次元管理局本局の上司のオフィスから出た俺は呆然としていた。

頭の中では先ほど上司と交わされた会話が反復されている。

「97管理外世界ですか？」

「ああ。君の13番艦は8番艦と共に事態に当たってもらいたい」

「はい中将。ジュエルシードですか？

　いくらロストロギア対応とはいえ、

　２隻も次元航行艦を投入するのは過剰ではありませんか？」

「ジュエルシードは８番艦に一任する」

「はい？それでは私は何を目的に派遣されるのです？」

「ジュエルシード回収任務を現地人から隠蔽すること。

　隠蔽し得ない場合は、せめて地元政府への秘匿を図る。

　露見した場合は９７管理外世界の辺境の勢力を装って交渉。

　次元世界の存在及び次元航行技術の漏洩を防ぐことだ」

「……随分と慎重に事を運ばなくてはならないようですね。

　９７管理外世界には何かあるのですか？」

「それほど複雑なことではない。

　彼の世界の国力と軍事力が強大なだけだ。

　数千の惑星を統治。統計上の人口４００億以上、

　戦闘艦艇１０万隻以上を保有する」

「……2隻でどうしろと？」

「別に戦争をしろと言っとる訳じゃない。

　潜入工作ということだ。

　ただ彼の世界に次元航行技術が渡った場合、

　良からぬ事が起るであろうことは想像に難くない。

　数々の懸案を解決してきた君の力量に期待している」

リリカル世界に転生して３０年。

管理局のエリートとしてキャリアを積み上げ

次元航行艦の指揮を執るまでに漕ぎ着けた。

そして今回ジュエルシード事件を任されたのだが……　

ローエングラム朝新銀河帝国ってマヂですか。

時代が1600年ずれてるだろうが……。

幸いジュエルシードが落ちたのは原作通り地球。

この時代辺境も良いところだから隠蔽は容易いはず。

というか何としても帝国政府に知られない内に処理しなくてはならない。

次元世界を行き来する数百数千の帝国籍次元航行艦など悪夢でしかない。

事前情報によるとラインハルトはお亡くなりだそうだが、

ヒルダと宿将達は健在とのこと。特にケスラーと憲兵が怖い。

配下にも有能な奴が多数いる。代表格は軍務省のフェルナー。

捜査関係なら内務省だって無能ではないだろう。

魔法技術こそなけれ探知技術は戦争の所為で高度に発達してるはず。

武装、戦術については言うまでもない。

これなんてスペランカー？

俺は虚ろな表情のまま方針の打ち合わせをすべく

ハラオウン提督のオフィスに向かった。

すれ違った士官によると俺の背中からドナドナを幻聴したという。

俺は地球教討伐の後始末にフェザーンから地球に派遣されていた。

地球はシリウスに敗北してから現在まで辺境であり、

地球教本部とそこに繋がる宇宙港以外にまともな施設はなく、

先帝時代の討伐後はそれも充分に機能しなくなった。

しかし、それでは不便であり、現在は比較的大きな居住地が中心都市として

再開発が行われ、宇宙港・行政庁等が整備し直されている。

現場での用件を終えて地上車で中心都市の宿舎に戻る途中にそれは起こった。

夜中のことで人通りの少ない中心街。

対向車の一台、通行人の一人も見ない。

それこそ猫の子一匹もという奴だ。

しかしそこに何か違和感を覚える。

不審に思い地上車を止めて外に出た俺の目に桃色の光が映る。

それはビームがビルを倒壊させたところだった。

ビームを放ったのは空中の機動兵器　?　ではなく

杖をもった空を飛ぶ10歳くらいの少女だった。

銀英伝世界に転生して３０年。

同盟や貴族との数々の戦いを潜り抜け

ケスラー元帥の配下の准将として憲兵の一隊を預かる身となった。

現在は長い戦争も終わり漸く平和を実感し始めたところだ。

それが何？

高町なのはがバリアジャケット纏ってバスター撃ってる？

フェイト・テスタロッサに背後を取られてる？

杖が宝石を吐出した？

何でさ？

何で今頃リリカルなのはが始まるの？

時代が全然違うだろ！？

あまりな事態に巻き込まれ呆然とする俺。

とりあえずフェザーンには帰れそうにない。

いや見なかった事にして帰った方がいいだろうか？

「魔法少女」の報告書なんて上げたくないし。

何より帝国が次元世界に乗り出せば何かと摩擦も出てくるだろう。

厄介なことになりそうだ。

しかし俺はこのとき気がついていなかった。

二人の少女の戦いと立ち尽くす俺の姿を

軌道上で隠蔽した艦からサーチャーを通じて見ていた男　?　

左手で頭を抱え右手で胃を押さえた次元航行艦１３番艦の艦長の存在に。

「「どうしてこうなった？」」

俺たちのは声は期せずしてハモッた。