真・恋姫†夢想 夢演義 『再演・胡蝶の夢』 〜桂花EDアフターより〜
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 第一幕「夢再び」

 

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 「はあ、はあ、はあ……っ!」

 

 走る。走る。走る。

 息を切らし、髪を振り乱し、その小柄で華奢な体に目一杯の鞭を入れて、薄暗い森のその木々の間を、ただひたすらに駆け続ける。

 

 「はっ、はっ、はっ……!も、もう、振り切れた、かな……?」

 

 一旦その足を止め、手近な木の陰にその身を隠し、自らが今駆けてきた方を、息を殺し、そっと覗き見る。陽はまだ高い時刻であるのに、鬱蒼としたこの森の木々が陽光を遮っているため、その視界はけして見通しの良いものではない。

 しかし、所狭しと乱立する木々により、音のみはその反響を強くし、その耳朶にしっかりと響いてくる。

 

 「……足音……まだ、聞こえる……。う……なんとか、逃げ切らないと……こんな所で、僕は死ぬわけにはいかないのよ……!そう。((月|ゆえ))を……月を残して、僕一人、こんな所でなんて……!」

 

 自分の事を探しているであろう、それら追っ手の者たちと思しき大勢の足音をその耳に聞き取った、声から察するに少女と思しきその人物は、ずれかけた眼鏡を直し、再び足音と気配のするのとは反対の方向へと、息を殺しながらまた駆け出していく。

 

 「居たぞー!」

 「追えーっ!逃がすなー!」

 「っ!」

 

 駆け出した時の足音か、はたまたその姿を遠目とはいえ見られたか。どちらにせよ、少女の事を探していたそれら複数の声の主たちは、木々の間をおぼつかない足取りで駆けていく少女についに気付き、一斉に少女の走るその後を追い出し始める。

 

 「くっ……!こんな、こんな所で死んでたまるものですか!もう一度みんなに、月に会わずに死んでなるものか……っ!」

 

 必死に走りながら、まるで自分に言い聞かせるかのように、少女はそう気力とともに声を振り絞りつつ、足元にその顔を出す太い根に引っかからないよう気を配りつつ、森の中を一心不乱に駆ける。と、やがて少女の視界の中に、木々の間に開けている一筋の光が見えてくる。

 

 「森の、出口……っ!」

  

 確か、自分の記憶が間違っていなければ、この森を抜けたその先には、小さな邑があったはず。そこまでいけば、後方から迫ってきている数十人程度の追いはぎ集団ぐらいなら、何とかしのぐことができるはずだ、と。

 少女はわずかに訪れたその期待にすがるかのように、さらにその足を速めていく。やがて、目の前の視界はどんどん開けて行き、少女はついに森を抜け、その眼前に、地平のあの彼方まで、どこまでも広がって居るかのような、広大な荒野“のみ”を捉えていた。

 

 「……邑が、無い……?嘘。どうして?だって、僕は確かに……っ!」

 

 何度も何度も、その頭の中にある、自分でもよく知った筈のこの周辺の地図を描きつつ、少女はもう一度、己の位置を確認する、その頼りとなるはずの日輪を仰ぎ見る。

 

 「……太陽があの位置……なら、こっちは……って、嘘っ!僕、いつの間に西じゃあなくて、北に向かって居たの……っ!」

 

 太陽の位置を頼りに、少女は確かに、己の中では西を目指して駆けていたはずだった。しかし、実際に森の中から出てみれば、彼女が居たのは森の北側だった。なぜ、どうして、どこで方角を間違えたのだろう、と。彼女がもう一度、その記憶を辿ると、不意に思い出されたのは、途中、その歩を止めて体を休めた大きな木の切り株。

 

 「……あれの年輪が、僕の知識とは違って、きちんと方角を示していなかった……?」

  

 一般に、「切り株があれば大体の方位がわかる」という俗説があるが、実はこれは誤りである。たとえば針葉樹等が斜面に生えていた場合、木が谷側に傾かないようそちら側の方がより盛んに成長する為、谷側が広く山側が詰まって育つ。

 もちろん、そうとは知らない者の方が世の中には多く、また、“この時代”的にもよほど、森やそこに生える木々に関して実体験として熟知した者でなければ、中々周知できなくても仕方の無いことかもしれないが。

