リリカルとマジカルの全力全壊 A,s編 第十二話 wake up
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 人間には限界がある。

 あまりにもひどい怪我、理不尽、驚愕に直面したとき、脳には自我を守るために思考の一部を放棄、あるいは麻痺させる機能が備わっている。

 年端もいかない少女…アリシアの背中から入った腕が胸を貫いている光景は、初対面のヴォルケンリッター達諸共、この場にいる全員を思考停止させるのに十分な衝撃だった。

「アリシア!!」

 驚きから一番早く正気に戻ったフェイトの叫びで硬直が解け、凍った時が流れ出す。

「おねえ、ちゃん?」

「え?ア、アリシア?」

 それは二重の驚きだった。

 苦しそうではあるが、はっきりと聞き取れる返事が返って来た事に、安堵よりむしろ驚愕の声が漏れる。

 胸を貫かれた状態、明らかに即死に見えるのに…アリシアは生きている?

 それどころか、意識まであるようだ。

「…動くな」

「っつ!?」

 とっさにアリシアの元に行こうとしたフェイトだが、制止の声に動きを止めざるを得なかった。

 アリシアの姿があまりにもショッキング過ぎて、そこにばかり目が行って気がつかなかったが…アリシアの後ろに誰かいる。

 仮面をつけた男…そしてその立ち位置からして、間違いなくアリシアを貫いている腕の持ち主だろう。

「この娘がどうなってもいいのか?」

「う…」

 フェイトだけでなく、この場にいる全員が従うしかなかった。

 アリシアは生きている…しかし、男の手は相変わらずアリシアを貫いたままで、その手の中には彼女のリンカーコア…完全にアリシアを人質に取られた形で、下手な事は出来ない。

