IS《インフィニット・ストラトス》 駆け抜ける光 英雄の過去〜光の居場所
[全4ページ]
-1ページ-

夏休みも8月に入って後一カ月になりました。唯さんが元の世界に帰って数日間はゆっくりと時間が流れた気がする。

 

 

 今、僕を含めたいつものメンバーとお母さん達とちょっとした会議室に来ていた。アムロさんが良い機会だから過去の事を話すらしいのだ。だからこうしてみんなで集まったという訳だ。

 

 

[さて、どこから話せばいいのかな?]

 

 

 HI−νガンダムの待機状態であるネックレスからアムロさんの声が聞こえる。今も僕の首に掛けて、そこから声を発して話している。

 

 

「そうですね……まずはアムロさんの世界からっていうのはどうです?」

 

 

 そう言ったのは夏兄だ。ここ最近、台詞が少ない気がするのは気にしてはダメです! って僕は誰にいっているのだろう……。

 

 

[分かった。僕の世界は人類が宇宙に上がっているんだ。宇宙に「スペースコロニー」って言う居住区を作って人が生活しているんだよ]

 

「宇宙に上がったのですの!? 凄い技術ですわ……」

 

[そうかな? 僕にはISの方が凄い技術な気がするよ]

 

 

 アムロさんの世界ではISのようなスーツは開発されていない。しかし、後の一年戦争―地球連邦とジオン公国との戦争―では、初期にジオンがMSザクを開発して連邦を圧倒したという。

 

 

[僕は連邦の技術官だった父と一緒に宇宙に上がりコロニーへと移住した。一日中、機会をいじっては隣に住んでいた幼馴染の子には世話になったね。しかしある日、突然避難勧告が出てね……]

 

 

 アムロさんの住んでいたコロニーでは連邦軍のMS開発計画である『V作戦』を実施しているコロニーで、お父さんもその計画に参加していたらしい。それを嗅ぎつけたジオンがザクUで潜入して来た為に避難勧告が出されたのだ。

 

 

[コロニー中の人や幼馴染の子と非難している最中にMSを格納庫に入れている軍の人間と父を見つけて、すぐに駆け寄ったよ]

 

「人が避難しているにも関わらずにMSの搬入? 避難の手伝いもせずにですか?」

 

[そうだよ。だから[父さんは人よりMSの方が大切なんですか?]って聞いたら「あぁそうだ!」って即答されたよ」

 

 

 全員、絶句していた。まさか命より機械の方が大事と言う人間がいるなんて……。

 

 

[僕は何を思ったのか、導かれるようにそのMSに乗った。ザクと戦う為に……。それがガンダムというMSの出会いなんだ]

 

「ガンダム……」

 

 

 コストを度外視して製造したMSで全体的な性能がザクを大きく上回っており、戦争終結まで戦い抜いたMSなんだとか。

 

 

 無事に潜入して来た二機のザクUを撃退することに成功し、アムロさん達は強襲揚陸艦ホワイトベースの乗組員、ガンダムのパイロットになった。でもアムロさんはまだ軍人ではなく、地球にある連邦軍総司令部『ジャブロー』で正式に軍人になった。まだまだ先に話ですが……。

 

 

[ルナツーからの命令で地球に降下してジャブローを目指すことになったんだけど、そこの道中で奴と出会ったんだよ]

 

「奴……まさか!?」

 

 

 お母さんの驚きにアムロさんは答える。

 

 

[そう。赤い彗星、シャア・アズナブルの乗る赤いザクと戦闘が始めての戦いになった……]

 

「アムロさんはシャアさんには勝てたのですか?」

 

[あの時は全く歯が立たなかった。ライフルの標準を合わせたと思ったら視界から消えるし……性能はガンダムの方が高かったけど完全に負けたよ]

 

 

 アムロさん達、ホワイトベースのメンバーは無事に地球に降りることに成功したけど、降りた地域はジオンの領域だった。ジャブローには最終的には着くことは出来たんだってさ。その道中で様々な敵に遭遇しながらも成長していったんだって。

 

 

[ジャブローに着いた後はまた宇宙に上がったんだ。そしてある日、僕はあるコロニーで雨の中、屋根の下でイスに座って外を眺めている女性に出会ったんだ]

 

 

 アムロさんの真剣さが増すと共に悲しい感じの声色に変わる。まさか……。

 

 

[始めてみた途端、彼女を感じたと言えばいいのかな? 光輝やエリスなら分かるかもしれない]

 

「私と光輝くんが?」

 

[そうだよ。僕はあそこで彼女――ララァ・スンと出会いがあったからこそニュータイプへと覚醒をした……]

 

「そのニュータイプとはなんですの?」

 

[宇宙に上がった人類が誤解なく分かり合える新しい人類のことなんだ。光輝やエリスの感じ方はまさしくニュータイプそのものだ]

 

 

 僕とエリスさんがニュータイプ? その事実に衝撃を僕達は受けた。

 

 

 

 

[ニュータイプは人並み外れた直感力と洞察力を身につけ、空間認識能力を持っているんだ。離れていても他者やその状況を正確に認識し、意思疎通をする能力を発揮することもできる。人を気配で探知することもできるけど、探知についてはプレッシャーの事と言えば分かるよね?]

