【南の島の雪女】琉菓五勇士チンスゴー(7)
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【自宅に逃げ帰った風乃たち】

 

風乃

「プレーンさんのヒビ、縫い終わった?」

 

トイレから出てきた風乃は、手をふきながら、自分の部屋に入り、

中にいる白雪に声をかける。

 

白雪は、ヒビが入って負傷(?)したプレーンと、気絶した風乃を連れて、

自宅へ戻っていた。

あとから、ヤナムンたちが追いかけてくることはなかった。

 

白雪

「裁縫して、ひび割れをくいとめたつもりだ。

 だが、プレーンは意識を失ったままだな…」

 

白雪

「このまま意識が戻らなければ…。

 ううむ、考えたくないな。

 どうしたものか」

 

そのとき、ぐきゅるるるるる、と音がなる。

 

風乃

「お腹すいたよ…」

 

白雪

「俺もだ。

 そういえば、昼飯を食べてなかったような」

 

風乃

「お母さん、ごはーん!」

 

白雪

「お義母さんは、夕食の買い物をしてくると言って、出かけたろ。

 食材がきれた、とか言ってたぞ」

 

風乃

「がーん…。そーだったねぇ。

 何を食べればいいの…。

 あっ、そうだ! アレがあるよ!」

 

白雪

「どうした」

 

風乃

「白雪。プレーンさんを見てごらん」

 

白雪と風乃は、ちらり、とプレーンの体を見る。

チンスコウでできたその体は、焼き菓子のようであり、

いい匂いを漂わせていて…

2人は、ごくりとつばを飲む。

 

白雪

「…食うなよ?」

 

風乃

「白雪こそ」

 

白雪

「で、でも、ちょっとくらいなら、カケラくらいならかじってもいいよな。

 あれだよ、試食だ、試食」

 

風乃

「す、少しだけかじるならいいよね…ぐへへ。

 試食だもんね」

 

汚らしくヨダレをたらす2人。

 

白雪

「いっ、いかん…おさえろ、俺。

 いくら試食でも、かじるのはだめだ。

 とめられなくなる」

 

我に返る白雪。

 

風乃

「じゃあ…なめてみよっか?」

 

白雪

「な、なんだと!」

 

風乃

「かじっちゃダメなら、なめよう。

 ある程度、味わえるはずだから」

 

白雪

「なるほど、その手があったか…」

 

風乃と白雪は、意識を失ってぐったりしているプレーンに

あやしげな視線を送る。

 

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【チンスコウをぺろぺろ】

 

くすぐったい。

顔や背中がくすぐったい。

 

プレーンは、自分の体が、暖かなこんにゃくのようなもので

くにゃくにゃとさわられていることに気づく。

 

いつの日のことだったか。

外のベンチで座って寝ていたら、猫にのっかられて頭をなめられてたな。

アリに全身をたかられてたな。

それと似た感覚だ。

 

焼き菓子でできたカラダの、宿命ってやつだ。仕方ない。

 

猫かな。アリかな。

プレーンは、少しずつ目を開ける。

 

外ではないようだ。

どこかの部屋。見覚えのある部屋。

数時間前までいた部屋。

 

プレーン

「うわあああ!?

 な、な、何してるんだっ!」

 

風乃

「ふぇ?」

 

ちいさな舌のさきっちょを、ぺろりと出して、きょとんとした顔の風乃。

プレーンと目が合う。

 

白雪

「うお!? お、おはよう、プレーン!」

 

背中を舐めまわしていた雪女は、びっくりして、思わずあいさつする。

 

白雪

「ふ、風乃がなめようと言ったのだ。

 なめてるだけだ! かじっていない!

 けっしてお前を食べようとは、思ってないぞ!

 けっしてだ!」

 

必死な白雪。

 

風乃

「まだ2〜3分しかなめてないよ!

 時間が短すぎるよ! こんなのおかしいよ!

