魔法少女リリカルなのは 〜英雄の魂を持つ者〜 第02話『邪悪の胎動、影となる力』
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???SIDE

 

善と悪、光と闇、それらは常に一対の関係にある。

 

もし、ソウマがスーパー戦隊の力を手にしたのが一つの必然だと言うのなら、その力を必要とする理由が存在するのもまた必然と言えるだろう。

 

暗い闇の中で蠢く無数の異形の影達。彼らが目撃しているのは、ゴーカイレッドに変身して戦うソウマの姿だ。

 

それには何の反応も示さない。だが、ゴーカイレッドがマジレッドに変身した瞬間、影の中の一部が蠢き驚愕を浮かべる。

 

次にシンケンレッドに変身した瞬間、驚愕を浮かべる影の中で唯一歓喜の感情を示したものが居る。

 

最後に映し出された姿ゲキレッドの姿には、驚きは僅かに見せたものの、それは愉悦に染まっていた。

 

生き物とは見えない影達の前に一つの青い宝石…ジュエルシードが表れると影の中の一部が人形の様な形に変わりジュエルシードを中心に集まると、四つの人の姿をした異形の怪物達へと変わる。

 

それを見た影の中に存在する無数の影達は彼らへと手を伸ばすが、現れた怪人達の中の蝙蝠の様な姿の異形の怪人が手を伸ばして制すと、二・三言葉を交わして説得されたのか影は動きを止めた。

 

蝙蝠の様な怪人が他の三人の怪人達に向き直ると、それぞれへと指示を出す様に言葉を交わす。

 

刀を持った異形の影は人間の姿に変わり立ち去って行き、扇を持ったミイラの様な異形の怪人は魔法陣の中に消え、青い甲冑を纏った青い怪人はその忍者の様な姿に似合う動きで姿を消した。

 

 

SIDE OUT

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ソウマSIDE

 

(…なんでこんな状況に?)

 

そう思わずには居られない。流石に居間とか家族の居る場所でジュエルシードの事を話すわけは行かないのは分かるけど………行き成り女の子の部屋に上がる事になるとは夢にも思わなかったりするソウマでした。

 

その事で動揺していたせいで幾つかのレンジャーキーの発していた警告に気付けずに居たのだが、今の段階でその警告はそれほど大きな意味を持たないであろう事は幸いだろう。…気付いた所で対策など取れないだろうから…。

 

まあ、それは良いとして…フェレット姿のユーノが居るから完全に二人きりではないが、それでも流石にこんな状況には慣れていない…。その為に話題が思い浮かばず妙な沈黙が支配してしまう…。

 

その空気を読んでくれたのか、ユーノが詳しい事情を改めて説明してくれた。主にジュエルシードと言うとんでもない代物を発見したユーノがそれを安全に保管してくれる組織に販売と言う形で預け、それを届けている最中の輸送船に事故が起こり、海鳴市にばら撒かれたそうだ。

 

しかも、全部でジュエルシードは21個有り、少なくとも手元にある物以外にあと19個程存在していると言う。

 

「なあ、ユーノ…。その遺跡には『実はまだジュエルシードは沢山有りました』なんて言う嫌過ぎるオチは無いよな?」

 

「い、いやな事言わないでよ…ちょっとだけ想像しちゃったじゃないか。」

 

「…全面的にオレが悪かった。すまん。」

 

大量に発見されると言う恐ろしい光景を思わず想像してしまうが、何故かそれは………『プレシャス』の山にしか見えないのが不思議だろう。ボウケンジャーの力はまだ持って居ないと言うのに。

 

「それで…願いを叶えるって言う大量破壊兵器にしか思えない『劣化宇宙妖精』がばら撒かれた訳か…。」

 

「そうなんだ。それでぼくは…って、その『劣化宇宙妖精』って何!?」

 

「宇宙妖精ってなんなの?」

 

「…スーパー戦隊の世界に居た、どんな願いでも五つだけ叶えてくれる力を持った宇宙の妖精だ。付け加えると生き物だ。」

 

「えっと…なんでジュエルシードは『劣化』なの?」

 

なのはの疑問の声にソウマは、

 

「宇宙妖精の方は五回だけって数は限られているけど…『どんな願いでも』、『正確に』叶えてくれるんだ。」

 

「そんな!? ジュエルシードには願いには問題が有るのに。それに…どんな願いでもって…。」

 

「そう。カツ丼が食べたいって願えばカツ丼を出してくれたり、強力な兵器が欲しいって言えば星一つ破壊できる兵器を出してくれたり、果ては死者さえ生き返らせてくれる。付け加えるなら、ジュエルシードの様に暴走する危険も無い。」

 

思わずその説明にユーノとなのはは言葉を失ってしまう。特に呆然としているのはユーノの方だ。

 

「そんな!? それじゃ、願い方によってはジュエルシードなんかより何倍も危険じゃないか!?」

 

「そうだな。実際、その宇宙妖精を巡る戦いは…メガレンジャーとカーレンジャー…二つのスーパー戦隊が力を合わせて戦った戦いの一つだからな。」

 

ソウマはそう言って取り出した『メガレッド』と『レッドレーサー』のレンジャーキーを取り出してみせる。

 

「まあ、こっちには無いだろうから、心配ないだろうし…願い方にも方法が有るから、それを知らない限り安全だからさ。宇宙妖精のピコットは性質的にはもっと大人しいし。」

 

「うん。でも、ちょっとだけ会ってみたいな、妖精さんに。」

 

そう言ってなのはは目を輝かせてソウマの話を聞いていた。さて、改めておやつを食べたら残りのジュエルシードを探しに行こうと言っているなのはをソウマは押し留める。

 