 

「はい……。でもなんで僕達だけニュータイプの能力を発現出来たんでしょうか? 僕は生まれつき。エリスさんは福音戦前に。何か理由とかは?」

 

[すまない。僕にもそれは分からないんだ。僕の世界のニュータイプの発現に関してもよく分からない。強いて言うなら宇宙に上がった人だけが発現するのだろうけど……]

 

 

 

 まぁそれはそうでしょうね。僕はこの能力のせいで……。

 

 

[話を戻そうか。それ以来、ララァの存在は僕の中で大きなものになった。彼女とは、今度は戦場で出会った。ジオンのニュータイプ専用MAのパイロットとして……]

 

「そんなことって……」

 

 

 鈴さんが声を漏らす。まさか敵だなんて誰が予想したのだろうか。その時のアムロさんもそう思ったはずだ。アムロさんは話を続ける。

 

 

[シャアもMSに乗ってララァの護衛をしていたんだ。僕とララァは精神的な共感をしたんだ。敵同士ながらも僕達は分かりあっていた……。でもそこにシャアが襲いかかって来た。それを撃退して、止めを刺そうとした時……ララァがシャアを庇うように前に来て、僕はそのままビームサーベルを――ララァの乗るコックピットに突き刺したんだ……]

 

「…………!」

 

 

 もう全員、声などでない。分かりあった相手を――ニュータイプへのきっかけを作ってくれた存在を自分の手で殺した。そういう意志が無くても……。それは償おうとも償えるものじゃない。

 

 

[僕は取り返しのつかない事をした……共感を得て、分かり合えた相手を自分が殺した……。僕にとってもシャアにとっても、ね。]

 

 

 僕はそれを見たことある。サザビーとの戦闘中、あの3機のロボットの戦いを見た。まさしくあれが、アムロさんの話したことなんだろう。

 

 

 その後、ジオンの最終防衛基地、『ア・バオア・クー』を制圧して一年戦争は連邦の勝利となった。しかし、アムロさんの心の傷は癒えずにいた。

 

 

[僕はララァをこの手で殺したことに後悔していたし、逃れられない罪なのは理解していた。それに囚われていた僕は戦争が終わった後、本当に無気力だったよ]

 

「アムロさん……」

 

 

 ちょっと休憩しようか、そうアムロさんが言うものの、みんなの顔は沈んでいた。今まで優しく、時には怒ったりしながら話していたアムロさんだけど、ここまで暗い過去だったなんて……。無理やり戦って、人を殺し、分かりあった人でさえも殺してしまった。そんなの耐えられるもんじゃない。

-2ページ-

休憩を挟んだ後、アムロさんの話を再び聞いている。一年戦争が終結したあと、英雄はどうなったのだろうか?

 

 

[一年戦争が終わった後、僕は昇進して地球のある基地に転属になった。軍からは豪邸なんか与えられたりして、そこそこな生活はしていたんだ。でも常に軍から監視されてて、いわゆる軟禁状態だったんだよ]

 

「な、なんで! アムロさんは軍に貢献したじゃないですか!?」

 

 夏兄が声を荒げて言う。確かにそうだ。軟禁だなんて軍は何のために?

 

 

「確かに一夏の言う通りね。なんで軟禁になったのよ?」

 

[連邦はニュータイプを危険視しているんだ。その異形の力に未知の恐怖を感じていたから。それに元ホワイトベースのクルーもバラバラにされて、幽閉されたりしたんだよ]

 

「……連邦は腐っているんですね。本人達はそんな気もないのに……! アムロ殿、なぜ貴方は軍を辞めなかったのですか?」

 

 

 ラウラさんが質問する。まさかニュータイプだから抜けることを許せなかったとかじゃ。だとしたら軍の人間は……!

