだろう?

 

あの世界最強の織斑先生の弟だから?

 

IS初心者なのに代表候補生達にも引けを取らない活躍をしてるから?

 

うーん、普段はおっぱいおっぱいなのにね。 おりむーは本当に凄いと思うよ。 

 

この学園に来て、誰よりもISに触れてるのはおりむーかもしれない、ってくらいにトレーニングに打ち込んでるのも知ってる。 世界最強の姉を持つというプレッシャーを意にも解さないように、そんな姉すらも守る、と断言する強い心。 おりむーは誰よりも努力してる。

 

でも、私も負けるつもりはないからね。 かんちゃんの悩みを吹き飛ばしてほしい、と思うのと同じくらい、おりむーが欲しいと強く思う複雑な乙女心を許してね♪

 

 

「......本音、何してるの? 時間」

 

 

「あわわわ、待ってよ。 かんちゃーん」

 

 

既に最終チェックを終えたかんちゃんはISを装着してた。 鎮座している打鉄を私も装着する。

 

研ぎ澄まされていく感覚。 クリアになる視界。 目の前には状態を表すパラメータを映した空間投影モニターが次々に展開しては消えていく。

 

IS装着が終わると、かんちゃんは視線を前に向ける。

 

 

「本音、いくよ」

 

 

「いつでも大丈夫だよ〜、かんちゃん」

 

 

そして試合会場であるアリーナまで一気に飛び立つ。 中央まで進み、辺りを見回すと、まだおりむーとデュノアっちはまだアリーナに来ていないみたい。 観客席の方まで視線を向ければ、人、人、人......多くの人で観客席が埋め尽くされている。 立ち見も出るほどの賑わいを見せている。

 

 

「ふぇぇ、今までの試合よりもかなりの人数が会場に集まってるね〜」

 

 

「......関係ない。 私は悪の帝王を倒すだけ」

 

 

いくら世界でも人気のISの試合とはいえ、これだけの観客が会場を埋め尽くすのは、おりむーの試合だからかもしれない。 それだけ初のIS男性操縦者というのは注目されているという事なのかも。 デュノアっちは男の子なんだけど、国の関係かも知れないけど、極秘という事で世間には知られていない。 まぁ、あの容姿だもんね。 たまに本当の女の子みたいに見えるし。

 

わぁぁぁぁぁぁぁっ、と一際大きな歓声が上がる。

 

視線を前に向ければ、ISを纏ったおりむーとデュノアっちがピットから出てきたところだった。

 

中央で対峙する私達。

 

おりむーを見て、気になった事を聞いてみる。

 

 

「どうして、おりむーの頬腫れてるの〜?」

 

 

「い、いや、なんでもないなんでもない」

 

 

明らかに挙動不審なおりむーだけど、何かあったんだろうか? 隣にいるデュノアっちが何故かムスッとした顔をしてるけど、ケンカでもしたのかな?

 

 

「......織斑一夏、私が貴方を倒す」

 

 

「君が簪って子?」

 

 

「気安く下の名前で呼ばないで」

 

 

「ご、ごめんなさい」

 

 

おぉぅ、いつにも増して、刺々しいよ、かんちゃん。 もしかして、おりむーの事をかなり敵視してる?

 

まぁ、でもこの試合、私も本気なのだ。 かんちゃんを救ってほしいと願う反面、おりむーに勝って、おりむーの貞操を頂きたいと願っちゃう複雑な乙女心を許してね。

 

そして試合開始のカウントダウンが始まる。 深呼吸をして、心を落ち着かせる。 

 

 

『四―――、三―――、二―――、一―――、試合開始』

 

 

勝っても負けても恨みっこなしだよ、おりむー!

