リリカルとマジカルの全力全壊 A,s編 第九話 Power-up
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「くそ!!」

 シグナムはいらだたしげに言葉を吐き捨て、目の前の白い壁を殴りつけた。

 別に壁が憎いわけでも、白い色が嫌いなわけでもない。

 彼女の抱いている怒りは対外的な物では無いのだから。

「ごめんなさい、私が真っ先に気づかなきゃならなかったのに…」

「言うな、私が怒っているのは己のふがいなさに対してだ!」

 シャマルへの返事にも、抑えきれない物が滲んでいる。

 

……海鳴総合病院。

 

 男…ロッテの意味深な物言いに、まさかと思っていた四人は地球に帰還すると真っ先に直行してきたのだ。

 はやてには聞けない。

 ロッテの言う通り、あの子は自分の体調が悪くても無理に笑顔を作って誤魔化してしまうだろうし、何より本人に確かめるだけの勇気は四人の誰にもなかった。

 故に白羽の矢が立ったのは、本人の次くらいに事情を知っているだろうかかりつけの女医だ。

「まさか…本当だったとはな…」

 ザフィーラの呟きも、何時になく平坦で感情を押し殺していると言う事が分かる。

 度々はやての定期検査に付き合って来ていたのがよかったのだろう。

本来患者の病状はプライバシーにかかわるのでおいそれと明かす事は出来ないが、はやてが家族と紹介した四人ならばと女医は打ち明けてくれた…その内容はロッテの言葉の肯定…徐々にではあるが、はやての病状は進行している。

 そして案の定はやては自分でそれに気づいていながら、四人には告げないでくれと口止めまでしていた。

「助けなきゃ…」

 ぼそりとした呟きに、全員がはっとする。

 見れば、ヴィータが泣きそうな…それでも何かを決意した目をしている。

 わざわざ何をと問い返す必要はない…彼女の思いはきっと、四人共通の物のはずだ。

「そうだな…シャマル?闇の書のページはどのくらい溜まっている?」

「まだ…100ページと少し…」

 全体の六分の一ほど…トラブル解決の片手間にやっていたので、ほとんど溜まってはいない。

 この100ページの蒐集のおかげではやての病状の進行が遅れたのだろうが、同時に自分達が病状に気がつくのが遅れたという事情もある。

「どの道、蒐集しか手はない」

「そうね、前向きに考えましょう。闇の書の完成まであと五〇〇ページ」

「闇の書が完成すれば、きっと主も助かるはずだ」

「え?」

 気がつけば、ヴィータは疑問の声を漏らしていた。

「どうしたヴィータ?何か気になる事でもあるのか?」

「い、いや…何も…」

 自分の口から洩れた言葉のはずなのに、一番驚いたのは本人だ。

 ヴィータ自身、何に疑問を持ったのか分からなかった。

 三人の会話の中に、何か気になる事があったような気がするのだが…何に引っ掛かりを覚えたのか分からない。

「そうか…とにかく、主の意思に逆らう事になっても、我々はやらねばならんのだ」

「ああ、姉ちゃんを助けるんだ」

 それだけは譲れない。

 主と言う意味だけでは無く、家族を救うために…考える事ならばあとでも出来る。

 今必要なのは行動だ。

「問題は…やはり魔導師を襲うしかないということか…」

「そうね、はやてちゃんは禁止していたけれど…それしかないと思うわ、魔獣の中にはリンカーコアを持つ種もいるけれど、効率は落ちるし危険よ」

 魔獣のリンカーコアの魔力は、魔導師のそれに比べて劣る。

 基本的に生まれたままの先天的な魔力しかもたないので、どうしても魔導師のそれと比べて少ないのだ。

 それでも尚、魔力の高い物を選ぶとなればそれはすなわち強力な魔獣であると言う事と同義になり、そんな魔獣でページを埋めるためには相当な数を相手取る必要があり、容易いことではない。

 如何にヴォルケンリッターが歴戦の兵とはいえ、物事には限度と言うものが存在する。

「ロッテという正体不明の輩も暗躍しているようだしな…」

 全員が頷いた。

一番の不安材料はやはりあの男…何を目的に動いているか分からず、敵か味方か判然としない不確定要素…どう動くか分からないという意味で、敵となるであろう時空管理局より厄介だ。

