たとえ、世界を滅ぼしても 〜第4次聖杯戦争物語〜 戦争開戦(魂音共鳴)
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舞台の幕は上がる。

 

戦いの調べが流れ始めた。

 

戦場に勇士は集い、己が武を示す。

 

 

今ここに――――――――――第4次、聖杯戦争が開幕を告げる。

 

 

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<SIDE/セイバー>

―――――――――一組の女性達が、街の中を歩いていた。

その二人が通り過ぎる度に、道行く人が振り返る。

一人は銀髪に赤い瞳の美女、人間離れしたその面持ちに関わらず、どこか幼い印象を与える女性。

もう一人は、黒いスーツを纏い銀髪の女性をエスコートするように一緒に歩いている。

一見すると、まるで青年に見える【彼女】もまた、金髪に翡翠の瞳と美しい面持ちをしている少女だった。

 

良くも悪くも彼女達は目を引いた、その存在だけで、周りが華やかになるような錯覚すら受ける程に。

 

だが…誰が知ろうか、彼女達こそこれから巻き起こる戦争の参加者、【マスター】と【サーヴァント】なのだと。

更に言うなら、この戦争の勝利者の候補でもあり、始まりの三家が1つの【アインツベルン】と

セイバーのクラスで招かれた、かのブリテンを治めた【騎士王】なのだと。

 

そんな彼女達は、今は街の中を散策していた。

理由は多くあるけれど、その中でも今、セイバーが優先しているのは【アイリスフィールの護衛】。

ただ、それだけだった。

 

(……アイリスフィール。)

 

自分を召喚した((マスター|衛宮切嗣))の妻。

アインツベルンのホムンクルス。

幼い少女の母親たる女性。

 

……………そんな彼女は、あの冬の城から、今の今まで一度も外へ出た事が無いと言った。

 

それを、セイバーはどういう気持ちかは分からない。

でも、アイリスフィールのその気持ちは、叶っても良い筈だと感じた。

だから、今こうして、一緒に街を歩いている。

他のサーヴァントを誘き出す為、そう理由も付けられた。

実際ソレは事実だし、効率も良いのは理解出来る。

もしかしたら、今の((マスター|衛宮切嗣))と上手くいってないからかもしれない。

アイリスフィールだけが、セイバーと分かりあおうとしてくれたからかもしれない。

だがそれでも、セイバーは、今だけはアイリスフィールの事を優先したかった。

 

(しかし……何なのだろう、この((感覚|衝動))は)

 

 

だが、ふとセイバーの中に、何か引っかかるような感じがしていた。

不快ではなく、ただ【気になる】といった感覚、まるでそう、何故か懐かしいといいたくなるような。

それでいて、何処か不安になるような、上手く言えないソレが、彼女の中に生まれていたのだ。

 

それは、アイリスフィールと話すより前、そう『冬木市』に入った時からしていたのだった。

 

「……」

「どうしたの、セイバー?」

「いえ…アイリスフィール。

 この冬木に来てから、どうも違和感を感じているのですが…サーヴァントの気配ではないようです。

 ただ、注意した方がいいかもしれません。」

「そうなの…でも、サーヴァントではないのね?」

「はい、ですが油断は禁物です、私でも分からない手段を用いている可能性はありますから。」

 

しかし、今はそこまで気にしないでおこうとセイバーは判断する。

正体が分からない以上、今は何も出来ないのだ、なら今はアイリスフィールの護衛に集中していよう。

敵ならば、自らの手で斬り伏せるまでであり、もしかしたらこれはまだ見ぬサーヴァントへの武者震いかもしれない。

そう、彼女は思ったのだ。

 

 

―――――――奇しくも、同じような【((感覚|衝動))】に駆られている、【彼】の事を知らないが故に。

 

 

その後、セイバーとアイリスフィールは、敵であるサーヴァントの誘いにのり、倉庫街へと赴く。

それは数刻後の事なのだが、それを知らない彼女達は楽しんでいた……それが『最初で最後の』安息の時になると知らずに。

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<SIDE/ドラグーン>

 

(……何だか、【変な感じ】がするな。)

 

場所は変わって、間桐家の家の庭で、ドラグーンは首を傾げていた。

特に理由もないのだが、妙な((感覚|衝動))を覚えている為、

とりあえず気を紛らわせようと間桐家の庭を歩いていた。

隣には、今は昼という事もあって爺の邪魔が入らないだろうと連れてきた【桜】がいる。

ドラグーンが少し、【時を】待っているのだという事を伝えてからは、桜は出来る限り一緒に居ようとしていた。

それが信用からくるものなのか、

それとも不安からくるものかは分からないが、大きな進歩だとドラグーンは感じている。

 

