ポケモンになってしまった俺物語 5
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『……う……グッ!? ……あぁぁぁぁ、いってぇ!』

 

 

まだ意識が朦朧としていた中、目覚まし代わりとばかりに激痛が体中をはしり、そのおかげか徐々に意識がはっきりとしてきた。

 

 

『……俺は…確か、住処に帰る途中で雷に撃たれたんだったっけ』

 

 

周囲を確認してみると、雷の落ちた場所だっただろう自分を中心に炎ポケモン同士が激闘したのではないかというほどに、あたり一面が焼け焦げている。

これだけの焼け焦げ具合だというのによく山火事にならずにここら一帯だけで済んだなとも思ったが、地面の湿気の多さと所々にある水たまりを見つけてそういえば昨日は雨も降っていたなと思い出して一人納得した。

 

 

『てか、いくら俺が電気タイプだからって自然の雷が直撃してよく生きてられたな。いや、十分に酷い火傷だし今も死にそうなくらい痛ぇけど』

 

 

少し体を動かすだけでも体中にはしる痛みに顔をしかめる。

この世界にゲームのようなステータス表示などありはしないが、もし仮にあったとするならば今の俺の状態は麻痺&火傷のダブル状態異常で、HPが残り1のレッド色地点で危険音が鳴りっぱなしの瀕死一歩手前状態といったところだろうか。

下手すればそのままお陀仏ということも考えられるほど、この体にはダメージが蓄積されている。

トレーナーがいたならばボールに戻すことでひとまず悪化を防げるし、そのあとポケモンセンターに行けば万全の状態に治療してくれるのだが、俺は野生でそんなことは望めない。

ポケモン自身が持つ人間をはるかに超える自己回復能力もあるのだが、今はそれをもってしても回復が追いつかないほどに酷い状態だ。

持っていた木の実で体力の回復を図ろうにも雷の影響でほとんどが食べられたものではなく、運よく残った木の実を食べたはいいもののそれほど体力が戻った気配もなかった。

 

 

(……これは……本格的にやばいかもな)

 

 

どうしようかと考えている時、ポケモンとしての鋭い聴覚が離れたところからこちらに何かが向かってくるような音を察知した。

もしかしたら知り合いのポケモンかもしれない。

知り合いでなかったとしても、お願いして木の実を持ってきてもらえればそれで助かる、そう思っていた。

しかし、その耳にとどく小さな音がどんどん大きくなっていくごとに、俺の中にある危険信号のようなものが警報を上げる。

近づいてくる音、羽ばたく音、しかし鳥の羽ばたきではなくどちらかといえば虫独特の羽ばたき。

そしてこの森において虫ポケモンの中でもその独特な羽ばたく音をさせるポケモンは、俺の知る中で一種類しかいない。

 

 

(……ま、まずい!)

 

 

俺は痛む体に鞭を打ち、体を引きずりながらもその懸命にその場所を移動する。

どんどん近づいてくるその羽ばたく音につられて、心臓の音が次第に早くなっていく。

今の状態で“奴”に会ったら間違いなく命がない。

ろくに体を動かすこともできず、ろくに反撃もできずに一方的に攻撃を受けるだけだ。

 

 

(……早く……早く!)

 

 

途中途中にある砕けた木片に躓き、うまくまっすぐに進むことができない。

それでも俺は進むことを止めない。

生きるために、相手をやり過ごせる可能性のあるその場所を目指す。

そして、俺はやっとの思いでその場所、俺が気絶していた所からそれほど遠くない場所にある茂みに到着した。

その茂みに身を滑り込ませ、息を潜ませる。

……俺が息を潜めたちょうどその時、向かい側の離れた茂みの中から一匹のポケモンが姿を現した。

 

 

(……やっぱり……スピアー!)

 

 

この森の中でも気性が荒く、危険視されているポケモンの一匹だ。

だが、そこで俺の中に疑問が生まれた。

 

 

(……だけど、何でここにスピアーがいるんだ?)