 もっと長く意識を失っておかないとダメだよ! プレーンさん!」

 

プレーン

「おかしいのはお前だ」

 

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【プレーン目覚める】

 

プレーン

「おお、ヒビが完璧に縫われている…。

 これで、なんとかバラバラにならずにすむ。

 裁縫してくれてありがとう」

 

プレーンは、鏡にうつった自分の姿を見て、感動していた。

あんなに深かったヒビなのに、縫われたおかげで、

これ以上ヒビが広がらずに済んだ。

白雪への感謝の念は絶えない。

 

白雪

「まさか、チンスコウに針を通して、

 糸を縫うことになるとは思わなかったよ」

 

プレーン

「ところで、マジムンは…どうなった」

 

白雪

「倒していない。

 俺たちには、戦う力がなかった。

 お前を連れて逃げるのでせいいっぱいだった。

 今も、どこかでお菓子吸い放題だろうよ」

 

プレーン

「…そうか。すまない」

 

白雪

「なぜ謝る」

 

プレーン

「不用意に突っ込んで、倒されて、

 2人を危機に陥らせたのは、俺だ」

 

白雪

「…そんなに謝るなよ。水臭い。

 プレーン。

 お前、いま、戦えそうか?」

 

プレーン

「…この体では、まだ無理だ。

 いくら縫われている、とは言え、激しく動いたら

 どうなるかわからない」

 

白雪

「だろうな。

 しかし、今、プレーンが戦えなければ、

 俺たちはどうやってマジムンに勝てばいいのか、わからない」

 

プレーン

「奥の手がある。

 それで、マジムンを倒す」

 

白雪

「奥の手?」

 

プレーン

「詳しくはいいづらいが、とにかく時間をくれ。

 『奥の手』の能力を目覚めさせるには、少し時間が必要だ」

 

白雪

「…うむ、そうか。わかった」

 

プレーン

「ところで、風乃…」

 

風乃

「…ぺろぺろ、にゃに?」

 

プレーン

「俺の後頭部をなめるのは、やめてくれ」

 

風乃

「…ぺろぺろ、ごめんにゃしゃい」

 

謝っているが、まるで反省する様子はない。

 

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【休息】

 

ヤナムン

「ふー、だいたいこの街のお菓子は、吸い尽くしたか」

 

お菓子の家マジムン

「ううううう」

 

ヤナムン

「邪魔なチンスゴーどももいなくなったし、

 これで俺たちの天下だな!

 はっはっは」

 

お菓子の家マジムン

「うううううう…」

 

ヤナムン

「なんだ?

 え? 疲れたので休みたい?

 まあよい。

 休息も必要だろう。

 ちょうどあそこに公園があるから、休もうではないか」

 

ほどなくして、公園に入るヤナムンとマジムン。

 

ヤナムン

「あのベンチに座るぞ。

 お前は体がでかいから、ベンチの横にでも座っておけ」

 

ヤナムンは、そのコーヒーゼリースライムのような体を、

ベンチに預け、どかっと座る。

 

はたから見れば、黒いゼリー状の何かを、ベンチにぶつけたような姿になっており、

あまり気分のいい見た目ではなかった。

隣には、賞味期限の切れた、匂いの怪しいお菓子の家。

 

通行人A

「…なんだありゃ?」

 

とおりゆく人々が不思議がるのも無理はなかった。

 

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【母からのメール】

 

風乃

「あ、お母さんからメールだ」

 

白雪

「何と書いてある」

 

風乃

「いっぱい買いそうだから、手伝いに来て。白雪も。

 場所はジュスコ1F食品売り場、だって」

 

白雪

「…仕方ないな。

 疲れているが、お義母さんの頼みだ。行くか」

 

ジュスコへ行くには、金城公園を経由するのが近道だ。

白雪と風乃は家を出ると、金城公園に立ち入る。

 

すると、子供たちが、ざわざわと言いながら、何かに集まっていることに気づく。

 

風乃

「なんだろ。あそこ、子供たちが集まってる…」

 

白雪

「ほうっておけよ。どうせつまらんことだ。

 早く行こうぜ…」

 

風乃

「お、お、お…」

 

子供たちの集団に囲まれているものが何か、

それを理解した風乃が声をつまらせる。

 

白雪

「お?」

 

風乃

「お菓子の家っ!」

 

白雪

「バカを言うな。公園にお菓子の家なんてものがあるわけ…。

 はっ!?」

 

言いかけて、とめる。

お菓子の家はさっき見たばかりのはずだ。

もしかして。

 

白雪の嫌な予感は、的中するのだった。

 

 

