リリカルとマジカルの全力全壊  A,s編 第十話 Hope
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「に、にゃ…」

 なのはは多分、人生最大の危機に直面していた。

 これほどのプレッシャーを感じたのは英霊エミヤシロウと真正面からガチンコをやらかした時以来…あるいはそれ以上だろうか?

 正直逃げ出したいのが本音だが、そう言うわけにもいかない。

 本人非公認ではあるが、悪魔を通り越して魔王の異名で呼ばれるなのはにそれほどのプレッシャーを与える最恐にして最凶の相手は、御剣剣士である家族の脇を通り抜け、レイジングハートの警戒網をスルーして、いきなりなのはの目の前に現れた。

「体の調子はどう?」

 当然と言うべきか当り前と言うべきか…“自分の見舞いに来た友人”を防ぐような防御は存在しない。

 ただし、アリサの目的がただの見舞いだけで終わりそうないのが問題だ。

「だ、大丈夫だよ。まだ少し体がきついけど、普通に動くくらいは出来るようになったの」

「そう、それはよかったわ」

 アリサは笑顔だ。

 笑顔なのに…今その顔がとても怖く見えるのはきっと目が笑っていないからだろう。

「それなら遠慮はいらないわよね〜♪」

「え?」

「なのは、今日はお見舞いついでに色々OHANASIしに来たのよ?」

「お、お話?」

「ううん、OHANASIよ」

 高町家のお家芸であるOHANASIをよもや自分がされる日が来るなどとは、夢にも思っていなかったなのはである。

「いきなりあんたが筋肉痛で学校休んで、すずかとフェイトも良く分からない理由でお休みするから、私とっても寂しかったわ〜」

「そ、そうなんだ」

 あの直情傾向のあるアリサにこんな持って回った言い方はらしくないと思うが…本当は怒鳴り倒して詰問したいのを必死で押さえているのが、体が小刻みに震えているのと、笑顔がひきつっているのでよく分かる。

 元々こんな駆け引きに類する事は苦手な子なのだが、それもそろそろ限界らしい。

 噴火までの余裕は後どれだけだろうか?

「この半年ね、我慢してきたの。でもいい加減…私、堪忍袋の緒が切れてもいいと思うのよ。海より広いあたしの心も、ここらが我慢の限界よ?」

「にゃはは、アリサちゃんプリキュアみたいだね?」

「ありがとう。つまり何が聞きたいのかと言うと、あんた達が揃って何をしているのかを聞きたいの」

 非常にまずい。

 アリサに全くブレがない。

 何が何でも聞き出してやると、サスペンスの熱血刑事のような気迫を感じる。

 犯人役はなのはだ。

 そして、この場にはすずかもフェイトも家族もいない上に、アリサの目の前でしゃべるわけにもいかないレイジングハートはただの赤い玉である。

 故に、なのははこの状況を自力で打破しなければならないのだが…かなりハードルが高いと言わざるを得ないだろう。

 得意の魔法でこの状況を吹き飛ばせたらどれだけ楽かと物騒な事を、頭の隅で考えなくもないが、それは人間としてやっちゃいけない事だ。

「私、皆の事を友達だと思っていたのに…」

「うう…」

 なのはの見ている前で、アリサの目が潤む…今度は泣き落しで来られた。

 アリサの性格を考えれば、狙ってやっているとは考えにくいが…天然だろうが養殖だろうがその威力は変わらない。

 女の涙は場合にもよるが同性にも有効で、なのはの胸に罪悪感と言う名の見えない刃がグサリぐさりと刺さってくる。

 もし罪悪感が目に見えるものだったならば、今のなのははハリネズミ状態だろう。

「そんなつもりじゃ…」

 なのはは言いかけた言葉を飲み込んだ。

 物事をどう受け取るかは、最終的には受け取り側の主観であり、アリサは泣いている。

 意図したわけではないが、アリサを除け者にしている自覚はなのはにだってあるのだ。

同時にそれはある意味で仕方がない事だとも思う。

 自分から望んで飛び込んだなのは…最初から魔導の世界にいたフェイト…生まれつき魔の因子を持っていたすずか…そして、完全な一般人であるアリサ…ある意味で彼女は最初から仲間外れだったのかもしれない。