「アリシアを…離せ…」

 だれもが初めて見る…フェイトの明確な憎しみが男に向けられている。

 彼女も今の状況が分かっていないわけではないが、湧き上がる衝動と怒りの感情を御しきれていない。

普段、いくら冷静に見えても、彼女もまた十にもならない子供なのだ。

家族の命を人質に取られて、それでも冷静でいられるほどの感情制御を求める方が無茶である。

「落ち着けテスタロッサ!!」

飛び出そうとするフェイトの肩に手を置いて止めたのはシグナムだ。

フェイトの相手をシグナムがしていたのは僥倖だった…他の誰かがフェイトのストッパーになれたとは思えない。

「貴様…どう言うつもりだ?」 

しかし、だからと言ってシグナムが冷淡かと言えば……そうでもない。

 ヴォルケンリッターの将として、常に冷静な彼女だが、その本質はむしろ彼女の属性である炎に近く、同時に誇り高い騎士のそれでもある。

 そんなシグナムが、背後からの完全な不意打ち、しかも年端もいかない子供を狙った行為に対してどんな感情を持つかは、言葉以上にそのスカイブルーの瞳が語っている。

 むしろ男に向ける視線には、十分すぎるほどの敵意が内包されている。

 しかもそれはシグナムだけに限ったことでは無く、他のヴォルケンリッター達も似たような厳しい視線を男に向けている。

「窮地を救ってやっただけだ」

「それに関しては…感謝しよう。ならばその少女はもう不要だろう?解放してやれロッ…」

「その名を呼ぶな!!」

「くっぁ…」

 感情が高ぶったのか…それとも脅しの為に態とやったのか…アリシアのリンカーコアを持つ手に力が籠ったらしく、アリシアが苦悶の声を上げる。

「アリシア!!」

「テスタロッサ、こらえろ!!」

 もはや肩に手を置くだけでは止められないと、シグナムがフェイトを羽交い締めにする。

 ここで彼女を止めなければ、最悪の結果すらありうるのだ。

「チッ…余計な事をしゃべるな」

「くっ…」

 仮面で表情は読めない物の、忌々しげな男の言葉に、シグナムは悔しげに黙るしかなかった。

 アリシアのリンカーコアは、奴の手に握られているのだ。

 これ以上刺激するわけにはいかない。

「そして、お前もだくそ杖、こっそりチャンスが来るのを待っているのだろうが、お前がそこにいる限り油断はしない」

『…迂闊でしたね〜ルビーちゃん大失敗です〜』

 だらりと脱力していたアリシアの手から、ルビーが抜け出して自立飛行で浮かぶ。

 男の言う通り、アリシアを助ける隙を窺っていたのだろうが、とっくに見抜かれていたらしい。

『まさかこのタイミングで介入してくるなんて…ルビーちゃん一生の不覚ですよ〜』

「……」

 何時も通りの口調を崩さないのは、ルビーなりの強がりだろうか?

 男が無言で空いた手をルビーに向けると、複数のバインドが展開されるが、当然ルビーは抵抗どころか身動きすらしない。

 されるがままに空中に磔にされる。

 流石のルビーも、魔力を封じるバインドに拘束された状態では何もできない。

『用意周到ですね〜?』

「…お前が一番邪魔だったからな」

『あはぁ〜ルビーちゃんの人気者〜』

 男の言葉は本音だろう。

 会話の内容から両者が初対面では無いのが窺い知れるし、それならばルビーの脅威を知っていてもおかしくない。

 アリシアを人質にしたのも、本命はルビーに対する抑止力と言う可能性もある。

『でも〜少し迂闊じゃないんですか?そんな恰好でルビーちゃんの目の前に現れるなんて〜ねえ、“猫”さん?』

“猫”と呼ばれ、男が苦々しく、苛立たしげにあからさまな舌打ちをする。

 ルビーもルビーで、こんな状況でありながら何時も通りの口調だ……しかし、言葉の中に含まれている何かがその怒り様を感じさせる。

「魔力の質で個人を判別するお前には無意味だろう?」

 確かに、魔力で個人を特定できるならば、外見がどうであれ意味はあるまい。

『でも〜このタイミングで現れたおかげで、ルビーちゃんには夜天の書の主が誰なのか分かっちゃいましたよ?』

「「「「「っ!!」」」」」

男だけでは無く、ヴォルケンリッター達も同様に息をのむのだった。

 ルビーの言った事は、男よりむしろ|彼女(ヴォルケンリッター)達にとって聞き捨てならないことなのは間違いない。

『ちょっと迂闊でしたね〜彼女が主なんでしょう?書の主はやが…』

「それ以上しゃべるな!!」

 いきなり、光と怒声が降って来た。

 ルビーと男の会話に集中していた所に、完全な不意打ちだ。

 だれ一人として反応できない…光が砲撃魔法だと理解できたのは、光が通り過ぎた後にルビーの姿がなく、地面に大きな爆発とともにクレーターが出来ていたからだ。

「…しゃべり過ぎだ。奴のペースにのせられるな」

「す、すまない…」

 やっと状況把握が現実に追いついた一同が空を見上げる。

 声の主はすぐに見つかった…っと言うより、最初から隠れる気はなかったのだろう。

 堂々と、自分より低い位置にいる全員を見下ろしている…仮面のスリットから…。

「な!?」

「もう一人…だと?」

 そこにいたのは、やはり男だった。

アリシアを人質にしている男と同じ仮面をかぶり、着ている服や姿恰好もそっくりだ。

一人でも厄介な事になっていると言うのに、正体不明の怪人物がもう一人…奴がルビーを打ち落とした張本人に間違いあるまい。

『…私は時空管理局所属艦、アースラ艦長のリンディ・ハラオウンです』

 空間に投影されたウィンドウが開き、映ったのはリンディだ。

 アースラからこの状況を見て、あわてて通信をつなげて来たのだろう。

この状況は、子供や一般局員に任せるには荷が重い。

『貴方達の目的はなんですか?』

 法律的に見て、男達の行動は公務執行妨害に加えてアリシアの傷害・拉致監禁に当たる。

 次元間を移動できるような力を持つ魔導師が、時空管理局も管理局法も知らないと言う事はないだろう。

 いきなり魔導師になったなのはとは違う。

 故に、こんな大それた事をする目的があるはずだがしかし、男達は自分達に話しかけているリンディを無視して、シグナムを見ている。

「…蒐集しろ」

「……何だと?」

 

