リリカルとマジカルの全力全壊 無印編 第十一話 おっぱい使徒襲来 
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『ルビーちゃんと〜』

『…レイジングハートの〜』

『『教えて|礼装(デバイス)先生ー』』

…この取り合わせの場合、どっちが司会のお姉さん役で、どっちがマスコット役なのかの判断が難しい。

『さ〜って今日の教えてキッズは誰かな〜?』

『…海鳴の闇に潜み、獲物を狙う白き野獣、被害者製造機の二つ名を持ち、高町家に絶賛居候中のその名はフェレット・ザ・ユーノー』

「そんなリングネームのような名前じゃないから!!そんな物騒な二つ名なんてないから!!どれだけ突っ込ませれば気が済むんだよ!!」

白い小動物が怒髪天で有頂天に反論する。

子供の夢壊しまくりの光景だ。

『さてさて、ユーノ君の教えては何かな〜?』

「無視ですか、そうですか…え〜っと、ルビーセンセイレイジングハートセンセイコンニチワ」

『『こんにちわ〜』』

「キョウハ”オンセン”ニツイテオシエテクダサイ」

とっても投げやりでカンペ棒読みなユーノ君でした。

絶望具合がよくわかりますね。

『日本人なら温泉と無関係じゃいられませんよね〜?』

『はい、日本は大陸プレートの境目にあるため、火山が多い事で知られています。おかげで地震も多いですが、ぶっちゃけ何処を掘っても水脈さえあれば温泉が出るといった土地柄です』

「へえ〜」

ユーノがまじめに感心している。

ルビー達のおふざけはそれとして、温泉に興味があるのは本当のようだ。

『温泉とは地熱で暖められた摂氏25度以上の温水か、規定された成分を一定量含むものとされているんですよ〜』

『温度による分類を下から冷鉱泉、微温泉、温泉、高温泉の四種類に分けられています。体に良いとされる療養泉は含有物から大まかに単純泉と塩類泉、それ以外のものを含む三つに分けられていて、11種類ほど存在しています』

「ほうほう…」

『解ったかな〜、ユーノ君?』

「うん、初めてルビーのことをすごいと思ったよ」

『フハハ、もっと感心していいのですよ〜崇め奉ってもルビーちゃんは平気です』

『姉さん、ほとんどの説明をしたのは私なんですが?』

…それもまた何時ものことである。

「ルビーちゃん、ユーノ君、レイジングハート?そろそろでかけるよー」

「『『はーい」』』

 

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 高町家には、年に一度は翠屋を休みにして家族揃って出かけるという習慣が存在していた。

 家族の絆を確認したり、単純に骨休めなど理由はいくつかある。

 そして今年の目的地は冒頭の前振りを見ても解るとおり温泉だ。

 温泉…そう、温泉である。

 漫画だと何故か必ず馬鹿な男が女湯の覗きをやらかそうとするあの温泉である。

 その場合は銭湯でも可。

…まあ今回はそんなべたなイベントは発生しないだろう。

参加者は高町家一同+人間じゃない連中3に月村忍、ノエル、ファリンにすずかとアリサ、更に…。

「今日は誘うてもろうてほんまありがとうございます」

 はやてが参加していた。

「はは、誘ったのはなのはだよ?」

 後部座席に座る少女…はやての感謝の言葉に乗っている普通車のハンドルを握る士郎が照れくさそうに笑った。

 心底嬉しそうなはやての心情がそのまま伝わってくるような気がする。

「もちろんなのはちゃんには感謝感謝や〜、うち|車椅子(こんなん)やからネトゲと読書だらけの引きこもりニート候補生なもんで、めったに外出せんもんやから今日は楽しみですよー」

「そ、そうかい…」

 …候補生?

 本当に候補生か?

 どうにもリアクションに困るのは、ジェネレーションのせいではないと士郎は思う。

 現に、隣に座っている恭也も微妙な顔をしていた。

 はやてのテンションが高いのは本当に喜んでいるからだろうと思うが、この子には何か独特のものを感じる。

「ところでアリサちゃんは何ぶすくれとんの?」

 話が急に飛んだが、そのことに関しては士郎も恭也も気づいていたので驚かずに付いてゆく。

 後部座席、はやての隣に座っているアリサの様子が変なのだ。

 具体的に言うと機嫌が悪そうにしている。

 てっきりなのはと一緒の車に乗りたいと言い出すと思っていたのに、何故かはやてと一緒にこちらの車に乗ると言い出したところから変といえば変だった。

「相談なら乗るよ?」

「…最近、なのはとすずかが変じゃない?」

 その一言で、士郎と恭也が内心でギクリと硬直した。

 少なくないビックな心当たりがある。

「いや、あの二人は最近、少しどころじゃなく変やん?」

「「ぶ!!」」

 はやてがずばりと言う。

 しかも続けて言いまくる。

 すずかがなのはにべったりとか、特にすずかがなのはになついているところとか、あとはもちろんすずかがなのはを潤んだ目で見ていたりとか…変というより怪しい?むしろ妖しい?とか歯に衣着せぬというのはこういうことを言うのだろう。

