1939年夏
説明
8月×日 今日は従兄弟のジャンに誘われてドライブです。妹のミラは乗り気じゃないみたい。でもジャンは届いたばかりの新車が自慢したくてミラ、絶対だよ。ってしつこく言ってきました。
ジャン、あのね、そういうところがミラが気に入らないところなのよ。もっと学習なさい。

海辺に向けて小高い丘陵を走るのは、でもいい気分。いつもはじとじとうっとおしい雨の中、ユベールが運転するおうちの大きなセダンにお父様お母様と乗って。お父様はいつも気難しそうにして、お母様はなんでもかんでもネタにしてはお小言を言って。よく見つけ出すものだわ。あれは才能よ。

でも今日はかぼちゃの馬車の気分だわ。いい気持ち。

ミラがジャンに打ち解けないのはジャンの友達のビクトルが嫌いだからよ。あたしもだいっ嫌い。
はじめてどこかのシャトーのお庭のお披露目で会って、名前を言って挨拶したら、あいつ、ふんとか鼻で笑ったんだよ。
「キミたちのゴルドスタインって苗字はこれからは分が悪いよなあ。」ですって。頭きちゃう。うちはお祖父さんのときに改宗していつも日曜日に教会に行ってますよ〜だ。

ああ、海が見えるわ。風が気持ちいい。

でも、この間お父様と叔父様たちがものすごく怖い顔してひそひそ相談していたわ。ポーランド人だけでは無理だろうとか。あの大声出して威張った演説ばかりするヘンなドイツ人のせいなんだわ、きっと。


トラクシオンアヴァンの絵を使いまわし
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1939年夏  あるユダヤ人の回想 

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