SPSS第1話〜迫撃!トリプルアカンベェ〜
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「おい、ジョーカー」

「なんでございましょう、ウルフルンさん?」

 バッドエンド王国――瘴気と悪意に満ちた暗黒の世界。鬼ヶ島と銘打たれた王不在のこの城で、今、三幹部と称えられる将軍の一人・ウルフルンが鋭い犬歯をカチカチと鳴らしながら彼の上司にあたるジョーカーという男に強い語気で切り出した。

「そういえばよ、お前がオレたちんトコに持ってきた情報だが――」

「悪の皇帝ピエーロ様の正体、でございますか?」

 舐めるようにうねる特徴的な口調で、ジョーカーは慇懃無礼に台詞を奪う。だがウルフルンは平素の短気な性格の「た」の字も見せず、手元の資料に目を通しながら、

「ああそうだ。ふと気になったことがあってよ」

「そ・れ・な・ら。直接訊きにいってはいかがでしょ〜う?」

 くるりくるりとサーカスの曲芸のように回りながら、ジョーカーはそう言うと手のひら大の青い玉をウルフルンに差し出す。

「……フン、まあいい。あと少しでピエーロ様も復活だ、今回はあいつらと共同で、確実に決めるとするか」

 そうひとりごち、荒っぽく青い玉をひったくるとウルフルンはその場から消えるように立ち去った。あとに残されたジョーカーは、体を折って虚空に見送りの礼をしたまま、

「くーっくっくっくー、愚かな狼さんだこと。青っ鼻ではプリキュアたちに勝てないってこと、どうして気づかないんでしょう」

 その高笑いが鬼ヶ島にこだまする。

「ピエーロ様復活の暁には…………。くく、最悪の、いや災厄の結末が訪れる……くーっくっくっく、愉快ですねぇ」

 その笑声は、誰の気配もない弧城いっぱいに広がっていった。

 

 

「おっはよー、やよいちゃーん」

「あ、おはよう、みゆきちゃん」

 七色ヶ丘中学校の下駄箱からは、今日も生徒らの暑さに負けない元気な声が聞こえてくる。星空みゆきと黄瀬やよい、この二人も例外ではなく、いつものように幸せそうな笑顔で挨拶を交わすとそろって教室へと歩き始める。

「二人とも、おはようさーん」

 少し行ったところで後ろから、二人に強い関西のイントネーションでそんな声がかかる。次いで二人の肩に腕が回り、間にぐいっと少女が割って入った。

『おはよう、あかねちゃん』

「おはようさんおはようさん、いやー、今日はええ天気やな」

日野あかね、この赤い髪の少女も活気に満ちた晴れやかな表情だが、特に彼女は際立って浮かれた印象があった。

「な、なんか元気だね、あかねちゃんは……」

「やよいはなに言うてんねん! 今夜は町内の夏祭り、しかも屋台にウチの店が出るんやで? これが燃えずにいられるかー!」

「あかねちゃんちのお好み焼き? すごーい、綿あめに林檎あめにカステラに、お面に風船にヨーヨー射的、それにお好み焼きが加わったら…………じゅるり、えへへ、ウルトラハッピーだね!」

「せやろ? そ、れ、に。ウチられいかの家で着物着付けてもらうことになっとるやろ? 実はウチ、着物着るん初めてやねん」

「あ! そういえば!」

 その一言で思い出したようにやよいは手を打つと、ぱっと弾けたように笑顔になり、

「私ね、すっごく可愛いかんざしかってもらっちゃったの。お母さんがね、着物は一生の思い出になるよー、って」

「いいなーいいなー、私なんか金魚すくいはするなーって言われただけだよぉ」

 口を尖らせたものの目元の笑みを崩さないまま、みゆきは頬をぐりぐりと手で揉んだ。

「そういえば、今日キャンディはどないしたん?」

「あ、私もそれ思ってたの」

「キャンディなら、今朝ポップに連れてかれてどっか行っちゃったよ」

 みゆきはかばんをぽんぽんと叩き、少し表情を曇らせてから、

「でもきっとすぐ戻ってくるよ! なんたってお祭りだよお祭り! キャンディにも見せてあげたいしねー」

「せやな。ポップも来てるんならキャンディももーっと楽しいやろうしな」

 そうこうするうちに教室にたどり着き、がらりと扉を開けた三人は、周囲にも挨拶を返しつつかばんを置くと教室の前方にいた二人の少女のところへ集まった。

「やあ、みんなおはよ」

「おはようございます、みなさん」

 あかねに劣らず快活に片手をあげて迎えた少女を緑川なおといい、丁寧なおじぎをして優雅に微笑んで見せた彼女の名を青木れいかという。

「おはよー、なおちゃんもれいかちゃんもハッピーな笑顔だね!」

「そうかな? まあ今日はお祭りの日だからね、仕方ないよ」

「せやせや。れいか、楽しみにしてんでー」

「はい。知り合いの卸さんに皆さんの写真を送って着物を見立てていただきましたから。それに見合うようしっかり着付けられるかどうか、不安ではありますけれど」

「うわぁ、ホント? 嬉しいなぁ」

 ここに集まったみゆき、あかね、やよい、なお、れいかの五人はいずれも個性豊かな面々で、それでも、単なる仲良しグループとは一線を画す親密さだった。明瞭な絆が彼女らの間にはある、とある秘密にともなって。

