インフィニット・ストラトス―絶望の海より生まれしモノ―#10
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[side:一夏]

 

「織斑くん、おはよー。ねえ、転入生の噂聞いた?」

 

セシリアと俺が授業でフルボッコにされ、俺のクラス代表就任を祝う(ちっともめでたくない)パーティーと言う名の騒ぎの翌日、

 

「転入生?今の時期に?」

 

ようやく扱いが珍獣からクラスメイトになって来た事を実感しながら俺は話にのった。

 

「そう。なんでも中国の代表候補生なんだってさ。」

 

そういうクラスメイト女子A(まだ名前は覚えていない)。

 

「あら、わたくしの存在を今更ながら危ぶんでの転入かしら。」

 

代表候補生という単語に反応して、セシリアが腰に手を当てたポーズを決めながらこっちに来た。

 

どうでもいいけど、ほんと様になってるよな。

イギリス人はこのポーズがよく似合うように出来てるのか?

 

「このクラスに転入してくるわけでは無いのだろう?別段、騒ぐ事でもあるまい。」

 

更に、今さっき自分の席に戻って行ったばかりの箒も戻ってきて参戦。

やっぱり箒も女子。

噂話には敏感なんだろう。

 

「どんなヤツだろうな。」

 

「む、気になるのか?」

 

「ん?ああ。少しな。」

 

「むぅ…」

 

ちょっとむくれた箒。

 

なんだか最近情緒不安定だぞ?

 

「今のお前に女子を気にしている余裕があるのか?来月にはクラス対抗戦があると言うのに。」

「そう!そうですわ、一夏さん。来月のクラス対抗戦に向けて、より実戦的な訓練をしましょう。ああ、相手ならこのわたくし、セシリア・オルコットが務めさせていただきますわ。」

 

クラス対抗戦。

 

読んでそのままなクラス代表によるリーグマッチで、スタート時点の実力を測るため、アンド、クラス単位での交流およびクラスの団結の為のイベントだそうだ。

 

『めんどい』と流されてしまう事を防ぐために一位クラスには優勝賞品として学食のデザートフリーパス(有効期間:六か月)が配られる。

確かに、女子を釣るにはもってこいのネタだな。

 

「まあ、やれるだけはやってみるさ。」

 

最近は基本操作の習得に手間取っているから『実戦的』な事は殆ど出来ていない。

故に、勝てるかどうかは怪しい。

けど、ここであっさりと引き下がるのも癪だと思うからの答えが『やれるだけやる』だった。

 

「やれるだけでは困りますわ!一夏さんには勝っていただきませんと!」

「そうだぞ。男たるもの、そのような弱気でどうする。」

「織斑くんが勝つと、クラスみんなが幸せだよ!」

 

そんな俺の心中を知ってか知らずか…多分知らないで好き勝手に言ってくれるクラスメイトたち。

 

空は『近接戦闘に必要な勘とか距離感はあるんだからそれをIS用に発展させれば大丈夫だ』とか『基礎ができれば化ける』って言ってくれてたし…頑張るしかない。

 

聞けば、ISの操縦がセシリアよりも上手い(少なくとも、俺にはそう見えた)空ですら、伸び悩んだ時期があったという。

 

空曰く『操縦者も((一次移行|ファーストシフト))しないといけない』。

 

『ISは、操縦者に機体を合わせる。だから、操縦者も機体に体を合わせてやらなくてはならない。』という意味らしい。

 

「―――俺も、((一次移行|ファーストシフト))しないとな。」

 

「織斑くん、頑張ってね」

「フリーパスの為にもね!」

 

そんな俺の呟きは集まって来た女子の声に掻き消されて誰にも届かない。

 

「今の所、専用機を持ってるクラス代表は一組と四組だけだから余裕だよ。」

 

 

丁度その時だった。

 

「―――その情報、古いよ。」

 

教室の入り口の側から声が聞こえた。

 

それもなんか、すげー聞き覚えのある。

 

「二組も、専用機持ちが代表になったの。そう簡単には優勝できないから。」

 

腕を組み、片膝をたててドアにもたれかかっていたのは―――

 

「…鈴?お前、鈴か?」

 

「そうよ。中国代表候補生、((鳳 鈴音|ファン リンイン))。今日は宣戦布告に来たわ。」

 