子供A

「すげー、お菓子の家だ」

 

子供B

「でも匂いがなんか変…

 偽者じゃね」

 

子供C

「でもなんでこんなとこにあるんだろ」

 

お菓子の家を不思議がり、つんつんつっつく子供たち。

 

止めに入るべきヤナムンは、ベンチのうえでぐっすり就寝中だ。

よほど疲れていたらしい。

 

お菓子の家マジムン

「ううううう」

 

子供A

「わぁ、しゃべった、しゃべった」

 

お菓子の家マジムン

「ううううう」

 

お菓子の家マジムンの扉が、ぱかりと開く。

 

扉の向こうから、小さな影が飛び出る。

 

子供A

「わっ、お菓子だ!」

 

小さな影が明るみに出る。それはお菓子だった。

紙箱に入ったチョコレート菓子で、「ピョコラ」と書いてある。

 

子供A

「お菓子だ、お菓子だ」

 

子供B

「僕も僕も! お菓子ちょうだい!」

 

子供C

「僕が先だ!」

 

子供D

「ピョコラの賞味期限だいじょうぶかな。

 このお菓子の家、少しくさいんだよね…」

 

子供A

「よく見てみなよ、このピョコラ、賞味期限はまだ先だぜ。

 心配ないって!」

 

お菓子の家マジムン

「うううううう!」

 

マジムンは不本意を感じていた。

お菓子を銃弾のように勢いよく発射し、子供たちの顔面にあてて

脅かすつもりだった。

しかし。

疲れているせいか、思ったより飛距離と勢いがない。

むしろ子供たちに喜ばれてしまっている。

 

しかも賞味期限切れのお菓子はすでに体内になく、

先ほどサンケーで吸い込んだ、新しいお菓子を吐き出さざるを得なかった。

これはもう「子供に喜んでほしい」としか言えない行為だ。

 

ぽと、ぽと、ぽとり。

子供を追い払おうと、次々とお菓子を発射するが、むなしくも、地面に落ちていくだけである。

 

ますます子供に喜ばれ、

お菓子の家マジムンは「なんだか困ったことになったぞ」と思い始めていた。

 

ヤナムン

「おいこら、貴様ら、何をしとるか!」

 

ベンチのうえのコーヒーゼリーは、子供たちを追い払おうと、怒鳴りつける。

子供たちの声がうるさいせいで、ついさっき目覚めたようだ。

 

子供B

「うわ、黒いべとべとがしゃべった!?」

 

子供たちにとっては、ベンチの上の黒いべとべとが、しゃべったように見えた。

 

ヤナムン

「貴様ら、さっさとそこをどけ。

 どかねば…呪い殺すぞ! 呪い殺すぞぉ!」

 

子供たち

「うわー!」

 

ヤナムンのドスのきいた声で、恐れおののいた子供たちは、一目散に逃げていった。

だが、地面に落ちたお菓子は、残さず、持ち去られていた。

抜け目のない子供たちである。

 

ヤナムン

「これでうるさいガキどもは、いなくなったか…。

 おや? あいつらは」

 

周囲を囲んでいた子供たちがいなくなったおかげか、視界が広くなる。

その視界の中に、明らかに見覚えのある、雪女と少女の姿があった。

こちらに背を向け、どこかへ行こうとしている。

 

ヤナムン

「おい、貴様ら! サンケーにいた、チンスゴーの仲間だな!

 ここで会ったが最期だ。俺の相手をしろ!」

 

さけび、呼び止める。

 

白雪&風乃

「ぴーぴぴーぴーぴーぴー」

 

口笛をふき、あさっての方向を向きながら、ヤナムンの前から早歩きで去ろうとする。

別人だ、関わらないでくれ、と言いたいようだ。

 

ヤナムン

「逃げようとしてもムダだ!

 マジムン! あいつらの足を止めろ!」

 

お菓子の家マジムン

「ううううう」

 

了解しました、とマジムンは答え、風乃と白雪のあとをゆっくりと追い、

近づいていく。

 

 

 

次回に続く!

説明
【前回までのあらすじ】
白雪はチンスゴー・プレーンとともに、マジムン(魔物)と一戦を交えたが、
歯が立たず、負傷したプレーンをつれて、風乃宅へ逃げ帰ってきた。
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