 魔術が秘匿しなければならない物なのは言わずもがな、魔法だってこの世界で公表するわけにはいかない技術である。

 それが絶対であるとは思わないが、アリサを魔法や魔術の世界に巻き込んでいいものかどうか、なのはには判断できない…ルビーあたりなら簡単に「OKですよ〜」とか言いかねないが、良くも悪くもなのはにはあそこまでお気楽極楽にはなれない。

 そんななのはが、アリサにどんな言葉をかけようと、言い訳以外にはならないだろう。

「そう…これほど頼んでもだめなのね…」

「え?」

 どうやら思考の海にどっぷりつかってしまっていたようだ。

 目の前のアリサが顔を伏せて震えていて…それを見ただけで状況を理解したなのはが青くなり、血の気が引く…どうやら結構な時間放置してしまったらしい。

 子供は基本的にせっかちである。

「こうなったら意地でもしゃべってもらうわよ!!」

「え?アリサちゃん、何するつもり?」

「八神はやての召喚!!」

「は?にゃーーーー!!」

 なのはの疑問より、扉がドカンと音をたてて開く方が早かった…ここは他人の家だと言うのに、何って事しやがる!?

 驚きでなのはの髪が全部逆立ってしまったぞ!?

「呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃーん!!問おーう、あんたがうちのマスターかーーーー!?」

 ハイテンションに登場したのは本当にはやてだった。

 アリサと一緒に見舞いに来てくれたのだろうが、今までずっと部屋の外でスタンバっていたのか?

 何って女だ八神はやて!!

「なのは…あんたが悪いのよ?」

「ア、 アリサちゃんの目からハイライトが消えている!?」

しかもいつの間にかなのはの背後に回り、拘束している!?

「ふははは〜アリサちゃんのお墨付きや〜なのはちゃん覚悟しーやー!!」

 前門に指を卑猥にわきわきさせているはやて、後門に身動きできないように羽交い締めしているアリサ…なのはに逃げ道はない。

「いやーーーおかーさーーーん!!」

 絹を裂くようななのはの悲鳴…だが残念、現在の高町家には家人がなのはしかいない。

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

「はあ…はあ…」

 乱れたベッドの上で、これまた着乱れたパジャマのなのはがあえいでいた。

 頬を薄紅色に染めているのが微妙に色っぽい9歳児である。

「むう〜うちのくすぐり攻撃に10分以上も耐えるなんてやるななのはちゃん?」

 まあ…所詮は9歳、この辺りが限界である。

「不埒な想像をした人達は爆発したらいいと思うの…」

 なのはが息も絶え絶えに呟く。

 治りかけとはいえ、病人相手にする暴挙では無い。

「な、なのは?なのはが何を言っているのか分からないわよ?やり過ぎた?」

「うん?ああ、だいじょうぶやアリサちゃん、多分極限状態でどっかとチャンネルがつながっとるだけや、しんぱいあらへん。うちも時々あるもん」

「時々って…その判断基準が全然安心できないんだけど?」

 かなりやばいんじゃなかろうかとアリサに背筋に冷たい物が流れる。

「しゃーないな、ここまで頑固やといよいよお待ちかねのボインタッチで…」

「にゃーーーー!!」

 たまらずなのはが悲鳴を上げた。

 はやての言うそれは、アリサで威力を実証済みである。

「なのは…ごめんね」

「同情するなら止めてくれなの!!」

 収拾がつかないカオス状態なのは今更としても、騒ぎすぎである。

 女の子が三人集まればかしましいと言うが、きっとこういう状況を指しての言葉だろう。

「アリサちゃん?私達、お友達だよね!?はやてちゃんもお友達!!お友達でお友達を脅迫するなんて人の道に外れているの!!」

「HAHAHA、なのはちゃんが何言うてんのかわからんな〜うちは乳の道を行き、爆乳から貧乳まで全てを掴む女、八神はやてや!!」

「調子に乗り過ぎて何言っているのか分からないなの!!」

 とりあえず、なのはの胸を揉みしだく気満々なのは理解できた。

 じりじりと距離を詰めるはやてに、何度で同性相手に貞操の危機を感じなければならないのかとなのはが下がるが…ベッドの端までの距離などたかが知れている。

 案の定すぐに追い詰められていた。

 はやてもはやてで、車椅子の病弱少女の設定は何処に行った?と言う感じのアグレッシブさでなのはににじり寄ってくるはやての顔は欲望に染まっていた。

 今にもよだれが垂れそうだが、それでいいのか八神はやて!?

