『改訂版』真・恋姫無双 三人の天の御遣い 第一部 其の十八
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『改訂版』 第一部 其の十八

 

 

 

孫呉 揚州 建業

【赤一刀turn】

 俺達が五胡との戦を終え、建業に戻ってから二週間ほどが過ぎた。

 今の建業は蓮華と亞莎が内政をまとめてくれていた事もあり、かなり落ち着いている。

 現在の検案としては新たに加えた荊州の南東部と揚州の南方と交州の東部の治安だが、それも手を打ち終わり今は推移を見守る段階にはいっている。

 何を言いたいかと言うと、今の俺は特別な仕事もなく余裕が有るという事だ。

 そうなると俺の以前からの心残り・・・というか気になっていた事を解消しようと思い立った訳だ。

 

 それは大喬と小喬の事。

 

 この事は前の外史の記憶が戻り、水関や虎牢関を攻めている頃から気になっていた。

 雪蓮と冥琳がいるのに、あの二人が居ないのはどういう事なのか?

 まあ、雪蓮と冥琳のラブラブっぷりを見れば特別嫁なり婿なりを取る必要は無いという事だろうな。

 それでも何か情報を持っていないかと冥琳に訊いてみた事がある。

 

「何?大喬と小喬だと?名前は聞いているぞ。『江東の二喬』と言えば有名だからな。これから虎牢関を攻めるという忙しい時に何だ?興味が有るのか?」

「え?いや・・・・・まあ、なんというか・・・・・」

「大方兵たちの噂話でも聞いたんだろう。しょうのない奴だな・・・・・二喬の事ならその兵たちにでも聞いた方が分かるぞ。だが、手は出すなよ!いくら孫呉公認の種馬とはいえ、城の外までは許していないのだからな。」

 

 てな具合だった。

 そこで言われた通り暇を見ては兵たちから少しずつ情報を集めた。

 

「え?『江東の二喬』ですか?ええ、知ってますよ。は?見た事?小喬様なら・・・」

 

「小喬様は街や畑、山でもお見かけしたことがあります♪いやあ可愛かったなぁ♪」

 

「大喬様は滅多に屋敷から出て来られませんから・・・でも二人で並んだ姿を見たときは

感動しましたね♪」

 

「大喬様と小喬様ですか・・・・・確かに可愛らしく美しい双子の姉妹ですが・・・オレはもっとお尻の大きい方が・・・」

 

「北郷の大将!あんたは孫策様、周瑜様、黄蓋様、孫権様、陸遜様とあれだけの乳に囲まれていて何故あの姉妹の様に慎ましやかな乳に惹かれるんですかっ!!」

「いや待てっ!!慎ましやかだからこそ良いんじゃないかっ!!孫尚香様を見ろ!あの小悪魔のような微笑みと絶対領域にはあの乳こそが最高に合うじゃないかっ!!」

「それを言ったら周泰将軍や甘寧将軍はどうなるっ!?」

「やはり尻だ!尻っ!!甘寧将軍の締め込みで引き締めたお尻が戦場で見えた時、どれだけ希望を与えられたかっ!!」

「お尻といえばやはり孫権様しか有り得んだろうがっ!!尻神様とまで言われたあのお尻を崇拝せずして尻好きを語るとはっ!!」

「・・・・・・・・・・お前ら後で殺されても知らんぞ・・・・・」

 

 という感じで、情報収集は困難を極めた。

 変態仲間は増えたが・・・・・。

 

 取り敢えず集めた情報を整理し、そこから推理してみると。

 大喬が『ふたなり』であることは誰も知らない。

 多分それを隠すためあまり外出せず、代りに小喬が外出し、大喬を励ます物を手に入れてくる。

 そんな生活をしている様だった。

 

 そして今、俺はそれを確認すべく大喬と小喬の住んでいる屋敷の門を物陰から見ていた。

 言っておくがストーカー行為じゃないぞ。

 むしろ今の俺は刑事北郷一刀、張り込みの最中とでも言うべきか。

 あんパンと牛乳の差し入れをしてくれる相棒は居ないけどな。

「しかしでかい屋敷だよなぁ。名家とは聞いていたがここまでとは・・・」

 

 実は昨日もここで張り込みをして小喬は確認していた。

 大喬にはいつ会えるか分からないから半ば諦め、しばらく小喬の様子を見てから帰ろうと思い後を着いて行ったら

「明日はお祭りだからお姉ちゃんも連れて来るわ♪」

 という饅頭屋のおばちゃんとの会話が聞こえた。

 その時、秋の収穫祭と戦勝のお祝いを同時にすると会議の議題になっていたのを思い出した。

 

