リリカルとマジカルの全力全壊 A,s編 第五話 Concentration
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『襲われたってどう言う事!?』

「にゃう…」

 空間投影されたモニターから響いたユーノの声の大きさに、なのはがうめく。

「ユ〜ノく〜ん、声大きい。もっと押さえて」

『あ、ご、ごめん』

 素直に心配してくれるユーノに、そっけない言葉を返してしまって悪いとは思うのだが、今のなのはにはとりあえず余裕がない。

「私こそごめんね、でもとっても眠いの…」

 昨日と言うか、すでに今朝の話になるのだが、深夜にあれだけの戦闘エトセトラをやらかせば、10歳にもならない子供に夜更かしがどれだけ困難か?と言う話になる。

 何とかルビーとレイジングハート、そしてバルディッシュに記録している三人のヴォルケンリッターの映像と名前、音声データを管理局のクロノ達に送る事は出来た物の、その後はベッドにバタンキューしたのが大体一時間前である。

 やっと寝入れたと思ったら、レイジングハートを介した通信が返ってきて叩き起こされたのだから、不機嫌どころか切れても文句は言われないと思う。

 すでに、耳の大きなネズミさんのいない夢の国が手招きしているし、脳内電飾パレードはゴール近くまで来ている。

「心配してくれてありがとね、ユーノ君」

『と、当然だよ!』

 えへへと笑うなのはに、モニターの向うのユーノが真っ赤になるが、すでに攻略済みのフラグ立てが終わっているユーノの好感度は最初からMAXなのであまり変わらない。

「う〜ん…そう言えばリンディさんとクロノ君は?」

 送ったメールの内容が内容だけに、真っ先に返信してくるのはあの二人のどちらかだろうと思っていたのだが…。

『…リンディさん達は、今修羅場の真っただ中なんだ』

「修羅場?」

『管理局の仕事は何とか目処がたったんだけど、今度はグレアム提督の指令でその原因になった人達の事を調べなくちゃならなくって…』

 聞き覚えがある名前が出てきたなと思ったら、ルビーが管理局に持って行かれそうになった時に反対してくれた人だ。

 おかげで余計な面倒に巻き込まれなくて済んだし、あの混乱の中でルビーの鎖が解き放たれでもしたら、本当に管理局の崩壊もありえたかもしれない。

 結果的にはかもしれないが、管理局を救った英雄である。一度会ってお礼の一つも言いたいものだ。

「ああ、この頃流行りの正義の味方さんのことを調べて修羅場になっていたんだね?」

『え?何を想像していたの?』

 修羅場と聞いてベタを塗っているクロノとか、トーンを貼っているエイミィとか、資料片手に背景とモブを書き込んでいるリンディの姿とかが、真っ先に想像できたなのはの頭はそろそろ睡魔におかされて「くやしい、でも眠っちゃう」な感じで末期だ。

「あれ…しかしこれじゃアシスタントばっかりで作家がいないの?」

『な、なのは?なのはが何を言っているか分からないよ』

「大丈夫だよユーノ君、なのはも何を言っているのか分からないから」

 ユーノが、それの何処が大丈夫なのかと突っ込みたそうな顔をしている。

「なのは〜」

「なのはちゃん〜」

 ちなみに、いつの間にこんな事になったのか、寝ぼけた頭では思い出せないのだが、なのはのベッドにフェイトとすずかが潜り込んできている。

 多分、夜遅かったのでこのまま解散よりは、皆でお泊まり会をしようとかそんな流れだろう。

『な、なのハーレムリターン』

 ユーノが何か言っているが、文句を言うのも億劫だ。

 ついでに、フェイトとすずかがどんな夢を見ているのか知らないが、とっても幸せそうな笑顔で寝ぼけながらもなのはを引き寄せようとしている事などを考慮して、聞かない方がいいような気がしている。