「あははーーーーー!!…まあ、冗談はこんくらいにしよか?」

「「え?」」

 なのは絶体絶命のピンチの救いは…ピンチの原因であるはやて本人から来た。

 あまりに意外過ぎる展開に、なのはとアリサの言葉が重なる。

「堪忍な〜なのはちゃん、悪気はなかったんよ〜からかう気は一杯やったけど」

それはそれで問題ありまくりだとは思うが、はやての豹変に対して目を丸くしている二人では突っ込めない。

「でもな〜なのはちゃんも悪いんよ?何しているのか知らんけど、アリサちゃんを除け者にしたらあかん!」

「「……」」

 二人は無言、口は一応動いているが、言葉になって出てこないでいる。

 あのはやてが…まともな事を言っているだと?

「アリサちゃんもな〜なのはちゃんやすずかちゃんが心配なんよ〜勿論うちもや。そりゃあね、お友達にも秘密にしときたい事くらいあるやろ?でもそれで心配させてもうたらあかんよ。それが友達ってもんや」

 うんうんと頷きつつ、いいこと言ったとばかりにどや顔なはやて…。

「アリサちゃんもな、そう頭ごなしに吐かせようとせんでええんやない?お話の余地はあると思うで?」

 言いたい事を言い終わったはやての目の前で、なのはとアリサが視線をかわして頷きあう。

「誰よあんた!?」

「こんなのはやてちゃんじゃない!?」

「え?」

 唖然としていた友人二人から、いきなり知らない人扱いされたはやてが呆ける。

「アリサちゃん大変!!この人はやてちゃんの偽物だよ!!こんなのはやてちゃんじゃない!!」

「間違いないわ!!はやてがこんなまともな事を言うわけがないもの!!きっとはやての妹とかでクローンだわ!!」

 しかも何やら好き勝手な事を言われ始めた。

 流石のはやてもちょっと傷つく。

「あーないない、妹とかクローンとかそんな設定ないよ。うちは正真正銘八神さん家のはやてちゃんや。二人共何テンパッとんの?」

「それなら病気だね!!」

「頭が悪いのね、はやて!?」

「あれ?うち今ケンカ売られとるん?」

 アリサの言い方は問題がありまくり過ぎる。

「大変だよはやてちゃん、早くここに横になって!!」

「え、いやそこはなのはちゃんのベッドで病人はなのはちゃんやろ?」

 残念ながら、はやての主張が聞き入れられる事はなかった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「何でこんな事になったんやろ?」

 結局、はやては二人に抵抗できず、なのはのベッドを占領するはめになった。

 なのはのお見舞いに来たはずなのに、いつの間にかはやての方が病人扱いされていると言うミステリー…いや、確かにはやても現在進行形で原因不明の病人ではあるのだが…。

「くっつ、これが世界の修正力っちゅーやつかいな?」

 関係ないとおもう。

 日ごろの行いと、あまりにキャラ違いな事をやらかしたはやてが悪い。

 なれない事をすると、自分だけでなく周りにまで異様なリアクションを取らせてしまうといういい例だ。

(…まあいいか、かんにんな〜なのはちゃん)

 心の中で、はやてはなのはに謝る。

 なのはが何かを隠しているのは間違いなく、それが自分を含めた人間関係をぎくしゃくさせているのに違いはない。

はやてもなのはが何を隠しているのかを聞き出すために今日ここに来たという点ではアリサとの違いはないのだが、二人で協力してはやてを布団の中に放り込んだコンビネーションを見れば、なのはの秘密が開帳されれば、二人の仲は案外すんなり元に戻るだろう。

同じ流れですずかとフェイトに関する関係も修復されるはずだと、狸なはやてはこっそりニンマリする。

 自分から進んで道化になったかいがあったと言う物だ…半分くらいは本能と言うか趣味的な物が混じっていたことも否定できないが…ちなみに何故アリサの追及を止めたのは、あのままアリサがなのはに無理やり口を割らせた場合、その後に間違いなく遺恨が残ってしまうからだ…そんな“心残り”を作りたくなかった。

(…そう言えば、あの子たちは大丈夫なんかな?)

