Masked Rider in Nanoha 二十話 ミッドを駆ける疾風
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「ありがとう。後は自分で何とかするから」

 

「でも……」

 

「フェイトちゃんにも仕事があるんだろ? 俺の事は気にしなくていいから」

 

 光太郎の言葉にフェイトは少し申し訳なさそうに頭を下げ、自分の電話番号を書いた紙とある程度の資金を渡した。困ったり、何かあった時はここに連絡してほしいと告げて。それに光太郎は嬉しそうに頷いて、それを大事そうに懐にしまう。出来るだけ使わず済ませようと思いながら。

 その後フェイトを見送り、光太郎は一人ミッドの街へと歩き出した。捜すのはフェイトから教えてもらって住所。自分が助けた少女の事で確認したい事がある。そう言って調べてもらったのだ。そしてそれは比較的簡単に分かった。少女達の親が管理局員で、しかもあの現場の指揮をしてくれた者の娘だったからだ。こうして光太郎は一路ナカジマ家を目指すのだった。

 

(もし、本当に彼女達の両親がすずかちゃんと同じ一族なら、色々と話がし易いんだが)

 

 光太郎はそう考えながらミッドを歩いていく。ミッド西部、エルセア。そこで待つのは、新たな出会いと彼にとっての戦いのキッカケとなると知らずに。

 

 

 光太郎がミッドで動き出した頃、五代は翠屋で働いていた。そう以前から、彼はただ月村家で世話になるのが嫌でたまに翠屋を手伝う店員でもあったのだ。数年振りに五代と再会した士郎や桃子は彼が以前とまったく変わらない事にさして驚きもせず、帰ってきた事をただ喜んだ。

 それは五代も同じだったのだが、その一方で美由希にはファリン達をあまり泣かさないようにとからかわれ、それに苦笑する事しか出来なかった。そして高町家の者達との再会を終えた後、彼は自分用のエプロンへ久しぶりに袖を通したのだ。

 

「士郎さん、五番さんにブルマンとキリマンを一つずつです」

 

「分かった」

 

「桃子さん、三番さんがショコラ追加です」

 

「は?い」

 

 よって、現在忙しなく働く五代の姿が翠屋にあった。そんな忙しさの中でも五代に浮かぶのは笑顔。だが、それもたまに何かを思い出すような表情に変わるのだが。

 

(おやっさんとか奈々ちゃんとか、今どうしてるんだろ? 元気……だよなぁ?)

 

 オリエンタルな味と香りが自慢のポレポレ。そこのマスターで飄々としている飾玉三郎の姿と、その姪の朝比奈奈々の二人の笑顔を思い出し、五代は一人納得しながら頷く。

 そして、再び意識を仕事へ戻した。そこへ来店を告げるベルの音が聞こえ、五代は入口の方へ振り向いて大きな声で言った。

 

「いらっしゃいませ?!」

 

 その姿こそ本来の五代雄介の姿。戦いなどとは無縁の場所で誰かを笑顔にする男。それを知ってか知らずか来店した者が思わず笑みを浮かべた。それに五代も浮かべた笑顔を更に深くするのだった。

 

 

 道行く人に道を尋ねながら、光太郎はやっとナカジマ家に到着した。一見すると日本家屋にも近い雰囲気がある建物で、光太郎が聞いた話によれば何でもここの主人が管理外である地球出身の子孫らしく、この家もその先祖の故郷の住宅をイメージしているとか。

 この辺では有名だと道を聞いた婦人は笑って教えてくれた事を思い出し、光太郎は小さく笑みを零した。見知らぬ者に対しての態度や対応が日本人とあまり大差なかった事を。異世界でも人の在り方はそこまで違わないのだな。そう考えて光太郎は嬉しそうに息を吐いた。

 

 そして気を取り直し、呼び鈴を押す。光太郎自身歩いてみて気付いたのだが、ミッドもあまり地球と光景に大差がなかったのだ。技術面ではかなり先を歩いているようだが、生活面などは光太郎が知る範囲のものばかりだったために。

 その地球との違いや共通点などを感じながら歩いた事で、光太郎としては少しではあるがミッドに親しみを感じていた。

 

『はい?』

 

「あ、すみません。俺、南光太郎と言います」

 

 聞こえてきた声は比較的若い女性の声。それに光太郎はギンガの姉辺りかもしれないと思い、思い切ってこう切り出した。娘さんの体の事で大事な話がある、と。下手に隠すよりも直球でいこう。そう何故か思った事もあってか光太郎ははっきりと告げたのだ。

 それが正しかったと感じさせるように、それを聞いた瞬間声の主が息を呑んだのが光太郎には分かった。だが誤解をさせてはいけない。そう考えて光太郎はこう続けた。

 

「俺はそちらと争いたい訳じゃありません。ギンガちゃん達の事で話を聞きたいんです」

 

『……名前まで知ってるのね。分かったわ、どうぞ』

 

 声の主は光太郎の言葉に感じるものがあったのか、そう言って切った。光太郎は相手へ警戒心を与える事になっても後悔はしていなかった。体の事でという言葉に反応したという事は、相手はやはり夜の一族である可能性が高いからだ。

 それならば、きっと詳しい話が聞ける。すずか達ではどこか曖昧だった自動人形の成り立ち。その技術を使って何をしようとしているのか。それを確かめなければならない。そして、もしこの家に住む者達がその技術をまだ使っているとしたら。そこまで考え光太郎は小さく首を横に振った。

 

(今は話を聞く事を考えなければ……行くか)

 

「お邪魔します」

 