「どっち道やらなきゃならねえんだ。なるだけ魔力を貯めこんでいる魔導師を狙って早く終わらせよう」

「「「「……」」」」

 会話が途切れると、何故か全員が目をそらして脂汗をかきだした。

「む、地震か?」

「そ、そうみたいね…日本って地震大国とか言われているし」

「物騒な国名だな」

「ほ、本当だよな、ギガあぶねえよ」

 この場に第三者がいれば、四人が揃って震えているのを見て取るだろう。

 リンカーコア・魔力沢山・魔導師…このキーワードからヴォルケンリッター達が連想したのは偶然と言うべきか必然と言うべきか…同一人物だった。

 しかも彼女は、管理局に所属しているかどうかはともかく、一緒に行動していたのは確かであり、自分達が本格的に蒐集を開始すれば、ぶつかり合わないという選択肢はない。

 再び管理局と相対する時…その時きっと、自分達が見上げる空には、彼女の姿があるはずだ。

「と、当面…リンカーコアの蒐集は魔獣に限定する」

「そ、それがいいわね、接触するにしてもその前に出来るだけ蒐集を進めておくべきだと思うわ」

「賛成」

「同意だ」

 あの冗談と言うか馬鹿げた魔力を吸収すれば、どれほどのページが埋まるか予想も出来ないが…それは最終手段と言う事で全員の意見は一致していた。

 シャマルの旅の扉などの空間湾曲魔法によるリンカーコアへの不意打ちを掛ければ何とかと思わなくもない。

騎士の誇り等、はやての命の前では文字通り埃だが、それでもなお必勝を確約できないリスキーぶりだ。

 彼等の中に置けるなのはの立ち位置とは、避ける事が出来ないならぶち破るしかないのだが、避ける事が出来るうちは全力で避けたい危険人物と言う事で認識をされている。

上手くすれば戦わずに蒐集が完了してしまう可能性も無きにしも非ずだし…。

「では、行くぞ」

「おう」

「はい」

「待っててくれよ、姉ちゃん…」

 そしてヴォルケンリッター達は散って行った。

 

――――――――――――――――――――――――

 

『夜天の魔導書?』

 全員が集合したアースラのブリーフィングルーム、静かな室内にルビーの疑問の声は驚くほど響いた。

「そう、闇の書の本来あるべき姿にして原型だよ」

 一同の前に立ち、映像資料を前に無限書庫をあさって判明した闇の書の新事実について語っているのはユーノだ。

 本当なら、なのはの家に行った日に伝えるはずだったのだが、あんな事になって今日まで説明する時間が取れなかったというオチである。

「本来は主と共に旅をして、各地の偉大な魔導師の技術を収集し、研究するために作られた収集蓄積型の巨大ストレージデバイスだったんだけど…歴代の持ち主の何人かがプログラムを改変したために破壊の力を使う闇の書へと変化したみたいなんだ」

『なるほど…』

 話を聞いたルビーが、自分の感じていた違和感の正体に納得する。

 元々、設計段階から想定されていない機能を求められたため、なんとか主の意思をかなえようとしたら存在自体が歪んでしまったと言う事だろう。

 明らかな人災だが、それをやった当人もこんな事になる事を予想していたのか疑問だし、何よりすでにしてこの世の者では無いから文句を言う事も出来ないのが…またやるせない話だ。

「ロッテさんは「元は健全な資料本が、なんとまあ」って呆れていたよ…」

『ロッテさん?』

「調査を手伝ってくれたグレアム提督の使い魔だよ。本当に何から何まで、提督には頭が上がらないね」

 アースラのメンテ早期終了からこっち、まさに至れり尽くせりと言う奴だ。

「一緒についてきてほしかったんだけど、リーゼさん共々、断られちゃって…何かに怯えているみたいだったけど、あれは何でだろ?」

『何かこの世界に来たくない理由でもあるんですかね〜?』

 実は天敵に近づきたくないだけなのだが、事情も知らずにそれを察しろと言うのは無茶な話である。

分かっているのは猫姉妹だけだ。

「しかも、グレアム提督、連日の激務で倒れちゃったらしいよ?」

『それはそれは、今度お見舞いに伺うべきでしょうかね〜』

 ルビーの見舞いに関しては全力で拒否されそうな気がするし、場合によっては容体悪化になりかねないのだが……それもまた知りようのない事情だ。

「ユーノ、何とか…出来ないの?こんなんじゃ…」

 フェイトが気の毒そうな目でモニターに映る闇の書を見る。

 主となった誰かはただ運悪く魔法の才能を持っていて、それが元で闇の書に選ばれてしまっただけだ。

 ある意味で主になってしまった誰かも被害者である。

 これが率先して力を求め、誰彼かまわず襲うような外道と言うなら同情の余地なく叩きつぶせばいいので心情的に楽なのだが…今代のヴォルケンリッター達が、まともに蒐集をしていないどころか、次元世界のトラブルを解決してまわっていた事を考えると気が重い。