「なんっちゅーか見ていて御馳走さまや」

 そう言って暑い暑いと手のひら団扇で自分を扇ぐ。

 しかし、本人の父親と兄がいるのに遠慮なく言う子だ。

 どうも、温泉に感激しすぎて、頭のねじが数本はずれている様にも見えるが。

「それはそうなんだけど、そうじゃなくてもっとこう…」

 アリサもすずかの様子は認めざるをえないらしい。

 だが、アリサははやてと違って目に見える形だけでなく、ほかにも何か感じているようだ。

 やはり付き合いの長さだろうか?

「う〜ん、うちはまだ付き合い短いけど、なのはちゃんもすずかちゃんもいい子やと思うよ?話さんって言うより、なんか話しにくいことなんちゃう?」

 …女の子って言うのは時々何の理由もなく鋭いなーと士郎と恭也は思う。

 女の勘という奴だろうか?

 具体的には桃子とか忍とか……特に女関係の察知能力はニュータイプ並みじゃないだろうかと思うことがある。

「そんな事…解っているわよ。でも悔しいじゃない。話してくれれば力になれることもあると思うのに…」

 …なのはとすずかは良い友達に恵まれたと思う。

 同時に士郎と恭也は申しわけなくも思う。

 自分たちは、彼女たちの悩みをすぐにでも解決できるというのに、それを伝えるわけにはいかない。

 真実を口にできないジレンマだ。 

 一度なのはに話しておくべきだろう。

 このまま、誤解されたままで友人が離れていってしまうのは忍びない。

 何より、このままなのはとすずかに百合疑惑がついたままでは肉親として放ってはおけない。

「はははっ、しゃーないな〜アリサちゃんは、なのはちゃんとすずかちゃんが仲良くて寂しいって言えばいいんや」

「な!?」

「そんなウサギチックなアリサちゃんは、このはやて様が構ったるで〜遊んだるで〜揉んで大きくしたるで〜」

 はやてが悪魔のような顔になっている。

 あれはいじめっ子の顔だ。

 どSの顔だ。

「いや、ちょっと待ちなさい!!誰がウサギ!?特に最後の揉んで大きくするって具体的に何のことよ!!」

「ケケケッツンデレ乙、さっさとツン終了して存分にうちにデレるが良いわぁぁぁ!!」

「誰がツンデレかー!!」

「アリサちゃんがツンデレなのは中の人のせいで絶対運命黙示録!!」

「良くわかんないけどそれは挑戦と受け取ったわよ!?」

 はやてとアリサの闘気が高まってゆく。

 二人とも素人のはずだが…何故だろうか?

 絶対勝てないプレッシャーを感じる。

「…恭也?」

「わかっている」

 余計な言葉は要らない。

 目と目で通じ合ったから。

 二人の心は一つ…はやてとルビーをあわせてはいけない。

 何故か、二人を合わせると化学反応的にとんでもないことになりそうな気がする。

「ぎゃー、離せー!!」

「すぐにやわらかくなるって、アリサちゃんもボインボインがえーやろ?」

「親父かあんたは!?8歳児に何を期待してるのよ!?」

 某ポニテ中年オヤジスパイの言うとおり、彼方の女と書くくらい女性を理解するのは難しいということは士郎も恭也も経験則で知っている。

 しかし、車内でキャットファイトは止めてほしい。

 下手したら事故るというのに…元気がいいのも考えものだろう?

「いやーママー!!」

「観念しぃーや〜?」

「うう、私汚されちゃった…」

 話の内容だけ見ればレイプ犯のそれだ…ついでに、前に座っている二人の事は?

 いや、これは忘れているというよりむしろ場のノリか?

 アリサには悪いが、男には不可侵のガールズトークということで、何も見なかった聞かなかった言わなかったことにさせてもらおう。

 あの会話に突入する勇気がなかった。

 …アリサ・バニングスの冥福を祈る。

「とはいえ…」

 士郎と恭也はバックミラーを覗く。

 そこには自分達の車に付いて来ているワゴン車が写っていた。

 残りの面子は皆あれに乗り込んでいる。

 しかも一人(一匹)を除いて全員女だ…二人だけでこれなのに、あの中では一体どれだけのカオスが展開されているのか?