 

 「……もう、駄目……」

 

 どさ、と。少女はその場に、力なく座り込んだ。野盗集団に追われ、森の中を必死で逃げ、時間的にはほぼ半日ほど、食はおろか、碌に水分も採れずに駆け続けたせいで、彼女の体力はすでに限界に達していた。それでもここまで逃げてこられたのは、最後の頼みの綱として、森を抜けたその先に自らが助かる場所がある、そう信じていたが故だった。

 しかし、それすらも、自らの無知とわずかばかりの不運によって、すべては断ち切られてしまった。後方の森からは、野盗たちの怒声が徐々に近づいてくる。

 もうこれまで。

 少女はすべてに諦め、脳裏に長らく顔を合わせていない、己の親友たる一人の少女の顔を思い浮かべながら、いつの間にか流れ始めていた涙をぬぐうことも無く、肩を落として放心していた。

 

 「お頭ー!いやしたぜー!さっきのガキだ!」

 「おう!いいか、逃がすんじゃあねえぞ!」

 「大丈夫ですよ!このガキ、完全に惚けちまってやすよ!」

 

 頭や腕に黄色い布を巻いた、ガラの悪い、いかにもといった風体の男たちが、地面に力なく座り込む少女を見つけるや否や、一斉にその周りを取り囲む。先ほどまでその集団から必死で逃げていたはずの少女は、もはや完全に生気を無くした顔で、遠く、西の方の空をじっと見つめるのみ。

 

 「へ。完全に腑抜けちまってやがるな。ま、どうせ何かあてにしていたことでもあったんだろうが、それもどうやら外れたみたいだな。よおーし、お前ら、このガキをしっかり捕まえとけよ。何しろ、安定じゃあ有名な賈家のお嬢様だ。いい金になるに決まってるしなあ」

 「へい!」

 

 集団の頭目らしきその男の命令を受けた他の男たちが、力なく座り込む少女のその華奢な体に縄をかけようと、その体に手をかけた、その時だった。

 

 「……?お、お頭!あ、あれ!」

 「なんだ!近くの官軍でも来やがったのか!」

 「ち、違いまさあ!あれ!あっちの空でさあ!なんか、こっちに向かって……!」

 「ああ?空ぁ?」

 

 部下の一人のその指示する方に、頭目の男は視線をゆっくりと、その男がはるか東の空を指すその指先のさらに先をみやる。

 天に輝く日輪、そのすぐ脇にチカリと光る、二つの光点が、頭目の男の視界に入る。それはやがて長い尾の様な光の筋を伸ばし、彼らの居るちょうどその場所に向かって、ぐんぐんとその輝きを大きくし始める。

 

 「なんだあ?……こんなまっ昼間に流星だぁ?……って、オイ!あれ、こっちに落ち……!」

 『うわああああああっ!』

 

 瞬く間に、というのはこういうのを言うのだろう。その光の筋が流星の様に煌いた、と男たちが思ったその瞬間、彼らは真っ白な光の濁流に包まれた。いや、彼らだけではない。辺り一帯、まるですべての世界が白一色に染まったかのように、光のカーテンがその帳でもって荒野を包み込んでいた。

 

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 「……思いっきり、荒野のど真ん中、だな……」

 「そうね。……どこに出るか分からない、とは、確かに卑弥呼が言っていたけど、せめて街か邑の近くに出て欲しかったわよね」

 「だな……」

 

 呆然と。何が起こったか分からない、そんな表情で居る野盗たちの眼前で、まるっきり自分たちのことなど眼中に入っていません、といった風でそんな事を語り合う二人の人物を、野盗達は呆気にとられた目で見ていた。

 

 「……ところで一刀。貴方のその格好……それって、フランチェスカの制服よね?」

 「みたいだな。ったく、こんな所まで前と同じかよ。つか、桂花だってフランチェスカの制服、着てるじゃないか」

 「そうなのよね……。これはあれかしら?御遣いイコールフランチェスカの制服姿、って言う決まりでもあるのかしらね」

 「無い……とは言い切れないな。けどまあ、俺としてはラッキーかな。桂花のその姿、向こうじゃ結局見れなかったわけだし。うん、とっても似合ってるよ」

 「……ありがと」

 「……オイこら手前ら!何、急に現れたかと思ったら、俺らのことを完全に無視していちゃついてやがる!」

 『ん?』

 