 

 

ここはスピアーの縄張りではない。

縄張り意識の強いポケモンというのは基本的にその縄張りを出て行動するということは滅多にない。

しかも、スピアーのように群れで行動する傾向の高いポケモンならばなおさらだ。

では、なぜスピアーが縄張りを離れてこんな場所にまで来ているのか。

様子を見てみると、スピアーは落雷の影響で荒れた場所の上を行ったり来たりと忙しなく飛び回っている。

何かを探しているのかとも思ったが、スピアーの動きに一貫性がなくどうにも探し物をしているようには見えなかった。

更によく見てみると、スピアーの体の至る所にはうっすらと焦げたところが見てとれる。

そして、スピアーのその目はポケモンが混乱している時に見せるといわれている症状と同様に、赤く輝いていた。

……そのことから、大体の予想を立てることができた。

恐らく、あのスピアーは俺と同じく昨日の雷の被害を受けたのだ。

状態を見るに幸か不幸か直撃はしなかったようだが、それでもいきなりのことで驚いたのだろう、混乱を引き起こしてそのまま縄張りを出てしまったというところだろう。

 

そのように予想をしていると、スピアーは別の茂みへと入って行ってしまった。

どうやら俺は、スピアーに見つかっていなかったようでひとまず安堵の息を漏らす。

まぁ、混乱していて冷静さのかけらもない状態のスピアー相手に見つかる可能性は低かったかもしれないが、それでも通常状態であっても危険なのに混乱して更に危険度が跳ね上がったスピアーに万が一見つかってしまったら、逃げることができない俺なんてひとたまりもなかったはずだ。

 

 

(……ん?)

 

 

すると、また何かやってくる音が聞こえた。

もしかしてスピアーが戻ってきたのか!? と、身構えるも、音を聞く限りどうやらスピアーではないらしく、この音は足音のようだ。

昨日の、落雷の被害の様子を見に来たレンジャーだろうか。

このトキワの森は自然保護地区に指定されているようで、時々レンジャーが異常がないか見回りに来ているのだ。

そう思ってみてみると、なんとそこにやってきたのは一人の少女だった。

こんな森の中にあんな女の子が一人でどうしたのだろうか、そう思っていたがどうやら様子を見ていると昨日の雷が気になったらしく、落雷があって真っ黒焦げになっている箇所を凝視していた。

雨が降った日の次の日で、足元も悪い状況であるにもかかわらず、よくこんなところまで来たものだと若干感心しつつ少女の観察を続ける。

……それにしても

 

 

(あの女の子、どこかで見たことがあるような……)

 

 

どこでかは忘れたが、どことなく見覚えがあるように思えてならない。

まぁ、この森にはかなりの人が出入りしているからその中の誰かなのかもしれないが、どうにもそうではない気がする。

どこでだっただろうか、そう記憶を思い返している最中のこと、いきなり悲鳴が聞こえてきた。

その声につられてバッと顔を上げると、少女が先ほどどこかへといったはずのスピアーに襲われて逃げているところだった。

それを見たとき、俺は痛みで悲鳴を上げる体を引きずりながらも少女とスピアーの後を追った。

こんな体だ、俺が出て行っても何もできないかもしれない。

いや、それ以上に下手をすると、ただでは済まない状況に追いやられてしまうかもしれない。

だけど、あの少女のことがどうしても気になってしまい、放っておけない気持ちになった。

体中にはしる痛みに耐えながら移動を続けると、それほど時間もかからずに彼女達に追いつくことができた。

少女は地面に倒れ、スピアーは木に針が刺さりぬけないでいる。

見ていたわけでないから何とも言えないが、恐らくスピアーが攻撃する瞬間に少女が転んで目標が外れて木にぶつかったといったところだろう。

何とも運のいい少女だ、いや運がいいのならそもそもスピアーに襲われはしないか。

と、そんなことを考えているうちにスピアーが木から抜け出していた。

そして、今度こそ逃がさないとばかりに倒れながら少しでも距離をとろうとしていた少女に向かって突撃していった。

 

 

(……あぁ、くそっ! 当たってくれよ! “電気ショッ”……って、え?)

 

 

見ず知らずの少女のはずなのに、なぜか彼女を助けたいと思い体が勝手に反応してしまう。

とはいえ、離れている敵に対して、ボロボロな身でありながらも何かができるとしたら、それは数限られている。

電撃を放つこと、それこそが今の俺にできる彼女を助けることができる、限られた中の一つの行為。

ボロボロの体でうまく狙いが定まらない、電撃の威力がない、そんな色々とある悪条件ではあったがそれでも何としてでも当てようと狙い、今だすことのできる最大出力で“電気ショック”を撃った。

……そう、“電気ショック”を撃ったはずだったのだ。

技を使う瞬間、俺の体の中を今までにないほどの大量の電気が駆け巡った。

そしてその大量の電気が集束し、“電気ショック”など目ではないほどの高出力の『雷』となりスピアーに直撃した。

 

 

(……え、な、なんで……?)