一度戦った後に碌に休まずに動く等疲労を貯めるだけだ。また発動する危険もあるが、それ以上に発動した場合に疲労で動けないと言う自体を避ける為に、最低でもジュエルシードを一つでも封印した後は必ず休む事を約束させた。

 

「でも…。」

 

「疲れを残して失敗しました。って言う訳には行かないだろう。オレ達は失敗できないんだからな。休むのは大事だ。」

 

「うん、ソウマ君が言うなら。」

 

「…スーパー戦隊の一つに『探索』に優れた武器を持っている人が居るから、その人の力が使えるようになれば…探すのも楽になるから。」

 

その言葉の中に有る『眩き冒険者』の力は使える所か、まだそのレンジャーキーすら持っていないのだ。何故か手持ちのレンジャーキーの中には『追加戦士』のレンジャーキーが存在していなかったのだ。

 

ソウマの言葉もそれほど抵抗なく受け入れてくれた。さっきの今だ、疲れる事はなるべく遠慮したかったのだろう。

 

だが、先ほど考えた様に冒険者の力が有れば話は別だがこの先は足で探して、最悪は後手に廻って被害を最小限に抑えるしかないのだ。

 

(…真っ先に貸して欲しかった気もするけどな…。)

 

ふと、『ボウケンレッド』のレンジャーキーを取り出して視線を向けながらそんな事を思う。

 

「ねえ、連絡出来るように携帯番号とメアド交換しよう。」

 

「ああ、そうだな。」

 

なのはの言葉にソウマはモバイレーツを取り出すが、なのはとユーノの視線がソウマの持っているモバイレーツに集まる。

 

「それって、君があの姿に変身するのに使った…。」

 

「ああ。電話でも有るんだよ、これは。」

 

…なのはと携帯番号とメアドを交換しながら、ソウマは二人の視線が尚もモバイレーツに集まっているのに気付く。

 

「……あー……良かったら、この事件の間だけ使うか?」

 

そう言ってソウマは予備のつもりで持っていたモバイレーツを取り出してなのはへと手渡す。

 

「えぇ、良いの!?」

 

「まあ、レンジャーキーが無きゃ変身出来ないしな。」

 

そう言ってモバイレーツを渡すと、

 

「でも、なるべくだったら、オレへの連絡はモバイレーツか念話とか言う方法の方が良いだろうな。モバイレーツなら高町の携帯の履歴にも残らないし、念話なら何かしながらでも連絡し易いだろう。」

 

そう言って笑顔を浮かべながら、

 

「まあ、正義の味方は………人も知らず、世も知らず、影となって。って言うしな。」

 

何故か頭の中に浮かんできた言葉を告げて会話を切り上げた。

 

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ソウマSIDE

 

 

彼の住居であるゴーカイガレオンの甲板で無言のままソウマはゴーカイサーベルを使った素振りを続けていた。

 

「九十九、百っ。」

 

素振りを終わらせると腕のリストバンドに入れていた鉄板を更に追加する。

 

「そろそろ、この錘にも慣れてきたな…。」

 

鉄板を全て入れても十分に自由に動けるほどの重量に対してそんな感想を零しながら、ソウマは甲板に腰を下ろすと近くにおいてあったペットボトルに入ったスポーツドリンクを一口飲むともう一度素振りを始める。

 

戦い方はレンジャーキーが教えてくれるが、問題はレンジャーキーの伝えてくれた戦い方を自分が何処まで再現できるかと言う一点に有る。

 

意を決してレンジャーキーをモバイレーツに差し込む、

 

「豪快チェンジ!」

 

『ゴーカイジャー!』

『シーンケンジャー!』

『マージレンジャー!』

『ゲーキレンジャー!』

 

最初はゴーカイレッドに変身、続いてシンケンレッド、マジレッド、ゲキレッドに変身してそれぞれの力を使ってのトレーニングを始める。

 

ソウマは単なるレンジャーキーの教えてくれる戦い方ができるだけの素人だ。今までの相手がレンジャーキーの与えてくれる知識の中にあるスーパー戦隊が戦ってきた敵達よりも、遥かに弱い相手だったからこそ素人のソウマでも十分に戦う事が出来た。

 

…もっとも、ソウマがやってきた事は主になのはが封印するまで相手を弱らせていただけだが。

 

だが、これからもそれが続くとは限らない。《チーム》が力を合わせ、その真価を発揮する《スーパー戦隊》…今ソウマが発揮できるのは、スーパー戦隊の真価とは程遠い《個人》の力でしかない。

 

「ここまでは良いか。」

 

新たに『ゴセイレッド』のレンジャーキーを取り出し、それをモバイレーツに差し込むのだが、

 

「ふう…やっぱり反応無しか。」

 

想像の範疇だったが、今まで変身できたレンジャーキーとは違い、ゴセイジャーのレンジャーキーは一切の反応を示さなかった。

真価を発揮できない個の力しかないから、寧ろ使える力の幅は多い方が良かったのだが、仕方ないと心の何処かで割り切っている。手を伸ばせば直ぐ近くにあると言うのに力が誓え無い。

焦りこそしていないが、それでも不安には思う…。

 

変身を解除してトレーニングを止めるとタオルを取り出して汗を拭いながら、雲一つ無い空(上空に有るから当然と言えば当然だが)を見上げる。

 

「…学校とかってどうしよう?」

 

今更ながら切実な悩みだった。

ゴーカイガレオンにはある程度の金銭も有る為、住む場所にも生活費にも暫くは困っていないが、家族と住んでいた家を失っている為に学校に行く事ができない現状を如何するべきかと考え込んでしまう。

 

「…考えても仕方ないか。」

 

が、考えるだけ無駄だと判断する。幾度と無く此処とは違う世界を救ってきた英雄達の力は有っても所詮は小学生の身の上だ。

まあ、その事は今回のジュエルシードの一件が終わってからでもゆっくりと考えればいいだろう。

 