 そこで漸く、青年と少女は自分達のその周りを、憤怒の形相で取り囲んでいる、黄色い頭巾やバンダナをその身に着けたその彼らのことに気付いた。

  

 「……ん?こいつら……もしかして……黄巾党……か?」

 「そうね、黄色いバンダナしてるし、多分そうでしょうね。てことは、今は黄巾の乱の真っ只中ってことかしら?」

 「どうやらそうみたいだな。さて、これからどうするかな?」

 「まずはここがどこか、それを確認するのが先でしょうね。華琳さまたちと合流するかどうかにしても、現在位置が分からないじゃあ」

 「……オイこら!俺らを無視するんじゃねえって言ってるだろうが!」

 

 自分達の恫喝にわずかたりとも怯む様子を見せる事無く、そのまま会話をし続けるその二人の様子が癇に障った頭目の男は、腰の剣をおもむろに抜き放ち、その切っ先を青年の方へと向けて更なる恫喝の言葉を叫んだのであるが。

 

 「あ?ああ、悪い悪い。ちょっと状況確認をしてたんだ。……で、聞きたいんだけどさ。ここって、大陸のどの辺?景色を見る感じじゃあ、河北の何処かな?それとも中原か?」

 「あんたら、黄巾党でしょ?てことは、本拠のある青州の付近かしら?」

 「な、なんで俺らの本拠が青州にあるって……!」

 「て、手前ら一体何もんだ!突然、こんなまっ昼間に流星なんかに乗って現れるなんて、どっかの妖術使いか?!」

 「はあ?見るからにモブキャラにしか見えないあんたらなんかに、なんで私達が名乗らないといけないわけ?脳みそ腐ってるのあんたら?ああ、それ以前に脳みそ自体あるのかしらね?」

 「……な……っ!」

 

 モブキャラ、なんていう言葉は、当然彼らには理解できていないであろうが、それをさておいても、少女の言った雑言は彼らのその頭に血を昇らせる、その効果はもう抜群だった。

 

 「おいおい、桂花……いきなり喧嘩売ってどうするんだよ。……まあ、こいつらがモブキャラであろう事には、俺も十分同意だけどさ。脳みそ云々は言いすぎだろ?」

 

 少女の言葉のフォロー、そのつもりで青年はそう言ったつもりだったのだが、その後に続けられた更なる一言で、野盗達の堪忍袋の緒は完全に切れていた。

 

 「……せめてさ、野生の獣並み、もしくはそれよりちょっと下、その位にしておいてやれよ」

 「……手前ら……ぶっ殺してやる!お前ら!やっちまえ!」

 『おおっ!』

 「……ちょっと、一刀?」

 「……俺だけのせいじゃないだろ?元はといえば」

 「死にさらせ、クソガキぃー!」

 「っ!」

 

 振り下ろされる、野盗の一人の白刃。それを、青年はひょい、と、わずかに体をそらして避けると、野盗のその手首を無造作に掴んで捻る。そしてそのまま、剣を開いたもう片方の手で叩き落し、野盗をその場に背負い投げの要領で叩きつける。

 

 「野郎ー!」

 「……ぬるい」

 

 それを見た先ほどとは別の男が、青年に向かって今度は槍を突き出してくる。しかし、青年はまるで慌てることなく、その穂先と柄の部分とが繋がった箇所を鷲掴みにすると、そのまま槍を真っ二つに叩き折る。

 

 「んなっ!?」

 「寝てろ」

 

 折れた槍の片方を持ったまま、男の腹を思い切り蹴り、その場に昏倒させると、青年はそのまま集団の頭目に向かって走り出す。

 

 「て、手前っ!」

 「……多対一で集団を相手にする時は、まず、頭をつぶすべし。というわけで!」

 「なめるなガキぃーっ!」

 「遅い!」

 

 青竜刀、と、一般に呼ばれる広い片刃の剣を、頭目の男は力一杯に青年目掛けて振り下ろす。これまでに、あまたの人間の血を吸った、彼の自慢の愛刀を。だが、並の人間相手なら通用するかも知れない、その彼の高速の振り下ろしも、青年にはまるで止まっているかの様にしか見えなかった。

