真恋姫無双 〜蜂蜜姫の未来〜 第11話
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この作品は恋姫無双の二次小説で袁術ルートです。オリ主やオリキャラ、原作キャラの性格改変やオリジナルの展開などもあります。

 

そういうのが許せない、特定のキャラが好きな方はスルーしてください。

※一刀アンチ作品ではありません。

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第11話

 

「袁術様、ご決断を」

そう言って玉座に座る少女へと目を向ける呂範。今まさに審判が下されようとしていた。

 

時は陽が昇るころまで遡る。

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八恵の私室に七乃と大地が集まり、最後の打ち合わせをしていた。

 

「今日、主な武官達は私の指揮下にあります。予定通り文官たちの屋敷にはそれなりに見張りの兵を送っておきました。あとは対象が外出したのを確認し次第増援要請を出し、増員が到着し次第そのまま親族の身柄確保、奴隷の保護、財貨の差し押さえまで指示しています。何も無ければこのまま決行可能です」

八恵は今日の行動予定について淡々と報告していく。二人も静かにその内容を聞き、頭の中でシミュレーションをしていく。

 

少し間をおいて、七乃が話しだす。

「大地さん、お嬢さまには具体的に何をしてもらうかまで説明したんですか?」

「いや。奴らが美羽を裏切っていたという事実しか話していない、が多分どこかで感じ取っているだろう。最後の決断を下すのは自分の役目だと」

「やるせないですね……」

「だけどあいつは知ることを望んだ、自分が負うべき責任の重さを。なら、あとは俺達が支えてやるしかないだろう?」

大地の言葉はどこか芝居がかっていた。おそらくこれから行われることに、多少なりとも興奮しているのだろう。演技とはいえ、今まで奴らに下げたくもない頭を下げてきたのだ。大地でなくとも鬱憤が溜まることは目に見えている。

 

ちなみに今回の件で、八恵は軍部の実権を握ることに成功した。実際の作戦などの最終決定権は七乃にあるが、軍を統括するという面においては八恵の方が適任と言えるだろう。元々、八恵は袁術軍親衛隊隊長の地位についていたのだが、実際のところ八恵が動かせる部隊数はそう多くなかった。まぁ、陳紀からすれば正常な思考(袁術軍の中では)を持つ八恵に、これ以上力を持たれるのは都合が悪いということもあり邪魔してきたのだが、逆に武官たちの不満を募らせる結果につながり、八恵が持ちかけた話しに喜んで乗ってくることとなった。

 

ちなみに、この件が片付き次第ある試みが行われることになっている。

 

「それじゃあ、行くか」

「は〜い」

「分かりました」

三人は部屋を後にし、玉間へと向かうのだった。

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美羽視点

 

今日はいつもより早く目が覚めてしまったのじゃ。

 

妾は、袁家と言う家に生まれ今まで何不自由なく過ごしてこれたことに疑問を持った事はなかった。それは妾にとって当たり前の事であったし、これからも変わる事はなかったはずじゃった。

 

そう、大地との出会いが無ければ。

 

大地と出会い、妾は知った。自分はただ生かされているにすぎないと。他の者に支えられて初めて、立つ事が出来る人間なのだと。

 

そして、美羽は必死に勉強した。指導者として最低限必要な書物を読み漁った。本の内容は全くと言っていいほど分からなかったし、そんな美羽の行動を見た周りの者は嘲笑うばかりだった。

 

――それでも――

他人にどれだけ馬鹿にされようとも美羽は学ぶ事をやめなかった。

 

分かる者に聞けば一から十まで教えてくれたことだろう。だが、それでは自分の物になる事はないと大地が言っていた。他人の解釈はあくまでもその人が感じたものだ。それを自分の解釈として受け入れる事は出来ないだろう。所詮、価値観の相違と言う奴だ。それなら自分で文章を咀嚼し、消化できないものだけを後から聞いた方がいい。大地はそう言っていたが、美羽は何が分からないのか分からないという状態であった。

 

それを聞いた大地は苦笑しながらも

「とりあえず分かんないものに印をつけておけ。その部分を今度皆で教えてやる」

と言ってくれたので、接続詞以外の単語にほぼ線が引いてある。

 