ソウマがそんな事を考えているとモバイレーツが着信音を鳴らす。…現状でモバイレーツに連絡が来るのは、ソウマ以外ではなのは達だけなのだから、連絡して来たのは誰なのかは考えるまでも無いだろう。

 

それに気が付いてモバイレーツに出ると連絡して来たのはと当然ながらなのはだった。用件は先日のプールに誘われた時の事だろう。

 

ソウマとしては断るつもりだったが、結局なのはに押し切られる形で彼女の友達と一緒にプールに行く事になった。

 

 

SIDE OUT

 

 

 

 

 

 

 

 

 

???SIDE

 

 

「ここか?」

 

人影が暗い何処かの機関室の様な場所に姿を現す。その人影は薄っすらとしていて、幽霊と見間違えてしまうだろう。いや、それの在り方を考えれば幽霊と考えても間違いは無いだろう。

 

今までのジュエルシードの暴走によって誕生した敵とは異質な青い甲冑を前進に纏った忍者の様な姿の『怪人』。

その怪人の名は、かつて34のスーパー戦隊の一つ『轟々戦隊ボウケンジャー』が命がけで戦い倒した強敵達の一人、ネガティブシンジケートの一つ『闇の衆』の幹部にして裏切り者、『闇のヤイバ』。

 

ジュエルシードの一つを媒介に不完全ながら実態を得る事に成功した34のスーパー戦隊に敗れた幾つかの悪の魂の怨念達は、こうして完全に蘇る為に他のジュエルシードを求めて表向きは協力して動いていた。その中の一人が闇のヤイバだ。

 

「くっ。」

 

そして、闇のヤイバは自分の目の前にあるジュエルシードに触れようとするが、触れても持ち上げる事は出来ずに、すり抜けてしまう。それに対して未だ完全に復活していない自分の体が忌々しいと言いたげな様子で悔しげな声を上げる。

 

 

SIDE OUT

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ソウマSIDE

 

「何だ、これ?」

 

なのは達とはプールで待ち合わせと言う事になり、プールに行く支度をしていると妙な物を見つけてしまい思わずそんな声を出してしまう。

 

レンジャーキーの入った宝箱と、なのは達に渡した物と自分用の物、予備に持っていく物を除いた二つのモバイレーツと残りのゴーカイジャーのレンジャーキーが四つ。………ここまでは良い。

 

現在は床に転がっている、新たに発見した機能停止した様に動かない“機械仕掛けの鳥”が出てきたのだ。

 

それを起動させる為に調べるべきか、そのまま放って置くべきが悩むが…

 

「…今は放って置くか…。」

 

それを眺めながら僅かに考え込むとそう結論付ける。態々用事が有る時に変に時間をかける事も無いだろう。

 

そう結論に至ると、そのまま床に転がして置くのも可哀想だと思い、他の四つのレンジャーキーや宝箱、二つのモバイレーツの近くに立たせておくと、振り向いて部屋を出て行く。

 

何故か聞き慣れた声で『酷いよー』等と言う言葉が聞こえた気もしたが、それは気のせいだと切り捨てる。

 

実際、ゴーカイガレオンにはソウマ一人しか居ないのだし、多分それは気のせいなのだろう。…その声の主は現在進行形で機能停止しているのだし…。

 

荷物を入れたリュックを背負ってソウマは自宅(ゴーカイガレオン)を後にする。

 

 

 

数分後…

 

 

 

態々ゴーカイガレオンをなのは達との待ち合わせ場所のプールの近くまで向かわせた上で、人気(ひとけ)の無い所で降りて僅かに徒歩で移動…。この方法ならばある意味、日本全国何処にでも一日で日帰りが出来そうなのだが(最も、ゴーカイガレオンが自宅なので家毎移動している様な物なのだが)、それはそれ。

 

幸いにも待ち合わせの相手であるなのは達よりも先に着けたのは、ゴーカイガレオンを交通手段に使った甲斐が有った。…仮にも宇宙船のゴーカイガレオンを交通手段にした移動と言うのもある意味では豪華すぎる気もするが。

 

「あっ、ソウマくん。」

 

待ち合わせ場所の壁に背中を預けて暫く待っているとなのはを含めた三人の人影が近づいてくる。

 

「おっ、来たな。今日は混ぜて貰ってありがとう。オレは大海ソウマ、始めまして。」

 

「はじめまして、 私は『月村すずか』。よろしくね?」

 

「私は『アリサ・バニングス』、よろしく。」

 

そう言って挨拶と自己紹介を交わす。

 

 

ソウマはまだ気付かない。楽しい休日となるはずの場所で出会う事になる己の背負った魂の宿敵達の存在を。

 

今はまだ、知らない。この世界に蠢く…悪の怨念達の存在が直ぐ近くに迫っている事に。

 

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ユーノSIDE

 

 

 

『気を付けろよ、なんか…ジュエルシードなんか比べ物にならないほど危険な何かが有る気がする』

 

そんなソウマの忠告と共にプールで遊んでいる時にジュエルシードの魔力を感じ取ったユーノは一人、焦りながらプールサイドを走っていた。

 

スーパー戦隊の力に触れているソウマだからこそ、完全に復活していない為に微かにしか感知できなかったそれを感じ取る事が出来たのかもしれない。そう、ジュエルシードを狙う悪の怨念達の存在に。

 

(魔力は感じるんだけど、大まかな感覚しか感知できない。何かに妨害されている気分だ)

 

直感的にユーノもそう感じ取るが、それも間違いではないだろう。不完全な形とは言え悪の怨念達が復活できたのは、奴らの元に落ちたジュエルシードが原因なのだから、ある意味ではジュエルシードの魔力を発生させていると言っても過言ではないだろう。

 

その悪の怨念達が探し回った事で彼らが持っているジュエルシードの魔力の残滓が周囲に漂っているのが、ユーノの感覚を妨害しているのだろう。

 

そんな時ユーノの視界の中に、薄っすらとした見た事も無い蒼い甲冑を夏だと言うのに着込んでいる人影が映る。

 

(今のって)

 

幽霊の様な印象を与える不審な人影を見て、一瞬は見間違いかとも思ったがその人影の元に残滓が漂っている事が気になって後を追いかけていく。

 

(どうしよう、なのは達に…せめて、ソウマにだけでも知らせるべきかな?)