 真剣な表情でナカジマ家の玄関のノブを掴む光太郎。だが、そこで一度深呼吸すると比較的明るい声で中へ入る。そこにはギンガと同じ色の髪をした女性が立っていた。その隣には、この家の主人と思わしき男性がいた。女性は言うまでもなくクイントで男性はゲンヤだ。

 そんな二人の視線はどこか険しい。それを感じ取り、光太郎はまず訪問を許してくれた事に対し小さく頭を下げる。それに少々意外性を見た二人は、光太郎に対する印象を少し変えたのかやや表情を和らげた。

 

「ま、上がってくれや」

 

「はい。お邪魔します」

 

「……どうぞ」

 

 ゲンヤの言葉に光太郎が返事を返し、クイントがそんな彼をリビングへ案内する。そこには二人の少女がいた。その一人を見て、光太郎は表情を少しだけ綻ばせる。ギンガが妹であるスバルとお菓子を食べながら楽しそうに話していたからだ。

 

(良かった。どうやら普通の子供として扱ってもらっているようだ)

 

 心からの安堵を表情に滲ませ光太郎は小さく頷く。そんな彼の表情に気付き、ナカジマ夫妻は共に光太郎に対する認識をもう一度改める。そこで光太郎の存在に気付いたのかスバル達がその場から視線を動かした。

 

「あれ? 知らない人がいる」

 

「こらスバル。そんな事言っちゃ駄目。父さん、その人はお客さん?」

 

「こんにちは。僕は南光太郎と言います。君達のお父さんとお母さんにちょっと教えてもらいたい事があって来たんだ」

 

「そう。だから少しの間向こうの部屋で遊んででくれる? 大事な話なの」

 

 クイントの言葉に素直に頷きスバルとギンガは笑顔でリビングを後にする。そんな二人の素直さに光太郎達は笑みを見せた。そしてゲンヤが光太郎へ声を掛け、三人は揃ってテーブルに着く。

 

「……で、二人の体についての大事な話って何かしら?」

 

「はい。実は、俺の知り合いにいるんです。あの子達と同じ体の子達が……自動人形と呼ばれる存在が」

 

 光太郎の発言に夫妻は揃って驚いた。それを見て、光太郎は月村家の事を話す。無論、吸血一族という辺りの話はせずに。彼らの先祖が自動人形を作り、その残りが今もその家で暮らしている。そこで彼らは家族として、人として平和に過ごしている事を。

 それに対する反応で光太郎は直感で悟る。この夫妻は夜の一族ではない事を。それが余計に光太郎の心配を減らした。この夫妻がギンガ達姉妹の体の事を知りながらも我が子のように育てている。それが嬉しかったのだから。

 

 なので光太郎はその場に立ち上がり頭を下げた。少なからず目の前の夫妻を疑っていた事を告げ、心からの言葉で謝罪したのだ。

 

 そんな光太郎を見て夫妻は互いの顔を見合わせ軽く苦笑すると、二人もその場に立ち上がり頭を下げた。彼らは彼らで最初は光太郎の事をギンガ達を利用もしくは奪いに来た犯罪者の一人かと考えていたのだから。

 そう二人が頭を下げたまま言うと光太郎は少し慌てて頭を上げる。そして夫妻へ頭を上げてくれるよう頼み、むしろそんな二人の反応を当然と思っている事を告げたのだ。そこから光太郎はもう一つ聞こうとしていた事を切り出した。

 

「ギンガ達を改造した相手?」

 

「ええ、あの技術は間違いなく自動人形と同じものです。もしかするとまだどこかで何者かが彼女達のような存在を作り出している可能性もあります」

 

「……お前さんはそれを止めたいって言うのか」

 

 ゲンヤの言葉に光太郎は無言で頷く。その顔は真剣だ。そこでゲンヤとクイントは確信する。光太郎もまたギンガ達の事を人として考えているが、その体へ使われた技術自体は嫌っている事を。そこでクイントが二人を保護した時の事を話し出した。

 それが一番光太郎の聞きたい事だろうと考えたのだ。その内容に光太郎は黙って聞き入る。そして戦闘機人という言葉を聞いてすずかの情報を思い出し、ギンガ達とファリン達が同一の存在である事を確かめた。

 

「つまり貴方達は偶然ギンガちゃん達と知り合ったんですか」

 

「ええ。だからあの子達を作った存在については謎のままよ」

 

 クイントの告げた言葉に光太郎はその拳を握り締める。今もどこかでギンガ達を作り出した存在が生きている可能性がある。もしかしたら、またギンガ達のような苦しみを背負った命を生み出しているかもしれない。そう思ったのだ。

 

「……分かりました。俺はその存在を捜してみます」

 

「ちょっと、私達でもまだ……」

 

 光太郎に反論しようとするクイントをゲンヤが止め、視線を彼へ向ける。その目は光太郎に聞きたい事があると告げていた。

 

「ところでお前さん、どうしてギンガが戦闘機人だって分かった? それに、いつどこで会ったんだ」

 

 ゲンヤの問いかけはもっともだった。さっき光太郎と出会った際、ギンガは知っている相手を見た様子ではなかったのだから。とすれば、光太郎がどこでギンガと出会い、またどこでその異常性に気付けたのか。それを知ろうと思うのは当然と言えた。

 そのゲンヤの質問に光太郎は言いよどむ。だが、それでも言わねばならない。そう決意し、光太郎は告げた。それで自身の正体が知られる事になろうとも誠意を持って質問に答えてくれた夫妻への礼として。

 

「俺も……実は、少し普通じゃないんです。会ったのは一昨日で場所は火災現場でした。そこでギンガちゃんがそういう存在だって分かったんです」

 