「俺もパレードに参加しなくちゃいけないんだよなぁ。」

 でもここまで来たら大喬の顔を一目でも見ておかないと気が済まなくなっていた。

「急いで戻れば間に合うか・・・・・まあ、最悪遅れた所で俺なんか居なくても大丈夫だろうしな。」

 主役は雪蓮だからな♪

 着飾ったみんなを観たいとは思うし。

 なんて考えていた時、門扉が開き人影が・・・・・・。

 

「小喬と・・・・・大喬っ!」

 

 小喬に手を引かれ走ってくる大喬。

 そのまま俺が隠れている場所を通り過ぎていく。

 

「お姉ちゃん!孫策様や周瑜様、それに噂の天の御使いも見れるかも知れないよ♪」

「ま、待ってぇ!小喬ちゃん・・・そんなに急がなくても・・・・・・」

 

 俺は二人が通り過ぎた後、物陰から出て二人の後ろ姿を見送った。

「・・・・・う〜ん、やっぱり表情に影があるような気がするな・・・・・可愛いのは変わらないけど・・・」

 

「誰が可愛いって?・・・・・・か・ず・とぉぉぉおっ!!」

 

「こ、この声は・・・・・シャオっ!?」

 恐る恐る振り向くと、そこには((煌|きら))びやかな服を((纏|まと))ったシャオが地獄の鬼も裸足で逃げ出す怒りの形相で仁王立ちしていた・・・・・。

「昨日から怪しい行動してるから気になって来てみれば・・・・・これは浮気よっ!!」

「うわっ!シャオ!月華美人を構えないでっ!!これにはワケがっ!!」

「・・・ふぅん、どんな訳かしら♪」

 笑顔なのに((蟀谷|こめかみ))の血管が浮いて口角がヒクヒクいってる・・・・・これはヤバイ!

 だがどう説明すればいい!?

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・やっぱりワケは言えないや♪」

 

「かずとおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉおおおぉぉっ!!」

 

「うわあああああああああぁぁぁああっ!!」

 俺は必死に逃げた!

 しかし街中は祭りで人が溢れ始めている。

 走りやすい場所を求め、気が付けばパレードの巡回コースの中にいた。

 巡回コースは俺とシャオが走り出すと完全な人垣が出来てしまい、脇道に入る事が不可能になった。

 とにかく俺は必死に走り抜けたが、建業の街を三周した所で力尽きた。

 ついにシャオに捕まりそのまま城に引きずられて行く羽目に。

 

 俺のしていた事がみんなの知る所となり、それから暫く俺はみんなの下僕状態となったのだった・・・・・。

 

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曹魏 ?州 許都城内会議室

【紫一刀turn】

 机の上に広げられた地図。

 それを俺、華琳、秋蘭、桂花、稟、そして南蛮から戻った風の六人で囲んで睨んでいる。

「南方は順調の様だけど、こちらはどうしたものかしらね。」

 ため息混じりに華琳が呟く。

 今の議題は河北。

 特に幽州の事だ。

「私としては白蓮に戻ってきて貰うのが一番だと思うのだけど。」

 華琳は前からそう思っていたようだ。

 しかし肝心の白蓮が何も言ってこない。

 秋蘭も困った顔で華琳を見る。

「袁紹との戦いの後、何かしらの打診が有ると思っていたのですが・・・・・当たり前のように桃香殿に付いて五胡との戦いに行ってしまいましたからね・・・・・」

 その後は五胡との戦いが激しくて、みんなの頭からそのことはキレイさっぱり忘れ去られていた・・・・・俺も人のこと言えんけど・・・。

「風、蜀で白蓮に伝えたのかしら?」

「いやぁ、それがですね〜。白蓮さんの緑のお兄さんを見る目がその〜・・・・・・あまりに不憫で言い出せませんでした〜♪」

「やはりねぇ・・・・・あまり野暮なことを言いたくないし・・・・・」

 どうやら白蓮は緑と離れたく無い為、幽州に戻ると言い出せないと云う事らしい。

「華琳様。いっそのこと例の計画の直轄地に・・・」

 

「桂花っ!!」

 

 突然華琳が怒鳴って桂花を遮った。

 桂花は何を言おうとしたんだ?