「パトラッシュ…もう疲れたなの…」

 って言うかいい加減に限界だ。

『…あ、ごめんねなのは、疲れているのに長く話しちゃって』

「……」

『なのは?』

 返事はない。

 ただの屍では無いが、ポテンとベッドに倒れ込んだなのはは既に寝息を立てている。

 それを見てやれやれと苦笑したユーノが通信を切ると、室内に静寂が降りてくる。…そして起きている人間は誰もいなくなった。

『フフフ、あはぁ〜』

 そう、“起きている人間”はこの場にはいない。

 ただし人間では無い物はいる。

『ふむ、フェイトちゃんはもっとこう、なのはちゃんにしなだれかかるように、すずかちゃんはなのはちゃんの胸に顔をうずめるようにして…』

『…姉さん?何をしているんですか?』

 レイジングハートが、なのは達の周りを飛び回っているルビーに質問した。

『何って、美少女三人の天使の寝顔を記録に残しておこうかな〜って、これは売れる。売れますよ〜』

『姉さん、流石にそれは犯罪です。見過ごせないです。なのは様に言いますよ?』

 いくらなんでもなのはにばらされるのはまずいと思ったのか、ルビーがあわてだした。

『な、何を言ってるんですかレイジングハート、これは芸術活動ですよ?お金に変えられないプライスレスです!!』

『…今売れるって自分で言っていたじゃないですか?』

『買ったー!ルビー殿、二万までなら出します!!』

『バルディッシュ、貴方が要自重です』

 がんばれレイジングハート、君が最後の良心だ!!

 

―――――――――――――――――――

 

「闇の書の守護騎士?」

『そう、それが君が遭遇したヴォルケンリッターと名乗る彼等の正体だ』

 なのはの言葉に、テーブルを挟んで対面に座っているクロノが頷く。

 その隣にはエイミィが、なのはの左右にはフェイトとすずかが座って真剣に話を聞いている。

「その闇の書って言うのは…やっぱり、危険なの?」

 なのはの知るロストロギアはジュエルシードしかないので、自然とそれが基準になってしまうのだが…案の定クロノがうなずいた。

 嫌な予感程良く当たる…その諺は、案外正しいのかもしれないと三人は顔を見合わせた。

「元々、闇の書は管理局が長い間追いかけている危険度の高いロストロギアの一つなんだが…詳しい事を話す前に、君に聞きたい事がある」

「え、なのはに?」

「そうだ」

 気がつけば、隣のエイミィも真剣な顔でなのはを見ている。

 自分に向けられる視線に、なのはは無意識に姿勢を正して聴く態勢を作っていた。

「このお店のお勧めはなんだい?」

「翠屋のお勧めはシュークリーム、焼きたてでとってもサクサクしてるんです。紅茶と一緒に頂くとおいしくてお勧めですよ〜♪…ってあれ?」

 質問に営業口調で即答してから、なのはは何かがおかしい事に気がついた。

 条件反射おそるべし。

「何でそんな事を聞くのかな?」

「それはここが翠屋と言う喫茶店で、君は経営者の家族だろ?」

「それに良くお手伝いしているらしいし、お勧めは店員さんに聞くのが一番確実だよね〜」

 クロノとエイミィがこれまた即答してきた。

 阿吽の呼吸で、何気にコンビネーションがいい。

 クロノ達の言うとおり、ここは翠屋の店内、ちなみに仕込み時間兼休憩時間なので、店内には他のお客さんの姿はない。

「すまない。注文いいかな?」

「はいは〜い。おまたせ〜」

 営業スマイルで現れたのは、ウェイトレス姿のアルフだ。

 この店でアルバイトを始めてそろそろ半年…元々元気がよく、順応性の高かった彼女の事、直ぐになのは達と並んで翠屋の看板娘になり、今では彼女の目当てに通う常連さんも付いている。

 ちなみに、犬耳に尻尾は隠していないのはどう見てもコスプレだし、おかげで主に桃子の趣味を満足させつつ、そっち系のお客さんのハートキャッチだ。

「シュークリームを五人分とコーヒーを」

「私は紅茶がいいな、なのはちゃん達はオレンジジュースで良い?」

「「「は、はい」」」

「まいどあり〜待っててね〜」

 アルフが注文を聞いて、さっさと厨房に帰って行くのを見送ったなのはたちは、唖然としてクロノ達に向き直った。

「あ、あの…ロストロギアの話をするんじゃ…」

「長い話になるし、せっかく喫茶店に来たのに何も頼まないのはそっちの方が失礼だろう?」

「それでいいの?」

「まあ、最悪の場合この世界が破壊されるかもしれないが、甘い物を楽しむ時間位は残されているさ」

 その発言に、クロノを知る順番に目を丸くする。

「甘い物は女の子を虜にする魔法だよね〜」

 そして何故エイミィは良い事言ったとばかりに、自分の発言に対して頷いているのだろうか?