 彼はあっさりとその剣をかわし、頭目の男の懐に飛び込むと、渾身の力を込めたそのこぶしを思い切り、頭目のみぞおちに叩き込んだ。

 

 「が……はっ……っ」

 

 どう、と。口からだらしなく泡を吹き、青年のたった一撃で、頭目の男はその場に白目を剥いて倒れ伏す。それを見た他の野盗たちは、口々に「頭がやられた!」「こ、こんなの勝てるわけねえ!」そう叫びながら、我先にと次々に逃げ出し始めていた。

 

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 「……薄情な連中ねえ。ま、野盗ならそんなものかもね。……あ、ねえ、貴女大丈夫?」

 「……」

  

 地面にへたれこみ、その眼前で展開されていた余りに唐突過ぎるその光景を、ただ呆然とした表情で見ていた眼鏡の少女に、二人組みの片方、茶色の髪の少女が心配げに声をかける。声をかけられた少女の方はと言うと、いまだ、自分が置かれた状況を完全に認識できていないのか、虚ろに近い瞳で白を基調にした服と丈のかなり短いスカートを穿いたその少女の顔を、ただじっと見つめていた。

 

 「桂花、その娘、けがとかして居ないか?」

 「ええ、見た目相当弱ってはいるっぽいけど、精々擦り傷位ね。状況からするに、そこの森を抜けてきたみたいのようだから、多分枝が何かで擦れた、そんなところでしょ」

 「そっか。……あれ?」

 「……なに?どうかしたの?」

 「いや、その人……何処かで見た記憶が……」

 

 相方の少女が心配げにその様子を見ていた、眼鏡をかけた緑の髪のその少女に、青年はどこかおぼろげながらも、記憶の片隅にかつてその少女と出会った、そんなことが会った様な気がした。

 

 「……カズトサン?その記憶とやら、よっく思い出してホシイデスワネ。うふ、うふふ、うふふふふふ」

 「ちょ!桂花さん待って!激しく誤解だ!……あ」

 「思イ出シタカシラ?さあ、キリキリ話シテ貰イマショウカ。一体、何時、何処デ、なんぱナンテシヤガラレヤガッタノカシラ?」

 「違う違う!……この娘さ、“以前の洛陽戦”で、俺が保護して劉備さんに預けた、その片割れさんだ」

 「……え?」

 

 以前の洛陽。

 それは言われずとも、少女にとっても良く覚えている、彼と初めて出会った、今はもう過去の事となってしまった、此処であって此処でない、さりとて此処であることに違いの無い世界での、出来事。

 

 「……詳しい事はまた、後で落ち着いてから、人の居ない所で話すよ。それより今は」

 「あ、そ、そうね。この娘をちゃんと、安全な所に送ってあげないと。ねえ、貴女、私の言うこと、聞こえてる?」

 「……(コク)」

 

 眼鏡の少女はいまだ、自分が生命の危険から助けられた事を、自覚できていないのか、目の前でされた二人の人物の言葉も満足に聞き取れて居ないようで、ただ、最後にフードつきの貫頭衣を羽織った少女の言葉に、無言で頷くだけであった。

 

 「……とりあえず、近場に邑が無いか、それだけでも確認しないとな。えっと、さっきの野盗は…あ」

 「わ。何時の間に」

 

 少女が頷くのを確認した後、青年は先ほどのした男を起こし、その口からこの辺りの地理を聞きだそうとその身体を翻したのであるが、そこには既に先ほどの男の姿は何処にも無く、かわりに、遥か南の方をすたこらさっさと逃げていく、黄色い頭巾の人間の姿だけが見て取れるのみであった。

 

 「……あの生命力と逃げ足、まるでゴキブリだな……」

 「似たようなもんでしょ。それより一刀、これからどうするのよ?正確な今の居場所も分からないんじゃあ、下手に動きようも」

 「……はっ。あ、あれ?僕……生きてる……の?」

 「お。帰ってきた」

 

 はた、と。どうやら漸く正気に戻ったらしい眼鏡の少女が、きょろきょろと困惑気味に、あたりを見渡す。

 