 心残りと言う単語に、はやてが思い浮かべたのは自分の家族達…ヴォルケンリッターだ。

 まだ半年、されど半年……ヴォルケンリッター達との間には、確かに絆が結ばれているとはやては思う。

 彼女達も、戦わない平穏な生活になれてくれた。

(後は…うちが少しでも長く…)

 自分の体に起こっている原因不明の麻痺が進行している事を、他ならぬはやてが一番理解しているが、しかしそれを誰にも伝える気はない。

ヴォルケンリッターは勿論、目の前にいるなのはやアリサ、ここにいないすずかやフェイトにもだ。

 伝えてしまえばきっと…この時間が終わってしまう。

変わってしまう…今のままではいられない。

(だから…少しでも長く…生きたいな〜)

何より自分が死ねば、ヴォルケンリッター達は、別の主の元で再び戦いの日々を送る事になるかもしれないのだ。

 それが避けられない運命だと言うのならせめて…少しでもこの時間を楽しんでほしい…ただこの安らぎの時間だけを持って行ってほしい。 

 そして自分も、願わくはこの時間を持って逝きたいと思う。

(連絡もほとんど入れてこんし、帰って来たらお説教やね)

 とはいえ、肝心の家族たちは数日前からから家を空けている。

 数日前、いつもの人助けで少し時間がかかりそうな事件が起こったと言って、彼等は家を留守にすることを詫びて出て行った。

 いきなり一人に戻って、はやてもさみしいが何時もの人助けとなれば、最初にOKを出した手前、わがままも言いづらい。

 本当はずっと一緒にいてほしいが、今更のように引きとめて、はやての異常に気付かれたくもないし、今回は妙に四人ともやる気にあふれていたので、水を差すのも躊躇われたのだが、一体どんな事件なのやら…クリスマスパーティには戻ってくると約束してくれたが、出来れば早く終わらせて帰ってきてくれると嬉しいと思う。

