そらのおとしものショートストーリー4th Unlimited Brief Works3
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そらのおとしものショートストーリー4th Unlimited Brief Works3

 

拙作におけるそらのおとしもの各キャラクターのポジションに関して その7

 

○マキコ:商店街のマドンナ、文具屋の一人娘。拙作だと20〜22歳ほどに設定されている。名前が明らかにされている(苗字は不明だが)強みがあって原作でも登場回数が多い。原作者の別作品にもちょびっとだけ登場している。

 美香子主催のプロレス大会に出たことがきっかけでアマレス経験者というのがそのまま原作キャラになり拙作でも踏襲。逆にいえば他の設定はあまりなく後は本作の勝手設定。

 

○動物園のお姉さん:福岡内にある動物園に勤務するお姉さん。拙作だと22〜24歳ぐらいの設定。原作での初登場は割と早く、智樹がイカロスとニンフと初デートした話。その際に全裸の智樹に接触し、顔に股間を押し付けられるというトラウマを得る。猛獣を使役するがとても気が優しいというか押しに弱い。アニメ第二期のプロレス回では密かに出場していた。マキコ同様設定はろくにないが、智樹セクハラの被害者レギュラーではある。

 

○魚屋のあんちゃん:空美商店街の魚屋の息子。拙作だと20代中盤から後半設定。三河屋のサブちゃんっぽいキャラ。美香子主催のお祭りイベントには割と手広く参加している。爽やか系なフリをしているが、プロレス回で空美学園の女美人教師にウナギを浴びせるなど相当なセクハラ野郎である。お祭りイベントの数合わせ担当で原作で特に設定は存在していない。全て拙作で勝手に付いた後付け設定である。

 

○たこ焼き屋のおっさん:普段は空美町内にて寿司屋を営み、祭りがあると様々な屋台を開く。ちなみにアニメ第一期だと開いていた屋台がたこ焼き屋ではなかったが、二期以降ではたこ焼き屋のおっさんになっている。屋台がちっとも儲からないこともあり、金にはがめつい。女好きでもある。けれど、おっさんということで遠慮が要らない対象なのかイベントではかなり酷い目に遭っている。

 

○公民館のバァちゃん:公民館によく通っているらしいバァちゃん。智樹をトモ坊と呼び、昔から交流があるらしい。ハッスルしているバァちゃんでサバイバルゲーム、プロレスではその勇士を惜しみなく見せた。しかし年には勝てず腰痛がネック。

 NISOPETHA-MENOS(ニソペサメノス)とかいう秘術を駆使すると最盛時の18歳の肉体に戻れる。

 

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そらのおとしものショートストーリー4th Unlimited Brief Works3

 

 

「それじゃあ智ちゃんは智子ちゃんに助けられて襲われたの?」

 美香子との激闘が終わった翌朝、何も知らずに眠っていたそはらは昨夜の出来事を聞かされて驚きの声を上げた。

「ああ。全く何を考えているのか分かんねえ奴だぜ。腹立たしい」

 そはらの準備した朝食の味噌汁を飲みながら智樹は毒づいた。

 その右肩には白い包帯が巻かれていて見ていて痛々しい。ニンフのジャミング・システムを利用した治療法だけでは完全な治癒には至っていない。とはいえ、元が頑丈で回復力も早い智樹はしばらく待てば完治しそうではあった。

「でも、智子ちゃんは智ちゃんが会長の家の人に襲われそうになった所を助けてくれたのでしょ?」

「大方、俺が他の野郎に殺されるのが気に食わなかったって所なんじゃねえのか。ヘッ!」

 智樹は大きく鼻を鳴らして舌打ちした。

「それで、今智子ちゃんはどこに?」

 そはらは2人の仲を取り持たなくてはいけないと思った。けれど、そもそも智樹の何に対して智子がそんなに反発しているのか分からない。会って理由を聞いてみなければと考えた。

