インフィニット・ストラトス―絶望の海より生まれしモノ―#04
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[side:一夏]

 

「うぅ、なんでこうもややこしいんだ………」

 

放課後、俺は教室でぐったりとしていた。

 

何と言っても授業についていけない。

まあ、入学前に『必読』と書かれてた冊子(但しタウンページといい勝負の厚さ&一枚一枚はかなりのペラ紙)を間違って捨てた俺が悪いんだけど。

 

 

「…空の方は空の方で『この程度、常識です(キリッ)』みたいな顔してるし………」

 

アレか?頭の構造が違うのか?

 

 

だが、教えてもらうには逆に好都合だ。

 

 

よし、あとで空にISについて教えてもらえるように頼んでみよう。

 

 

「ああ、織斑くん。まだ教室にいたんですね。よかったです。」

 

「はい?」

 

呼ばれて、声の主の方をみたら副担任の山田先生が書類片手に立っていた。

 

「えっとですね、寮の部屋が決まりました。」

 

そういって、部屋番号の書かれたメモと鍵を渡してくる山田先生。

 

「あれ?俺の部屋、決まってないんじゃなかったんですか?前に聞いた話だと一週間は自宅から通学してもらうって話でしたけど。」

 

「そうなんですけど、事情が事情なので一時的な処置として部屋割を無理矢理に変更したらしいです。――織斑くん、そのあたりの事って政府から聞いてます?」

 

最後の方は声を小さくして耳打ちしてくる山田先生。

 

そうか。やっぱり、国そのものが関わってるのか。

 

まあ、俺が男なのにISを扱えるって判った途端、監視と勧誘が凄かったからな。

ニュースで流されてから家にはマスコミと研究機関だの各国の大使だのがやって来て大変だった。

 

驚いたのは遺伝子工学だかの専門家が来て『生体を調べさせてほしい』だなんて言ったヤツが居たんだけど、三日後くらいに斬殺死体になって東京湾に浮かんでいたって事件があった事だ。

傷痕はどう見ても刀傷にしか見えないのがただ一つ。強引に俺を連れ出そうとしたヤツも何人か同じ目に遭っていたらしい。

 

ニュースでは『世界初の男性IS操縦者に害なす者を狩る現代の剣客現る』みたいに騒がれてたっけ。

 

それ以来、無茶な勧誘とかはなくなった。

誰も、俺に無茶なちょっかいをかけて斬り殺されたくはないだろう。

まあ、結果的に事件は迷宮入りした。

国としても俺に無理な手出しをさせないいい口実になるからとロクな捜査をしなかったみたいだ。

 

ちなみにこの事件の話を聞いた時、犯人候補に千冬姉や箒の姿が脳裏に浮かんだのは俺だけの秘密。

 

「そう言う訳で、政府特命もあって、とにかく寮に入れることを最優先にしたみたいです。一ヶ月もすれば個室が用意できますから、しばらくは相部屋で我慢してください。」

 

相部屋か。

なるとしたら同性の空だろうけど、そうするとなんで個室を用意する必要が有るんだ?

 

それに、

 

「……あの、山田先生。耳がくすぐったいんですけど。」

 

教室内外にあったいくつもの視線が興味津々と言わんばかりに向けられて物凄く居心地が悪い。

 

「あっ、いやっ、これはそのっ、別にわざととかではなくてですね!?」

 

「それは判ってますけど…荷物は一度家に帰らないと準備できないですし、今日もう帰っていいですか?」

 

「あ、いえ、荷物なら――」

 

「私が手配しておいてやった。有り難く思え。」

 

脳内BGM『帝国のマーチ』(ダースベイダーのアレだ)を引っ提げて千冬姉登場。

 

ちなみにもう一曲、『ターミネーターのテーマ』も千冬姉のテーマとして登録されている。

 

「ど、どうもありがとうございます。」

 

…なんとなく、嫌な予感がした。

 

「まあ、生活必需品だけだがな。着替えと、携帯電話の充電器があればいいだろう。」

 

「……タンスの中身をひっくりかえしたりしてないよな。」

 

「………」

スパァン

 

無言で頭を叩かれた。

どうやら、図星らしい。

 

ああ、家に帰ったら部屋の片づけが待ってるのか…

 

モノによってはアイロンのかけ直しだし…

 

 

「じ、じゃあ、時間を見て部屋に行ってください。夕食は六時から七時、寮の一年生用食堂で取ってください。あと、各部屋にシャワーはあります。大浴場もありますけど、今の所は使えません。」

 

「え?なんでですか?」

 

「アホかお前は。まさか同年代の女子と一緒の風呂にはいりたいのか?」

 

「あー、すっかり忘れてました。」

 

そういやここは国立IS学園。

女子高ではないが、ほぼ女子しかいない事実上の女子高だった。

 

空が居たから他にも何人か、男性職員とかいるかと思ってた。

 

「おっ、織斑くんっ、女子とお風呂に入りたいんですか!?だっ、駄目ですよ!」

 

「そりゃ…普通駄目でしょう。倫理的にも。流石に諦めますよ。」

 

変態認定をされて大浴場に入るくらいならそれくらいは仕方ないだろう。

 

「ええっ!?女の子に興味がないんですか!?それはそれで問題のような…」

 

あれ?この人、人の話を聞いてないぞ。

 

きゃあきゃあ騒ぐ山田先生の言葉が伝言ゲームよろしく伝播したのか電波の送受信が行われたのかはしらないけど廊下では婦(腐?)女子談議が始まっていた。

 