「クロノ執務官?」

「クロノでいいよ。その代り僕もフェイトと呼ばせてもらっていいかな?」

「う、うん…クロノ…でいい?」

「ありがとうフェイト」

 何か、クロノが柔らかい?っと言うよりも余裕がある?

「あ、あの…何かあったんですか?」

 クロノとは接点の少ないすずかにまでそんな事を言われるとは、やはり勘違いでは無いレベルでクロノの様子が変だ。

 割と失礼な物言いではあったが、当のクロノの反応は苦笑するだけだった。

「自分ではそれほど変わったつもりはないけど、この半年…一皮どころか脱皮位しないと色々やってられなくてね」

 クロノが哀愁漂う男前な顔になっている。

 しかもエイミィもフッとばかりに遠い目になって…クロノが言う所の色々の内容は、きっと聞かない方がいい事だろう…冗談にしろ本気で言ってるにしろ、内容がブラックすぎるのが予想出来過ぎる。

 一度書類の雪崩に遭って埋まると言う、漫画やアニメのギャグでしかないような映像を見ているので、笑って否定が出来ないのが割と厳しい所だ。

「そ、そう言えばリンディさんは?」

 空気の悪さに耐えかねたフェイトが、気を利かせて話の方向を変えてくれた。

 なのはとすずかが、心の中で親友のナイスフォローに親指を立てる。

「母さんはまだ本局だよ。まったく、間の悪い事は重なるものだ。おかげで余計な時間もかかってしまったし」

 今日の日付は12月8日、なのは達がヴォルケンリッター達と遭遇してから一週間が過ぎている。

 何故クロノ達の到着がこんなに遅れたのかと言うと、原因はアースラがメンテの為にドック入りしてしまったかららしい。

 そのため、クロノ達は小さな次元航行艦を乗り継ぎし、世界をいくつか中継してこの世界までやって来た。

 なのはから送られてきたデータの検分も合わせてかかった時間が一週間と言うわけだ。

 初動捜査は絶望的だなと、クロノが苦い顔になる。

「母さんはアースラのメンテが完了したら、それに乗ってこっちに来る予定だ。それまでは、あの書類の部屋に缶詰だけどね…」

「だ、大丈夫なの?」

 あの量を相手に一人とは…リンディに死ねと言っているのかこの息子は?

「その為に、あのイタチモドキを置いてきた」

「え?あ、ユーノ君がいない」

 先日の剣幕では、真っ先になのはの所に来そうなものだろうに、その姿が何処にもない事に全く気がつかなかったとは…哀れユーノ、君の春はまだまだ遠そうだ。

「でもなんで、ユーノ君がリンディさんのお手伝いを?」

「いや〜お手伝いって言えばお手伝いなんだけどね〜」

 何故そこでエイミィが照れる?

 そして何故クロノは全力でそれを見逃しているんだ?

 まさかオレンジと同じギアスをかけられたわけでもあるまいに?

「………最近、母さんはかわいい物とかから活力を補充する方法に開眼したらしい」

「は?」

 それは間違いなく、一般人にはマネのできないエネルギー補給方法だろう。

「かわいい子が視界の中にいるとやる気が出るからね〜」

「ソ、ソウデスネ…」

「やっぱりお手伝いしてくれるのはメイドさんだよね〜」

「ソウデスネ…」

「お嬢様、紅茶のお変わりはいかがでしょう?とか言われたらキャーー!!」

「ソウデスネ…」

 全自動でギアを上げて行くエイミィに対して、なのはは機械的にいいとも参加者のような返事をすることしかできなかった。

 具体的に、ユーノが現在どうなっているのか怖くて聞けないし、想像は容易いので聞くまでもない気がするが…これだけは言える。

 局員でもない一般人に何させてるんだこいつら?

