リリカルとマジカルの全力全壊  A,s編 第二話 Family
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「ふふ〜ん♪」

 その日、八神はやては朝から上機嫌だった。

 両親を事故で亡くして数年、仕事の忙しい、会ったこともない叔父に我儘を言うのも気がひけた去年のはやては、自分の家で一人で自分の誕生日を祝った。

フェイトとアリシアという新しい友人まで出来た今年の誕生日の事は、きっと忘れないだろうとはやては思う。

特にフェイトはからかうと実にいいリアクションを返してくれるので、弄りがいがあるなーとなかなかに外道な事を考えつつ、満ち足りた気分で自宅玄関の鍵を開け、ノブをひねった。

「たっだいまー」

「おかえりなさいませ、主様」

「え?」

 独り暮らしをしているため、メイド喫茶のような返事が返ってくるなど思いもしていなかった事と、狭い玄関に揃って片膝をついている四人を見たはやての思考は停止した。

 

―――――――――――――――――――――――

 

 あ、ありのまま今起こった事を言うで?

 なのはちゃんの気持ちをほんのちょっぴりだが、体験した。い、いや…体験したというよりは、全く理解を超えてたんやけどな…皆に誕生日を祝ってもろうて、なのはちゃんをさんざんからかってお泊まりした翌日、プレゼントと花束を持ってほくほくと帰宅したら、いきなりご主人様になってしもうた。

 な、何を言ってるか分からんと思うけど、わたしも訳が分からんかった。

 何時の間にわたしはなのはちゃんと同類になり下がっていたか!?と頭がどうにかなりそうやった。

「ど、どちらさんでしょう?」

「闇の書の起動を確認しました」

「我等、闇の書の蒐集を行い、主を守る守護騎士にございます」

「夜天の主の下に集いし雲」

「ヴォルケンリッター、何なりと命令を」

 しかも、言っとる事が欠片も理解できんかった。

 コミュニケーション不足とかサプライズドッキリとか、そんなチャチなもんじゃ断じてない!!もっと恐ろしいもんの片鱗を味わったわ!!

「……」

 わたしは少し考えて、自分の中にあるライフカードから一枚をドローする。

 引いたカードは携帯電話や!!

「とりあえず通報やね」

 すかさず110番とのコンボ発動!!

「もしもし、警察ですか?今家に見つめて猫目な格好の怪盗さん+1がおるんです」 

「「「「ちょっと待ったーーーーー!!」」」」

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

「…何でこんな事になったんやろ?」っと口に出してみれば、(ははっさっぱりわからない)っと脳内の|自分(はやて)が某地動説的な大学教授風に返してきた。

「も、申し訳ありません、主!!」

 そして唯一事情を説明してくれそうな4人はそろって目の前で土下座中、平に平にってそのまま二次元の住人になってしまうのではないだろうか?

「あ〜謝るのはええから、これ解いてくれます?」

 はやての現状は、居間のソファーに座らせられている…光る縄のようなものに拘束された状態でだ。

 自分の留守中に勝手に家に入られ(住居不法侵入)、帰宅したはやてとご対面(現行犯)、そんでもって警察を呼ぼうとしたら、光る縄のようなもんで縛られた(監禁罪)時には本気で貞操の危機まで感じた(強姦未遂?ビミョー)…これだけされたのだから、怒っても文句は言われないと思うし、はやて自身そこまで人間が出来ていないと思う…のだが、どうにもはやては怒る気になれない。

 頭が、自分の身に起こっている事について来れていないのか、あるいは謝り倒している四人の姿に怒りを湧きあがらせる前に、哀れを感じているのかのどっちかだろう。

「すいません」

 光の縄…後で聞いてバインドと言う事を知った…が砕けるようにして消えた。

「それで、説明してもらえるんですか?」

 どうもこの不法侵入者達は自分を傷つける気はないらしいが、事情を聞くまでは油断できない。

「だって、出て来たら主いなかったし…」

「ヴィータ!!無礼な口を叩くな!!」

 赤い髪の幼女がふてくされ気味の顔で憎まれ口らしきものを叩いたのを、ポニーテールの女性に怒鳴りつけられた。小さい方がヴィータと言うらしい。

「失礼しました主、私はヴォルケンリッターの将、シグナムです」

「シャマルと申します」

「守護獣、ザフィーラ」

「…ヴィータです」

「八神はやてです」

 なんとか自己紹介は完了した。

「主って私の事よね、どう言う事なん?」

 なのでここからが本番だ。

「闇の書?」

「はい」

 一通りの説明を聞いたはやてが受け取ったのは、見覚えがありまくる一冊の本だった。

 何時の頃からか覚えていないが、自分の傍にあった正体不明の本、何故か頑丈な鎖に巻かれていてなんとか開けようとチャレンジした回数数知れず、そのすべてに失敗して、それでも何故か捨てる気になれなくて棚に飾っていた本だ。

