真・恋姫無双 魏アフター 簡雍伝 第三幕
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俺が劉玄徳を支えると決めたあの月のない夜・・・。

 

俺はその足で村長の家を訪ねた。

 

「名を秘する必要があるというのですか?」

 

村長のその言葉に俺は無言で頷いた。

 

「俺の名前は人に知られてはいけない・・・そう思うんです。」

 

「ふむ・・・。」

 

「だからこそ、俺の本当の名前『北郷一刀』はこの国から俺が居なくなるその日まで村長に預かって欲しいんです。」

 

村長は重々しく頷くと

 

「確かに・・・二文字姓、二文字名というのは少なくとも私は聞いた事がありませんな。おまけに字もないとくると・・・。」

 

「はい、この先何があるか判らないので不安材料を一つでも少なくするために、俺は本名を隠し偽名を名乗りたいと思っています。」

 

「なんと言う名を名乗るおつもりですかな?」

 

ずっと気になっていた事がある、劉玄徳の側にいるはずべきで前の世界では聞いた事が無かった名前だ・・・。

 

劉備には関羽と張飛がつきものだが・・・この人物も同じように劉備の側に居たはずなのに。

 

もし彼もしくは彼女がこの世界にはいないのであれば、彼女を支えるのにこれ以上の名前はないとさえ思える程だ。

 

これは俺の覚悟・・・この先何があっても劉玄徳を支えると決めた俺の。

 

「同じ名前の人が村にいるようなら変えなければいけませんので・・・遠慮なく仰ってください。」

 

「姓は簡 名は雍 字を憲和 真名は俺の名前の「一刀」を一つにして刃(じん)・・・そう名乗りたいと思っています。」

 

そう・・・最期の時がくるその日まで。

 

 

 

真・恋姫無双 魏アフター 簡雍伝 第三幕 劉元起現る

 

 

村で暮らし初めて数ヶ月が過ぎた、俺は村で暮らし始めると同時に名を改めた。

 

今の俺は簡憲和であり楼桑村の一住人であり、劉備の義兄でもある。

 

阿備と義兄弟の契りを交わす際にお互いの真名を交換している。

 

俺は阿備に真名である刃(じん)を、阿備は俺に真名である桃香を・・・。

 

阿備こと桃香は日に日に元気を取り戻していき、今ではほとんど両親が居た頃と変わらない程に

 

回復したと近所の人達は言う。

 

俺のおかげだろうと皆は言ってくれるが俺は知っている。

 

彼女の心がそんなに弱くないことを、きっと一人でも立ち直っただろうと言う事すらも。

 

それでも俺を義兄と慕ってくれる幼い義妹に俺はこの世界で始めての家族を手に入れた気がしていた。

 

日々一緒に畑仕事をし、筵や草履を作り、共に休む・・・俺達は本当の家族のように毎日を過ごしていた。

 

そんなある日、俺達はいつも通り畑仕事をしていた。

 

そんな俺達の前に現れた、楽しげに桃香を呼ぶ一人の女性を見たとき俺はあまりの驚きに固まってしまったのだ・・・。

 

そこにいた女性は俺の記憶にある劉玄徳と瓜二つの姿だったから。

 

「あ!!桃香ちゃーーーーん!会いたかったわー」

 

「え?あ・・・璃音おばさん?」

 

桃香の姿を確認するや否や突如突撃してその身を抱きしめたのだ・・・。

 

俺の記憶にある優しき王『劉玄徳』

 

彼女にそっくりなこの女性・・・姓を劉 名を玲(れい) 字を元起という。

 

劉玄徳の伯母(史実で叔父らしい)であり。

 

史実でも劉玄徳の才に惚れさまざまな支援をした一人『劉元起』その人であった。

 

まあ当然のごとく女性であるが・・・。

 

久方ぶりに現実の知識と目の前の現実のギャップに俺は眩暈を感じていた。

 

