リリカルとマジカルの全力全壊 無印編 第七話 ねこねこねこねこねこ
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月村家は海鳴市の資産家で通っている。

どういう理屈での資産家なのかを知る者は少ないが、大きな屋敷と広い庭に少女数人が住んでいて、しかも生活に困っている様子はないとくれば大抵の人間はお金持ちだろうと思うだろう。

事実、結構古くから海鳴の地に根付いている家系らしい。

そんな月村邸だが、近隣住民からは猫屋敷の二つ名で呼ばれていて、これは自他共に認めている事実だ。

何故ならば、月村邸には猫がいる。

これでもかというくらいの猫がいる。

理由は次女のすずかが無類の猫好きであること。

彼女は迷子の猫や捨て猫を見るとほうっとけない性分のため、里親が見つかるまではと拾って来るのだが、そのほとんどがそのまま居ついてしまうため、屋敷の猫密度は人間の数よりはるかに多いことしかわからない。

その全てを把握しているのはすずかだけで、猫も自分達の主が誰かよくわかっているらしく、すずかになついている。

…しかし、今日に限って猫達はすずかにじゃれ付こうとしない。

それは空気を読んでいるのか、あるいは今のすずかに近づくのが嫌なのか…とにかく、すずかの周りは猫屋敷に在って猫の空白地帯になっていた。

「……」

「はい、なのはちゃん」

「……」

「い、良いよ。すずかちゃん、なのは自分で食べられるから…」

「……」

「ねえ、アリサちゃん?」

「……何?」

「ちょっと目が怖いよ」

なのはがすずか達に向かって全てを暴露してから30分後…もともとの予定通りに月村の庭でお茶会が始まった。

参加者はなのは、すずか、アリサに最近友達になったはやてだ。

庭に用意されたテーブルにお菓子と紅茶を乗せ、周りを猫に囲まれながら思い思いに語り合うのが彼女達のお茶会、おしゃべり会といってもいいかもしれない。

しかし、おしゃべりするための集まりなのに、参加者のアリサは一言も喋らず対面に座っている二人の親友を睨んでいる。

「なんっちゅーか、今日の二人ともちょっとおかしいんちゃう?」

となりのはやても同様だ。

こっちは熱い熱いと掌団扇で自分を扇いでいる。

勿論ポーズだ。

「な、なのは良くわかんないよ〜」

なははと笑いながら話を逸らすが…はやてとアリサの視線はブレない揺らがない。

そしてなのはの隣では、当然というかのようにすずかがなのはの腕にぶら下がっている。

 あまつさえ、反対側の手にはケーキの刺さったフォークを握ってなのはの口元に向けている。

 所謂、食べて…な状況な訳で、背中がかゆくなるくらい甘ったるい。

 だれか空気に砂糖を混ぜ込んだんじゃあるまいか?

「どない思います?アリサの奥さん?」

「はやての奥さん、絶対あの二人怪しいですわよ」

「そこ、勝手な事言わないでなの!!」

 昼ドラの主婦のようだった。

 女の子は結局そこに行き着くものなのか?

 夢も希望もありゃしない。

「それなら、なんでそんなにすずかがなついているのか説明しなさいよ?」

「う…アリサちゃん…」

 それが説明出来れば誰も苦労はしない。

 なのはの方はともかく、すずかの秘密に関しては誰にも他言しないことをついさっき誓ってきたばかりだ。

「なのは様?」

「え、あノエルさん」

「紅茶のおかわりはいかがですか?」

 見かねたのか、ノエルが紅茶のお代わりを申し出てくれた。

 おかげでアリサの追求が途切れたので感謝感謝である。

「はい、なのはちゃん」

 並んでファリンが新しいお菓子を追加してくれる。

 良く出来たメイドさんだと思う。

「すずかお嬢様を宜しくねなのはちゃん」

「「ぶー!」」

 そして更にご丁寧に爆弾まで投下してくれる…この天然娘!!

