ボケ娘が告白してきました! 古優リムのデート
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「今度の日曜日、デートに行くわよ!」

「はい?」

 ロボットの絵を描いていると先輩はいきなり、そんなことを言い出した。

「唐突ですね?」

「ドードー?」

「滅んでます!」

「藤堂さん?」

「誰ですか!?」

「東海道電車?」

「無理があります!」

「無理を通して」

「通りは引っ込みません!」

 次のボケが出る前に言葉を出した。

「突然ですねと言ったんです!」

「銭湯やサンタさんが通る」

「それは煙突です! と・つ・ぜ・ん・と言ったんです!」

「だったら、最初から言ってくれればいいのに」

「言いました!」

「東武線の話をされたから、電車の話がしたいのかと思っちゃった!」

「誰も、電車の話題をしてません!」

「転写の笑い?」

「ホラーですか!?」

「嘘話?」

「それはホラ!」

「ほら」

 飴を貰った。

「これはほらです!」

 貰った飴を噛み砕いた。

「うまい飴ですね?」

「一個五千円だからね」

「ぶっ!?」

 思わず噴出した。

「マジですか?」

「魔法戦隊並みにマジ!」

「……」

 怒りに任せて、噛み砕いた飴に懺悔した。

「そ、それよりも、デートって、いきなりですね?」

「居間で思いついたのよ」

「今、思いついたでしょう! 居間で思いつかないでください!」

「食事中にふと思いついたのよ!」

「本当に居間で思いついたんですか!?」

「から揚げを二個食べたときにふと」

「から揚げ二個とデートを混合しないでください!」

「コースは私が決めたから、安心して! 前菜からドリンクまで」

「それはフルコースでしょう!」

「最初から最後まで歌う」

「それはフルコーラス!」

「喉越しさわやかなジュース」

「コーラ!」

「怒るときにいう」

「コラ!」

「ドラマやアニメでよく使われる」

「コラボ!」

「制作室」

「ラボトリー!」

「空を飛ぶ動物」

「鳥!」

「紅白の最後を飾る」

「トリ!」

「ばんざ〜〜い♪」

「それヤリィ! かなり、無理が出てきてます!」

「チェ……」

 なんで、不満そうな顔をするんだ。

 不満なのはこっちだ。

「デートコースを最初から、決めなおさないといけないわね。剣岳にでも行く?」

「死ねという気ですか!?」

「白鳥が行きたがってたのよ」

「白鳥? ああ、生徒会長ですか。デキる女ですからね。きっと、剣岳も簡単な山に思えるでしょう?」

「デキる女?」

 なんで、不思議な顔をするんだ。

 まぁ、いいや。

「デートのコースは俺が決めます!」

「でも、誘ったの私だし……」

「先輩に任せると奇々怪々の場所に連れて行かれそうですから、却下!」

「神様?」

「それは釈迦(しゃか)!」

「カクテル?」

「それはシャカシャカ!」

「スーパーヒーローの二番目の作品」

「それは電撃隊!」

「電気を退治するの?」

「電、撃退じゃない!」

「じゃあ、なにがしたいの、君は!?」

「デートがしたいんです!」

「デートしてくれるの?」

「なんで、不安そうに言うんですか!?」

「だって、いきなり怒るし」

「怒ってませんよ!」

「本当?」

「本当です!」

「じゃあ、コースは私が」

「話がループしてます!」

「腰にくぐらせて輪っかを回す」

「それはフラフープ!」

「花?」

「フラワー!」

「妨害電波」

「ジャマー!」

「工藤くん」

「邪魔者! あ!?」

 女子から冷たい目を向けられた。

「も、もういいです! とりあえず、次のデートは俺に任せてください!」

「じゃあ、次の日曜日、私とデットする約束を」

「デートです! 誰を殺すんですか!?」

「足を引っ掛ける」

「それは転ばせる!」

「太陽の周りから見える自由電子の散乱光に細胞なんてあったの!?」

「コロナ・セルじゃない!」

「じゃあ、なんで、そんな話したの?」

「してません!」

「本当にデートしてくれるの?」

「最初からそういってます!」

「じゃあ、約束」

 小指を出す先輩に俺も小指を出した。

「今度の日曜日、デートしようね?」

 指を絡ませた。

「ゆびきりげんまん♪」

「うそついたら♪」

「はりせんぼん♪」

「の〜〜ます♪」

「ゆびきった♪」

 指を離すと俺たちはふふっと笑いあった。

 これをやると絶対にデートを成功させないといけないなと使命感に燃える。

 先輩の指切りの力、マジ、パネェっす。

 

 

 と思いながらデートの日がやってきた。

 俺は噴水の見える公園の前でそわそわしていた。

(先輩、まだかな?)