 「……もしかして、アンタたちが助けてくれた……の?」

 「ああ、一応、そういうことになるかな?」

 「降りかかった火の粉を払っただけ、とも言うけどね」

 「桂花の場合、どっちかって言うと火の粉を煽っていたような」

 「るっさい」

 「……と、とりあえず、礼は言っておくわ。助けてくれて、その、ありがとう……。あ、僕は賈駆、字は文和っていうの。そっちも名前位、教えてもらえない?でないと、これからお礼しようにも困るから」

 「そんなに気にしなくてもいいんだけどね。でもまあ、名乗ってくれた手前、こっちも名乗らないと礼に欠くか」

 

 ん、と。互いに頷きあった後、青年と少女は、賈駆と名乗ったその少女に対し、自分達の自己紹介を行なった。

 

 「俺は姓が北郷で、名が一刀っていう。字は持ってない。あ、それと、俺は真名を持っていないんで、あえて言うなら名の一刀がそれにあたるから、そこだけ注意してくれな?」

 「私は姓を荀、名をケ、字を文若、よ。一刀…北郷の智にして比翼、連理の枝、よ。よろしく」

 「……桂花。それ、言ってて恥ずかしくないか?」

 「……いーの!アンタは私だけのものだって、ちゃんと、証明するためには必要なの!それに」

 「それに?」

 「アンタの種馬スキル封じにもなるしね」

 「あのな……」

 

 そんな、賈駆には理解できない言葉をその端々に交えながら、笑顔で語り合う二人の姿を、彼女は少々呆気にとられた感じで見ていた。そして、それと同時にこうも思っていた。

 

 この二人、相当に心を通わせあった、絆の強そうな伴侶同士だな、と。

 

 「と、ところでさ。賈駆さんに聞きたいんだけど、ここ、一体どの辺なのかな?地理的にというか、景色的には華北、それも黄河より北に見えるっぽいけど」

 「……華北には違いないけど、黄河よりは南よ。あーでも、どっちかって言うと、西よりかしら。長安の西、擁州との境よ。……多分」

 「多分って……もしかして、貴女……迷子?」

 「違うわよ!擁州に入っているのは間違いないわよ!けど、さっきのあいつらに追いかけられたお陰で、目的にしていた安定の町から大分ずれてるってだけよ!」

 「安定、か。……確か安定っていえば、董た」

 「待って!何か、こっちに来るわ!」

 

 一刀が安定という地名から推測した、この地にいるであろうその人物の事を口に挙げようとしたその時、桂花が西の方角を指し示しながら声を上げた。その彼女が指差す先には、もうもうと上がる土煙と、地面を伝わって轟く、馬蹄の音が聞こえてきた。

 

 「この辺の官軍……かな?先頭の旗は……え」

 「あ……」

 「紺碧の張旗……っ!霞だわ!よかった〜。二人とも、これで助かったわ…よ?」

 『……』

 

 救援が来た。しかも賈駆のその視界に入って来た旗は、彼女の知る限りでは最良の援けと言えるものだった。そしてその喜びのままに、彼女は背後に立つ一刀と桂花の方に振り向き、安堵の笑顔を向けたのだが、そこにあった二つの顔には、喜色の中に困惑と動揺が同居した、何とも言えぬ、複雑な表情が浮かんでいたのであった。

 

 

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 (なんやろな〜、また前回とは全然違う所に二人とも落ちたな〜。……こらあれかな?なにかしら、おかしな要因でも絡んだんやろか)

 

 荒野を東へと駆け、一刀達が居るその場所を目指して進むその一団の中、先頭にて隊を率いるさらしに袴という出で立ちをした女性のすぐ後方に彼は居た。馬上から己の上司であるその女性の背中越しに、遠く東の方角をその顔にかけた眼鏡の下の双眸をじっと凝らして見つめる。

 その先には、本来ならば自分一人で出迎える筈だった二人が、当初予想していた落下地点よりもかなり西寄りに落ち、今居る擁州は安定付近に出たその事は、彼には何がしかの運命めいた力のようなものが作用した、その結果としか思えてならなかった。

 

 「ん?おい佑。何馬の上でぼけっとしとん。そんな風に惚けとって、振り落とされてもしらんで」

 「へ?あ、ああ、すんません、霞の姐さん。いや、姐さんの背中がめっさ色っぽいもんやから、つい見惚れてしもて」

 「ほうか?けど、あんさんの言うことはイマイチ信じられんからなあ。なにせ、『口説きの高順』なんて二つ名で呼ばれとるぐらいやしなあ」

 「ほらしょうがおまへんわ。何しろワイの持論は、出会った美女美少女には声をかけるんが礼儀、やさかい」

 「……そんなんやから、仕官して早々、華雄やねねに拳固と蹴りをくらうんやで……」

 