「織斑くん、男にしか興味がないのかしら。」

「それはそれで、いいわね。」

「中学時代の交友関係を洗って!すぐにね!明後日までには裏付けをとって!」

「女の子にしか見えない千凪くんと織斑くん…ジュルリ。」

「いいえ、攻め立てる千凪くんに"なかされる"織斑くんもアリじゃない?」

 

何の話だ、何の。

 

 

 

とはいえ、俺が寮に入れられたとなると空も寮暮らしになるのだろう。

後で探してみるか。

 

結論→結局、見つからなかった。

 

仕方ないから明日にでも訊いてみる事にして部屋に行ったらシャワー後なのか、しっとりと濡れた黒髪が艶やかな箒に遭遇した。

 

遭遇して、しばし見つめ合ってしまって(思考停止とも言う)―――

 

「きゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「わぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

悲鳴をあげる箒、慌てて逃げる俺。

 

 

 

 

「この痴れものぉ!!」

「おわぁあッ!?」

背後を『棒状のナニカ』の風切り音が通り過ぎて冷や汗が出てくる。

 

スライディングの要領で部屋から飛び出し、ついでにドアを閉める。

よし、これで―――

 

どすっ。

 

「え?」

 

見上げたら、ドアの『1025』と書かれたプレートの少し下から丁度、俺の首くらいの高さを通るように木刀が生えていた。

 

はぁ………危なかった。

 

 

とりあえずの命の危険から脱する事は出来たけど、問題はそれじゃない。

 

もしかして、―――――箒が同室なのか?

 

寮の職員用の部屋に居た山田先生に確認をしたら本当に同室だった。

 

 

どうやら箒への説明も忘れていたらしい。

弁明と説得の為に山田先生を連れて部屋に戻る。

 

 

((施錠されたドア|アマノイワト))が開くまで説得と説明と謝罪を繰り返す事三十分。

俺はようやく部屋に入る事が出来たのであった。

 

 

 

一安心なのだが、拭いきれない不安もある。

―――持つのかな、俺の理性は。

 

[side:更識簪]

 

「―――判りました。≪打鉄弐式≫はこちらで引き取ります。」

 

突然の電話。

 

それは私の専用機―――≪打鉄弐式≫の開発凍結を伝える連絡だった。

 

なんでも、開発元の倉持技研が、私の打鉄弐式と別口で、別の研究所と共同で開発を進めていた機体の方を優先する必要が出てきたため打鉄に人を割けないとの事。

 

それだから、私は『未完成のISを引き取る』という選択をした。

 

ISを作るのは易しい事じゃない。

普通は出来ない。

 

けど、私が、私として………『あの人の妹』じゃなくて『更識簪』として見てもらうには、これをやり遂げるしか………ない。

 

「……はい、量子データは明日届くんですね?判りました。」

 

全ては明日から始まる。

 

私が、姉さんの影から脱却する為にも………

 

コンコン、

 

ふと、部屋のドアがノックされた。

 

この部屋はいまのところ私一人。

もう一人収容できるハズの部屋。

 

だからきっと同室の人だろう。

 

「…開いてます。」

 

ガチャ、とドアが開く。

 

現れたのは、まるで女の子みたいな男の子だった。

 

彼が、噂になってる織斑一夏なんだろうか…

 

「ああ、お邪魔するよ。」

 

「………あなたは?」

 

「同室、なのかな。僕は、千凪空。」

 

「えっと…更識簪。」

 

「簪さんね。それじゃあ、よろしく。」

 

そう言って、左手を差し出してくる。

 

握手なら、右じゃないのかな………

 

「あ、ごめん。右手はちょっと訳有りで…まあ握ってもらえば判るけど…」

 

視線から悟ったのか今度はそう言いながら右手を差し出してきた。

 

その手は、生きてる人間の物とは思えないくらい冷たかった。

 

「え?」

 

「ちょっと、色々あってね。義手なんだ。」

 

だから、左手を…

 

「…でも、そうは見えない。」

 

義手だって、触るまで気付かなかった。

 

「まあ、色々気は使うからね。ベッドはどっち側を使えばいい?」

 

「あ、私は手前側を使ってるから奥のを…」

 

「了解。」

 

鞄一つで引越し終了の彼。

 

ふと、私の目にとまったのは…

 

「それ、空中投射ディスプレイ?」

 

「そうだけど………」

 

「お願い!それ、貸して!」

 

無茶な『お願い』だとは自分でも思う。

 

けど、ISの組み立てをやるとしたら、どうしてもあった方がいい。

 

「えっと、何か訳有り?」

 

よかったら話してごらん、という彼。

 

まだ、出会って数分しか経ってないけど、まるで頼れる先生とか先輩の前にいるような気分になって私は開発が事実上の中止になった≪打鉄弐式≫を引き取って自分で組み立てるという話をしていた。

 

「成る程ね。」

 

そう、腕を組みながら言う彼。

 

「わかった。僕も協力させてもらうよ。」

 

その答えにホッとする。

 

これで『身の程知らず』みたいな事を言われたら…って少し怖かった。

 

「とりあえず、ディスプレイは貸すよ。」

 

「本当に、いいの?」

 

貸してなんて言っておきながら、本当に貸してもらえるとなると逆にいいのか心配になる。

 

「いいよ。ただ、明日までまっててくれるかな。データの移動とかを済ませてブランク状態にするから。」

 

「そんな事は…」

 

「ISの調整か、組立てをしたいなら容量はあるだけいいからね。」

 

「…それじゃあ、お願い。」

 

「委細承知。」

 

幸先良くスタートした、私の打鉄の組立て。

 

同室の協力も得られて、本当に至れり尽くせりになってる。

 

それにしても………なんだろう、前に会った事があるような………

説明
#04:Girl meets "Sky"
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