 

直感的にその幽霊の様な人影の事はソウマに伝えなければならないと無意識の内で感じ取っていたのだろう、ユーノはそう考えるが、

 

(って、ダメだダメだ! ただでさえ、巻き込んだ形で手伝って貰ってるんだ。せめて探索(これ)くらいは僕の手でやり遂げないと。封印や戦いはなのは達に任せちゃうけど、だからこそ、それ以外の部分で僕は二人を助けないと)

 

そんな事を考えながらユーノはその蒼い人影、『闇のヤイバ』を追いかけていった。まあ、一時間以内に自分の決断を後悔する事になるのだが…何も知らなかったユーノには罪は無いだろう。………多分。

 

正しく言えば、ソウマにとってかつてのスーパー戦隊達が戦った悪の組織の幹部達の恐ろしさはユーノよりも知っているが、それは結局の所は知識としてだけだ。真の意味で理解しているとは言えないだろう。

 

半透明の闇のヤイバはそんなユーノの存在を………気付いているのか、気付いていないのか、『気にするほどの相手ではない』と無視しているだけなのかは解らないが、更衣室の方へと進んでいく。

 

ユーノは何とか闇のヤイバの纏っている残滓を追いかけて辛うじて見失わない様にするのがやっとだ。

 

そして、姿を見失い残滓を追いかけていると誰かの悲鳴が響く。声音から考えてその人物は男…ユーノがその声の聞こえた方へ走ると、半透明の闇のヤイバは倒れている男に吸い込まれる様に消えていく。

 

(っ!?)

 

相手に気付かれない様に声を殺しながら心の中で驚愕の声を上げるユーノを嘲笑う様に、男はいつの間にかその場から姿を消していた。

 

(居ない!? そんな、魔法を使った様な様子なんて無かったのに)

 

それもそうだろう。闇のヤイバの使うそれは『忍術』に分類される魔法とは異質な力に当たる。

 

(っ!?)

 

慌てて見失った男を捜そうとした瞬間、ユーノの毛並みが逆立つ。何処に居ても解るほどの魔力が一気に噴出している。

 

(…ジュエルシードが発動しようとしている!? そんな、なんて…)

 

それは今まで感じた事の無いほどに、まるで心臓を鷲掴みにされるかの様な…『邪悪』な魔力。一人で居る事が心細く感じるほど、一刻も早くその場所から逃げ出したくなるほどの。

 

(い、急いでなのは達に知らせないと…)

 

勇気を奮い立たせながら少しでも前に進もうとした瞬間、ユーノの足が何かに触れる。

 

(これって?)

 

そこには微かな光を放って自分の存在を教えていた赤い人形の様な物…ゴーカイレッドのレンジャーキーが落ちていた。

 

(そうだ!? ソウマにこれを届けないと!)

 

そこには、プールの中には持ち込めない為に更衣室に置いて行くしかなかったソウマのゴーカイレッドのレンジャーキーとモバイレーツが入れてあった袋と共に床に落ちていた。

他にもプールに客の貴重品らしき財布等が転がっているが、その中から慌ててモバイレーツとレンジャーキーを袋に詰めなおして、来た道を戻る。

 

レンジャーキーに触れていると先ほどまで感じていた『邪悪』な魔力への恐怖心から開放された様な感覚を覚える。そして、誰かが自分の行動を正しいと言う様に頷きながら見守ってくれている様にも感じた。

 

(もしかしたら、これがソウマの言っていた、レンジャーキーに宿ってるって言う、スーパー戦隊の意思なのかな?)

 

 

 

SIDE OUT

 

 

 

 

 

 

 

 

ソウマSIDE

 

 

 

(ふぅ〜、ユーノの奴大丈夫か?)

 

力を抜いてプールに浮かびながら太陽が燦々と輝く青空を見上げながらそんな事を思う。ジュエルシードがこの場所にある事に気が付き、それを単独で探しに行ったユーノの事が流石に心配になる。自分も一緒に行こうかと言ったのだが、それは断られた。

 

(ったく、遊びに来てジュエルシードが見つかるなんて、運が良いのか悪いのか解らないな)

 

そう思わずには居られないが、少なくとも余計な被害が出る前に素早く対応できる分だけ幸運(ラッキー)だと考える事にする。心境的にそう考えなければやっていられない。

 

(ボウケンジャーの力が使えれば…一番効率的なんだろうけどな…)

 

何度目かは解らない…未だに力を貸してくれない、今現在求めている力を持ったスーパー戦隊の事を考えてしまう。

 

『プレシャス』と『ロストロギア』…呼び名は違っても現代の技術では再現不可能な代物を探し出す冒険者達の力、それが使えれば間違いなくジュエルシードの探索は楽になるのだろう。だが、残念ながら『轟々戦隊ボウケンジャー』のレンジャーキーは未だに力を貸してくれる兆候さえ見せない。

 

そんな事を考えているとびくりと身体を震わせているなのはの姿を視界に入れた瞬間、はっきりと感じ取れる魔力…恐らくはジュエルシードの発動。だが、

 

(…なんだ…この妙な禍々しさは?)