 おかげでアリサとはやてが盛大に紅茶を吹き出した。

 淑女として紅茶を霧吹きに虹を架けるのはどうかとは思うが、そんなことに構っちゃいられない。

 あの信じられないものを見たという目は子供から見てもまずいと思う。

「あんた達…まさか本当に?」

「あかん、アリサちゃん…うちらはお邪魔だったようや、今日は退散しよ」

「なんでやねん!?」

 思わず関西風に突っ込みを入れたなのは…ファリンは額に怒りマークをつけたノエルに引きずられてゆく…アイアンクローを掛けられたまま…痛すぎてうめき声さえ上げられないようだが完全に自業自得だ。

 …おーけー、Cool…なのはは魔術師、クールに行くなの。

 まずはこの状況をどう乗り切るか…どうやって誤解を解くか…そして未だにじゃれ付いてくるすずかをどうするか…なのははこれまでにない危機感を感じていたが、どこぞの戦闘民族のようなワクワクは全然沸いてこなかった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 他の猫とは違い、離れた場所に隠れるように一匹の猫がいる。

 どこかで見たような灰色の毛並みの猫だ。

『猫さんみ〜つけた〜』

「ギニャ!!」

 猫が潰されたような声を出す。

 いや、実際物理的に潰されていた。

 頭上から降ってきた能天気な声の主に潰されたのだ。

『あはぁ〜隠れても駄目ですよ〜、魔力を消していないと障害物が在っても丸わかりです』

「あ、あんたまさか…あの子が言っていた!?」

『あれ?微妙に魔力の質が違う?別人ならぬ別猫?まあどうでもいいんですが』

 何がどうでもいいのか!?という魂の訴えは当然スルーされた。

『ほらほら〜ここですかぁ〜ここがいいんですかぁ〜』

「あ、ちょっとま、そ…そこは駄目だって…あ…ああ…にゃ〜ん」

 猫をひっくり返して羽の部分で腹をなでまくっているだけなので18禁にはなりません。

 

 …10分経過。

 

『ネコさん?実は相談したいことがあるんですよぉ〜』

 お前は相談相手をまず腰砕けにしてから話をするのかと言う目で猫が睨んでくる。

 しかし、悪態をつけるほどに回復はしていないらしく、荒い息をつきながら好き勝手に喋るルビーの話を聞くしかない。

『最近、なのはちゃんがルビーちゃんを使ってくれないんですよ。ジュエルシードを集める為には仕方がないことなんですけどぉ〜、エロカッケー衣装をインストールするから絶対駄目ってレイジングハートにも近寄らせてくれませんし』

 良くわからないが、自業自得な気がする話だった。

 しかも原因はルビーのほうにある。

『それでルビーちゃんは不安になっちゃったんです。このままではルビーちゃんは新しい武器とかが出てきたら昔の必殺武器が忘れられてゆくように、その他大勢にうずもれて過去の女になっちゃうんじゃないかって』

 それはない。

 こんな灰汁の強い存在は、周りがいくら真っ白でも、垂らされた墨汁のように自己主張するに違いない。

 そして周りを汚染して、最終的には自分色に染めてしまうに違いないのだ。

『所で猫さんは一体誰を監視しているんですか?』

「っつ!!」

 比喩でなく、猫の全身の毛が総毛だった。

 とっさに俊敏な動作で猫がルビーから距離をとる。

 明らかに警戒して、歯をむき出しに威嚇していた。

『二度も同じように息を潜めていてその反応、言い訳は出来ませんよ?』

「…おまえ」

 …どうやら核心をえぐってしまったらしい。

 猫の威圧感が上がって行く…しかしルビーは平然としたままだ。

『まずなのはちゃんの線は真っ先に消えました。なのはちゃんの魔力に魅かれたかと思って、ここ最近なのはちゃんに気づかれないように傍にいたんですけどぉ〜貴方達の魔力は感じませんでした』