ふっ、と小さく笑みをもらし、トレードマークのツインテールが軽く左右に揺れる。

 

それにしても………

 

「何、かっこつけてんだよ。すげぇ似合わないぞ。」

 

「んなっ!?なんてこと言うのよ、アンタは!」

 

「そうそう。それでこそ鈴だ。久しぶりだな。――鈴、後ろ。」

 

 

「おい。」

 

 

「何よっ!?」

 

振り返った瞬間、鈴の顔面に出席簿がめり込んだ。

 

バシン、と響いた音はなんとも痛そうだ。

 

「もう、SHRの時間だ。教室へ戻れ。」

 

「ち、千冬さん…ッ」

 

バシーン

 

「織斑先生、だ。さっさと戻れ。それと入り口を塞ぐな、邪魔だ。」

 

「す、すみません………」

 

すごすごとドアから退く鈴。

完全に千冬姉にビビってる。

 

「また後で来るからね!逃げないでよ、一夏!」

 

「さっさと戻れ。」

 

「は、はいっ!」

 

二組に向かって猛ダッシュする鈴。

 

「っていうか、アイツ、IS操縦者だったのか。」

 

初めて知った。

 

 

 

「………一夏、今のは誰だ?えらく親しそうだったが、知り合いか?」

「い、一夏さん!?あの子とはどういう関係で―――」

 

箒にセシリア、その他クラスメイトからも質問の集中砲火が始まるが…

 

ああ、馬鹿―――鈴が追い返された理由を忘れたのか?

 

「席につけ、馬鹿ども。」

 

千冬姉の出席簿が火を噴いた。

 

叩かれた頭を抱えるクラスメイト達。

 

………それにしても不思議なもんだ。

こうも知り合いばっかりと再会するなんてな。

 

 

 

出席を取り終わったから、授業の準備をしようか。

 

確か一時限目はISの基礎技術論だったハズ。

 

テキストを机の上に引っ張り出して山を為す。

 

 

 

お、山田先生が来て………教卓の前をスルーした!?

 

そのまま空席になったままの空の席に座る山田先生。

 

「それじゃ始めようか。」

 

至極明るく入って来た空が教卓の前に立つ。

 

 

「あれ?どういう事?」

 

誰からともなくこぼれた呟き。

 

「ああ、言い忘れていた。」

 

答えるのは千冬姉。

 

「ISの技術関係の知識は我々よりも千凪の方が充実しているのでな。特例として講師扱い、副担任補佐として授業をする事になった。しっかり学べ。」

 

 

………それでいいのか?IS学園。

 

 

* * *

 

「お前のせいだ!」

「あなたのせいですわ!」

 

昼休み、俺の所にやってきた箒とセシリアの開口一番は俺に対する文句だった。

 

「なんでだよ。」

 

この二人、午前中に山田先生から注意三回、千冬姉に二回叩かれている。

更に空にも注意二回、出席簿アタック一回をそれぞれ貰っている

 

全部合わせたら注意五回、出席簿三回ずつだ。

 

とりあえず、千冬姉の出席簿アタックと同等くらいの音と痛がりようだったとだけ言っておく。

 

「まあ、話ならメシ食いながら聞くから。とりあえず学食行こうぜ。」

 

「む……ま、まあお前がそういうのなら、いいだろう。」

「そ、そうですわね。行って差し上げない事も無くってよ。」

 

「おーい、空。学食行こうぜ。」

 

次に誘うは空。

 

だが、返事がない。

 

「…空?」

 

したら、

「千凪くんなら、昼休みになってすぐに出てったよ?」

 

と、クラスの女子―確か相川さん―が教えてくれた。

 

成る程。もうどこかに行ってるって事か。

 

「しゃーない。行こうか。」

 

箒とセシリア、他数人と一緒にぞろぞろと学食へ移動した。

 

 

学食で注文するのは俺は日替わりランチ、箒はきつねうどんでセシリアは洋食ランチといういつものラインナップ。

 

毎日日替わりランチを注文してる俺が言うのもなんだけど、他のメニューも試してみようぜ?