 

 

 

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【一夏side】

 

 

試合開始の合図と共に飛び出してきたのは以外にものほほんさんだった。

 

いつものほほんとしてる彼女からは信じられないくらいの俊敏性。 のほほんさんが飛び込みと同時に展開した近接ブレードで斬りかかってきたのを雪片弐型を楯にして受け止める。

 

一度体勢を整える為に瞬時に後方へ距離を取る。

 

しかし、目の前の空間投影モニターが警告音と共に赤く表示される。

 

 

 

―――警告! ロックオンを確認―――

 

 

「......逃がさない」

 

 

更識さんだった。

 

複数のロックオンが確認されたと思った瞬間、―――更識さんの打鉄弐式の肩部ウィング・スラスターに取り付けられた六枚の板がスライドして動く、その中から粒子組成の終えたミサイルポッドが姿を現す。

 

 

「マジかっ!?」

 

 

「この山嵐から逃げる事は......無理」

 

 

ドドドドドドドドドド!

 

急いで距離を取ろうとする俺に向けて、一斉にミサイルが打ち出される。 耳をつんざくような豪快な爆発音を鳴らしながら、視界を埋め尽くすかのようにたくさんのミサイルが軌道を幾重にも変えながら目の前に迫ってきた。

 

 

「一夏っ!」

 

 

シャルロットは即座にマシンガンを両手に、俺に向けて撃ち出されたミサイルを迎撃するも数が多すぎて間に合わないっ!

 

 

「うおおおおおおおっ」

 

 

縦横無尽に飛び回るも、軌道を変えながらも俺を追い詰めるミサイルの数々に次第に距離を詰められ、―――着弾。 そのまま二発目、三発目と次々にミサイルの衝撃に襲われる。 脚に、腕に、肩に、腰に、頭に、腹に、ミサイルによる爆発の嵐に飲まれていく。 ISの絶対防御も完璧じゃない。 シールドエネルギーを突破する攻撃力があれば、その衝撃は操縦者である本体にも衝撃は通る。

 

 

「一夏ぁぁぁあああっ」

 

 

爆発の渦に巻き込まれる俺を心配したのか、シャルロットの悲痛な叫びが、開放回線《オープンチャネル》を通して、俺の耳に届く。 あまりの衝撃に一瞬、意識を飛ばしかけるもシャルロットの叫びに途切れかけた意識も繋ぎ止める事が出来た。

 

 

「だ、大丈夫だ」

 

 

直ぐに現状を確認しようと空間投影モニターで自身のISの状態を確認する。 今の攻撃で大幅にシールドエネルギーが削られた。 この状態では、切り札である白式の単一仕様能力、零迅雷光もそうそう使えない。

 

白式の単一仕様能力、零迅雷光―――大幅にISの性能を上げる事が出来るも、代償として零迅雷光の発動にはシールドエネルギーが大量に失われる。 だからこそ、大幅にシールドエネルギーが削られた現状ではそうそう使えるものではないのだ。 しかも、またあの攻撃を全弾受けるような事があれば、確実に負けてしまう。 

 

負ける、つまり俺の貞操は確実に誰かに奪われるという事だっ。 いくら伝説のおっぱい戦士である俺でも初めての相手は誰でもいいわけではない。 それに俺は狩られるのは嫌だっ! 男児たるもの狩る側―――そう、ハンターになりたいのだっ!

 

草食系男子なんてものが巷にははびこってるみたいだが、そんな現状に俺は否を唱えよう。 そう、俺は伝説のおっぱい戦士なのだから―――

 

 

「隙在り〜だよ〜、おりむー」

 

 

爆風に未だ包まれる中、決意表明をしている瞬間だった。 のほほんさんが近接ブレードを構え、のほほんとした声音とは相対的に俺を仕留めようと連続で突きを放つ。

 

 

「やらせはせん、やらせはせんよっ、ふははははははは」

 

 

高ぶる気持ちを抑え切れず、変なテンションでのほほんさんの連続突きを躱す俺。 何でこんなテンションになってるかって? 決まってるだろう、そう―――のほほんさんは隠れ巨乳。 いつもはダボッとした着ぐるみ姿や改造した制服では分からないのだが、体のラインがくっきり出るISスーツではのほほんさんの巨乳は隠しきれないっ!

