超次元ゲイムネプテューヌ Original Generation Re:master 第5話
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協会での一悶着から数日後、一行はラステイション市街の一角でキョロキョロと辺りを見回していた。

「あ、きっとあの人です! クエストの依頼人の社長さんは!」

と、コンパが指したのは若い青年。

それを見てネプテューヌは不満げな声を上げる。

「えー? なんか一回り小さいよ?

社長さんとか言うくらいだからもっと風格のあるがっちりした人じゃないの?」

それは明らかに偏見なのだが、どうも年若で社長という感じがしないのは皆一緒だった。

「あ、手を振ってくれたです。やっぱり間違いないですぅ!」

「向こうの人もこっちと同じ気分かもね」

社長とおぼしき青年は一瞬、一行を見て顔をしかめたが、すぐに元の表情になる。

「お前らだな? クエストを受領してくれたのは。本当に大丈夫か?」

「見かけによらないのはお互い様でしょ。それより、私はアイエフ。後ろの三人はコンパにネプテューヌにテラよ」

アイエフに言葉に一同はペコリとお辞儀をする。

青年はこくりと頷く。

「わたしはシアン。都心近くでパッセって言う小さな工場をやってる。

早速本題なんだが、実は交易用の道に二人組の強盗が出るようになってな荷馬車や列車が襲われるようになったんだ。それをどうにかしてほしいんだが、大丈夫か?」

シアンの説明にテラは眉をひそめる。

「強盗?」

「ああ、ジークフリートとハーケンっていう、結構名のある強盗でな。

こっちも困っているんだ」

「ジークフリートとハーケン? それってラステイションで指名手配されてる二人じゃないの?」

アイエフは先日、街中の張り紙でその名を見ていた。

「確かに、国も動いちゃいるが相当な手練れでな。並の戦闘員じゃ返り討ちにされるだけなんだ。

でも、放っておくワケにもいかないからこうして依頼を出させて貰ったんだ」

シアンの言葉に『ああ』と一同は納得する。

「安心して! 戦闘は慣れっこだから大船に乗ったつもりで任せていいよー!」

ネプテューヌはドンと自分の胸を叩く。

その自信にシアンはニコッと笑ってGoodサインを出す。

「気に入った! そう自信満々に言ってくれると任せ甲斐がある!」

「よーし! 行こう!」

ネプテューヌは先頭に立ち、ずんずんと目的地を目指す。

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

ズバッ、と気持ちのいい音を立ててモンスターが崩れ落ちる。

ネプテューヌ(変身状態)は太刀を振り、恍惚とした表情を見せる。

「プラネテューヌ以外にもこれほど多くのモンスターがいるなんて、倒し甲斐があるわ……!」

「なんかねぷねぷ、その格好だと強気です」

「ちょっとした二重人格だよな……」

テラはげんなりとした表情で武器をしまう。

「それにしても……やっぱり女神様の守護が弱まっているから、モンスターさんが現れるです?」

「私に聞かれても困るわね。でも、仮にも女神様と呼ばれるほどの存在よ。

その守護が弱まるなんてあり得るの?」

その言葉にアイエフは腕を組んでうーん、と唸る。

「女神様の力が弱まるというか……。

そもそも、力の源は大陸の人々の信仰心よ。モンスターが人を襲えば自然と弱まるの」

「守護が弱まってモンスターが現れる。モンスターが人を襲って守護が弱まる。

無限ループ、堂々巡りってな」

テラはそう言って肩をすくめる。

彼としてもなんとかしたいと思う事態なのだが、いくら偉い者でも人の心ばかりはどうしようもないし、モンスターだって殲滅できる自信もない。

「なるほど……。でも、だとすれば時間が経過するほどにモンスターは増えるかもしれない……」

「それは考えてなかったです! だとすればどうするです!?」

コンパはわたわたと慌てるが、ネプテューヌはコンパの肩に自分の手を置き、諭すような声で呼びかける。

「安心して、私がいるわ。……誰かに言われたの。世界を救えるのは私だけだって。

私なら救えるのよ。なら救ってみせるわ……!」

ネプテューヌの決意に満ち満ちた表情に三人はポカン、と口を開けるばかりだった。

「せ、正義感はそのままですけど、こっちのねぷねぷは安心感が違うです……!」

「確かにいつもの脳天気よりはマシだけど、これはこれで癪に障るのは私だけ……?」

「う、う〜ん?」

テラは何とも言えない、という表情でそう返すしかなかった。

 