 プリキュア――おとぎの国メルヘンランドにおいて伝説の戦士と称えられる五人の戦士たち。正体を隠しつつ、人間界をバッドエンド王国から守るその正体こそ、この五人だ。

「よーし、放課後まで頑張って、お祭り行ってハッピーになろー!」

『おー!』

 彼女らの爽やかなかしましさが、真っ青な空に吸い込まれていった。

 

 

「ふむ……この綿あめというやつはなかなか美味だわさ」

「このカステラ、ってやつ、……もぐもぐ、これも美味しいオニ! ふわふわでもちもちでたまらんオニ!」

「フン、おめーらバカかよ。この焼きそばのソースの香りこそ至高だろうが」

 その日、太陽こそ沈みかけではあるがまだ空は明るいというそんな夕刻。夏祭りのため川沿いの通りは集まった人や屋台でごったがえし、雑踏、歓声、機械の駆動音や川のせせらぎが一種の旋律のように奏でられていた。

「お! あそこのあるのは納豆餃子あめだわさ! さっそく買いに行くだわさ!」

「うーん、たこ焼きのいい匂いがするオニ。食べたいから俺様も行くオニ!」

「マジョリーナ! アカオーニ! そろそろ始めるぞ!」

 そんな賑わしさの上空で、鋭い叱責の声が走る。

「ウルフルンも浮かれてただわさ。自分だけ怒るのは筋違いってもんだわさ」

 意地の悪い瞳でじろりとウルフルンを見上げたのは緑のローブに身を包んだ小柄な老婆――バッドエンド王国三幹部の一人マジョリーナ。

「そうオニ。今日に限ってなんでそんなにリーダーぶってるオニか」

 手にした金棒を振り回し不平を言ったのは、これも三幹部の一人に数えられる赤い体に二本の角をはやした偉丈夫、赤鬼さんことアカオーニである。

「ウルッフッフッフ、細かいことはどーだっていい。それよりも見ろ! この人間どもを! いかにも幸せそうじゃねぇか!」

 宙を踏みしめたまま、ウルフルンは諸手を広げて絶叫した。深く裂けた口元には猟奇的な笑みがたたえられている。

「そうオニね。これならバッドエナジーもたくさん集まるオニ!」

「ついでにプリキュアも倒すだわさ。どうせあいつらも来てるだわさ、三人がかりってのが気に食わないけど仕方ないだわさ」

 ウルフルンの言葉に納得したのか、二人もいくぶん真剣味を増したような視線を眼下に投げた。相変わらず賑々しいそこから、仮面をかぶったヒーローのプリントが施された風船がふわりふわりと舞い上がってきた。

「……よし、行くぜ」

 ウルフルンは鋭くそれを見据えると、そう低く呟き、懐から絵具とページが白紙になっている本を取り出した。

 空が暗く、昏く染まる――

 

 

「みんなぁ〜、待ってよぉ〜」

 屋台が連なる大通りの北端、れいかの家からは歩いてわずか数分の距離にある地点だが、みゆきがそう呼びかける声に力はなく、数メートル先を行くあかねら四人の背中にみゆきは手を伸ばすと地面にへたりこんだ。

「きーもーのーあーるーきーづーらーいー」

 駄々っ子のようなみゆきが身にまとっている桜の模様の入った桃色の浴衣の裾や袖は土に触れて汚れてしまっており、下駄の角も心なしかすり減っているように見える。慣れない和装はやはり歩くのにも苦労するというが、ことみゆきに関しては苦手なようであった。

「みゆきー、しっかり歩くクル。キャンディは早く屋台を見たいクルー」

そんなみゆきの肩の上で、ウサギに似たメルヘンランドの妖精キャンディが跳ねる。綿毛のような耳をパタパタと動かすと、みゆきもいじけたように頬を膨らませ、

「そんなこと言うならキャンディも着てみればいいじゃん。すっごく難しいんだから、これ」

「そうだよねぇ、私ももう疲れちゃった」

 そんなみゆきに同調するように、鮮やかなレモン色の浴衣に身を包んだやよいがとことことおぼつかない足取りで戻ってきて手を伸ばした。その頭の上には、ライオンのようなたてがみを持つ小動物が佇立している。

「みゆき殿もやよい殿も、和装は武士の基本でござる」

「そーんなこと言ったってー、ねぇやよいちゃん」

「え……あ、うん。私たち武士じゃないし」

「お兄ちゃん、キャンディはちゃんと着れるクル! 着物デコルを――」

「ダメでござる。デコルの無駄使いは許されないでござるよ」

 妹キャンディにきっぱりと言い放った彼は、普段はメルヘンランドにて任務を負っているらしい妖精・ポップである。キャンディに是非にと頼まれて今朝人間界にやってきたポップは、今夜はいつになく気合の入った服装をしていた。

