リリカルとマジカルの全力全壊  無印編 第十八話 無限の剣製VS・・・?
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・・・見渡す限りの一面に銀の輝きがあった。

 

人型をしたそれは製作者の意思に基づいて行動する機械、人型の道具、御伽話の魔法使いが使役する人形・・・魔導師達のゴーレム、傀儡兵・・・その外見は西洋騎士の人形と言った感じだ。

 

傀儡兵は、大抵の場合で戦闘用であり、いくつかのバリエーションが存在する。

小さい物では人間より少し大きい位、大きい物では小さなビルほどの大きさがある。

どれも強力な戦闘力を持った個体が数十体・・・それがプレシアの居城である時の庭園に収納されていた戦力だった。

 

全ての傀儡兵は戦闘準備を完了し、各々の砲門からは砲撃魔法の光が洩れている。

軍とでも真正面からやりあえそうな傀儡兵の群れだが、物言わぬ冷たい人形が相対しているのは“たった一人”だった。

 

「・・・・・・」

 

鋼鉄の兵団を前にするのは、紅の外套を着た男だ。

周囲を隙間なく囲まれていながら無関心、そこにいる敵に何の興味も抱いていない。

ただ、前だけを見て一歩踏み出す・・・無造作に・・・その瞬間、世界が白く光った。

傀儡兵達が、プログラムに従って侵入者の排除を行ったのだ。

圧倒的な破壊力、圧倒的な数の差、圧倒的な優劣が両者の間には存在する・・・ように見えた。

 

「・・・|熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)」

 

向かってくる魔力に対してただ手を翳し、紡がれたのは短い呪文だった。

しかし、その短い言葉による変化は劇的に現われる。

手の先に展開されたのは7枚の花弁を持つ巨大な花、その一枚一枚が古の城壁に等しい防御能力を持つ、ギリシャ神話に語られるアイアスの盾の模倣。

投擲武器に対して無敵という概念を持つそれは、傀儡兵の砲撃を受け止めきる。

 

「・・・|投影(トレース)・・・|開始(オン)」

 

現われたのは黒い洋弓、矢のないままに弦を引き絞るその姿は美しささえ感じさせる。

         我が骨子    は 捻 じれ    狂う。

 「・・・I am the bone of my sword.」

 

黒の弓に、捻じれた矢がつがえられる。

禍々しいフォルムの歪な剣だ。

 

 「―――“偽・螺旋剣(カラド・ボルグ)”」

 

解き放たれた結果はすぐに出た。

雷光を纏い、空間すらもえぐる捻じれた剣は傀儡兵達を文字通り穿つ。

傀儡兵達が空を飛び、引き裂かれ、ばらばらと部品単位になって降り注ぐ。

 

「・・・・・・」

 

それを見ても男は無言、何の感慨もわかないのか、壁であった傀儡兵のいなくなった前方へと足を踏み出す。

それは|偽・螺旋剣(カラドボルグ)によって作られ、時の庭園の中心にまでまっすぐに続く轍・・・左右に積み上げられた傀儡兵の残骸に目もくれない。

変わらず前だけを見て男は歩き出した。

 

――――――――――――――

 

「な、何だあいつは?」

 

茫然とつぶやいたのはクロノだ。

他の皆は驚き過ぎで声も出ない。

見せつけるつもりだったのか、つながりっぱなしだったスクリーンの中で行われるプレシアとルビーの会話を聞いていた一同だが、おかげで一部始終を見るに至ったのだ。

 

『・・・これでこの事件は終了のようですね』

「「「「「え?」」」」」

 

沈黙を壊した声に、全員の視線が集中する。

 

「レ、レイジングハート?どう言う事なの?」

 

声の主は、なのはの持っている杖・・・レイジングハートだった。

 

『この事件はプレシア・テスタロッサ女史の死亡を持って終了するという事です』

 

全員が絶句した。

いまだにアルフの手の中で支えられているフェイトが、わずかに身じろぎするが、それに気がついたのはアルフだけだ。

 

「ま、まて!プレシア・テスタロッサは犯罪者だが、裁判も無しにいきなり殺人など許されないぞ!?」

 

クロノが慌てる。

彼の立場上、プレシア・テスタロッサは可能な限り生きて捕獲して法の下に連れ出さなければならない。

それでなくても、犯罪者だからといって死ねばいいなどと思ってもいない。

 

「そもそも、あの男は何なんだ!?」

 

いきなり現われ、圧倒的な戦闘力をまざまざと見せつけた第三者、何故あの男がプレシア・テスタロッサを殺そうと狙うのか、何一つ分からない。

 

『ク、クロノ君』

 

エイミィの声が震えている。

これは・・・恐怖の感情か?

 

『あの人・・・人間じゃないよ』

「何!?何を言っているんだ!?」

 

・・・理解の及ばない展開に対して、人間は困惑するしか出来ない。

 

『見た目は人間だけど・・・センサーを通して見ると、あれは人の形をしている濃密な魔力なんだよ』

「・・・・・・」

 

クロノが茫然となのはを・・・正確には彼女の持っているレイジングハートに向けた。

あの男の正体を知る者は、この場においてレイジングハート以外にいない。

 

「何を・・・知っているんだ?」

『あの人は抑止の使者と思われます』

「抑止?まさかあの人は守護者なの?」

『そうです』

 

話について行けたのはなのはだけだった。

さっきまでのプレシアとの会話とは逆に、ほかのみんながなのはとレイジングハートの話について来れていない。

 

「な、なのは?どう言う事か教えてよ?」

「う、うん・・・なのはも良くは知らないんだけど・・・あの人が本当に守護者なら・・・」

 