本来、闇の書の完成の為だけに存在するはずの彼等が、そんな本来の在り方と矛盾した行動をしていた事に対して、その主が無関係とは思えない。

 つまり今代の主は、少なくとも罪に問われるようなことはしていない…このまま死なせていい道理は存在しないだろう。

「…残念だけど」

 フェイトの言葉に対するユーノの返答は、首を横に振る動作……否定だった。

「改変により、旅をする機能が転生機能に、復元機能が無限再生機能へと変化してしまっている。この二つがあるために、闇の書の完全破壊は不可能とされるんだ。また、真の持ち主以外によるシステムへのアクセスを認めない。それでも無理に外部から操作をしようとすると、持ち主を呑み込んで転生してしまう機能が付いている。プログラムの停止や改変ができないから完成前の封印も不可能なんだ」

「だから、主の確保が重要と言う事よ、フェイトさん?」

 ユーノの言葉を、リンディが引き継いだ。

「闇の書…夜天の書を救えるのは闇の書のアクセス権を持つ主だけです。何としても主を確保して、協力してもらうしかありません。それが出来なければ…アルカンシェルの使用しかありませんが、それではやはり問題の先送りでしかないわ、私は、以前闇の書の起こした事件により、夫を亡くしています」

 フェイトやユーノだけでなく、武装局員も含めた全員が息を飲んだ。

「その時にもアルカンシェルが使用され、夫は死にました。……私事ではありますが…私は、あの人の死がただの時間稼ぎでしかなかったとは思いたくありません。そして夫のような犠牲者をもう出したくない」

 ……やはりクロノの母親と言うべき所だろうか?

