これが私が勇者の下僕になった理由 |
「ごめん、待たせた?」
「ううん、私も今来たところ。」
「そ?じゃ、行こっか。」
傍から見れば恋人同士のごとく会話を交わし、さり気無く繋いできた右手にこれでもかというほど力を込めてやった。
簡潔に言おう、私はこの男に人生を狂わされた。
この、キラキラ勇者サマの仮面をがぶった策士なエセ勇者に…。
†‥+‥†‥+‥†
彼との出会いはまさに偶然だった。
この時の私は運が悪かったとしか言いようがない。
こんなこと言えば「俺は必然だと思いたいな」なんて歯の浮くような言葉が返ってくるのだろうが…。
あの日私は校舎裏にいた。
あ、いや、別に〜キャッ☆校舎裏の告白!〜とか〜ドッキドキ☆女子の集団リンチ〜とかそういうイベントのために行ったわけではない。
ただその日は、教室の掃除当番でゴミ捨てに行った帰りに「こっちの方が近いんじゃないかな?」とちょっとした冒険心とお茶目心が作用しただけにすぎないのだ。
それなのに、あんなものを見てしまうなんて…。
何を見たかって?
あ、いや、別に〜キャッ☆校舎裏の(以下略)〜とかそういうイベントを見たわけではない。
え?もう前置きはいい?
あ、そうですか…。
では改めまして
私が何を見たかというと、勇者サマのご帰還の瞬間、である。
頭がおかしい?いい精神科紹介してやる?
大きなお世話だ。
むしろ頭がおかしかっただけならどれだけ良かっただろう。
いや、それも嫌だけど…。
校舎裏の一角
少し鬱蒼とした茂みが光り輝いていた。
なんだ?と、少しばかり好奇心旺盛な私はその正体を確かめようと覗き込んでみたのである。
ズンズンと茂みの中に入って行き、光り輝く地面の真下まで行ってみた。
きょろきょろとあたりを見渡すも、地面が光り輝いている以外何もない。
ん?地面?
そんな疑問を持った私が見下ろした地面には何やら魔方陣らしきものが…。
いやいやまてまて、なんで結論が魔方陣だとかそんな方向にいくんだ。
どこの中二だ、私!!
これはきっとあれだ、人魂の原因であるプラズマとかいうやつだ!
うん、きっとそうだ。
そう途中から施行が変な方向へ行ったが一応結論が出た。
さぁ、こんなことは忘れて教室に帰ろう。
一層地面が光り輝いたけど気にしない。
クルッと私が校舎の方に向き直った瞬間
「えっ?」
という声が降ってきたかと思うと、人1人分が圧し掛かってきたような重みに体制が崩れ、そのまま地面に倒れこんだ。
そう、声は“降って”きて、“人1人分の重み”がいきなり私の上に現われたのだ。
このとき「グエッ!!」という乙女にあるまじき声を発してしまったのは不可抗力というものだ。
え?別に私が乙女とかそうでないとか興味ないって?
あぁ、そうですか!!
さて、あのとき何が降ってきたかというと…いや、もう大体分かっているでしょう?
未だに乗っかっている人並みの温かさのソレを確認するために、倒れた衝撃で思わず瞑った瞼を恐る恐る開けた。
するとそこには我がクラスのMr.パーフェクト、完全無欠の委員長、西園寺猛留(さいおんじ たける)ではないか。
目があった。
そりゃあもうバッチリと…。
そしてやつはこともあろうに、その完璧すぎる人形のような顔をズイッと近づけてきた。
そして満面の笑みで、わざとらしく、困ったような口調でこう言ったのだ。
「見られちゃったね。」
「へ?あ、いや…」
この時の私は間抜け以外の何物でもなかっただろう。
そして奴はつけ込みやすそうな獲物だと悟ったに違いない。
「俺、異世界とココを行き来してるんだよね―――。」
ぎゃ〜〜〜!!!
何ソレキキタクナイ。
奴は聞きたくもない異世界を行き来することになった経緯や苦労話をペラペラと…。
その間、さり気無く助け起こされスカートの埃も払われた。
クソッ!!淀みない動きだなぁ!!!
まぁ、逃げられないようにか右腕はガッチリと奴の手に掴まれていたのだが…。
最近頻繁に呼ばれるようになった奴はこちらの世界で裏工作してくれるような都合のいい下僕を探していたようだ。
それが私になってしまったわけだ。
なんで無視したり先生、友達に言わないのかって?
生憎と、自ら進んで窮地に立つようなイカレた性癖は持ち合わせていないもので。
その日はなんとかはぐらかして乗り切ったものの、次の日何食わぬ顔で学校に登校してみるとあら不思議
何故か私と勇者サマが付き合っているという噂でもちきりだったのだ。
見目麗しい勇者サマは女嫌いで有名だったのだがその彼に彼女ができた。
しかも相手は“ごく普通”のこの私
悪かったなぁ、普通の容姿と学力で!!
勇者サマの取り巻きの女の子たちは自分たちに見向きもしない彼を崇拝対象として見ており、彼が選んだ女ならば…と大人しく身を引き、私を尊敬の目で遠巻きに見る友人、勇者サマに絶対の信頼を置いている教師陣…
彼らに本当のことを言っても取り合ってくれるはずもなく。
たったの一日で完全に外堀を埋められていたというわけだ。
†‥+‥†‥+‥†
今となってはあの時“偶然”見かけてしまった勇者サマのご帰還も、奴が図ってやったことではないのかと思ってしまう。
まぁ、何はともあれ…
私は今日も元気に勇者の下僕やってます。
説明 | ||
私はごくごく普通の女子生徒だった…。あの策士なエセ勇者に捕まるまでは…。 ※注意:この作品は「pixiv」でも投稿しています |
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