なのはの言葉を待つ全員が、ゴクリと唾を飲んだ。

気がつけば喉がからからに干上がっている。

 

「守護者さんはね・・・正義の味方さんなの・・・」

「「「「は?」」」」

 

やはり理解は及ばなかった。

だが、なのはの真剣な話は続く。

守護者・・・それは世界に危機が迫る時、あるいは霊長の種が存亡の危機に瀕した時・・・それを防ぐために、世界は英雄という名の先兵を派遣する。

彼等は、世界という存在が持つ一種の防衛本能の化身だ。

 

「でも・・・ルビーちゃんがその事を話してくれたとき、『彼らは《掃除屋》なんですよ』って言ってた・・・あのルビーちゃんがとっても悲しそうだったなの」

「・・・・・・どんな話かと思えば・・・」

 

クロノが頭を抱えている。

 

「聞いたことないぞ、そんな話?」

 

クロノだけではない。

ユーノもアルフも、スクリーンの中のリンディも困惑している。

 

『当然です。何故ならばこれは魔法ではなく魔術の領域の知識です』

 

だからこそなのはにはそれが理解できた。

魔導師ではなく魔術師だから・・・ルビーから魔術的な知識として以前に聞いたことがあるからだ。

 

『・・・ちょっといいかしらクロノ?』

「何ですか?艦長?」

『なのはさんがその守護者等の事を知っていたのは分かるとしても、何故レイジングハートは魔術師の知識を持っているの?』

「・・・・・・あ」

 

考えて見れば変な話である。

レイジングハートは魔導師側の産物、それがいまだに未熟とはいえ、魔術師であるなのはより先にあの男が守護者と見抜けたのか?

 

『姉さんは、自分がなのはさまの傍にいられなくなることを想定していました』

「「「「な!?」」」」

「ルビーちゃんが?」

 

予想外の言葉に、なのはの目が丸くなる。

 

『なのは様、姉さんは今回のジュエルシードに関わる諸々の事が簡単には済まないだろうという事を予想していました。その途中において、姉さんがなのは様の傍にいられなくなる可能性も考慮し、魔術に関するデータをある程度私の中にコピーして自分の代わりに助言できるようにしていたのです』

 

変わっていたのは、人格プログラムだけではなかったらしい。

そこまで先を読んでいたというのも信じられないが、おそらくこれは役に立たない方がよかった保険だろう。

 

「母さんは・・・」

「フェイト?」

「母さんは・・・死ぬの?」

 

アルフに抱えられながら、真っ青な顔色のフェイトがレイジングハートに聞いた。

 

『・・・守護者とは、人間ではありません。世界という概念の命じるままに動く魔力の機械です。プレシア・テスタロッサは世界その物に敵として認識されたのです』

「フェイト、もう良いじゃないか。もうあんな女のことなんか忘れちまいなよ!!」

 

アルフがとんでもないという風に怒鳴り散らす。

本人達以外には知りようもないが、様々な思いがこもっていることは察する事が出来る。

 

「アルフ・・・」

 

フェイトが悲しそうな声を出すと、アルフはそれ以上何も言う事が出来なかった。

頭では分かっている。

 

「・・・フェイト・テスタロッサ?」

 

そんな彼女に声をかけたのは、意外にもクロノだった。

 

「このままでいいのか?」

「・・・・・・私は・・・人形だって母さんに・・・」

「僕は行く」

 

クロノの言葉には、今までにない力が宿っていた。

本当なら、余計な危険を冒すべきではない状況だ。

だが、リンディやエイミィでさえ、今のクロノに声をかけづらい物を感じている。

 

「世界はいつだって、こんな筈じゃないことばっかりだよ。ずっと昔から、いつだって、誰だって、そうなんだ。こんな筈じゃない現実から逃げるか、それとも立ち向かうかは個人の自由だ。だけど、自分の勝手な悲しみに無関係な人間まで巻き込んでいい権利はどこの誰にもありはしないと思うから・・・僕は行く」

 

そう言ったクロノの姿からは、何かを吹っ切ったような風を感じる。

その背中を見たフェイトの目に、光が宿った。

 

「私も・・・」

「フェイト・・・」

「アルフ、それでも母さんなんだよ」

 

たとえ殺されそうになったとしても、プレシアはフェイトの母親なのだ。

 

「で、でもどうするんだい?」

 

ユーノが気まずそうに声を上げた。

 

「相手はレイジングハートの言葉を信じるなら世界その物だよ?人間個人がどうにか出来る物とは思えない」

 

水を差すと分かっていても、言わなければならない事はある。

無策で守護者と呼ばれる存在の前に出るなど、死にに行くようなものだ。

相手には、こちらに対して手加減をする理由はないのだから。

 

「・・・レイジングハート、もう出来る事はないの?このまま終わりなんて・・・」

『・・・・・・危険すぎます』

「そんな」

「なのは」

 

レイジングハートに尚も問いかけようとしたなのはの肩を掴むのはユーノだ。

 

「落ち着いてなのは、デバイスは基本的にマスターを裏切る事はない」

「う、うん・・・」

 

彼が何を言いたいのか分からず、なのはが首をかしげた。

 

「さっきから、レイジングハートは危険とは言っているけど、無理とは言っていない」

「っつ、レイジングハート!?何か出来る事があるの!?」

『なのはさま・・・申し訳ありません』

 

レイジングハートの返事は謝罪だった。

それは、ユーノの指摘を認めたという事でもある。

 

『しかし、やはり危険です守護者とは世界の脅威を速やかに処理する為だけの存在です。交渉やお話など最初から不可能です。下手をすればなのはさまも敵と認識されかねません。そうなれば・・・』