「お兄ちゃんは着物着てるのにキャンディだけ着られないのは不平等クル! おーねーがーいークールー!」

「ダメでござる。これは拙者のメルヘンランドでの私服なだけであって、特別なおめかしというわけではないのでござるからな」

「まあまあ、そんなケチなこと言わないであげなよ」

 意地を張るポップを後ろからひょいっと持ち上げたのは、深緑に風に揺れる若葉をイメージした模様の入った浴衣を着たなおだった。

「あたしは何回か着たことあるけどさ、女の子にとって着物って一生忘れられないものだよ? そこを分かってあげるのがお兄ちゃんであり真の男ってものだと、あたしは思うな」

「しっしししし真の男! ……でござるか?」

「そうですね、わたくしもそう思いますわ、ポップ」

 水面に走る波紋が重なったような大人っぽい柄のよく似合うれいかが、頬を染めて足をばたつかせているポップの頭を撫でる。

「れいか殿まで……。むむむ、仕方がないでござるな」

「よっしゃ、行くで、キャンディ!」

 渋々といった様子でポップが頷くのを待っていたように、あかねがそのひまわりの刺繍が入った浴衣の袖をたくしあげる。指先に握られているのは小さい作り物の着物。さらに片手で取り出したのはスマイルパクトと呼ばれる特殊なパクト、その中央へ、あかねは手にした着物デコルをはめこんだ。

〈レッツゴー! キ・モ・ノ!〉

 どこからかそんな高らかな台詞が鳴り響き、スマイルパクトから一条の光がキャンディに向けて放たれる。そしてその光が薄らぐと、キャンディは白と桃色を基調とした浴衣姿へと変わっていた。

「クールー! お兄ちゃんありがとクル!」

 キャンディの無邪気そのものといった喜びように、ポップを始めとする全員の頬も緩む。

「ほら、みゆきも立ち」

「うう……ありがと、あかねちゃん」

 あかねの力強い手にひっぱりあげられるようにみゆきは立ち上がり、お尻についた砂をぱんぱんと払う。

「あかねちゃんも初めてなんでしょ? なんで私だけ上手くいかないんだろ……」

「まあそう気にすることあらへんやろ。なんたって祭りや、しばらく歩いてるうちに段々上手くなってくに違いあらへん」

 あかねはそう言って元気づけるようにニカッと笑う。みゆきもそれに釣られて笑みを――

「世界よ! 最悪の結末、バッドエンドに染まれ!」

 突如として、そんな言葉が空を裂いて降り注いだ。

「白紙の未来を黒く塗りつぶすのだ!」

 暁の薄青い空が、深い紺碧色の闇夜へ転ずる。

「これは!」

 ポップが悲痛に叫び、

『バッドエンド王国の!』

「ウルフルンクル!」

 五人と二匹が見上げた空に、長身痩躯の男が一人、ふさふさのたてがみと尻尾を風になびかせ牙を見せつけるように邪悪に微笑んでいる狼男が、手にした本を高く掲げる。

「人間どもの発したバッドエナジーが! 悪の皇帝ピエーロ様を! 蘇らせていくのだ!」

 ウルフルンのその言葉を合図に、空は暗く夜のようになり、彼女らの周りの人々から黒い煙のようなものが立ちのぼってはその本に吸い込まれていく。次いで、その人々は続々と膝をついて表情を曇らせていった。