 

 

[僕には帰る場所がなかったから。父は死に、母も行方が分からなかったんだ。だから僕は軍を抜けなかった。あの生活時の僕はそれこそ精神が死んでいた。ララァを殺したことを忘れることが出来なくて……僕自身、生きているのが嫌になってたよ]

 

「アムロさんは今も、ララァさんのことを気に掛けているんですか?」

 

[そうだな……。前は夢にまで出てきて本当に気が狂いそうだった。でも今は大丈夫だ。確かに僕のやったことは何をしても償えないことだ。あの時、僕を奮い立たせてくれる人達がいたからね]

 

「……アムロ殿」

 

[さて、話を戻そうか。一年戦争が終わって三年後の話だ。ある事件を期に、連邦はジオン残党軍の掃討を名目に結成された精鋭部隊『ティターンズ』が結成された]

 

「待ってくださいまし。そのある事件と言うのは?」

 

 

 セシリアさんが質問する。内容からしたらジオンの残党が何かしたような感じだけど。

 

 

[あの事件は僕も詳しくは分からないが、当時連邦で『ガンダム開発計画』というのがあった。三機のガンダムタイプが開発されたんだが……ジオン残党を名乗る者達にその内の一つを強奪されたんだ]

 

「そんなことが……」

 

[最終的にはこの計画自体が取り消しになって事件の事も闇に葬られた。それを期にティターンズも結成された。だが彼らのやり方は過激すぎた。それを反対する連邦の人間もいて、反ティターンズ部隊『エゥーゴ』も結成された。それからはこの二つの連邦内部での争いが起こっていった]

 

「内乱……ですか?」

 

[そう。そして一年戦争が終わって7年後――あるコロニーでティターンズは新型MS――ガンダムMk-Uを製造しているのをエゥーゴに強奪された。これをきっかけに『グリプス戦役』と呼ばれる戦争が始まった]

 

「ガンダム……」

 

 

 アムロさんの話によればいつの時代もガンダムの存在は大きく、ガンダムMk-Uもティターンズのフラッグシップとして製造されたらしい。でも結果的には製造された三機全てを強奪されたわけだけどね。

 

 

[そしてそのMk-Uに搭乗していたのがカミ―ユ・ビダンという少年だった。繊細で純粋な子だった]

 

「確か、シャアさんが私に言ってた人なのかな?」

 

「シャアさんが?」

 

「うん。臨海学校で足が竦んで動けなかった私に話したんだ。『君のその感じ方、カミ―ユやクェスに似ている』って……」

 

 

 アムロさんはその話を聞いて納得したように言った。

 

 

[確かにシャアの言う通りだ。二人ともカミ―ユに似ているよ。だから一人で溜め込まないでほしいんだ。理由は後で説明するよ]

 

 

 そう言ってアムロさんは話を続ける。もしかしたらカミ―ユさんに何かあったのかもしれない……。

 

 

[僕がカミ―ユに出会ったのはエゥーゴが地球に降下してからの話だ。僕は幼馴染の女の子やホワイトベースに乗っていた、当時は幼なく、成長した子に説得されて軍の監視を抜けたんだ。そして空港で軍の輸送艦を盗んでエゥーゴの支援組織『カラバ』に参加したんだ。そこでカミ―ユに出会い――シャアとも再開した]

 

「……! シャアさんはエゥーゴに入隊してたってことですよね?」

 

[シャルロットの言う通りだよ。奴は『クワトロ・バジーナ』と偽名を名乗り参加していた。まさかまた出会うなんて思いもしなかったよ。でもシャアやカミ―ユのおかげで僕はまたMSに乗って戦う決意が出来た。シャアに宇宙で共闘するか聞かれたが宇宙には上がる気になれなかった……]

 

 

 戦う決意が出来ても宇宙には上がれない。その時のアムロさんはまだ完全に――。

 

 

「やっぱり……ララァさんと出会ってしまうから?」

 

 

 夏兄が聞いた。誰しもが分かっているがそう聞かずにはいられなかったんだろう。

 

 

[そう……だね。シャアにもそれを言われたよ。未だに僕はトラウマを克服できずにいたんだ。それもあるけど、純粋に宇宙空間が怖かったのもある。あの無重力空間にいるのは怖い。あのゆらぎを感じていると気持ちが悪いんだ……]

 

「でもアムロさんは凄いです。心の傷が残っていながらも戦うなんて……」

 

[ありがとう。でも戦うなんて決して気持ちのいいことじゃない。それは分かってくれ]

 

 

 全員がその言葉に頷く。その言葉はとても重く、自分の心に刻むのには十分だった。

 

 

[ある日、カミ―ユはある女性と出会う。それが悲しみの始まりだったのかもしれない。彼女の名前は『フォウ・ムラサメ』。カミ―ユは自分と同じ境遇のフォウに恋をした。しかし、フォウはティターンズの強化人間だった。二人はまた戦場で出会い、戦う運命になってしまった]

 

 

 恋をした二人が戦う運命に。どちらかが死ななければならない。でも相手は好きな人。戦争はなんて残酷……だ。そして一つの疑問が――。

 

 

「すいません。強化人間ってなんですか?」

 

 

 また夏兄が聞いた。全員が思っているであろうその言葉、一体何を強化されている人なんだ?

