くらえこの狂おしい愛を
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Gが結婚した。前々から計画されていた事だ。ボンゴレは後世まで残さねばならぬ。妻を取り、子を成すのはボスの責務でもある。

私は喜ばねばならない。心の底から。貴族の美しい娘を娶り、永遠の愛を誓い、抱き、世継ぎを作るGを。心の底から……。

アルコバレーノが推薦したその娘は出身・血筋・頭脳、何を取っても申し分ない。全て私より勝っていた。いや比べる事すらおこがましい。

これは叶わぬ恋にしておきたい。結婚前、Gに散々求婚されたが、私は良い返事を返せるわけが無かった。孤児。無学。私はGに拾われ今まで生かされてきたようなもの。汚泥の世界から引き上げてくれたGの為に馬車馬のように働いた。それしか出来なかった。そして幸せだった。私の。

お遊び程度に手も繋ぎ接吻もしたけれど、決して一緒になれない、なってはいけない事をGも周りも知っていたと思う。

なので「結婚してくれ」と言われた時不思議でならなかった。正直深くGに愛されているとは感じなかったし、私も思いとしての一線を越えないようにしていた。とりあえず当たり前の事を言って、断った。

「G、私とお前は何もかも違う。結婚は出来ない。」

「何が違うんだ。」

「………全部?」

はあ、とGは驚く。その後俺がお前を守るだとか、ずっと側にいて欲しいだとか、月並みの言葉を真面目に言われたが傾けなかった。

私は部下。Gはボス。きちんとした一線は引いておかなければ。それに何度もアルコバレーノ達に念を押されてきた。

「お前はよ、女ではあるが女じゃねえ。右腕だか秘書だかしゃしゃり出るのは結構だが、身の程だけは知っておけ。仮に手を出されたとしても、お前は奴に女に触れる楽しさを教えてやるだけにしろ。それ以上はお前自身も求めるな。後の事はこっちが手配する。……拾ったかなんだか知らねえが、俺は女を側に置くのは反対だったんだよ。いいか、お前は何も求めてはいけない。解ったな!」

アルコバレーノの言う事は最もだ。Gに相応しい女は沢山いる。私を伴侶にする理由なんて何一つ無い。自分自身がよく解っている。

数ヶ月断り続け、やっと諦めてくれたGは例の娘と籍を入れた。これで良い。元々私達は何も始まっていなかったし。気紛れで恋人紛いな事をしていただけだ。

腹を括ったのか、Gは屋敷とは別に新居を構えた。奥方とのめくるめく新婚生活が始まる事だろう……。

ちょうどその新居が完成した頃だろうか。Gが突然、屋敷内のある私が住処とする部屋に入って来た。その日は休日で、だらしない格好で雑誌を見ていた時だったと思う。ソファで寝転ぶ私の前に立ち、いきなり抱き抱えられた。

「G?!」

「……。」

奴は黙ってまま。私を連れ部屋を出ようとするので、懸命に抵抗した。意味も解らなかったし、何より奥方が見たら驚くだろう。

「離せ!」

「……俺はお前の言う通りにしたぜ。」

「え?」

「だから今度は、お前が俺の言う事を聞くべきだ。」

「G?」

「一緒に暮らそう、ジョット。」

Gの言う事に、反論すら出来なかった。もう言い訳が見つからない。

確かに、Gは結婚すべき女性と結婚した。結婚、が絶対に壊せない壁だったのに彼は軽々と打ち砕き私との隔たりを無くしてしまう。しかし私は冷静に答えた。

「これは駄目だ。冷静になれ。私が結婚出来ないと言った理由をきちんと考えろ。」

「最初から冷静だ。俺が血や肌の色、生まれや学歴で人を差別するような人間ではないのをよく知ってるだろ?それに、お前がどこの出身だろうが関係無い。お前だからいいんだ。」