「その為には負の連鎖を続ける闇の書の停止、あるいは夜天の書への回帰しかないと考えています。皆さん、協力してください」

「「「「「はい!!」」」」」

「ぎりぎりまで…主からの協力を取り付ける方向で捜査の方針を定めます」

 リンディの旦那であり、クロノの父親が闇の書のせいで帰らぬ人になってしまった事は、この場の誰もが知っていた。 

 だからこそ、その事は暗黙の了解として禁句になっていたのに、ほかならぬリンディからその話をした事で彼女の並々ならぬ覚悟を、この場にいる全員に悟らせた。

 何より、アルカンシェルの|火器管制機構(ファイアリングロックシステム)はリンディが持っている。

 つまり彼女は、最悪の展開となった時に闇の書の主をその手にかける人間…闇の書に個人的な恨みもある。

なのにぎりぎりまで主の救済を願うという…これで奮い立たなければ人間ではあるまい。

「ミーティング内容は以上です。異論、質問は?」

 答えは無言の了承として帰って来た。

「よろしい、では今回の作戦に対して、新しい協力者を紹介します。アリシアさん」

「は、はい」

 呼ばれ、おっかなびっくりと言う体で前に出てきたのは、フェイトとそっくりで、しかも数年分幼くしたかのような少女だった。

「なのはさんの代わりに、協力して下さるアリシア・テスタロッサさんです」

「よ、よろしくお願いします。マスターのようにはいかないかもしれませんが、精一杯…」

「「「「「ちっがーう!!」」」」」

「ひゃう!?」

 いきなりの大声&自己紹介を否定され、アリシアがびっくりする。

 隣のリンディや、ユーノも目を丸くしていた。

 しかも何故かこの状況について来れていないのは三人だけらしく、とんでもない疎外感が襲いかかって来た。

「君は、君はあんな大魔王になっちゃいけない!!」

「大魔王様がツインズ…世界の終わりじゃーーー!!」

「オハナシ…キキマス…オハナシ…キキマス…だから砲撃はいやーーー!!」

「ち、違うんです大魔王様―――!!」

 何か本人がいないからって好き勝手言ってるようだが…後半に行くに従って何やら危ない人になっている。

 見えない誰かに必死で謝っている奴までいるが…その見えないはずの誰かはきっと白いバリアジャケットを着て笑っているのだろう。

 気を抜くと自分達にもそれが見えそうな気がする。 

「ね、姉さん!?」

「だ、大丈夫だよアリシア…みんなちょっとその…病んでいるだけだから…」

 展開について来れていないアリシアが、武装局員達のいきなりの変貌に怯えるのをフェイトが慰める。

 美少女姉妹が抱き合う姿は実に絵になるが…フェイトのそれはぶっちゃけ過ぎだ。

「なのはさん…」

「リンディ艦長…その…ご愁傷様です」

 うなだれるリンディに、ユーノもそれ以上かける言葉が見つからない。

「…仕方ないわね」

 どうにも収拾がつかなくなりそうだなと判断したリンディが、切り札を出した。

 それは小型のボイスレコーダー、警察の事情聴取などにも使われるあれだ。

「ぽちっとな」

 リンディは、レコーダーの録音では無く、再生のボタンを押した。

『…少し、頭冷やそうか?』

「「「「「っつ!!」」」」」

 たった一言で、パニックに陥っていた武装局員が整列、正座して話を聞く態勢になった。

 この間、わずか0,05秒、その動きに一糸の乱れもない。

 あまりに素早く、迷いのない動きについていけなかったユーノとフェイト、アルフにすずか…どうやら彼等はパブロフの犬化してはいないようだ。

「あら?思ったより効果覿面ね?」

 やった本人のリンディも、ここまで劇的に反応するとは思っていなかったらしく、吃驚した顔をしている。

「リンディさん…何か今の、マスターの声に聞こえたんですけど?」

 アリシアがそう言うのならまず間違いないだろう。

 どうやらインストールされているのは、なのはの例の台詞だったらしい。

 既にトラウマ化している記憶を刺激された武装局員の皆さんが、正座したままだらだら汗を流している。

「……」

「リンディ艦長?何でこれは使えるって感じの悪い笑みを浮かべているんですか?」

「え?そ、そんな顔なんてしてないわよ?」

 ユーノの言葉に、どうやら図星を衝かれたらしいリンディがあわてて体面を取り繕うが……まずは無意識に取り出していた軍師扇をどうにかしよう諸葛リンディ!!

「で、でも〜教導隊に推薦状を書く位…」

「もう止めてください!武装局員さん達のHPは0です!!」

 中には早速泡を吹いている奴までいる。

 一緒に訓練をするくらいならともかく、まかり間違ってなのはが教導隊の教官にでもなった日には、彼らとて無関係でいられる保証はないのだ。

 そんな未来が実現してしまえば、管理局をなのはが無意識にのっとってしまう事もありうるのではあるまいか?

「や、やーね皆、なんでそんなに引いているの?」

 すぐ隣にいるはずのユーノとの距離ですらとんでもなく遠く感じる……間違いなく現状でリンディは孤立していた。

「と、っとにかく!申し送りは以上です!!」

 盛大に誤魔化した…が、それに突っ込みを入れる人間はいない。

 むしろこの微妙な空気をチャラにしてくれるならウェルカムだ。

 これで話は終わりと言われた聞いた武装局員とアースラスタッフは、明らかにホッとしてリンディに敬礼を返すと退室し、各々の仕事に戻って行く。

 残ったのはリンディ達だけだ。

「がんばってね、アリシアちゃん」

「はい、姉さんと一緒に頑張ります」

『その意気ですよ〜アリシアちゃーん』

 少なくともアリシア本人はやる気があるらしいし、ルビーが傍についているとなればめったなことにはなるまい。

 色々ふざけ過ぎな奴だが、なのはの時同様にアリシアを守るはずだ。

 何だかんだでルビーの防御力その他の性能は高い、それを打ち抜いてダメージを与える事が出来る人間はそう多くはないだろう。

「無茶しないでね、アリシア…私も頑張るけど、危ない事はしないで」

 それでもやはり心配なのか、フェイトがアリシアに声をかける。

 プレシアがいない現在、アリシアの保護者は究極の所でフェイトと言う事になるのだが、同時に妹と言う存在が出来た事でフェイト本人の年下に対する責任感とか庇護欲みたいなものが刺激されているらしい。