 

 

[すまない。教えないといけないね。強化人間って言うのは薬や催眠によって人工的にニュータイプにされた人のことなんだよ。でも代償は大きく、精神が不安定で情緒不安定な状態になってしまう」

 

「なんでそれほどまでにしてニュータイプを作ろうと思うんです!?」

 

[簡単だよ。ニュータイプはその能力の高さから戦争の道具とでしか見てないからね。もちろん、エゥーゴはそんなことはしていない。これもティターンズの過激なやり方の一つでもあるかな」

 

「酷過ぎるっ! 人を、人をなんだと思って……! どうして人の人生を狂わしてまで戦争をしてしまうのさ!」

 

 

 僕は叫んでいた。ティターンズは勝つためならなんだってする狂人たちの集まりか! この話を聞いていると昔のことを思い出すんだ。お母さんと出会う前のあの辛い……。

 

 

 あの研究施設のことがパッと頭に流れ、僕は怖くなった。そして蹲(うずくま)り涙を流した。きっとティターンズもあの研究施設も人の人生を狂わして――。

 

 

「こ、光輝!? 大丈夫か!」

 

「う、うん……ひっく。昔の事と重なってね……怖かったんだ」

 

[あの記憶か……すまない。光輝に辛いことを思い出させてしまったな……]

 

「あ、あの記憶? それってなんのことよ?」

 

「ご、ごめん……ね。それを話すのに勇気がいるんだ。だから今は言えない。でも……必ずみんなにはいつか、話すから……ホントにごめんね……」

 

 

 僕は夏兄に背中を擦られながらそう言うのが精いっぱいだった。

-3ページ-

[大丈夫か、光輝?]

 

「な、なんとか落ち着きましたよ……ありがと夏兄」

 

「あ、あぁ。あんまり無理だけはするなよ?」

 

「うん、大丈夫だよ。心配かけてごめんね」

 

 

 なんとか落ち着いた僕は呼吸を整え、話を聞こうとするが――

 

 

「光輝はフォウさんに何を感じたの?」

 

 

 シャルロットさんのその言葉に胸に釘でも打たれたような感覚がした。それは、過去の自分と重なったから。あの永遠の闇に閉じ込められたような感覚は忘れようにも忘れられない。でもみんなには……言えない。いつかは言わなきゃいけにないのに……。

 

 

「む、無理して言わなくてもいいよ。さっきから光輝の顔色が悪いから何かを感じたのかって……」

 

「なるほど……大丈夫だよ。ありがとね」

 

 

 ふぅ、なんとかなったね。でも逃げてばかりじゃいけないよね……。それからアムロさんの話を再開した。

 

 

[彼女とは二度の戦闘を行った。それに僕も加わっていたが、カミ―ユは呼び掛けるだけで攻撃をしなかった。当然と言えば当然の話だ]

 

「フォウさんは呼び掛けに応えなかったんですか?」

 

[あぁ。完全にMSに取り込まれているようだった。フォウの乗っていたMS――サイコガンダムは精神を取り込む性質があるか詳しくは分からないが、操られてた感じだった]

 

「操られていた? 機械にそんなことが可能なのですか?」

 

 

 確かにお母さんの言う通りだ。機械に人を操れる力があるのだろうか?

 

 

[サイコガンダムは操縦者も機体の一部とするように造られていたんだ。強化人間であるフォウは操縦している間はサイコガンダムの一部となった。それ以外にも強化人間としての代償が――]

 

「人が機械の一部? ティターンズはなんてものを!」

 

[そして二回目、ティターンズは輸送艦にシャトル用ブースターをこちらに突貫させようとしたところにまたフォウの乗るサイコガンダムは現れた。カミ―ユは呼び掛けるがフォウは攻撃を止めなかった]

 

「じゃあカミ―ユさんはどうしたんですか?」

 

[サイコガンダムに捕まって無防備になったカミ―ユは逃げようともせず、逆にコックピットを開けてフォウに自分の気持ちを伝えたんだ。それはフォウに届き、フォウの決死の覚悟でブースターを強奪してカミ―ユは宇宙に上がっていったんだ]

 

 

 分かり合えたんだ。良かった……でも肝心のフォウさんは一体どうなったんだ?まさか……。ちょうどその疑問をセシリアさんが聞いてくれた。

 

 

「アムロさん、フォウさんはどうなったんですの?」

 

[彼女は機体を輸送艦に突っ込ませてカミ―ユにブースターを託したんだけど……生死は分からなかった]

 

「そんなのあんまりですわ……。フォウさんは心を取り戻したというのに。カミ―ユさんはその後どうなされたんですか?」

 

 

 フォウさんの生死の不明。それはカミ―ユさんの心にかなりの傷をつけたはずだ。カミ―ユさんは大丈夫だったのだろうか?