 なんでも、この本は本では無くデバイスと言うものらしい。

 返された本には、あの頑丈な鎖がなくなっていた。

 今では普通にページを開く事が出来るが、そこには何も書かれていない白紙のページがあるだけだ。

 シグナムの話を信じるならば、魔力をこの闇の書が吸収する度、白紙のページはうまって行くらしい。

「はあ、魔導師か…」

 確かにはやては本が好きだ。本が大好きだ。

 ファンタジーが好きだ。

 恋愛小説が好きだ。

 叙事詩が好きだ。

 ゲームが好きだ。

 アニメが好きだ。

 そしてちょっぴりボーイズ系にも興味がある。

 図書館で、病院の待ち時間で、ネットで、書籍で…長くなりそうだからこの辺りで切るが、まあ要するにそう言う事だ。

 だから魔法だって興味がある…いや、魔法に関しては、とある事情からより興味があるのだが、それらはフィクションだから純粋に楽しめるのであって、実際に自分がその渦中に放り込まれた時には反応に困るというものだろう。

 残念なことにこれは夢では無いし、何よりさっきまで自分を拘束していたバインドという物の事を思えば信じるしかない。自分の目で見て、触って感触を感じて確かめた物を否定する事は、現実主義者ではなく妄想狂のそれなのだ。

 何より、あんな事が出来るような人間が、自分をだまして何の得があるのだろう?実際にそう言う裏の理由があったとしても、はやてにそれを知るすべがない以上は意味がない。

「そんでわたしがこの本の主になってしもうたと?」

「はい、我等ヴォルケンリッターは、主様の僕です。いかなるご命令にも従う所存」

「……え?」

 つまり、彼等は八神はやての物だと?

 シグナムやシャマルの胸も?

 ザフィーラの厚い胸板も?

 ヴィータは…残念…だけど小さくて可愛いから許す!!

「あ、あの主?」

「ウェヘヘ・・・って何?」

「あの…何か身の危険を感じたのですが…」

 何故4人とも腰が引けているのだろうか?

「き、気のせいや!!」

「そ、そうですか?」

 絶望したーーー!!

 はやては自分のオッパイ星人ぶりに絶望したーーー!!

 あと、男の胸に興味を持ったのはちょっと安心した。これで何とか女に走る未来は回避できそうだ。

「で、では早速蒐集に…」

 そして、一番頭が痛いのはこれだったりする。

 はやての手の中にある闇の書と言う物は、他人のリンカーコアから魔力を蒐集する事で完成に近づき、666ページの全てを埋めた時に、強大な力が持ち主…はやてにもたらされるらしいのだが…。

「そ、それはあかんよ」

「な、何故です?」

「むしろ何でそこで疑問が返ってくるんや?」

 良いわけがない。

 むしろ何処に良い所があるのだろうか?

 人を襲うという所からしてまず問題だし、魔力を吸い取る量が多ければ相手が死んでしまう場合すらあるという。

「人様に迷惑かけてまで力が欲しいとは思わん!」

 八神はやてと言う少女は、それは確かに笑いを取りに体を張るし、オッパイ星人だが、根はやさしい子である。

 犯罪を良しとしない一本筋の通った女の子なのだ。

 いつもの犯罪っぽい行動と言動は、あれは確信犯である。

「ふはは、そうやろうそうやろう、ただの変態さんやないんやでーー!!存分に見直すがええ!!」…だからといって、許されると思ったら大間違いではある。

 しかもはしゃぎすぎだ…出る杭は打たれるもんだと言うのに…。

「お?言うたな?言うてしまったな?そんならわたしは「本当の杭は打たれても尚出るもんだ」と言うで?これでわたしもシェリルさんやランカちゃんの仲間入りや!!」

 銀河つながりでそこまで言うとは、それに少年ではなく少女だろう?