 なのはに助けを求めるユーノの幻聴が聞こえそうだ…しばらくリンディとの通信はつなげないようにしよう…ユーノ・スクライアの人生に救いあれ、場合によっては訴えるのも可だ。

 絶対勝てる気がする。

「な、なのはごめんね…」

「あ〜フェイトちゃんのせいじゃないよ」

 話を振っただけのフェイトに罪はない。

 誰が悪いと言うわけではないが、あえて言うなら半年の間に地雷の数を増やしまくって帰って来た友人の不幸が悪いのだ。

「エイミィ、そろそろ落ち着け…そう言えばルビーは?」

「「っつ!!」」

 そして今度はこちらのターン、クロノが地雷を踏む番だった。

 フェイトとすずかが息をのむが、何故かなのはだけはにっこり笑った。

 その笑顔に、クロノとエイミィが何を感じたのか、だらだらと冷や汗をかき始める。

「ルビーちゃんならあっちだよ」

「あっち?」

 なのはが指さしたのは、カウンター席だった。

『うい〜ひっく』

 そこには、解りやすくヤサグレた風のルビーがいた。

『かわいい寝顔を記録保存したくらいで、そんなに怒ることないじゃないですか〜う〜レイジングハートの裏切り者〜委員長〜』

『ルビー殿、今日はとことん付き合いますぞ!!』

 ルビーをバルディッシュが慰めている…のか?

『よくぞ言ってくれました心の友よ〜そうとなればアルフさーん。高級ワックスもってこ〜い。今日はとことんピカピカに磨いて奇麗になってやるんですよ〜』

『さすがルビー殿、そこに痺れる憧れる〜!!』

 ルビーとバルディッシュがわけのわからないレベルの意気投合していた。

 内容だけを見れば、嫌な事があってくだをまくどこぞの中年サラリーマン同士の会話のようだが、まさか礼装やデバイスはワックスを塗ると酔っぱらうのか?…それともただ妄想に酔っているだけなのか、判断が難し過ぎる。

「あれは、一体何だ?」

 あまりに小芝居が臭すぎて、逆に何がしたいのか分からない。

 しかも、アルフが「やかましい!店内で騒ぐんじゃないよ!!」っと投げてよこしたワックスをキャッチして、本当に自分を磨いているし…これが正しい意味での自分を磨くと言う奴かと言う現実逃避は…ダメだな、いくらなんでもそれはナシだ。

「ん?気にしなくていいよ。うちのレイジングハートがとってもいい子だって言う話なんだから、今はねレイジングハートの特別扱いキャンペーン期間中なの」

『ありがとうございます。なのはさま』

「ルビーちゃんはお仕置きキャンペーン中で無視しているから協力よろしくね」

 何となく、ルビーがまたいらん事したのを、レイジングハートが密告して、なのはからお仕置きを受けているのだろうとは思うのだが、クロノとエイミィが見るなのはの笑顔はとっても奇麗で、逆に怖い。

 すでに地雷を踏んでいるのに、そのままタップダンスを踊る勇気は二人共になかった。

『ふ〜んだ。仕返しにあの写真をコンクールに応募してやったもんね〜ですよ〜』

「っつな!?何それルビーちゃん!?私そんなの聞いてない!!」

 キャンペーンで無視中じゃなかったか?やはりルビーの方が一枚上手だ。

 ちなみに後日、その写真がコンクールの大賞をとりましたという通知が来る事になる…流石は主人公、スペックがマジパネエッす。

「おまたせ〜翠屋特製のシュークリーム、じっくり堪能しやがれ〜ってどうしたんだい皆?」

 互いに仲良く相手の地雷を踏みあい、微妙な空気が形成されて身動きのできなくなった場に、シュークリームと飲み物を持って現れたアルフの背中からは後光が差した気がした。

 

――――――――――――――――――――――――――――

 