  *

 

どのくらい時間が経っただろうか。

ダンジョンに突入してしばらく経ったところで一同は妙に開けた場所に出る。

ドーム状の空間には随分と涼しい風が吹き、それらがそっと髪を撫でる。

「……ここは?」

どう見ても天然物ではない、かといって人間が作った街道でもないような空間にテラは不自然さを覚える。

「人間がなにかの目的のために作った空間ね。耐震加工がされてるし、ここで生活でもしているのかしら?」

アイエフが壁を叩き、作りを確認する。

「もしかして、ここが強盗さんの住処だったりして!?」

ネプテューヌは「まー、それはないかー」とか言ってアハハと笑う。

しかし、その瞬間――

「その通りだ」

「っ!?」

声がした瞬間にコンパの姿が消える。

「コンパ!?」

テラは声の主の方に身体を向ける。

そこには、武器を突きつけられたコンパの姿がある。

「っ……! テメエら!」

「武器を捨てろ。状況が見えないか」

「テラ、言う通りにした方がよさそうよ」

アイエフの言葉に、テラは持っていたダガーと拳銃を地面に放り、両手を上げる。

「ふん、それでいい」

「あと、持っている金目の物も全部出して貰おうか」

女性の片方がコンパの首筋に武器を当てる。

アイエフは黙ってポケットから財布を取り出し、地面にポンと投げ捨てる。

女性は警戒しつつもそれを取ろうとこちらに歩み寄る。

「……!」

テラはすぐに駆け出し、歩み寄る女性を拘束して女性が持っていた拳銃を突きつける。

「人質交換だ。コンパを渡せ」

「……渡すわけにはいかねぇな」

そう言って女性はコンパに向かって武器を振り下ろす。

テラはすぐに狙いを武器に定めて発砲、コンパを人質に取っていた女性の武器を弾き飛ばす。

「ここだ!」

その間に拘束されていた女性は武器を振ってテラに脇腹に一撃を入れる。

「がっ!」

テラは吹っ飛ばされて壁に叩き付けられる。

パラパラと破片が落ち、砂埃が舞う。

その間にネプテューヌはコンパを救出する。

「大丈夫?」

アイエフは心配そうにテラに駆け寄る。

「何とか……」

叩かれた脇腹を押さえてテラはよろよろと立ち上がる。

武器は拳銃一つのみ。相手は自分達の武器を預かっている。

絶望的状況にテラは歯噛みする。

「アイエフ、これはお前に渡す」

「え?」

テラはそう言って拳銃をアイエフに握らせる。

「アンタは……?」

「俺は素手で充分さ。武器がない以上、こっちが不利だ。なんとか隙を見つけてここから脱出を――」

テラが言い終わらないうちにボフンと轟音が響き、爆風が襲う。

見れば、入り口が瓦礫によって阻まれている。

「逃げられると思うなよ?」

「へっ……。アンタらも閉じ込められてるんじゃねえか」

テラはスッと拳を構えて突進する。

バン、と弾丸が発砲されるがテラはそれを見切って避け、片方の女性に一撃を叩き込む。

ゴロゴロと転がっていく女性に馬乗りになり、更に一撃一撃とぶち込んでいく。

「クソ!」

もう片方の女性は拳銃を構えてテラを狙う。

そこにアイエフの弾丸が飛び、拳銃を弾く。

「そうはいかないわよ!」

「この!」

一瞬で女性はアイエフに近付き、棍で殴りかかる。

「っあ!」

アイエフの身体が宙を舞い、地面へ叩き付けられる。

 