 光太郎の答えに不思議そうな表情を浮かべる二人。それを見て、光太郎はこう続けた。仮面ライダーとの名をギンガに尋ねてみれば分かると。その言葉に二人は驚愕の表情を浮かべた。

 実は二人は娘達から仮面ライダーの話を聞かされていたのだ。それぞれを助けてくれた異形の存在。その話を二人は信じる事にしたのだ。娘達が嘘をつく事など滅多にない故に。そんな二人を置いて、光太郎は逃げ出すようにナカジマ家を後にした。

 

 光太郎の告げた一言の衝撃。それから脱したクイントがすぐに光太郎を追い駆けたが、既にその姿はどこにも見えなくなっていた。

 

 一方、ゲンヤはリビングに残って静かにお茶を飲んでいた。その視線は光太郎の座っていた位置へ向けられている。光太郎の言った自動人形。それは戦闘機人を追い駆けている最中に出てきた名称だったのだ。

 戦闘機人が過去に呼ばれていた名称。故に二人は光太郎の話を信じた。そして、会ってみて分かった事実。戦闘機人は地球で生まれた可能性があるとの事。それを考えてゲンヤは小さく笑う。その地球出身者の子孫である自分が二人の親をしているこの現状に奇妙な縁みたいなものを感じて。

 

「……まさか俺の先祖がその一族って事はねえよな」

 

 考えてゲンヤは馬鹿らしいと笑う。そこへギンガとスバルが姿を見せた。どうやら話が終わったのを理解し、こちらに来たようだった。

 

「ね、お父さん。さっきの人とどんなお話してたの?」

 

「してたの?」

 

「うん? そうだなぁ……」

 

 二人の娘の問いかけにゲンヤは少し考え、小さく笑みを見せてこう言った。

 

―――あの兄ちゃんは正義のヒーローでな。かなり悪い奴がいるんだって話してたのさ。

 

 ナカジマ夫妻から話を聞いた光太郎は、フェイトへ早速連絡しアクロバッター達がどこにいるかを聞きだした。その目的はただ一つ。戦闘機人を作り出した存在を捜すため。

 こうして彼はミッドの街を駆け抜ける疾風となる。そしてこの日から、ミッドの裏社会に一つの噂話が囁かれるようになった。

 次々と裏組織を潰しながら、とある事を聞いて回る青いバイクの黒い怪物がいると。その名は、仮面ライダー。

 

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 ティアナは翔一の背にしがみ付きながら、全身に感じる風を心地良く思っていた。そう、今ティアナは翔一が運転するビートチェイサーに乗せてもらっているのだ。

 キッカケは、ティアナがビートチェイサーを動かしてみたいと言った事。だが、免許のないティアナに動かさせる訳にはいかないと翔一が言ったため、ならばと現状へ至っていた。

 

「どう? ティアナちゃん」

 

「最高っ! 速いのね、バイクって」

 

「うん。でも、これはもっとスピード出るだろうなぁ」

 

 翔一の問いかけに嬉しそうに答えるティアナ。それを聞いて翔一も頷くのだが、彼は感覚でビートチェイサーの全速力はこんなものではないと思っていた。だが、それを出すためには変身しなければ無理だとも思っている。

 だから翔一は後半は小さな声で言ったのだ。それを聞かれれば今のティアナは速度を上げてと言いかねないと察していたために。それでもティアナは翔一が何を言ったかは分からなかったが何か言った事だけは聞こえたのだろう。翔一に大きな声でこう尋ねた。

 

「何か言った〜?」

 

「何でもない! さ、もう少し飛ばすからしっかり掴まって!」

 

「オッケー!」

 

 翔一の声に反応し、ティアナは我が意を得たりとばかりに上機嫌な声を返す。そしてより強く翔一の腰に回した腕に力を込めた。それを感じ、翔一はアクセルを解き放つ。それに応え、ビートチェイサーは速度を上げる。こうして、二人の初めての遠出は始まった。

 

 そのままバイクはエルセアの街を駆け、やがて人気のない方へと向かう。単純に景色のいい方を目指して走らせたのだが、ティアナは道を知らぬ翔一の選択に内心で感心していた。その方向にはたしかに景観がいい場所が多かったのだ。ティアナの両親が眠る霊園もそこにあるのだから。

 

「う?ん……乗ったのは初めてだったけど、バイクっていいなぁ」

 

「気持ちは分かるなぁ。俺も、初めて乗った時の事忘れてないから」

 

 二人がいるのはそんな中のちょっとした公園。といっても郊外の人気があまりない場所だ。エルセアの端の方。そんな表現がぴったりくるような所だった。

 そこで二人は一度休憩を兼ねて飲み物を飲んでいた。自販機で買った物で、言うまでもなくティアナの奢りだ。翔一がミッドの通貨を持っていないので当然と言えば当然だが、ティアナはティーダから少しぐらいお金をもらっておくようにと軽く釘を刺すのを忘れなかった。

 

「決めた。アタシ、バイクの免許取る」

 

「そっか。じゃ、取れたら教えてよ。一緒にツーリング行こう」

 

「うん! あ、じゃそうなったらアタシがそれ乗っていい?」

 

 ティアナの言葉に翔一は頷きそうになるが、はたと止まって少し考えた。そして、やや申し訳なさそうに告げる。五代が見つかればこれを渡さねばならない。そうなったら無理になると考えて。

 

「ごめん。五代さんに渡す物だからティアナちゃんが免許取る前に見つかったらそれは出来ない」

 

「分かってる。でも、それってそれまでに見つからなかったらいいって事でしょ?」

 