「闇の書とは、古代ベルカの残した魔導書型のデバイスだ」

「古代ベルカ?」

 翠屋のシュークリームを堪能しながら、クロノが話を振って来た。

 やはり、本筋を忘れていたわけでは無いらしい。

「昔、ミッド式の魔法と勢力を二分した魔法体系だよ」

 エイミィも説明に加わってくれたおかげで、なのは達の理解が進む。

 ベルカ式の魔法とはミッド式と違って対人戦に特化した魔法体系らしい、カードリッジと呼ばれるものを使って爆発的に魔力を高めるのがその特徴だとか、そして優れた使い手を指して騎士と言うらしい。

「ヴィータちゃんが使っていたのがそれなんだね」

 あの時は色々な意味で必死だったので、注意して見る事が出来なかったが、思い返してみれば、あの薬莢みたいなものを排出した後、確かにヴィータの魔力が上昇していた。

「古代ベルカのロストロギアの中でも、闇の書と言うのはその実態があまり詳しく知られていない。分かっているのは様々な主の元を渡り歩く魔導書だと言う事、その最大の特徴は魔導師のリンカーコアを食って魔力と魔法を吸収し、完成に近づく事だ」

「「リンカーコアを!?」」

 なのはとフェイトが同時に驚くが、それも当然だろう。

 リンカーコアは、魔導師の心臓と言ってもいいものだ。

「軽く蒐集されるくらいなら回復も望めるが、度を超すと最悪死亡する事もありうる危険な行為だ」

 ゴクリと、全員の喉が鳴った。

「じ、じゃあ…なのはを探していたのも?」

「可能性は高いと思っている」

 なのはの魔力は、この歳にして規格外だ。

 その魔力を蒐集する為に現れたと言うのが、一番無理のない説明ではある。

 ただ…ヴィータ達は結局蒐集をする事なく、なのは達の前から消えた事の説明は出来ない。

「魔導師のリンカーコアを吸収する度に、666ページの白紙のページが埋まって行き、完成すると主に強大な力が与えられる…と言われている」

「言われている?」

「確かに力はもたらされるんだろう。しかし、完成した瞬間にそれが暴走。歴代の持ち主は例外なく死亡している」

 なので、闇の書は正しい意味で完成した事が一度もないらしい。

「しかも、一定期間蒐集が行われなければ、持ち主のリンカーコアを食い始める事も確認されている。その場合、主が死亡すると同時に暴走が起こったと記録にあった」

「そんな!!」

「ひどい!!」

 なのは達が声を上げたとしても、それは仕方がない事だろう。

 闇の書に選ばれた時点で死が確定してしまうのだから、救いようがないと誰もが思った…ただ一人を除いて…。

『その話、何かおかしいですね〜』

「「「「「え?」」」」」

 五対の視線が一か所に集まる。

 そこにいるのは、いつものように空中浮遊しているルビーだ。

「何がおかしいんだ?」

『全部ですよ。何一つおかしくない所がないですね〜』

「…詳しく聞かせてくれ」

 クロノがルビーに続きを促す。

『いいですか〜?ルビーちゃんが魔法使いを探すための礼装であるように、レイジングハートが魔法を使うためのデバイスであるように、道具と言う物は目的があって作られるものです。ここ大事、むしろ基本、そこで闇の書を考えてみましょう。まず、魔力を蒐集する為に作られた物だとしたら、完成した状態で暴走するわけがありません』

「魔力を蒐集する為に必要なのは|容量(キャパ)、しかも666ページ分の魔力を貯めこめるってはっきりしているんだから、少なくともそこまでの魔力を保持で来るだけの容量はあるはずだよね?」

『なので、魔力のオーバーフローによる暴走はあり得ません』

 技術面の話なので、エイミィがルビーの話に合いの手を入れる。

『では最初から暴走するものだったのか?暴走する為の魔力を余所からかき集める必要があるなんて、手間が大きすぎますし、理屈に合わない。では特定の持ち主以外では暴走するのか?っというのも、複数の主の手を渡り歩いていると言う事から考えられない。本当に、持ち主に強大な魔力を与えるデバイスだとしたら、直後に持ち主が死んでいては意味がない…エトセトラ、エトセトラ』

 つらつらと感じた疑問を重ねて行くルビーに、久しぶりの尊敬のまなざしが集まる…何で普段それが表に出てこないのだろうか?