「……! テメエは誰だ!? ジークフリートとハーケンの野郎で間違いないのか!」

「ああ! 私はジークフリート! あっちのハーケンと組ませて貰っている!」

言い終わらないうちに女性、ジークフリートは右足でテラの腹を蹴って脱出する。

「くっ!」

なんとか着地して、再びテラは接近する。

「すぐに武器を捨てて投降しろ! そうすればまだ刑は軽くなるぞ!」

「自分の状況がまだ見えていないようだな! 貴様こそ、投降すれば悪いようにはしない!」

「この!」

テラはローキックでジークフリートの足を狙い、転ばせたところで相手の懐からアイエフが使用していたカタールを抜き取る。

「何!?」

「このテの武器は扱いづらいんだが……四の五の言ってられねえな!」

カタールを構えてテラは内蔵銃で発砲、牽制したところで跳躍して相手の頭上から狙う。

「っだ!」

テラの一撃をジークフリートはギリギリで防ぎ、棍を薙いで弾き飛ばす。

「……やるな」

「アンタこそ、強盗にしては随分と型ができてるじゃないか」

テラは力強く地面を蹴り、カタールを十字に構える。

ジークフリートはブンと棍を頭上に振りかぶり、振り下ろす。

「当たるか!」

身をよじってダメージを避け、カタールをジークフリートの首筋に突きつける。

「終わりだ」

「……」

ジークフリートはしばらく黙っていたが、ふいにピクリと身を震わせる。

「ククク……ハハハハハハ! なんて甘いんだ、貴様は!!」

「何……?」

ジークフリートの笑い声に一瞬事態が飲み込めず、テラは息を呑む。

「っきゃ!?」

「! アイエフ!?」

アイエフの悲鳴にテラはふり返る。

そこにはボロボロになった三人がいる。

アイエフは地面に伏し、コンパは壁に叩き付けられ、ネプテューヌは首を掴まれて地面に叩き付けられている。

「!?」

一瞬、たじろいだ隙に背後から取り押さえられる。

「ぐ……!」

「フン、もう少しおとなしければ丁重に扱ってやったものを……」

「っこの!」

テラは必死に抵抗するが羽交い締めにされているために手も足も出ない。

「いいから、黙って貴様の仲間がやられていくのを見ていろ」

「っ――!」

 

 †

 

『力がないから……』

少年は虚空を虚ろな目で見つめながら、ふと声を漏らした。

何もない、暗黒の空間には少年だけが

 

 

否、少年と少女がいた。

少年は相変わらず虚空を睨み続けて、傍らで少女は心配そうにそれを見つめている。

『力は全てだ』

突如発せられた言葉に少女はビクリと身を震わせる。

『この世の全ては力で、力なき者は倒れ、絶えねばならない』

『……』

無言。

『力ある者だけが、生き残り、種を残す』

少年は一瞬くらりと首を揺らす。

『力ある者が力を発揮せず、絶えるのは、最も愚かな行為だ』

『……』

『愛は、全てを鈍らせる』

どろり、と少女の身体はまるで火に当てられた氷のように溶けていく。

『失うのが怖いか』

その言葉に、少年の前に立っていたテラは後退る。

『失くすのが怖いか』

少年の髪は艶やかな黒から白銀へ、身を包んでいた衣装は漆黒のアーマーへ、柔らかな手はごつごつしい腕へと変貌していく。

『失くすくらいなら、自分の手で断ち切ってしまえばいい』

「っ……!」

テラは頭を押さえる。

『力はそのためにある。……解き放て』

「っあ、ああぁぁぁあああああああああ!!!!」

テラは絶叫し、少年と同じ姿へと変貌していく。

白銀の髪、漆黒のアーマー、全てを断ち切る腕。

ぐにゃり、と額から一対の角が出現し、目の下には赤い刺青が浮き出る。

 