 ルビーの声は楽しげではあるが、明らかに詰問だった。

『すずかちゃんを監視しているのなら、もっと近寄って他の猫にまぎれればいい…でも貴方はそれをしていませんよね?自分がこの家の子でないと気づかれるのを警戒しているんでしょう?つまり、貴方は普段、月村の家にはいないことになる。狙いはすずかちゃんでもない。となると残っているのはアリサちゃんと…』

「…ただのインテリジェントデバイスかと思っていれば」

『なるほど、ユーノ君の同類ですか?』

「くっ」

『私をインテリジェントデバイスと呼ぶのはあなた方だけですよねえ、”魔導師”さん?』

 猫が悔しげに顔をしかめて黙る。

 これ以上の会話は相手に情報を与えるだけだと気がついたようだ。

 しかし、口数とは逆に、猫の魔力が上昇してゆく。

 力で黙らせるつもりか?

『こういうのってルビーちゃんのキャラじゃないからいつもはレイジングハートに任せていますけど、やってやれないことはないんですよ?』

「デバイスだけで…何が出来る?」

『割と色々と、それとルビーちゃんはデバイスではなくて礼装ですよぉ〜ここ重要。別になのはちゃんに関係ないなら放って置いてもいいんですけど、お友達に何かあればなのはちゃんが悲しんじゃいますから』

 一触即発の空気が高まってゆく。

『目的を教えてもらえませんか?』

「誰が…」

 猫が獲物に向かって飛び掛る為に身を低くした。

 その顔にははっきりとした敵意がある。

『「ん?』」

 緊張の糸が切れようとした一瞬前にドンと来た。

 横からのいきなりの突風…しかしそれは自然の物ではない魔力の発露余波だ。

 二人揃って声を上げると同時に、周囲が暗くなった。

 何かの影に入ってしまったらしい。

「『うひょ?」』

 なんだろな?と振り向いたそこにいたのは猫(?)だった。

 ただしその大きさが普通のビルの二階分くらいのでかさの、体のバランスから子猫だとは思うのだが…そのキュートな瞳がルビーと猫を見ている。

『……ほらほら猫さーん、お友達が遊びのお誘いですよ〜』

「そんなわけあるか、明らかにあんた狙いだろう!?」

「にゃ〜」

 ずしんと、二人の間に子猫の足が振ってきた。

 足が上がると、くっきりはっきり足跡が地面についている…一体何キロあるんだアレは?

 …まさか自分達は獲物に見られているのか?

 両者同時に青くなって理解する。

 やり合っている場合じゃないと…。

「…仕方がない、1・2の3で左右に飛ぶよ、狙いを分散させるんだ!!」

『はいはい了解でーす』

 いまいち緊張感がない返事だが、猫は構わずにカウントを開始する。

「1…2の…」

『3!ってなんでルビーちゃんのほうに猫まっしぐら!?』

 同時に両方に飛んだのに、子猫は同族には目もくれず、ルビーのほうを追って来た。

 ルビー曰く、その魅惑のボディーが猫の本能を刺激するということをすっかり忘れていたのだ。

 とっさにルビーが反対側を見れば、逃げてゆく猫が新世界の神の様な「計算どおり」の顔をして笑ってやがる。

『計ったな猫さん!』

「杖だからさ」

『その通りですが何か文句でも!?』

「うっさい!!あんたはそこでつぶれてろ!!」

 こっちもこっちで猫まっしぐらに逃げてゆく。

 ルビーは未だに子猫にロックオンされたままだ。

『クッ、仕方ありません!!技を借りるぜテンシンハン!!』

 ルビーがぺカーと輝いた。

 フラッシュグレネードのような光に、子猫の目がくらむ。

『あばよとっつあーん…へぶ!!』

 この隙に三代目怪盗宜しく華麗に逃げようとしたルビーだが、目が〜目が〜とムスカみたいにパニックになった子猫の前足が降ってきて地面に叩きつけられた上に踏まれた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

(ん?)

(どうしたの、レイジングハート?)