「そろそろじゃな」

美羽は朝日が差しこみ温かく照らされた自室を後にし、初めて自分の意思で玉間へと歩を進めるのだった。

 

視点アウト

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広間にはこの城の主な文官と将の何名かが集まっており、主が来るのを今や遅しと待っている。そこへ煌びやかな衣装を身に纏った少女が現れた。

 

「皆の者、よく集まってくれた。今日は大事な話があるのじゃ」

椅子に座りしっかりと前を見据え、よく通る声で話す美羽。いつもと違う主の態度に周囲がざわめく。

 

『ドンッ!!』

広間に突如大きな音が響く。八恵が槍の石突きを床に叩きつけたのだ。それだけで広間が水を打ったように静かになる。

 

「お嬢さま、どうぞ続きを」

八恵はそう言って美羽に先を促す。

 

「う、うむ。七乃、頼むぞ」

美羽も今の出来事に動揺したのか、どもりつつも今日の進行役である七乃にバトンを渡す。

 

「は〜い、お任せください。ここからは、お嬢様に代わって私の方から今日の議題を報告しますね。今日の会議内容は袁家を食い物にしている者たちの罪状説明及び処断方法についてです」

七乃の言葉に数人の顔が青くなるのが分かった。この時点でボロを出すなんて、相当身に覚えがあるのだろう。まぁ、そうじゃない連中もいつまで平静を保っていられるか見物だが。

 

「それでは、まず関与していた人数と主要人物の確認からいきましょうか。税収管理担当者四十名、土地管理担当者十五名、備蓄品管理担当者二十四名、資材管理担当者二十八名。そして筆頭文官である陳紀さん、陳紀さんの補佐として内政文官の義了さん、藩遂さんが中心になり動いている事が確認されました」

「……七乃、それはまことか?」

七乃が告げた事実は美羽が予想していたものよりも大きかったのだろう。言葉を失い、信じられないと言った顔で目の前に立つ文官たちを呆然と眺めていた。

美羽は今回の件について何も知らされていなかったからか、どこかで楽観視していた部分もあった。不正に関わっていたとしてもその人数はごく少数の限られた者たちだけだろうと考えていたのだ。まさか、ここまでの人数が自分をいいように利用していたとは……。

 

「はい♪大地さんにも手伝ってもらった事なので、まず間違いないかと〜。それと反論がある人もいるのかもしれませんけど、とりあえずこちらの報告が終わるまでは静かにしててくださいね」

『…………』

七乃はさらっと重要な事を告げたが、その言葉に一番驚いていたのは誰あろう陳紀に他ならない。

(まさかあの小僧が張勲と内通していたというのか?あ奴はわしの命令で張勲たちと接触していたのではなく、張勲の命令で儂たちを探っていたということか?)

思考を巡らせつつ広間に立つ大地(呂範)を見やるとその口元にはわずかに笑みがにじんでいた。そこで陳紀は確信してしまう。大地の真意を。

そこから先の事を陳紀はあまり覚えていなかった。

 

「次に、主な罪状についてです。税の水増し、周辺の賊との癒着、奴隷商との取引、商人に対しての恐喝、私兵を使っての民への暴行行為、売官行為の助長などが主な物ですかね〜。余罪は他にもあるんですけど、あんまり細かいとこまで説明するのも面倒なんですよ。まぁ、余すことなく自分たちがやってきた事を聞きたいって言うならやぶさかでもないですけど?」

いい笑顔で文官たちを見つめる七乃。顔は笑っているはずなのに、視線が氷のように冷たいのは気のせいではない。

 

内心少しは反抗してくるのを期待していた七乃は、何の行動も起こさない人物たちに興味を失ったように一瞥し、その後は淡々と報告を続けていった。

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七乃が一通りの報告を終え、美羽に一礼し一歩下がると同時に八恵が美羽の前に進み出て膝をついた。

「お嬢さま、私からも報告すべき事があります」

「なんじゃ?」

「今日、兵たちにはこの者たちの屋敷を見張らせております。お嬢さまの許可を頂ければすぐにでも伝令を飛ばし、財貨の差し押さえ、家族・使用人の取り押さえ、屋敷に奴隷がいる場合はその者の安全確保までを行える手筈を取っております。どういたしましょうか?」