「どうしたんだ華琳?桂花の意見を聞いてあげても・・・」

「それはもういいの!取り敢えず幽州は今のまま代官を置いておく事にしましょう。」

 な、なんだ?何を怒ってるんだ華琳は・・・・・。

「一刀殿、そろそろ巡回の時間ではないのですか?」

 稟に言われて思い出した。

 確かにもうそんな頃だな。

「あ、あぁ。それじゃぁ俺は巡回に行ってくるよ・・・・・桂花。」

 ここは励ましの言葉くらい掛けておくか。

「何を言おうとしたのか解らないけど、気落ちするなよ。」

「うるさい馬鹿っ!!あんたの所為なんだからねっ!!」

「そうやって怒鳴り返せるなら心配いらないな♪じゃぁ、行ってくるよ。」

 俺は会議室を後にして、凪が待っている詰所に向かった。

 

【エクストラturn】

 紫一刀が会議室を出て、足音が遠ざかるのを確認してから華琳は口を開いた。

「桂花、あなたちょっと迂闊よ。」

「も、申し訳ありません。華琳様・・・・・」

 縮こまる桂花をやれやれといった感じで華琳は見た。

「まあ、あなたの意見自体は悪い考えではないわ。候補に入れておきましょう♪」

 表情を緩め華琳は椅子に((寛|くつろ))いだ。

「あの・・・・・華琳様。」

「なに、桂花?」

 

「やはり私には納得が行きません!あの男達三人を皇帝に据えるなど!!」

 

 桂花は立ち上がって華琳に抗議した。

「これは魏、呉、蜀の三国で話し合って決めた事よ。あなただって一度は納得したじゃない。」

 華琳は愉快そうに言った。

 そんな華琳の態度にも納得いかない桂花は更に続ける。

「それは・・・・・確かにそうですが・・・あの男が華琳様の上に立つなど以ての外ではないですか!私は華琳様以外の人間に仕える事等できませんっ!!」

 激昂する桂花に対して秋蘭、稟、風は静かにお茶を啜っていた。

 三人は何れこうなるだろうと予測していたので気にも止めていない。

 何より華琳が楽しんでいるのだ。

 それを邪魔する様な事はしない方が賢明というものだ。

「民の一刀たち三人に対する人気は相当な物になっているのは承知しているのでしょう?」

「は、はい・・・・・」

 そう、今大陸全土で『天の御遣い』の噂は鳴り響いていた。

 

 黄巾の乱からその活躍は聞こえ始め。

 董卓の乱では水関、虎牢関、洛陽と一番乗りに貢献し。

 袁紹袁術の乱に於いてその才覚を発揮し。

 五胡襲撃に対し知略を伝え精強なる軍勢を整え。

 遂には羌族王をその足元に平伏させ、己が軍勢に加える。

『天の国より三人の御遣い降臨す。その名は北郷一刀。魏、呉、蜀の王を援け内憂を祓い、外憂を退け、大陸に平和を((齎|もたら))す』

 

 朱里が広め始めた((喧伝|けんでん))が今ではここまでに成長していた。

「かなり大袈裟になってはいるけど、間違ってはいないわ♪」

「結果だけを見れば確かにそうですが・・・・・」

「それにね、三人の一刀たちが居なければ、私は雪蓮、そして桃香と覇を争って多くの血を流していたと思う・・・・・いえ、もし一刀たちが居なくなれば今からでも間違いなくそうなる。」

「そ、それは・・・・・」

 桂花にもそれは解っていた。

 三国の同盟が如何に微妙なバランスで成り立っているのか。

 しかもそれを支えているのは三人の一刀たちだと言う事も。

「そんな訳だから私はこれ以上の名を得ることよりも、実を取ることにしたわ。」

「実・・・・・ですか?」

「えぇ♪そのために一刀たちには帝王学と云う物をじっくり教え込むつもりよ♪」

 楽しげに語る華琳に、お茶を啜っていた秋蘭が笑顔で話しかける。

「華琳様。北郷たちには内緒で進めている計画なのですから、即位させるまでは悟られない程度でお願い致します♪」

「ふふふ、そうね気を付けるわ♪」

 わざわざサプライズという手段を選んだのには理由がある。

 一刀たちの性格を考えれば素直に皇帝になるとは思えないというのが三国共通の意見だった。

 ならば先に外堀を埋めて首を縦に振らざるおえない状況にしてしまえばいいという事である。

 単純に一刀たちを驚かせたいという意見が多かったのも確かだが。

 しかし華琳にとってはもう一つ違う意味があった。

 一刀を目の前にすると素直に感謝が言えないのを自覚している。

 これは自分の素直な気持ち、感謝の意を伝えるため自分を追い込んでいるのだ。

 聡い者なら華琳の行動の意味に直ぐ気が付くだろう。

 だが華琳は自分の姿がどれだけ他人から見て滑稽に映ろうとも、この感謝の気持ちだけは伝えなければならないと心に決めていた。

 