 お茶会の席で、相変わらずすずかを片手にぶら下げつつ、目の前のアリサとはやてに百合疑惑を向けられていたなのはが、レイジングハートの念話に反応した。

 正直この状況はかなりきついので、逃げ出せるなら多少のトラブルもどんとこいな気分だ。

(いま…姉さんの魔力が一瞬大きくなって…消えた)

(ああ、それならなのはも感じたけど、大丈夫でしょう?ルビーちゃんなら)

(それもそうですね、なのは様)

 これは信頼といっていいのか?

(それどころじゃないよ!!)

 さらにユーノまでルビーの心配をしている風ではない。

 ルビーの生死より大変なことが起こった様だ。

(ジュエルシードの反応だよ)

(は、ルビーちゃんの魔力に気を取られていたなの!?)

(ちょうど姉さんがいた辺りですね?)

 さあ、まずはなのはの腕につかまってヘブン入っているすずかをどうにかするところから始めよう。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「…何あれ?」

「た、多分ジュエルシードが子猫の大きくなりたいと言う願いをかなえたんだと思うけど…」

 どこにでも着いてきそうなすずかを何とかなだめすかし、捨て猫のような瞳に後ろ髪引かれ、アリサとはやてからはもう筆舌に尽くしがたい目で見られた挙句、ユーノがいきなり逃げ出すという芝居を打って何とか脱出してきたなのはたちが見たのは、とっても大きな子猫の姿だった。

『子猫が姉さんで遊んでいますね』

 子猫”と”ルビー”が”遊んでいるではない。

 子猫”が”ルビー”で”遊んでいる。

 日本語はたった二文字違うだけで内容ががらりと変わってしまう言語である。

「ニャ〜」

『ね、猫さん!!ルビーちゃん眠くないですから!!そんなぽんぽんされても寝かしつけられませんから!!むしろ二度とおきない眠りに逝っちゃいそうですから!!』

「フーフー!!」

 具体的には、ビックな子猫が地面にいるルビーに猫パンチをかまし続けていた。

 しかも何発も…子猫のほうは明らかに遊びに真剣のようで、恍惚として鼻息も荒い。

 その目はルビーだけを見ている。

 おかげでルビーは肉球に張り倒されて地面に激突、反動で上がってきたところにまた猫パンチと、ちょっと反撃できそうな空気はない…連続コンボに突入しているようだ。

「取りあえず止めるね」

 ルビーに夢中の子猫をバインドで拘束する。

 子猫には悪いがこのままルビーを見殺しにも出来ない。

『ふう…ヘルメットがなければ即死でしたぁ〜』

 ヘルメットなんて最初から被っていなかっただろうに、仮にかぶっていてもあの猫パンチに耐えられたとも思えない。

 突っ込みどころは山盛りだが、そもそもなんであれだけやられて無傷?

 一体ルビーは何で出来ているんだ?

「…はあ、封印するよ、レイジングハート?」

『承知しました。なのは様』

 …色々突っ込みたいところはあるが、まずは封印が先だ。

 このまま子猫を放っておけない。

 子猫にしてみればじゃれつきのつもりでも、回りの被害はとんでもない事になる。

「…まって」

「え?」

 声に振り返れば木の枝に女の子が立っていた。

 金の髪をツインテールにして、黒いレザーのような素材の衣装に黒いマントを着たなのはと同じくらいの歳の女の子だ。

 冷めた目でなのはを見下ろし、長い身長ほどはありそうな杖を向けてくる。

『Toらぶるのヤミちゃんのコスプレですね?解ります』

「「『それ絶対違う(います)!!」」』

 なのはとユーノとレイジングハートから同時に突っ込みが入った。

 復活して早々、緊張も何もかもをぶち壊しにしてくれる…何故ならそれがルビーだから。

説明
リリカルなのはに、Fateのある者、物?がやってきます。 自重?ははは、何を言ってるんだい? あいつの辞書にそんなものあるわけないだろう? だって奴は・・・。 ネタ多し、むしろネタばかり、基本ギャグ
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