「どうしたの?何だか変な顔してるよ。」

「……いやなに、可笑しな感覚がするからな、しかも少し【厄介な方の衝動】だ。」

「?、痛いの?」

「痛くはないな、ただ気分がふわつくとでも言うのか…懐かしいようで、腹立たしいような、そんな感じだな。」

「よく、分かんない…」

 

そんな会話に、桜は首を傾げて不思議そうな表情をするが、ドラグーンはその様子に少しだけ苦笑を浮かべるだけだった。

 

―――【雁夜の傍に居てほしい】、そう願った桜の事を、【彼】は多少は気に入っていた。

 

その言葉通りにさせて貰おうとドラグーンは考えているが、しかし状況は簡単なものではない。

魔力が十分に足らず、雁夜に必要以上の行動を制限されている今、下手に動くのはどう考えても得策ではなく、

ドラグーンは【戦闘】に関しては、【現在】は自分よりも余裕のあるバーサーカーに、雁夜の安全を任せようと考えていた。

 

(明らかに、あのバーサーカーは完全に狂っていなかった。

なら下手な暴走はそう簡単にはしないだろうな、多少の忠告は聞きいれている筈だ、

万が一にでもカリヤを死なせるような事はしないだろう。

しかし………何者だ、あの【((英霊|バーサーカー))】は?

私と同様に魔力の供給が十分ではない筈だが、そこらの英雄では【一筋縄で勝てる気がしない】んだが。)

 

それ以上に、ドラグーンはバーサーカーに疑問があった。

自分への【敵意】、それがどうも、単純なモノではないような気がしたのだ。

最初は確かに強く感じていた殺気は、実のところ、雁夜と会話をする度に((弱くなっていた|・・・・・・・))。

勿論完全に無くなった訳ではないのだが、【殺気が警戒に変わった】のに気付いた時には、既に雁夜達は間桐家を出て行ってしまっていた。

 

(まるで、【私自身ではないモノ】に反応したようだったな。

そう、何かと錯覚でもしていたような……だが、【何】とだ?バーサーカーは、【私と何を重ねて視ていた】。)

 

何故か気になる、下手に流してしまったらいけない事のように感じる。

 

 

――――――――――――そう、ソレは恐らくだが、この【((感覚|衝動))】と関係しているような気すらしてしまうのだ。

 

 

(頼むから、何も起こってくれるなよ………)

 

 

それは、ドラグーンが【最初の目的を果たす】前の時間での事。

少しの疑問から生まれた不安は、その願いも虚しく的中する事になる。

数刻後に、引き起こされたソレに、【彼】は自分の過ちを知る事態へと陥る。

 

 

…………………『誰も』勝利する事の無い、「初陣」へと駆ける事となるのだった。

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<SIDE/セイバー>

 

あの後、街を散策していたアイリスフィールとセイバーは、まるで挑発するかの如く魔力を流しているサーヴァントを知り。

あえてその挑発に乗る事にした。

そうして、辿り着いたのは人の気配のない倉庫街。

成程、此処ならば一般人の事も気にせず戦えるだろうと足を運んでいく。

 

その先に――――――――一人のサーヴァントが立っていた。

 

セイバーはその姿を目にすると、冷静に相手を把握しようと思考を巡らせる。

 

セイバーが捉えたのは、その眼差しだけで女性が籠絡されるのではないかと思う程に、見目麗しい男だった。

しかしソレを上回るように目を引くのは、彼が手にしている【二本】の槍。

聖杯戦争の七つのクラス、その中で呼ばれる【槍】の英霊。

その手にする武器こそが証明、彼はランサーのサーヴァントだろう。

 

そのランサーは、右手に緩く握った長槍の穂を肩に預けているのとは別に、左手にもう一本、短い拵えの短槍を携えていた。

二本の槍にはいずれも刃先から柄まで【布】が巻かれていて、その実体を見る事は許されなかった。

 

(…槍を使うならば、通常は一つで良い筈。

 しかしあのランサーは二槍……どちらかが本命の宝具ということだろうか?)

顔に出す事はなく、冷静に分析するセイバー。

だがそれを遮るように、低く明瞭な声が辺りに響いた。

 

 

「よくぞ来た。

今日一日、この街を練り歩いて過ごしたものの、どいつもこいつも穴熊を決め込む腰抜けばかり。

俺の誘いに応じた猛者は―――――――お前、一人だけだ。」

 

静かな、それでいてほんの僅かな期待を込めた声でそう告げて、ランサーはセイバーへ問い掛けてくる。

 

「その清涼な闘気、【セイバー】とお見受けしたが、如何に。」

「その通りだ、そういうお前はランサーに相違ないな?」

「如何にも……これより死合おう戦おうという相手と、尋常に名乗りを交わす事もままならぬとはな、興の乗らぬ縛りがあったものだ…」

 

零れ落ちるランサーの言葉に、セイバーは少しだけ彼に好感を抱き、苦笑を浮かべる。

 