 その問いかけに翔一はやや複雑そうに頷いた。ティアナはそんな反応でバツが悪そうな顔を浮かべた。今の言葉はある意味で言ってはいけない言葉だったと理解して。小さくごめんなさいと謝るティアナへ翔一は気にしなくていいと返した。

 もしかすると事情を話せば五代はティアナへビートチェイサーを貸してくれるかもしれないからと。それに逆にティアナが申し訳なさを感じて「そこまでしてもらわなくていいから」と慌てた事でこの話は終わりを迎えた。

 

 その後、ティアナはビートチェイサーを眺める。黒い車体に赤いライト。そして、ヘッド部分に描かれたクウガのマーク。どこからどう見ても個人の趣味にしては仰々しい気がするのだ。

 翔一はティアナが眺める様子を見て苦笑した。自分も最初同じようなものだったのだ。出来れば最初のような色に変えたいのだが、残念ながら翔一はその操作を覚えてなかった。

 故に、今も本来の配色状態のビートチェイサーだった。これがミッドで有名なバイクになるのはもっと先の話なので、今はこのままでも大して問題にはならない。ちなみにビートチェイサーが有名になる頃、ミッドのバイクメーカーは三台のバイクに影響を受ける事になる。黒いボディのもの、金と赤を基調としたもの、青いボディのものの三つに。

 

「にしても……五代さんって凄い人なのね」

 

「ん?」

 

「だって、翔一さんだってアタシからすれば十分凄いのに、その翔一さんが凄いって言うんだから」

 

「俺、凄いかなぁ……?」

 

 ティアナの言う自分の凄さがあまり実感出来ず、首を傾げる翔一。それにティアナは少し楽しそうに笑って、凄いのは翔一のそういう所だと告げた。いくらミッドとかの知識があるとはいえ、自分がいた世界と違う場所に来て自然体でいられる。それが凄い事だと。

 それを聞いて翔一は納得した。言われて確かにそうなのかもしれないと思ったのだ。そして、それはきっと自分のこれまでが関係していると判断していた。

 

 記憶喪失してから今まで、行く先行く先知らない事だらけだったのだ。そんな環境でも自分を支えてくれる人達と出会い、こうして生きていける。それがきっと自分がどこでもいつでも自然体でいられる要因。

 そう翔一は思い、ティアナへそう告げた。それを聞き、ティアナは余計笑いながら答えた。そういうところなんだと、心から嬉しそうに。

 

「ふふっ……あ?、翔一さんって凄いよね。アタシ、翔一さんみたいに考えられるようにしてみるわ」

 

「別に、ティアナちゃんはティアナちゃんの考え方をしてくれれば」

 

「だから、アタシが、アタシなりの、翔一さんみたいな考え方を目指すの」

 

 そう告げてティアナは少々悪戯っぽく笑い、その場から軽く走り出した。そしてやや行ったところで翔一の方へ振り返り楽しそうに告げた。

 

―――分かった?

 

 それに翔一が頷き、手にした空き缶をゴミ箱へ向かって投げる。それが綺麗に入り、ティアナが感心したような声を出した。すると彼女も負けじと残りを飲み干しゴミ箱へ空き缶を投げた。だが、少し逸れてしまい、外れてしまう。

 それを悔しそうに見つめ、ティアナは空き缶を取りに行き、もう一度翔一の隣へ戻る。それに首を傾げる翔一だったが、ティアナがもう一度ゴミ箱へそれを投げるのを見て苦笑した。

 

(ティアナちゃん、負けず嫌いだもんな)

 

 今度は見事に入り、思わずガッツポーズのティアナ。それに微笑みを浮かべ翔一がサムズアップ。それに気付き、やや照れながらもティアナもサムズアップを返す。

 

「じゃあ、そろそろ行こうか」

 

「そうね」

 

 言い合って二人は笑顔を浮かべてヘルメットを被る。そして、翔一の背にもたれかかるようにし、腰にしっかりと腕を回すティアナ。

 それを確認し、翔一はエンジンを始動させるボタンを押す。唸りを上げるエンジン音を聞き、翔一はアクセルを開ける。その独特の駆動音を響かせながらビートチェイサーは走り出した。

 

 こうして、二人は日が暮れるまで走り回り楽しい一日を過ごす。これがキッカケでティアナは訓練校卒業と同時にバイクの免許を取るのだ。

 ちなみに、この事を後に知った某部隊長が翔一へ不満をぶつける事になるのだが、それはまた別の話……

 

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 横たわる蓮。手渡されるナイトのデッキ。それを受け取り、意を決して変身する真司。彼はサバイブを使い、ファイナルベントを発動させ、そのまま戦いの元凶へと向かっていく。そこにあるのは姿見のような鏡だ。バイクとなったダークレイダーはそのまま鏡を砕かんと加速して―――そこで真司は目を覚ました。

 

「……この夢か……久しぶりだな……」

 

 真司は誰にもなくそう呟く。極稀に見る夢。その複数ある内の一つ。それがこれだった。残りもあまり良い物ではないが、一つだけ共通しているのは結末に救いがない事だけだ。

 戦いを止めようとして戦い、結局無事に戦いを止められた事がない。いや、夢の中にあるにはあった。でも、それが真司の望んだ平和かと問われれば違うと真司は言うだろう。

 

(何でだ? 何でこんな夢見るんだ、俺)

 

 実は彼には未だに分からない事がある。そもそも真司は”どうしてここにいた”のか分からないのだ。そう、何が原因でここに来たのかも。ジェイルに聞かれた際、真司はこう答えたのだ。

 

―――気がついたらここにいた。

 

 それは紛れもない事実。だが、と真司は考える。何故自分はここに来たのだろう。そして、ライダーバトルの事を考えるとどうしても頭が痛くなるのだ。ライダー達それぞれを思い出せそうで思い出せない。