 

『全て、断ち切る』

 

 

 

「ああぁぁぁあああああああああああああ!!!」

テラの咆吼が轟き――

 

 

 

 

 

 

 

 

混沌と狂気と狂喜は、舞い降りる。

 

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「ああぁぁぁああああああああああああ!!!」

テラは叫ぶ。

変貌した姿からは以前の雰囲気などは感じ取れず、ただただ禍々しいものとなっている。

「――ね」

「何?」

ジークフリートは怪訝な顔でテラを掴む手の力を強める。

 

『死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね!』

 

笑うように、愉しむようにそう叫び、テラは雄叫びを上げる。

『ガァァアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!』

轟音が響き、ホール内のあちこちから爆発が起こる。

「っ!」

ジークフリートは思わず手を放す。

その隙をつき、テラは右手で吹き飛ばす。

「っずあ!」

「ジークフリート!」

ハーケンはネプテューヌから手を放し、持っていた拳銃を乱射する。

『グォオオオオオ!』

咆吼と共に大気が振動し、弾丸は弾かれる。

大地を揺らしてテラはハーケンに突っ込み、右足で蹴りこむ。

「っ!」

咄嗟に腕でガードするもそれは容易に崩れ、壁に叩き付けられる。

「ガッハッハッハ……。いいぜぇ……この高揚感……!」

テラは天を仰ぎ、そう漏らす。

以前の雰囲気とは違う、戦いに快感を覚えるその姿はまさしく戦闘狂(ベルセルク)。

テラの高笑いは洞窟内に響き渡る。

「く……! 貴様……人間じゃない!」

「ああ。俺は人間なんかじゃ、ねぇぜ……!

テメェらみたいな下衆と一緒にされんのは心外だなぁ……おい!」

テラはブンと右手を振りかぶる。

「っ!」

ハーケンはぎゅっと目を瞑る。

 

ガバッ!

 

いつまで経っても来ない痛みにハーケンはそっと目を開ける。

そこには右手を振りかぶった状態で静止するテラと、背後から抱きつくネプテューヌの姿があった。

「……」

「もうやめようよ! これ以上は死んじゃうよ……!」

瞳に涙を溜め、必死にネプテューヌは訴える。

しかし、テラは微動だにしない。

「……邪魔だ」

テラは感情のない声でそう告げる。

しかし、ネプテューヌは頑として聞き入れない。

瞳をぎゅっと瞑り、テラに強く抱きついている。

「……」

テラは左腕でネプテューヌを振り払う。

地に伏すネプテューヌを冷酷な目でみるテラは無言で右腕を振りかぶる。

「っ!」

そして、無言で右腕を振り下ろす。

鮮血が飛び散り、ネプテューヌはドサッと地面に倒れる。

「……」

テラはそれを無感情な目で見つめる。

「アンタ……何、してんの……?」

「……っ!」

意識を取り戻したアイエフの言葉に、テラは頭を押さえる。

酷い頭痛がテラを襲い、呼吸を乱す。

ガクリと膝を地に突き、乱れた呼吸を整える。

「っ! く、っずあ……!!」

しかし、一向に頭痛はおさまらず、苦痛の波がテラを襲う。

鮮血、少女、仲間――

 

「っ!?」

 