――――――――――――――――――――――――――――

 

「ここにいる連中から、魔力を蒐集しろと言っている」

 理解できなかったわけでも、聞こえなかったわけでもないが、思わず疑問符で返してしまったシグナムに、より具体的な言葉で返してきた。

「主を救いたいのだろう?何を躊躇する事がある?」

「……」

 それを持ち出されると痛い。

 主の限界が近いのは事実だし、フェイトは勿論、アリシアだって魔法は素人だが、その内包する魔力が強大なのは、先ほどの魔力弾を見ても明らかだ。

 この場にいる全員から魔力を蒐集すれば、かなりのページを埋められるだろう。

 蒐集する相手として、申し分はない…申し分はないが…。

「その子を人質に…蒐集しろと言うのか?」

 ギシリと、噛み合わせた上下の歯が軋む。

 言葉に出来ない怒りがシグナムの中を駆け抜けていった。

「フザケンナ手前!!」

 そしてそれはシグナムだけの感情では無いらしい。

 元々沸点の低いヴィータは、一瞬で自制の限界を超えた。

「離せ、離せよザフィーラ!!シャマル!!」

「こらえろヴィータ!!」

「そうよ。シグナムが何故フェイトちゃんを押さえているのか考えなさい!!」

 もはや問答無用と飛び出そうとしているヴィータを押さえているザフィーラとシャマルに、心の中で感謝する。

『シグナムさん、彼等は貴方達の仲間では無いのですか?』

 両者の相対に疑問を感じたのだろう…むしろ疑問を感じない方がどうかしているが…リンディはとりあえず話が通じそうなシグナムに聞いてきた。

「…この状況では説得力はあるまいが、我等の仲間では無い。一度救われているが、ロッ…あの男が何を考えて行動しているかは分からない」

『……』

 映像越しに、リンディの戸惑いが伝わってくる。

 奴等の行動は、明らかにヴォルケンリッターに与する物ではあるが、かと言って仲間と言うわけでもないらしいときた。

 下手にアドリブを利かせるためには、アリシアと言うリスクがでかすぎるため、対応を決めかねているのだろう。

「どうした?人間では無い魔導生物が、ヒューマニズムにでも目覚めたか?」

「くっ…」

 シグナムだけでなく、ヴォルケンリッターの四人全員が顔をしかめた。

 分かりやすい嘲りと挑発だが、言われて気分のいいものでは無い。

「それならば、蒐集する理由を作ってやろう」

「う…あぁぁ…」

「見境なしか貴様!!」

 アリシアの顔が苦悶に歪むのを見たシグナムが怒鳴る。

 連中は…アリシアを使って時空管理局だけでなくシグナム達まで脅迫し始めたのだ…その強引さに、あるいは連中も、何か追い詰められている事情があるのかもしれないとは思うがしかし、どんな事情であれ考慮する余裕などないし、これだけの事をされては考慮する気もない。