『…“道具”として見た闇の書は切り貼りしたようにチグハグで、何を目的にした道具なのか見当もつきません。そこに何か秘密があるのではないですか?』

 自らも道具であるルビーだからこそ、その言葉には誰よりも確固とした断言と説得力があった。

 闇の書の在り方は、どこまでも歪であると…。

「…なるほど」

 一つ頷いたクロノは目を閉じた。

 おそらく頭の中で、ルビーの言葉を吟味しているのだろう。

 闇の書の抱える大いなる疑問と矛盾について…。

「ルビーちゃん…」

『フフフ、惚れなおしましたか、なのはちゃん?…そろそろお仕置きキャンペーン終了してもいいんじゃないかな〜と思うんですよね〜』

「うん、それとこれは別だよね♪」

 ルビーはやっぱりルビーだった。

「ルビー?」

 思考が終わったのか、クロノがルビーを呼んだ。

『なんですか?』

「闇の書に関して…管理局が何もしなかったわけでは無い。長く追いかけているのにはそれなりの理由がある」

 何故ならばと、クロノが一呼吸分の間をおく、そのわずかな時間にどんな意味と思いがこもっていたのかは分からない。

「闇の書には転生・再生機能がある。その為に、主が死亡した時にはすべてをリセットして次の主をランダムに選択して転移する。そうやって魔導師達の手を渡り歩いているんだ。途中で闇の書に干渉しようとしても、接触した瞬間に防御プログラムが働いて、持ち主の魔力を使って暴走してしまう。破壊しようとしても強力な再生機能の前になすすべがない」

『それはまた厄介な…』

「現状、闇の書に対して、僕達が取りうる手段は一つだけだ。高威力の艦載砲撃によって持ち主ごと消滅させる」

「え、クロノ君それって…主になった人ごと…」

 思わずなのはが話に入ってこようとしたのを、クロノが手を上げて制する。

「悪いが…邪魔をしないでくれ…」

「う、うん」

 妙に迫力のあるクロノの様子に、なのはは頷くしかなかった。

「十一年前、発見された闇の書を時空航行艦で移送中に暴走が始まり、その処置が取られた。その時、僕の父は巻き込まれて死んでいる」

「「「っつ!?」」」

 少女達が同時に息を飲んだ。

 例外は事前に話を聞いていたのだろうエイミィだけだ。

「そう言った個人的な理由があるのを否定はしないし、むしろだからこそ闇の書をどうにかしたいと思っている。…だから教えてほしい。僕達の魔法は闇の書に対して有効な手段が存在していない。だが、今の僕達には父さん達の持っていなかった手札がある。君となのはだ」

「あ、そうか、魔術…」

 魔法と魔術はそのベクトルが違っている。

 魔法でどうにもできないからと言って、魔術にも不可能だとは限らない。

『……概念能力か…それに類する武装なら可能です』

 第七聖典に用いられている転生否定の弾丸、あるいは魔力を食らうゲイ・ジャルクで闇の書を刺し、機能を停止させたうえでゲイ・ボウによって破壊するなどの方法は存在する。

『事実、無限転生や特定の条件がそろえば現われる現象その物ですら、直死の魔眼と言う能力によって停止、消滅した事例が存在しますが…』

「そうか…」

 ジュエルシードの時にもルビーが言ったが、ルビーとなのはが使えるのは、あくまで第二魔法と見習い魔術師レベルの魔術だ。

 世界の理を強引にねじ曲げる概念武装や礼装、もしくはそれを可能とする特技の持ち合わせはない。

「ここまでだな…ない物ねだりは無意味だ」

 ならば現状の手札でどうにかするしかない。

「闇の書の調査に関しては、これはユーノに頼もうと思う」

「ユーノ君に?」

「本局には無限書庫と言う巨大なデーターベースがある。またグレアム提督に迷惑をかけてしまうのが申し訳ないが、連絡を入れれば手を貸してくれるはずだ。問題は我々現場だな」