嬉しくも悲しい選択だ。真っ当な事を言われているようだが、この男には似合わない。

しかし家まで作ってしまうとは。こんな場所でのんべんだらりとしていた私を真綿で包み静かに締め退路まで塞ぎ……、完璧な包囲網だ。私には逃げる術もない。

「か、監禁しようというのか?」

「いや?お前を閉じ込めたりはしない。俺達は夫婦だ。余計な束縛はしない。」

そんなんじゃ、逃げても──……いや、逃げない。私はきっと、逃げない。Gを見上げれば、心を見透かしたかの如く笑みを浮かべていた。私はGが好きだ。諦めたつもりでも、女である限り、この醜い感情は消える事は無い。私は逃げない。絶対に。

「俺からしたら、"こっち"が正統な夫婦だ。お前との子供が生まれたら、勿論跡継ぎにする。もう幹部や老人共には話してある。あいつらは見てくれしか興味無いから大丈夫だ。」

「そこまで……。」

「俺はお前の為に行う物事に対しては努力を惜しまないし、間違いだとは思わない。」

 

 

 

****

 

 

 

俺とジョットの出逢いは九歳の時だ。富裕層、名家の一人息子だった俺は、ただ言われるがまま同じような人間達が通う学校に通っていた。その頃は言う事に従うのが当たり前だと思い込んでいたし、逆らうという思考も無い。

何の取り柄も個性も皆無の中、街中で華を売るジョットの前を毎日毎日通り過ぎていた。可哀想な子なのだ、という認識はあったと思う。ぴしりと襟が整った自分とは違う、擦り切れた服。汚れた顔。

「貧しい者には施しを」などと優越感混じる上から眼線的教育を受けた俺にとって、憐れみの対象でしかなかった。

だからいつかは、その華を買ってあげよう、小遣いからお金をあげようと思っていたのだ。

そしてついに勇気を出した日、俺はパンを持って華を買いに行く。

「一輪くれ。」

「はい!ありがとうございます。………?お金、多すぎるんですけど………。」

「いいよ、取っとけよ。ついでにこれもやる。」

「いやでも………。」

「いいんだ。お前等は可哀想なんだから。」

「………………。」

「どうした?」

「……………いらない。お金も、パンもいりません。」

…………人の心とか、些細な悲しみ喜びだとか、若かったから解らないと言うには勝手過ぎた。あの時ジョットがした、怒りに似た表情はずっと俺の心に残っている。今現在の俺を突き動かす理由の一部を担ってもいるにも違いない。

刹那ひどく傷付いたわけだが、実態は自分の自尊心と虚栄心を拒絶されたのが理解出来ずむしろ、受け入れてくれないジョット自身を恨んだ。

「どうして、こんなにも、可哀想なお前を、助けてやろうと、しているのに」押し付けがましい善意など最早善意ではない。悪意だ。幼い倫理観で、善悪の判断は出来ない。いや俺にはそれ以上の問題があった。

一輪の華(あれはアネモネだ、後から知った)を押し付けるようにして渡しジョットは逃げて行く。パンも地面に落ちる。初めて人から拒絶された日でもあるその日が、俺と奴の始まりだ。

可哀想だったのはきっと俺の方。ちっぽけな器しか持っていない癖に、ちっぽけなプライドをぎゅうぎゅうに詰めて見せびらかして。この一回で自分の器を知れば良かったものの、俺は何回も何回もジョットの元へ行った。パンより良いものを持って行ったり、お金だけを渡そうとしたり。駄々をこねる赤子の如く。ジョットに自分の偽善意の理解を求めた。

「もう来ないで。」

奴は来る度言う。

「受け取るまで来る。」

「………君は何でも持っているのに、何も持っていないのと同じだな。」

……意味が解らなかった。真意を突くその言葉を解り切るにはまだ経験が足りない。

ジョットが言った言葉、それが全てだったんだと思う。

俺は次の日、奴が言う値段で、華を一輪だけ買った。たったこれだけの事をする為に、何をしていたのか。見栄やら自己愛やら自尊心やら余計な服を着て。

子供ながらに反省し、週に一回だけにして華を一輪買いに行った。

「ごめん」と言えたのは何歳だっただろう。

その後俺は全寮制の学校にぶち込まれそうになったので家出をした。父親の金やら母親の宝石やら、とりあえず転がっていたものを鞄に詰めて出たのは中々良かったんじゃないかと幼い自分に感心する。それが当分の生活費にもなり、ボンゴレを立てる資金にもした。