 

 

今、目の前で起きた出来事にそう疑問に思うも、ガクッと体の力が抜けてしまった。

俺に残った力を全て放出したことによる疲労もあるだろうが、それ以上に今まで体の中にあったダメージがたたったのだろう。

俺はこちらに向かってくる少女の姿を最後に意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

Side少女

 

 

……バタッ

 

 

「あっ! だ、大丈夫!?」

 

 

急に倒れてしまったピカチュウに私は慌てて近づく。

痛めた膝がズキッと痛むが、それ以上に私を助けてくれたあのピカチュウの方が気になってしまったのだ。

やっとの思いでピカチュウのもとに辿りついて様子を見ると、とても酷い火傷を負っていた。

私は急いで“力”を使いピカチュウの治療を行う。

かざした手のひらから微かに明かりが生まれ、それをピカチュウにあてるとゆっくりとだがそれでも確実に火傷の跡は消えていく。

癒されていく傷痕を見て安堵する中、ふと疑問が浮かんでくる。

このトキワの森には炎タイプのポケモンは私の知る限りでは存在しない。

ならば、この火傷は一体どうやってついたのだろうか。

トレーナーとのバトルでつけられたということも考えられるけど、これほどの重傷で治療も行わないまま何日も持つはずがない。

昨日は雨が降っていたことから、よほどの物好きなトレーナー以外で、わざわざ外出してまで野生のポケモンとバトルはしないだろうということからも、トレーナーとのバトルによってつけられた可能性としてはかなり低い。

それらの事から、この火傷ができたのはトレーナーとのバトルを除いた、ここ最近のことになる。

そこで私の頭に浮かんだのは昨日の落雷だった。

もしかしたら、このピカチュウはあの落雷に巻き込まれてしまったのかもしれない。

あの場所の被害を考えれば、これだけの火傷ができてしまうのも納得がいく。

……と、そんなことを考えているうちに、ピカチュウの治療が終盤に差し掛かっていたのを見て、私は“力”の行使を止めた。

なぜ完全に治療してしまわないのかというと、私が使う治癒の力というのは過剰に行使しすぎると逆にポケモンにとって害になる……というのを以前母さんから聞いたのだ。

母さんが子供のころに、祖母がよく話してくれたそうだ。

その時々で違ってくるが、完全に治癒したのにもかかわらず体調を崩してしまうことがあるそうだ。

これは、”力”の使い方に慣れていないものが対象を完全に治癒しようとして過剰に“力”行使してしまうことが原因らしい。

だから、私がこの力のことを話した時に、自分の力に慣れるまではある程度までしか治療してはいけないと言いつけられている。

とりあえず、ピカチュウの治療はこれで終了だ。

 

それで……と、ピカチュウの方を見る。

ピカチュウは治療を終えたというのにまだ目を覚まさない。

傷は癒すことはできたけど、これまでの疲労は癒すことはできなかったのだろうか。

ラっちゃんがいたらこのピカチュウのことを頼むという手もあるんだけど、今日はラっちゃんを一緒には連れてきていないし、もし連れてきていたとしてもやっぱり心配で放っておくことができなかっただろう。

……だから

 

 

「……よい、しょっと」

 

 

私は眠ったままのピカチュウを抱えて、痛む足を引きずりながら家への道を歩き出した。

 

 

 

 

 

 

説明
5話です
……連日投稿ってやっぱり大変だなぁっと思った今日この頃。
今後、また投稿日が遅れるかも…。
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コメント
感想ありがとうございます。まぁ、流石に今回のような高威力の雷は早々撃てなくはなります。それも一応理由はありますので今後それも含めて執筆していきます。執筆速度の遅いネメシスではありますが、今後もどうぞよろしくお願いします。(ネメシス)
執筆乙です。うぉぉぉぉぉ、主人公強化フラグ回収!電気ショックがかみなりに・・・・治療で治ってかみなりの電気抜けたとか無いですよね? 次作期待(クォーツ)
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ポケモン ポケットモンスター 転生? 憑依? オリ主 少女 

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