 デートなんか、初めてだから緊張するな。

 それも、相手は校内一の美少女といわれる古優先輩だ。

 なんだかんだいって、滾ってくるな。

 髪型とか変じゃないかな。服装とかは大丈夫かな。口臭、キツクないかな。ああ、気にしだすと止まらない〜〜……

「先輩、どんな格好で来てくれるだろう?」

「こんな格好だけど!」

「うわぁ!?」

 飛び上がってしまった。

「新しい踊り?」

「ち、違いますよ!」

 確かに滑稽な姿だったけど……

 それよりも。

「か、可愛い格好ですね、先輩?」

「ふふ♪ お気に入りの服を着てきたの!」

 クルリと回転しながら自分の着ている白いワンピースを見せてくれた。

 俺は心の中で親指を立てた。

(先輩、可愛い! 本気で可愛い! こんな人が俺の彼女なんて、俺はなんて罰当たりなくらい幸せな男なんだ!)

 きっと、俺は地獄に落ちるだろうな。

 幸せになりすぎた罪とかで……

 えへへ。

「変な顔してるけど、大丈夫?」

「あ、いえ、本当に可愛い格好だから、見惚れちゃって」

「ふふ♪ ありがとう。これ、千五百円もしたのよ!」

「や、安いですね?」

「そう?」

 不思議な顔をされてしまった。

「お、俺の服だって、気合を入れて一万円近くもお金をかけたんですよ」

「お金持ちね?」

「いえ、貯金をはたきました」

「ちなみに私のお小遣いは一日百円」

「日当制かよ!」

「二月が一番つらいわ」

「でしょうね!」

 計算してみることにした。

 一ヶ月が大体三十日だから、先輩のお小遣いは三千円か。

 お嬢様にしてはえらく現実的な値段だ。

「お年玉は二百万円貰ってるけどね」

「そこはお嬢様感覚かよ!」

「お父さんが勝手に将来の貯金で取っちゃうけどね」

「堅実的なお父さんですね?」

 ってことは先輩が普段、自由に使えるお金って、実は俺たちとそんなに変わらないのか。

 でも、確か、前に無菌豚のサンドイッチを用意してくれたよな。

「経費と認められれば、お父さんがお金を出してくれるのよ」

「なるほど」

「弁護士?」

「いうと思いましたよ!」

「それよりも、デートをしましょう! サイはどこに出たの?」

「最初はどこに行くの、でしょう!? なんですか、サイって? 半か丁かでも決めるんですか?」

「いろいろ売ってそうね?」

「繁華町(はんかちょう)じゃない!」

「ないの?」

「いや、あると思いますけど……」

「そこがデート場所?」

「うんなわけないでしょう!」

「じゃあ、どこよ!」

「普通にムードのある場所に行きます!」

「紛らわしい!」

「紛らわしくしてるんです、アナタが!」

「ふぐの同僚?」

「アナゴじゃない!」

「753?」

「ライダーでもない!」

「火をつける」

「ライター!」

「物書き」

「ライター!」

「コスプレする人」

「レイヤー!」

「パソコンで画像を編集する」

「レイヤー!」

「ペガサスの連続拳」

「星矢!」

「力むこと」

「せいや!」

「疲れない?」

「疲れますよ!」

 ハァハァと息を吐いた。

「俺とのデート、もしかして、嫌ですか?」

「なんで?」

「さっきから、ボケまくりじゃないですか?」

「君が一方的に怒ってるだけだと思うけど?」

「自覚無いのかよ!?」

 大きく息を吸った。

 とりあえず、話を元に戻すことにしよう。

「行きたい場所ありますか? 色々、調べてきましたよ!」

「私、栄華を見たい!」

「映画です! 栄華を見てるのは俺です!」

「なんで?」

「そ、それは……先輩と……つきあえて……」

「ふふ♪ ありがとう♪」

 頬にキスをされた。