「それでも・・・やらないよりはずっといいよ。お願いレイジングハート」

 

・・・ここまで言われて、デバイスであるレイジングハートが答えないわけにはいかない。

 

『はっきり言って、まともにやりあえば勝ち目などありません・・・しかし、なのは様ならば・・・』

 

一つだけ、残っている可能性を、レイジングハートは伝える。

 

「え?」

『なのは様ならば、かすかにではありますが可能性があります』

「なのはが?」

 

みんなの視線がなのはに集中するが、誰よりも本人が一番驚いている。

 

「何をすればいいの?」

『姉さんです』

「ルビーちゃん?」

『なのは様が姉さんを取り戻し、その真の力を行使できれば・・・あるいは・・・』

 

―――――――――――――――――

 

「な、何なの?」

 

プレシアは、モニターに表示されるデータを見て唖然とした。

男・・・ルビーがシロウと呼んだ紅の騎士のデータだ。

そこには、驚くべき結果が表示されている。

 

「人間じゃない?いえ、そもそも生き物ですらない?魔力で編み込まれた人型の何か?」

 

流石と賞賛すべきだろう。

プレシアは、シロウの正体をある程度まで分析しているようだ。

 

「こんな・・・これじゃ魔力のみで作られた人形?」

『それでほぼ正解です』

 

背後からの声に、プレシアが顔を上げる。

鳥籠の中のルビーは、どこか沈痛なものを感じさせた。

 

『プレシアさん、貴女はやり過ぎたんです。その為、世界は貴女という世界に対する脅威を排除するため、あの人を送り込んできたんです』

「これが、貴女の言っていた形を持った死という所かしら?」

 

この期に及んで、ニヤリと笑える胆力は大したものだ。

 

『“今の”シロウさんは貴女を殺して、この状況の鎮静を図るためにここに向かってきているんですよ』

「くだらないわ」

 

この期に及んで、プレシアは自嘲の笑みを浮かべていた。

状況が理解できていないわけではない。

むしろ、その非凡さから、シロウという驚異を正しく認識している。

 

「見くびらないでほしいわね、アリシアを取り戻すためなら、世界くらいいくらでも敵に回してやるわ」

 

・・・これが母の愛か?

わが子の為に、ここまで出来るものなのか?

だが・・・それならば・・・。

 

『・・・プレシアさん?』

「何かしら?」

『貴女、本当にフェイトちゃんを殺すつもりだったんですか?』

 

プレシアの動きが止まった。

ルビーを振り向く事さえしないが、黙って次の言葉を待っていることがわかる。

 

『フェイトちゃんも一緒に、あの世界諸共消し去る気なんてなかったんでしょう?』

「何で・・・そう思うのかしら?」

 

あの世界の何処にいても人質としては十分だったはずだ。

世界その物が消え去る時に、安全地帯など存在しない。

 

『フェイトちゃんが現れた場所はアースラが警戒しているであろう場所のど真ん中でした』

 

まさに見つけてくれと言わんばかりの場所、現にフェイトはすぐになのは達に捕捉され、保護された。

あの場所に転移させたのはプレシア本人なのだ。

 

もし本当に、世界が消滅する事になったとしても、あの場にいた全員はアースラで逃げ出せた可能性がある。

むしろ高かったと言っていいだろう。

 

「・・・見当違いね」

『フェイトちゃんを利用していたと、解り易い悪女だったのも?』

 

本当に人形だと思っていたのなら、憎しみをぶつける事もなかったはずだ。

そもそも、プレシアの語ったフェイトに対する感情が全て本当だとしても、それならば尚の事憎しみをぶつける理由にはならない。

何故ならば、別人だとしてもフェイトはアリシアの写し身なのだ。

愛娘の姿をしたものを・・・死んでも生き返らせたいと思った娘の姿をした彼女を・・・嬉々として傷つける事が出来るだろうか?

 

『プレシアさん?貴女・・・フェイトちゃんはあくまで利用されていたという事にするためにあんな・・・』

「それ以上フザケタ事を言えばガラクタにするわよ!?」

 

自分のデバイスである杖をルビーに向けるプレシアには、冷めた怒りの顔になっていた。

これ以上・・・これ以上話せば許さないと、ルビーを睨む目の中に滾る感情が見えた。

 

「私はあの子を利用したの、人形のあの子を捨てようがどうしようが、製作者の私の勝手でしょう!?」

『プレシアさん』

「それでいいじゃない?」

 

その一瞬に浮かんだ表情を見て、ルビーは何も言えなくなった。

 

「それに、もうすぐ彼がここに来るわ、無駄話をする時間はないようよ?」

 

モニターには傀儡兵を剣の一振り、弓矢の一射で簡単に蹴散らすシロウの姿があった。

相当な防御力、耐久力を誇る傀儡兵の装甲が紙のようだ。

 

・・・凄まじい、その一言に尽きる。

 

モニターから聞こえる破壊音と、音響を通さない生の破壊音がシンクロする。

徐々に両者の差異が少なくなってきているのは、シロウが近くまで来ている証拠だ。

 

「・・・ん?」

 

何かに気がついたらしいプレシアがわずかに首をかしげる。

次いで、それが何を意味するのかを悟ったプレシアの額に皺が寄った。

 

『どうかしたんですか?』

「いえ、何でもないわ」

 

そう言って、プレシアがモニターを消すと、死角になる位置にいたルビーには、プレシアが何を見て不機嫌になったのかを知る術はない。

 

「・・・あの子、何しに・・・」

『プレシアさん!?』

「は!?」

 