 

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 ワゴン車に乗っているのはなのは、すずか、桃子、美由希、ノエル、ファリン+|フェレット(ユーノ)士郎達の車の3倍の女性密度と1/2の男性密度になっていた。

『〜♪〜〜♪』

「「「「……」」」」

 しかし、二人の予想を裏切ってワゴン車の中は一人を除いて静かなものだ。

 その一人というのは今現在、ノリノリでカラオケ宜しく熱唱している…ルビーだった。

 この車に乗っている面子は皆魔法と魔術について知っているので遠慮なく姿をさらしている。

 やがてルビーが歌い終わってもしばらく全員が驚きで固まっていた。

「す、すごいルビーちゃん、歌も上手なんだね!!」

 片手に例の如くすずかをぶら下げたままなのはが本当に感心したと手を叩くのに習って、他の面子も運転しているノエル以外全員が拍手した。

「ねえルビーちゃん?それは何って言う歌なの?」

『これですか?これはですね〜高野直子さんの《with you》って言う曲なんですよ〜』

 メタで危険な事を…無茶しやがって…それは上手く歌えて当然だろう。

 むしろ上手く歌えなかったらそっちの方が問題だ。

『さてさて〜続きましてはレイジングハート!!松来未祐さんの《フシギ…なぜかな?》〜』

 …士郎達の予想よりも地味だが、十分以上にカオスな車内だった。

《なあおい、これって因果律的にチョーやばくね?》

《ヤバイヤバイ》

《でも〜ギリギリな気がするの〜》

《ギリギリ…ギリギリ…》

《何が?》

《《《《ググれ》》》》

 そんな感じで、世界が抑止の使者を出すか出さないか悩む程度の地味なカオスだった。

 

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「パラダイスや!!」

「はやてちゃん、いきなりその台詞は正しいの?」

 目の前の光景の感想を率直に口にしたはやてになのはが突込みを入れる。

 目の前の光景というのは温泉だ。

 海鳴温泉の大浴場。

 温泉にきたら一も二もなく温泉、昼間だろうが関係なく、部屋に荷物を置いたら直行するのはむしろ正しい。

 そして、車椅子なのをものともせずに先陣切って突撃したのははやてであり、先ほどの台詞につながるわけだ。

 足が動かないにもかかわらずアグレッシブに、脱衣場から匍匐前進で行こうと(湯船に車椅子で入っていけるわけがあるまい?)する姿にはどろどろとした真っ黒な執念を感じて怖かった。

 特に目がやばかった。

 確かに女湯で年頃の女性が入浴している姿というのは、見る者にとっては理想郷であろう。

 はやてがパラダイスと評したのも間違いではないと思う。

 しかし、それはあくまで見る人間が男であるという事が前提となる台詞のはずだ。

 8歳の女の子が女湯に対して用いる感想ではあるまい。

「だってなのはちゃん、忍さんも美由希さんもノエルさんもファリンさんも美乳ぞろいやん!?お湯に胸が浮いてるで!!」

 ぺったん|娘(こ)には関係ないことだが、脂肪は水に浮くもんである。

「違う!!あれは脂肪なんて即物的なもんやないやない!!ドリームや、夢が詰まっとんのや!!」

「は?はやてちゃん、一体誰に答えているの?それとお風呂で騒ぐと反響して迷惑なの…あと、温泉に鼻血を混ぜないでね?」

 同性の胸に興奮して鼻から血を流す8歳児の姿が…そこにはあった。

 最近友人になったばかりで、まだ完全に彼女のことを理解しきれていなかったなのはは…本当に友人になっていいかと真剣に考える。

 今なら後戻りも可ではなかろうか?