 

そう、つまり!

 

間近に迫るのほほんさんのたゆんたゆんなおっぱいが俺の脳髄を刺激するのだっ。

 

あぁ、最低さ。 最低と罵ってくれたまえ。 最低な主人公だ、とか何と言われようが、これがこの俺、織斑一夏なのさっ!

 

 

「むー、何かおりむーの視線がヤラシイ気がする〜」

 

 

「そんな事はない、ないぞ。 のほほんさん」

 

 

ジト目で睨みながらも、のほほんさんは突き以外にも斬撃の軌道を幾重にも変えながら俺に迫るが、俺も雪片弐型を使い、いなし躱していく。 しかし、のほほんさん、見かけによらず、なかなか鋭い剣筋をしていたりする。

 

 

「なかなかやるな、のほほんさん」

 

 

「これでも〜更識家に〜仕える〜布仏家の子息だから〜」

 

 

間延びした声に相反した鋭い攻撃に気勢が削がれそうになるも俺ものほほんさんと同様に鋭い攻撃を放つ。 攻撃力だけではこちらが上。 下段からの斬り上げの威力にのほほんさんは堪えきれず、近接ブレードを手放してしまった。

 

 

「あ〜」

 

 

「悪いが終わらせてもらうっ、のほほんさんっ」

 

 

俺の視線は強く、のほほんさんのおっぱいに。 でも、攻撃の手を緩めない、そのまま止めの一撃を放とうとした瞬間だった―――

 

 

「......甘い」

 

 

俺の後方に迫ってきていたのは更識さんだった。 その手には薙刀式の武器、対複合装甲用超振動薙刀〈夢現〉が握られていた。 そのまま俺目掛けて突進してくる。 でも、俺は動かない。 そう、これはタッグマッチ。 俺には信頼するパートナー、シャルロット・デュノアがいるのだから。

 

 

「甘いのはそっちだよ」

 

 

瞬時に俺の後方に立ち塞がるように現れたシャルロットは、ラファール・リヴァイヴ・カスタムIIの盾を展開し、更識さんの攻撃を防ごうとするも―――

 

 

「私の......夢現はそんなものじゃ防げない」

 

 

夢現を真正面から受け止めようとしたラファール・リヴァイヴ・カスタムIIの盾は紙のように簡単に斬り裂かれる。

 

 

「―――っ!?」

 

 

「夢現に―――斬れないものはない」

 

 

何だ、あれは? 目の前に表示される相手の武器の名称、対複合装甲用超振動薙刀というのが関係してるのか?

 

 

「夢現は対複合装甲用超振動の薙刀。 超振動によって、どのような装甲でも分子レベルで斬り裂ける......」

 

 

「それなら距離を取った射撃ならどうかな?」

 

 

更識さんから距離を取りながらもシャルロットは体勢を整え、六二口径連装ショットガン〈レイン・オブ・サタディ〉を両手に構え、牽制射撃を行う。 更識さんはすかさず、シールドユニットを展開し、シャルロットの射撃を防ぐ。

 

流石にこの打鉄弐式は厄介だ。

 

あの姉も強いという事だが、妹も実際に戦ってみて思う。 強い。

 

先に更識さんから落とす。

 

しかし、これはタッグマッチ。 当然、相手のパートナーも黙って見ているわけじゃない。

 

 

「させないよ〜、にゃはははは」

 

 

いつの間にか体勢を整えたのほほんさんが間延びした声を発しながらもグレネードを打ち込んでくる。 だが、これくらいの攻撃でうろたえる俺じゃない。 難なくグレネードを一閃し、爆散させる。

 

 

「さすが、おりむー」

 

 

「のほほんさんもなかなかやるな」

 

 

「にゃはは、それほでも〜あるよ〜」

 

 