 

 

 

『――で、あるからISでの近接戦闘は―――』

 

ふと、聞き覚えのある声。

 

声の方向に視線を向けると食堂に設置されたモニターがあって、そこで空がISでの近接戦闘についての講義をしていた。

どういう訳か、制服じゃなくてスーツっぽい格好で。

なんだか本物の教師っぽい。どれくらいかって言うと、山田先生よりも教師っぽい。

 

成る程、だから昼休みになってすぐにいなくなったのか。

 

 

あ、端っこに『千凪先生のIS講座』ってテロップが入ってる。提供は……IS学園教務課と放送部か。

 

なんだか通信制の大学みたいだな、とか思っていたら。

 

「待ってたわよ、一夏!」

 

俺たちの前にどーん、と立ちふさがる小さめの影。

 

言うまでもなく噂(?)の転校生にして新たに二組の代表になった中国の国家代表候補生。

鳳鈴音。まあ、俺は略して鈴と呼んでるが。

 

「まあ、とりあえずそこをどいてくれ。食券が出せないし、普通に通行の邪魔だぞ。」

 

「う、うるさいわね。判ってるわよ!」

 

うーん、それでも気配り無しに立ちふさがるんだからあんまり判ってなさそうだな。

 

しかも、ラーメンの乗ったお盆を持ったままだとは…

 

「ラーメン、伸びるぞ。」

 

「わ、わかってるわよ!大体、アンタを待ってたからでしょうが!なんで早く来ないのよ!」

 

エスパーでもない俺にどうやってタイミングを合わせろと?

 

とりあえず食券をおばちゃんに渡す。

 

「それにしても、久しぶりだな。ちょうど一年ぶりになるのか。元気してたか?」

 

「げ、元気にしてたわよ。アンタこそ、たまには怪我病気しなさいよ。」

 

「どういう希望だよ、そりゃ…」

 

 

なんでか俺の廻りの異性はこうもアグレッシブな人ばっかりかな。

 

「あー、ゴホンゴホン!」

「ンンッ!一夏さん。注文の品、できてましてよ?」

 

大げさな咳払いをした箒とセシリアに会話は一時中断。

注文した日替わりランチのトレーを受け取る。

 

おお、今日は鯖の塩焼きか。うまそうだ。いや、『うまそうじゃなくてうまいんだよ(by食堂のおばちゃん)』だったな。

 

「ええと、向こうのテーブルが空いてるな。行こうぜ。」

 

鈴も含めた十人余が大移動してテーブルに着く。

 

「鈴、いつ日本に帰って来たんだ?おばさん、元気か?」

 

「質問ばっかりしないでよ。あんたこそ、なにIS使えてるのよ。ニュースで見てびっくりしたじゃない。」

 

まる一年ぶりの再会とあって普段以上に話しかけていた俺。

やっぱり、幼馴染という長い時間を一緒に過ごした相手の空白期間は気になる物だ。

 

「一夏、そろそろどういう関係か説明して欲しいのだか。」

「そうですわ!一夏さん、まさかこちらの方と付き合ってらっしゃるの!?」

 

箒とセシリアが多少とげのある声で聞いてきた。

 

他のクラスメイト達も興味津々と言わんばかりに頷いてる。

 

「べ、べべ、別に私は付き合ってるって訳じゃ……」

 

「そうだぞ。なんでそんな話になるんだ?ただの幼馴染だよ。」

 

そう言ったら鈴から睨まれた。

 

「?何、睨んでるんだ?」

「なんでもないわよっ!」

 

行き成り怒った。変なヤツだな。

 

「幼馴染………?」

 

怪訝そうな声で返したきた箒。

 

「ああ、そういえば箒が引っ越していったのが小四の終わりだったよな。鈴が越してきたのは小五の頭だよ。それから中二の終わりに国に帰ったから、会うのは丁度一年ぶりだな。」

 

そういえば、鈴は箒と面識がないんだったな。

ちょうど入れ違いになる感じで引っ越してきた訳で。

 

「で、こっちが篠ノ之箒。ほら、前にも話したろ?幼馴染で、俺の通ってた剣術道場の娘。」

 

実際の所はアキ兄を長男にして長女千冬姉、二女束さん、三女が箒で二男が俺(誕生日的な意味で)って言える兄妹みたいなもんだったけど。

 

いや、アキ兄は父親ポジだな。で、俺が繰り上げ長男。

 