 悪い変化では無いだろう。

「だ〜い丈夫だってフェイト、あたしも付いているからさ」

「うん、ありがとうアルフ」

 アルフ?…見た目は大人、頭脳は子供の彼女は対外的な保護者である。

「そんなフェイトちゃんに朗報だよ〜」

「「「「「え?」」」」」

 いきなり会話に乱入してきた陽気な声に、全員が反応する。

『おや、誰かと思えばプレシアさんと入れ替わりに帰って来ていて、最初からいたけれど空気になっていたエイミィさんじゃないですか?』

「説明的な紹介ありがとうルビーちゃん。でもどことな〜く悪意が混じっている気がするのは何故かな?…まあいいけど、それよりフェイトちゃん?こんな事もあろうかと、用意してきた物があるのだよ〜これがあればバルディッシュの性能は数倍に跳ね上がっちゃうんだから!!」

 そう言って取り出したのは、何やらリボルバー拳銃のシリンダーのような部品だった。

 バルディッシュ云々と言っていたから、多分デバイスのパーツだろうとは思うのだが…。

『エイミィさん…酸素欠乏症に…』

「なって無いよ!!このパーツだって古いどころか最新式なんだから!!」

『それで、これは何なのエイミィエモ〜ン?』

「テケテテッテテ〜♪カートリッジシステム〜って誰が耳なしネコ型ロボット!?」

『いいノリ突っ込みです!!』

 エイミィは結構空気に流されやすい性格のようだ。

「え?それってシグナム達と同じ?」

 聞き覚えのある言葉に、フェイトが反応した。

 以前に説明を受けていたため、それがどういうものなのかの説明は必要ない。

「その通り、このパーツを組み込めばフェイトちゃんの魔力が倍率ドン更に倍の状態だよ!!」

『ぜひお願いします!!プリーズギブミーカートリッジシステーーーーーーム!!』

「「「「「はあ?」」」」」

 疑問の声が重なる。

「バ、バルディッシュ?」

 声の主はフェイトの言葉通り、彼女のデバイスだった。

「な、なんでマスターのフェイトちゃんを差し置いてデバイスがそんなチョコレートくれみたいなノリで自己主張しているのかな?」

 デバイスに熱烈懇願されたことのないエイミィが、目を白黒させて引いている。

 そんな経験がある方が稀ではあるだろうが…。

『そうですよ〜バルディッシュ?そこは『や、やめろ!やめるんだエイミィ!!ぶっ飛ばすぞー!!あーーーーー!!』が|お約束(テンプレ)じゃないんですか?』

「静まって私の右手!!グーパンチで殴っても痛いのは多分私の方!!」

 怒りに悶えているエイミィには悪いが、本人の言うとおり物理的な意味でルビーは結構硬い…とうとう、エイミィまでルビーの毒牙にかかってしまった。

『フフン、ルビー殿?今やストーリー途中での乗り換え・改造強化はテンプレ、いわばストーリー後半型!!しかもその後はやたらと一騎当千になって無双解禁になる傾向が多いのでござる!! ストライクとかフリーダムとかストライクフリーダムとか…etc。何より!!』

『何より?』

『きっと後半型の方が目立つでござる!!』

「「「「「……」」」」」

 主の補佐と、必要ならば助言者としての機能も求められるインテリジェントデバイスだが…目立ちたがりの助言者兼補佐役ってどうなんだろうか?

 皆、問題ありまくりと思ったらしく、あきれて言葉を失っている。

『ルビー氏、レイジングハート殿、そして某の三人で出発したデバイストリオ…しかし気がつけばルビー氏はともかく、レイジングハートにまで水をあけられる始末…ここで一気に巻き返しを図るでござる!!』

『あれ?私達トリオなんて組んでましたっけ?』

『ガーーーン!!』

 自分で擬音を放つなんて切れているなバルディッシュ?

『そ、それはないでござるよルビー氏!!これでも自分、当初はプレシア・テスタロッサお手製の高性能デバイスとして登場したのですぞ!?気がつけば魔法発動の時しかしゃべらなくなってストレージでも良くね?みたいな扱いでしたけど!!』

 またメタな事を言い出したものだ。

 何やら色々たまっていたみたいだが、青少年ならぬ青デバイスの主張か?