「夏祭りなんて楽しくない……」

「人が多い……」

 あちこちから漏れてくる不幸な独白。沈み澱み重く漂う瘴気のような空気。

「狼さん! こんな日にも現れるなんて!」

「フン! やはりいたか、プリキュア!」

「当たり前や!」

「みんなの幸せを邪魔する人がいるのなら……!」

「あたしたちはどこにいたって!」

「幸せを守るため、戦います!」

「それがプリキュアクル!」

「…………」

 なぜかポップの表情は沈んでいる、しかし、今の彼女らにそれを察知している余裕はなかった。

〈レディ?〉

『プリキュア! スマイルチャージ!』

〈ゴー! ゴー、ゴー、レッツゴー!〉

 五人はまばゆい光に包まれて、そして伝説の戦士へと、姿を変える。何物と替えることなしに、無垢な少女に与えられた、メルヘンランドからの贈り物――

「きらきら輝く、未来の光! キュアハッピー!」

「太陽さんさん、熱血パワー! キュアサニー!」

「ぴかぴかぴかりん、じゃんけんポン! キュアピース!」

「勇気りんりん、直球勝負! キュアマーチ!」

「しんしんと降り積もる、清き心! キュアビューティ!」

『五つの光が導く未来! 輝け! スマイルプリキュア!』

 後光煌々たり、少女らに輝きあり。一点の曇りなく、未来を照らす光、力。

 伝説の戦士プリキュア――ハッピー、サニー、ピース、マーチ、ビューティ。ここに見参。

「フン……おめーらのプリキュアも、そろそろだぜ」

「なにを訳分からんこと言うてんねん!」

「乙女の晴れ着を無駄にするなんて、今度ばかりは容赦しないよ!」

 サニーとマーチが即座に跳躍する。そうした二人の連携攻撃を、ウルフルンはたやすくあしらうとまたしても懐から今度は赤い玉を取り出した。

「そう慌てんなって! 出でよ、アカンベェ!」

 投げられた赤い玉から走った赤い光が、宙を舞っていた風船を照らす。

「アカンベー!」

 どこか間の抜けた咆哮とともに、赤い鼻と不気味な目を持つ風船の怪物が出現した。三幹部が使役する、アカンベェという眷属だ。

「赤い鼻!」

「それなら私たちの必殺技も……!」

「ええ、畳みかけましょう!」

 落下してくるサニーとマーチに合わせて、地上の三名も地面を蹴る。

『せーのっ!』

 下から拳が、上から踵がアカンベェの胴体を襲う。しかし風船を取り込んているためか、その胴体はゴムのように大きくくぼむと五人を弾き返す。

「きゃあっ!」

 ダメージを受けた様子もなく宙に浮いていたアカンベェだが、ほぼ真下の地面に叩きつけられたピースを見とめると高度を下げてピースに迫った。

「ピース! 危ないクル!」

「そんなこと言ったって……」

 ピースの双眸に涙が浮かぶ。すると、彼女のスマイルパクトにすっと光が集まって輝き始めた。

「まずい! アカンベェ下がれ!」

「アカンベーッ!」

 ウルフルンの指示で後退するアカンベェ、だがその先には、行動を呼んだビューティとそれに従ったマーチが待ち構えていた。

「マーチ、お願いします!」

「任せて!」

 ビューティが右手を引き溜め、マーチは呼吸を整えるように目を閉じている。

「はああああああっ!」

 裂帛の気合とともに放たれるビューティの拳。それはかすかに白く発光しているかと思えば、アカンベェの背に触れた瞬間素早く氷の膜を表面に張った。そこにマーチの追撃、鋭い回し蹴りが今度は跳ね返されることなく叩きこまれる。

「ア……カンベッ」

 アカンベェは苦しそうに呻いた。マーチの足先から巻き起こされている旋風が、風船の体を容赦なく地面に押し付けている。その冷却作用も相まってか、ビューティの氷は今にもアカンベェの全身を覆おうとしていた。

「ちっ、なにしてやがる!」

 ウルフルンが苦々しそうにそう叫び、上空からマーチを強襲する。マーチは受け身をとりつつも地面に落とされ、ウルフルンはアカンベェの足下に着地した。

「よーし、次は私の番!」

「させるかよ!」

「ウチかてさせへん!」

 すかさず攻撃の姿勢を見せたハッピーの方へウルフルンが向き直ると、サニーが二人の対角線上に入ってウルフルンの攻撃を受け止めた。サニーはそのそばを通り過ぎざまサニーに微笑んでみせ、

「ありがとサニー! ついでに美味しいお好み焼きも待ってるよ!」

 はしたなく両足を開いて踏ん張り、ハッピーは腰のスマイルパクトに気合を込める。直後、彼女の周囲に桃色の空間が広がった。

「プリキュア! ハッピー・シャワー!」

 澄んだ声が仮初の夜空に轟く。ハートの形に動かした手に沿ったような光の奔流が、アカンベェに迫り、衝突した。もうもうと白煙が上がる。

「……はぁ、はぁ、倒したよね」

 力を使い切ったのかハッピーは地面にぺたりと座り込む。

「やったクル!」

「さすがプリキュアでござるな」

 物陰に隠れていた妖精二匹がとことこと歩み寄る。他の四人もハッピーの近くに着地し、一息をついた。

 だが、

「アッカンベー!」

 さきほどのアカンベェよりもいくぶん低い声が爆煙の向こうから聞こえてきた。はっとして振り向くと、そこには二つの巨大な影が映っている。

「まさか……、あれって」

 ピースの不安げな予感を体現するように、煙が晴れた。そこにいたのは、風船型の赤っ鼻ともう一匹、青い鼻を持つ輪投げの輪を象ったようなアカンベェ。

「そんなぁ? アカンベェが二匹も?」

「俺様もいるオニ!」

 うっすらと残っていた煙の残滓を完全に振り払って二匹のアカンベェの足下からアカオーニが飛び出す。振り下ろされた金棒を受け止めるマーチとサニーだが、ビューティとピースがそれぞれハッピーと妖精たちを抱えて跳びすさったと同時に後方に吹き飛ばされた。