「華琳様、一つ懸念が有ります。」

 稟が報告書の束を手に発言した。

「袁紹達の消息がまた途絶えました。こうも神出鬼没な上に行く先々で騒動を起こされては、この計画にもどのような影響を与えられるか想像が付きません。」

 華琳は麗羽たちが旅に出てから監視を付けていた。

 しかし麗羽一行が宝探しを始めた辺からおかしな事が起こり始めたのだ。

 入った洞窟の中で行方不明になり、その場所から数十里離れた場所に姿を現す。

 それが今では当たり前の様になっていた。

「またなの!?全くどこまでこちらの手を煩わせれば気が済むのかしら・・・・・次に見つけたらどこかの街に釘付けにする方法を考えないといけないわね・・・・・・」

 

 頭を痛める華琳だったが、意外に早くその問題は解決するのだった。

 

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蜀 益州 成都付近の森

【エクストラturn】

 静寂な森の中。

 人知れず斜面に開いた洞窟から、静寂を破るドドドという水音が響き出した。

「「「「「きゃあああああああああ!!」」」」」

 悲鳴を上げながら大量の水と共に洞窟から吐き出されたのは、麗羽、猪々子、斗詩、美羽、七乃だった。

「いやあ死ぬかと思ったぜ♪」

 猪々子はセリフとは裏腹にとても楽しそうだ。

 ずぶ濡れの姿ながらもとても元気である。

 それとは反対に他の四人はぐったりしていた。

 

「・・・・・うぅ・・・もういやじゃぁ・・・・・こんな生活もうイヤじゃあっ!妾はあったかいおフトンで寝て!蜂蜜水をのんですごしたっへぶしっ!!」

 

 冬の寒空に全身びしょ濡れで放り出さた美羽を見れば、そのセリフも決して贅沢だとは誰も思えないだろう。

 

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【白蓮turn】

「わ、悪いな北郷。付き合ってもらっちゃって・・・・」

「だから気にしなくていいって。さっきから何回同じ事言ってるんだよ♪」

 そ、そんな笑顔で言うなよぉ・・・・・・照れるし、罪悪感も感じるし・・・・・まったく朱里の奴!

『これからご主人さまたちが皇帝に即位してもらう為の会議をしますので、申し訳ないのですがご主人さまが会議室に近づかない様適当な用事で連れ出して下さい。』

 なんて言うから取り敢えず相談事があるって言って付いて来てもらって・・・・・・あれ?いつの間にこんな森にまで来てたんだ?・・・・・・・ちょ、こ、これはいくらなんでも((人気|ひとけ))がなさすぎだろ!

「年の瀬だってのに、この成都の辺って幽州と比べるとかなり暖かいだろ。」

「そ、そそ、そうだな・・・暖かくて汗まで出てきちゃうなあ!あは、あははははは!!」

「・・・・・・いや、さすがにそこまでは・・・・・」

 あ、暖かいから何だ!?ま、まさか服を脱いでも大丈夫だとか!?

「う〜ん、回りくどい言い方じゃダメか。」

 え?え?えええぇ!?な、なに言い出す気だ北郷!!

「白蓮の相談って幽州の事か?」

「へ?・・・・・・・・・・・・・・幽州?」

「あれ?違った?」

 言われてさっきまでの熱が一気に冷めた・・・・・確かに私が抱える悩みの一つだ。

 袁紹との戦いに勝って、宴会の時に幽州に戻ると言おうかと思ってたのに華琳に嫌味言われて何か言い出し辛くなっちゃったし。その後、直ぐに五胡襲来の知らせが来てそのまま桃香の軍に自然と編入されて・・・・・まあその時は北郷と一緒にいられるならいいかなぁなんて思ったのも事実だけど・・・・・五胡との戦が終わった時も私が言い出す前に翠が西涼に代官をって言い出すから、何か言う雰囲気じゃなくなっちゃたし・・・・・華琳も何も言ってこないし・・・・・・・・・・うぅ・・・なんか涙がでてきちゃったよぅ・・・。

「それじゃあ仮面白馬の事かな?この間も華蝶連者にいいところ持って行かれてたし・・・」

「・・・・・・・・いや、そのことでも・・・・」

「じゃあ象棋でねねに負けた事とか?」

「・・・・・ちがう・・・」

「恋との鍛錬で気絶しちゃったこと?」

「・・・いや・・・」

「買い物に行ったら欲しい物が全部売り切れてた事?」

「・・・・・・」

 もう、返事もできず首を横に振るのが精一杯だよぉ・・・・・・・あれ待てよ?