「智子なら屋根の上で見張りをしているわ」

 居間にニンフが入ってきた。その手には空になったお盆を持っている。

「屋根の上?」

「今の状態の智子を智樹と引き合わせる訳にはいかないもの。食事だけ渡して来たの」

 ニンフの言葉はそれ即ち、今の2人が顔を合わせるのは危険であるということを端的に物語っている。

「アイツに飯食わすなんて勿体無ねえっての!」

 智樹は智子が話題に出ただけでまた苛立っている。

「美香子の陣営にはデルタまでいるって言うのに……こっちは仲間割れだなんて全く頭が痛いわよ」

「そっか。わたし達、イカロスさんだけじゃなくてアストレアさんとも戦わないといけないんだもんね」

 敵陣営はいずれも強大。それに比べてこちらは同じ場所に固まっていることさえ出来ない分裂状態。ニンフでなくても頭は痛い。

「あっ、そうそう」

「どうしたの?」

「降りてくる途中に電話が鳴って、今日から学校はしばらく休みだって。昨日、多くの生徒が病院に運ばれた関係で」

「やっぱり……大事になっちゃったんだね」

 そはらはガックリと首を落としてうなだれた。

「でも、考えようによってはこれは好期よ」

「どういうこと?」

 声を低くするニンフにそはらが首を傾げる。

「学校が休みなのを利用して……今度はこっちから美香子に仕掛けるわよ」

 ニンフは力強く言い切った。

 

 

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「本当に上手くいくのか?」

「大丈夫。美香子が家を出たのはセンサーで確認済みよ。町全体にジャミングが酷くて正確な位置はよく分からないけれど、確実にこっちに向かって歩いて来てる」

 一時間後、ニンフ達は空美学園付近の電柱の影に潜んでいた。

「そはらは作戦の要だからね。私達が襲撃して美香子が隙を見せたら一気にそのチョップで倒すのよ」

「うっ、うん」

 別の電柱の影に隠れているそはらがニンフを見ながら頷く。

 3人は美香子に待ち伏せを仕掛けていた。

 

 

『美香子を偽の電話で誘き出すわよ』

 ニンフは作戦の核心を簡潔に述べた。

『私が電話回線を操って美香子の家に学校から電話が掛かって来た様に見せ掛けるわ。あとは教師のふりをして、生徒会長の意見を聞きたいから登校して欲しいと美香子を学校に呼び出して頂戴』

 ニンフは電話を見ながら作戦概要を説明した。

『けど、教師のふりをしろと言われてもだなあ。数学の竹原の真似なら簡単だが、絶対に声でバレるぞ』

『声ぐらいなら操作して真似できるわよ』

『じゃあ、やってみっか。会長は1刻でも早く排除しないと危ないもんな』

 智樹は受話器を持って美香子へ電話を掛けた。

 

「拍子抜けするぐらいあっさり美香子が出て来たのはちょっと意外だったけど、結果オーライよね」

「あの会長の場合は罠だと知っていても自ら嬉々として飛び込んで来るけどな」

 ニンフと智樹は顔を見合わせる。

「……それってやっぱり強攻策になるってことよね」

「……会長の過信に期待するって所になるな」

 2人は息を大きく吸い込んだ。そして間もなく美香子が歩いてくるのが見えた。

 

 制服姿で両手に鞄を持って歩いてくる美香子は1人きりだった。昨夜智樹を撃ち殺そうとした男達は美香子の周囲にいない。アストレアの姿も見えない。少なくとも智樹の目にもニンフのセンサーにも護衛の存在は感知されていない。

「余裕だな、会長」

「それでこそ美香子らしいって気はするけどね」

「行くぞ」

「うん」

 智樹とニンフは同時に頷いた。そして、美香子が横を通り過ぎようとした所を側面から襲撃を仕掛けた。

「会長っ! 覚悟〜〜っ!」

「美香子っ! 余裕が過ぎるわよ〜〜っ!」

 智樹はハリセンを、ニンフはペロペロキャンディーを振り上げながら美香子に襲いかかった。

「あらあら〜? アフロディーテと股間のレールガンを使ってえげつなく攻めて来るのかと思ったら〜〜随分優しい攻撃ね〜」

 美香子は“鋼鉄”で作られた鞄を振り回して2人の攻撃を受け止めながら微笑んだ。美香子には智樹たちの口撃がまるで通じていない。だが彼女は両手を使って防御の姿勢を取った。それこそがニンフ達の狙いだった。

 

「今だ。いっけぇ〜〜っ! そはらぁ〜〜っ!」

 智樹の叫び声と共に美香子の背後からそはらが飛び出して来る。

 そはらは既に構えていたチョップの体勢のまま美香子に向かって突撃していった。

「会長っ! ごめんなさ〜い!」

 そはらは謝罪しながらも無防備となった美香子の後頭部に向かって鋭いチョップを放った。

 智樹もニンフも、そして当事者であるそはらも決まったと思った。最悪な競争者がこれで脱落すると安堵を感じていた。だが──

「「「えっ?」」」

 次の瞬間に吹き飛んだのはそはらの方だった。

 突如側面から黒い影が現れて手段は不明だが自分を吹き飛ばした。そはらに分かったのはそれだけだった。

「きゃぁあああああああああぁっ!?」

 そはらは3mほど空中を吹き飛んだ所でようやく地面に落ちた。突然の衝撃に受身も取れず大きなダメージを受ける。

「…………うわぁ〜〜ッ!?」

激痛のあまりに横たわったまま指1本動かせない。そはらはたった一瞬で戦闘不能状態に陥らされたのだった。

 