「…我々がこのまま蒐集をせず、逃げ出すと言ったら…どうする?」

「それはつまり、この子供を見捨てると言う事だな?」

「……」

 ロッテ達が、本気でアリシアを害する気があるのかどうか、仮面に表情が隠れていて本気かどうかを測りかねる。

「…シャマル?」

「おい、シグナム!!」

 シグナムが何を言いたいのか理解したのだろう。

 ヴィータが声を荒げる。

「本気か!?本気で連中の口車に乗るのかよ!?ぜってえ裏があるぞ!!」

「そんな事は分かっている」

 ヴィータでさえ気づく事に、シグナムが思い至らないわけがない。

「だが、彼女の命を博打に使うわけにもいかないだろう?」

 敵対する組織の人間だと切り捨てるのは簡単だ。

 シグナム達自身、過去の主達の元で多くの敵を屠って来たが、これはそれとは全くの別物だ。

 何よりアリシアの命を保証する方法は提示されているのに見捨てたとしたら、はやてに会わせる顔がない。

「シグナム…」

「すまないテスタロッサ…私達も望むところでは無いが、ここはこらえてくれ…彼女の命は保証する」

「……はい」

 フェイトも渋々ながら頷いてくれた。

『大丈夫なんですか?』

 硬い表情のまま、リンディがシグナムに質問する。

 この場の責任者として蒐集は止めなければならない、しかし同時にアリシアを見捨てることも出来ない彼女の心情と立場を考えれば、内心の苦悩は自分達以上だろう。

 それでも邪魔をする指令を出さないと言う事は、アリシアの命を優先したか…。

「一度蒐集すれば、同じ人間から二度の蒐集は出来ないのは知っての通りだ。加減をすれば、しばらく魔法が使えなくなるだけで済む」

 何より、アリシアのストレスを考えるとこの状況のまま時間をかけるのは得策では無い。

 肉体的に無事でも、トラウマや心的外傷を負う危険もあるのだ。

「シャマル、やれ」

「…わかったわ」

 シグナムやリンディの内心の葛藤を理解しているシャマルは素直に従った。

 闇の書を開き、蒐集の準備を始める。

「話はついたようだな、まずはこの子からだ」

 そう言うと、ロッテはアリシアのリンカーコアを差し出して来る。

 一瞬、シャマルの表情が歪んだが、深呼吸をして気を落ち着けると蒐集を開始した。

「うう…」

 自分の中から魔力を持って行かれるのが分かるのか、アリシアがうめいた。

 それをこの場にいる全員で見ている事しかできない…未だアリシアのリンカーコアはロッテに握られたままなのだ。

「この子…すごい魔力…ってえ?何これ?」

「どうしたシャマル!?」

 驚きで声を上げたシャマルに、何事が起こったかとヴィータが声をかける。

 しかし、シャマルの方はそれどころじゃないらしく、闇の書を見て唖然としているだけで、反応が返ってこない。

「完成…した?」

「は?」

「完成…したの…」

 何がと言う言葉が続かない。

 この場にいる誰もが、シャマルの言葉の意味を本能的に理解し、まさかと言う思いがそれを否定する。

 全員が、その最悪の予想に目を背けたいと思っただろう。

「闇の書が…完成したの…」

 淡い現実逃避は、シャマルの決定的な断言に切り裂かれる。

『…しまった!!』

 モニターの先で、何が起こったのかを正確に理解したリンディが叫ぶと同時、闇の書から膨大な魔力があふれ出した。

 

―――――――――――――――――――――――――

 

「そんな…闇の書が…完成した?」

「うそ、まだ半分くらい残っていたのに…一気にそれが埋まったって言うの?」

 信じられないという言葉は、ほかならぬ男達から洩れたものだった。

 彼等にとっても、この状況は予想外だったらしい。

 たった一人の魔力を蒐集するだけのはずが、S級魔導師数人分の魔力を持っていたなどと…彼等は知らなかったのだ。

 そのたった一人が、世界を滅ぼすほどの魔力を持つ石…ジュエルシード20個分の魔力を内包していたなどとは…魔力量だけならば、なのはすらも足元に及ばない魔力の保有者だったなどとは…。

「”早すぎる”…これじゃ…」

「アリシア!!」

「がっ!?しまった!?」

 予想外の状況を前にして、茫然としてしまうのは男達も変わらない。

 そして今度は男達がその隙を衝かれる番だった。

 完成した闇の書に目を奪われている間に、文字通り雷光の速さで動いたフェイトがアリシアを掴み、離脱したのだ。

「人質が!!」

「放っておきなさい!!それよりも闇の書が!!」

 全員の視線の集まる場所…闇の書がその名にふさわしい黒い魔力を放出していた。

 魔力が物理的な風となり、竜巻のように吹き荒れる。

 気を抜けば、木の葉のように吹き飛ばされてしまいそうだ。

「きゃあ!!」

 あまりにも魔力の勢いが強すぎて、闇の書を持っていたシャマルが後方にはじき飛ばされた。

 それでも尚、空中にとどまり続けている闇の書の下に、銀のベルカ式魔法陣が展開される。

「まずい、転移魔法だ!!」

「主の元に飛ぶつもりか!?」

 完全となった道具が、己のあるべき場所…主の元に向かおうとしているのだ。

「待て!!」

 言葉は何時だって、現実に対して無力だ。

 闇の書の展開した転移魔法陣が発動する。

 

