インフィニット・ストラトス―絶望の海より生まれしモノ―#17
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[Side:一夏]

 

ISによる襲撃の翌日。

 

 

「今日から暫くの間、千凪が休学する事になった。知ってると思うが昨日の一件が原因の、怪我の療養だ。授業は山田先生に担当が戻るので……………担当教諭は間違えずに授業をするように。」

 

肩を震わせる千冬姉。

視線の先にはすっかり生徒に紛れて馴染んだ山田先生が空の席に座っていた。

 

ちなみに授業の時間になっても、山田先生は気付かずに『休講ですかねー』なんて言っていて、千冬姉に頭をすぱーん、とやられていたりする。

 

授業担任が山田先生なことに文句を言った連中も同様にすぱーん、だ。

 

 

 

で、そんな悲劇的喜劇を越えて放課後。

 

俺と鈴、結局ついてきた箒と機会がなくて言えないでいたセシリア、それに元は空の、今は箒の同室の更識簪さんの五人で空の見舞いにIS学園の医療センターに来ていた。

 

医療センターというのは保健室じゃ対応できない大怪我や病気になった生徒や教員の救護施設だ。

 

下手な病院より施設は整ってるが、あくまで救急救護が目的である為に入院施設は一フロア分しかない。

 

 

受付で確認したところ病棟入ってすぐ、一号室とのことで実際にすぐに見つかった。

 

 

「おーい、空。見舞いに来たぞ。」

 

「一夏?―――っ!今はダメ―」

 

「へ?」

がらっ、

空の制止は間に合わず俺はドアを開けてしまった。

 

「ん?」

 

視界に飛び込んできたのは、なんというか白かった。

白くてまるで絹布のようにキメの細かいそれは滑らかな曲線を描き、決して大きい訳ではないが確かな存在感を放っている。

 

そしてその曲線の頂点はほんのりと桜色で―――

 

それが何なのかを頭が理解するが先か、否か―――

 

「ぃちかの、ばかぁ!」

 

そんな、聞きなれた空の、聞き慣れない必死な叫びと同時に全身五ヶ所に鈍痛が走って視界が暗転した。

 

きゅう………

 

 * * *

[side:   ]

 

「ぃちかの、ばかぁ!」

 

空の叫びで我に返った彼女たちの行動は早かった。

 

空の着替えを介助していた女性の正拳が眉間を突き、鈴が右膝、箒が左膝を蹴り抜く。

 

上体を押され、膝を前に押された一夏は、当然の如く後ろへと倒れる。

 

 

そしてその倒れてくる一夏の後頭部をセシリアは((膝で激しく|ひざげりで))迎え、簪が止めと言わんばかりに体重の乗った肘を鳩尾へとめり込ませる。

 

どこかに『5 hit』『5 chain』『5 combo』といった類の表示がされそうなくらいに見事に極まった連撃だった。

 

「失礼しました。一度出直します。」

 

と箒が代表して言ってから、一夏の襟首を引き摺って一度部屋を出る。

 

とりあえず一夏は廊下に打ち捨てて、箒、鈴、セシリア、簪の四人で緊急会議の開始だ。

 

「…まさか、空が女だったとはな。」

 

箒はしっかりと確認した姿を思い出してみる。

 

――確かに、はっきりと『女性である』と主張する胸があり、一夏に見られた事を恥ずかしがっていた。

 

「確かに、全然男らしくないわよね。」

 

「同性故の気安さに近いものが有りましたものね。」

 

鈴とセシリアも思う思うの意見を出して危機感を募らせていた。

 

 

今、一夏に一番近い位置にいるのは空である。

 

なんせ、同性だと思っていたのだから当然の如く付き合いの深さは気を許しやすい方に近づくのは当然だ。

 

 

今までは同性だから大丈夫だと思っていた彼女らからすれば空の存在は予想外の強敵であった。

 

 

一方で黙り続ける簪も簪で悩んでいた。

 

(どうしよう………いろんな意味で壁が大きく……)

 

いきなりそんな事を考えている辺り、簪も大分色々と毒されつつあるようだ。

 

 

「お待たせ。もういいわよ。」

 

そうこうしているうちに、介助していた女性が呼びにきてくれた。

 

「あ、はい。」

 

 

そして、改めて部屋に入る一行。

 

部屋に入ると顔はまだ赤いがいつも通りの制服姿な空に戻っていた。

 

ベッドに腰かける空。

 

いつも通りだが、何かが違う。

男子制服を女子が着ている訳だからそれは当然と言えば当然だが。

 

「それじゃあ、空ちゃん。車を回してくるからそれまでね。」

 

「はい。」

 

と、介助をしていた人は部屋を出てゆく。

 

「ねえ、あの人って、何者?」

 

尋ねる簪。

 

(母親…と言う訳ではなさそうだけど………)

 

