緋弾のアリア 紅蒼のデュオ 1話
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四月××日

 

日本は東京にある一軒の家に、今年から東京武偵高二学年に転入が決まった男がいた。

 

彼は、紅月(こうづき) 飛牙(ひゅうが)と名乗る180cm程の筋肉質の男で、やや長めの尖った金髪は特に手入れをされている風には見えず、猟奇的な鋭い眼の奥は鮮やかな緑色をしていた。

 

初めて行く学校よりも、そこで起こる面白い事に胸を踊らせつつ、彼は愛銃の今時珍しい回転式拳銃(リボルバー)、S&W M500を東京武偵高の防弾制服の懐に、腰に回転式拳銃(リボルバー)S&W M29を二丁、両脚にサプレッサーを装備したG18を帯銃し、漆黒の防刃マントを羽織る。

 

彼がこれから通う武偵高校、それは決して普通の高校ではない。

帯剣帯銃が校則により義務づけられ、制服は防弾性、日常生活で発砲は当たり前だ。が、学校という物に通ったことがなく、物心付いたときから戦場にいた彼には、これには特に疑問を持たなかったし、こうでもなければ"面白くない"…

 

「…何鞄を持ったまま固まっているんですか。」

 

そこへ、蒼月(そうげつ) 怜那(れな)と名乗る同居人の少女が、下着姿で勝手に部屋に入ってきた。

彼女こそ、狙撃と情報処理を得意とする飛牙の唯一無二のパートナー。

背は165cm程、常時眠そうな、特に感情の籠もっていない瑠璃色の瞳に掛からない青と緑の中間色のような前髪。後ろは肩のラインで切りそろえられているが、こちらも手入れされている感が全く窺えず、所々癖がついている。ボディはぺたんこと言うのも憚れる程の所謂壁。細身で、とても戦闘を行うようには見えない。

 

「…武偵高だったか?そこに行く準備をしていただけだ」

 

「そうですか。朝食は用意したので早く食べて下さい。」

 

それだけ伝えると、どこか不機嫌そうに自分の部屋に戻っていった。

 

飛牙と怜那は、十年以上前に出会った戦災孤児同士であり、傭兵として数々の戦場を駆けてきたパートナーだ。何だかんだで今まで良くパートナーとしてやってこれたな、と少し感慨深げに飛牙は考える。

戦闘を求めるあまり常人とずれてしまった自分、過去にPTSD(心的外傷後ストレス障害)を負い感情が死んでしまったかのように無機質に言葉を発する彼女。歪んでいるな、と飛牙は思う。

 

 

 

家の地下には、飛牙が所有するバイクわ車両、航空機が格納されたガレージがある。その中から、彼は自身がカスタムしたバイク、『ソリディア』に跨がりイグニッションキーを回す。

 

「登校初日からバイクですか。私はどうかと思いますが。」

 

「とか言いながらさり気なく跨がってんじゃねぇよ」

 

登校の準備を完了させ、背中にL96A1を背負った彼女に飛牙は突っ込みを入れる。

怜那は飛牙の乗るバイクの後ろに跨がり、後ろから飛牙に抱きついている。普通ならかなり美味しい場面であるが、彼女は生憎の壁ボディ。長い間パートナーとして暮らしてきた飛牙に感じるところは何もなかった。

 

「しっかり掴まってろよ。ちいとばかし飛ばすぜ!」

 

ブオン!とスロットルを全開にし、一気にガレージから飛び出して道路へと出る。

 

後に彼はもう少し遅く家を出なかった事を後悔する。

もう少し遅れていれば、この物語の主人公(トラブルメイカー)に会い、面白い事の一端に介入する機会を逃したからだ。

 

 

 

 

 

 

武偵高のガレージに勝手にバイクを停め、怜那の下調べと飛牙の野生の勘で職員室へと辿り着く。

 

「あなたでは教師に対応できないでしょう。ここは私に任せてください。」

 

さり気無く飛牙にひどいことを言いつつ、怜那は職員室へと足を踏み入れる。

 

「失礼します。本日付けで此方に転校してきました、蒼月と紅月です。最終手続きをお願いします。」

 

職員室の扉をノックし、礼を弁えた入室をする。それに対応したのは、彼女らの担任となる教師だった。

 

「………あら、うちのクラスに転入してくる子達ね」

 

「………はい。お世話になります。」

 

対応した女性の教師は、親しみやすそうな笑みを浮かべていたが、彼女を見て暫く、笑みは消え去りやや警戒するような表情へと変わる。両者の間に言い様のない間が生じた。

 