ルビーの鋭さを含んだ声に、プレシアがその場を飛び退く。

一瞬前にいた場所の床をぶち抜いて、螺旋を描いた魔弾が破裂し、プロテクションを展開したプレシアを吹き飛ばした。

 

「くっつ!」

 

地面に足の裏で線を刻みながらもなんとかプレシアが踏みとどまる。

 

「早すぎるでしょう!?」

 

床に開いた穴から飛び出してきたのは赤の騎士・・・その瞳は鋼の色に冷たく、プレシアをとらえる。

 

・・・血の気・・・いや、生気が感じられない・・・死んだ魚のような目だ。

 

「世界が私に死ねと言ってるからって・・・まだ私は死ねないのよ!!」

 

部屋を膨大な魔力が満たす。

シロウがふと気がついたというように見上げれば、天井が見えないほどに隙間なく配置された雷の刃が自分を狙っている。

 

「アリシアを取り戻すまでは!!サンダーブレイド!!」

 

一斉に、本来ならば広範囲を一気に吹きとばす目的で使用される、奥の手の一つは屋外とは比べようもなく狭く、そしてたった一人を目標に、豪雨の如く降り注いだ。

黄金の稲妻がフラッシュのように光り、爆風が全てを覆い尽くしてゆく。

 

いかにプレシアとはいえ、これほどの大魔術を予備動作もなく、しかも気付かれずに行使するのは不可能だ。

 

・・・プレシアはシロウが外に配置していた傀儡兵達を鎧袖一触にするのを見て、あの程度では止まらないと理解していた。

故に、最終目的地である自分のいるこの場所に最初からわなを仕掛けていたのだ。

外とは違う、逃げる事の出来ない密閉空間の中における全方向からの一斉攻撃、しかもこれはジュエルシードの補助も得て威力を増している。

プロテクションを展開したままでいなかったら、術者であるプレシアも無事では済まなかっただろう。

 

「まだよ!フォトンバースト!!」

 

更にプレシアが砲撃を重ねる。

圧縮された魔力が、降り注ぐ雷の刃の群れに横からぶつかる。

あの花びらのような防御が間に合っていても、それは上方からの攻撃に向けられているはず。

しかも、未だ上から降り注ぐ雷の刃の中では動けまい。

直角方向からくるこの一撃は、避ける事も防御する事も出来ない。

 

「消えなさい!!」

 

放たれた圧縮魔力弾は、扇状に破壊の風を吹かせた。

無事なのはプレシアとその背後だけだ。

後は全て破壊され、城の一部がそっくりそのまま消滅している。

 

「こ、これで・・・ぐっつ!!」

 

膝をついたプレシアが片手で口を押さえる。

しかし、その指の隙間から漏れだして来る滴りをを押さえる事は出来なかった。

 

「ごほ!!」

『プレシアさん、大丈夫ですか!?』

 

床に落ちた液体の色は赤だった。

二度の大魔法・・・すでにプレシアの体はボロボロだった。

それなのに、奥の手の一つをジュエルシードの魔力を補助にしたとはいえ二つも連続で行使した。

今のプレシアの状態は、限界の先にある。

 

『無茶したらダメですよ〜』

「こ、この位しないと止められなかったでしょう?」

 

プレシアの後方にはアリシアの入ったカプセルがあった。

彼女はあくまでも娘を守る母親だったのだ。

未だに鳥かごに捕らわれたままのルビーが無事だったのは、単に置いてあった場所がアリシアのすぐ近くだったからに他ならない。

 

「ふふ、でもこれで・・・」

『・・・残念ですが』

「え?・・・そんな!?」

 

思わず・・・プレシアは悲鳴を上げた。

やっと破壊による埃がおさまってきて・・・その先にいる者の姿が見えるようになった。

 

「無傷!?」

 

完全に無傷ではない。

外套の所々には、爆発によってついた汚れのようなものが見てとれる。

しかし、今この場で起こった破壊の連鎖を考えれば、五体満足どころか生きている事さえも信じられない。

 

「っつ!?」

 

そのなにも写さない・・・死んだ瞳と目が合ったプレシアが本能的に後ずさる。

 

「・・・」

「あぐ!?」

 

体力を使い果たしていたプレシアには、急接近するシロウに対して無力だった。

とっさに展開したプロテクションも、どこから取り出したのか・・・剣であっさり、豆腐を包丁で切るかのように抵抗なく切り裂かれ、無防備な体の中心に蹴りを食らった。

 

血をまき散らすプレシアは、アリシアのポットに激突してやっと止まる。

 

「あ・・・アリシアァ・・・」

 

ポットの中の娘は、母親の言葉に何も答えない。

答える事などできない。

 

「ま、まっててね・・・アリシア・・・今母さんが・・・ぐう!!」

 

娘に語りかけるプレシアの肩が容赦なく、飛来した剣に貫かれる。

立ち上がろうとしたプレシアの膝が、再び折れた。

 

『プレシアさん!!やめてくださいシロウさん!!』

 

呼びかけにシロウは答えない。

今の彼は抑止の使者だ。

その存在意義は世界にとっての害悪・・・プレシアの排除・・・デバイスを握る力すら失い、娘の眠るポットに寄り掛かっている事しかできないプレシアにとどめを刺すべく、黒弓に剣をつがえる。

 

『シロウさん、それではアリシアちゃんの遺体まで!!』

 

剣は偽・螺旋剣・・・万が一にもプレシアが反撃に出ないように・・・あるいは避けても余波に巻き込んで抹殺する為に・・・。

 

「や・・・やめて・・・アリシアは・・・」

 

いや・・・そもそも|母親(プレシア)が。|娘(アリシア)を見捨てるわけがない。

背後に娘がいる限り、母親である彼女は偽・螺旋剣を避ける事は出来ない。

今の彼女に出来る事は、アリシアの盾になる事くらいなのだから・・・それを計算して狙いをつけているのか?

