インフィニット・ストラトス―絶望の海より生まれしモノ―#12
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[side:一夏]

 

 

「――と言う訳だから、部屋代わって。」

「ふ、ふざけるなっ!何故私がそのような事をしなくてはならないっ!?」

 

場所は寮の部屋、1025号室。

時間は夕食も終わった午後八時。

 

部屋にやって来た鈴と箒が互いに火花を散らしていた。

 

 

「アレ、止めなくていいのか?」

俺が思わず空に言ってみると

 

「今は放置。必要なら手を出すよ。それよりもこの部分だけど前のページの欄外に説明があるから。」

と、目の前の勉強の方に戻ってしまった。

 

「おお、本当だ。」

 

成る程。何処にも記述がないと思ったら欄外にあったのか。

 

今度からは本文以外の場所もしっかりと読む事にしよう。

 

「一夏っ!」

 

「ん、どうした?」

 

呼ばれたので勉強を中断して振り向く。

 

したら、怒り心頭な鈴と箒が居た。

 

「アンタ、無関係を装ってるんじゃないわよ!」

「お前からもこの女に言ってやれ。」

 

…俺が何と言おうとも『我が道を征く』な鈴と人一倍頑固な箒との確執は解決できる気が全くしない。

解決にはスポ根モノ並の正面衝突と大激闘が必要になるんじゃないだろうか。

 

「鈴。」

 

「うん?」

 

「荷物はそれで全部か?」

 

「そうだよ。あたしはボストンバックひとつあればどこでも行けるからね。」

 

相変わらず、フットワークの軽い事で。

 

「とにかく、今日からあたしもここで暮らすから。」

 

「ふ、ふざけるなっ!出て行け!ここは私の部屋だ!」

 

「『一夏の部屋』でもあるでしょ?じゃあ問題ないじゃん。」

 

そう言って、二人して意見――というか賛同を求めるように俺を見る、というか睨みつけてくる。

 

「俺に振るなよ……」

頭が痛い。

 

「学内規則………」

ぼそり、と空が呟く。

 

そういえば生徒による勝手な部屋の交換は認められてないんだったな。

もし変えて欲しければ正式に理由を書類にして寮監に提出して監査を通る必要があったはずだ。

 

「とにかく!部屋は代わらない!出て行くのはそちらだ。自分の部屋に戻れ!」

 

「ところでさ、一夏。約束覚えてる?」

 

「む、無視するな!ええい、こうなったら力づくで……」

 

激昂した箒がベッドの横に立てかけてあった竹刀を握る。

 

「あ、馬鹿―――」

 

俺が止める間もなく、冷静さを失った箒は防具も何もつけてない鈴に向かってその竹刀の切っ先を振り下ろした。

 

バシィンッ!

 

「あ〜あ、やっちゃったよ。」

 

物凄い音と、空の呆れた声。

 

って、呆れてる場合かよ!

 

「鈴、大丈夫か!?」

 

「大丈夫に決まってるじゃん。今のあたしは――代表候補生なんだから。」

 

箒の、確実に脳天を捉えていた打撃はISが部分展開した右腕によってしっかりと受け止められていた。

 

「ッ!」

 

それには箒が驚いていた。

 

ISの展開が幾ら早くとも『人間の反射限界を超えられない』という限界がある。

 

素人ならば為すすべなく打ちのめされていたであろう一撃を受け止めたという事は鈴自身がかなり強いという、単純明快な証明になっていた。

 

「ていうか、今の生身の人間なら本気で危ないよ?」

 

「うっ…」

 

怒りにまかせて自制心を失ったという指摘が効いたらしく、箒はバツが悪そうに顔を俯けた。

 

「ま、いいけどね。」

 

鈴は部分展開していた右腕を解除して俺の方に向いてきた。

 

「で?」

 

と俺に問いかけてくる鈴。

 

どうやら先ほどの『約束〜』の答えを待ってるらしい。

 

「約束………ええと、アレか?」

 

「お、覚えてる………よね?」

 

顔を伏せて、ちらちらと上目遣いで俺の方を見てくる。

 

約束、約束………鈴との約束か………

 

一つ思い出せたのは『鈴の料理の腕が上がったら毎日酢豚を作ってくれる』だ。

 

だが少し待て。

確かこの約束には続きに当たるやりとりがあったはずだ。

 

………確か小学生の頃―――

 

思い出した。

 

俺が『まるでプロポーズみたいだな。中国じゃ味噌汁じゃなくて酢豚なのか?』って言ったら鈴は『そんなわけないじゃない』って、真っ赤になりながら慌てて否定してたんだ。

 

その後に『冗談に決まってるでしょ』って言ってきたからこれは違うだろう。

 

「うーん、思い出せん。」

 

「………それ、本気で言ってるの?」

 

「ん?ああ。―――ごぉっ!?」

 

俺の返事に対する鈴の反応は、強烈なボディーブローだった。

 

それこそ、常人じゃ最悪内臓破裂もあり得そうな位に強烈なヤツ。

 

俺は悶絶して蹲る。

 

流石にコレはキツイ。

 

なんとか鈴の方に視線を向けた。

 

肩を小刻みに震わせ、怒りに充ち満ちたまなざしで俺を睨んでいる。

しかもその瞳には涙がうっすらと浮かんでいて、唇は涙がこぼれないようにきゅっと結ばれていた。

 

 

「最ッ低!女の子との約束を忘れるだなんて!男の風上にも置けないヤツ!犬に噛まれて死ね!」

 

床に置かれていた鞄をひっつかんで部屋を出て行く

 

 

つーか、何だ?

俺はそんなに大事な約束を忘れてるのか?

 

あの鈴が泣くくらいだ。よっぽど大事な約束だったんだろう。

 

 

だが、今はそれどころじゃない。

 

 

「うぷっ…」

 

腹を強打されたせいで、酸っぱいものが上がってきてる。

 

正直、我慢も限界に近い。

 

 

その後、俺は空に付き添われながらトイレと医務室をはしごし、医務室で一夜を明かすことになった。

 

 

 

 

―――翌日、生徒玄関前の廊下に大きく張り出された紙があった。

表題は『((クラス対抗戦|リーグマッチ))日程表』。

 

一組代表…つまり俺の一回戦の対戦相手は二組代表―――鈴だった。

 

説明
#12:やって来た火種
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