 なんで北郷はそんなに詳しいんだ?

 これは・・・・・北郷は私の事をいつも気にかけてくれてるって事じゃ・・・・

 

「・・・えへ♪・・・えへへ?えへへへへへ♪♪♪」

 

【緑一刀turn】

「ちょっと・・・・・・白蓮?・・・・・突然笑い出して・・・・・大丈夫か?」

 さっきまで落ち込んでたのに、顔どころか瞳までピンク色にしてモジモジして・・・・・。

 ヤバイ!何か知らんが・・・・か、可愛いじゃないか!

 さ、幸い辺に人影は・・・・・・・・ん?何だ焦げ臭いぞ?

 辺りを再度見回すと、すっかり葉の落ちた木々の上に一筋の煙が立ち昇っていた。

「まさか火事!?おい白蓮!!」

「ふへへ・・・家事なら私が全部こなせるから・・・・」

「白蓮!しっかりしろ!煙が出てるっ!!」

 俺は白蓮の手を引っ張って走り出した。

「え!?なにっ!?煙!?」

 ようやく正気に戻った白蓮と一緒に煙の出処を求め木々の間を走り抜ける。

 そうして辿り着いた先は森の中を流れる小川の川原。

 そこで目にしたのは赤々と燃え上がる焚き火の炎と・・・・・・俺は夢でも見ているんだろうか?

 

 そこには素っ裸の女の子が五人、焚き火にあたっていた。

 

 俺と白蓮、そして五人の女の子の時間は完全に止まった。

 そして最初に動き出したのは。

 

「あれぇ?緑のアニキじゃん!ひっさしぶりぃ♪」

 

「猪々子!?って馬鹿!前ぐらい隠せっ!!」

「へ?ああ!わりぃわりぃ♪」

 ここでようやく残りの四人が盛大な悲鳴を上げたのだった。

 

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「つまり、宝探しをしていたら罠が作動して、水で押し流されここに出たと・・・」

「そういうこと♪いやあ流石にこの時期に水責めは辛かったなあ♪あははは♪」

 乾かしていた服を身に付け終わり、やっと事情を聞いてみればこれか・・・・・。

「猪々子・・・・・お前以前にも増して豪快になったなぁ。」

「ふっふっふ。旅があたいを強くしたのさ。」

 なんかポーズを決めて、格好つけてるつもりなんだろうが見た目は以前と変わってないから。

 こいつは放って置いて麗羽に改めて挨拶しておくか。

 白蓮はなんか向こうで膝を抱えてブツブツ言ってるし。

「えっと・・・麗羽。さっきはその・・・ごめん、山火事かと思って慌ててたモンだから・・・」

「そ、それはその・・・・・しょ、しょうが有りませんわね・・・・・」

 顔を赤くしてまともにこっちが見られないみたいだ。

 無理もないか・・・・・。

「でも無事でよかったよ。五胡の襲撃に巻き込まれて無いか心配してたんだ。」

「は?五胡がどうかしたんですの?」

「・・・・・・・・・いや・・・・・とにかく無事で何より。」

 これは斗詩がうまい具合に五胡を避けてくれたって事かな?

「斗詩も、さっきはごめん。」

「い、いえ・・・・・こちらこそお見苦しい所を・・・・・」

 

「見苦しいどころか大変結構なモノを!・・・・・・・」

 

 いかん、本音が先に出てしまった。

「・・・・・・・あ、あはは・・・・・この話題は止めておきましょう♪」

「そ、そうだね♪」

「あの、一刀さん。ここはどの辺なんでしょう?」

「あ、この森の向こうは直ぐ成都だよ。」

「やっぱりそうなんですね・・・・・・緑の一刀さんが居るってことはそうじゃないかなとは思っていたんですけど・・・・・・またずいぶん流されたなぁ・・・・・」

 斗詩はがっくりと肩を落として溜息を吐いている。

「斗詩は俺達が蜀に入ったことを知ってたんだ。」

「ええ、行商人などから話を聞いて・・・・・あ、この度は五胡の撃退、おめでとうございますっ!!」

「あぁ・・・・・うん、ありがとう。」

 斗詩のこの様子じゃ五胡襲来の原因の一端が自分たちに有る事を知らないみたいだな。

 斗詩にこれ以上の心労を負わせるのも忍びないので黙っておこう。

「なんかえらく遠くから流されて来たみたいだけど、その宝探しは何処から入ったの?」

「ええとですね・・・・・ここから南の方に行ったところに峨嵋山という大きな山が在りまして、そこの南側から・・・」

 がびざん?がびざん・・・・・峨嵋山!?