鋼鉄の視線は揺るぎなく強固で冷たく・・・彼の思いを読み取る事は出来ない。

 

「・・・・・・」

 

シロウは無言で剣を解き放つ。

もはや余計な事は無用と、魔力はこもっていない。

 

・・・それでも、今のプレシアを殺すのには十分だ。

 

残像の尾を引いて襲いかかる鋼色の死に対して、プレシアは目を閉じた。

 

「・・・ごめんね」

 

・・・それは誰に向けた言葉だっただろうか?

背後にかばうアリシアか?

それとも、巻き込んでしまったルビーやなのは、管理局の人間?

 

それとも・・・だが、次に来たのは肉に潜り込む刃の奏でる音ではなく、もっと大きな破砕音。

 

「え?」

 

思わず目を開いたプレシアに見えたのは、桃色と黄金の魔力光・・・どちらも見覚えがある。

特に黄金の魔力・・・あれは・・・やがて、魔力が消えると天井と床に大穴があいていた。

強力な砲撃が部屋を貫通したのだ。

床に開いた大穴から、黒と白の人影が飛び出して来る。

「フェイト?」

 

それになのはだ。

 

「ルビーちゃん!!」

『なのはちゃん?何でここに?危ないですよ?』

「そんな事はどうでもいいなの!!大丈夫だった!?ひどいことされてない!?」

 

さっきの砲撃の余波で、部屋の隅に飛ばされた鳥籠入りのルビーに気づいたなのはが駆けてゆく。

後にはフェイトとプレシアの二人が残った。

 

「・・・何をしに来たの?まさか助けに来たとは言わないでしょうね?」

 

フェイトの傍には、空間に投影されたままのスクリーンがある。

映っているのはこの場所だ。

そう言えば、ルビーとのやり取りを見せつけるために映像を送っていた事をやっと思い出した。

この城の構造を知るフェイトが砲撃を放ち、なのはがその威力を上乗せしたのだろう。

おまけに、砲撃がそのままこの場所までのショートカットになっている。

 

「そんなに私が憎かったの?放っておいても私は死んでいた。それを邪魔してまで私に恨みを晴らしたかったのかしら?」

「・・・違います」

 

フェイトの言葉から感情が感じられない。

 

「・・・貴女に言いたい事があって来ました」

「何かしら?時間がないから手短にね」

「私はアリシアじゃありません」

 

てっきり恨み言が来ると思っていたプレシアは見事に虚をつかれた。

 

「確かに母さんにとって私は人形でしかなかったかもしれません。ですが、私はあなたに生み出されて、あなたに育ててもらったあなたの娘です。あなたは否定しましたけど、私は覚えています。あなたの笑顔を、あなたの手の温もりを・・・あなたと過ごした穏やかな日々を・・・あなたが私を娘と思ってくれるのなら、私はあなたと共にあり続けます」

 

プレシアの見ている前で、フェイトが背を向けた。

視線の先には、無傷のシロウが立っている。

すでにバルディッシュからは金色の鎌が展開されていた。

 

「や、やめなさい。ジュエルシードの補助を受けても敵わなかった相手よ!?」

「たとえ誰が来ようと、どんな苦難が待とうと、あなたを守ります」

「一人で何ができるの!?」

「「「「一人じゃない!!」」」」

 

最後の返事はフェイトからの物ではなかった。

男の、しかも数人分の答えだった。

なのはとフェイトが出てきた穴から、人影が飛び出して来る。

クロノ、ユーノ、アルフを先頭にアースラの武装魔導師達に士郎と恭也に美由希までがいる。

 

「な、何故?・・・引き揚げたんじゃなかったの?」

「時空管理局執務官のクロノ・ハラオウンだ。プレシア・テスタロッサ、次元震は母さ・・・提督によって抑えられている。駆動炉にも人を向かわせた」

「そんな事が聞きたいんじゃないのよ!!何を考えているの!?」

 

プレシアが怒鳴るが、勢いのまま咳き込んでしまう。

吐き出された物には血が混じっていた。

 

「母さん!?」

「貴方達は何を考えているの?あれはジュエルシードの力を使っても歯が立たない相手なのよ?早く立ち去りなさい」

「・・・うるさい」

 

思いっきり、これでもかというくらいどすの利いた声がプレシアの口を塞がせる。

声の主はクロノだ。

 

・・・目が据わってプレシアを睨んでいる。

 

「お前はただそこで大人しく救われるのを待っていればいいんだ」

「な!?」

「お前の為に助けるんじゃない。どんな親でも親だ。それがいきなりいなくなれば、子供はどうしても傷つく、それが気に入らないだけだ」

 

・・・何という自己満足な話だろうか?