「せ、せんぱい?」

「ちょっと可愛かったよ!」

「せ、せんぱ〜〜い!」

「で、マジメな話、どこに行く?」

「映画にしましょう!」

「栄華を仕舞いましょう?」

「仕舞わないでください!」

「仕舞えるの?」

「仕舞ったら倒産です!」

「仕舞うのは父さんの仕事?」

「どんな耳をしてるんですか!?」

「私のお父さんはいつも出したものを仕舞うことが出来ず、お母さんに叱られてるわ」

「ウチもです!」

「同じもの同士ね?」

「変なところでシンパシーを感じないでください!」

「侍魂を持つ突っ込み担当?」

「メガネじゃないです!」

「素敵よね、彼?」

「本当ですか!?」

「メガネだけど」

「全国のメガネスキーに謝れ!」

「メガネがスキーして誤るの?」

「メガネがスキーして時点で誤りですよ!」

「ところで、そのメガネって、人間のほう? それとも顔にかけるほう?」

「後者です!」

「学校のこと?」

「校舎!」

「貴族の偉い人?」

「公爵!」

「物を噛む行動」

「咀嚼!」

「デキが悪い完成品」

「粗末!」

「祖松(そまつ)?」

「松の祖先なんかに興味ありません!」

「新しい発見が」

「あるか!」

 マズイ、この人、本気で混乱してる。

 これ以上、超次元ボケをかまされると俺がもたない。

 早く映画館に行かないと。

「先輩、さっさと行きますよ!」

「あ、うん」

 手を掴み、俺は引っ張るように先輩を映画館へと連れて行った。

 連れて行かれる間も先輩は混乱し続けた。

 

 

 映画館につくと俺は公開中の映画ポスターを眺め、聞いた。

「なにか観たい映画あります?」

「兵庫県にある温泉?」

「それは有馬です!」

「ヘブライ語由来の主をたたえよの意?」

「それはアレルヤ!」

「釣竿だったのか?」

「それは、アレがルアー!」

「やられゼリフ」

「ぶるあ〜〜〜!」

「これがいいわね!」

「話を戻すな!」

 なんで、先輩はこうなんだ。

 先輩の指差す映画のポスターを見て、さらに毛が逆立った。

「なんで仁侠映画!?」

「面白そうじゃない?」

「面白いでしょうけど、若い男女が観る映画とは思えません!」

「ラブロマンスみたいよ!」

「組長と姐さんのラブロマンスなんか誰も観たくないですよ!」

「じゃあ、これは!」

「甘菓子が主役の映画を観るんですか!?」

「これは!」

「ポルノです!」

「歌手?」

「R-18です!」

「……?」

「なんで、不思議な顔をするんですか!?」

「だって、ネット検索したら」

「それは検索ワードがそっちを優先してるからです!」

「有線してる殻?」

「どんな殻ですか!?」

「結局、君はなにが観たいの!?」

「仁侠映画以外ならなんでもいいです!」

「じゃあ、これかしら?」

「なんで、殺人ゲームの映画を選ぶんですか!?」

「私も観たくない」

「なら、別なのを選んでください!」

「やっぱり、仁侠映画?」

「いい訳あるか!」

 結局、俺たちは散々、問答を重ね、なぜか電波率百パーセントの萌えアニメを観せられた。

 なんで、こうなるの……

 

 

 映画が始まると俺はそのあまりの電波っぷりに脳が揺さぶられていた。

≪萌え大魔王は私の妹で羊羹を先に食べたことで私とケンカして、腹いせに世界征服をたくらんだ、悪の塊よ!≫

≪なんて、悲しい過去だ!?≫

 ツッコミどころ満載のシーンに俺は映画のヒロインたちを殴り飛ばしたい衝動に駆られた。

(萌え大魔王って、なんだよ!? 姉妹喧嘩で世界征服を企むなよ! それのどこが悲しい過去だ! なんで、誰も突っ込まない!?)