今まで目立たなかったからこそ、のほほんさんの強さには吃驚させられる。 のほほんさんが実は巨乳だった、というくらいに衝撃が大きい。 うむうむ。

 

 

「全く......。 試合中なのに、一夏はどこまでいってもスケベなんだから......後で―――お仕置ね」

 

 

のほほんさんのおっぱいに夢中な俺に釘を刺すかのようにジト目を送ってくるシャルロットさん。

 

 

「......やはり、織斑一夏は女の敵。 ここで倒す」

 

 

シャルロットと対峙している更識さんの視線も痛い。

 

 

「でも〜、それでこそ〜おりむーだもんね〜」

 

 

そんなのほほんさんの優しさが身に染みる。 そう、男はみんな、エロいんだっ! そう、これは俺が悪いんじゃないっ! 俺を惑わすおっぱいがいけないんだっ!

 

 

 

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【簪side】

 

 

やはり、織斑一夏は敵だ。 私にとって、悪の帝王。

 

さっきも本音の胸を凝視してたし。 そんな本音も悪の帝王、織斑一夏に毒されている。

 

特にここ最近は、彼の話を聞かない日はなかったというくらいに。

 

悪の帝王を倒して、私はこのトーナメントで優勝する―――それが私を、更識楯無の妹ではなく、更識簪という存在を、認めてもらうために私は負けられない。

 

目の前に対峙しているシャルル・デュノア、世界で二番目に発見されたIS男性操縦者なのに世間ではその情報は何故か秘匿されている彼。 彼は織斑一夏とは違った印象を受ける。 さすがにフランスの代表候補生という事で今まで戦った相手とは違い、強い。

 

試合前に集めた情報でも、通常一〜二秒かかる量子構成をほとんど一瞬で、それも照準を合わせるのと同時に行う高速切替《ラピッド・スイッチ》が厄介だった。

 

距離に合わせて、武装を変更・展開してくる。 近距離なら近接ブレード〈ブレッド・スライサー〉を、距離を離せば様々な銃火器を展開するのだ。 こちらが近接戦闘に特化している対複合装甲用超振動薙刀〈夢現〉を持っていても、距離を取られれば、それまでだ。

 

 

「......でも、私は負けない」

 

 

織斑一夏には単一仕様能力である零迅雷光がある。 前日の試合で展開させたあの力は恐るべきもの。 機体性能が大幅に飛躍するあの能力を使われる前に勝負を決めたい。

 

だからこそ、先ずは織斑一夏を倒す。

 

本音と一緒に作り上げたマルチ・ロックオン・システムを使えば、隙が作れるはず......。

 

ターゲットを織斑一夏、シャルル・デュノアに合わせ、ロックする。 合計四十八発もミサイル......片方ずつでも二十四発ものミサイルに襲われる事になる。

 

 

「悪を倒すために―――力を貸して、打鉄弐式」

 

 

凄まじい音を立てながら、一斉にミサイルが発射される。 即座にスラスターを全開にし、ミサイルの追撃から逃れようとする二人。 

 

 

「本音っ」

 

 

「りょ〜かい〜」

 

 

そして私は夢現を展開し、同じように近接ブレードを展開した本音と一緒に織斑一夏を挟撃しようとスラスターを全開で吹かし、加速する。 

 

悪の帝王を倒す正義のヒーローのように。

 

何度、負けそうになっても挫けない心を持ち、最後は必ず勝利する正義のヒーローのように。

 

 

「一夏っ」

 

 

パートナーのシャルルは複数のミサイルの迎撃に手いっぱいで私達の挟撃を防ぐ手立てはない。

 

 

「こんな所で負けられるかよぉぉぉぉぉぉっ!」

 

 

一瞬、光が爆ぜたように感じたその瞬間―――織斑一夏の白式は装甲をスライドさせ、内部装甲から赤白い光を解き放つ。

 

 

―――単一仕様能力、零迅雷光、発動―――

 

 