 それでも何とかナイトやゾルダなどの係わり合いが多かった相手は思い出せる。だが、金色の鳥のような格好のライダーなどはどうしてもおぼろげにしか覚えていない。そんな風に記憶が混乱しているのだ。

 

「駄目だ。顔洗って頭をすっきりさせるか」

 

 そう呟いて真司は部屋を後にする。彼が寝ていたベッドの枕には、不思議な事に髪の毛一本として落ちていなかった。

 

 

 真司の要望を叶える形で改装が終わったラボ。そのキッチンで忙しく動き回るのはチンクとディエチにノーヴェ。それと違ってのんびりとしているのがセインとウェンディだ。そこから離れた場所では、真司がディードに米の研ぎ方のコツを教えている。

 真司が来て五年以上が経ち、ラボも大分様変わりした。まず居住性の向上、次に食生活の変化、最後に規則正しい時間の過ごし方。その全てに真司の影響がある。

 

 居住性は今回の改装が一番の例だし、食生活の変化も語るまでもない。そして、規則正しい時間の過ごし方は、遅くとも朝七時には起床。三十分までに洗面などを終え、食卓へ。そして、当番制で決まっている割り当てに沿って各自が洗濯や掃除などをする。

 正午になったら食卓に着き、昼食を取る。そして、三時にはおやつを用意して真司が食堂で待っているので、食べたい者はそこへ来る事。夕食は七時に取り、事情があって遅くなったり食べれない場合は、事前に真司へ言うと夜食が差し入れられる。

 

 そして、就寝は遅くとも日付が変わるまでにする事。ここが真司の影響だった。ジェイルの体を心配して口酸っぱく彼が言い続けた結果、就寝時間が定められたのだから。それでも事情があって仕事などで夜更かしする場合は許される。

 更に真司からの簡単な差し入れが期待出来るとそんな感じだ。ちなみに、夜食はおにぎりと味噌汁という定番中の定番。具は梅干かおかかで、ジェイルは梅干派でウーノとクアットロはおかか派だったりするのも真司の影響かもしれない。

 

「よし……。ノーヴェ、ウェンディ、それを並べてくれ」

 

「「了解|(ッス)」」

 

「セイン、こっちは終わったよ」

 

「オッケー!」

 

 真司から食事を任されるまでになった二人の指示で動くお手伝い三人。全員色違いのエプロンを着けているのが微笑ましい。そんな中、真司がディードに米を研がせているのは今日の夕食用の準備。今日は、少々米が多く必要となるためだ。何せ今日の夕食は真司が教えたある物を全員で食べる事に決まっているのだから。

 

「で、水を切って……のの字を書くように……」

 

「こう……ですか?」

 

「そうそう。ディードは筋が良いなぁ。ディエチもだけど良いお嫁さんになるよ」

 

「お嫁さん……私が……」

 

 真司の言葉に少し驚いたような反応を見せるディードだったが、すぐに微笑みを浮かべる。そしてその視線を真司へ向け尋ねる。本当になれるでしょうかと。それに真司も力強く頷いて太鼓判を押す。

 この調子で覚えていけば、貰い手が多すぎて困るぐらいになると。それにディードは嬉しそうに笑い、こう言った。

 

「でも私は、一人から必要とされればいいのです」

 

「そっか。確かに旦那さんは一人だよな」

 

 真司の言葉にやや照れるように小さく頷くディード。そんなディードの反応に真司は微笑ましいものを感じ、笑顔を見せる。そんなやり取りを遠目から眺め、不満そうな表情をする者が三人。

 セイン、チンク、ディエチだ。ディエチはあからさまではなく少しだが、残りの二人は違う。その表情は不機嫌そのもの。料理を並べて帰って来た二人が思わず声を掛けるのを躊躇うぐらいに。

 

(真司兄、あたしにそう言ってくれた事ないよね? 何でさ!)

 

(真司、お前は私にはそう言わなかったぞ。どういう事だ!)

 

(真司兄さん、やっぱり優しいな。でも、最近私には教えてくれなくなったよね……少し寂しい、かな)

 

 思い思いに考え、真司達に視線を送る三人を見たノーヴェとウェンディは互いに顔を見合わせる。どうしたものかと。

 

「どうするッス?」

 

「いや、どうするって言ったって……」

 

 指示がもらえなくなった二人は仕方なく残りの料理を運ぶ事にし、キッチンを後にする。その後も真司はディードへ熱心に指導し、三人の心を乱しに乱すのだった。

 

 

 楽しい食事。それがノーヴェ達が目覚めてからは余計に賑やかになった。セインに似たウェンディが一番の原因だろうが、ノーヴェがそれに噛み付く事も要因の一つだ。オットーやディードは騒ぎこそしないが、雰囲気的にはディエチに近いためにそんな二人を諌めたりする事が多い。

 話題を作るもしくは振るのはセイン、ウェンディ、真司。話題を広げるまたは変えるのがウーノ、クアットロ、チンク。相槌を打つ或いは完全に無視するのがトーレ、セッテ、ジェイル。基本静観だが、場合によって口を出すのがオットー、ディエチ、ディード。そして、それら全ての要素を発揮するのがノーヴェだ。

 

 この日の話題は、食事中にも関わらず夕食に関係する事だった。というのもそのためにこの後買い物へ出かける事になっていたからだ。しかも全員で。無論ジェイルは変装するが、おそらく見つからないだろうから必要ないと本人は考えていた。

 