「それって三大霊峰の一つの峨嵋山?」

 確かに長江は越えないけど、徒歩で行ったら何日かかるか分かんないぞ・・・・・。

「はい・・・そうですね・・・・・・」

 どうやら斗詩も自分で言ってて信じられないみたいだ。

 本当・・・・・よく生きてたもんだ・・・。

 改めて五人を見渡すと袁術が背中を丸めて泣いていた。

 

「うぅ・・・・・見られた・・・妾の裸を・・・・・男に・・・あうぅぅ・・・」

 

 こ、これは・・・・・罪悪感が・・・しかし何と言って声を掛けたらいい物か・・・。

「美羽さま、こういう場合はですねぇ・・・・・ゴニョゴニョ。」

 張勲が袁術になにやら耳打ちしている。

 また何やらよからぬ事を吹き込んでいるんじゃ無いだろうな。

「ほえ?そうなのか?七乃。」

「えぇ♪もちろんですお嬢様♪」

「そ、そういうことなら仕方ないの・・・・・・そ、そなた・・・名を北郷一刀と申したな・・・・・」

「あ、ああ・・・」

 俺は警戒しつつ返事をする。

「そなたは妾の裸を見た以上は夫となってもらうのじゃ。聞けば天の御遣いだというではないか。袁家の姫たる妾の夫としての身分も申し分ない・・・・・と、七乃も申しておる。責任をとって妾の夫となるのじゃ。」

「ちょっと待てえええっ!!それは聞き捨てできないぞっ!!」

 白蓮が飛び上がって割り込んできた。

「な、なんじゃおぬしは!?・・・・・・はて、どこかで見た事があるような・・・・・」

「公孫賛だっ!反董卓連合の時に一緒に居ただろう!!」

「そうでしたっけ?」

 七乃の容赦のないボケに白蓮が落ち込みかけるが・・・・・お、持ちこたえた。

「い、居たんだよ!それよりその理屈だったら張勲や袁紹、文醜に顔良も北郷の嫁になっちゃうじゃないかっ!!」

 あ、白蓮、それは・・・・・。

「そういやそうだな♪それじゃあたいら今からアニキの嫁ってことだ。」

「そう・・・・・なんですの?斗詩さん?」

「そう・・・なりますねぇ。その理屈だと。」

「私まで妻にして頂けるなんて♪ありがとうございますぅ♪」

 あ〜あ、やっぱりこうなるか。

「あ、あれえぇ?・・・・・北郷ぅ・・・・・」

 そんな涙目にならなくてもなんとかするって。

「えっと、なあ麗羽。いいのかそれで?」

 珍しく少し考えてからの返事が来た。

「まあ少々気にはなりますが、構いませんわ。元より真名を許した相手ですから。」

「それじゃあ猪々子。いいのか?」

「そうだなぁ、一つ条件がある。」

「うん。」

「斗詩の第一夫はあたいで、第二夫がアニキって事ならあたいもアニキの嫁になる。」

 なんだかややこしいな・・・・・まあ問題無いだろ。

「分かった。斗詩はそれでいいの?」

「えぇ・・・その・・・私はいいですけど、一刀さんは大丈夫なんですか?」

 嫁云々は七乃の計略だろうから本気にする事も無いだろうな。

 斗詩もその辺解ってるからそう言ってくれてるんだろう。

「まあ、ね。それじゃあ・・・」

「妾の真名は美羽なのじゃ。真名で呼んでたも、主様。」

「ぬ、ぬしさま?」

「妾の夫なのだから主様なのじゃ♪」

「分かった。真名をありがとう、美羽。」

「それじゃあ私も真名をお預けしますね。私の真名は七乃です。よろしくお願いしますね、一刀さん♪」

「うん、よろしくね七乃。」

 俺が五人と話している間、白蓮は拗ねたような顔をしていた。

「さて、それじゃあ今から成都に来てもらって・・・・・蜀のみんなとも真名を交換してもらおうかな♪」

 俺は笑って言ったが、全員驚愕している。

「あ、おい北郷!勝手にそんな事決めちゃって・・・」

「お、そうだ!まずは白蓮からやっておこうか♪」

「ええ!?ちょっとそれは!!」

 俺は白蓮の目をじっと見つめる。

「確かに白蓮は過去のことを考えれば((蟠|わだかま))りも有るのは分かってる。でも麗羽たちだって今じゃ国をなくして旅をしてるし・・・・・駄目かな・・・・・」

「そ、そりゃあ勝ち負けは兵家の常だし・・・・・ああもう!分かったよ!水に流す!!私の真名は白蓮だ!」

 こうして麗羽たち五人は、まずは白蓮と真名を交換できた。

 