 

しかもそれ以上話す事など無いとばかりに、クロノは背を向けた。

 

「何と言うかクロノ君?」

「何ですか?高町士郎さん?」

「いろいろ吹っ切り過ぎじゃないのか?」

「それを促した貴方に言われたくありません」

「御尤も」

 

それを言われると苦笑しか出てこない。

でも悪い気はしない。

 

「ねえねえ恭ちゃん?クロノ君が何か男の子しているよ?」

「男子三日あわざればの良い見本だ。よく見とけばいい」

「やば、惚れそうかも・・・」

「おい・・・?」

 

この会話が元であと後いろいろあったりするのだが、それは未来の話だ。

重要なのは現在、全員が前を見れば、シロウが直立不動のままそこにいる。

全員油断はしていなかったとはいえ、何もしてこなかったのは・・・警戒していたというよりは敵かどうかの判断に迷っていたのだろう。

しかし、こちらが臨戦態勢をとった事で確実に敵と認識されたはずだ。

その判断ができれば、後は迷う理由など無い。

シロウは速やかにプレシアを“処理”しようとするだろう。

 

・・・ここに、絶望的にも思える戦いが始まった。

 

―――――――――――――――――

 

 

「撃て!!」

「「「「了解!!」」」」

 

クロノの号令の元、武装魔導師達が一斉にシロウに向けて砲撃魔法を放つ。

一人ひとりの能力は、なのはやフェイトに及ばないものの、それでも数人が束にはなったその威力は馬鹿に出来ない。

 

「・・・|熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)」

 

再び七枚の花弁が展開される。

クロノ達の砲撃は全てはじかれ、一枚も散らす事が出来ない。

かつて、同じでありながら異なる世界において、紅の弓兵は7枚の花弁の6枚までを打ち破られたが、持てる魔力を最後の一枚に注ぎ込んで蒼き槍兵の必殺の一撃を防ぎきった。

 

そして今の彼は・・・世界という常識はずれなバックアップを得る事により、7枚の花弁のすべての防御力が常識外の強度を持っている。

 

「それは、想定済みだ!!」

 

|熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)を回り込む形で右から士郎が、左から恭也が、そして|熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)を飛び越える形で美由希が奇襲をかけてきた。

三人とも十分に虚を突いているが、特に士郎と恭也は奥義・神速まで発動している。

 

「|投影開始(トレース・オン)」

 

迎え撃つシロウの両手に白と黒の中華剣が現れた。

御剣の剣士達の小太刀に似たスタイルだ。

 

「せい!!」

 

先陣は恭也が切った。

小太刀を殺すつもりで突き込む。

後がない、これで決めるつもりの一刀・・・士郎と美由希もタイミングをずらして仕掛ける。

恭也だけではない。

御剣の剣士達は、彼の魔力だけではない脅威を肌で感じていたのだ。

距離を取って魔法を放つのが基本スタイルの魔導師には、この男の危険性をぎりぎりの所で理解できていない。

 

「・・・・・・」

「な!?」

 

無言で、シロウは恭也の一撃を逸らしながらかわす。

その技量がとんでもない。

恭也の剣を一瞬で見抜く目と、それを実行に移せるだけの経験によって成り立つ美技だ。

 

「まだまだー!!」

 

頭上から降ってくる美由希に対して、シロウは躊躇なく二刀を投げつけた。

 

「っつきゃーーー!!」

 

流石に予想外だったようだ。

必死で小太刀を振るって白と黒の中華剣をはじき返すが、おかげで空中で体勢が崩れて地面に落下するが、ひらりと体を入れ替えて着地した。

 

「貰った!!」

 

最後に士郎が仕掛ける。

今のシロウの手に武器はない。

卑怯かもしれないが、相手は策を弄するに値する相手だ。

 

「くっつ、な!?」

 

しかし、気がつけば士郎の剣は受け止められていた。

投擲し、手から離れたはずの二刀がシロウの手の中にある。

 

「ぐっつ!!」

「親父!!」

 

理解できない状況に思考が停止した所にけりが来た。

とっさに盾にした小太刀を砕かれながら、空を飛ぶ士郎の体を恭也が受け止め、美由希共々離脱する。

 

「お前はそこにいろ!!」

 

追撃に駆けようとしたシロウの体に、バインドが巻きつく。

息を殺し、隙を窺っていたアルフだ。

 

「未だフェイト!!」

「アルカス・クルタス・エイギアス。煌めきたる天神よ。いま導きのもと降りきたれ。バルエル・ザルエル・ブラウゼル」

 

フェイトが呪文を詠唱していた。

その長さから、相当な大威力の魔法を使う気なのだろう。

事前に打ち合わせでもしてあったのか、クロノ達魔道師は士郎達を保護しつつ、全力でプロテクションを展開している。

 

「撃つは雷、響くは轟雷。アルカス・クルタス・エイギアス」

 

拘束の数が多すぎて、シロウもわずかに手間取っている。

だが、その短い時間でも呪文が完成するには十分だった。

 

「サンダー・フォール!!!」

 

上方、最初にあけた穴から見える空から、稲妻が降ってきた。

わずかに拘束の解除が間に合わなかったシロウが、神鳴りの一撃をまともに食らう。

至近と言っていい場所でそれを食らった一同はまとめてはじき飛ばされた。

防御魔法を使っていなければ、余波だけで命にかかわっていただろう。

 

「やったねフェイト!!」

 

アルフが喜びの声を上げるのを聞いて、全員がほっとする。

破壊によって巻き起こった粉塵によって見通せないが、一億ボルトの電圧を食らって無事な存在などありえまい。

 

「喜んでいる場合じゃないぞ、ここは危険だ」

 

クロノの言葉を証明するように、ホールの建材がぱらぱらと落ちてきた。

密閉された空間における爆風の破壊力とは容赦ない。

すでにかなりボロボロだったホールだが、ここまで来ると倒壊の危険性まで出てきた。

 

「しかも、虚数空間が穴をあけている」

 

ジュエルシードの魔力と、魔法使い同士の戦闘により、重力の穴が口を開けていた。

あらゆる魔法がキャンセルされる空間の中に落ちたら最後、飛行魔法も使えず重力の底まで落下し、二度と上がってこれない。

 

「プレシア・テスタロッサ、君にも一緒に来てもらう」

「・・・こんな状況では仕方がないわね」

I am the bone of my sword.(体は剣で出来ている)

「「「「「「な!?」」」」」」

 

全員が驚きの声を上げる。

 

Steel is my body, and fire is my blood.(血潮は鉄で 心は硝子)

 

聞き間違えではない。

ここにいる全員が、同時に幻聴を聞く可能性がない以上、この声は現実だ。

 

I have created over a thousand blades.(幾たびの戦場を越えて不敗)

 

「う・・・ウソだろ?」

 

それは誰の言葉だっただろうか?