 理由は固定概念によるもの。広域次元犯罪者である彼が堂々と昼間のミッドを歩いているなんて思わないだろうし、もし見つかってもジェイルは構わないと言ってのけたのだ。どうせ自分は捕まったとしても逃がされるだろうからと。

 その意味が分かる者はウーノとクアットロだけ。残りの者はどこか納得出来ない表情を浮かべていた。それでも、ジェイルの事だから何か凄い発明でやってのけるのだろう程度に考えていたが。

 

「にしても、この機会に服とかを買いたいとはねぇ」

 

「俺のじゃないぞ。みんなだよ、みんな。女の子なのに洋服も持ってないなんて可哀想だろ」

 

 そう全員で出かけるのは何も買うのが夕食用の食材だけではないからだ。ナンバーズ全員の普段着を買う事も兼ねているため、全員で出かける事になったのだから。

 女性でありながら着る物が全身タイツのような物しかない。ウーノはまたスーツのようなものがあるが、それだけだ。故に真司としてはもっと彼女達に女性らしい格好をして欲しかった。トーレは嫌がったが、真司が絶対似合うからと力説し参加させる事に成功した事からもその熱意が分かろうものだ。

 

「それにアクセサリーとかも見せてやりたいし、そもそも街を知らないんだからさ」

 

「分かった分かった。で、今更なんだが……」

 

 ジェイルの口調に疑問符を浮かべる真司。一体何が今更なのか分からないからだ。ジェイルはそんな真司にこう尋ねた。そう、ミッドに行く彼女達の服装はどうするのかと言う事を。それに真司はしばらく硬直し、その事に思い当り心の底から叫んだ。

 

「忘れてたぁぁぁぁっ!!」

 

 その叫びにジェイルは苦笑した。実は、その辺りはジェイルが前もって用意させていた潜入用―――実際は必要ないと考えていたが―――のTシャツやジーンズで何とかする事になっていた。真司はそれを聞いて安堵の息を吐いたが、トーレやクアットロからもう少し考えろと言われて少し凹んだのはここだけの話。

 

 こうして総勢十三名の団体行動となったのだが、ほとんどが初めての外出に加えて行先も大都会ともあってか視線を忙しなく動かしお上りさん状態。真司は想像していたよりもクラナガンの規模が大きくやや面食らったものの、東京の進化版と思い直す事で何とか平静を取り戻した。

 

 ただお上りさん状態ではない者達もいた。ウーノやジェイルは平然としていて、トーレやクアットロはやや人の多さに閉口していた程度だったのだ。すると、チンクが妹達の抑え役として苦戦しているのに気付き、そのフォローへそれぞれが回った。

 何せセインはウェンディと二人であれこれを指差して騒いでいたし、セッテはディエチと高層ビルばかりの街並みに感心し、オットーとディードは行き交う人の数に驚きながら大都会というものを感じていた。残るノーヴェは騒いではいなかったものの、チンクにどういう服を買えばいいかを聞いて困らせていたので似たようなものかもしれない。

 

「あら、思ったよりも人数が多いわね」

 

「えっ?」

 

 そんな賑やかな真司達に声を掛ける者がいた。それに全員が視線を向ける。そこにいたのは管理局の制服を着た女性。だが、その顔に真司は見覚えがあった。

 

「ドゥーエさん?」

 

「そう。久しぶりね、真司君。後、ドクター達もお元気そうで」

 

「本当に来れたの?」

 

 ウーノの驚いたような言葉にドゥーエは頷き、無理矢理に休みを取ったと悪戯めいた笑みを浮かべる。そう、ウーノが彼女に連絡していたのだ。ラボにいる全員でミッドに出かけると。ドゥーエはそれを聞いて本当に休みを取って会いに来たと言う訳だった。

 そんなドゥーエにウーノやクアットロが相変わらずだと言って笑う。トーレやチンクも笑みを見せ、ジェイルは嬉しそうに笑っていた。真司も彼らのように懐かしさも込めて笑みを浮かべたが、すぐにある事に気付いて視線を動かした。

 

 そう、セイン以下の妹達はどこか居場所がなさそうだったのだ。それがドゥーエの事を知らないからと把握し、真司は全員に説明を始める。ドゥーエはナンバー2でお姉さんに当たる存在だと。それを聞いてやっとセイン達も理解したようで、笑顔を浮かべてドゥーエに近付いた。

 

「ドゥーエさん、こいつがセインです。で、セッテ、オットー、ノーヴェ、ディエチ、ウェンディ、ディードです」

 

 真司の紹介に合わせ、それぞれが簡単に頭を下げ笑みを見せる。それを眺めてドゥーエも嬉しそうに笑顔を見せた。だが同時に当初の計画と違い、この時点で妹達が全員稼動している事に疑問を浮かべた。

 それを予測していたジェイルが簡単に事情を話し、ドゥーエはその内容に唖然となった。真司と関わった事でジェイルは計画を大幅に変更し、管理局へのクーデター紛いの襲撃を止め、どこかで平和に暮らそうと考えているのだから当然だろう。

 

「故に君の潜入も最早あまり意味がないから戻って来てくれても構わないんだ」

 

「……どうしてもっと早く教えてくれなかったんですか」

 

「いや、ごめんごめん。つい、ね」

 

「ついって……は〜、もういいです。じゃあ私もラボに戻ろうかしら?」

 

 ジェイルの能天気さに呆れながらも、ドゥーエはどこか楽しそうに言った。それにウーノやクアットロが嬉しそうに頷き歓迎する。一方、真司はトーレとこれからの事を考えて話し合っていた。全員では人数が多すぎるのである程度の人数に分かれて行動するべきと。