「そはらっ!!」

 智樹がそはらの元へ駆け寄ろうと試みる。

「桜井くんは〜〜会長と遊んでくれるんでしょう〜〜?」

 だが美香子が智樹の前に立ちはだかって接近を邪魔をする。美香子が振り回す鋼鉄の鞄は破壊力満載の1品であり、智樹はそれ以上の前進が不可能になった。

「ニンフっ!」

 智樹はパートナーの名を呼び代わりにそはらの元へ行かせようとする。

「…………っ!」

 だが、ニンフはその場で戦闘の構えを取ったまま動かない。険しい顔をしており、その額からは汗が大量に流れている。

 智樹はただごとではないと思いながらニンフの視線の先を追う。

 その視線の先にいたのは──

「ゲッ! 守形先輩っ!?」

「フンッ」

 メガネのフレームに右手を当てた状態でニンフを冷たい瞳で見ている守形英四郎の姿だった。

 

 

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「うふふふふ〜。後ちょっとだったのに〜〜残念だったわね〜〜っ♪」

 美香子はとても楽しそうに笑っている。

 一方で智樹とニンフ、そして倒れているそはらにとっては余裕など欠片も感じられる訳がなかった。

「畜生っ! やっぱり守形先輩も敵なのかよ」

 智樹が唇を強く噛む。

「智樹……下手に動いたら私達、殺られるかもしれないわよ」

 汗を吹き出させているニンフ。その表情は守形が自分たちを攻撃することに何の躊躇も抱いていないことを示していた。

「会長は〜〜昨夜の報復として〜〜桜井くんと智子ちゃんを〜〜朝掛けして〜〜全殺しにしようと提案したのよ〜〜。そうしたら〜〜アストレアちゃん達が〜〜強く反対しちゃって〜〜。今も一緒に付いてきてくれたのは〜〜英くんだけだったの〜〜っ♪」

 美香子は腹心達が自分の方針に反対したというのに楽しそうに笑っている。五月田根美香子はスリルとリスクをこよなく愛していた。

「そういう訳で〜〜アストレアちゃん達には〜〜五月田根家でお留守番してもらって〜〜会長と英くんは〜〜新しい拠点に移動中なのよ〜〜っ♪」

 美香子は実にご機嫌。僅かな戦力で敵陣営と互角以上に渡り合っている今が楽しくて仕方がないといった表情。

「お引越しを考えていたら〜〜丁度タイミング良く桜井くんから電話が掛かって来たから〜〜ラッキーだったわ〜〜♪」

「やっぱり最初からバレていた訳ね」

 ニンフが小さく舌打ちした。

 

「何で先輩は会長に従っているんだよっ!?」

 美香子と守形に妨害されて動けない智樹が吠える。

「英くんは〜〜会長に借金があるのよ〜〜月末まではたっぷり働いてもらうわ〜〜っ♪」

「時給は仲介料を差し引いて手取りで20円。残り300時間あれば返せる」

「時給20円ってどんだけ搾取されているのよっ!」

 ニンフは苛立ちを混じりにツッコミを入れた。厄介過ぎる相手が余りにも馬鹿らしい理由で敵側についている背景に。

「うふふふふ〜。まあ、会長と英くんには〜〜切っても切れない愛の絆があるから〜〜お金の貸し借りがなくても〜〜いつでも会長の味方になってくれるに決まっているけど〜〜」

 美香子は嬉しそうに守形の肩に擦り寄り仲の良さを見せつける。

「借入金が返済し終わったら美香子に仕えるのはおしまいだ。俺は元の新大陸研究者に戻る」

 守形は無表情のまま美香子から離れる。

「だが、今回のカードに関しては別だ」

 守形のメガネが鈍く光った。

「俺自身がシナプス最高のカードに強く興味を惹かれている。なので美香子に協力することもやぶさかではない」

「けどっ! 会長が願いを叶えたら世界が滅びるかも知れないんですよっ!」

「俺が興味を示しているのはカード自体だ。カード自体を調査できれば美香子がどんな願いを叶えようと知ったことではない」

 守形は淡々と言い切った。

「カードで世界を滅ぼそうとする会長。カードが何に使われようと関心を持たない守形先輩。最悪な組み合わせだ、コイツらっ!」

 智樹が大声で嘆いた。

 