「アリサちゃん大変!!はやてちゃんがなんだか遠い物を見る目になっているの!!」

「やばい、いよいよ症状が悪化している!?こうなったらお金はかかるけどBJ先生に…」

「だから勘違いやって…チョイ待ち!アリサちゃんBJ先生に繋ぎつけられるんか!?」

 何気にそっちの方が凄い事だと思う。

 今日のなのはの部屋はとってもにぎやかだ。

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

 はやてがそんな風にじゃれあっていた時、彼女の家族が何をしていたのかと言うと…。

「「「「とってもおいしく焼けましたーーーー!!」」」」

 別の次元世界の中心で、愛を叫ばずに肉を焼いていた。

 しかも漫画肉である。

 肉を焼くという意味では焼き肉で間違いないが、広い草原のど真ん中でたき火をし、その上に漫画肉を置いて焼いて大自然を満喫していた。

 流石にはやても、自分の家族がこんな豪快なアウトドアをやっているなんて夢にも思うまい。

 どこぞの騎士王が見れば雑だと一言で切り捨てられるであろうが…青の槍兵辺りは嬉々として参加しそうだ。

「この世のすべての食材に感謝をこめて、いただきます!!」

「「「いただきます」」」

 四人が肉を中心に手と手のしわとしわを合わせていただきます…礼儀はちゃんとしているのだが、状況が状況だけに妙なサバトじみた物に見えなくもない。

「思ったより蒐集も順調だな」

「本当だよな、案外魔力を持った魔獣もいるもんだ」

 シグナムの言葉に、ヴィータが頷いた。

 ここ数日、ヴォルケンリッター達は別にキャンプを楽しんでいたわけでは無い。

 魔物とバトル→勝利→蒐集とリアルモンハンな事を繰り返していたのだ。

 ちなみにその後の手順に仕留める→捌く→焼く→食べる(今ここ)の手順を加えた物が漫画肉の正体である。

 これで直ぐ傍に恐竜もどきの全身骨格でもあれば、実に|昭和的(ノスタルジック)な光景だ。

「転移事故で変な次元に入り込んじゃった時にはどうしようかと思ったけどね」

「シャマル…笑いごとでは無い。あの時はどうなるかと思ったぞ?」

 嬉しそうに肉をほおばりながら…何やらとんでもない事を言ったシャマルを、呆れたザフィーラが窘める。

「う〜ん、今でも何で事故ったのかよく分からないのよね」

 シャマルは本当に困っているらしい。

「そんな適当な…」

「まあまあ、結果が良かったんだから〜」

 あっけらかんとそう言うと、持っていた闇の書のページを開いて見せる。

「じゃ〜ん、389ページよ〜」

すでに半分以上のページが埋まっていた。

本格的に蒐集を始める前には一〇〇ページと少しだったと言うのに、この数日で二〇〇ページ以上の蒐集をした事になる。

上機嫌の理由はこいつらしいが、確かに有頂天になっても仕方のない成果だろう。

闇の書のページを二〇〇ページ埋めるだけの魔力と言うのは、単純計算で上級魔導師十人分以上と言うとんでもない量である。

当然それ程の魔力の持ち主はめったにいないし、いたとしてももれなくかなりの強者である。

それを相手にする危険性を回避できたと言う事ともう一つ、はやてを救う可能性が上ったと言う事なのだから、四人の纏う空気が異常に軽く弛緩しているのもまた仕方がない。

 以下に騎士とはいえ、彼女達も楽しければ喜ぶし悲しければ泣く、予想していた以上の成果を前にして、少々気が抜けてしまったとしても責められるべきことではないはずだ。

「やれやれ…」

 ザフィーラがため息をついた。

 厳然たる成果がある以上、お小言も言いづらい。

 問題の転移事故がなければ、この短期間でこれほどの成果は望めなかったのもまた事実だ。

「しかしあの生物…不細工な見た目にも関わらず。一匹一匹がなかなかの魔力を持っていたな?」

『へえ〜そんな生き物がいたんですか?』

「ああ、何か潰れた饅頭のような生き物だったな。ほら、あれじゃねえの?美味い物ほど見掛けが悪いとかなんとか?」

 肉をほおばりながら、ヴィータが合いの手を入れてきた。

「そ、そんなにすごかったんですか?」

「まさに踊り食いと言う奴だったな」

「みんな足腰立たなくしちゃったのは申し訳なかったけど…」

 皆好き勝手な事を言っているが、特にシャマル辺りがひどく物騒な事を言っている。

『そんな奇妙な生き物がたくさんいた物ですね〜』

「ああ、彼等には悪い事をしてしまったが、殺してはいない。主が無意味な殺生を嫌われているからな」

「いい人なんですね」

「当り前だよ、なんたって姉ちゃんだぜ?」

 会話が途切れると、しばらくは黙々と食事を進めて漫画肉を骨にした。

「さて…そろそろやるか」

「だな」

「そうね…」

「うむ、異論はない」

 食事が終わり、一息ついたシグナムが姿勢をただし、全員がそれに倣う。

「一番、列火の将シグナム!!」

「二番、鉄槌の騎士、ヴィータ!!」

「三番、湖の騎士、シャマル!!」

「四番、守護獣、ザフィーラ!!」

『五番、ルビーちゃんですよ〜!!』

「ろ、六番、アリシア・テスタロッサです…」

「「「「「『……』」」」」」

 六つの沈黙が重なる…やはり、二人多い。

 レオタードのようなバリアジャケットに、大きなマントをつけたどこかで見たような気がする金髪の少女と、その手にあるおもちゃのような杖…。

「「「「誰だ|お前(あなた)!?」」」」

「ひゃう!!」

 重なる誰何の|四重奏(カルテット)に少女…アリシアがびくっと身をすくめる。

「何時の間に近くに来てたんだ!?って言うか何普通になじんでんだよお前!?」

「そ、それはルビーさんが…」

「「「「ルビー?」」」」

 ヴォルケンリッターの4人の胡乱な視線+アワアワ状態の1人の視線が一点に集中する。

 両側にそれぞれ《やったね大成功!!》《ドッキリ大成功!!》のプラカードを持っているルビーの姿は突っ込みどころに困らない、っと言うか何処から突っ込みを入れたものか迷う。