そして織斑一夏の手にある雪片弐型のエネルギーで形成された刃が何倍にも膨れ上がる。

 

 

「―――っ! 本音っ、逃げてっ」

 

 

「んにゃ!?」

 

 

彼はそのままエネルギー状の刀身を大きくした雪片弐型を横に一閃させる。 織斑一夏を襲っていたミサイルを、そして同様に追撃し近付き過ぎていた本音もろとも斬り裂く。

 

 

「うにゃ〜〜〜」

 

 

本音はダイレクトに雪片弐型の斬撃を浴びる形となり、一撃でシールドエネルギーを0にさせられた。

 

強い―――。

 

これが織斑一夏。

 

各国の代表候補生を初心者ながらも退けてきたのはまぐれによるものだと思っていた。

 

でも、違う。

 

彼はその実力を持って、退けてきただけなのだ。 女を誑し込むだけの最低な人間だと思っていた。 卑劣な罠を巡らせ、まぐれで勝ち上がってるだけの最低な人間だと思っていた。

 

でも、思い違いだったのだ。

 

 

「あ......う......」

 

 

強大な力を持つ敵に心が怯む。

 

彼の持つ強さに、気迫に、気圧されてしまう。

 

ダメ。 ここで挫けたら、私はまた弱い人間に戻ってしまう。

 

正義のヒーローだって、絶対的な力を持つ敵を前にしても絶対に諦めなかった。

 

そう、だから私も負けられない。

 

心を強く持て、更識簪。 私は姉さんの妹で終わりになりたくない。 皆に私を、私という存在を認めさせたい。

 

 

「......私は、私は......負けないっ」

 

 

挫けそうになる心を叱咤するように声を張り上げ、夢現を両手に構え、スラスターを全開にする。 既にエネルギー状の刀身の大きさは通常に戻っている。 さっきの攻撃でかなりのシールドエネルギーを消費している彼にはもう、あの状態、零迅雷光を展開できる時間もそう長くないはず。

 

しかし、彼の瞳には諦めの色は微塵も感じられない。 そう、今でも自分が勝つ、と信じているように。

 

交差する夢現と雪片弐型。

 

対複合装甲用超振動薙刀である夢現でもエネルギー状の刀身を形成する雪片弐型を切り裂く事は出来ない。 一時的に機体性能を大幅に上げている白式を相手に抗戦するも、彼の斬撃は鋭く、こちらのシールドエネルギーを確実に削っていく。

 

それなら―――!

 

そのまま距離を詰めながらも速射荷電粒子砲二門〈春雷〉を展開する。 超至近距離からの荷電粒子砲二門による射撃攻撃。 しかし、その攻撃に反応した織斑一夏は直ぐに距離を取り、荷電粒子砲二門による連続射撃を躱していく。

 

しかもあまりにも尋常じゃない速度で飛び回る彼をロックする事が出来ない。

 

 

―――警告!敵IS、射撃体勢に移行。

 

 

織斑一夏を追撃しようと空中に飛び立った瞬間、目の前にロックオンを警戒するかのように警告と表示されるモニターが展開される。 そして一瞬後に背中に衝撃を受ける。

 

 

背後に視線を投げると、六一口径アサルトカノン〈ガルム〉を構えたシャルル・デュノアが視界に入った。 そう、今回はタッグマッチ。 敵は目の前の織斑一夏だけじゃない。

 

 

「決めさせてもらうっ」

 

 

瞬時加速《イグニッション・ブースト》に入った織斑一夏の右手には赤白いエネルギーで形成された雪片弐型があった。 そのまま左手を添え、両手で構える。

 

 

「うおおおおおおおお」

 

 

そのまま上段からの斬り下ろしを渾身の力を込めて振り下ろしてくる。 即座に夢現を構えるも夢現は両断され、零迅雷光の強く雄々しい赤白い光で形成されたエネルギー状の刃が私を切り裂いた。

 

とうとう、私のシールドエネルギーも0になった。

 