『く……うっ』

「大丈夫ですか?」

「問題……あらへん!」

「うん! まだいけるよ!」

「そうだわさ。大丈夫じゃないのはお前らだわさ」

 脇道に少し入ったところに着地したビューティの呼びかけに答えたのは、サニーとマーチともう一人、背後に立っていた小柄な老婆――マジョリーナ。

「アカンベェ! 行くだわさ!」

 マジョリーナの指示でその背後からさらにもう一匹アカンベェが飛び出す。青いポリバケツに青い鼻をつけたタイプだ。

「そんな……青いのが二匹もいるなんて……」

「ピース、元気出すクル!」

「フン、相変わらず無責任で役に立たねぇな! クルクル野郎!」

 やはり目にも止まらぬ速さでピースの背後に回ったウルフルンが、眼光をぎろりと光らせて舌なめずり、大きく爪を振りかぶってピースを襲った。その軌道は、ピースの胸に抱きかかえられていた妖精たちを狙っていたようにも見える。

「きゃああああああああっ!」

『ピース!』

 川沿いのガードレールまで飛ばされてようやく止まったピースの元に、サニーとマーチ、ビューティと彼女に抱えられているハッピーの四人も集まる。しばし膠着が見られ、彼女らは歯噛みしながら戦況を見ていた。

「ウルッフッフッフ、逃げ場所はねぇぞ、プリキュア」

「今日こそはやっつけてやるオニ!」

「プリキュア、絶体絶命だわさ」

 背後に川を背負い、正面の細い路地には不敵に笑うマジョリーナとポリバケツ型青っ鼻アカンベェ。向かって右の屋台側には金棒を風車のように回転させているアカオーニとさきほどハッピーシャワーの盾となった輪っか状の青っ鼻アカンベェが佇み、向かって左側には風船型赤っ鼻アカンベェを従えて爪を磨いているウルフルン。

「はあ……はあ、へばってる場合じゃ、ないね」

「ハッピー、大丈夫なんか?」

 さすがに圧倒的に不利な状況を察したのか、ハッピーもふらふらながら頷きつつ気丈に立ち上がって戦列に復帰する。とはいえ、まだまだ不利であることに変わりはない。

「ウルッフッフッフ、どうする、使えない妖精ども」

「くうう……キャンディは使えなくなんかないクル! お兄ちゃん! お兄ちゃんも変化の術で戦うクル!」

「そうでござるな、いざ、ドロンでござる!」

 ポップがそう唱えると、瞬時に彼は巨大な壁のような姿に変わる。

赤い鼻のアカンベェを抑え込むほどの力を備えた彼の登場で戦力的には互角になったと言えなくもない。だがしかし、ウルフルンはその出現を喜ぶように舌なめずりをした。

「ウルッフッフッフ、的がでかくなりやがったぜ」

「的? それってどういうこと?」

「おめーにゃ関係ねぇよ! 似非プリキュア!」

 ウルフルンの言葉にポップがはっとして揺らぐのを合図にしたのか、敵は一斉にプリキュアに肉薄する。それに対してプリキュア側はというとポップは正面の小道を塞ぎ、マーチはアカオーニへ、ビューティは輪っかのアカンベェに、サニーはウルフルンとそれぞれ対峙し、ハッピーとピースが風船型アカンベェに攻撃を集中。

「みなさん、さすがの連携です!」

「まあね、あたしたちを舐めないでよビューティ!」

「そう上手くはいかせないオニ!」

「拙者も伊達に戦士では、ないでござる!」

「くーっ、通れないだわさーっ!」

「っしゃ、あとは任したで、ハッピー! ピース!」

「フン、お前一人でこのオレ様の相手をしようってのかよ!」

「任せて!」

「行くよ、ピース!」

 ハッピーが電信柱を蹴り、ピースはガードレール上を走って風船型アカンベェの背後に回り込む。

「ええええええええいっ!」

 上空からハッピーが落下しつつ蹴りを放つがやはりダメージを受けている印象はない。しかし反動を利用してさらに後方へ着地すると、振り返って川と並行になったその横顔のでっぱった赤い鼻にピースが左右のパンチを叩きこんだ。

「ア……ッカンベェ……」

 くるくると回転しつつアカンベェは壁に激突する。そこへのダメージは通っているように見えた。

「よっし! 次は私が!」

 ハッピーも軽く膝を折り、勢いをつけて距離を詰めた。

「アカンべー!」

 初撃の蹴りこそ手で止められてしまったが、以降の左右の連打はそれを受け止めるアカンベェを確実に圧倒していく。鼻と手、そしておそらく足も含む三か所には普通の攻撃も通じるのだろう。