「こまけーことはいいんや。若さっちゅーのは振り返らん事らしいで?」

 ダウト、それは宇宙刑事であって銀河では無い。

「あ、主?何を言っておられるのか分からないのですが、一体誰と話しているのです?」

「ん?…あれ?なんでやろ?何か言わなきゃあかんような衝動でつい、”また”妙なところとチャンネルがつながってしまったようや。ベントラーベントラー」

「また…初めてでは無いのですか?」

 テヘッとか舌を出されても困る。

 そろそろ人間の枠を超え始めたはやてだった。

 今の彼女の設定はどうなっているのだろう?キャラシートの備考の欄がとっても気になる。

「は、話を戻してよろしいでしょうか、主?」

「うん?ああ、どうぞどうぞ」

 シグナムがそれでも話を続けようとする。

 他の三人はまだ立ち直れていないというのに…すごいぞ烈火の将、さすがは烈火の将、君こそヴォルケンリッターの将だ!!

「…私達は主の為、闇の書完成の為に…闇の書に登録されたプログラムです」

「関係ない…そんならわたしがあんたたちに新しい役目を与えてあげるわ!!」

「あ、新しい役目ですか?」

「そうや、皆で家族になろう」

「「「「え?」」」」

 はやてのこの一言に対して、シグナムだけでなく四人全員が驚きの声を上げた。

「これは主としての命令や。少なくともわたしが主のうちはこの家で一緒にまったりゆっくり過ごしてもらう。安心してええで、主として衣食住はきっちり面倒見るさかい」

 薄い胸を張って言い切るはやてに、四人はそろって茫然とするしかない。

 多分ではあるが、歴代闇の書の主でこんな事を言いだした前例はないのだろう。

「そしてヴィータちゃん!?」

「は、はい!?」

「特にあんたは妹になって貰うから!!」

「い、妹!?」

「べたべたに甘やかすから夜露死苦!!」

 完全に暴走している。

 4人が、目を丸くして珍獣を見ているような顔になっているのには気が付いていないのか?

「あ、あの…主?」

「いややな〜おねえちゃんって呼んでええんよ?」

 完全に振り切っている。

 何時の間にアクセルフォームになっていた?

「そんでなこの世界に慣れて、家族になったら、わたしの友達に皆を家族やって紹介するからそのつもりでおってなーーー!」

 本当なら、嬉々として即座にみんなに紹介したい所だろうが、問題ははやてが彼等を“家族”として紹介したいという事だ。

 両親を亡くしてから、ずっと家族と言う物に飢えていたはやてが、自分の言うなりになるコマより、家族と言う存在を求めるのはある意味で当然でもあった。

 そして、はやては賢い子だ。家族と言う絆が一朝一夕で出来るものでは無い事も知っている。

 いくらはやてが主と言っても…いや、主だからと言って家族になる事を強制するのは話が違う。今のはやて達が家族を名乗っても、それはお遊戯会の劇と同じだ。そんな物を、友人達には見せたくないし、何よりはやてがそんな物では満足できない。

 時間がいるのだ…同時にやはり自分の誕生会でフェイトとアリシアという二人も新しい友人が出来たことがとても嬉しく、その余韻を引きずりまくっていたのだろう。

 自分も同じように“特別な日に自分の新しい家族”を紹介したいと思うのは、ある意味当然の発想だったのかもしれない。残念な事に、自分の誕生日と言うイベントには手遅れだが…

「決戦はクリスマスや!!」

 当日が金曜日かどうかはカレンダーを見なければ分からないが、クリスマスまでは大分時間がある。それだけあれば、彼等がこの世界に慣れるのにも、家族としての絆を作るのにも十分だろう。はやてもそれまで色々頑張るつもりだし、それに一応クリスマスだって誕生日だ。…イエス・キリストのだけれど…。