「しかも桃子さんに至っては子持ちって言うのはおかしすぎるやろ!?」

「それは…まあ…」

 自分の母ながら、桃子の若さはどう見ても人外だ。

 あれで間違いなく自分を生んだ母親のはずなんだが…授業参観の時にはどうしても歳の離れた姉妹にしか見られない。

 アンチエイジングに何か大事なものを犠牲にしていても驚くことはないだろう。

 ファンタジーとは割りと近くに転がっているものかもしれない。

「ちょっとは自重しなさいはやて」

 自分の欲望に忠実すぎるはやてを止めたのはアリサだった。

 チョークスリーパーではやての頭をロックして締める…アレは地味にきつい技だ。

 加減すると苦しいだけで気絶も出来ない。

「あいたたた!!ギブギブ!!アリサちゃんうちが身体障害者ってこと忘れとるやろ!?」

「はやて…私はもうあんたを特別扱いしないことにしたから」

「してーな、特別扱いしてほしいわ!!そやないとうち足腰立たなくなるっちゅ−ねん!!すでに足腰たたんけどな!!」

 自分のハンデを笑いに出来るのはすごい才能だと認めよう。

 ウケるかどうかは別であるが、ついでにアリサの目からハイライトが消えている。

「あんたの敗因はたった一つのシンプルな理由よ…・あんたは私を怒らせた」

 ちょっとアリサの様子が尋常ではない。

 まるで最強のスタンド使いのようだ。

 さらに言うなら、アリサが言う所のたった一つのシンプルな理由というやつにも…心当たりがある。

「…アリサちゃん?」

「言わないで…なのは…」

「何で胸が真っ赤なの?しかもそれ手形に見えるんだけど?」

「言わないでったら!!」

 なのはは考える

 あれをお洒落とかボディペイントとかいう奴がいたら、どのレベルの脳腐れだろうかと…まあそんな感じである。

「見ないで、私を見ないで、私を、私の心を、壊さないで! 」

 アスカネタか…大分自我崩壊がすすんでるらしい。

 これ以上はアリサの言うところの、たった一つのシンプルな答えに手が届いてしまいそうなので自重する。

 なのはは父と兄に言われるまでもなく、もっとこの哀れな親友に優しくしようと思った。

 はやてにいじられるアリサは、何故か他人事に思えないのだ。

 

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「…あの…ルビーさん?」

『何ですかユーノ君?』

「何故、私めはこんな状況なんでしょうか?」

 現在…ユーノは縄で縛られていた。

 しかもかなりマニアックな縛り方で…フェレットの体なのに再現率がすごいことになっている。

 ユーノは羞恥と縛られた苦しさでなんか色々だ。

 戻ってきた時に、新しい世界の扉を開けていても指差しちゃー駄目、追求しないのが優しさ!!

『なのはちゃんの貞操を守るためですが何か?』

「ドンだけ僕を信用してないんだよ!?」

『ほう、なのはちゃんに興味がないと?あんなかわいい子に対して、いい度胸ですねユーノ君?』

「ぜんっぜん話が通じねーーー!!」

 士郎と恭也のいる男湯に入るという発想が、最後まで出てこなかったのは何故だ?

 

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「あー、さっぱりした〜」

「復活が早いわね…」

 はやての車椅子を押しているアリサが、その明晰な頭の中で、そろそろはやての事を変態という名のオッパイ星人に認定しようとしていた。

 このまま事故に見せかけて火サスのように抹殺した方が全世界の女性バストの為ではないかと脳内会議では議論されている…ちなみに現在、7−3で抹殺派優勢。

 あの後、女湯という極限状態にはやての理性がいい加減吹っ飛び、足が動かないくせに亡者の如く胸に向かって行ったところを美由希たちに撃退されるという一幕があった…この中で一般人は桃子くらいのもの…ある意味で彼女も一般人以上ではあるが。

 一発でのされたはずなのに、全員が上がる頃には復活するのだから大したものだ。

 そしてあれだけの事があったのに、はやての車椅子を押すアリサのお人よしも相当だと思う。

「ゲーム筐体は何処かなー?」

「はやて、こんなところに来てまでゲーム?」

「何言うとんのやアリサちゃん?こういうところだからこそやないか〜」

 気持ちはわからなくない。

 足の不自由なはやてに、温泉定番の卓球もないだろう。

 そして8歳の子供に風流を愛でてじっとしていろというのは、花見にきて花を見て酔えというようなものだ。

 やはり花より団子である。

「きっといまや何処にもない廃版ビデオゲームが現役のはずや!テトリスないかな〜?インベーダーゲームでもええんやけど、名古屋撃ちー!!」

 八神はやて…コアなオタク決定。

 テトリスはともかくインベーダー…現存しているのか?

 名古屋撃ちと言われてわかる小学生が何人いるだろう?

 現に、後ろをついてくるなのはとすずかは?マークを浮かべている。

(ユーノ君、解る?)

(なのはに解らないものが僕に解るわけないよ)

(そっか…ところでユーノ君?)

(な、何?)

 なのはの肩に乗っているユーノのけがボワッと逆立った。

 警戒してる?

 怯えてる?

(…痛くない?)

(だ、大丈夫だよ)

(大変だったね?)

(…うん)

 なのはの念話に、ユーノが男泣きする。

 ユーノはなのは達が温泉から上がるのに合わせて開放されたが、その体にはしっかり縄の跡が残っていたのだ。

 さっきから他の宿泊客がユーノを見てぎょっとしているのがイタイイタイ…それを見ないふりしてくれるなのは達の優しさ…単によくわかっていないということもあるが。

「はぁ〜い、お嬢ちゃんたち〜」

「「「「え?」」」」

 話に夢中になりすぎていたようだ。

 気が付けば見知らぬ女性が目の前にいる。

「「「「う!」」」」

 4人は取りあえずビビッた。

 目の前の女性は何故か怒っている?