「えっと、あの人は((槇村 実奈|まきむら みな))さん。僕の所属研究所、槇篠技研の副所長だよ。」

 

「へー。そうなんだ。」

 

「えぇっ!槇篠技研!?」

「それなら、教員顔負けなのも納得がいきますわね」

 

空の答えに興味なさそうに答えた鈴と、驚いた簪、納得するセシリア。

 

「なに?そんなに有名なの?」

 

「有名って……鳳さん、あなた……それでも第三世代型ISの操縦者なんですの!?」

 

「槇篠技研と言えば第三世代型兵装の基礎理論を完成させ、イメージインタフェースの雛型である『((思考による火器管制補助|イメージ・フィードバック・ファイア・コントロール))システム』を開発した研究所だよ!」

 

鈴に詰め寄る簪とオルコット。

 

 

「へー………って、それ本当?」

説明されて判ったのか、鈴はギギギギ、と油の切れた機械みたいに空の方に視線を向ける。

 

「そうだよ。」

 

 

「えぇぇぇぇぇぇ!?」

 

肯定されて鈴、絶叫。

 

 

「どうしたんだ、鈴。そんな絶叫して。」

 

一夏が耳を押さえながら言った。確かに、迷惑だ

 

「どうしたもこうしたも…第三世代型ISの生みの親ともいえる研究所なのよ!!」

ISの世代交代を引き起こした、その切っ掛けとも言う。

 

「へー。ところで空。」

 

「扱いが軽い!?」

 

「療養のため休学ってなったらしいけど、そんなに酷いのか?」

 

一夏としては、空のことの方が重要らしい。

 

「体は問題ないんだけどさ、ほら。」

 

空が手足をばたつかせたら、裾がはためいた。

 

「ッ!」

 

それには、研究所の話で盛り上がっていた面々も言葉をつまらせる。

 

「…なんて謝っていいか解らないけど…、俺のせいで………」

 

「あ、左腕以外がないのは生まれつきだから。義手と義足のソケットが破損したからそれの交換しないといけなくってさ。」

 

それに薙風の修理も、と笑う空。

 

「だから気にしないで。反省と後悔も、得難い失敗の経験なのだから。」

 

そういい微笑む空はずっと大人びてみえた。

 

まるで人生の辛酸、世間の清濁、甘いも苦いも((経験した|しっている))大人の顔だ。

 

一夏にもそう見えたらしくキョトンとしている。

 

 

その顔がほんとうに極僅か、微かに顔が紅潮しかけていることに気付いたのはこの場で何人だろうか。

 

簪はむっとして微かながら頬を膨らませているから、気付いたようだが。

 

それから、とりとめもない話を二、三交わしたのち、鈴が思い出したかのように言った。

 

「気になってたんだけどさ、なんで女だってこと隠してたの?」

 

「別に隠してたないよ。ただ性別のことを聞かれなかったから言わなかっただけ。」

 

そりゃ全員が全員…一部例外はありとはいえ殆ど全員が『男』だと思っていたのだからいたしかたない。

 

「まるで詐欺ですわね。」

 

「人聞きの悪い。書類は全部『性別:女』で提出してるし、織斑先生は判ってたみたいだよ?」

 

「世界最強を比較対象に出す時点で色々間違ってるぞ。」

 

「そうかなぁ。」

 

「そうだよ。」

「そうだぞ。」

「そうですわ。」

「そうよ。」

 

返事は、ほぼ同時だった。

 

 

「でもまあ、空がいなくなると寂しくなるな。」

 

「…うん。」

 

残念そうな顔になる一夏と簪。

 

「一ヶ月もしないうちに戻ってくるよ。その時は、改修された相棒で成長具合を見てあげるからね。」

 

そんな二人を宥めるように言う空。

 

「…おう、お手柔らかに頼む。」

 

「だーめ。」

 

「うぅっ。」

 

きっとボコボコだろうなぁ…

トラウマ、植え付けられなければいいなぁ…

 

そう遠くない日を思い、一夏はどんよりとした空気を纏い始める。

 

「簪さんも、打鉄弐式の組立て頑張って。メールで送ってくれれば相談にも乗るよ。」

 

「うん。頑張る。」

 

 

「皆も、体には気をつけて。」

 

「ああ。」

「ええ。」

「そのままそっくり返すわよ。」

 

 

ちょうど、そのタイミングでドアが開き実奈が現れた。

 

「はい、丁度キリも良さそうだし、ここで切り上げにさせてもらうわよ。」

 

センターのスタッフも一緒だからすぐに引き払う気満々なのが見て取れる。

 

 

「あ、はい。それじゃあな。」

 

「うん、それじゃ。」

 

追い立てられるように一夏たちは部屋を追いだされる。

 

その後は待っていても仕方ないので寮に戻る一行。

 

一方で空は実奈が回した研究所の公用車に乗せられてIS学園を離れていった。

 

説明
#17:一時の別れ
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