「ん?あれ、っちゅー事はあの魔女っ子も魔導師なんかな?」

「「「「は?」」」」

 いきなり話が飛んだ上に、どうにも聞き捨てならない言葉を聞いて、四人が反応した。

「主はやて、この世界に魔導師がいるのですか?」

「ああ、たぶんやけど、この街には魔法を使える子がおるよ。魔導師やなくて魔女っ子やけどな、その辺りは良く分からんけど」

「魔女っ子?」

 シグナム達は互いに顔を見合わせる。 

「シャマル?この世界には、魔法文明はないはずではなかったのか?」

「そのはずだけど…」

「でもさ、魔女っ子ってなんだよ?魔導師じゃないのか?」

「子と言うあたりから子供だからなのではないか?」

 どうも、ヴォルケンリッター達だけでは答えが出そうにない。

 意を決したシグナムがはやてを見る。

「主はやて、その魔女っ子と言うのは魔導師と何が違うのでしょうか?」

「ふむ、説明が難しいなー、具体的にはこんな感じ?」

 はやてはテレビのリモコンを手に取り、スイッチを入れる。

 画面に現れたのは、スーパーヒーロータイムの文字…97管理外世界と呼ばれるこの世界の、しかも小さな島国における日曜朝のお約束があんな大事件に発展するとは…この時は誰も予想さえしていなかった。

 

―――――――――――――――――――――――――――

 

時空管理局、ミッドチルダ本部にその男の執務室は存在する。

部屋の主の名はギル・グレアム、時空管理局の中でも、歴戦の勇士と呼ばれる男だ。

「「…お父様」」

「リーゼにアリアか…」

 部屋の扉が開き、よく似た二人の女性が入ってくる。

 猫の耳としっぽを持つ彼女達は、リーゼ・アリアとリーゼ・ロッテ、グレアムの娘のような猫の使い魔だ。

「闇の書の起動を確認しました」

「……そうか、始まったか」

 返答までのわずかな沈黙に、その短い言葉の中にどんな感情が渦巻いていたかは本人以外に知り得ない。

「すいません、半月前には起動していたようです」

「気にしなくていい。この程度の誤差なら修正は可能だろう」

 グレアムに報告が遅れた事を責める気はない。

 あの世界…特にはやての傍に接近することが困難な状況になっているのだ。

 無理にはやての動向を探ろうとして、“あの杖”に痛い腹を探られてはかなわない。

 なによりあの杖の事を考えるだけで、リーゼとロッテがしばらく使い物にならなくなる。

 前回、二人は何とか逃げる事が出来た物の、二度目もうまくいくとは限らない…今はまだ自分達の目的を知られるわけにはいかない。

 そのために、あの杖が本部に来る事も強権を行使して阻止したのだ。実に忌々しい。

「被害が出たという報告は来ていないが…連中は蒐集を始めたのかな?半月ほど前からと言うのなら、まださほどページは埋まっていないだろう?」

「はい…しかし…」

「ん?」

 報告の歯切れが悪い事に気が付き、グレアムは自分の使い魔である女性を見る。

「どうかしたのかね?何か問題でも?」

「それが…ヴォルケンリッター達は確かに蒐集を始めているのですが」

「それの何が問題なんだ?」

「…良い事をしています」

「………何?」

 たっぷりためを作ってから出てきた言葉は疑問符だった。

 鳩が豆鉄砲を食らったような顔と言うのは、今のグレアムのようなものを指す言葉だろう。

「ですから、ヴォルケンリッターがいい事をしています」

「どう言う事なんだそれは!?」

「具体的には、次元世界を飛び回ってトラブルを解決してまわったり、悪人を見つけては捕まえたりしているという事です」

「な、なんでそんな事を…」

 すでにこの時点で理解不能らしい。

「それとですね、お父様?」

「ま、まだ何かあるのか?」

「その…ヴォルケンリッターが襲撃した違法研究施設に関してなんですが…」

「それが?」

「いくつかに関しては、時空管理局が関係している証拠が出てきているみたいで」

「何ーーーーーーーーー!?」

 青天の霹靂と言うのはこう言う事を言うのだろう。

 巨大組織を形成するに当たり、その全てが清廉潔白と言う事は“絶対”あり得ない。

 グレアム自身は関わってはいないが、そう言うものが存在するかもしれないという噂程度は聞いた事があるし、必要悪と言う言葉だって勿論知っている。

 それに関しては他でもないグレアムが誰よりもその必要性を感じているのだから…しかし、それはそれでこれはこれだ。必要悪と言う物は、必要ではあっても決して表に出てはいけない。秘密にしておかなければならない物だ。表に出てしまえば、時空管理局の正義は色褪せ、言葉に重みがなくなる。

「その間、関係していた次元犯罪者や、研究員から蒐集しているようですね、しばらく動けないように処置したようで死者は出ていません…ただ、数自体が少ないのであまり進んではいないようですが、一応蒐集は行っているようですので八神はやてに限界が訪れるのも大分先になると思い…ってお父様―――!!」