 

 

劉元起の登場により畑仕事を中断し俺達は共に家に戻ってきていた。

 

なんでも桃香に良い話があるとのことで取るものを取らずこの村まで駆けつけてきたらしい。

 

「・・・私塾ですか?」

 

「ええ、そうなの同郷の知り合いに高名な儒学者がいてね。彼女が私塾を開くらしいのよ」

 

お茶を啜りながら笑顔で俺達の前に来た理由を説明してくれる。

 

俺はそれを聞きながら三国志の知識を思い出していた。

 

 

これって・・・もしかして『盧子幹』の私塾に劉備が入る件(くだり)か?

 

だけどあれって劉備が15、6の時の話だったような・・・。

 

まあそこはこの世界の事だし気にしたらいけないとこなのか・・・。

 

それに今元起さん彼女って言ってたよな・・・やっぱ魯子幹も女性なのか・・・・・・・。

 

俺は二人に気付かれないようにそっと溜め息を吐いた。

 

盧子幹 姓は盧 名は植 字が子幹 史実では高名な儒学者であり黄巾賊との戦いでは

 

都から来た宦官からの賄賂の要求を断り更迭された不遇の人でもある。

 

渋る桃香に困ったのか俺に話題を振ってくる元起さん。

 

「憲和さんはどう思いますか?」

 

考えに耽ってた俺に突然話を振ってくる元起さん。

 

桃香は少し困ったような顔をしている。

 

なんとなくだが桃香が悩んでる理由の一端が分かる。

 

「元起さん、俺達はあまりお金がないのですが・・・私塾というとそれなりに額がかかるんじゃないですか?」

 

俺の助け船というか、質問にコクコクと頷く桃香

 

「あらーそこは気にしなくていいわよ?うちの璃華・・・徳謀と一緒にお金はうちで出すわ。」

 

俺は桃香の顔をじっと見た。

 

これからの事・・・即ち、桃香が立志したときの事を考えればここで断るのはナンセンスだ。

 

おそらくこの私塾で公孫伯珪と出会うであろうことを考えれば俺の答えは一つだった。

 

「桃香・・・今の時代勉強ができるというのは素晴らしいことだ。俺でもある程度は教えられるけど、高名な先生が教えてくれるという話だし、一番悩みどころの費用も持ってくれると言ってくれている。俺は行ったほうがいいと思う。」

 

「叔母さん、本当にいいの?」

 

にっこりと笑いながら頷く元起さん、なんというかこの笑顔を見ると血が繋がっているんだなと思う。

 

元起さんに上目遣いで確認を取った後俺の方に目を向けてくる。

 

「義兄さま・・・。いなくなったり・・・しない?」

 

俺は桃香を安心させるように笑顔で答えた。

 

「当たり前だろ。学ぶ事も大事だけど、むしろこの村以外の友達を作る事の方が大切だ。楽しんでこい」

 

 

その日の夜・・・桃香が懇願して元起さんはうちに泊まる事になった。

 

桃香は私塾に通えるという嬉しさと久しぶりに血の繋がる親戚に会えたことで、興奮して疲れたのだろう。

 

早々に眠りについた。俺はといえば元起さんからのお誘いを受け、歓談をしながら二人で飲んでいた。

 

「憲和くん・・・本当にありがとうね。」

 

「元起さん?」

 

「姉さん達がなくなった後のあの子は本当に見ていられなかったわ・・・。私も家庭のある身だし・・・。住んでる場所も遠い、毎回家を開けて様子を見にくるわけにもいかなくてね・・・。」

 

そう言って杯を傾ける。

 

「村長さんから連絡はもらっていたのでだけど、久しぶりにみたあの子は昔のような明るい子に戻っていて・・・。本当になんとお礼を言っていいのか。」

 

そう言って佇まいを直すとふかぶかとお辞儀をした。その姿は不思議と気品があり・・・。

 