『さぷらーいず〜〜〜〜!!』

「またお前か!!」

『またルビーちゃんですよ!!』

「何で怒鳴るんだよ!?」

『ノリです!!』

 この中でいちばんルビーとの接点が…不幸な事にも多いヴィータが代表で怒鳴りつけるが、カウンターで怒鳴り返されたうえに漫才のようなやり取りに飲み込まれた。

「って言うかお前がここにいるって事は魔王も来ているのか!?」

 魔王と言う単語に、ヴォルケンリッター達が目に見えて緊張した。

 すでにさっきまでの弛緩した気配はなく、戦闘モードになっている。

『ああ、なのはちゃんは今回はお休みですよ〜その代りピンチヒッターを連れて来たんです』

「は、初めまして、アリシア・テスタロッサです」

 改めて自己紹介をするアリシアに、ヴォルケンリッター達があからさまにホッとする…ちなみに魔王と言って普通に通じているようだが、ここに本人がいたらどんな反応をしていただろうか?

「え〜っと…もう一度聞くけど、お前ら何時の間に現れたんだ?」

『あはぁ〜よくぞ聞いてくれました〜これぞルビーちゃんお楽しみ機能の一つ〜』

「お楽しみってなんだよお楽しみって、こっちは心臓止まるかと思ったんだぞ…」

「ヴィータ、黙って聞け」

 突っ込みを入れようとしたヴィータを、シグナムが黙らせた。

 ルビーはサプライズと言っているが、これはなかなか冗談で済まない状況だ。

 確かに、気が抜けていたのは認めるし、浮かれていたのも確かではあるが…だがしかし、駄菓子かしである!! 

 障害物のない草原のど真ん中で、ベルカの騎士が四人も集まっていながら、だれ一人気がつかなかったなどありえるだろうか?

いやない(反語)!!

今回はたまたま無事だったが、いきなり不意を突かれて全滅していたかもしれない…その秘密をわざわざ自分から明かしてくれるというのなら、この場は黙って聞くのが正しい選択だろう。