 闇の書に何か秘密があるとしても、現在進行している状況を無視も出来ない。

「僕達がやらなければならない事は、闇の書の主を見つけ出して確保する事だ」

「闇の書の完成前なら、主もただの魔導師だからね」

「その通り、だが今代の主らしき人物は確認されていない。なので僕らはまず守護騎士を確保して主を引きずりだす必要がある」

 空間に投影されたモニターに先日の三人、シグナム・ザフィーラ・ヴィータともう一人、見覚えのない緑色の女性の映像が現れた。

 彼女も含めた4人がヴォルケンリッターのメンバー全員なのだろう。

「そう言えば、守護騎士の人達って言うのは一体何なんですか?」

「守護騎士とは、闇の書と主を守り、蒐集を行うために作り出された魔法生物…なんだが…」

 いきなり言葉を切ったクロノに、全員が?マークを浮かべた。 

「以前に闇の書が現れた時にも、主の傍にいるのを確認されている…が、記録によると感情のない実体化したプログラムのようだったらしい」

「え?」

「会話が出来るのは過去の記録から確認されているんだけど、ただ魔力を蒐集する為の機械みたいだったらしいわ」

 なのははクロノとエイミィの言葉をじっくり考える。

「…それって別人じゃないですか?」

 考えて出した結論がそれだった。

 実際対面して、言葉を交わしたなのはとしては、あのヴィータを無口で感情がないと言われても、はいそうですかと納得出来かねる。

 むしろとんでもなく濃かったと思う。

 なのはの意見には、クロノとエイミィも同意なのか、しっかりと頷いてくれた。

「ま、まあなのはちゃんがそう思うのも仕方ないよね、調査の途中で私達もおんなじことを思ったわ」

 あの連中…一体なにやらかしてきたんだ?

「僕達も、そのおかげで例の事件にヴォルケンリッターが関わっているという確証がなかなかとれなかったんだ」

「ああ、あの事件ってヴォルケンリッターの人達の仕業だったんだ」

 そう言えば、どこぞの変身ヒーローのような口上を上げていた。

 あのヴィータなら、ノリノリで正義の味方の真似事の一つや二つ…百や二百でもやるかもしれない。

 なので、だからこそやはり別人だろうとしか思えないのだが、あれが感情のないプログラムなら、世界は笑いとにぎやかさに満ち満ちているだろう。

「残念だけど、残っていた映像記録との照合が取れたから間違いないわ」

「そうですか…」

 よく分からないが、何か大事な物に裏切られたような気がする。

「闇の書の主が関係してるんじゃないかしら?守護騎士にそこまで影響を与えられる人間なんて、他にいないだろうし」

 俄然、まだ見ぬ闇の書の主に興味が出てきた。

 なのはとしては、ヴィータ経由でいろいろ言いたい事がある。

「…エイミィさん?」

「何、フェイトちゃん?」

「人工的に作り出された魔法生物…それって、私と同じ?」

「ちが「違うわ!!」え?」

 クロノの否定の言葉を、何かが遮って落ちてきた。

 すとんとテーブルの上に降り立った人影に全員が凍りつく、すでに皆食べ終えていたからいい物の、そうでなかったら大惨事になっていた所だ。 

 何てことしやがる。

「フェイト・テスタロッサ!!貴方はそんなデータで作られた物では無いわ、生まれこそ普通では無いけれど、貴女はちゃんとした人間、そしてわた…じゃない、プレシア・スタロッサの娘よ!!」

 いきなりジョジョ立ちで捲くし立てられたのはアレだが、ちょっと暗くなったフェイトを励ますいい言葉だ…いい言葉なんだけど…こいつ今何処から出てきた?

 ばっと頭上を仰げば、そこにはいつもと変わらない翠屋の天井、隠し扉も天井裏もない。

 だがしかし、いきなり現われて好き勝手言った上に、自分の発言に照れて悶えているこの人物を、我々は知っている。

 いや、この扇情的なドレスと黒の長髪を知っている。

「「「プレシアさん?」」」

「プレシア・テスタロッサ?」

「母さん?」

 地獄のような沈黙が来た。

 テーブルの上にいる…多分プレシアは固まって動きを止めている。

 心臓もショックで止まっているんじゃないだろうか?