 茶色をしたショートヘアに、整っているといっていいその端整なマスクをしたその青年を、袴姿のその女性は高順、と呼び、普段の言動が言動なのだから、その言葉には信用性が少々薄いと、彼の言った世辞(本人はいたって本気)を、軽々とあしらって見せる。

 しかし、言われた当人の方はまったく気にする様子も無く、逆に、ナンパすること、それが自分のあまねく女性に対する礼儀だとまで、その胸を張って言い切って見せていた。

 

 「まったく……顔もええし、武の方もそれなりに腕が立つんやさかい、もうちっと言動にさえ気を配れば、お前さんに惚れる様な酔狂なモンも、中には居てるかもしれへんのに」

 「……ワイに惚れるって、そんなに酔狂な事なんでっか……?」

 「ああ、酔狂やな。あ、一応前もって言うとくけど、ウチはあんさんの事、“これっぽっちも”!、そういう対象に見いひんから、よろしゅうな」

 「がーん。……うう、あんまりや……霞の姐さん……いや、泣く子も黙る神速の張文遠は、男を振るんも神速やったんや……」

 

 さらしに袴姿の女性こと、張遼、字を文遠と、その部下であるところの高順が、馬上にてそんな他愛も無いやり取りを交わしつつ馬を進める事数分。漸く、二人が探して居た目的の人物を、その目に捉えることが出来ていた。

 

 「おー。あれに見えるはまさしく賈駆っち!いやあ、擁州と司隷の境で、賈駆っちの参加した行商団が賊に襲われたーって聞いたときは、どうなることかと思うたで」

 「さいですな。でもまあ、ああして無事やったんやし、月嬢ちゃん様もこれでやっと、安心できますやろな」

 「おっしゃ!ほんなら一刻でも早く月っちを安心させるためにも、早う賈駆っちを連れて帰らなな!全軍!もうちょい足速めるで!」

 

 張遼のその一声で、彼女らの後方に続く百騎程の数の騎馬が、先ほどまでよりわずかばかりにその足を速め始める。

 

 (……さて。いよいよやで、かずぴー、桂花ちゃん。二度目の外史、夢の再演や。ほんでその幕、今度はワイも一緒に上げさせて貰うで。北郷一刀の大親友、及川佑として。そして、外史の管理者、高順として、な)

 

 〜続く〜

 

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 というわけで。

 

 桂花EDアフターより、新章、再演・胡蝶の夢、此処に開幕と相成りました。

 

 けどおかしいんですよね。

 

 最初、桂花EDを妄想したときは、こんな展開になるまで引っ張る、そんなつもりはこれっぽっちも無かった筈なんですが(汗

 

 ともあれ、こうして始まった新しい物語、魏√ED後の一つの形として紡ぎあげた、桂花メインヒロイン√、楽しんでいただけたらいいなと思っております。

 

 今後の予定としては、現在進行中の美羽√、仲帝記の合間合間にこれを進める事になると思いますので、更新については気長にお待ちいただければ宜しいかと。

 

 ではみなさんまた次回、これの第二話、もしくは仲帝記の第三十三羽にて、お目にかかりましょう。

 

 再見〜!www

説明
桂花EDアフター、その物語より派生した新たな物語、此処に開幕いたします。

今回はまず、宣言しておきます。

オリキャラは一切出しません!公式キャラ100%のみで、話を進めていきます!(断言)