 

 

[そうだね。上がってすぐに新たな機体『Z(ゼータ)ガンダム』を受領して戦っていたようだよ]

 

「Zガンダム……また新しいガンダム」

 

 

 話によればZガンダムはガンダムタイプ初の変形機構を搭載させた機体で、更に単機での大気圏突入もできる。なんとグリプス戦役時の最強の機体の一つだとか。なお、変形時は『ウェーブライダー』と名称に変わるらしい……こだわりますなぁ。

 

 

「変形かぁ。カッコいい響きだ!」

 

 

 確かに夏兄の言う通り、変形という言葉に少しばかりカッコいいと思ってしまう。僕達のその様子にアムロさんが反応する。

 

 

[グリプス戦役時には、けっこうな数の変形機構を持ったMSが開発されているからね。もしかしたら二人が気にいるのもあるかもしれないな……]

 

「おぉ! それは是非とも一度見てみたいですね!」

 

「さっきまでの雰囲気はどこに言ったんだ……!」

 

 

 箒さんが僕達に突っ込む。暗い話ばかりじゃなくて明るい話もしなきゃね! 

 

 

 

 

 アムロさんから変形機構のMS――種類や魅力とか――を教えて貰った後に再び話へと戻った。僕はギャプランの変形がカッコいいと思う。夏兄はリ・ガズィがいいとか。そして驚いたのはZZガンダムも変形機構が備わっていたこと! これにはエリスさんも驚いていた。やっぱり実物を見てみたいなぁ。

 

 

[さぁ話を続けるよ。カミ―ユ達が宇宙に上がって何ヵ月した後の話だ。エゥーゴとカラバでティターンズの地球基地『キリマンジャロ基地』を制圧する作戦を行うためにシャアやカミ―ユと言ったエゥーゴは地球に降りてきたんだ。もちろん、僕もカラバとして作戦に参加した。そしてまたカミ―ユは出会った――数ヶ月前、生死不明だったフォウに]

 

「生きていたんですか!? でもフォウさんは――」

 

 

 敵なんだ。それは抗えない事実。

 

 

[敵だ。しかもフォウは前よりも強化がなされていたらしく、基地内の建物で出会った二人だが、その戦火を見たフォウはサイコガンダムを呼び寄せ、戦場に赴いた]

 

「ティターンズは……どこまで腐っているんだ! また自分たちの為に人を壊していくなんて!」

 

 

 箒さんがキレた。さっきからあんまり口を挟んでいなかった箒さんだけど、とうとう堪忍袋の緒が切れた、というところだろね。しかしそれは誰も同じことである。ティターンズのやっていることは許されることじゃない。

 

 

[それもあるが元の連邦の政府の人間が腐っているんだ。一年戦争に勝利し、増長した結果の一つだよ]

 

「政府の人間は自分たちが良ければそれでもいいってことか……あの爺どもと同じだな」

 

[爺?]

 

 

 お母さんの言葉に夏兄が応える。

 

 

「国際IS委員会――まぁこいつらの話はいずれだな。アムロさん、続きを――」

 

[分かった。カミ―ユはフォウに説得をしてなんとか心を取り戻した。だがそこであの悲劇が繰り返された――]

 

 

 アムロさんの声のトーンが落ちる。アムロさんにとっての悲劇――まさか、いや、でもまた繰り返されるなんて――。

 

 

[カミ―ユはティターンズのMSに狙われて、カミ―ユは回避が出来なかった。そこにフォウの乗る、サイコガンダムが二機の間に――]

 

「っ!」

 

 

 やっぱりだ。ララァさんとの悲劇が――7年間の時を経て繰り返されたんだ。同じ過ちを人は繰り返す。

 

 

「戦場である以上、そうなるのは当たり前なのかもしれない……だが!」

 

[僕もシャアもそれを見て、すぐにあの時の事を意識したんだ。人は同じ過ちを繰り返す……悲劇を知っている僕達が止めなければいけなかったのに出来なかった――]

 

「アムロさんは、悪くないですよ……」

 

[ありがとう、一夏。でもそれが僕達、大人のやらないければならない事なんだって思うんだ。過ちを繰り返させないことを――]

 

 

 大人……その言葉が重く響く。

 

 

「その作戦はどうなったんですか?」

 

[無事に成功したよ。その後もティターンズの悪徳を世間に知らしめる為の演説もしたし、徐々にティターンズは崩れていく]

 

「カミ―ユさんやシャアさんは?」

 

[演説が終わった後、また宇宙に上がったよ。僕はカラバのテストパイロットとして活動を続けたよ。でも今思えば、カミ―ユの変化に気付くべきだったんだ]

 

 

 変化? どういうことなんだ? その疑問をエリスさんが聞く。

 

 

「カミ―ユさんに一体何があったんですか!?」

 

[カミ―ユは――精神崩壊したんだ。グリプス戦役が終わる直後にね]

-4ページ-

 カミ―ユさんが精神崩壊!? 一体何があったんだ?