――――――――――――――――

 

「あう、ア、アリサちゃん…気持ちいの…」

「フフフ、ここ?ここがいいんでしょう?」

「そうなの、なのは…恥ずかしいよ」

「さあ、もっと柔らかくしてあげるわ」

「甘く語りかけたアリサは、潤んだなのはの青い果実にねぶるように手をかけ…「なのは…」、「アリサお姉さま…」っと…ハアハア」

「「言ってない!!」

 はやての勝手なナレーションになのはとアリサが二人で一つのW突っ込みを入れた。

 ちなみに二人共ちゃんと服を着ていて、ピンク色な空気は欠片もない。

「嬲るって何よ嬲るって!!あんた友達で何妄想してるのよ!!」

 怒りが振りきれているのか、アリサがはやての襟首を掴んで怒鳴りつける。

「いや〜二人のやり取りがあんまりにも色っぽくってな〜」

 この女、全然悪びれてねえ…友人の定義ってなんだっけ?

 少なくとも、それっぽい台詞に官能小説のようなナレーションをつける奴を友達とは言うまい。

「ええ〜シャマ…ゴホンゴホン、知り合いのお姉さんの購読している雑誌じゃ〜こんくらいは卑猥にはあたらんよ?」

 女性週刊誌だろうか?

 女性向けの雑誌と言うのは時々、成年男子向けのそれより露骨だったりするが…はやてだったらそう言うのを読んでいても驚くに値しない気はする。

 むしろ嬉々として、興味津々で読みふけっていそうな光景が簡単に想像できる十歳児だ…って言うか、そんな本を子供の目の届く所に置く大人の女もどうだろうかと思う。

 あるいは一緒になって読んだりしてないだろうな?

「って言うかな、アリサちゃん?仲直りのお詫びがマッサージってそれ、小学三年生の発想じゃないやろ?」

「い、いいじゃない!!なのはの筋肉痛が再発したのは私達の責任だし、マッサージは得意なんだから!!」

 マッサージが得意な小学三年生…アリサ・バニングス…微妙なカミングアウトだが、本人もちょっと恥ずかしいのか顔が赤かったりする。

「え〜?でも、アリサちゃん、とっても上手だったの〜気持ちよかった〜♪」

「よっしゃ!!なのはちゃんの天然ボケーー!!♪付きでいただきました!!御馳走さま!!」

「お、お粗末さまでしたと言えばいいのかな?」

 それはちょっと違うと思うぞ高町なのは?

 後、テンションたけーな八神はやて…血管切れるぞ?

 同性だけで集まると、いろいろなタガが外れるのはなにも大人だけでは無いようだ。

「ありがとうねアリサちゃん。大分体が軽くなったよ〜」

「ふ、ふん!だ、だからって容赦しないんだからね、ちゃんと事情は聞くんだから」

「に、にやははは〜お手柔らかにね」

 アリサのツンデレな物言いに、なのはは苦笑するしかなかった。

 これ以上嘘をつき続けるのは限界なので、なのははアリサとはやてに全てを打ち明ける覚悟を決めている…なのはだけならば、今この場で打ち明けてもいいのだが…しかし事はなのはだけの問題ですまないのが問題だ。