八恵は静かに美羽に問いかけた。ここでの判断は迅速であればある程良い。実際、今日に限れば軍の全権が八恵に集中しているのだから、別に美羽に尋ねる必要はないはずなのだが、そこをあえて八恵は美羽に判断を仰いだ。

 

「のう、八恵はどうすれば良いと思う?」

「私にそれを聞かれるのですか?」

「じゃが……」

「お嬢さまはどうされたいのですか?」

「妾は……」

「今思った事をそのまま仰っていただきたい。難しい言葉など望んではおりません。私はお嬢さまの言葉を聞きたいのです」

 

八恵の言葉に美羽は少し考えるような仕草を見せたが

「民の為に動いてほしいのじゃ。妾の気持ちはそれだけなのじゃ」

はっきりと、八恵に告げる。その言葉に感極まったのか、八恵は少し声を上擦らせながら命令を復唱し伝令を飛ばした。

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「次は、自分の番ですね」

そう言って、今度は大地が美羽の前に立つ。

 

「袁術様、ここまでの説明で大体の事はお分かりいただけた事と思います。あとはこの者たちの処分についてなのですが、どういたしましょうか?」

大地は努めて冷静に美羽に問いかける。この件に関わっていた文官は合計百十名にもなる。その中で最も刑が重いのは陳紀、義了、藩遂の三人。相応しいと思われる刑罰は城下での磔の後打首にすることである。それ以外の者たちは国外へ追放、もしくは官位剥奪となるだろう。

 

淡々と大地は美羽に説明していくが、聞いている美羽の方はと言うと顔から血の気が失せ青ざめていた。

 

「大丈夫、ではなさそうですね。少し休憩をとりましょうか?」

そんな美羽を気遣い、大地は一旦部屋へ戻り考える時間をと思ったのだがその心配は無用だったようだ。なぜなら美羽はしっかりと大地を見つめ、話を聞く姿勢を保っていた。

 

「続けてほしいのじゃ。妾にはその責任があるじゃろ?」

少しおどけたような口調で大地に先を促す。その姿を見ていた陳紀は我が目を疑った。

 

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(これがあの小娘じゃと?まるで……)

陳紀は遠い記憶を呼び起こす。若かりし頃の自分と美しい金髪の女性がともに過ごした時を。

 

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「呂範殿、少しよろしいか?」

その声に大地が振り返るとそこにはとても穏やかな目をした陳紀が立っていた。

 

「ええ」

大地はその場を陳紀に譲る。そうしなければいけない気がしたのだ。対して文官たちは期待の眼差しで陳紀を見つめていた。この絶望的な状況を彼なら覆せるのでは、という淡い希望を抱いて。

 

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「袁術様、この老いぼれの首如何様にもお使いください。あなたにはその器があります」

陳紀は、そのまま美羽に対して平伏する。瞬間、広間が静寂に包まれた。何人も冒してはいけないであろう空間がそこには出来上がっていた。

 

「理由を聞いてもよいか?」

「あの方の誇りを穢した贖罪とでも申しましょうか。儂はあなたに袁逢様を見たのです。」

「じゃが……」

「覚悟をお決めなされ!罪人一人処刑できなくて何が主君か!」

「っ!?……分かった」

静寂を破ったのは大地だった。

 

「袁術様、ご決断を」

そう言って玉座に座る少女へと目を向ける呂範。

 

「呂範よ、陳紀の首を刎ねるのじゃ」

 

その言葉に従い、大地は陳紀の側に歩み寄り剣を構えた。

「陳紀殿、なにか言い残す事は?」

「もう少し早く自分の過ちに気付きたかった」

「すまない。そしてありがとう」

その言葉は陳紀にどう響いたのだろうか。死に際に言われたありがとうという言葉に対して陳紀の返事はない。

 

広間に転がった首はただ穏やかに微笑んでいた。

 

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その日、広間には少女のすすり泣く声だけが響いた。

 

 

説明
ちょっと間が空いてしまいました。

それでは、どうぞ。
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コメント
陳紀さんは道を踏み外さなければ、良き忠臣になっていたのかも知れませんね。(量産型第一次強化式骸骨)
美羽・・・・・・今は好きなだけ泣きなさい・・・・・。陳紀さん・・・・貴方の気持ちはけして無駄にはならないでしょう・・・・。(狭乃 狼)
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