 

ジュエルシードの魔力に混ざり合いながら、背筋が寒くなるほどの禍々しい魔力を感じる。ジュエルシードの魔力が強大ではあっても何も無い無色のエネルギーだとすれば、その禍々しい魔力はレンジャーキーから感じる物とは別の負(マイナス)のエネルギーと言える。

 

それは…ジュエルシードに規模こそ劣っているが、間違いなくその魔力の持ち主の方が何倍も恐ろしい。

 

《なのは、ソウマ! ジュエルシードだ、直ぐに戦闘の準備を!》

 

そんな事を考えているとユーノからの念話が響く。ソウマは一度更衣室に戻ってレンジャーキーとモバイレーツを取ってくる必要が有るが、なのははレイジングハートを取り出してプールから上がっている。

 

《分かったよ、ユーノ君! とにかく直ぐそっちに行くから!!!》

 

「あー、オレは更衣室に戻ってレンジャーキーを持ってくる必要が有るから、直ぐには無理だな」

 

「あっ、そっか」

 

なのはに近づいて小声でそう話す。念話を受け取る事はできても、どうしても話す事は苦手だ。

何故かマジレンジャーに変身している状態なら念話は自由に使えるが。流石は『魔法戦隊』を名乗るだけの魔法使いのスーパー戦隊、異質な魔法でも簡単な物なら自由に扱えると言う事だろう。

 

《ソウマ、君のレンジャーキーとモバイレーツだっけ? 今それを持ってそっちに向かってるから、ぼくと合流してくれれば》

 

(ナイスサポート!)「よし、それなら急いで封印しよう」

 

思わず心の中でそう叫ぶ。これでユーノと合流するだけで変身できる。そう考えてなのはにそう言うと彼女は無言で頷いてソウマを先導する様に走り出す。

 

 

 

SIDE OUT

 

 

 

 

 

 

 

 

???SIDE

 

 

 

「やっとだな」

 

男がジュエルシードに触れた事でジュエルシードが発動する。だが、それは完全には発動せず、魔力の幾分かが男の体に…いや、男を操っている物の中に飲み込まれていく。

 

「ふふふ…」

 

力なく倒れる男に対して、ジュエルシードは透明な人影の掌の上で尚も発動を続けている。そして、暫くそれが続くと半透明な男の体は実態を取り戻していく。

 

「まだ完全と言う訳ではないか」

 

感覚を確かめる様に何度も手を開いては閉じる事を繰り返してそう呟く、蒼い忍者の様な怪人。未だに完全な復活と言う訳には行かず、スーパー戦隊と戦っていた時の力には程遠い。だが、それでも…長い時を経て、やっとこうして実態を得る事が出来たのだから、その喜びは大きいだろう。その声は無感情と言う物を感じさせながら、同時に歓喜の感情を感じさせている。

 

ここに、『闇のヤイバ』と言う悪の怨念は再び復活したのだった。

 

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SIDE OUT

 

 

「ソウマ、持って来たよ!」

 

「サンキュー」

 

そう言ってソウマはユーノからレンジャーキーとモバイレーツを受け取る。なのはのそれとは違って携帯には不便だと改めて感じずには居られない。

 

ユーノの案内の元にジュエルシードの有るらしいボイラー室に着いた訳なのだが、

 

「「「あれ?」」」

 

思わずジュエルシード所か何も無いボイラー室に声を揃えて呆けた声を上げてしまう。

 

「何も無いね」

 

「何も無いな」

 

「倒れてる人は要るけど…」

 

「人って…結界とかって張らなかったのか?」

 

「ゴメン、その事なんだけど、咄嗟だったのと範囲が広すぎたせいで広域結界で空間取り損ねちゃって」

 

「…悪い、分かり易く言ってくれ」

 

「うん、分かり易く言うと……。ここには、まだ人が残っているんだ。だから、急いでジュエルシードを探さないと」

 

「っ!? 大問題だな、それ」

 

警戒してやってきたのに何も無かったと言う状況に緊張感の無い会話を交わしていた三人だが、そのユーノの言葉で空気が変わる。完全に大勢の人が隔離したはずの空間に取り残されている事になっている。

 

「くっ! ボウケンジャーの力が使えていれば…」

 

未だにその力が使えない事を悔やまずには居られない。プレシャス(ロストロギア)の回収にはボウケンジャーの力がどれだけ最適だろうが使えなければ何も意味が無い。

 

「っ!? 今のは…?」

 

そんな事を考えていると感じ取る背筋が寒くなる様な嫌な感覚、その感覚を覚えると同時に手の中にあるレンジャーキーが警告を発する様に輝く。

 

「しまった! 反応がプールの方に!?」

 

「…完全に入れ違いかよ。それにあっちには」

 

「どう、しよう……どうしよう、どうしよう。あっち、あっちのプールにはアリサちゃんとすずかちゃん、それに遊びに来てたお客さんだって、たくさん……」

 

「急ぐしかない! 豪快チェンジ!」

 

『ゴーカイジャー!』

 

他の一般人や友達を巻き込んだせいで、真っ青な顔で泣きそうになっているなのはにそう言ってソウマはモバイレーツにレンジャーキーを刺し込み、ゴーカイレッドに変身する。

 

「迷うよりも先にする事が有るだろう?」

 

レイジングハートを強く握り締めすぎて、手が赤くなっているなのはを励ます様にそう告げると、ゴーカイレッドはなのはの手を取ってボイラー室を飛び出していく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気を引き締めなおしてゴーカイレッドとBJ姿のなのは達がボイラー室を出てプルーサイドへと向かうと、そこには、

 

「えっと、これって…」

 

「なあ…これって、お前の結界の影響か? それとも…ジュエルシードの影響なのか?」

 

「多分、ジュエルシードの影響だと思うけど…」

 