次の瞬間、テラの瞳に正気が戻り、目の前の惨状を唖然と見つめる。

倒れる仲間、気を失っている敵、胸の傷口からどくどくと血を流す少女。

それが、ネプテューヌであると認識するのに、テラは少しばかりの時間を要した。

「ネ、プテューヌ……?」

「アンタ……何してんのよ!」

アイエフは痛む身体を引きずってテラの元へ歩み寄り、その胸ぐらに掴みかかる。

「……」

「アンタ、気が狂っちゃったワケ!? 自分が何したか分かってるの!?」

「……」

「黙ってないで……何とか言いなさいよっ!」

アイエフはテラの頬を殴る。

衝撃でテラは吹き飛ぶが、目を見開いたまま微動だにしない。

「俺が……?」

「っ……! コンパ! 起きてる!?」

「はい、ですぅ……」

目を覚ましたコンパも状況に少し戸惑いつつもすぐにネプテューヌの元へ駆け寄り、応急処置を施す。

「……とにかく、今はなんだかんだ言っている場合じゃないわ。すぐに街に戻って病院に行きましょう」

アイエフは一瞬、ジークフリートとハーケンを睨んだがすぐにネプテューヌに視線を戻して彼女を背負う。

「あいちゃん……大丈夫です?」

「平気よ、これくらい」

アイエフは痛みに表情を歪めつつもそのまま出口を目指す。

「……」

テラもふらりと立ち上がり、無言で距離をとったまま、三人の後を追う。

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

ラステイション中央病院。

そこにネプテューヌは緊急搬送されていた。

ラステイション一の技術を誇るこの病院も、ネプテューヌの容態には驚愕していた。

それは彼女の胸の傷口だ。

あり得ないほどの切れ味で切断されている。

この世のものとは思えないほどに、鋭利な刃面と思われる。

救急治療室前の待合室には重圧な雰囲気が流れている。

そこにはテラ、コンパ、アイエフの3人は押し黙って朗報を待ち続けていた。

「テラ……アンタ」

「……」

ふとアイエフは口を開くが呼びかけられた本人は虚空を見つめたまま微動だにしない。

その瞳にはやはり動揺の色が映されていた。

「あの……」

コンパは気をつかって何かを口に出そうとするが、あまりの雰囲気にその言葉を押しとどめる。

「え、と……飲み物、貰ってくるです……」

コンパはそっとその場を離れて待合室を後にする。

「……」

「……」

かといって、その状況が打破できるわけでもなく、むしろその行為によって余計に場の雰囲気が重くなったと言えよう。

「……何をしたの?」

アイエフはギロリとテラを睨む。

普段は威圧感など一切感じさせない彼女からは威圧感どころか憎悪の念すら感じられる。

「……分からない」

「分からない……ですって!? 巫山戯たこと言わないで!!」

アイエフは近くにあるベンチを荒々しく蹴り、テラの元へ足音荒く近付きテラの胸ぐらに掴みかかる。

「あの娘が……ねぷ子がこんなことになってまでシラを切る気!?

アンタが……アンタに何が――!」

「五月蠅いっ!!」

「!?」

今の今まで心ここにあらず、といった雰囲気の彼がいきなり激昂し、アイエフを荒々しく払いのける。

「五月蠅いんだよ! 俺だって……俺だって、どうしたらいいか分かんないんだよ!」

「っ!?」

「考えれば考えるほどに自責の念が浮かんできて……俺の所為でアイツがこうなって、でもどうしようもなくて……やり場のない憤りだけが俺の中で渦巻いてるんだよ!

俺はどうすればよかったんだ!? そこまで言うのなら教えてくれ!!」

テラは肩を揺らしてしばらくアイエフを睨み続けていた。

ふと、アイエフは肩を震わせ、目尻には涙が浮かんでいることにテラは気付く。

「っ……。クソ!」

ガツン、と壁を蹴り、テラは足早に待合室を出る。

「あ……。テラさ……」

コンパは遠慮がちに声をかけるが、テラは一瞬だけ立ち止まり、悲しそうな瞳で彼女を見つめるとすぐに視線を外して去っていく。

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

空は、まるで彼の心を写しているかのように黒かった。

今にも降り出しそうな暗雲が立ちこめてそこらに店を出している露天商は被害を予期してか次々と店をしまい始めている。

しかし、彼にはそんなものは映らない。

彼の心は、黒に染まっていた。

 

――否、漆黒の中に一筋の光のみがあった。

彼の大切な仲間であるネプテューヌだった。

ブツブツと、何度も彼女の名を呼ぶがそれで彼女が戻ってくるわけでもない。

しかし、彼にはただ謝ることと、無事を祈ることしかできなかった。

 