≪おねえちゃん、ゴメン! 世界征服するつもりが間違って、地球、壊しちゃった♪≫

≪仕方ないな〜〜! ウッカリさんめ!≫

≪えへへ♪ たくさん人、死んじゃったけど瑣末なことだよね?≫

≪じゃあ、生き残った人を月に移住させちゃおうか?≫

≪これで一件落着ね!≫

≪みんなハッピーになってよかったね?≫

≪うん! みんな、大好きだよ!≫

(貴様ら、脳が湧いてるのか!? 間違って地球を壊すな! 人が死んだことが瑣末なことか! 月に移住するのが一件落着だ! ハッピーなのはお前たちの湧いた頭だ!)

 心の中で突っ込めるだけッコミ、俺は心労で倒れそうになった。

 最近の萌えアニメはなんで、こうも突っ込み要因が少ないんだ。

 確かにボケは愛され属性だが、ツッコミが無ければ、ストレスがたまるだけだろうが。

 見てるだけで、胃がキリキリ痛む……

 誰でもいい、突っ込んでくれ〜〜〜。

 映画が終わる頃には俺はあまりのストレスに気を失っていた。

「し、死ぬかと思った……」

「最近の人気アニメって、荒唐無稽なのね?」

「あんなのが人気アニメなんですか!?」

「キャラクターが可愛くって、萌え萌えなんですって」

「あんなストレスがたまる、ツッコミどころ満載のアニメが!?」

 世界の終わりを感じ、俺は本気で死にたくなった。

「なんで、みんな、あんなあからさまなボケに突っ込まないんだ」

「最近、突っ込み不在の萌えアニメって、流行ってるみたいよ」

「地獄の世界だ」

「突っ込んでばかりだもんね、君?」

「この世界の歪みに突っ込みたい」

 俺たちは映画で疲れた心を癒すため、喫茶店で昼食を食べることにした。

「なかなか、オシャレなお店ね?」

「そうですね?」

 いい感じに流れる音楽に俺はさっきまでのふざけきった萌えアニメのストレスが和らぐのを感じた。

 それに、この喫茶店のメニュー表は……

 『ラブラブカップルソーダストロー二本つき』

(こういうのやってみたかったんだよ!)

 よし。

「あの、てんいんさ」

「チャーハン一つ、スプーンは二つね!」

 俺の顔がテーブルにめり込んだ。

「眠いの?」

「これが悪夢ならどれだけよかったか……」

 顔を上げた。

「なんで、チャーハンを頼んだんですか?」

「お腹空いてるから」

「スプーンが二つなのは?」

「二人で分けるため」

「なんで?」

「ダイエット中なの!」

「普通、恋人でだったら」

「スプーンが二つだから、ストローが二つと一緒よ!」

「ぜんぜん、ちがいます!」

 チャーハンとジュースじゃ、全然、オシャレ具合が違う。

「こっちのほうがお腹膨れるわよ」

「建設的なお言葉ありがとうございます」

 なんで、先輩はこうなんだ……

 本気で泣き出す俺に店員さんがチャーハンを持ってきた。

 俺たちは絶句した。

「す、すごい量」

「当店、オススメのエベレストチャーハンです!」

「説明のいらない名前、ありがとうございます」

「当店はお客様へのサービスを忘れません!」

「もっと違うところでサービスをお願いします!」

「ご安心を! さらにサービスで味噌汁が一つつきます!」

「二人で分け合えと!?」

「ジュースを二人で分け合うなら、味噌汁も」

「一緒なもんか!」

「さらにさらにサービスで、店員さんのラブラブオーラを注入できますよ?」

「メイド喫茶でやってください!」

「冥土キッカー?」

「地獄でサッカーをするんですか!?」

 この状況でもボケをかます先輩に俺は頭痛を感じた。

「チャーハン一つでよかったね?」

「そうですね」

「これなら、二人で食べても、十分すぎるわ!」

「明らかに二人分以上ありますよね?」

「味噌汁もつくのよ!」

「蛇足っていうんですよ、それを」

「センスが無い?」

「ダサイです、それは」

「でも、値段、大丈夫かしら?」

「税込み五百円です!」

「安い!?」

 二人して驚いた。

 