「嘆いていないで、そはらを救出して一旦引くわよっ!」

 ニンフが智樹の尻を叩きながら次の行動方針を述べる。もはや逃げるしかこの局面で出来ることはない。

「うふふふふ〜。会長と英くんが〜〜貴方達をすんなり逃すと思っているの〜〜? カオスちゃん達を倒すのに見月さんは必要な存在なのよ〜〜。ついでに桜井くんには昨日の憂晴らしに全殺し〜〜。ニンフちゃんは〜〜ポンコツだから〜〜どうでも良いわ〜〜っ♪」

「誰がポンコツなのよっ!」

 ニンフは頬を膨らませて怒った。

「問題なのはそこじゃねえっ!」

 全殺しを宣言された智樹がニンフにツッコミを入れる。

「あらあら〜仲良しね〜〜♪ 見月さんが妬いちゃうわよ〜〜♪」

 美香子がニタニタしながら智樹とニンフを見る。

「「そんなんじゃないっ!」」

 息の合った声で否定してみせる2人。そんな2人を見ながら美香子は更に意地悪く笑う。

「会長が〜〜見月さんの代わりに浮気者の桜井くんを殺してあげるわね〜〜♪」

 美香子は負傷してまだ動けないそはらを見た。

「………………智ちゃん」

 そはらの瞳は少しだけ寂しそうに智樹を見ていた。

 

「それじゃあ〜っ! 桜井く〜〜ん。会長の為に今すぐ死んでね〜〜っ♪」

 ニンフが守形と対峙して動けないのを確かめた上で美香子は智樹に大胆に攻撃を開始した。鞄を大きく振り回して頭の粉砕を狙う。

「うふふふふ〜っ♪ 獅子はゴキブリを踏み潰すのにも全力を尽くすのよ〜〜♪」

 全力を尽くすと言いながらジワジワと智樹を追い詰めていく美香子。振り回される鞄は一撃で智樹の頭を砕くに十分な威力を持っている。

「死ぬっ! こんなもんで会長の馬鹿力で殴られたら本気で死ぬっての! うわぁあああぁあああぁっ!?」

 智樹は必死に美香子の攻撃を避ける。だが、そはらが倒れたままであり、彼女を置いて逃げる訳にもいかない。

「智樹っ! …………って、きゃぁあああああぁっ!?」

 智樹を助けに行こうとしたニンフが守形の蹴りの攻撃を受ける。美香子の攻撃が正面から重いものと評すると守形の攻撃は速い。そしてどこから打って来るのか得体が知れない不気味さがある。視覚に頼っていては攻撃の形態が掴めない。

「何でっ? 戦闘用エンジェロイドが人間に押されているの!?」

 センサーを総動員して攻撃の予想を付けていなければニンフは最初の一撃でやられていた。けれど現状はやられていないだけ。回避するのに精一杯で反撃する糸口さえ掴めない。

「エンジェロイドといえども接近戦では完璧ではないということだ」

 ニンフは守形の攻撃に圧倒されていた。

 

「うふふふふ〜。ニンフちゃんは英くんに手も足も出ないようね〜。やっぱりポンコツってことかしら〜〜」

 美香子は壁際へと智樹を追い詰めながら余裕の笑みを浮かべた。智樹の背後は壁。そして右側は電信柱が立っており左側は美香子で逃げ道はもうどこにもない

「じゃあ〜最初の目的をそろそろ果たさせてもらうわ〜〜。桜井くん。先に地獄に落ちてね〜〜」

 美香子が鞄を大きく振り上げる。

「畜生〜〜っ! 俺の人生はここまでなのか〜〜っ!?」

 智樹が目を瞑り、その打撃の衝撃を覚悟した時だった。

「会長……死ぬのはアンタよっ!」

「えっ?」

 美香子がぼんやりと上を見上げる。すると電柱の上から強化したブリーフを2本構えた赤い外套の少女が自分に降って来るのが見えたのだった。

 

 

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 美香子は自分の頭上へと落ちてくる智子への対処が遅れた。