 †

 

ずっと一人だった。

幼き頃に、士官学校に拾われてからずっと戦闘訓練を受けさせられていた。

希望の光として。

しかし、寂しかったのだ。

いくら心に嘘の壁を貼り付けたとしても、それは虚飾に過ぎない。

寂しかったのだ。

ずっと一人だったのだ。

温もりが、欲しかったのだ。

それが、彼女たちだった。

神、否、イストワールが唯一、自分に与えた光であり、心の有り処となっていたのだ。

たった、数日の付き合いであったとしても――。

それを奪った。

無意識下とは言え、自分が奪った。

己が――消してしまうのだ。

 

 †

 

トン、と軽いものであった。

しかし、身体に力の入りきらないテラには充分な衝撃だった。

ぶつかった少女は「きゃっ」と小さな悲鳴を上げて、少しばかり後ろに下がる。

テラはストン、と尻もちをつき、動かない。

「えーと、ごめんなさい。大丈夫?」

少女はそっとテラに手を差し伸べる。

長い黒髪を二つに括り上げ、使用人のような、それでいて気品すら感じさせるような衣装を纏った少女はいつまで経っても自分の手を借りようとしない、それどころか立ち上がろうともせず俯いているテラに不審感を抱く。

「あの、大丈夫?」

「――ゴメン」

「え?」

不意に発せられた言葉に少女はキョトンと首を傾げて聞き返す。

「俺の、所為だよな……。俺がやったんだよな……」

「ちょ、ちょっと?」

少女はテラの肩にポンと手を置くが、テラはさして気にした様子もなく――いや、外界に意識を向けていないのだ。

向けられないのだ。今、彼の意識は一人の少女の元にある。

「大丈夫なの? ねえ――」

「……っ」

「え!? ちょっと!!」

テラはふらりと倒れて、少女の胸に収まる。

「……ゴメン、ゴメンなぁ……」

しかし、テラは譫言のように続ける。

テラの頬に一筋の涙が伝う。

それを、少女は静かに、訝しむように、慈しむようにそっと見つめていた……。

 

 

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

豪勢な装飾が施された室内の中心にはこれまた豪勢な天蓋付きのベッドが置かれている。

そこにはそっと目を閉じ、時折譫言のように何者かに向かって謝り続ける少年が一人。

その少年の傍らには一人の少女がいる。

顔をゆがめる少年の頬をそっと撫でては心配そうな瞳で少年を見る。

コンコン、とドアをノックする音が響く。

「どうぞ」

「失礼いたします」

現れたのは知的な感じを醸し出す成人男性。

ペコリと一礼して室内へと足を踏み入れる。

「少し立て込んでいるの。早めに済ませて貰える?」

「はぁ……。では軽く――」

その後、何やら不穏当な会話が成され、話は終わる。

「――以上です」

「そう、ありがとう。ガナッシュ」

ガナッシュと呼ばれた男性は再び一礼して眠り続けている少年、テラを見る。

「おや、ブラックハート様。その少年は……」

ブラックハートと呼ばれた少女はガナッシュに向き直る。

「知っているの?」

「まあ、以前一度――ですが、彼は覚えていないでしょうねぇ……」

「そう……」

ブラックハートはテラの額に浮かぶ汗を布で拭う。

「辛いことがあったんでしょうね……」

「え?」

思いも寄らぬ言葉にガナッシュは耳を疑う。

「ずっと謝っていたわ。誰かは、分からないけど……」

「はぁ……」

「……下がっていいわ。後は私が見るから」

「そうですか。では――」

ガナッシュはそっと扉を閉めて退室する。

その後、ブラックハートはその場から動かず、ただただ眠るテラを見ていた。

 

 

 

 

 

 

慈母のように、『女神』のように――。

 

説明
超次元ゲイムネプテューヌ Original Generation Re:master 5話です

今回から話をちょっとずつ詰めようと思います
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