「っち、アカンベェ! 手こずってんじゃねぇ!」

 ウルフルンの注意がサニーからハッピーへと移る。両者の直線軌道上には、しかしながらピースがしっかりと立ちふさがっていた。

「ハッピーの邪魔は、させない……!」

 小柄な彼女の怯えたような、だが凛とした決意の言葉がその場の空気をぴんと張りつめらせた。

 ――絶望の夜空のどこかで雷霆が走る。

 人差し指と中指、両手でそれらを立てるとピースは小さく頷き、まっすぐ胸の前へ突きだした。

「プリキュア! ピース・サンダー!」

 稲光がピースの体からウルフルンへ向けて放たれる。内に秘めた激情を一点で絞り放出するような黄金の稲妻は、違うことなくウルフルンの痩躯を捉えた。

「ぐああああああああああっ!」

 骨が透けて見えるような錯覚を起こすほどの電圧を受けて、ウルフルンは遥か反対側、お祭りの屋台に突っ込むとのびてしまったように見えた。

「ようやったピース! ほんならあいつはっ!」

 ピースの側を駆け抜けつつハイタッチを交わし、今度はサニーが高く舞い上がる。六対六の布陣が崩れた隙を逃さぬ迅速な行動はサニー自身の戦闘の才能が成せる技か。

 ――紅蓮舌が舌なめずりをして顕現する。

 ハッピーの対処に追われがら空きとなった背中へ、小さな太陽が影を落とした。

「プリキュア! サニー・ファイヤー!」

 バレーのスパイクに近い動きでサニーが炎の塊を打ち出す。周囲の温度すら変えてしまうほどの炎がアカンベェを襲えば、赤い鼻の道化はそれに耐えられるはずもなく。

「アカンベェ……」

「やった! さすがサニー!」

 ガッツポーズをびしっと決めたサニーの元にハッピーが駆け寄ると、上空からなにかが落下してくる。赤い鼻に封印されているメルヘンランド復活のキー・デコルだった。普段はキャンディが所持しているデコルデコールに収納してあるため、それをキャッチしたピースも含め三人は一息つくとキャンディがいるはずの位置――三叉路の交点に視線を遣る。

「ぐううっ、でござる」

 それは、一人でアカンベェとマジョリーナの相手をしていたポップが倒れ込む瞬間だった。

『ポップ!』

 急いで駆け付けようとした三人の足が止まる。ポップのさらに先、アカオーニと輪っか型アカンベェとそれぞれ交戦していたマーチとビューティが同時に三人の元へ跳びすさってきたからだ。

「フン、ウルフルンも口だけオニか」

「まあいいだわさ。ウルフルンの失敗は私たちが取り返せばいいだわさ」

『アッカンベー!』

 ポン! と軽い音がしてポップは元の姿へと戻ってしまう。これで戦力はまたしても五分に戻ったと言っていい。いやむしろ、必殺技を撃たず疲弊していない戦力がマーチとビューティしか残っていないプリキュア側が数上の有利をもってしても不利と言えた。

「まずいですね……」

 ビューティは小さく呟く。冷静に戦況を見つめる意図を持った言葉だったが、他の四人は明らかにごくりと唾を飲んでいた。

「ならあたしが行くよ! 幹部を倒しちゃえばいいよね!」

 その中でもマーチは気負ったように宣言し、再びアカオーニの元に突貫する。ビューティは一瞬頭を抱えるような素振りを見せたが、

「みなさんは輪っかのアカンベェをお願いします。わたくしはマジョリーナとゴミ箱アカンベェを」

「そんな! 無茶だよビューティ!」

「せや、せめてウチも」

「いいえ、わたくしは大丈夫です。それに、今のあなたたちでは三人で二人を任せたとしても危ないでしょう?」

 ビューティは静かに語りかけると、既に遠いマーチの背中を視線で追う。

「わたくしでも足止めくらいなら可能です。マーチならすぐにアカオーニを倒してくれると信じていますし、ね?」

 その強い信頼に裏打ちされた戦略は、三人が頷かざるを得ないほどにきっぱりと告げられた。

「では、お願いしますね」

「……うん、分かった」

「オッケー! 行くよみんな!」

「もうひと踏ん張りやな!」

 ドッ、と疲弊した彼女らのボルテージが上がっていくのが分かる。ビューティも一安心したように軽く息を吐くと、きっと表情を引き締めてマジョリーナの正面に跳んだ。

「もしかして一人で私たちの相手をするつもりだわさ?」

「ええ……このキュアビューティ、全力でお相手いたします!」

 

「フン! フン! なんだお前、すばしっこいオニ!」

「そんなのっ、弟たちのチャンバラに比べたらっ、欠伸が出るくらい遅いからね!」

 一人アカオーニと奮戦していたマーチは、そんな軽口を叩きながらひょいひょいとアカオーニの金棒を回避しつつ的確に攻撃を加えていた。

「なにぃ? って、ぐわーオニ!」

 苛立ちを爆発させるように勢いよく金棒を振り下ろした隙を突き、マーチは懐に飛び込むとアカオーニの巨躯を思い切り蹴り上げた。そして浮き上がったその身体に、今度はオーバーヘッドキックをの要領ですぐさま次の攻撃を仕掛ける。アカオーニは間抜けな声を上げつつ屋台に突入し、ガラガラとものすごい音を立てて屋台は壊れてしまう。

「あっ、しまった……」

 マーチは一瞬ためらいを見せ、

「ふふん、隙ありオニ!」

 動きが止まった瞬間を見計らい、アカオーニは飛ばされたままの体勢ながら金棒をマーチに投擲した。狙い過たず、マーチは全身を強打して後ろに弾き飛ばされる。またしても、ガラガラと屋台は崩れていった。