『大体、姉妹合体って何でござるか!?不純にも程があるでござろう!?自分だけ仲間外れなんてひどいでござる!!』

『そうは言っても、フェイトちゃん魔術使えませんし〜バルディッシュは基本男でしょう?』

『尚の事問題ないではござらんか!!女同士で更に姉妹合体なんてアブノーマル過ぎでござるよ。どうせなら3P…』

「はいそこまでよ」

『ぶぎゅ!!』

 いきなりリンディがバルディッシュを掴むと、笑顔のまま適当な壁に叩きつけた。

 ぼこんとバルディッシュの形に壁がへこむ。

「子供の前で教育上良くない単語を連呼するのは見逃せないわね?」

『はぐおーーー!!』

 しかも、壁からはがれおちた所を容赦なく踏んだ。

 ぐりぐりとつま先をねじ込む動きが何所か手慣れていて、容赦の欠片すら見いだせなかった。

『な、中身が漏れ出るーーーー!!』

「リ、リンディ艦長?」

「ああ、フェイトさんちょっと待ってね、貴女のデバイスだけど調教…もとい教育は大事よ」

「は、はあ…」

『マスタータスケテーーー!!』

 バルディッシュの叫びが悲痛だ。

 一応デバイスは精密機械なのだが、そんなの関係ねーと言わんばかりの扱いである。

 おっぱぴーしそうになっているのはバルディッシュの方だけど。

「あ、あの?」

「何かしら?アリシアさん?」

「女で姉妹だと何がアブノーマルなんですか?」

『『「「「「「……」」」」」』』

 アリシアの無垢な質問に一同は顔を赤くして黙るしかなかった。

 勢いでしゃべっていたバルディッシュさえ、気まず過ぎて何も言えない。

「それに3Pってなんですか?」

「エイミィさん!!バルディッシュもこう言っていますので、改造の方お願いします!!」

「え、姉さん?」

 アリシアの言葉を、フェイトの大きな声が潰す。

 自分の質問が無視されたアリシアの頭に?マークが浮かぶが、他の皆は心の中でフェイトに向かい親指を立てていた。

 GJフェイト!!

「い、いいのフェイトちゃん?」

「はい…シグナムは強かったですから…」

 短い時間ではあったが、刃を交えたからこそ分かる事もある。

 実力者であるフェイトが自分の勝利を信じられないほど、シグナムの実力は完成された本物だった。

「私も…もっと強くならないと…」

 今回はアリシアも参戦するのだ。

 ルビーがフォローしてくれるとはいえ油断は出来ない。

 正直、少しでも戦力を上げる方法があると言うのなら、目立つかどうかは関係なくフェイトだって望むところだ。

「わかったわ、それじゃあバルディッシュを預かるね、システムを組み込んで動作確認するまで数日かかると思うから」

「はい、お願いします」

 フェイトの覚悟を確認し、待機状態のバルディッシュを受け取ったエイミィが、さっそくカートリッジシステムを組み込むために部屋を出て行く。

『マスター、帰って来たら拙者…絶対目立つでござる』

「が、頑張ってね」

「そんな万が一にも帰って来れなくなるようなフラグを立てないでほしいな…」

 作業前からすでにクライマックス近くになったエイミィが、自動扉の先に消えた。

『よ〜っし、それじゃあバルディッシュの改造が終わるまで、私達も特訓ですよ〜』

「「「はい!!」」」

 

……そんでもって、数日が経過した。

 