十八になった頃、俺はジョットをファミリーに誘った。華売りを続けていた奴に「何もしなくていい、俺の話し相手になってくれないか」と。勿論最初は断られた。されどしつこいのは初めて会った時から変わっていない。何度も何度もお願いして、ようやく頭を縦に振ってくれたのだ。

「解った。だが何もしなくていい、というのは申し訳ない。お前の仕事を手伝わせてくれ。」

後は知っての通りだ。奴は俺の右腕、……そして初恋の相手だ。思いを告げ接吻はした、が、それ以上は無い。急いでいたわけじゃない、ただ焦りはあった。

どうすればと困惑したりまさか昔の俺のせいかとも落胆したりもした。俺はジョットに認めて欲しかったのだろう。自分を。愛という形で。間にどことなく違和感は感じていて、ジョットが何かを押さえているような印象も受けた。「これ以上は絶対にしない」と訴えるように。

でなければ求婚を断ったりするか。脅されたりしていないのならば、俺の事など愛していなかった、という事になる。それだけは認めたくない。だからアルコバレーノの言う通り「相応しい」女とも結婚し例の暴挙に出た。間違いだとは微塵も感じていない。

 

 

****

 

 

「ジョット……。」

横たわるジョットをそっと抱き締める。はあはあと肩を上下させるその姿はあまりにも淫靡だ。

新居に連れて来てすぐベッドに連れ込み、無理に掻き抱いた事は反省……しない。処女であるのは予想が着いていたし、当たった喜びに身を任せエスカレートした俺は止まれなかった。

ジョットの体は想像通り傷一つ無く、肌も滑らかで、胸も大きく柔らかい。至福の時だった。

「ジョット」、ともう一度呼び、腕に力を込める。キングサイズのベッドも今日この時の為、そしてこれからの為に準備した。勝手な押し付けだとは解っている。

「今更だけど……。」

「………。」

「お前の、本当の気持ちはどうなんだ?」

抱いてからする話ではない。抱いて、嫌というわけがないと思い込む俺は、最早まともな理性を持っていなかった。

ジョットは乱れた息を直して、ゆっくりと、俺の腕に手を添えて、答えた。

「……愛している。ずっと、ずっと前から………。」

 

 

 

子供が出来るのも時間の問題、いやもう出来ているかもしれない。俺の血はそういうものだとデイモンが言っていた。

子孫を残す為になんかよく解らん、下品なものが向上して女を孕み易くするんだと。あれから何度もジョットと性交し避妊はまったくしていない。奴もそれを求めず、俺にされるがままだ。

 

「……おはよう、G。」

寝苦しい、と眼を醒ませば、ジョットが俺に覆い被さっていた。巨乳が俺の胸板に乗っていて原因を理解する。起きたのを確認して離れたのは残念でならない。俺が買ってやったエプロンをして、にっこり微笑むその姿は、俺が一番欲しかったものだ。

「八時から会議なのだろう。早く起きろ。朝食も出来ている。」

俺の思惑通り、ジョットはこの屋敷から出て行く事は無かった。むしろ今みたいに平然と、ただ普通に、結婚したかのように振る舞う。一カ月は抵抗するだろうから、監禁する方法を実は考えていたのは杞憂だった。

「ん……。」

おはようとばかりに自ら口付けをしてくるその姿は、完璧に俺の妻。

 

 

反対、俺と正式に結婚した方の妻は─……本当の事を言うと会った事が無い。一番信頼する部下に乱雑に書いた結婚届を渡し相手方に届けさせただけだからだ。

リボーンから受理されたのは聞いた。俺達ボンゴレファミリーが暮らす「屋敷」の一室で俺が来るのを待っているそうだが行くつもりはない。

幹部達も知っている。ジョットに話した通り、ジョットに子が出来ればそいつが跡取りになる。必ず子を成すと言えばジジイ共はすぐ黙ってくれた。グチグチ言う奴がいたら殺すつもりでいたから大助かりだ。