智子が接近する気配は全く感じなかった。言い換えれば智子は美香子が到着する前から電柱の上に身を潜めていたことになる。

 ニンフの驚いている表情を見ればこれが彼女の作戦でないことは容易に分かる。つまり、これは智子の単独作戦。

「…………まさか、こんな形で最期を迎えることになるとはね」

 美香子は諮られたことを認めながら迫り来る自身の最期をぼんやりと見つめていた。だが、戦いの女神はまだ美香子を見捨ててはいなかった。

「美香子っ!!」

 守形が駆け寄り制服のネクタイを外し剣に変えて智子のブリーフを防いだ。

「英くんっ!」

 美香子が安堵の大声を上げる。守形の援軍がなければ危ない所だった。それは偽ざる美香子の認識だった。

 

「守形先輩は会長を守っちゃうんですか〜。先輩に恋する乙女としてはすっごくジェラスしちゃいますね〜」

 智子は守形に向かってブリーフ剣を構えながらプクッと頬を膨らませた。

「美香子は俺の雇い主だからな。助けん訳にもいかんだろう」

 守形は事もなく答えた。

「本当にそれだけですか? 本当は会長のことが好きだとか?」

「いやあね〜智子ちゃん。そんな本当のことを言っちゃって〜〜♪」

「そんなあり得ん仮定に答えても仕方がない。俺が望むは新大陸へと通じるもののみ!」

 守形は右手の突きと見せかけて左足での中断蹴りを仕掛けて来た。ニンフは必死にこれを避ける。

「それに俺が美香子に金を借りねばならぬ要因はお前だろうが」

 守形が攻撃を続けながら瞳を細めた。

「俺の下着やハンカチを全て盗み去ったのはお前だろう? そのせいで買い直すのに美香子に借金を負ってしまった」

 守形は智子が握っているブリーフに『守形』と名前が書いてあるのを見逃さなかった。

「大きな誤解です。先輩の衣類は会長と2人で山分けにしたんですから、あたし1人で盗んだんじゃありませんよっ!」

 智子は大きな声で反論した。

「そうなのか?」

 守形は横目で美香子を見た。

「独占禁止法に抵触しないように〜2人で分けただけよ〜〜」

 美香子は何気なく目を逸らしながら大声で答えた。

「フッ。まあ良い。美香子はこれ以上智樹相手に遊んでいないで、見月を連れて行け。智子の相手は俺が引き受ける」

「分かったわ〜」

 美香子は首を振って頷く。

 

「桜井く〜ん。そういう訳だから今回はここまでね〜♪」

 美香子は鋼鉄の鞄を智樹の肩へ向かって投げ付けた。

「ぎゃあぁあああああああああああぁっ!?」

 昨夜の傷口が開いて智樹が悲鳴を上げる。

「智樹っ!!」

 ニンフが智樹に駆け寄って抱きとめる。美香子はその隙を見逃さなかった。

「それじゃあ見月さんは頂いていくわね〜〜♪」

 美香子が少女とは思えない怪力を発揮して動けないそはらを肩に担ぐ。

「と、智ちゃん……っ」

 そはらは泣きそうな表情で智樹を見ている。けれど、体が動かない状態ではろくな抵抗も出来ない。

「そはらっ!!」

 ニンフの治癒を受けても智樹の傷は深い。智樹に動ける余力はなく、ニンフもまた智樹の治療に精一杯で動ける余裕がない。

「それじゃあまたね〜〜〜♪」

 美香子はそはらを担いだまま走り出し、またたく間に校内へとその姿を消していった。

 

「そはら〜〜っ!」

「ダメよっ! 暴れたら傷が広がるわよっ!」

 暴れる智樹を羽交い締めにしながらニンフが必死に宥める。

「ニンフっ! その大馬鹿を連れてさっさとここから逃げてっ!!」

 智子が守形の攻撃に押され後退しながらニンフに向かって叫ぶ。

「そはらぁあああああぁっ!!」

 智樹はそはらが消えた学校の方角を向いて叫び続ける。その体は暴れ続けて治癒の能力が満足に発動出来ない。

「智子っ! 殿は任せたわよっ!」

 これ以上この場にいても状況が悪化するだけだと思ったニンフは撤退を決意する。

「離せ、ニンフッ!」

「体勢を立て直したらすぐにそはらを救いに行くわよっ!!」

 ニンフは智樹との会話を打ち切って空へと飛翔する。

「智樹を殺そうとしたり助けたり、本当に訳が分からんな。智子の行動は」

 守形は逃げ去っていくニンフと智樹を横目で見ながら智子への攻撃を続ける。

「女はいつだって謎に満ちているものなんですよ。よく覚えていて下さいね、守形先輩♪」

 一方、智子も2本の強化ブリーフで守形へと反撃を試みる。

 激しい打撃の応酬が空美学園の手前でいつまでも響きあっていた。

 