 一応、笑いの表情をしているのだが、目が全然笑っていないし何よりピクピク震えている。

しかもジョジョ立ち、最初は道を塞いでしまっていたのが理由かと思ったが、とてもそんなレベルの怒りじゃない。

 だが…こんな見ず知らずの女性を怒らせて、あまつさえガンつけられる覚えなど4人共ないのだが?

「や、やあ〜この前はうちの子共々世話になったね〜?」

「にゃ?」

 話しかけられたのはなのはだ。

 しかし、なのはの方には心当たりがないので、何故この女性はこんなに敵意をぶつけてくるんだろうとたじたじになるしかない。

 女性の視線がなのはを見て…肩に乗っているユーノに移ってびくっとなる。

「何だい、この変態イタチは?」

(ぐは!!)

「ユーノ君!?」

 触れられたくないものをソリッドにえぐられたユーノが、脱力して肩から落ちるのをなのはが何とか受け止める。

 なのはの手の中で危険な痙攣を始めたユーノに、逆に女性の方がビビった。

「ちょっと、あんた何なのよ?」

 喧嘩腰の女性と目を白黒させている親友を見かねて、アリサが女性となのはの間に割り込んできた。

 それに気づいた女性がはっとして…まだ言い足りなさそうになのはを見る。

「ごめんね〜人違いだったみたい」

 …ここで騒ぎを起こすことを嫌ったのだろう。

 女性はまだ引きつっているが何とか怒りを押さえ込んだようだ。

「なぁ〜に?酔っ払っているの?」

「おお、さすがアリサちゃん、ツンのときは容赦ないな〜さっさとデレんと」

「はやて、あんたどうあっても私をツンデレにしたいようね?」

 女性は二人に構わず…構っていると話がすすまないと判断して手を伸ばし、なのはの頬に触れた。

 なのはの頭の中に声が響く。

(子供はいい子にしてないとガブッといくよ)

(だめ!!!!!)

「うわ!!」

 いきなりの不意打ち的念話に、女性が肉声でうめく、ついでに体が軽くふらついていた。

 しかも、あおりを食らったなのはとユーノも同様だ。

 軽く目を回している。

(なのはちゃんを食べちゃうなんてそんなの駄目!!!)

(す、すずかちゃん?)

 なのはの手にしがみついてくる重さがある。

 大音量の念話を飛ばしてきたのはすずかだった。

 先日、弟子になったばかりのはずなのに、既に念話を使いこなしているようだ。

 ちなみに、小さいがリンカーコアも確認されている。

(あ、あんたも魔導師だったのかい!?)

(なのはちゃんを■■■して○○○なんてさせないわ!!)

(は?すずかちゃん?何故か雑音が入ってよく聞こえないなの)

 それは|自主規制(せかいのしゅうせいりょく)なのです。

 R−18指定なんです。

 子供には聞かせられないお話なのです。

(ちょっとお待ちよ!!あたしはそんな趣味なんてない!!)

(あまつさえ△▼△▼だなんて!!ふ、ふけつよ!!!!)

 それなのになんですずかが知っているのかというと…具体的には忍とか恭也あたりのせいだったりするのだが、何故かは追求してはいけない…三角形は基本的に|18禁(おこさまおことわり)なのだ。

 女の子は基本的に耳年増…そしてすずかはいろいろ興味津々で聞いてしまうお年頃とだけ言っておこう。

(ねえ、ユーノ君?すずかちゃんは何の話をしているの?)

(え?えーっと…)

 どうやらユーノは多少の知識があるようだ。

 しかしこれほど答えに困る質問があるだろうか?

 赤ちゃんはどうやって生まれるの?と同レベルというか直結している難易度の高さだ。

 しかも男の子から女の子に?

(復活したばかりなのに、これなんって罰ゲーム?)

(え?ユーノ君何か失敗したの?)

(主に人生に…)

 なのはの無垢さが眩し過ぎる。

 そうこうしている間に、話が通じない上に大音量の念話というすずかの精神攻撃をぶつけられた女性が再度ふらつく。

「何よ、やっぱり酔っ払い?昼間っから迷惑な…」

「ち、違う…」

「い〜い?お酒を飲んじゃ駄目なんていわないわ、でも大人ならもっと自制を働かせなくちゃ駄目!!それで人様に迷惑かけるなんて社会人として問題よ!?」

「だから…違うって…」

 確かに酔っていると言えば酔っているのだろう。

 しかしそれはアルコールのせいでなく、念話酔いというかなんと言うか。

(しかもしかも最後にはなのはちゃんを…キャーなのはちゃん逃げてー!!!!!)

(す、すずかちゃん落ち着いてなの!!!!)