あの魔法を食らって・・・それでも彼は粉塵の向こうで呪文を唱えている。

 

Unknown to Death. Nor known to Life.(ただの一度も敗走はなく、ただの一度も理解されない)

 

・・・何もかもが信じられない。

全員が・・・恐怖という感情を理解する。

ここにきてやっと自分達の甘さを自覚した。

レイジングハートから話を聞いていながら、それでもどこかで相手を過小評価していた。

 

Have withstood pain to create many weapons.(彼の者は常に独り 剣の丘で勝利に酔う)

 

非殺傷指定なんておこがましい。

最初から殺す気で行くべきだった。

 

Yet, those hands will never hold anything.(故に、生涯に意味はなく)

 

・・・それでも勝てたかどうかは未知だっただろう。

それでも、生き延びる可能性が多少なりとも上がったはずだ。

 

So as I pray, unlimited blade works.(その体は、きっと剣で出来ていた)

 

そして・・・絶望の呪文が完成する。

 

「な・・・んだと?」

 

それは全員の思いの代弁だった・・・気がつけば、自分達が立っているのは崩壊しかけたホールではない。

斜陽に染まる紅の丘の上だ。

大地は干からび、生き物の代わりに剣が乱立している死の世界。

空には鋼鉄の歯車が回っている。

 

・・・言葉にしなくてもわかる事がある。

ここは・・・この世界はあの男の作り出した世界なのだ。

 

「・・・|無限の(アンリミテッド)・・・|剣製(ブレイド・ワークス)」

 

それがこの世界の名前なのだと、シロウの言葉を受け取った全員が理解した。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

見渡す限り、果てのない荒野だった。

動くものの姿は何一つとして見えない。

この世界には生き物の息吹が感じられなかった。

代わりに剣がある。

幾百、幾千・・・いや、そんな単位では数えきれない無数の剣が、主無きまま地面につき立ち、朽ちるのを待っている。

それなのに、まだ足りないと言わんばかりに空に浮かぶ歯車は回り続け、剣を作り続けていた。

 

「な、何・・・これは?」

 

唯一、ルビーを助けるためにクロノ達と離れていたため、シロウに敵と認識されていなかったなのはは、その光景に、恐怖よりも悲しさを感じた。

自分にも覚えがある孤独という感情をこの世界から感じる。

 

『これが、魔法に最も近いと言われる魔術、本来なら死徒27祖等の人外の御技・・・固有結界です』

「固有結界?」

『これはシロウさんの心象風景、《|無限の剣製(アンリミテッド・ブレイド・ワークス)》です』

「これが・・・あの人の心なの?」

 

丘の上、世界の中心には紅の騎士がいる。

その姿は確かにこの世界の王だった。

しかし裸の王様だ。

 

臣下はいない。

妃もいない。

誰もいないこの場所で、ただ冷たい鉄を打ち続ける孤独の王・・・。

 

「ルビーちゃん、胸が苦しいよ。なんで?」

 

彼を見ていると、なのはは胸が締め付けられるような圧迫感を感じる。

危険なはずの彼に今すぐ駆け寄って、思いっきり抱きしめてあげたくなる。

 

『・・・シロウさんは、心で泣きながら世界を救っているんです。殺す事でしか世界を救う方法を知らない人なんです』

「そんな・・・」

 

そんなのは納得できないとなのはは思った。

あれは悲しい魂だ。

この世界の有りようがそれを示している。

 

「ルビーちゃん、あの人はどうしたら救われるの?救ってあげられるの?」

『それは・・・』

「ルビーちゃんが本気になれば助けられる?」

 

会話が途切れた。

ルビーがレイジングハートに向き直る。

 

『・・・レイジングハート?話しちゃったんですか?』

 

ルビーはなのはの言いたい事、そしてそれを誰がなのはに伝えたのか・・・正確な所を察した。

 

『すいません姉さん』

『いいえ〜いいんですよ。いずれはこの時が来ると思っていましたぁ〜それが今日この時だったというだけです・・・思ったよりも早かったですけどね』

『・・・すいません』

 

ルビーに良いと言われたとか、そう言う問題ではない。

 

「ルビーちゃんが本気を出せば何とかできるんだよね?お願い!」

『・・・なのはちゃん』

「私頑張るから、だから・・・」

 

なのはの目が潤んでいる。

シロウの孤独に感化されているのか?

 

『・・・はなのはちゃんにお願いがあります』

 

ルビーの声は落ち着いていて静かだった。

 

「何?なのはは何をすればいいの?」

『何時も通りのなのはちゃんでいてください』

「え?」

『そして、できればシロウさんの涙を止めてあげてください』

「え?」

『ではいっきますよ〜我はカレイド・ステッキ第二魔法を導くもの』

 

ルビーが呪文を唱え始めた。

良く通る澄んだ声だ。

 

『創造主キシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグの名の下に、継承者、高町なのはの証をここに打ち立てん!!」

 

ルビーが、今までにない強烈な光を発し・・・第二魔法の真の力を具現化させる。

 

―――――――――――――

 

状況は誰の目から見ても絶望的だった。

クロノ達を中心に、半球状に包囲陣を敷いている剣、槍、戦斧・・・刃の煌き達。

 