 

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「そはらぁあああああああああああぁっ!!」

 智樹が目を覚ました時、既に窓の外は暗闇に支配されていた。

 桜井家へと辿り着いたニンフがジャミング・システムを用いて智樹を強引に眠らせて体力回復を図らせたのだった。

「何でもっと早くに起こしてくれなかったんだっ!」

 窓の外を指さしながら智樹はニンフに怒りをぶつけた。

「アンタの体力が一定以上に回復しないと目覚めないようにしただけよ。本当なら2、3日は寝ていないとダメなぐらいなんだから」

 ニンフは血に染まった包帯や体を拭くのに使ったタオルを整理しながら答えた。そこに見える血の量は智樹の負っていた傷が如何に深かったか端的に物語っていた。

「そうか。怒って悪かったな」

 ずっと看病させていたことに気付いて智樹が謝罪する。エンジェロイドは眠らないとはいえ、休憩を要していたのはニンフも同じ筈だったのだから。

「一刻も早くそはらを助けて美香子を倒さなきゃいけないと思っているのは私も同じだもの。智樹の怒りは私の怒りでもあるわ」

 ニンフは立ち上がる。

「さあ、傷が癒えたのならもう一度美香子の元に行ってリベンジを果たすわよ」

「ああっ」

 智樹も立ち上がりながら呼応する。

「智子も行くわよっ!」

 屋根の上から警護を続ける少女に向かってニンフは声を掛ける。

「………………そうね」

 ちょっとした沈黙の果てに智子は呼応し、玄関前に向かって飛び降りる。

「美香子は空美学園の生徒会室を新たな拠点に構えている。デルタは五月田根家に留まったまま。守形の戦い方もインプットした。今回はきっと勝てるわっ!」

「おおうっ!」

 ニンフと智樹は勇ましく手を高く挙げながら出陣した。

 

 

 そして30分後。

「うふふふふふ〜。エンジェロイド以上の攻撃力を誇る〜〜見月さんに自主的に協力してもらうことに〜〜ついさっきようやく成功したわ〜〜♪」

「智ちゃんっ! ニンフさんっ! 早くここから逃げて〜〜っ!」

 智樹とニンフは救いに来た筈のそはらから攻撃を受けていた。

「うふふふふ〜っ♪ 真っ白いウェディングドレスがとてもお似合いよ〜〜見月さ〜〜ん」

 生徒会長席に座る美香子は目前で繰り広げられている激闘、というか逃亡劇を見ながらご機嫌だった。

「そはらっ! 正気に戻るのよっ!」

 ニンフが必死に訴えかける。同時にジャミング・システムでそはらの行動に介入を試みる。

「ニンフさんっ! 危ないからここからすぐに逃げてっ!」

 だが、ニンフの介入に対するそはらの返答は殺人チョップの連発だった。

「危ねえっ!」

 智樹がニンフを抱きかかえて跳ぶことで何とか難を逃れる。

「わたしの体……意志と無関係に勝手に動くの。だから……早く逃げて〜〜っ!」

 そはらは泣いていた。

 だが、その涙とは裏腹にその手から放たれる殺人チョップは一切の容赦がない。

「ニンフちゃん達が何をしようと〜〜会長の人心掌握は完璧よ〜〜っ♪ だって〜〜会長はカリスマに溢れているのだから〜〜♪」

 戦闘に一切参加しない美香子は余裕の笑みを崩さない。戦闘中にも関わらず紅茶を嗜んでいるぐらいだった。

 そして実際に智樹がどんなに訴えかけようとニンフがプログラム介入を試みようとそはらの呪縛は解けなかった。

 

「会長を倒さない限りそはらの呪縛は解けないって訳ね」

 昼間に続いて守形と打撃を交わしあっている智子が舌打ちしながら状況を分析した。

「そうだ。そして見月がこちら側にいる以上お前達に美香子を倒す術はない」

 守形が打撃を繰り出し続けながら首を縦に頷いた。

「見月さ〜〜ん。そろそろ桜井くん達に〜〜ガツンと大きいのをお見舞いしてあげてね〜〜♪」

 美香子の声に反応してそはらの右腕の出力が急激に高まっていくのを感知。

 これはイカロスの攻撃さえも上回ると言われる殺人チョップ・エクスカリバーの発動体制に間違いなかった。

 あんな技が発動されれば智樹もニンフも原子分解されることは免れない。狭い室内で逃げ場は存在しない。

 そはらの体の負担さえもまるで考えないその戦術は美香子の本気を示すもので間違いなかった。

 