 しかも未だにエンドレス…少女特有の甲高い念話になのはまで加わって来た。

 念話というのは基本的に頭の中に声を叩き込んだり受信したりする技術なので、ダイレクトに頭に響く。

 念話を切ればいいのだが、あまりにも至近距離過ぎて、ついでに大音量過ぎて無意識の部分で受信してしまう。

 おかげで足元がおぼつかなくなる→それがまた傍目から見れば千鳥足にも見えて→それを見たアリサの目が吊り上がってお説教→ループ突入。

「ちょっと聞いてるの!?仕方ない。もう一度最初から言うわよ!?」

「だから、違う…」

 しかもアリサの説教もエンドレス…内と外からの同時攻撃、最後には言っている内容どころか雑音にしか聞こえなくなってきた。

「うっぷ…」

 ガンガンにサラウンドで来る声に本格的に気分が悪くなったのだろう。

 女性がふらっと倒れそうになる。

「おっと、大丈夫ですか?」

「ああ、ありがとう…って何であたしの胸を鷲掴みしてんだい?」

 倒れた場所が悪かったとしか言いようがない。

 受け止めたのは車椅子に乗ったはやてだ。

 そしてどう見ても待ち構えていた…確実に狙って微調整までして待ち構えていたはやてが女性の胸を掴んだのだ。

 大事なことだから待ち構えていたと二回言いました。

「おねーさんもええモンもってはりますな〜…Dか?」

「揉むな!!」

「無理や、うちの両手が真っ赤に燃えとるもん!!乳を掴めと轟き叫んどるもん!!」

 神の指とかうまいことでも言いたいのか?

 やっぱりこいつは女の子の姿をした親父だ。

 更に素面で酔っ払える猛者だ。

 しかも女という性別を十二分に利用してセクハラしまくる変態だ。

「ヒートエンドするでー!!」

「なんだいその理屈は!?」

 ゴン!!とひどく鈍い音が響く。

 初対面の相手からはやての頭に拳骨が落ちたが、これに関しては誰も文句は言わなかった…完全な自業自得だったからだ。

 胸の拘束が外れたとたん女性は逃げ出す。

 一目散に…すぐに姿が見えなくなった。

 しかし、なのははその後ろ姿を見送らない。

 なのはが見ているのは、一撃で撃沈したはやてだ。

「何って言うか…素でルビーちゃんみたいな子は初めて見ちゃったなの…」

 本格的に、はやてとの付き合い方を考えたほうがいいかもしれないとなのはは思った。

 これ以上ルビーのような人間が増えては流石に突っ込みきれる自信がない。

 そして、将来的に胸をもまれる気がする。

 あの桃子の娘なので、確実にDNAは受け継がれているはず…今から未来に暗雲が立ち込めてきた気がする。

 ちなみに、逃げ出した彼女が念話をつかえるということは、すなわち魔導師関係の人間だということに思い至ったのはしばらくしてからだ。

 リアクションがすごくて、印象が完全に流されてしまっていた。

 

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「うう、くっそ…あの狸娘…」

 子供達から逃れた女性は温泉に逃げ込んでいた

(フェ、フェイト〜)

(ど、どうしたのアルフ!?)

 女性…念話でフェイトにアルフと呼ばれた彼女は、温泉につかりながらしくしく泣いていた。

 胸にははやての手形がくっきりはっきり付いている。

 …まじめに痛そうだ。

 文字通りはやてのお手つき。

(もう帰りたい…あいつらおかしいよ)

(何があったのアルフ?アルフーー!?……よ、よくわからないけど…ところでね、アルフ?)

(な、何?)

(ジュエルシードの反応を感じたよ)

「そうかい!!」

 がばっと温泉から立ち上がったアルフは、まったく何も隠さないすっぽんぽんで男前な仁王立ちをした…握った拳がとってもイエスな気合の入りようを表している。

「回収しよう!!すぐに、そして家に帰るんだ!!」

(そ、そんなに帰りたいの?)

「あんな連中と何時までも一緒にいられるか!!お願いだよフェイトォ〜フェイトはあんな風に成長しないでおくれ、何時までもそのままでいておくれよぅ」

 エターナルロリータ希望?

(わ、わかった…)

 念話だけでもフェイトが盛大に引いている姿がイメージできる。

(と、ところでね…)

「ん?どうしたんだいフェイト?」

(そ、そろそろ暗くなるよー早く来てー!!)