 

 腹が出るほど、チャーハンを食い終わると俺はデートコースを変更することにした。

(食ったものを消化しないと)

 隣を歩く先輩に聞いた。

「腹ごなしにバッティングセンターに行きませんか?」

「バッチグーセンター?」

「なにに激励してるんですか!?」

「ばっちぃ〜〜センター?」

「どんだけ、汚いセンターですか!?」

「罰点センター?」

「倒産寸前ですね!?」

「ば……」

「いいから、来てください!」

「あ、ちょっと!?」

 手を引っ張り、俺はバッティングセンターについた。(本当に疲れた)

「二百キロコース?」

「プロでも打てませんよ、そんなコース!」

 冗談抜きで二百キロの球の出るバッティングボックスがあり、冷や汗をかいた。

(なにを考えて、作ったんだ、そんなコース?)

 一息入れた。

「まずは初心者でも打てる五十キロコースにしましょうか?」

「小姑コース?」

「味噌汁の味にでも文句をたれるんですか!?」

「いい手本を見せてよ!」

「任せてください!」

 バットを持つ俺に先輩の顔が不思議そうにキョトンとした。

「バットの汚れを確かめるの?」

「だから、小姑じゃないです!」

 バッティングボックスに入ると俺は機械にコインを入れバットを構えた。

 こう見えても、バッティングセンターには行きなれてるのだ。

 五十キロくらい、軽い軽い。

「来ますよ! 見ててください!」

「うん!」

 ボールを打った。

「おし!」

 外野に出たボールにガッツポーズをとった。

 さらにボールが飛んだ。

 打った。

「惜しい、ホームラン、後ちょっと!」

 三度目のボールが飛び、俺はボールを打ちまくった。

(今日は調子がいいぞ!)

 バンバン飛んでくるボールに俺は調子よくバンバン打った。

(今日は本当に調子がいいな!)

 ドンドン出てくるボールに俺はバットを振り続けた。

(あれ、でも、球、出てくる回数、多くない?)

 無尽蔵に出てくる球の数に俺は顔をしかめた。

(また、球が出てきた!?)

 際限な飛んでくるボールの数に俺はだんだんと疲れてきた。

 打つ球もドンドン、遠くに飛ばなくなり、ついに……

「あ、しまった!?」

 空打った球に振り返った。

 目が点になった。

「先輩、なにしてるんですか?」

「え?」

 コインを無尽蔵に入れる先輩に俺は怖い顔をした。

「さっきから、球が止まらないと思えば、先輩のイタズラですか!?」

「新しい球が出るようにコインを入れてたんだけだけど?」

「ボールは一回のコインで十回くらいは投げてくれます!」

「一コイン、一球じゃないの?」

「どんだけ、悪質なスポーツセンターですか!?」

「クレーンゲームや、エアホッケーは一コインか二コインで一回よ?」

「ゲームセンターとバッティングセンターを一緒にしないでください!」

「……?」

 本当にこの先輩はわかってやってるんじゃないのか。

 

 

 早くも疲れてしまい、俺は休憩も兼ねて、カラオケ屋に行くことにした。

「先輩、先に歌ってください。俺、もうクタクタで少し休みたいんです」

「台本なしのバラエティー?」

「それはグダグダ!」

「軽い地震」

「グラグラ!」

「おいしそうだね?」

「グラタン!」

「晴れやかなエンディング」

「グランドフィナーレ!」

「イタリア起源のバターケーキ?」

「フィナンシェ!」

「トドメ!」

「フィニッシュ!」

 無駄口を叩く先輩にリモコンとマイクをたたきつけた。

「いいから歌ってください! 俺は休みたいんです!」

「柄に手紙?」

「柄レターじゃないです!」

 ああダメだ。頭がクラクラする。

 本当に休まないと倒れる。

 運良く、広い部屋を借りれたので少し横になることにした。

 先輩も選曲したらしく、イントロが流れた。

(ようやく、休める)