シグナムの言いたい事に気がついたヴィータだけでなく、シャマルとザフィーラもゴクリと唾を飲んで緊張する。

『使ってる魔術は気配遮断ですよ〜ルビーちゃんとそれを持っている人限定で、何となく目をそらしてしまったり認識を誤魔化す魔術です』

 簡単に言うが、ヴォルケンリッター全員の目を欺くなどかなり高度な魔術なのは間違いない。

『名付けて〜“こっそり近づいて膝カックンして驚かしちゃうぞ〜♪”の魔術です』

「「「「なんじゃそら!!」」」」

 アリシア以外の全員から突っ込みが来た。

「膝カックンってお前!!日本妖怪の総大将みたいな能力を何くだらない事に使ってんだ!?」

『え〜だってびっくりしたでしょう?』

「確かにびっくりしたよ!!そのネーミングセンスにな!!」

『律儀に突っ込みを入れてくれるヴィータちゃんは気真面目ちゃん!!』

「やかましいわ!!」

 凄まじいまでの才能の無駄遣いである。

「…パトラッシュ、あたいもう突っ込み疲れたよ…眠いんだ」

「ヴィータ、我はパトラッシュでは無い。いい加減犬扱いしていると噛むぞ?」

「もうこの杖が何しても驚かないわ…」

 …ヴォルケンリッター達はルビー一般人からルビー初心者にレベルアップした。

「もういい、結局お前は何をしに来たんだ?場合によっては…斬るぞ?」

 シグナムの声の含まれる怒気の量がそろそろメルトダウンレベルだシグナムが切れそうだ。

 あのシグナムが切れたと言うべきか…それともシグナムだからこそ今まで良く持ったと言うべきかの線引きは難しい。

 すでに白く燃え尽きかけているヴィータは参考にならん。

「まさか本当にからかうためだけに来たと言うなら…」

「見つけた。シグナム」

 はっとして空を見れば、いつの間にか周囲を武装局員に囲まれている。

「時空管理局!!」

「しまった、こいつらはおとりか!?」

「フェイト・テスタロッサ!?」

 包囲網の中心、シグナムの正面にいるのはフェイトだ。

 フェイトの前方の空間にウィンドウが開き、翠色の髪の女性が映し出されるのを見たヴォルケンリッター達が自分の武器、拳を構える。

『時空管理局所属艦アースラ艦長、そして今回の事件の現場責任者のリンディ・ハラオウンです』

「ヴォルケンリッターの将、シグナムだ」

 たとえ敵対する者同士とはいえ騎士故に名乗られれば名乗り返さないわけにはいかない。

それが騎士のクヲリティー。

「目の前に道化を放り込んで気を引き、我等の気が散っている間に包囲する手際、敵ながら見事、賞賛させていただこう」

『そ、それは…ルビーちゃんの独断専行なので気にしない方がいいと思うわ』

「『……」』

 …何か色々失敗した。

 出だしから躓いてしまった感がある。

 モニターの先で乾いた笑いを浮かべているリンディは勿論、本気で感心していたシグナムもいたたまれずに、赤くした顔を逸らした。

 関係ないが奇麗どころの羞恥な顔は結構萌える。

『と、とにかく、貴方達にお話ししたい事があります!!』

 微妙な空気の中では話が進まないと、リンディが無理やり切り出した。

 前振りも何もあったもんでは無い。

 それに対して、ヴォルケンリッターの方ではヴィータが挑戦的な目でリンディを睨む。

 すでにして喧嘩腰に加え、凹凸のない胸を張ってシグナムの前に出た。

「管理局の話なんて…聞いてやろうじゃねえか!!」

『え?』

 リンディだけでなく、武装局員やフェイトが疑問符を吐き出した。

 今何か言い回し的に変じゃなかったか?

 国語の先生が聞いたら怒り出しそうな言い回しだったぞ?

『え、えっと…それはこちらの話を聞くつもりがあるって言う事でいいのかしら?』

「人の話を聞くのは当然だろう?」

 何故か他のヴォルケンリッターもその通りだと頷いている。

 特にザフィーラ…こいつは何で犬モードになって待ての姿勢になっているんだろうか?

『えっと…もしかしてなのはさん?』

「「「「っつ!!」」」」

 非常に分かりやすく、ヴォルケンリッターが身をすくめた。

「な何を言っているんだ?」

「ま、魔王様がどうかしたのかしら?」

「か、彼女がいなくてホッとしているなんて事はないんだからね!!」

 分かりやす過ぎて、誤魔化す気があるかどうかの方が疑わしかった。

『またなのはさんか…』

 傍にいてもいなくても影響を振りまく少女…高町なのは。

 ルビーだけかと思っていたが、案外彼女も…。

『まあ、なのはちゃんですから〜』

 ルビーの言葉は何のフォローにもなっていなかった。

 むしろどう言う意味を含ませてのコメントなのか気になるが、今はそれを追求する時間もない。

『まあ、話が出来ると言う事を前向きにとりましょう』

 リンディは開き直った。

 初めて、なのはの影響がプラスに働いた瞬間かもしれない。

 気を取り直したリンディは語り始めた…全てを…闇の書が元は夜天の書であった事、歴代の主の何人かがプログラムを改編した事、何より転生機能と再生機能により破壊不能な闇の書は、最終的に主の死をもって大規模な破壊を振りまく事実。