「わ、わかった!!すぐに行くから!!」

 ざばっとお湯を掻き分けたアルフは、全速力で脱衣場に駆け込んだ。

 …ところで、彼女は途中から感極まって念話が口から漏れていたことに気づかなかった。

 同じように温泉に入っていたほかのお客さんからどういう目で見られていたかにも…温泉や銭湯には刺青や泥酔お断りのルールはあっても、人に見えないものを見てリアクションをとる人間を遠慮する規則は何処にもない。

 そういう人を見たときは、勇気を出して黄色い救急車を呼ぼう。

 お兄さんとの約束だ(キラッ★)

 

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「…フェイトちゃん」

 日が沈み、辺りが暗くなってさあ寝ようとしたところにジュエルシードの反応を感じたなのはは、親友達に気づかれないように旅館を抜け出し、何とか苦労してブラッシングして縄の跡を消したユーノと共にジュエルシードの気配の方に向い…探し人を見つけた。

 闇夜をくっきりと切り取る黄金の髪の少女を…。

「あ〜らあらあら子供は大人しくって言わなかったっけ?」

 そして、共にある見覚えのある女性、With犬耳、犬尻尾…。

「あ、どうもさっきぶりです」

 なのはの返しがとっても軽かった。

 まあ、あれだけ無様をさらしておいて今更おびえろというほうが無理だ。

 女性はなのはの様子にカチンと来たようだが、何とか自制心を保持する。

「気をつけてなのは…きっとあの女の人はフェイトって子の使い魔だ」

 ユーノが冷静に、女性を見てその正体を見抜く。

 それを聞いた女性が口笛を吹いた。

「へえ、やるじゃないか。その通り、私はこの子の使い魔のアルフ」

 女性が変身する。

 体のつくりそのものが変化して、あらわれたのは髪の色と同じ赤い毛並みに青い瞳、額に宝石を持つ大型犬だった。

「私はこの子に作られた使い魔、主の魔力によって生かされる代わりに、命を賭けて護る。…いい目をしてるじゃないか変態「僕を変態と言うな、ぶっ殺すぞ!!」うお!!」

 ユーノの気迫に、アルフが気圧された。

 どうも禁止ワードに触れてしまったようだが、今のユーノは本気で喉笛をかみちぎりかねない気迫を出している。

「あ、その…真面目にすいません」

 気がつけば、アルフは素直に謝っていた。

 動物の本能がここは謝らなくちゃダメっと判断したようだ。

「ユ、ユーノ君?最近ワイルドになったね?」

「ふ、新しいユーノ・スクライアをよろしく!!」

 何か新しい自分を発見しかけているような気がするユーノだった。

 この短期間で草食から肉食にクラスチェンジを始めているのか?

 原因は間違いなくルビーだろう。

「…それはともかく」

 少し気になることがあったなのははアルフを見る。

 その視線に気がついたアルフが気を取り直して見返してきた。

「あの…」

「ん〜、なんだい?お譲ちゃん?」

「はやてちゃんに揉まれた胸は大丈夫ですか?」

「それに触れるなーーー!!」

 どうやらあの事はアルフの方の禁止ワードだったらしい。

 被害者二号決定…どうやらすでに色々な意味で手遅れだったらしい…アーメン。

 となると手形も禁止ワードだな。

「さて、っと…」

 それはそれとして現状確認をしよう。

 さっき感じたジュエルシードの発動の気配がなくなっている。

 そしてここにフェイトがいるということは、残念な結論にしか繋がらない。

「フェイトちゃん、ジュエルシードは封印したんだよね?」

「う、うん…」

「あれ?」

 何かフェイトの様子が変だな?

 返事が弱弱しいというか震えている。

 アルフの後ろに隠れてあれは…怯えているのか?

 しかも周囲の暗がりを気にしているのか、せわしなく辺りを見回して落ち着きがまるでない。

 前回の彼女とまるで違うが…何があった?

「フェイトちゃん?どうかしたの?」

「っつ!!」

「何をぬけぬけと…」

 アルフの陰に隠れたフェイトに代わって、アルフが牙を剥き出してうなっている。

「お前達が仕込んだDVDのせいでなーっ!!フェイトは!!」

「だ、だめ…アルフ言わないで!」

「思わず漏らしちゃったんだぞ!!」

 ……………何か白いものが通り過ぎたな?

「アルフのバカー!!!!!」

 とうとうフェイトが泣き出してしまった。

 そんな彼女を全員で優しい目で見る。

 …うん、可愛い…可愛いけど哀れだ。

「しかも、今も夜一人じゃトイレに行けなくなったんだ!!どうしてくれる!!」

 余計なことを言わなければいいものを…とはいえ、彼女にとってはフェイトの不遇を訴えることに必死でそれ以上に頭が働いていないのだろう。

 忠誠心は高いようだが所詮は馬鹿である。

「えっと…そういわれても何がなんだか…」

 泣いている子供一人、威嚇してくる女が一人、何がなにやらわかっていない少女一人と小動物一匹…カオスだ。

『くっ…予想とは違うとはいえ…いや、予想以上の戦闘力アップ…フェイト・テスタロッサの進化は止まることがないのか?』

 …はい、犯人確定。

「「「「やっぱり|お前(ルビー)のせいかー!!」」」」

「ちょっと待てーーー!!」

 おおっと、ここで付き添いに駆けつけた恭也から待ったコール!!