 考えてみれば、ここ数日、デートの下調べで寝てなかったしな。

 少し寝ようかな。

 先輩の歌声を聴きながら……

(いい声してるな? でも……)

 この湿っぽい歌は確か、さだまさしの償い。

(ま、まぁ、歌いたい曲はそれぞれだし)

 新しい曲が流れた。

(これはヒロシ&キーボーの3年目の浮気)

 違う曲が流れた。

(ポルノグラフティーのサウダージ)

 次に流れたのは錦戸亮のもう恋はしないだった。

「って、なに歌ってるんですか、さっきから!?」

「名曲よ」

「選曲を選んでください!」

「持ち歌よ!」

「違う歌を歌ってください!」

「じゃあ、次は……」

「新井満の千の風になってを歌うな!」

「名曲よ!」

「だ〜〜か〜〜ら〜〜あ……!」

 倒れた。

 

 

「あれ?」

 目を覚ますと俺はふかふかのベッドの上で寝かされていた。

「ここは確か、先輩の?」

「あ、起きた?」

 部屋に入ってきた先輩に俺はここが先輩のベッドだと気付いた。

「す、すみません、今すぐ出ます!」

「出ちゃダメ!」

 無理やり、寝かされた。

「先生が言うには心労だって。なにか気苦労でもあったの?」

(アナタのボケですよ!)

 先輩と付き合うようになってから、ツッコミをしない日が無かったからな。

 身体よりも心が先にダウンしたか……(あの萌えアニメもストレスの原因の一つだろう)

「今日はご両親には連絡して、ウチで泊まることにしてもらったから、安心して」

「と、泊まるですって!?」

「停止することじゃないわよ」

「知ってますよ!」

「録画じゃないわよ」

「知ってます!」

「朝の朝食」

「トースト!」

「十日間のストライキ」

「十(とお)スト!」

 また、頭が……

「静かにしたほうがいいわよ。喉も相当、痛んでるっていうから」

 それも先輩のせいだよ。

「大丈夫。一晩休めば、全壊するらしいから」

「壊れるんですか!?」

「前回?」

「この前、なにがあった!?」

「全開?」

「なにを開くんですか!?」

「全快する!」

「治ってどうする……って、あってる?」

「私もやるもんでしょう?」

「威張るな!」

 ぷるんっと揺れる胸を張る先輩に俺はまた頭痛を感じた。

(三回も間違えやがって!)