ただし、多少の捏造はいつもの事なので、そこは温かい眼で見てやってくださいw

それでは♪
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コメント
桂花たんメインヒロインキターーーー(Lumiere404)
RevolutionT1115さん、すいません。誤字は直しておきます(汗 及川=高順はやっぱり予想外でしたか。うん。計算どおりw二僑の出番は・・・あったとして何時、来るでしょうかねえw(狭乃 狼)
YYT-ZUさん、もちろん、第一夫人は桂花ですよーw他に増えるかどうかは・・・・・・・言うまでも無いデスヨネー(おw(狭乃 狼)
彼はあっさりとその剣をかわし、頭目の男の懐に飛び込むと、混信の力を込めたそのこぶしを→渾身かな?及川は敵か味方かが気にはなるが高順は予想外;;無印といえば2キョウもいたような(RevolutionT1115)
種馬スキルは、封じ込めないと思います。ヾ(´▽`*)ゝはーい♪、第一夫人なら桂花で決まりでしょうけどね。また、今からも2828出来る!ヽ(`▽´)/(YYT-ZU)
神木ヒカリさん、そうして予想を裏切れてこそ作家冥利に尽きるわけで(おw(狭乃 狼)
及川が居るのは予想していたけど、高順になっているのは予想外w(神木ヒカリ)
たこむきちさん、そうですね、原作に名前だけ出ていた人なら・・・ちょっとぐらい出しちゃおうかな?(おいw(狭乃 狼)
一丸さん、・・・・や、やだなあ。勿論、忘れてなんか居ないですよ?あ、アハハハ・・・・(乾いた笑いw(狭乃 狼)
mokitiさん、いちお、及川も原作に出てますからね。・・・冒頭だけですがw(狭乃 狼)
きたさんさん、まあ、桂花でも多分無理でしょうね<種馬スキル封じw(狭乃 狼)
劉邦柾棟さん、いやいやいや、星にはなりませんよwせいぜい、一刀に激しいツッコミ喰らうだけでww(狭乃 狼)
乱さん、はーい(・ω・)ノwww(狭乃 狼)
本郷 刃さん、及川の末路は次回にてw(狭乃 狼)
summonさん、タグはまあ、そういうことでw一刀と桂花の夫婦漫才は、これからもどんどんやらせますww(狭乃 狼)
峠崎丈二さん、及川、原作通りかはさておき、それなりに有能な将、という設定にはなっていますw展開についてはさて、どうなっていきますやらww(狭乃 狼)
叡渡さん、彼を高順にしたのは、単に董卓軍で張遼絡みと言うことで、それ以上の意味はさしてありませんw(狭乃 狼)
最近無印キャラ見ないから嬉しいヾ(@⌒ー⌒@)ノオリキャラもいいと思うんだがなー・・・かなりな有名所とか。司馬懿とか孫堅とかね。(たこきむち@ちぇりおの伝道師)
全キャラ出るってことは、大喬と小喬もでるんですよねっ?ねっ?ねっ?ねっ?ねっ?ねっ?ねっ?ねっ?ねっ?ねっ?ねっ?ねっ?ねっ?ねっ?ねっ?ねっ?ねっ?ねっ?ねっ?ねっ?ねっ?ねっ?ねっ?ねっ?ねっ?ねっ?ねっ?あっ、モブキャラはどうでもいいですwwでは、こちらと仲帝記の続きを楽しみに待ってます。(一丸)
…及某は公式キャラなのか?というツッコミはさておき、この流れは董卓ルートな感じですね。続きに期待!!でも仲帝記も待ってますよ〜。(mokiti1976-2010)
ハイ(^-^")/↓種馬スキルを封じる?いくら桂花でも無理だと思う。でも及川が高順で管理者? ウン面白そうではないですか!(きたさん)
柾棟「はいはい、及川通常運転乙〜(棒読み)( ̄Д ̄)ノシ」  次回予告!『そして、及川は星になった!?』 お楽しみに!?  及川「えっ・・・・ちょ・・・・・何でやね〜〜〜〜〜〜ん!! Σ(゚д゚lll)」(劉邦柾棟)
種馬スキルを封じる?無理だと思う人。(・ω・)ノ<はーい!(乱)
及川、一刀と桂花の全力攻撃に備えておいた方がいいんじゃないかwそれにしても一刀も桂花もいい夫婦っぷりですねぇ(にやにや)。(本郷 刃)
タグが及某ってwww 桂花と一刀の二人は息の合った夫婦ぶりですね。しかし、種馬スキルを封じることはできるのでしょうか。(summon)
及川もかぁ……大丈夫か? 下手せんでも死にそう、だがしぶとく生き残りそう。まぁ、原作通りであれば、決して頭は悪くないしな、彼は。 はてさて、今回は董卓√か。歴史に則るのか、それとも逆らうのか、楽しみにしておこう。(峠崎丈二)
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