 気がつけば、グレアムが倒れていた。

 分類すれば老人のカテゴリーに片足突っ込んでいる男だ。急な血圧上昇や興奮が良いわけがない。

 この件を機に、時空管理局は内部正常化の風が吹き…っと言うか荒れ狂い。上層部のかなりの頭数がすげかえられる大混乱に陥る事になった。

 ちなみに、なんでこんな事になったのかと言えば…仮面のドライバー的な人や、怪人とロボット的な物を持ちだしてきて戦う大体五人組な連中や、本命の魔女っ子的な物を見たヴォルケンリッターの皆さん…何か騎士として、地球とか人間とかを守ってた戦う戦士と言う設定にやたらと感じ入る部分があったらしく、妙な物に目覚めたらしい。

 一番食いついていたのがヴィータなのは言うまでもないが、そんでもって…他人に迷惑をかけるのはいけない→ならテレビのように悪者相手なら良くない?→「う〜ん、それならいいんやない。せっかくの魔法を全然使わんと言うのももったいないしなー。おいしいの作ってまっとるから、皆夕食までには帰ってくるんやでー?」→レッツゴーヴォルケンリッター………っという単純図式だったのだが、この事件の全容が発覚するのはここから半年後の話だ。

 話を聞いて、事件に関わりがある者もなかった者も、そして裁かれた者も含めて全員が白く固まったのは言うまでもない事だった。

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

『…そう言うわけなんだ』

「た、大変そうだね」

 レイジングハート経由で連絡を入れてきたクロノに、なのははそれ以外にかける事が出来る言葉を思いつかなかった。

 空間に表示されたモニターに映るクロノはげっそりとやつれていて、目の下にアイシャドウのような真っ黒い隈が出来ている。今の彼がどれほど激務の中にあるのかがうかがえるというものだ。

 なんでも、大量に職員が退職届を提出した為に、単純に手数が足りないらしい。

『上層部が芋蔓式に首が飛んでね、5日ほど寝ていないんだ』

 時空管理局の醜聞だろうに、言葉を飾る余力すらなくしているのが哀れだ。

 クロノの後方で、崩れ落ちてできたっぽい書類の山から辛うじて見える手はリンディとエイミィの手に見える…二本ともやたら白く見えるのだが…生きているのだろうな?

『まったくあの豚ドモメふんぞり返ってろくでもない事やらかしやがる。予算からこっそり裏金作ってそっちにまわしてやがったもんだから追跡調査にどれだけ手間がかかると思ってやがるのかとおもいはべりいまそかり大体気に入らなかったんだよあん畜生ども…』

「く、クロノ君!息継ぎして、酸欠になっちゃうよ!!句読点なしにしゃべるのはやめて!!」

 クロノもずいぶんと色々図太くなっているようだ。

 ちょっと暗黒面に落ちかけているかもしれないが、ダース・ベイダー卿にならないことを祈ろう。

『…話を戻そう』

「そだね」

『そんなわけでというか、おかげでプレシア・テスタロッサが昔起こしたとされている事故についても、再調査する必要が出てきた。彼女は研究の危険性を訴えていたのだが、上層部が強行、研究チームのリーダーだったとはいえ、一研究員だった彼女は逆らえなかったらしい」

「そう…なんだ」

 大人の事情を、子供であるなのはが理解する事は難しくはあるが、それでも真剣に聞く。

 怒りを感じないわけではないが、すでに終わった事で未来は変えられない。

 事故が起こってアリシアが死んだことも、それによってプレシアが罪を犯してしまった事も…変える事が出来るのは何時だって現在であり、変える資格を持つのはその場にいた人間だ。