「でも、こうして見ると、なんだか初めて会ったときを思い出すわね?」

「あの時、俺も風邪をひいて病院に来てましたからね」

「あれ、でも、厳禁だったような?」

「なにを禁止されてたんですか!?」

「現金?」

「それはお金!」

「物事の始め」

「起源!」

「いつも怒ってばかりの君の態度」

「機嫌!」

「もうリタイアします」

「棄権!」

「危ない!」

「危険!」

「工藤さんが男の人の言うことを」

「聞けん!」

「休んだほうがいいわよ」

「休みたいですよ、俺だって!」

 荒い息を吐いた。

 俺たちは息を整えると吹っ切れたように笑い出した。

「先輩、通常運転すぎますよ!」

「やっぱり、私たちって、こういうのが一番会うのかもね?」

「そうかもですね?」

「今のアナタ、イキイキしてるわよ」

「そうですか?」

「そうよ! 映画のときは死人のようにピクピクしてたわよ」

「アレはストレスがたまりましたからね」

「君に萌えアニメは合わないのかも」

「俺もそう思います」

「やっぱり、仁侠映画が」

「まだ拘ってたんですか!?」

 先輩の口が大きく開いた。

「ふわぁ〜〜……もう眠い。たわしも練るね?」

「私も寝るでしょうが! たわしは練れません!」

「科学部の一葉さんなら、練れるかもね?」

「一葉? ああ、アイツか? アイツは素直になれる薬を開発中だから、そんな無駄なものは作りませんよ」

「砂になれる薬?」

「ゴーレムにでもなるつもりですか!? 素直ですよ、す・な・お!」

「この車、四人乗りなんだ!」

「それは藤子作品!」

「ボクのパパは」

「同じです!」

「ママ〜〜!」

「だ〜〜か〜〜ら〜〜!」

「お休み」

「あ、ちょ、先輩!?」

 勝手にベッドに潜り込む先輩に俺はギョッとした。

「か、勝手に入っちゃダメですよ!」

「このベッド、私のよ……」

「じゃ、じゃあ、俺は床で寝ます」

「病人はベッドで寝なさい!」

 押さえつけられた。

「で、でも、それじゃあ、添い寝に」

「粗衣寝(そいね)?」

「どんだけ、汚いパジャマですか!?」

 本当に気を失いそう……

「うぅ〜〜ん♪」

「せ、せんぱい!?」

 抱きついてくる先輩に俺は真っ赤になった。

「アナタって、いい匂いね?」

「そ、そうですか?」

「音子(おとこ)の弧の匂い」

「どんな匂いですか!?」

「私はどう?」

「え、せ、先輩の匂い?」

 とっても、いい匂いです。

「こ、答えられません」

「堪えられない?」

「間違ってません」

「アレ?」

 この人、もしかして、天然じゃなくって、ワザとボケてるんじゃないのか。

「ねぇ、寝る前に」

 ベッドの中で小指を突き出す先輩に俺も思い出したように小指を突き出した。

「明日もまた、会おうね?」

「はい」

 小指を絡ませた。

「ゆびきりげんまん♪」

「うそついたら♪」

「はりせんぼん♪」

「の〜〜ます♪」

「ゆびきった♪」

 指を離すと俺は不思議と身体の緊張が解けたのを感じた。

(そっか……心労はツッコミのせいじゃなかったんだ)

 心労の原因がいまさらわかった。

 突っ込み自信はストレスの原因じゃなかったんだ。

 むしろ、このボケとツッコミが楽しくってしょうがない。

(本当は初めてのデートで緊張してただけだったんだ)

 先輩の腕が俺の顔を抱きしめ、ぷるぷるの胸に押し付けられた。

(ああ……柔らかい)

 もうなにも考えられず、俺は先輩に全てをゆだねることにした。

 

 

 次の日、俺たちは学校に着くまで、手を繋いで登校していた。

(なんだか、本当に恋人になったみたいだ)

 本当に恋人同士だけど……

「手、会ったかい?」

「手、温かいでしょう! 手と手が会って……ますね?」

「でしょう!」

 得意げに笑わう先輩に俺はムカッと来た。

「で、温かい?」

「え、ええ……まぁ」

「私も黄身が温かい!」

「君の手です!」

「一本締め」

「合いの手!」

「君が私に思ってること?」

「会いたいです!」

「私も会いたい!」

「……」

 カップルが隣を通り過ぎた。

「レイ、昨日の映画、面白かったか?」

「うん! 面白かった!」

「お前の趣味をとやかく言うつもりは無いが、なんで、仁侠映画なんだ?」

「面白かったでしょう?」

「いや、出来れば、ラブロマンスが良かったんだが」

「組長と姐さんのラブロマンスだったよ!」

「普通にオシャレな恋愛映画を観たかったよ!」

「オシャレじゃなかった?」

「渋かったよ!」

「おかしいな〜〜」

「おかしいのはお前の考えだ!」

「でも、あの萌えアニメは見なくって正解だったでしょ?」

「ああ、昨日、アレを見てた奴、会場から出た後、真っ白になってたからな」

「なら、仁侠映画は正解だったでしょう」

「そうだな」

 前を歩く二人に先輩は不満そうに俺を睨んだ。

「ほら、仁侠映画も立派なデートの定番じゃない!」

「もっとオシャレな定番を選んでください!」

 先輩の趣味に俺はガックリきた。

説明
今回は古優リムが主役です。
付き合うようになってから、彼女たちはどうなったかを見てください。
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コメント
>ywxhffrom341さん、コメントありがとうございます!本当は間にちょっとでもいいから出したかったんですが、学校外のストーリーだったので、強引に登場させられたのが、ギリギリ、レイでした。次回こそは出したいと思ってます!(スーサン)
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