プールから出現した頭と思われる辺りに発動したジュエルシードが有る巨大なスライムが何をするでもなく蠢いていて、お客さん達やプールのスタッフは意識を失って倒れていた。それがジュエルシードの影響なのか、ユーノの魔法の効果なのかは分からないが、

 

「まあ、さっさと封印すれば良いだけの話だ」

 

「うん」

 

なのは達にそう言ってゴーカイサーベルとゴーカイレッドのレンジャーキーを取り出し、それをゴーカイサーベルに差し込もうとした瞬間、

 

「っ!? 危ない!!!」

 

慌ててなのは達を突き飛ばした瞬間、現れた何かがゴーカイレッドの体を切り裂く。

 

「キャ!? な、なにが!?」

 

「あそこだ!?」

 

何かがゴーカイレッドから離れた瞬間、彼の体は吹き飛ばされる。

 

 

『お前がこの世界のスーパー戦隊か』

 

 

「あいつだよ!? 倒れている人を操っていたのは!?」

 

「誰なの!?」

 

ゴーカイレッドやなのは達を見下ろしながら告げられた声に反応したなのは達が其方へと顔を向けてそう叫ぶ。

 

「今のはお前か…? どう言うつもりだ!?」

 

立ち上がりながらゴーカイレッドはマスクの奥から蒼い鎧姿の怪人を睨む。

 

「『闇のヤイバ』と人は俺をそう呼ぶ」

 

「っ!? 闇の…ヤイバ…」

 

その名を聴いた瞬間、微かに知る事の出来るスーパー戦隊の記憶の中に存在するピースがしっかりと嵌る。『闇のヤイバ』…その名はスーパー戦隊の記憶の中に存在していた。だが、記憶が正しければ闇のヤイバは…。

 

「ソウマ君、あの人の事、知ってるの?」

 

「正確には…スーパー戦隊の記憶の中にな…でも…それが正しければ…。闇のヤイバは死んでいたはずじゃ!?」

 

「そ、それじゃあ、ま、ままままま、まさかお化け?」

 

「そんな可愛いものじゃなさそうだぜ」

 

ゴーカイサーベルを持ってゴーカイレッドは闇のヤイバを見据えながら、なのは達へと向かい、

 

「あいつの相手はオレに任せろ! お前達はジュエルシードを封印しろ!」

 

そう叫ぶ。そして、ゴーカイレッドはなのは達の返事を聞く暇も無く闇のヤイバへと向かう。

 

「はぁ!」

 

闇のヤイバへとゴーカイサーベルを振り下ろすが、それは簡単に闇のヤイバの刀に受け止められる。

 

「行け!」

 

「う、うん!」

 

「折角だが、あれを手に入れるのが契約の一つなんでな、渡す訳にはいかん。やれ!」

 

闇のヤイバの言葉に従い、巨大スライムはなのは達へと体の一部を手の様に伸ばしてなのは達を迎え撃つ。

 

(…少なくても、あれはそれほど強くない…。なら、オレがこいつを抑えていれば。倒れている人達に被害が出るかも知れないから飛び道具は使えない。使える力は…これか!?)

 

「ふっ!」

 

切り結んでいる闇のヤイバの体を蹴って距離を取ろうとした時、それを闇のヤイバは避ける。

 

「ちっ! だけど! 豪快チェンジ!!!」

 

『ゲーキレンジャー!』

 

「体に漲る無限の力、アンブレイカブルボディー、ゲキレッド!!! なんてな」

 

モバイレーツにゲキレッドのレンジャーキーを差し込み、Gゲキレッドへと変身するとそのまま闇のヤイバへと向かっていく。

 

「はぁ!!!」

 

Gゲキレッドの拳を避け、闇のヤイバはその腕を受け止める。

 

「ほう、ゴーカイレッドと言ったか。貴様の心には闇がある」

 

「ああ、そうかよ!」

 

「ぐっ!」

 

掴まれた腕を始点に体を回転させて闇のヤイバへとキックを放つ。初めてGゲキレッドの攻撃が当たった。それによって掴んでいた手が離れ、よろめく様に闇のヤイバの体が後退する。

 

「激技(ゲキワザ)、咆咆弾!!!」

 

チャンスとばかりにGゲキレッドは大技を放つ。だが、

 

「影忍法、千羽鶴闇吹雪」

 

闇のヤイバの放つ黒い吹雪の如き風が咆咆弾のオーラとなったゲキタイガーを切り裂き、その勢いを殺す事無くGゲキレッドを飲み込む。

 

「うわぁぁぁぁぁぁあ!!!」

 

地面を転がりながらGゲキレッドへの変身が解けてゴーカイレッドの姿へと戻るゴーカイレッドに向かい、闇のヤイバはゆっくりと近づき、

 

「お前の中にあるのは深い闇だ。しかも、それを知っていながら無理矢理押さえ込んでいる。…その理由は…その姿と言う所か?」

 

「どう言う意味だ!?」

 

闇のヤイバの言葉に答えながらゴーカイサーベルを振り下ろす。だが、当の闇のヤイバは無防備にそれを受けたと言うのにそれが効いている様子さえ見せない。

 

「闇を受け入れろ」

 

「闇だろうが、光だろうが…居る場所を決めるのはお前じゃねぇ! オレ自身だ!」

 

「随分と軽い言葉だな」

 

「ガハァ!」

 

その言葉と共に放たれた一撃がゴーカイレッドの体を吹き飛ばす。地面に倒れながら転がり、壁にぶつかる事で止まる。闇のヤイバはゴーカイレッドが手放したゴーカイサーベルをゴーカイレッドへと蹴り飛ばし、

 

「お前の言葉はまるで借り物の様に軽い。お前は、スーパー戦隊の力を理由(いいわけ)にただ自分の中の闇から逃げている」

 