「手続きはこちらで完了させるわ。もう一人、紅月君も呼んできてくれないかしら?」

 

「了解しました。」

 

さっと踵を返すと、そのまま職員室を出る。

 

怜那に手招きで呼ばれ、壁から背中を離し職員室へと入る。職員室で怜那の傍らに居た女性の担当教師を見て興味深そうに笑みを作った。

 

「アヒャ!誰かと思ったら『血塗れゆとり(ブラッディー・ユトリ)』じゃねえか。戦場に出て来ねぇと思ったら教師なんざやってやがったのか」

 

「……あなたも相変わらずのようね、コードネーム"スカー"。いえ、今は紅月君だったかしら?」

 

違いねえ、と飛牙は笑い、鋭利な眼差しを更に笑みで細めながら教師−−−かつて戦場で『血塗れゆとり(ブラッディー・ユトリ)』という二つ名で恐れられた元傭兵、高天原(たかまがはら) ゆとりに笑いかけた。

 

「何はともあれ…これからヨロシクってか?高天原センセイよぉ?」

 

視線を元に戻して、愉快そうにアヒャヒャヒャと笑った。

 

 

 

「では皆さ〜ん。新しく転校してきた二人を紹介しま〜す」

 

「……紅月飛牙だ。専門科目は強襲科(アサルト)でSランク。ヨロシク」

 

「蒼月怜那です。専門科目は狙撃科(スナイプ)でSランクです。宜しくお願いします。」

 

始業式も終わり、配属となった2年A組で自己紹介をした(クラス替えをした直後なのに前に立たされて自己紹介をさせられた)。クラスに着いた瞬間の高天原先生の豹変ぶりに飛牙は怪訝な顔をしたのだが、敢えて特筆する事でもないだろう。

……何故か、飛牙は周りの視線が痛く感じた。

 

「…じゃあ、二人はあそこの席に座ってもらいましょう」

 

周りの反応に引きつった笑みをつくった高天原は、半ば呆れ口調で後ろ二席を指差した。

 

「…ケッ」

 

ポケットに手を突っ込んだ飛牙は、後ろからついてくる怜那をそのままに乱暴に席に座り、マントを着けたまま椅子の背もたれの後ろに掛け、両脚を机の上に乱暴に乗せて目を瞑った。

 

「2人の紹介も終わったし…じゃあ去年の3学期に転入してきたカーワイイ子から自己紹介してもらっちゃいますよ!」

 

嘗て血塗れゆとり(ブラッディー・ユトリ)と呼ばれ恐れられたヤツも今はプロなんだな、と飛牙はどこか寂しく、どこか可笑しく思わずにはいられなかった。

 

 

 

 

「先生、あたしはアイツの隣に座りたい」

 

全員の自己紹介も終わった(その間飛牙は姿勢を崩していない)ところで、前にいたピンク髪ツインテのチビガキが、俺の前で机に突っ伏していた野郎の隣を指差し高天原に意見しやがった(飛牙談)。

 

机に突っ伏していた野郎……もとい遠山(とうやま) 金二(きんじ)は、いきなり顔を上げたと思うと明らかに動揺し慌てだした。飛牙が後ろから見ていてもそれが分かったので、余程慌てていたのだろう。

動揺するキンジを差し置いて教室内はヒートアップ。

ピンクツインテのチビガキ……もとい神崎(かんざき)・H・アリアは、づかづかとキンジの元へ歩いて、

 

「キンジ、これ。さっきのベルト」

 

などと、明らかに男子制服物のベルトをキンジに手渡す。更に教室内はヒートアップする。

恋愛がどうだのと生徒Aが言い始め、騒ぎ出す生徒達、キンジを冷たい視線で見下すなど、反応は様々だ。

 

ずぎゅぎゅん!

 

「れ、恋愛なんて…くっだらない!」

 

顔を真っ赤にしたアリアが、突如両手に拳銃を持って威嚇射撃をした。

 

(コルト・ガバメントか…。中々良く管理されてるじゃねぇか)

 

しんとなったクラスで、飛牙は冷静にアリアの銃を鑑定する。

 

「全員覚えておきなさい!そういうバカなことを言うヤツには…」

 

(アヒャ、コイツは……)

 

静かなクラスの中、一人前で演説をするアリアと、一番後ろの席で犬歯を剥き出しにして目を笑いで歪ませた飛牙。端から見ればかなり異端な行動だろう。

 

「風穴あけるわよ!」

 

(面白ぇヤツ、はっけ〜んってか?)

 

びっと宣言をするアリアに、飛牙は心の中で独特的な狂笑をあげていた。

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