「な、何を言っているのかしら!?私の名前は…そう、お蝶夫人よ!!」

 どこからどう見てもプレシアだった。

 全体的に、紫にやたらとこだわりがありそうな所などプレシア以外の何者でもないだろう…ひょっとして、顔につけている実に派手なパピヨンマスクで、自分の正体を隠せていると思っているのだろうか?

 何気にそれが一番の謎だ。

「プ、プレシア・テスタロッサは改心して、時空管理局の本部で清く正しく自主的に謹慎して…「あ、僕だ。ちょっと早急に調べてほしいんだが、ちょっとプレシア・テスタロッサの部屋に行ってくれないか、空間投影型の立体映像か何か使って抜け出し…」ちょっと待ってーーー!!私の話を聞いてなかったのかしら!?プレシア・テスタロッサは清く正しく改心しているのよ。そんな事するわけないじゃない!!」

 ブチッとプレシアがクロノの通信を遮断した。

 それだけで半ば以上自白しているようなものだ。

「…プレシア・テスタロッサじゃなければ、きみは誰だと言うんだ?」

 クロノの目は何処までも冷ややかだった。

 彼もまた、こういう手合いに対する耐性が高まっているらしい。

「だからお蝶夫人と言っているでしょう!!その節穴にはこの蝶華麗なマスクが見えないのかしら!?」

「いや、それただのパーティグッズだろ?…やはりプレシア・テスタロッサと言う事でファイナルアンサー?」

「お蝶夫人でファイナルアンサーよ!!」

「いい加減にしつこいな?かわいそうにフェイトなんか真っ赤になってうつむいてしまったぞ?思春期の女の子のトラウマになったらどうするつもりだ?」

「くっ」

 フェイトを持ちだされると弱いのか、解りやすくお蝶夫人がうめいた。

 以前の感情の薄い彼女なら…いや、それでもやっぱりダメージはでかかっただろうか?

 身内のこんな奇行に耐えられる精神力は、それだけで只者ではないだろうから…どこぞの貴公子の如く、その生まれの不幸を嘆かないといいと思う。

「まあいい、そう言う事にしておこう。それでお蝶夫人は何の用なんだ?さっさと帰らないと裁判に響くぞ?」

「くっ、関係ないと言っているのに…貴方達、ヴォルケンリッターが何処にいるのか知りたいんでしょう?」

「……知っているのか?」

 クロノを先頭に、全員が話を聞く態勢になり…。

「知らないわ」

 そして一気に砕けた。

「君は喧嘩を売るために出てきたのか!?いい度胸だ買ってやるぞ!!そして強制送還してやる!!」

「全く、これだから子供は…」

「その上から目線がめちゃくちゃムカつくんだがな!」

 ここは怒ってもいい所だと思う。

「話は最後まで聞きなさい。確かに何処にいるのかは分からないけど、別に乗り込む必要はないのでしょう?逆に連中を出て来させればいいのよ」

「出来るのか?」

「こんな事もあろうかと用意していたものがあるわ…」

 さっきの事があるので、多少疑心暗鬼になりながらも全員で次の言葉を待つ。

「…こんな事もあろうかと…」

 そしたらお蝶夫人がまた繰り返した。

 しかも何故か声が小さくなっている。

『ダメですよ皆さん、彼女も科学者なんですから、せっかくのお披露目とお約束を前にして、ノーリアクションはメ!!』

「わ、解ってくれるのね!?」

 それが科学者全員に適応されるのなら、科学者とはなんて厄介な生き物だろうか?

『勿論ですよプレシアもとい、お蝶夫人!!さあ三度目のトライです!!』

「三度目とトライをかけたその思いにこたえるわ!!こんな事もあろうかと用意していたものがあるのよ!」

『な、何なんだって!?』

「ふふ、いいわ〜そのハ ン ノ ウ。アドレなるわね〜それはともかく、これよ!!」

 そうやって現われた物に、全員が目を丸くする。

 

 

……………同日の夜、海鳴の中心に巨大な封鎖結界が展開された。

 

説明
リリカルなのはに、Fateのある者、物?がやってきます。 自重?ははは、何を言ってるんだい?あいつの辞書にそんなものあるわけないだろう?だって奴は・・・。 ネタ多し、むしろネタばかり、基本ギャグ
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