「是非もあるまい、もとより我ら自身の栄誉を競う戦いではないのだからな。

貴殿とて、この時代の主のためにその槍を捧げたのであろう?」

「フッ…違いない」

 

これより戦いに臨もうとしているようには見えない程、軽くランサーは苦笑する。

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その時、セイバーの後ろで控えていたアイリスフィールが僅かに息を詰まらせ眉を寄せた。

 

「……((魅了|チャーム))の魔術?夫のいる女に随分な行動を取るのね、((槍兵|ランサー))。」

 

 

――――――――――――――ランサーは、女を魅了する魔力を放っている。

 

 

アイリスフィールは、アインツベルンのホムンクルスとして魔術に特化していた体を持っていた故に、

人間よりも遥かに高い対魔力で((抵抗|レジスト))した。

これが一般人は当然だが、並みの魔術師でも女である限り、ランサーの((魅了|チャーム))によって堕とされてしまうだろう。

それが分かるからこそ、少し怒りが込められるアイリスフィールの発言に、ランサーは肩を竦めるだけだった。

 

「悪いが……【コレ】は持って生まれた呪いのようなものでな、こればかりは如何ともしがたい。

聖杯戦争で何ら役にも立たないこの力に、精々踊らされる事がないよう気を付けてくれ。」

 

…((魅了|チャーム))の代表格といえば、通常は『魔眼』なのだが…しかしランサーの魅了は【相対し合う相手以外】にまで、発動した。

ということは眼ではなく【顔】に原因があるということだろうか?

それはまさに、魔眼ならぬ【魔貌】という事なのだろう。

 

「その結構な面構えで、よもや私の剣が鈍るものだと期待してはいるまいな?((槍兵|ランサー))。」

 

セイバーのクラスに与えられる、キャスターを除くクラスでは最高ともいえる抗魔力のおかげで、

セイバー自身もまた、ランサーの((魅了|チャーム))を完全に((無効化|キャンセル))する事が出来ていた。

 

「そうなっていたら興醒めも甚だしいが…成程、セイバーの対魔力は伊達ではない、か。

――――――――――――結構だ、この顔のせいで腰の抜けた女を斬るのでは、俺の面目に関わるからな。

…最初の一人が、骨のある奴で嬉しいぞ。」

「ほう、尋常な勝負を所望であったか――――――【誇り高い英霊】と相見えられたのは、私にとっても幸いだ。」

 

そうしてランサーとセイバーは向かい合う。

互いの頬に浮かぶのは、望んだ好敵手を得た事による喜びの笑みだ。

相手が自分と同じような性質を持っていると気付いたが故に、

この二人の間にはもはや――――――――――――言葉は、不要であった。

 

「それでは………いざ、勝負!」

「っ…!」

 

 

その手にしていた二槍を、ランサーはまるで、鳥が羽ばたこうとするかのように大きく広げる。

そして今まで静かに湧き上がっていたランサーの闘気が、破裂寸前まで一気に膨れ上がった。

ソレを確認すると同時に、セイバーは魔力で編まれた白銀と紺碧に輝く((甲冑|ドレス))へと装いを変える。

 

 

 

そんなセイバーに、ランサーは怒涛の勢いで戦闘を開始したのであった―――――――

 

 

 

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こうして舞台の幕は上がる。

これより始まるは魔術師と英霊の宴。

多くの命が失われ、多くの祈りを奪うモノ。

7人のマスターとサーヴァントの願いは叶うのか。

結末はどのようなものであれ、何も起こらない事は無い。

 

 

 

 

―――――――――――すでに、【采は投げられた】のだから。

[newpage]

【あとがき】

 

とうとう始まりました聖杯戦争、セイバーVSランサーです。

小説やアニメを見ている人は知っているとは思いますが、ここでの戦いは余り変更は発生しないのでご安心くださいませ。

しかし、ドラグーン…【彼】の不安が的中した時、

その行動は大きく舞台を動かします、それは次回のさらに次回ですが…(笑)

 

作者は基本、原作小説をもとに作成しておりますので、少し被る事が多いですが…少しでもオリジナル感を出せるように()の中にルビを振ったりしていきます!

それでは次回、『英霊混戦』を、お楽しみに!

 

今回のBGMは、【Gregorio(榊原ゆい)】でした。

※感想・批評お待ちしております。

説明
※注意、こちらの小説にはオリジナルサーヴァントが原作に介入するご都合主義成分や、微妙な腐向け要素が見られますので、受け付けないという方は事前に回れ右をしていただければ幸いでございます。
それでも見てやろう!という心優しい方のみ、どうぞ閲覧してくださいませ。


今回は雁夜おじさんとバーサーカーは出演しません。
その代わりに、他陣営が初登場します!

そして、始まりの戦いが幕を開ける・・・・・・
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英雄 戦争 物語 Fate/Zero 腐向け 残酷描写 原作改変 セイバー ランサー 

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