「無罪…とはいかないだろうが、裁判で情状が酌量されれば場合によっては減刑になるかもしれない。フェイトとアリシアにそう伝えてほしい』

「それはいいニュースだね」

 本当にいいニュースだ。

 確かにプレシアは許されざる事をしようとしていたが、それはひとえに愛ゆえだ。

 子を思う母親の思いは、裁判官の人達にも汲み取ってほしいとおもう。

『そう言うわけで…『クロノ〜追加の書類を持って来たよ』………』

 モニターに映るクロノの背後で自動扉が開き、ユーノがコンテナに書類を山盛りにしてはいって来た。

 プレシアの事件が終わって、引き取られて行ったのだが、まだアースラに乗っていたらしい。

『……ガハ!!』

「にゃーーーー!!」

 クロノが無表情になり、盛大に吐血したのを見たなのはが恐怖で悲鳴を上げる。

 まあ、この世界はきっと、ギャグとご都合主義で出来ていた…ような気がするから死にはすまい。

 ただのスプラッター映画の一幕…っとか思っていたら、モニターがブラックアウトしてやたらと和む自然風景が現れた。

 しかもど真ん中には《少々お待ち下さい》の文字がでかでかと…こういうのは魔法も科学も変わらないらしい。

『うっがぁぁぁぁ!!イタチモドキーーー!!お前僕になんか恨みでもあるのか!?』

『え?ええ!?僕はただ頼まれて書類を持ってきただけだよ!?』

 でも音声だけは通じているようだ。

 クロノとユーノの声がばっちり聞こえる。

『そんなもんお前が処理しろ!!』

『無茶言わないでよ、これ全部執務官の決裁が必要なんだよ!?』

 あのクロノが壊れている。

 普通のクロノならもっと理性的に話すし、自分の仕事を他の人間、しかも一般人に丸投げしようとはしないはずだ。

 いろいろあり過ぎて心が荒み、頭のねじが数本飛んでいるのだろう。

『うふふ〜ユーノ君〜』

『リ、リンディ提督!?』

 聞き間違いでなくリンディの声だった。

 こっちはまるで幽霊のようで、夜道で後ろから声をかけられたら確実に心臓が止まる。

 声だけなのがむしろまずかった。むやみやたらと想像力がかきたてられる。

『何でユーノ君は半ズボンなのかしら〜』

『あ、やめてーー!!ズボンを脱がそうとしないでーーー!!』

『スカートをはいて男の娘になりましょ〜きっと似合うから〜』

『ひぃぃぃぃぃ!!エイミィさん、羽交い締めにしないでーー!!引き込まないでーーー!!』

 癒し系の映像は変わらない。

 それだけに、ユーノの悲鳴が想像力をかきたてる。

『『『さあ、さあさあさあ!!』』』

『たすけてなのはーー!!』

 ユーノの断末魔っぽい叫びは…聞かなかった事にしよう。

 多分大丈夫だろうと、最後までは怖くて聞いていられなかったなのはがモニターを消す。

「か、管理局は怖い所なの…」

 色々と否定できないが、怖いの意味がちょっと違うかもしれない。

 ユーノの人生に幸あれ。

「それにしても、次元世界を超えて人助けをする人がいるなんて…」

 なのはも似たような事をしてはいるが、あくまで海鳴と言う町限定だ。

 クロノの話にあった謎の正義の味方は次元世界をまたにかけてやっているらしい。レベルが違うがなにより…。

「ルビーちゃんと似たようなこと考える人がいるんだね〜」

 そこがちょっと気になる。

 一体どんな人がやっているのだろうか?

『……』

「あれ、ルビーちゃん?」

『パクられたーーーー!!ルビーちゃんの壮大な野望がパクられちゃいましたよーーー!!オノレーーー!!』

「パクられたって…」

 別に正義の味方はなのはとルビーの専売特許でもない。……実行犯達が、そもそも自分達の行動をマネしてこんな大事件をやらかしたなどとは、当然二人が思いつくわけもないわけで…。

『どこの誰だか知りませんが、ルビーちゃんに挑戦しようなんて、受けて立ちますよ!!』

 まさか本当に月光仮面じゃあるまいな?

どちらにしろ、ルビーに目を付けられた名前も知らない誰かさんにご愁傷様。良い事をしたのに、面倒な奴に目をつけられたものだと冥福を祈っておく。

 祈るだけならタダだ。

『って言うか主人公なのに出番少な過ぎませんか!?』

「ルビーちゃんが何を言っているか分からないの」

 人間はみな、自分の人生と言う名の舞台の主役である。

『納得が行きませんよーーー!!』

 知ったこっちゃねーのである。

 黙って終われ…もとい、つづけ。

 

説明
リリカルなのはに、Fateのある者、物?がやってきます。 自重?ははは、何を言ってるんだい?あいつの辞書にそんなものあるわけないだろう?だって奴は・・・。 ネタ多し、むしろネタばかり、基本ギャグ
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