「なんだと…」

 

「『復讐』、『家族を失った悲しみ』。それがお前の闇だ。」

 

「っ!?」

 

あの日、それわ思わなかった事は無い。否定できない。改めて突きつけられたソウマの心に動揺が生まれる。

 

「闇を受け入れろ。そして、俺の仲間になれ。お前の持つべき力は『光』ではなく、『闇』だ。そうすれば、お前の復讐を果たせる力を得ることが出来るぞ」

 

動揺が生まれたソウマの心に…

それは、ひび割れた壁に水が染み込む様に…

その言葉は魅力的に響く。

 

-5ページ-

 

「あ…ああ…」

 

ゴーカイサーベルを拾うでもなく立ち上がろうとする途中の体制で呆けているゴーカイレッド。闇のヤイバの言葉が心の中に染み込んでいくのは…他でもない、自分自身がよく分かる。

 

「お前だけではない、向こうの娘もそうだ。お前ほど強くは無いが、闇が今の人格に強く結びついている。なるほど、『孤独』、『いい子で居なければならない』、それがあの娘の心の闇か。面白いな」

 

心の底からそう思っているのだろう、敵対している相手が持っている心の闇が彼にとってそれなりに興味をそそる物と言う事実が。そして、闇のヤイバはゴーカイレッドへと向き直り、

 

「どうだ、簡単なことじゃないのか? それを捨てて俺の手を取れば復讐する力が手に入るぞ、ゴーカイレッド、いや、大海ソウマ」

 

闇のヤイバはゴーカイレッドの名ではなくソウマの名に呼びかける。

 

「憎くはないのか? 家族を殺した相手が。復讐したくはないのか? お前から家族を奪った相手に」

 

「オレは…」

 

スーパー戦隊の力を背負った瞬間から憎しみは捨てよう、抑えようと思い続けていた。自分の中にそんな感情があるのは、闇が有るのは相手に言われるまでも無い、誰よりも自分が一番理解している。だからこそ、闇のヤイバの言葉には抗い難い魅力がある。

 

光を捨てて闇を手に取れば…

 

(…仇を打つ事ができる…)

 

手の中に有るのは『光』、目の前にあるのは仇を打つ事のできる『闇』…振り払っても良いはずのそれが、ソウマの目には酷く魅力的に映っていた。

 

「っ!?」

 

まだ迷いは完全に捨てられない。だが、心の中に迷いを抱えたまま、ゴーカイサーベルで切りつける。

 

「迷いだらけだな」

 

「くっ! 黙れぇ!!!」

 

そんな事はゴーカイレッド(ソウマ)自身が言われなくても分かっている。闇のヤイバの言葉はソウマの心に深く突き刺さっている。

技術も何も無くがむしゃらに振り回す剣が当たる訳も無く、その全てを避けられ、当てる事が出来たのは戯れに受け止められた一太刀だけだ。

 

「ふっ!」

 

反撃の形で無防備なゴーカイレッドの体に打ち込まれる一撃によって吹き飛ばされると同時にゴーカイレッドへの変身が解ける。

 

(…強い…)

 

微かに残っている冷静な部分でそう思ってしまう。相手は不完全な復活しかしていないとは言え過去のスーパー戦隊を何度も苦しめた幹部、たった一人で勝てる相手では無いと言うのはソウマ自身が一番よく分かっている。

 

「あっ!」

 

「ジュエルシードが!?」

 

なのは達の声に気が付いて其方へと視線を向けると封印したであろうジュエルシードが真っ直ぐに闇のヤイバの元へと向かって行き、闇のヤイバは手を翳してジュエルシードを受け止めるとジュエルシードは闇のヤイバの中に消えていく。

 

「…そうか…」

 

ソウマは闇のヤイバを睨みながら立ち上がる。

 

「…お前は、ジュエルシードの力で蘇ったのか?」

 

「オレだけでは無いがな」

 

ソウマを嘲笑う様に告げられる言葉。その言葉が正しければ…“スーパー戦隊の居ない世界”にスーパー戦隊を苦しみ続けた悪が次々と復活しようとしていると言う事になる。

ジュエルシードや目の前に居る闇のヤイバはその始まりにしか過ぎない。……始まりが幹部と言うのは、最悪としか言い様がないが。

 

そんなソウマに対してトドメを刺そうと闇のヤイバは刀を振り上げる。

 

「ソウマくん!」

「ソウマ!」

 

慌てて間に飛び込んだなのはのシールドが一度だけ闇のヤイバの刀を受け止めるが、

 

「キャア!」

 

二度目の一閃で簡単に弾かれる。そんななのは達を邪魔だと思ったのか闇のヤイバはなのはを吹き飛ばした方へと向き直る。だが、

 

「まだ動けたか」

 

「いや、かなり限界だ」

 

至近距離でゴーカイガンを突きつけているゴーカイレッドに変身したソウマの姿があった。

 

「お前の「…知らねえよ、そんな物」なに?」

 

「確かにオレには家族の仇を討ちたいって気持ちは有る。けどな…それがどうした? そんなモン、見つけてから考えるだけだ!!!」

 

「愚かな答えだな」

 

「はっ!? 小学生のオレに過度な期待するなよ、偽忍者」

 

至近距離で打ち出されたゴーカイガンの弾丸を避ける闇のヤイバだが、

 

「ソウマくん!? 大丈夫なの?」

 

「ああ、心配かけた。少なくても…あいつをぶっ飛ばす位は大丈夫だ」

 

ゴーカイレッドのバックル部分より現れる新たなレンジャーキー。それを鍵の形に変形させ、モバイレーツに差し込みゴーカイレッドの姿から、

 

「豪快チェンジ!!!」

 

『カークレンジャー!』

 