『クロノ君、逃げて!!』

「出来れば・・・やっている」

 

エイミィの悲鳴混じりの通信に応える声が震えていた。

逃げろというくらいだから、アースラの方で自分達を転送する事は絶望的なのだろう。

技術的なものか、それとも間に合わないからなのかは分からないが、どっちらにしても大差ない。

 

「・・・母さん」

「フェイト・・・本当に馬鹿な子」

 

円陣の中心にはフェイトとプレシアがいる。

一人は明らかな病人、もう一人はまだ子供だ。

大人の、年長者のプライドとして前に出すわけにはいかない。

 

「プレシア、あんたって奴は!!」

「アルフさん落ち着いて!!」

「ふん、フェイトだけは絶対私が守るから・・・」

「大丈夫、大丈夫だよ」

 

二人を守る様に、アルフと美由希が傍に控えている。

 

「クロノ君、君も下がりなさい」

「いいえ、高町士郎さん。お気遣いなく」

 

隣に並んでいる士郎の言葉を、クロノはやんわり断った。

 

『クロノ、今そこに行くわ!』

「来ないでくれ、母さん」

『でも!!そんなのダメよ!!貴方まで私を置いて行くの!?』

「息子からのお願いだよ」

 

最後のと・・・それ以上の言葉はなかった。

リンディの嗚咽が、その感情とともに伝わってくる。

 

「やばい、恭ちゃん。クロノ君がカッコイイ!」

「美由希、お前こんな時に・・・」

「開き直ってるだけだよ。それにしても14歳か〜」

「いいから下がってろ・・・ってマジで?」

 

美由希と恭也を無視して、士郎とクロノは揃って正面、自分を見る紅の騎士を見る。

視線が交差するが、やはり彼の感情はなにも感じられない。

殺気すらないのだ。

 

これが・・・本当の殺戮兵器の姿というのか?

 

「・・・・・・」

 

シロウが無言で片手を上げる。

空中にある全ての刃物がぎらりと輝いた。

 

「全員プロテクション展開!!」

 

魔導師達が全力でプロテクションを展開する。

白い輝く魔法陣は、しかし自分達を狙っている刃の輝きの前では蝋燭の明かりにも等しく感じる。

 

「・・・・・・」

「来るぞ!!」

 

やはり無言で、殺意なき号令が下された。

殺到する武器は獲物に向かってゆく蟻の群れのように、すべてを飲み込もうと襲いかかった。

 

「・・・プロテクション」

 

何の前触れもなく、たった一言で強大な魔法が発動した。

 

「な!?」

 

覚悟を決めていたクロノ達を守る様に、桃色のプロテクションが展開された。

しかも一枚だけじゃない。

クロノ達を半球状に囲むように何枚も、しかもクロノ達を狙っていた武器を受け止め、完全に防いでいる。

金属同士のぶつかる音、擦れる甲高い音が連続して響いた。

 

「だ・・・れだ?」

 

武器を防ぎきったプロテクションが消えると、全員がその人物の存在に気がついた。

何時の間にか、自分達と紅の騎士の間に誰かが立っている。

見覚えのない背中だ。

ロングの茶髪をツインテールにした・・・多分女性、歳は背恰好から20くらいだろうか?

何所か見覚えのある白いバリアジャケットを着ていた。

 

「・・・なのはか?」

「え?」

 

聞き間違いかと、思わずクロノが隣を見れば、唖然としている士郎がいる。

 

「あれが高町?そんなはずはないでしょう?」

 

なのはは8歳の女の子だ。

対してあの女性は20歳前後、倍以上も歳が違う。

そんな見間違いなどありえない。

 

「いや、俺もそう思うんだけど・・・」

 

士郎も確信がないようだ。

何故そう思ったのか、本人も理解できていないように見える。

 

「え、あ・・・ちょっと、あれ見て」

「ん?」

 

美由希が指さしたのは、背を向けている女性の右手・・・そこに握られているのは・・・。

 

「「「「「ルビー(ちゃん)!!!」」」」」

 

しかも、反対の手には待機状態のレイジングハートが見えた。

 

「ほ、本当になのはなのか?」

 

恭也の疑問は当然だろう。

妹がいきなり大人の女性に成長してしまえば、取り乱さない方がおかしかった。

 

「・・・ルビーちゃん、レイジングハート?」

 

おそらくなのはであろう女性は、手に持っていたルビーとレイジングハートを近づける。

その声は、間違いなく聞き慣れたなのはの物だ。

 

『『御心のままに、マイマスター』』

 

二人の声が重なって答えた。

ルビーを中心に、レイジングハートが部品を展開する。

金属製のパーツが、ルビーとレイジングハートの本体をつなぎ、形を作って行く。

瞬きほどの時間のうちに完成したそれは、なのはの背丈より長い杖だった。

 

「バリアジャケット、展開」

 

杖から漏れたのは七色の光、なのはの体を繭のように包みこみ、それが弾けるとなのはは新たなバリアジャケットを纏っていた。

黒いインナーに白と赤を基調にした外套を羽織り、手甲や脚甲など、所々に装甲を配置してある。

左手にはルビーとレイジングハートが融合した杖を構えている姿は神秘的だった。

 

「・・・“魔法術式”の一」

 

なのはが杖を構える。

 

「|殲滅の祭り(ジェノサイド・カーニバル)」

 

次の瞬間、視界が桃色の閃光で埋め尽くされた。

 

 

説明
リリカルなのはに、Fateのある者、物?がやってきます。 自重?ははは、何を言ってるんだい?あいつの辞書にそんなものあるわけないだろう?だって奴は・・・。 ネタ多し、むしろネタばかり、基本ギャグ
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