 

[カミ―ユはニュータイプとして進化していった。だが、それは彼の精神を蝕んでいくことにしか過ぎなかった。宇宙に満ちる人々の死の思いや叫びを受け止めていたんだ……]

 

「宇宙に満ちる思い? それってどういうことですか?」

 

 夏兄が聞く。その意味はたぶん――

 

[戦闘中に死んだ人の精神をカミ―ユは無意識に取り込んでいたんだよ。敵味方関係なしに散っていく命を感じ取って、ついに精神崩壊してしまった。僕は地球にいたけどそれを感じたんだ。そしてシャアも……こんなことがあったから、アクシズを――]

 

 恐ろしいことだ。強力な力を手に入れるが、人の死を感じるなんて……そんなの怖いよ。でもカミ―ユさんはそれでも戦い続けたのか。僕には……できない。

 

「まさか光輝さんやエリスさんにその兆候があるというのですか!?」

 

 セシリアさんが声を荒げて質問する。エリスさんの方を見ると身体を震わせている。それを鈴さんが慰めている。

 

[100%という訳じゃないが……カミ―ユと同じような感覚がするんだよ。だから僕は君たちを護っていきたいと思っている。これ以上、悲劇が繰り返されないように――]

 

「いやぁぁぁぁ!」

 

 突然、エリスさんが泣きはじめた。もしかして、シャアさんと一人で対峙した時のことを思い出して――

 

「いやぁ……怖いよ。シャアさんと向かい合ったときのあの――断末魔とかの感覚は怖いの……。乗り越えようにも時々、突然思い出すの……あの怖い感覚が――」

 

「アムロさん、織斑先生。あたし、ちょっとエリスを落ち着かせるために席をはずしますね……」

 

 鈴さんがそう言うと泣き続けるエリスさんと一緒に部屋を出ていった。エリスさんはあの感覚を思い出したからだろうけど、あの鈴さんも気分が悪そうだった。

 

[いきなりそう言ってああなるのは仕方ないことだ。後で謝りにいかないとな……。他のみんなも聞きたくないなら僕も話すのを止めるけど、どうしたい?]

 

 こんな話をした後だからか、みんな暗い顔をしている。僕だって良い気分じゃない。でも――

 

「僕は最後まで聞きたいです。ずっと気になってたんですよ、貴方が言う単語とか。だから今日、気になることは全部聞くつもりです」

 

[そうか。他のみんなは?]

 

 みんな静かに頷く中、箒さんは言う。

 

「私は聞きたいです。力の意味を教えてくれた貴方の強さを知りたいんです」

 

[僕にはそんな力はない。ただの経験でしかないよ]

 

 箒さんの言葉に自嘲した苦笑いをするアムロさん。でも僕達にとっては知らなければならないことなんですよ!

 

[話を続けよう。グリプス戦役は結果的にはエゥーゴの勝利に終わった。しかし、戦役中に乱入して来たジオン残党『アクシズ』がネオジオンという名前に変えて連邦に戦いを挑んできた]

 

 ティターンズとエゥーゴの衝突により、衰弱した連邦を掌握するのがアクシズ――ネオジオンの作戦だったという。それが第一次ネオ・ジオン抗争。卑怯なんだけどそれが戦争だというのは言わずとしれたことなのだろうか?

 

[僕はその頃、グリプス戦役で行方不明になったシャアを探すために宇宙に上がることにしたんだ]

 

「……怖くなかったんですか?」

 

 シャルロットさんが恐る恐る質問する。確かにアムロさんの傷は癒えるものではないほどの深いものだ。

 

[怖かったよ。でもね、いつまでも逃げるわけにはいかなかった。それにシャアは何か行動を起こしそうな予感がしたんだ。だから勇気をだして宇宙に上がって数年に渡って彼を探すことを決意したんだ]

 

「凄い……」

 

 シャルロットさんが静かに呟く。アムロさんは何年も掛けて恐怖に勝てたんだ。ゆっくりでいいから前に――。

 

[第一次ネオ・ジオン抗争が終結しても僕は彼を探し続けた。第一次ネオ・ジオン抗争が終結すると連邦はエゥーゴも吸収して一つになった。僕は連邦の「ロンド・ベル」というエース部隊に配備された。量産機は最新のMSが配備されたが、連邦の高層部はガンダムタイプの仕様を禁止していたんだ]

 

「なんでです? それじゃあ戦力的には低いじゃないですか」

 

[この時の連邦はニュータイプに対する恐怖を未だに持っていたんだ。ガンダムタイプのMSを与えて、軍に反旗を翻されるかもしれないからとのことだった]

 

「やはり、どの世界も高層部の人間は勝手が過ぎるな……」

 

 お母さんが怒りを露わにする。未だに連邦は自分たちの勝手に気付かず、自分たちが良ければそれでいいみたいな考えなんだ……。本当に腐ってる!