そして試合終了を告げるアナウンスが会場に響き渡る。

 

 

―――『試合終了。 勝者―――織斑一夏、シャルル・デュノア』

 

 

勝てなかった―――。 自身の存在をかけたこのトーナメントで、勝ち上がれなかった。

 

私は正義のヒーローにはなれなかった―――。

 

目を閉じ、重力に身を任せ、そのまま落下するだけ。

 

何も勝ち取れなかった私は何もかも無くしてしまったかのような虚脱感を感じていた。

 

しかし、直ぐにふわりと浮遊感が見舞われる。 閉じた瞼を少しずつ開けると、視界に入ったのは織斑一夏だった。

 

 

 

-7ページ-

 

【一夏side】

 

 

大きいおっぱいも素敵だけど小さいおっぱいも素敵だよね♪

 

おっぱいに大きさは関係ない、小さいおっぱいは小さいなりに自己主張するかのようにぷっくらと膨らんでるのがいい。 そう、この小さな膨らみは最高だと思うんですよ。

 

落下に身を任せ、落ちていく更識さんをそのままにできず、ついついお姫様抱っこしてしまう俺。 瞼を開けた更識さんは突然の事で思考処理がうまくいってないのか暫くぼーっとしていたが、暫くして事態が把握できたのか、ぼん!と音を立てたように顔を赤くして暴れ出した。

 

 

「え......? な、なに? お、降ろして......!」

 

 

「うわわわ、危ない、危ないって」

 

 

取り合えず、更識さんが落ちてしまわないように、ゆっくりと地上に降りてから、更識さんを下した。 彼女は未だに顔が赤く、その場でへたり込んでしまった。

 

 

「取り合えず、怪我がなくて何よりだよ」

 

 

「......変態に、穢された......」

 

 

グサァ! と胸にナイフを突き立てられる。 へ、変態って......。 確かに変態かもしれないけど......さすがに女の子に真正面から言われると結構、来るものですね......。

 

しかし、なかなか立ち上がらない更識さん。

 

 

「......私は、正義のヒーローになれなかった......」

 

 

「え?」

 

 

「悪の帝王に、勝てなかった......」

 

 

あ、悪の帝王って......もしかして俺?

 

しかし、目の前で落ち込んでる子を放っておく事は出来ないよな、やっぱ。

 

 

「正義のヒーローだって、完璧じゃない。 どんな人間にも弱点があるように、正義のヒーローだって、ヒーローである前に人間なんだ。 悩みもあれば、弱点だってあるさ。 俺の姉の千冬ね......じゃなくて、織斑先生も学園じゃ世界最強だとか言われてるけどさ、家じゃ掃除も出来なければ料理も出来ないんだぞ」

 

 

「......え?」

 

 

俺の言葉を受けて、顔を上げる更識さん。 目尻には涙が溜まっていた。 こんな可愛い子には泣いてほしくない。 笑っていてほしい。

 

 

「正義のヒーローも人間なんだ。 だからさ、悩みも弱点もあるし、毎回勝ってるわけじゃない。 でも、だからこそ悪に屈さないように強くなろうとする、その諦めない気持ちが大事なんじゃないかな」

 

 

「......貴方は自分の姉に......劣等感を、感じた事はないの?」

 

 

「ないな」

 

 

最強の称号を持つ姉の弟と妹。 考えてみれば、俺と更識さんは境遇が似ている。 でも、俺は千冬姉に感謝の気持ちは感じても劣等感を感じた事はなかった。

 

 

「どうして? ......比べられる事は苦痛じゃなかったの? 私は、誰にも見てもらえなかった......更識楯無の妹としてしか......」

 

 

「だったら強くなるべきだ。 一度負けたからって終わりじゃない。 俺の目標はな、織斑先生を、千冬姉を守っていける存在になる事だ。 俺がこれまで暮らしていけたのも織斑先生のおかげだし、今まで充分守ってもらえたからさ、今度は俺が守っていきたい。 守っていけるような男になりたいんだ」