 このままでは多すぎて色々と不便だし、何より目立つ。だから精々三人程度で行動する方がいいと二人は考えたのだ。そしてそれぞれのリーダーとなる人物もそこで選出した。

 

「ウーノさん、ドゥーエさん、クアットロ、チンクちゃんがそれぞれの纏め役って事でどうだ?」

 

「……そうだな。私よりもこの手の事はクアットロやチンクの方が適任だろう」

 

 真司の人選にトーレも納得した。服を選んだり意見を述べたりなどは、自分よりも妹の方が向いていると思ったのだ。残るジェイルは真司と共に日用品関係を見に行く事になり、こうしてナンバーズは三人ずつで分かれた。

 ウーノは、トーレ、セッテと。ドゥーエは、オットー、ディードと。クアットロは、セイン、ディエチと。チンクは、ノーヴェ、ウェンディと。

 

「じゃ、二時間後にここで集合だね」

 

 ジャイルの言葉に全員が頷き、それぞれ行動を開始する。向かう先はバラバラ。ウーノやドゥーエは大人な雰囲気漂う服が多めの店へ。クアットロはお手軽な感じの雰囲気の店。チンクは、やや可愛い系の店へと。

 真司はそんな四組を眺め、個性が出るなと感じながらジェイルと共に調理器具などを見るべくクラナガンの街を歩き出すのだった。

 

 女性ともあり、彼女達の衣服の買い物はそれなりに時間は掛かった。それでも十二人共それなりに気に入った物を買えたので成功と言えるだろう。トーレやチンクといった者達は、似合わないと言って拒否した事もあったが、それも含めて楽しい時間を過ごしていたのだから。

 

 問題はその後。そう、下着だ。サイズに関してチンクがノーヴェとウェンディの二人に圧倒的戦力差で敗北すれば、楽しげに試着するクアットロにセインとディエチはやや呆れ気味で下着を選ぶ。

 ドゥーエが選ぶ際どい物をどこか躊躇いながらも着けるディードと、それを見たオットーはどこか寂しそうに自分の胸を触ってため息を吐き、ウーノはトーレとセッテがあまりに色気が無さ過ぎる物を選ぶので無理矢理派手な物を何点か買わせるといった強権発動するなど、色々な出来事があった。

 

 女性陣がそんな風に賑やかにしている頃、真司はジェイルと待ち合わせ場所近くの喫茶店でのんびりしていた。色々と欲しい物も買い、真司としては大満足なのだがまだ買い物は終わっていない。

 そう、最後に夕食用の買い物が残っている。それを終わらせなければ、今日の目的は果たせないのだ。何を買おうかと考えて軽く微笑む真司。それを見つめ、ジェイルが思い切って話を切り出したのはそんな時だった。

 

「ねぇ真司」

 

「ん?」

 

 何か退屈しのぎの雑談か。そう考えて視線を声のする方へ向ける真司だったが、そこには窓からどこか遠くを眺めるジェイルの横顔があった。

 

「このまま僕らと一緒に暮らさないかい?」

 

「……ジェイルさん」

 

「君のいた世界がどこかはまだ分からない。でも、君がそこに戻ればまた戦う事になる。君の嫌うライダーバトルを……」

 

 真司はジェイルの言葉に黙った。確かに彼が元居た世界へ戻る事はそういう事だ。モンスターではなくライダー同士の戦い。それは、言うなれば殺し合いだ。たった一人になるまで戦うという悪夢。

 それがもたらすものは何でも願いを叶える力。真司にそれは必要ない。欲がない訳ではない。だが真司は誰かを犠牲にしてでも叶えたい願いなどないのだ。いや、違う。誰かを犠牲にして叶える願いなど間違っていると真司は考えているのだから。

 

「ありがとう、ジェイルさん。でも俺さ、決めたんだ。ライダー同士の戦いを止めさせるって。そのために、俺は……戦うよ。ライダーとじゃない……そのライダーバトルそのものと」

 

「真司……君は……」

 

 そこでジェイルは真司の方へ顔を向けた。その表情が何を意味するのかを察し、真司は嬉しそうに笑う。やはりジェイルは犯罪者であっても悪人ではないと確信して。だからこそ彼が抱いた気持ちを払拭せねばならない。そう考えて真司ははっきりと告げる。

 

「分かってるよ。それがどれだけ無理な事かなんて。でも、決めたんだ。俺は仮面ライダーとしてライダーと戦うんじゃない。俺は、仮面ライダーとして、ライダーを戦わせる全てと戦うんだ」

 

 真司の言葉にジェイルは言葉を失った。それは、真司の発言がいつもからは想像もつかない程、穏やかで力強く、そして希望に溢れたものだったからだ。そのまま真司は呆然となるジェイルにこう言い切った。

 

―――ライダー同士で殺し合うなんて悪夢は、俺が終わらせる。

 

 その言葉にジェイルは真司の強さを見た気がした。どう考えても不可能に近い事。それを真司は躊躇う事無くやってみせると断言した。誰かじゃなく自分だけが悪夢を変える。それは、ジェイルが気付いた事に通じるものがあった。

 不可能であろうと躊躇わない勇気。それが真司にはある。絶望しか待っていない道だとしても、きっと真司は望みを捨てないだろう。そうジェイルは確信した。何故なら、希望は生命ある者に与えられた力。つまりは、いのちそのものだ。真司は、それを相手に悟らせる人間だ。そうジェイルは思ったのだ。

 

(私のような名を真司に与えるなら、彼は……アンリミテッド・ライフかな?)