「いたた……、また壊しちゃったよ」

 しかし、マーチは痛みに身を苛まれているどころかむしろどこか戸惑うような表情で立ち上がるとぱんぱんと土を払う。

「なんでだろうね……、こんな怒ったことって、家族の世話をしてる時にもないのに」

「なにを言ってるオニ?」

「それに痛みを感じないんだ。なんて言うのかな、すっごい痛いんだけど、痛くないのよね」

 指を曲げたり伸ばしたり、腕や足も同様にするマーチの瞳は、言葉と裏腹にギラギラと鋭利な光を宿して正面のアカオーニを見据えた。

「まあ多分、あんたたちが許せないだけだね。平気で人の不幸を願い喜ぶようなあんたたちと、それから、そんなことも防げないあたしたちも」

 マーチの背中から、突風が渦を巻いて噴出する。白い後光のような錯覚。

「あんたたち、なんのためにそんなことしてるの?」

 その言葉だけを残して、マーチは姿を消す。――いや、消したと錯覚するほどに素早く、アカオーニの横に走り込んでいた。

「オニィ?」

「はあああああああっ!」

 全身のバネを使った拳打、蹴撃の応酬がアカオーニに向けて放たれる。四肢に突風をまとって強引な姿勢制御をしているのか人知を超えたモーションでのラッシュは、ひたすらまっすぐアカオーニにえぐりこんでいく。

「あたしさ、曲がったことは大嫌いなんだ。筋が通ってないことは、筋が通るまで正すんだ」

 一際勢いのついたアッパーカットがアカオーニを高く上空へ打ち上げる。

 ――乱反射して吹き抜けるはずの風が一点に収束する。

 マーチの凛々しい視線が、身動きの取れない標的を一直線に射抜いた。

「プリキュア! マーチ・シュート!」

 逆巻く颶風が一丸となり、アカオーニに直撃する。そしてそれは遥かな空へ、どこまでも遠く高くアカオーニの体を視界から消し去った。

「はぁ……はぁ……、ふう。よし」

 マーチが長いトリプルテールの髪をなびかせつつ振り返る。即座に状況を理解したマーチは、足元のふらつきを無視するようにあえて一歩を強く踏み出した。

 

 時間は少し戻り、マジョリーナとポリバケツ型アカンベェと対峙したビューティ。

「このキュアビューティ、全力でお相手いたします!」

「うぬぬ……生意気なプリキュアだわさ! アカンベェ!」

「アッカンべー!」

 アカンベェが頭にかぶっていた蓋を開ける。そこから漂ってきた異臭は、ビューティだけでなくマジョリーナですら鼻を押さえるほど。

「うっ……、このにおいは……」

「さあ行くだわさ! ……私はちょっと離れてるだわさ」

 マジョリーナが物陰に隠れるのを確認してから、アカンベェはニタリと口元を歪めると左手で再び蓋を閉じる。

「……? いったいなにを……?」

「アッカンベー!」

 ビューティが小首をかしげた刹那に、アカンベェは勢いよく蓋を開き直した。今度はその勢いでポリバケツの中身が周囲に飛び散り、なんとか飛沫を避けたビューティは額の冷や汗をぬぐう。

「あんな攻撃を受けたら、わたくし立ち直れませんわ。……それに、今はこんなこと言ってる場合でもありませんね!」

 意を決したようにビューティは唇を結び、飛沫を回避しつつアカンベェとの距離を詰める。すぐさま右手が振り下ろされたが壁を蹴って難なくそれをも躱し、ビューティは高く電信柱の上に降り立った。

「さあ、こっちですよ〜」

「アカッ?」

 緊迫した戦線には不釣り合いに和やかな声で、ビューティはアカンベェを呼びつつひらりひらりと電信柱から電信柱へ飛び移る。

 彼女がプリキュアとして戦うようになってから既に半年以上、アカンベェ自身の知能がそこまで高くないことは存分に理解していた。そしてそれに指示をする三幹部がいてこそ、アカンベェは脅威たりうるということも。

「そう、こっちです」

 ゆっくりと、ぎりぎりまで攻撃を引きつけてからビューティは着実に他のプリキュアたちから距離を離していく。だが、その目論見によって最後まで騙し続けることは不可能だった。

「アカンベェ! そいつは攻撃してこないだわさ! とっとと始末するだわさ!」

「くっ、やはりマジョリーナが厄介ですね……」

「アッカンベー!」

 なおも後退するビューティだがアカンベェは深追いせずに距離を取り、再び中身をまき散らし始める。形容しがたいグロテスクな音を立てつつ四方に散るそれは、さきほどは気がつかなかったが付着した道路や家屋を少しずつ腐食させているようだった。