 

[それでも半ば無理やり配備させたのがZガンダムの量産試作機――リ・ガズィだ。光輝はこいつがカッコ良さそうと言ってたMSだね]

 

「おぉ〜。一度でいいから見てみたいものです!」

 

「男子は変形が好きなのか……」

 

 とお母さんが静かに突っ込む。男子みんなかどうかは分からないけど、僕は好きなのです。

 

[そしてシャアの探索が終わっての事だ。シャアはネオ・ジオンを名乗り連邦に宣戦布告してきた。これが第二次ネオ・ジオン抗争の始まりだ]

 

「だが、コロニーなど探索してきたのにシャアは一体どこにいたんですか?」

 

 ラウラさんが困惑に満ちた声で質問する。数年も掛けて探していたのに一体どこにいたんだろう?

 

[それは分からないんだ。だが、コロニーの住人がシャアがいるのが分かっていて隠していたということがあったから見つからなかったんだよ。そこに気付かなかったのは失態だった。そしてネオ・ジオンは地球の衛星軌道上にあった小惑星5thルナを占拠して、地球上の連邦本部に隕石落としを実行した]

 

「隕石落としですって! なんてことを……」

 

[僕も出撃してなんとか阻止しようとしたが……ダメだった。5thルナは連邦本部に直撃し住民はもちろん、周囲の土地はかなりのダメージを負ったんだ。しかし、連邦の人間は全員避難していた。住民よりも早く……]

 

「自分たちの身の安全が一番……どうして自分勝手な人間ばかりなんだ!」

 

 ここまで腐っているなら僕はネオ・ジオンを応援したくなる。でも地球を潰すのは間違っていると思う……。

 

[そしてシャアは武装解除の代わりに連邦との裏取引でアクシズを手に入れることに……でも、それこそがシャアの真の狙いだったんだ]

 

「どういうことです?」

 

[シャアの目的――それは地球にアクシズを落として地球を核の冬を迎えさせることだ]

「核の冬? そんなことしたら人が地球に住めなくなる!」

 

[一夏の言う通りだ。シャアは地球を潰して人を住めなくし、人類全体を宇宙に上げて、その間に地球の治癒力で地球を治す。だがこれは建前で、シャア自身は人類全体をニュータイプにすること――]

 

 ……なんて勝手で傲慢な考えなんだ。でもシャアさんはそうしてしてしまう程に人を信じれなくなっていたとも言えるのかな? でも……。

 

「そんなの自分勝手過ぎます! その為に地球を潰すなんて……」

 

[確かにそうだ。僕達はネオ・ジオンのアクシズ落としを阻止するために再びネオ・ジオンとの戦闘を行った。この時には、νガンダムも受領して戦っていたんだ。多くの仲間が死に、戦闘は熾烈を極めていた……]

 

「相手も必死でしょう。落ちるまで守ろうとするのは結構大変ですからね」

 

[あぁ。そこでアクシズを内部から爆発させて半分にし、大気圏に入るのを阻止する作戦を立てた。しかし、片方の破片が爆発の威力が強過ぎて大気圏内に入ってしまったんだ]

「そんな! それじゃあもう……」

 

 

 アクシズは落ちたのか? でもあの時見た、サイコフレームの光が地球を包んでいたあれはなんだ?

 

[いや、シャアとの決着を付けた僕はシャアの乗っていたMSの脱出ポッドを捕まえて、アクシズを押し返すことにしたんだ。脱出ポッドは岩盤に叩きつけて、中は振動が凄かっただろうね]

 

「アムロさん、なんて鬼畜なことを……それはいいとして、一人でアクシズを押し返そうとしたんですか!?」

 

[黙って地球に落ちていくのを見たくなかったんだ。そうしている内に連邦の援軍が来て、一緒に押し返そうとするんだ。それならまだしも、ネオ・ジオンのMSまで来て押し返そうとしていた]

「敵が……ですか? なんでまた?」

 

[分からないが、この時始めて人の思いが一つになった瞬間でもあったね]

 

 敵味方関係なしに地球を守る。その時、人は分かり合えたからこそ、アクシズを押し返そうとしたんだろう。アムロさんは人に影響を与える凄い人だ……。

 

[だが、ブースターを全開にしていると大気圏の熱と摩擦で爆発してしまうMSが出てきた。こうなったのは僕とシャアの責任なのに関係のない人間が死んでしまうのが耐えれなかった。だが突然、νガンダムから緑の鮮やかな緑の光が発せられて周りにいたMSはみんな吹き飛び、アクシズを包んだんだ]