 

 そんな事を考え、ジェイルは決心する。もう必要ないと放棄していた龍騎のための力。それを完成させようと。終わりのない戦いに赴く真司に少しでも役に立ててもらえるように。

 真司の決意を聞かされたジェイルは、これから一層ライダーシステムの解析や開発へと専念する。それが完成した時、龍騎は悪夢を壊す力を手に入れる事となる。

 

 

 ナンバーズと合流し、食料品を買い込んで意気揚々と帰宅した真司達。ドゥーエは色々と退職の手続きなどがあるので一端別れたが、夕食時には戻ってくると言っていたので真司としては期せずしてお祝いとなって喜んでいた。

 というのも、今日の夕食は少々特殊なものだったのだ。あまり頻繁にはやらないような食事。それをみんなで楽しもうとしていたのだから。

 

「さ、じゃあみんな手伝ってくれよ!」

 

 真司の号令でそれぞれが動き出す。買ってきた魚や貝などを真司が下拵えする横で、その手伝いをディエチとディードが引き受ける。一方では厚焼き玉子を任されたチンクとセインが真剣な表情を見せていた。

 大事な酢飯作りを任されたのは、クアットロにノーヴェとセッテ、そしてトーレ。四人は酢の匂いに多少むせながらも、二人一組になって懸命に与えられた仕事をこなそうとする。途中の味見で酢飯の美味しさに驚いたノーヴェが何度かつまみ食いをしようとしてクアットロやトーレに注意させる一幕もあった。

 

 残されたウーノ、オットー、ウェンディは場所のセッティング担当。真司から広い場所にしないと食べ辛いと言われたためだ。

 ただ一人ジェイルは研究室で仕事中。本当なら皆と同じように手伝いたかったのだが、仕事を片付ける方が先と真司に言われて仕方なくそうしていた。既に真司にお母さん役をされているジェイルだった。

 

 やがて準備も終わりそうなところでドゥーエが帰宅。管理局を辞めて痕跡も綺麗に消してきたと報告し、今後はずっとここにいると告げるとセイン達妹組から嬉しそうな声が上がった。

 真司も嬉しそうに頷き、今日はドゥーエの帰宅記念のお祝いだからと告げた。それに疑問符を浮かべるドゥーエだったが、それは食堂へ案内されて払拭された。

 

「今日は、手巻き寿司でパーティーだ。あ、でもあまり多く載せるなよ。零れたり崩れたりするからな」

 

 そして真司がお手本と言って海苔に適度な量の酢飯を盛り、そこにきゅうりやマグロといった物を載せて巻く。そして、それに醤油を少量たらして口に入れた。

 

「ん! んまいっ!」

 

 それを聞いて待ちきれないとばかりにセインやウェンディにノーヴェがマネして作り始める。それに微笑みながらチンクやクアットロも動き出し、オットーやディードの双子にディエチも一緒になって作り始めた。

 トーレとセッテはやや苦笑しつつ、海苔を片手にあれこれ載せるものを物色する。そんな光景を見てドゥーエは呆然となっていた。クアットロやトーレの変化を感じ取ったからだろう。そこへウーノとジェイルが近付き微笑みながら告げた。これが今の自分達だと。

 

「……そうですか。私がいない間に大きく変わったのね」

 

「やっぱり気に入らない?」

 

「どうして? 妹達があんなに楽しそうなのに。難しい事は考えずに私も楽しむ事にするわ。みんなと一緒に、ね」

 

 そうウインクと共に告げ、ドゥーエは真司の傍へと近付くと何が一番美味しいかを尋ね始めた。そんなドゥーエを見てジェイルとウーノは小さく笑う。これで全員揃ったと思って。

 その二人の視線の先ではドゥーエが楽しそうに妹達と食事をしている。その顔は正真正銘の笑顔。そして、そんな二人も賑やかにしている真司達の輪の中へと入っていく。

 

「これ、これ美味しいよチンク姉!」

 

「そうか? なら……」

 

「いや、こっちッス!」

 

「おい、チンク姉が困るだろ。セイン姉もウェンディも程々にしろよ」

 

「シンちゃ?ん、これは何?」

 

「あ、それは穴子って言うんだって。きゅうりと一緒が美味しいらしいよ」

 

「アナゴ、か。ディエチ、これは何ですか?」

 

「セッテ、お前はどれだけ試せば気が済むんだ……」

 

「ドゥーエ姉様、これはいかがです?」

 

「……うん、美味しいわ。ありがとうオットー」

 

「ドクター、それは少し載せ過ぎかと」

 

「いやいや、これぐらいいけるさ」

 

「いけるかっ! ああ、もう、零れてるじゃないか。だから載せ過ぎるなって言ったのに……」

 

「真司お兄様、これを使ってください」

 

 楽しくも騒がしい夕食。ついに全員揃ったナンバーズ。運命はまたも変化した。そして真司にジェイルが付けたアンリミテッド・ライフと言う名の意味。それは”果てなき希望”。

 それが意味する通り、彼はそうなり得るのか。それとも……

 

 

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五代は海鳴に滞在し、光太郎は一人悪を追う影となります。翔一はティアナとバイクでデート?です。ティアナのバイク免許はこの作品ではこうして取得に至ります。

 

真司は、仮面ライダーとしての決意と覚悟を新たに。戦いを止めるために戦う。その意志を表明する事が今回のメインでした。

 

そしてちゃっかりドゥーエ帰宅。呼び戻すのではなく普通に買い物に付き合い、そのまま辞職。でも、まだジェイルは忘れてる事があるんですよ。

説明
ナカジマ家を訪ねる光太郎。そこで知るのは温かな人の心と家族の姿。
ティアナも翔一と触れ合う事でゆっくりと変化を起こす。
緩やかな時間。穏やかな雰囲気。今はまだ闇の目覚めは遠い……
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