 ビューティはその惨状に息を飲み、眉根を寄せる。

「おやめなさい、わたくしはここです! 正確に狙いなさい!」

「くだらないだわさ。くだらない正義感なんて、なくなればいいだわさ!」

 自ら的になろうとジャンプしたビューティだが、その背後にはマジョリーナが回り込んでいる。

「っ! 油断――」

 またがっていた杖を手に取り思い切りビューティの背中を打ちつけた。ゴルフボールのように地面と平行に吹っ飛ぶビューティにアカンベェの鉄拳が追い打ちを加える。彼女の細い体は強く地面に叩きつけられ、弾み、再び宙へ。

「アッカン、ベェェェー!」

 中身全てをぶちまけるほどの勢いでアカンベェは体を前に倒す。どす黒い液状のそれは、身動きが取れないビューティに迫った。ビューティの表情が苦々しく強ばる。

「ビューティ!」

 だがその時一陣の風が吹き抜け、ビューティはその攻撃の軌道上から外れた。

「マーチ!」

「間に合ったかな? ありがとビューティ!」

 ビューティを抱きかかえつつ民家の屋根の着地したマーチは、ちらとビューティに目配せしてアカンベェに突進する。積極的な攻勢の前では脅威たる中身ぶちまけ攻撃をしている暇はなく、蓋を閉じマーチの近接強打の対応に躍起になった。その足元に、ビューティが走り寄る。

「さあ! これでおしまいです!」

 ビューティが大勢を低くし臨戦態勢をとる。一瞬で地面に氷が張り、その上を強く踏み出すとスケートのように滑りながら足払いをアカンベェに放った。

「アッ、カーンベェ……」

 倒れるアカンベェ、だがビューティは追い打ちをしかけるまでもなくその横を素通りし、滑走の勢いそのままに跳び上がるとマジョリーナに接近、

「えっ? 私だわさ?」

「ええ、あなたです!」

 ――凍てついた刃物のような鋭い冷気がその場を戦慄させる。

 ビューティの正面に三本の氷柱が現れた瞬間、マジョリーナの表情が凍った。

「プリキュア! ビューティ・ブリザード!」

 幾万の礫が刃となり、氷河は一振りの剣へと変わり、マジョリーナを覆うように切り刻む。

 怒涛の吹雪が去ると、気づけば敵は、指揮官を失い右往左往する二匹のアカンベェのみになっていた。

「ア……アカ?」

「ンー、ベ?」

 二匹は身を寄せ合い、互いに顔を見合わせながら、正面に集結したプリキュア及び妖精の方をちらちらとうかがっている。その様子にサニーは気の抜けたようなため息をつくと、

「決めるで、ハッピー!」

「うん! 最後はまとめて、キャンディ!」

「クルー!」

 ハッピーの足下からキャンディが飛び出す。その身体が淡く光ると、アカンベェたちは露骨に怯え始めた。

「みんなの力を合わせるクルー!」

 キャンディの額から光が走り、それは五つに分かれてプリキュアたちの元へ降り注ぐ。その光から、一つずつデコルが現れた。それをスマイルパクトにセットすると、彼女らの髪留めは黄金のティアラへと変貌すると同時に、七色の光が周囲を暖かく閉ざした。

『プリキュア! レインボー・ヒーリング!』

 重ねた手の平に力が集まり、掲げた手の平で増幅される。白い浄化の光が五人を包み、そしてアカンベェをも包む奔流となって、世界に満ちた。

 光が晴れ、闇が晴れる――

「ッシャアアアアアアアアアアアアアアッ!」

 突如として現れたウルフルンの爪が、ハッピーを襲った。

『ハッピー!』

「く…………う」

 ひらと宙に舞うハッピー、ウルフルンは即座に姿を消し、上空に現れて独特の高笑いを披露する。

「ウルーッフッフッフッフ、ウルーッフッフッフ! さすがだぜプリキュア! だが! オレたちの狙いはハナから! こいつだったのさ!」

 そう言ってウルフルンは右手を――右手で鷲掴みにしたポップを見せつける。

「ぐ……不覚でござる」

「お兄ちゃん?」

「ウルフルン! ポップをどうするつもりや!」

「キャンディのお兄ちゃんなんだ、返してもらうよ!」

「そう息巻くな、サニーにマーチ。ちと訊きてぇことがあるだけだ、それが終わったら返してやるよ。ま、それがいつになるかは分かんねぇけどな! ウルーッフッフッフ!」

「キャンディ…………それにプリキュアの皆の衆も、心配しないで……ほしいでござる」

「ウルッフッフッフ、それじゃあな、プリキュアども!」

 長く尾を引く捨て台詞を残し、ウルフルンはポップを拘束したまま姿を消した。

「なんやあいつ、なにするつもりなんや?」

「さ、さあ。でもポップは、なにか知ってたみたい」

「クールー……」

 突然なんの脈絡もなく湧いて出たサニーとマーチの疑問とキャンディの悲しみ。だが、それはピースとビューティのハッピーを気遣う声にかき消されていった。

説明
初投稿、スマイルプリキュアのSSになります 裏設定にのっとったオリジナルストーリー 次→http://www.tinami.com/view/448496
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SS スマイルプリキュア! 

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