 

 

****

 

 

そして半年が過ぎ、ジョットの腹が膨らみ始めた。子が出来たのだ。シャマルの話からすると娘。幹部共は男が良かったらしいが、まあこれから兄弟は増えるから心配ない。

ともかく喜ばしい事だ。家族が出来たんだ。

「G………名前決めた?」

触れるだけ、舐めるだけの淫行が終わった後、ジョットは俺に擦りより聞いてきた。物足りない気持ちがあったが相手は妊娠している。無理は出来ない。いやいや名前だ。勿論決めている。

「マリア。」

「まりあ……。」

「誰にでも愛される名だろ。」

「G……。」

ジョットの腹をそっと撫でる。暖かい。

幸せになりたいとは言わない。ただずっと、ジョットの側にいたい。無理にでも。俺の本質を見抜き、理解してくれるのは、こいつしかいないんだ。

だからこそ、奴の気持ちはずっと無視してきた。否定されるのは嫌だ。嫌われるのも嫌だ。離れていくのも嫌だ。

「きっとこの子も喜ぶ……。なあG………。」

「なんだ。」

頬をそっと撫でられる。

「私、ずっとGが好きだったんだ。」

「………聞いた。」

「…………ううん、もっともっと前の話。出逢うより前。」

え、と驚く。だって最初は、俺の一方通行だと思ってやまなかった。

「G、学校行く時、毎日私がいる道の前を通っていただろう……?いつも、ああ、綺麗な子だなあって。素敵だなあって。思ってたんだ。声掛けられた時は嬉しかったんだけど………幻滅した。」

「………悪かったよ。」

蘇る俺の消したい、生意気な過去。

「でも何回も来てくれて、Gの心が解って、もっと好きになった。……片思いでも構わなかった。お前の役に立てるなら、何でもしようって……。」

「ジョット………。」

涙を滲ませる奴を優しく抱き寄せる。ああ、俺はまた……、こんな時何て言えばいいのか解らない。

「リボーンにGに一緒になってはいけないと念を押された時、仕方ないな、って思い込む自分がいた。だって………親……いないし、花売りだったし……。Gに不相応な事ぐらい……。」

「ジョット!」

それ以上言ったら、慰めを通り越して怒ってしまいそうだ。まずあのアルコバレーノ、生かしちゃおかねえ。ジョットが負い目を感じる所なんて、何処にもない。何処にも。

「その………だから嬉しくて………、ここに攫ってくれた事。Gになら何されてもいい。私を拾ってくれて、一人前にしてくれた。女としても……。G、これからも、ずっと……側に………。」

口を口で塞ぐ。それ以上は俺が言う台詞だ。

畜生。畜生。畜生。堪らなく愛おしい。この女が。ジョットが。

何が間違っているというんだ。俺とジョット、何も間違えてなんかいない。

「ああ、ずっとだ。お前が嫌だって言っても側に置く。もし嫌なんて言ったら監禁してやる。首輪つけて。俺しか見えないように。」

「G………。」

 

 

***

 

 

………まあそんな暮らしが、長く続く事は無かった。結論から言えば、不倫である事、最初に娘を生んだ事を叩かれ、二世にボンゴレの座を追われる羽目になる。

特に未練など無かったので、あっさりボスの座は渡した。その時初めて、戸籍上の「妻」の顔を見る。ジョットには遠く及ばない姿だったからすぐに忘れた。

その後の俺達はと言うと、日本に渡り帰化した。きっともうイタリアに戻る事は無い。ジョットに出会ったあの道にもう行けないのは寂しかったが、一番欲しかった人間達が側にいるのだからもういい。

ああ、子供?最終的には八人か。ジョットを毎日可愛がった結果だな。

本当に、ボンゴレの血ってのは恐ろしいよなぁ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

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Gプリ、女体化。立場逆転。
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