 

 

千冬姉がいたから、千冬姉が俺を守ってくれたから、今の俺が在る。 親の記憶も何も残ってないけど、俺がここまで平和に過ごせてきたのは千冬姉がいてくれたからだ。 たまの休日に下着姿で俺の布団に潜り込んだりするが。 あれは心臓に悪いからやめてほしい。 実の肉親にドキドキしてしまうなんて、口が裂けても言えないがな。

 

 

「更識さんにとって、楯無さんは強く気高い存在なのかもしれない。 でもな、楯無さんも最強である前に一人の女の子だ。 楯無さんにだって悩みもあるだろうし、弱点もあるさ」

 

 

妹との不仲を俺に相談するくらいだしな。

 

 

「そう、なのかな......?」

 

 

「そうだよ。 更識さんも楯無さんと話した方がいい」

 

 

「ずっと話してないから......何を喋ればいいか分からない......」

 

 

「だったら、俺が間に入るからさ。 せっかくこうして知り合えたんだ。 何かあったら俺に相談してくれてもいいんだぞ」

 

 

俺は未だに座り込んでる更識さんに右手を差し出す。 その手をおずおずと掴んだ更識さんをゆっくりと立ち上がらせる。

 

 

「......迷惑じゃ、ないの?」

 

 

「迷惑なんかじゃない」

 

 

「私も〜かんちゃんの〜相談に乗るよ〜」

 

 

横からのほほんさんが更識さん目掛けて飛び込んでいく。 ISスーツのみとなったのほほんさんのおっぱいは凶悪だな。 たゆんたゆんだ。

 

 

「本音......」

 

 

飛び込んだのほほんさんを慌てて抱き留めた更識さんの声音はどこか優しいものになっていた。 ふふふ、小さいおっぱいと大きいおっぱいが押し合い、形を無限に変える様はいつ見てもいいものだ。 ぬほほほほ。

 

 

「......一夏」

 

 

肩にぽんと軽い衝撃が走り、振り向いてみると、絶対零度の視線を投げかけるシャルロットさんがいました。 そのまま首根っこを掴まれ、涙を流しながら引きずられていく俺に気付いた更識さん。

 

 

「これからは......でいい......」

 

 

「え?」

 

 

「これからは簪で......、いいから」

 

 

その顔はとてつもなく赤かった。

 

 

「あぁ、俺の事も一夏でいいから」

 

 

シャルロットに首根っこ掴まれ、引きずられながらも手を振る俺。 あぁ、最後は結局こんなオチか......

 

-8ページ-

 

 

 

※今後の更新に関して※

 

突然、更新が滞る形になってしまって、申し訳ないです。

私事なのですが、仕事が忙しくなってしまい、前ほど制作する時間が取れなくなったのが原因です。

気付けば、TINAMIでもインフィニット・ストラトス関係の二次作品が多くなってきてますね。

他の方に負けないよう、なるべく時間を見つけて更新するつもりなので、今後も当作品を宜しくお願いします。

 

 

 

 

説明
第35話です。

二ヶ月以上もお待たせして申し訳ないです。
久し振りの更新でタイトルが最低な気もしますが、許して下さい(笑)
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コメント
Mr.ハリマエ様:目の前に揺れるものがあれば、見てしまうもの......(笑) 本当、最低な主人公ですいません(笑)(赤鬼)
FDP様:最低主人公の毒牙に......(笑)(赤鬼)
星人の気持ちはわからないでもない・・・だからこそ夢がある!(ドーン!!)・・・・・・・(撃ち殺そうby??)え!?ちょ??!アーーー!???・・・・・(黄昏☆ハリマエ)
また一人…(FDP)
タグ
インフィニット・ストラトス 織斑一夏の無限の可能性 織斑一夏 シャルロット・デュノア 更識楯無 更識簪 布仏本音 いつものOPPAI展開 

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