 

「その光は一体何ですか? 光が物体を吹き飛ばすなんて……」

 

[君たちも見たことあるよ。サイコフレーム――人の心の光さ]

 

「人の心の光……サイコフレームっていう物とどんな関係があるんですか?」

 

 夏兄が質問する。僕以外は知らないんだった……そりゃ聞くよね。

 

[サイコフレームはMSに取り込むことで性能を著しく上げるものなんだ。詳しいことは僕にも分からない。でも一つ言えるのは、サイコフレームは人の意志を拡張させる力があるということだ。そのおかげで光輝はユリとも対話が出来たんだ]

 

「なるほど……じゃあ、あの光はエネルギーが働いているってことですか? MSを吹っ飛ばすぐらいだし」

 

[そうなるね……そして、シャアがララァがお母さんになるっていうのを聞いたと同時に光が僕を包み、そこで意識が途絶えた。だが不思議とアクシズが光を纏って大気圏ないから脱したのは感じることができた。次に意識が回復したのは、束の研究室の中だった。人間ではなくIS――νガンダムとして……。とここまでが僕の過去になるのかな?]

 

 これが人の心の光を示そうとした英雄の過去……。人類を信じようとしなかったシャアさんとは反対に、人類の可能性を信じて奮闘していたアムロさん。特にアムロさんは長い間、幽閉状態だったにも関わらず再び戦うことを選んで、トラウマも乗り越えて、人を信じている。その想いがあったからこそアクシズを押し返せたんだろうか? 

 

「アクシズを押し返した時の光を見て人はどう思ったんでしょうね……少しは変われたんでしょうか?」

 

[それは僕にも分からない。けどね、君たちを見ていると少しでも変わってるって思うよ。それにユリも光を感じて何かしらの変化が生じたようだしね]

 

 そう。唯さんの狂気の部分が浮き出た人格――ユリさんはこの光を感じて何かが変わっていた。大丈夫だろうか?

 

「それを見てアムロ殿の世界の人間も変わっていると言うことですか?」

 

[ラウラの言う通りだよ。少しずつで良いから、ゆっくり確実に変わっていけばいいんだ。今のエリスがその途中なのが分かる]

 

「恐怖を乗り越えようと頑張っているが、それに囚われることがある……でも諦めずに乗り越えようとしている。あいつは強いな」

 

 お母さんが静かにそう呟く。僕も未だにあの感覚を思い出すことはある。でも逃げるわけにはいかない。それに一人じゃないから……今はみんながいるから頑張れる!

 

「なぁ光輝、俺達にはその……ニュータイプってどういうことを感じるのかはよく分からないけど、助けが必要だったらいつでも言ってくれよな? カミーユさんみたいに精神崩壊なんて絶対にさせないからな!」

 

「一夏の言う通りだね。あの明るいエリスがあそこまで泣くなんて……それほど苦しい感覚だったら、僕達が支えるよ」

 

「嫁を助けるのは当然だが、エリスだって私たちの仲間だ。仲間を見捨てることは出来ない」

 

「光輝とエリスなら絶対に乗り越えれると思うぞ。でも絶対に一人で悩みこまないでくれ……」

 

 みんなの言葉に思わず涙が出そうになる。僕は本当に一人じゃないんだな……昔とは違う。今は仲間がずっと居てくれる!

 

「みんなお前やリムスカヤに少なくとも影響を受けているんだ。私だってそう。あの日、お前に出会ってから家族が増えて嬉しかったし、お前の光を見る度に心が安らいでいく……」

 

 そして僕はこの人に――お母さんと出会って、絶望から這い上がることが出来た。この人に恩返ししたい。それはこれからもずっと変わることのない想い。

 

「みんな……ありがとう」

 

 僕は精一杯の気持ちを込めてお礼を言った。まだ僕の事は話してないけど、いつか必ずみんなに話す。隠し事はしたくないから――。

 

 

 

 感想は、二次ファンの方にこちらに投稿したという活動報告を書きますので、そこに。それか普通にこのサイトで感想をお願いします。

説明
唯はユリと分かりあう道を選ぶことを、光輝達に言って自分の世界へと帰って行った。そして数日後、アムロに呼ばれ過去を話すというが……。
総閲覧数 閲覧ユーザー 支援
5633 5567 1
コメント
PS 次回からは活動報告に感想を書きますね.(ウッソ・エヴィン)
ウッソです.これで前の分を取り返したって感じですね.次回からは新たな話ですのでとても楽しみにしています.(ウッソ・エヴィン)
タグ
過去 アムロ インフィニット・ストラトス 

きつね@らんさんの作品一覧

PC版
MY メニュー
ログイン
ログインするとコレクションと支援ができます。


携帯アクセス解析
(c)2018 - tinamini.com