「ふぅん。そうなんだ。」

 

鈴がじろじろと箒を睨みつけ、箒も負けじと鈴をにらみ返す。

 

「初めまして。これからよろしくね。」

「ああ、こちらこそ。」

 

そう、挨拶を交わす二人の間に火花が散ったような気がした。

 

思わず視線を机の上に展開されてる講義放送に向けてしまったのも仕方ないと思う。

 

ふむふむ。近接戦闘のキーポイントはいかに間合いに入り込むか、と如何に相手の得意レンジから脱するかなのか。

 

「ンンンっ!わたくしの存在を忘れてもらっては困りますわ。中国代表候補生、鳳鈴音さん?」

 

「………誰?」

 

「なっ!?わたくしはイギリス代表候補生、セシリア・オルコットでしてよ!?まさかご存じないの!?」

 

「セシリア、それ俺んときもやった会話だぞ。」

 

代表候補生なんて他国じゃ全く取り沙汰されないって。

 

「うん。あたし、他の国とか興味ないし。」

 

「なっなっなっ………!?」

 

そして、鈴も相手を逆上させるような言い方しなくてもいいだろ。

 

『ふぅん、よろしくね』と無難に流すって手もあったろうに。

 

「い、い、いっておきますけど、わたくしあなたのような方には負けませんわ!」

「あ、そ。それでも戦ったらあたしが勝つよ。悪いけど、強いもん。」

 

「………」

「い、言ってくれますわね……」

 

自信満々に言いきった鈴は何食わぬ顔でラーメンをすすり、箒は無言で箸を止め、セシリアはわなわなとふるえながら拳を握りしめた。

 

 

んあ、俺?

講義を見てるぞ、食いながら。

 

「一夏。アンタ、クラス代表なんだって?」

 

「おう。成り行きでな。」

 

「ふーん。」

 

どんぶりを持ってごくごくとスープを飲む鈴。

レンゲとかを使えばいいのに『女々しいから嫌』と使わない。

 

女々しいって…お前、女だろうが。

 

「あ、あのさぁ。ISの操縦、見てあげてもいいけど?」

 

俺から顔をそらして、視線だけを向けて言ってくる鈴。

 

「あぁ、でも今は空に指導してもらってるんだよな…」

 

正直言って、今の所は空の指導についてくのがやっとだしなぁ…

 

 

「誰よ、『空』って。」

 

「ん。」

 

俺が指さすのはモニターで教鞭を振るうスーツ姿の同級生(同性)。

 

モニターを親の敵かのように睨む鈴。

 

「アンタ、教師を呼び捨てにしてるの?」

 

「クラスメイトだぞ。」

 

「はぁ!?」

 

そういや、鈴は空の事知らないんだよな。

俺だってIS学園に来て初めて会った訳だし。

 

「千凪空って言って同じ一組の生徒なんだ。専用機持ちで、なんだかんだで授業も持ってるぞ。」

しかも判り易いんだな、これが。

 

「なんだかんだって、どういう理由よ。」

 

俺だって知らん。

 

「それよりさ。今日の放課後、時間あるわよね?久しぶりだし、どこか行こう。駅前のファミレスとか。」

 

「あー、あそこ去年つぶれたぞ。」

 

「そ、そう。じゃあ学食でもいいから、積もる話もあるでしょ?」

 

うーん、俺としてはコレと言ってないんだが。

 

強いて言えば全国大会の話くらいか?

 

 

「一夏。放課後は空に実機訓練を見てもらう予定だろう。」

 

「そ、そうですわ!クラス代表戦に向けての特訓がありますわよ!」

 

ここぞとばかりに『訓練』の予定を押し立ててくる箒とセシリア。

 

教えるのはお前らじゃなくて空だろ?

なんでそんなに強く推すんだ?

 

「じゃ、それが終わったら行くから。空けといてね。それじゃあね、一夏!」

 

一気にスープを飲みほした鈴は片づけに行ってしまう。

もちろん、そのまま学食を出て行ってしまった。

 

返事はしてないが、断れても居ないからこれは待つしかないな。

 

「一夏、稽古も忘れるなよ。」

 

へいへい。

説明
#10:転校生はセカンド幼馴染/副々担任は………
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絶海 インフィニット・ストラトス 

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