赤き忍者に姿を変える。

 

「ニンジャレッド、ソウマ! なんてな」

 

人に隠れ、妖怪と言う悪を切る。影のスーパー戦隊、その名は、

 

「人に隠れて悪を切る! 忍者戦隊カクレンジャー!」

 

『忍者戦隊カクレンジャー』

 

ゴーカイレッドからニンジャレッドに姿を変えたのを合図にGニンジャレッドと闇のヤイバの姿が掻き消える。

 

「カクレマル!」

 

背中に背負ったカクレンジャーの共通武器『秘剣カクレマル』を引き抜き闇のヤイバと切り結ぶ。

 

何度か剣を交わすとGニンジャレッドはカクレマルで円を描き、

 

「隠流、満月斬り!」

 

そのまま一気に斬る必殺剣技『隠流・満月斬り』を放ち、初めて闇のヤイバに傷を付けることに成功する。

 

「くっ。影忍法、千羽鶴闇吹雪」

 

「オン・サル・ニン。火炎つむじの術!」

 

ぶつかり合うのは闇のヤイバの黒い吹雪の如き風とGニンジャレッドの放つ炎。そして、そのぶつかり合いに勝ったのは、

 

「なに!?」

 

Gニンジャレッドの炎の方だった。黒い風を燃やす炎の一部を手に取りながら、

 

「なるほどね、硬質化させた折鶴か…。流石に…同じ忍者相手じゃ通じなかったみたいだな。続いて…これだ!」

 

新たに取り出すレンジャーキーを取り出し、それをモバイレーツに装填する。新たに変身するのはもう一つの忍びのスーパー戦隊、風の名を持つ者達と雷の名を持つ者達の五人の伝説の後継者達。その名は、

 

『ハーリケンジャー!』

 

「風が哭き、空が怒る。空忍…ハリケンレッド! なんてな」

 

新たに変身した姿は空を司るもう一人の赤き忍者、邪悪な宇宙忍者と戦い地球を守った地球の忍び、

 

「人も知らず、世も知らず、影となりて悪を討つ。『忍風戦隊ハリケンジャー』、あっ、参〜上〜!」

 

Gハリケンレッドに変身すると同時に『ハヤテ丸』を抜き放ち、そのまま真上へと向かってジャンプし、

 

「超忍法、空駆け!」

 

空中を駆けながら闇のヤイバにハヤテ丸による剣戟を休み無く浴びせる。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁああ!!!」

 

「ぐわぁ!!!」

 

最後に蹴り飛ばし、その反動を利用して距離を取ると再び空中を駆けながら闇のヤイバに近づき、

 

「疾風流奥義・大空斬!!!」

 

そのままハヤテ丸によって縦に切り裂く。本来はハリケンイエローの技と一体の奥義なのだが、単独の発動になった。だが、十分に闇のヤイバにダメージを与える事には成功する。

 

「トドメだ! 超忍法!」

 

闇のヤイバの手前に障子が出現し、その裏で影となった闇のヤイバにGハリケンレッドが切り裂く。

 

「影の舞!」

 

Gハリケンレッドが着地すると同時にプールに闇のヤイバが落ちる。其方へと向かって視線を向けた瞬間、其処には何の姿も無かった。

 

「…逃げられたのか…?」

 

「そんな!? それじゃあ、あんな危険な奴にジュエルシードが」

 

「ど、どうしよう」

 

「いや…其処だ!」

 

振り返ってドライガンを向けた先には半透明となっている闇のヤイバの姿があった。

 

「これは貰って行くぞ。ゴーカイレッド、お前の本質は闇だ。どれだけ否定しようとも、それは変わらないぞ」

 

ジュエルシードを見せ付けながら、それだけ言い残し、闇のヤイバの姿は完全に掻き消えていってしまった。

 

「…分かってるよ…そんな事」

 

こうして、言い知れぬ不安を残しながら…二つのスーパー戦隊の力を会得しながらも初の悪の魂との戦いは…ある意味においてはソウマ達の敗北に終わったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

???

 

ジュエルシードの魔力を吸収しながら、二つの黒い鎧を来たかの様な姿の怪人が闇の中より現れる。

 

「怒りの鬼神、『クエスター・ガイ』!」

 

「大いなる獣・『クエスター・レイ』!」

 

それはアシュと呼ばれる種族が『ゴードムエンジン』によって蘇った姿『クエスター(探求者の意)』。

 

「分かっているな、お前達を優先して蘇らせてやった理由を」

 

蝙蝠の様な怪人がクエスター達に話しかける。

 

「そんな事は、わーってるよ」

 

「完全な復活を遂げる為に必要なこの石を集める事だろう?」

 

「その通りだ。此方としても上手く取引が成功したが、我々の手で手に入れる事に越した事は無い。復活させる連中の選択が限られるからな」

 

「なるほど、あいつらね。確かにアイツを最初に完全復活させれば、あの女の目的は果たせるわね」

 

「その通りだ。同時にこいつの能力なら我々もこの石に頼らずとも完全な復活を遂げることが出来る」

 

「そいつはいいねぇ!」

 

「どっちに転んでもオレ達に損は無いと言う事か?」

 

「その通りだ」

 

『アバレンジャー大図鑑』と言うタイトルの本を手に取りながら告げる蝙蝠の怪人と、納得した様に告げる扇を持ったミイラの様な怪人と、笑い声を上げながらそんな会話を交わすとクエスター達は何処かへと姿を消していく。

 

 

説明
地球を守った34のスーパー戦隊の魂を受け継いだ豪快な奴等の活躍する世界とは別の世界、35のスーパー戦隊の力は前世の記憶と共に家族を奪われた一人の少年の元に。今、魔法とスーパー戦隊の大いなる力が交差する物語の幕が上がる。
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