「どうすんだよ北郷。桃香はあっさり真名を交換すると思うけど、愛紗なんか簡単に納得しないぞ。それに・・・・・・月の事もあるし・・・」

「まあそこは俺が骨を折って説得するしかないだろうな。月の事はみんなが気を付ければ大丈夫だと思うし・・・・・」

 俺は成都に向かって歩きながら麗羽達を肩越しに見る。

「なんかあのまま放って置いたらもっと悪い事が起こるような気がしてしょうがないんだよなぁ。」

「・・・・・・それは・・・・・確かにそうかも・・・・」

 

 さて、頑張ってみんなを説得しますか。

 

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蜀 成都 街中

【緑一刀turn】

「主様、なかなか活気があってよい街じゃな♪」

 美羽は目を輝かせて街をキョロキョロと見回している。

 活気が有るのは復興が順調なのと年末の為なのだが、美羽は暫く宝探しに付き合わされ大きな街に来るのが数ヶ月ぶりという事だからはしゃいでいるんだろう。

「田舎臭くはありますけど、まあいい街ではありますわね。気に入りましたわ。」

 対して麗羽はさして興味が湧く様子も無く俺の後ろを付いて歩いている。

 猪々子は食べ物屋の匂いに誘われそうになる度、斗詩に連れ戻されていて。

 七乃は美羽の姿をニコニコと見守るだけだった。

 

「主様、あれは何をしておるのじゃ?」

「主様、あそこで売っておるのはなんじゃ?」

「主様、主様♪」

 

 こんな感じで一つ一つ答えている内にかなり懐かれたみたい。

 根は素直な子なんだな。素直すぎてアホっ子・・・・・あれ?最近同じ様に感じた事が・・・・・って美以かっ!!

「主様っ!あれは何じゃっ!?あのような意匠の服はじめて見るのじゃっ!!」

「え〜と、どれど・・・・・・れ?」

 美羽の指差した先の人物、メイド服の詠と目が合った。

「・・・・・・・・・こ」

 これには訳がと言おうとした瞬間に詠の足が腹にめり込んだ。

「ぐぼふぉっ!!」

 前屈みになった俺の頭を両手でガッチリ掴んで睨まれる。

「(ちょっとあんたっ!なんてモン拾ってくるのよっ!!)」

 お出かけから戻ってきた俺に掛けられた第一声は、メイド姿なのに『お帰りなさい』ではなく、囁き声だが強い口調のお叱りでした。

 しかも俺が子供の頃、花川戸の野良猫を連れて帰った時のお袋とそっくりな口調で。

「(い、いや・・・まずは説明を・・・聞いて欲しいんだけど・・・)」

 蹴られたお腹を押さえてなんとか声を絞り出す。

「(いいから元有った場所に戻してきなさいっ!)」

 捨て猫どころか生物としてすら扱われていない!?

「(なあ詠、取り敢えず北郷の話を聞いてやってくれないか?)」

「(白蓮!あなたが付いていながら何やってるのよ!!)

「(スマン・・・自分の人生について考えてて気が付いたら事態が進展してて抵抗してみたんだけど裏目に出て真名も交換する羽目になった・・・)」

「(全然何を言ってるか分からないわ・・・・・とにかくあんたが連れて来たのは『袁家』なのよ!恋が拾ってくる動物とはワケが違うんだから!)」

 詠にとって麗羽達は動物以下か、こりゃやっぱり野良猫じゃなく合羽橋で拾った壊れた食品サンプルの方だったか。

 それはともかく。

「(麗羽達は身に着けている物以外みんな失くしちゃってたんだ。前に送り出した時、どうしようも無くなったら頼っていいとも言ってあったし。それにこんな状況だったら俺が連れて来なくても成都に来たと思うぞ。)」

「う・・・それもそうね・・・・・・・はぁ、大きな騒ぎを起こされる前に確保できたと思うべきかしら・・・・・」

 がっくりと肩を落とす詠。

「なあ主様よ。結局その者はなんなのじゃ?」

「う〜ん・・・城内省長官だな・・・」

 詠と月には俺の身の回りの世話だけでは無く城内の総務を任せている。

 役職名を付けるとすればこんな所だろう。

「ほう、ならば妾は自己紹介しておかねばダメじゃの。妾は袁術公路。先程主様の妻となった者じゃ。」

 あ、やばい。口止めするの忘れてた。

「つ、妻ぁ!?なんでそんな急に・・・・・」

「そ、それは・・・・・・」

 美羽は頬を赤く染め身をよじる。

「そんなこと・・・恥ずかしくて言えないのじゃ・・・・・♪」

 