「ま、まさかそのDVDは…DVDはどうしたんだ!?あれって借り物でレア物なんだぞ!?」

 どうやら、会話の内容からDVDの正体を悟ったらしい恭也が青くなっている。

「はあぁー?そんなもん叩き割ったに決まってんだろう!?」

「がーん」

 DVD代、15750円

 恭也、口でショックを表現するほどプライスレス

 後日、ルビーが翠屋のバイト代からDVDを弁償することになったが、一片の悔いもなかった。

 むしろ恭也にありがとうありがとうと何度も繰り返し、倍の金額を渡したのだ。

 そんなにか?…そんなにフェイトの|進化(もえ)が嬉しかったのか?

「お前がフェイトの言っていた杖だな!?とにかく、お前はここでぶっ潰す!!」

 アルフがびしっと指差したのは当然ルビーだった。

 他の連中はこの時点で眼中にない。

 フェイトのことだけじゃなく、自分の分も込みかも知れない。

 あれは多分ホラーを見てビビッた人間の反応…あるいはアルフもフェイトと同じように?

『むう〜仕方ありません。|助さん(なのはちゃん)、|角さん(レイジングハート)?』

「な〜にかなルビーちゃん?」

『…なんですか姉さん?』

『ちょっと懲らしめてやりなさい』

「わかったよ〜♪」

『わかりました』

 なのはが元気よく答え、レイジングハートも同意する。

 砲撃モードにしたレイジングハートを、くるくる回しながら自分も回転して魔力を高めつつ…その何の感情もこもっていない冷え切ったおっかない目で”目標”を見る。

 しかも口元に薄ら笑いまで浮かべて…。

「高町なのは、レイジングハート、目標を狙い撃つー!!」

『ディバインバスターです』

 目の前にいたルビーに対して、躊躇なくゼロ距離砲撃を叩き込んだ。

 ゼロ距離で狙い打つも何もあったものではないと思うが…ルビーの姿が光の中に消える。

「懲らしめ終了!全くルビーちゃんは…」

『お見事ですなのは様』

 お仕置き済みの煤けたルビーからの返事がない。

 唯の屍のようだ。

 少し時間を置けば自分で自分に復活の呪文でも使って再生するだろうから問題なし、経験者は語るのである。

「さって、これでやっとお話が出来るね?フェイトちゃん?」

 ストレスを発散してすっきりしたなのはが、レイジングハートで自分の肩をとんとん叩きながら、極上の笑みでフェイトを見る。

 ルビーのことで怯えさせてしまったのだ。

 ここはなのはの誠心誠意を見せて警戒を解かなければならないだろう。

 なのに…おや?

 何かフェイトとアルフの雰囲気が変だ。

「えっと、なのはちゃん?」

「え?」

「い、いえなのはさん!ちょっとお聞きしたいことがあるんですが!?」

 …何か変な事をしてしまっただろうか、アルフがさっきまでの不遜な態度が何処へやら、尻尾を丸めてプルプル震えている。

 しかも敬語?良く見ればびっしり汗をかいて直立不動?…犬の姿なのに芸達者な。

 背後に庇っているフェイトは元々の涙目を更に崩して怯えていて…何故だろうか?

「そのOHANASIというのは「|臓物(ハラワタ)ぶちまけろ!!」とか、「あんたの魂、いただくよ!!」などの言葉の|隠語(スラング)でしょうか!?」

「え?いや、そんな物騒な台詞とは関係なくてただお話したいなーって」

「フェイト!?聞いたかい?大丈夫、大丈夫だよ!」

「あ、ありがとうアルフ…私、死ななくていいんだね?」

 フェイトがアルフに抱きついてグシグシしている……………ってあれ、ひょっとして今怯えられてるのは…なのは?

 

 

 

 

 

 フレンドリーファイヤーという言葉があるのを知っているだろうか?

 仲間を背後から誤射してしまうという行為だ。

 しかし、これはあくまで事故であって狙ってやるものでは決してない。

 未来、あまたの次元世界で最恐の魔王として語られる伝説の一ページ目はフレンドリーファイヤーで始まる…かもしれない。

 

 

説明
リリカルなのはに、Fateのある者、物?がやってきます。 自重?ははは、何を言ってるんだい? あいつの辞書にそんなものあるわけないだろう? だって奴は・・・。 ネタ多し、むしろネタばかり、基本ギャグ
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