「どうやら……これまでのようね」

 智子は2枚のブリーフを両手と共に下ろした。

「智子ちゃ〜〜ん。それはどういう意味かしら〜〜?」

 興味を惹かれた美香子が身を乗り出して尋ねる。

「降参ってことよ」

 智子は手にもっていたブリーフを地面に落とした。

「そはらが会長側にいるんじゃ勝てそうにはとても思えないもの」

 智子は大きく溜め息を吐いた。

「智子ちゃんは賢いわね〜〜♪ でもぉ〜〜昨日今日あれだけ会長を追い詰めたあなたを〜〜そう簡単に信用すると思うの〜〜?」

「信用なんて会長には必要ないでしょ? 会長が勝利を掴む為にあたしを効果的に使役すれば良いだけの話よ」

 智子はつまらなそうに答える。

「それとも、降伏さえも認めないというなら、この命が燃え尽きるまで大暴れしてあげましょうか? 会長は倒せなくても、会長の陣営がカオスやイカロスに絶対に勝てなくなるぐらいには消耗させてやる自信ならあるわ」

 智子は美香子を見ながらクスっと嗤った。その反抗的な瞳は、降伏を受け入れなければ美香子のカード入手の野望を砕くと雄弁に物語っていた。

「智子ちゃんもなかなか交渉上手ねえ〜」

 美香子は必殺の覚悟でいる智子を見ながら笑っている。

「智子ちゃんの降伏を〜〜特別に認めてあげるわ〜〜共に世界を征しましょう〜〜」

 美香子は智子を陣営の一角に加えることを認めた。

 

「じゃあ〜〜早速〜〜桜井くん達を〜〜始末してくれないかしら〜〜? 勿論全殺し〜♪」

 そして美香子は早速笑顔でえげつない命令を述べた。

「……降伏を受け入れるにあたって1つ条件をつけたいのだけど?」

「条件?」

 美香子が首を捻る。

「もう勝負はついたことだし、ニンフと+αをこの場は見逃してやって欲しいのよ」

「何故?」

 智子は守形を見ながらしなを作った。

「智子〜守形先輩に仲間を平気で裏切って始末するずるい女だって思われたくないし〜〜」

 少女はぶりっこしながらきゃる〜んとポーズを決めた。

「それに、ここで智樹達を殺したら……そはらの士気が下がってイカロスと戦う時には使い物にならなくなっているわよ」

 冷たい瞳で美香子を見据える。

「そうね。前者の理由はともかく、空女王(ウラヌス・クイーン)と戦う際には見月さんが完璧な状態じゃないと勝ち目は生じないわね」

 美香子は短く息を吐き出した。

「良いわ。この場は智子ちゃんの提案に免じて見逃してあげるわ。桜井くんもニンフちゃんも敗者らしくさっさと去りなさい」

 美香子は座り直しながら天井を見上げる。

「駒は揃ったことだし、後はどうやってカオスちゃんと空女王を倒すか。策士として腕の見せ所よね」

 美香子の興味は既に次の作戦へと移っていた。智樹達のことは既に眼中になかった。

 

 美香子の態度を見て智樹の心が苛立つ。

 だが、そんな智樹の袖を引っ張り自制を求めたのはニンフだった。

「行くわよ、智樹」

 プライドの高いニンフは全身を震わせていた。だが、プライドに従って無謀な戦いを挑むよりも退くことを選んだのだった。

 それはまだ諦めた訳ではないから。美香子にカードを渡すことは出来ないと分かっているから。

「この場は撤退よ、智樹」

「ああっ」

 智樹とニンフは言葉少ないに生徒会室を出ていった。

「無様な負け犬姿がとってもお似合いよ〜〜っ♪」

 その背中に美香子の嘲笑を受けながら。

 

 