「このバカチOコおおおおおぉぉおっ!!!」

 

 俺の意識がブラックアウトする前に見えたのは、詠のスカートの中と黒タイツに包まれた右足が飛んでくる所だった・・・・・・・。

 

 

 

 その後。

 城で意識を取り戻した俺はみんなに事情を話し、麗羽達を城の中の離れに滞在出来る様にしてもらった。

 魏と呉にはこの事を伝える手紙を出し、助言を貰おうと思ったんだけど・・・・・。

 冥琳から来た返事は

 

『了解した。そちらで面倒見てくれ。』

 

 とだけ。

 そして華琳の返事は

 

『そのまま成都から出ないようにしてちょうだい。面倒臭かったら牢にでも放り込みなさい。』

 

 と書かれていた。

 

「・・・・・・・・・・これってもしかして・・・・・押し付けられた?」

 

 

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あとがき

 

 

この『改訂版 第一部』もラストが近くなってまいりました。

それに向け恋姫たちが動き始めております。

 

 

赤一刀ストーカー事件

本人は刑事と言い張ってますがw

前回明命が言っていた

「建業の街を三周した」理由のお話

第三部にも繋がるエピソードでもあります。

 

 

幽州問題

作者が五胡編の間に忘れていた訳ではありません・・・・・・本当ですよw

華琳の気遣いと白蓮の運の無さが

妙に噛み合ってしまいこんな事に。

 

天の御遣いの評判

三人の一刀が世間に認められ

それ以上に恋姫たちに認められる。

そんな種馬としてだけではない天の御遣いに

一刀たちは成れているでしょうか。

 

 

袁家来襲

さすがの一刀も裸で現れたのには驚いた様です。

ただ猪々子に恥じらいが無い・・・・・というか

男前な性格が旅をした結果オッサンの域に達した模様です。

 

 

花川戸と合羽橋

浅草近辺の地名です。

作者は学生時代西浅草に住んでいましたので

「一刀ならこの辺で遊んでいただろうなぁ」と思い

ちょっと入れてしまいました。

 

 

次回は

むねむね団vs貧乳党成都支部を軽くと

建国編になる予定です。

 

 

 

説明

大幅加筆+修正となっております。

今回は拠点のお話と第一部のラストに向かう導入部です。
呉は前回より少し前のお話。
魏は前回の後のお話。
そして蜀は『袁家』再登場です。


ご感想、ご指摘、ご要望、更に
「この間北郷様が連れてきた南蛮の子達、可愛くて癒されますねぇ。狩りだと言って店の魚を持っていくのは少々困りましたが、お代は全て北郷様のツケにしてありますから問題ありませんよ♪」
などのご意見がご座いましたら是非コメントをお寄せ下さい。

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コメント
…あ〜ぁ、袁家の連中が戻ってきやがった。それにしても袁紹、間接的にとは言え、漢王朝に止めを刺す事になった原因が自分達だと……分かる様なオツム持ってる訳無いかぁ、ハァ…。(クラスター・ジャドウ)
アルヤ様  五胡の次に麗羽たちの襲来。よく考えたら成都の住民の人たちは不幸すぎますねw(雷起)
量産型第一次強化式骸骨様  美羽が旅の末に手に入れたのはあったかい布団と蜂蜜水、そして一刀・・・・・・・むしろ一刀に捕まった?(雷起)
きたさん様  大喬は第三部に登場するまでは家事や勉強、そして小喬とイロイロな事をして過ごしてますよ。イロイロの所はここでは書けませんがw(雷起)
神木ヒカリ様  さてどうでしょうw  楽しんでいただける展開になるよう頑張って書きますので、少々お待ちください。(雷起)
駄名家来たなぁ。ここから先が楽しみだ。(アルヤ)
よかったね、美羽。これであったかい布団で寝れて、蜂蜜水が飲めるよww(量産型第一次強化式骸骨)
残念な方達といっぱいな方達の対決ですか、私としては大喬ちゃんが気になって仕方ないんですが。(きたさん)
むねむね団vs貧乳党成都支部か・・・面白そうだ。 美羽も貧乳党に入るのかな?(神木ヒカリ)
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