 話が進むにつれて、ヴォルケンリッターの顔色が誰の目から見ても悪くなっていった。

 特にヴィータ…思い当たる何かがあるのか、小刻みに震えている。

「…ヴィータ、お前は知っていたのか?」

「い、いや…でも何か忘れてるって…そんな感じがずっとしていたんだ。蒐集している間ずっと…」

「そうか……話は分かった」

 ヴィータの答えに頷きを返すと、シグナムがリンディに向き直る。

『それでは…』

「だが、蒐集をやめる事は出来ない」

『そんな!!』

 この場にいる全員がほっとしかけた直後に放たれた言葉にがくぜんとする。

「勘違いしないでほしい。その情報を信じられないという思いはあるが、頭から否定するわけでもない」

『それなら何で!?』

『蒐集をやめたら、彼女達の主の命を諦めるのと同意だから…でしょう?』

 リンディとシグナムの会話に、ルビーが割り込んできた。

『それは…』

 ルビーの正論にリンディが言い淀む。

 管理局が掴んでいるのは、書の真実と現状に関する事だけであって、それ以上の「ならばどうする?」と言う部分がない…管理局は主を救う方法を確立していないのだ。

「貴公等の言っている事は…おそらく正しいのだろう。しかしすでに、闇の書による主の浸食は始まっている」

 この時点で、蒐集をやめるという選択肢も消えた。

 既に闇の書は主の命を削っている…ここで蒐集をやめれば、残されている寿命を縮めるだけだ。

「主の死を、ただ座して待つ事は出来ない」

「そ、それなら私達も協力します!!」

『同じ事ですよフェイトちゃん、魔力蒐集を続ければ延命にはなるでしょうが、根本的な解決にはなりません』

 フェイトの言葉を、ルビーが魔術師の残酷さで切り捨てた。

闇の書に魔力を蒐集しても、闇の書の完成に近づくだけで、最終的に完成した時点でやはり主は死ぬせいぜい時間稼ぎが出来るかどうかというレベルの話だ。

 結局のところ、主と闇の書の関係を絶たない以上、手詰まりの状況は何も変わらない。

「わかってくれとは言わない。間違っているのは多分我々で、これからの行いは多くの人間の目に間違っていると映るだろう。それでも…」

 カチリと言う音と共に、シグナムがレヴァンティンを抜いた。

「我等には蒐集しかない。わずかでも助かる可能性があるのなら…」

 蒐集をやめれば主の死が決定してしまうが、闇の書が完成すれば管理者権限で突破口を開けるかもしれない…わずかな可能性ではあるが、主が生き延びる可能性がある。

 むしろそれ以外に主を助ける方法がないのだ。

 たとえその可能性が1%…あるいはそれ以下だったとしても|絶望(ゼロ)ではない…たとえそれが溺れる者にとっての藁であったとしても、この差は大きい。

『……私達が、同じことを考えなかったとでも?』

 リンディの夫が犠牲になった前回の事件だけでは無い。

 闇の書を何度となく封印しようとしてきた管理局だ…シグナムが簡単にひらめいた程度の事に気がつかないわけがない

 なのに、未だ闇の書はその機能を停止していないという事実が存在するその意味…。

「分かってくれとは言わない。だが、我々も主を失うわけにはいかないのだ」

 シグナムの覚悟を見たザフィーラとシャマルが構える。

「そう…だな…」

 自分の中の葛藤に決着をつけたのだろう。

 ヴィータも、グラーフアイゼンを構える。

 ヴォルケンリッターの四人は管理局と対立する道を選んだようだ。

『これ以上の説得は無理っぽいですね〜あれは見ず知らずの百より大事な一を取る人間の目ですよ〜』

「その通りだ。故に、先に謝っておく…すまない」

 ルビーの言うとおり、彼等は悪では無いのだろう。

 ただ、どうしても救いたい一人がいるだけだ。

 大事な人を救いたいという思いが悪だと言うのなら、そもそも救いなどと言う概念は存在しない。

『仕方ありません。管理局の法にのっとって、貴方達を拘束します』

 リンディも、苦渋の決断で武装局員達に拘束命令を出す。

 勧善懲悪など幻想だ。

 現に、この戦場に正義も悪もない。

 ただ両者に譲れない物があるだけだ。

「「「「……」」」」

 もはや言葉は語りつくしたと、誰もが理解していた。

 自分の正義を譲れないのならば、後はぶつかるのみ…ここに、誰も望まない戦いが始まる。

 

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リリカルなのはに、Fateのある者、物?がやってきます。 自重?ははは、何を言ってるんだい?あいつの辞書にそんなものあるわけないだろう?だって奴は・・・。 ネタ多し、むしろネタばかり、基本ギャグ
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