『フェイトちゃん、もっと早くです!!』

「はい!!」

『すずかちゃん、ポジション取りがずれていますよ!!』

「はい!!」

『アリシアちゃん、貴女がメインです!!』

「はい!!」

『苦しくったって〜悲しくったって〜』

「「「はい、先生!!」」」

 アースラの訓練室ではここ数日、三人と一本の訓練が続けられていた。

 指導しているのはルビーだ。

「は〜い、バルディッシュの改造完了〜みんなのお姉さん、エイミィが戻って来ましたよ〜」

 陽気な口上と共に訓練室に入って来たのは自己申告の通りエイミィだった。

 ほくほく顔なところを見ると、改造は上手くいったようだ。

「お〜皆頑張ってるね〜お姉さんは感動した!! はい、フェイトちゃん。バルディッシュかえすよ〜」

 エイミィのテンポがいい。

 ちょっとハイになっているようにも見えるが、きっと急ピッチで仕上げてくれた反動だろう。

 差し出された待機状態のバルディッシュをフェイトが受け取る。

『帰って来た!!マスターよ。私は帰って来たでござる』

「バルディッシュ、そんな無理してネタに走らなくていいから。あ、ありがとうございますエイミィさん」

「いえいえ〜それでルビーちゃん、これは何の特訓なの?」

 見た所、三人の連携に関係する特訓のようだが…。

『フフフ、見たいですか知りたいですかそーですか、ではお見せしましょう』

「お、お願いね…」

 むしろ何が何でも見せてやるという感じのルビーに、若干引きながらもエイミィは頷いた。

 実際、興味はあるのだ。

『さあ三人とも、行きますよ〜』

「「「はい!!」」」

 三人が元気よく答えると、どこからともなく軽快な音楽が流れてきた。

 それに合わせて三人は、踊るようにして移動し、自分の立ち位置に立つ。

「「「『勝利のポーズ、キメ☆』」」」

 ビシッと戦隊物の決めポーズみたいなものを決めた。

 その背後では、ルビーお得意の魔術式の花火が上がっている。

「えっと…何これ?」

『だから決めポーズですよ。せっかく三人揃ったんですし〜この辺りでちゃんと決めポーズを…』

「いや、そうじゃなくて、魔法の練習とか魔術の練習とかは?しなくていいの?」

『エイミィさん…』

 ルビーがやれやれだぜな声を出した。

 多分呆れているのだろうが、そんな反応をされるほど変な事を言ったつもりはない。

『たった数日の練習や修行で強くなれたら誰も苦労しませんよ?何所のチートキャラですそれ?』

「う…」

 確かに正論だ。

 そんな一夜漬けみたいなやり方で実力が上がるのなら、普段の練習や修行の意味がない…ジャンプ系のマンガに真正面から喧嘩を売るような物言いだが、エイミィはあまり深く考えないようにした。

 踏み込んだ足下に地雷が埋まっていそうな気がするし、ルビーの奇行は第三者として見る分には割と楽しい。

 そして、巻き込まれるのがほぼ確定している少女達にはご愁傷様、彼女達の未来に幸あれ……本当に、幸あると良いなと思う。

『あはぁ〜バルディッシュも帰ってきて、これでなのはちゃんが復帰したらいよいよ四人!!あと一人は…いっそ間に合わせでヴィータちゃんにしときましょうかね〜赤いし〜。や〜っぱり初志貫徹ですよね〜〜』

 ルビーがやたらと不穏当な事を言い出した。

 初心とか言っているけど一体何を考えているのだろうか?…部屋の隅にアイドルマスターのゲームが落ちているのは何か関係があるのだろうか? 

 しかもヴィータが間に合わせ?

 本人が聞いたら怒り狂いそうだが…それともルビーに見つからないようにした方が彼女の為だろうか?

「なのはちゃんの抑止力って実は凄かったんだね〜」

 エイミィが心底感心した声を出す。

 なのはがいないと、ルビーはここまで暴走するものらしい。

 フェイトにアリシア、そしてすずかでは三人揃ってもルビーのストッパーには力不足のようだ。

 思えばなのはは、結構力技の突っ込みも遠慮なく行っていた武闘派さんでもあった。

 いなくなって初めて気がつくありがたみ…死んではいないけど、適当なところで戻ってきてくれると助かるな〜とも思う。

「「「「え?」」」」

『おや?』

 そんな事を考えていたら、いきなり警報が鳴り出し、弛緩していた空気が緊の一文字に取って代わる。

 現状で警報が鳴るような状況は一つしかない。

『見せ場キタ━━━(゜(゜∀(゜∀゜(☆∀☆)゜∀゜)∀゜)゜)━━━!!!』

 バルディッシュが織田雄二風に叫んだ。

 残念ながら本人のようなさわやかさは微塵もないが、テンションが最初っからクライマックスになっているのは良くわかる。

『飛んで火にいるなんとやら〜赤色ゲットのチャ〜ンス』

 ルビーのテンションも高い…これはまずい、危険すぎる。

 ヴィータ…出来れば逃げろ。

 そんなルビーをガン無視で、顔を見合わせた少女達は頷いて訓練室を出て行く。

 目指すのはブリッジ……様々な不確定要素を内包しながら、第二ラウンドのゴングが鳴る。

 

説明
リリカルなのはに、Fateのある者、物?がやってきます。 自重?ははは、何を言ってるんだい?あいつの辞書にそんなものあるわけないだろう?だって奴は・・・。 ネタ多し、むしろネタばかり、基本ギャグ
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