この人もまた漢の王室の血を引く人なのだと・・・なんとなく実感させられた。

 

「それにしても・・・」

 

口元を手で隠して上品に笑う元起さん。

 

「高名な儒学者の私塾で「友達を作れ」なんて、中々あなたも変わった人ね。」

 

変なところをつっこまれて俺は狼狽する。

 

「え?それって変なことでしたか?」

 

「いいえ・・・でも、普通の人は言わないですよ。しっかり勉強して偉くなりなさいとは言うでしょうけどね」

 

俺の顔を見据える元起さんの目はとても澄んでいて。

 

「どこまで先を見据えているのかしら・・・貴方は。」

 

そこまで言うと首を小さく左右に振る

 

「いえ、なんでもないわ。さあ憲和くん飲みましょう!」

 

と俺の杯に酒を入れてくる。

 

「いや・・・俺あまり飲めないんで・・・。」

 

「何よ!おばさんの酌は受けられないとでもいうの?やっぱり若い子がいいのね・・・。」

 

あまりの言葉に俺は吹き出してしまう。

 

「い・・・いやそういうわけじゃなくてですね・・。」

 

「いいのよいいのよ・・・でもねおばさんには若い子にない味ってものがあるのよ・・・。」

 

この人・・・酔ってるな。絡み酒かよ性質悪りいな・・・おい。

 

というか・・・この世界の女の人ってどうなってるんだろうな。前の世界の黄漢升さんとか

 

黄公覆さんとか・・・。目の前のこの人もだけど・・・歳取らない呪いでもかけられてるのか?

 

気付けば安らかな寝息を立てて眠っている元起さんが居た。俺はそっと上掛けをかけて

 

自分の席に戻って、杯に残っていたお酒をクイっと飲む。

 

「俺は桃香の行く道を支える、ただそれだけです。それこそが俺がここに居る意味なんですよ。」

 

俺は先の答えを人知れず口にしていた。

 

 

 

次の日・・・俺は頭痛のする頭で元起さんを見送っていた。

 

「義兄さま・・・。璃音叔母さん・・・。」

 

じとっとした目で俺達を睨みつけてくる桃香から目を逸らして元起さんに話しかける。

 

「で・・・では準備が出来たら、桃香とともに一度そちらに伺います。・・・・あたた」

 

「え・・・ええ、楽しみ待ってるわ。その時に娘も紹介するから仲良くしてあげてね。いたた・・・。」

 

二人して頭を抑える様を溜め息を吐きつつ呆れ顔で見る桃香。

 

こうして・・・『劉玄徳が盧子幹の私塾に通う。』という言って見れば前半の山場のラストは

 

俺と元起さんの二日酔いの頭痛で苦しむ様子という締まらない結末を迎えたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

説明
うがー 学生時代から離れるとこうも台詞の言い回しや文章の構成ができなくなるのかとなきたくなるようです・・・。

おそらく何回も文章を変更するかもしれません。
内容自体は変えませんが、文章の言い回しひとつで印象が
がらっと変わってしまうので・・・。すいませんが
ご了承ください。

話は変わりますが、お気に入り登録してくださってる皆様
ありがとうございます。楽しんでくださっている方がいるのは
書き手にとっても励みになるんだな・・・と実感しておりまする。

では第三話 お楽しみください。

オリジナルの人物は出さないでいこうと思っていたのですが
話の進行上どうしても出す必要のある人がいることに気付きました
今回は名前で2名、本人登場で1名です。
史実でも演義でも名が無い人なので名は勝手につけさせてもらいました。


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コメント
mr.ハリマエさん コメントありがとうです。 そう思ってもらえると嬉しいです次ぎの展開はちょっとマジメすぎるので息抜きですw(ぺりおん)
なんとも締まらない見送り・・・・・(黄昏☆ハリマエ)
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簡雍 恋姫†無双 魏アフター 真・恋姫無双 

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