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「これから…どうしようかしら?」

 空美学園の敷地を抜け出た所でニンフがポツリと呟いた。

 カード争奪戦から手を引いた訳ではない。けれど、打つ手がなくなってしまったこともまた事実だった。

 戦闘用エンジェロイドでありながら人間に戦闘で遅れを取っている我が身が歯痒かった。

「カオスと、手を組もうと思うんだ」

 ポツリと呟いた智樹を見る。

「カオスと? 幾らなんでもそれは無理なんじゃないの?」

 ニンフは首を捻った。勝手気ままなカオス相手に交渉が通じるとはとても思えない。

「そうか? カオスは愛を知りたがっていたからな。愛が何だか上手く伝えてやれれば仲間になってくれる気がするぞ」

「何? 智樹はカオス相手にいかがわしいことでもするつもりなの?」

「んな訳がねえっての!」

 智樹が両手を上げて怒った。

「………………そうよ。智樹がそういうことするのは私だけにしてもらうんだから」

「何か言ったか?」

「何にも言ってないわよ」

 ニンフは智樹を無視するようにしてそそくさと前を歩き出す。

「どこへ向かってるんだ?」

 尋ねながら智樹が慌てて付いてくる。

「空美神社。カオスの所に行くんでしょ?」

「アイツ、そんな所に潜んでいたのか」

「カオスは、攻撃力は高いけれど自己修復能力は低い方なの。智子にやられた傷が治るまでは派手に動けないのよ」

 カオスとの死闘からまだ実際には一晩しか経っていない。けれど、その間に戦況は大きく傾いてしまった。しかも悪い方へ。それを感じずにはいられない。

「私達……これからどうなるのかしらね?」

「俺達は生きてるんだ。逆転の手なんかこれからまだ幾らでも出てくるさ」

 躊躇なく言い切る智樹。そんなポジティブ・シンキングに溢れた少年の横顔にドキッとする。

「そうね。まだ諦める必要はないわよね。諦める訳には絶対にいかないのだし」

 美香子にカードは渡せない。ならその為の行動を取り続けるのみ。

 自分たちに出来ることはそれしかない。

 でも、智樹と一緒ならきっとそれを成し遂げられる。そんな気がした。

「行きましょ。カオスの所へ」

 智樹の手をそっと握る。自分よりも大きくて温かい少年の手だった。

 智樹のこの手の感触さえあれば戦い抜けられる。非論理的だけどそう思った。

「……ああっ」

 智樹は多少の戸惑いを見せたものの、手を繋いだことには何の言及もしてこなかった。

 2人は手を繋いだまま空美神社へと足を運んだ。

 

 

 だが、2人を待ち受けている現実は決して甘くない。

 智樹達は空美神社の境内でそれを再び突き付けられることになった。

 長い石階段を昇り本殿前の広場で見たもの。

 それは──

「わっはっはっはっは。素晴らしいっ! 実に素晴らしいですよ、イカロスさんっ! さすがは僕がこの人生で一生を捧げるに足る美貌と実力を兼ね備えた女性だっ!」

 髪をかき揚げながら興奮の大笑いを奏でる鳳凰院・キング・義経の姿。

「きゃぁあああああああああああぁっ!?」

 絶え間なく降り注ぐ一方的な攻撃に成す術もなく翻弄され傷を負っていくカオスの姿。

 そして──

「……ゲート・オブ・アポロン」

 白い夏用パーカーにピンクのショートパンツという私服姿で必殺の矢を空中から自動連射させている無表情の空女王(ウラヌス・クイーン)の姿。

「何で、ここにアルファがっ?」

「マジ、かよ……っ」

 目の前の想定外の光景に、そしてその圧倒的な破壊力を見せつけている空女王の存在に2人は息を呑んで体を震わせている。

 事態は智樹とニンフの予測を遥かに超えて風雲急を告げていた。

 

 

 続く

 

 

 

説明
水曜定期更新。
適当に書いているとなかなか進まないUBW。
けれど個人的には対キャスター戦がこのシナリオの一番の核かなと思っているのでまあ進みが遅くても良いかなと。
美香子と守形、そして智子の複雑な関係をもうちょっと表していきたいなあと。

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コメント
個人的には次のキャラ紹介も楽しみです(mtms)
tkさまへ イカロスさんの望みにワカメ義経はどうしても欠かせない存在です。イカロスさんは乙女な心で美香子とは比べ物にならないほど恐ろしいことを考えています(枡久野恭(ますくのきょー))
BLACKさまへ カオスを単独で倒せる実力というのも重要なのですが、もっと大事なのはワカメの相手役を務められるのは彼女しかいないという点ですね(枡久野恭(ますくのきょー))
イカロスさんの配役は予想がついてましたが、ワカメ役までいるのは驚きでした。…幸せそうなワカメ役の彼だけど、ある程度オチが読めるだけにお気の毒としか。(tk)
イカロスがギルガメッシュをやってるのか。まあゲートオブバビロンの応用が利きそうなのはイカロスくらいか。(BLACK)
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