 アリサとはやては、間違いなくフェイトとすずかの事情も聞くだろう。

 特にすずか…主に彼女の体質の事などは、なのはの口から打ち明けるわけにはいかない。

最低でも打ち合わせをしたうえでなければ…そんな諸々の理由から、とりあえず二人から執行猶予をもらっている状態だったりする。

「そういえばアリサちゃん?もうそろそろ夜も遅いし、お家の人が心配しているんじゃないの?」

 窓の外を見れば、すでに日は暮れて、空には星が光っている。

 小学三年生の子供が出歩く時間じゃない。

「大丈夫よ」

「にゃ?」

「ちゃんとなのはの家に泊まるって言ってあるから」

「き、聞いてないよ?」

「うちも、今日は家にだれもおらんしな〜」

「あれ?はやてちゃん一人暮らしだったんじゃ?」

「え?あ、ああ〜」

 妙に分かりやすく、はやてがキョドり始めた。

 何か墓穴を掘ったらしいが、なのはもアリサも理由がよく分からないのでキョトンとするしかない。

「え、えっと〜お手伝いさん!お手伝いさんがおらん言う事よ」

「お手伝いさん?」

 はやての様子があからさまにおかしい。

 心当たりがないでもない。

おそらく例のクリスマス関係だろう…当日が近づくにつれて脇が尚の事甘くなっているのかもしれない…あまり追求しないのが優しさか?

はやての挙動不審ぶりと何を隠しているのかは気になるが、なのはも人の事を言えた義理では無いし、どうせあと数日で|Xデー(クリスマス)だ。

「そ、そうなんよ。ほ、ほらなのはちゃんちゃ〜んとお泊まりセットも用意しているで〜」

「用意周到だね!?」

 はやての誤魔化し方がへたくそ過ぎる点は置いておいて、どうもこの二人、最初から事情を聞きだすまで帰る気はなく、いざとなれば泊まり込む気だったらしい。   

この分だとなのはの家族も了承済みだろう…妙に荷物が多いので気にはなっていたが、アリサ達の追及に押されて聞くタイミングを失っていた。

「ちゃ〜んとお菓子も用意してきたんやで〜」

「にゃはは〜気配り上手さんだね」

「三人一緒に成長しようやないか…横にな!!」

「最後の一言が余計すぎ!!」

「にやはは〜」

 はやてのボケにアリサが突っ込み、なのはが笑う。

 どうやらなし崩し的にパジャマパーティになりそうだ。

 考えれば、こういうのも久しぶりかもしれない…せっかく休みをもらっているのだし、こうやって友人たちと過ごすのも悪くないとなのはは思ったが…運命の神様に愛されている少女の、トラブルエンカウント率はとんでもなく高い。

『なのは様!!』

「「「え?」」」

三人のうちの誰でもない…いきなり響いた四人目の声に、少女達の驚きの声が重なった。

「だ、誰?」

「電話か何かかいな?」

「レイジングハート、どうしたの!?」

ただし、そのうちなのはだけは驚きの意味が違っている。

 驚く二人の友人を無視して、机の上に置いてあった赤い玉を手にとったなのはが問いかける。

自分を呼んだ声は間違いなく彼女のデバイス、レイジングハートの物…念話では無く、音声でなのはの名前を呼んだと言う事は、それだけ切羽詰った何かが起こった事を示している。

しかも否応なく、言い訳もごまかしも効かないレベルでアリサとはやてを巻き込んでしまう事が確定してしまう緊急事態、そのくらいでなければレイジングハートがアリサとはやての前でしゃべるはずがない事を、なのはは正しく理解していた。

『何者かが、この場所にピンポイントで転移してこようとしています!!』

「転移!?誰か分かる!?」

『特定するより転移が完了してしまう方が早いと思われます!!』

 自分の目で見て確認する方が早いと言う事らしい。

 妨害も二人を逃がす事も無理か。

「な、なのは…誰と話しているの?」

「そ、その赤い球から声が出ているような気がするんやけど?」

 アリサとはやてが状況について来れていない。

 疑問に答えている時間もないと判断したなのはは、自分に強化の魔術を使うと、茫然としている二人を引き寄せてベッドの上に放り投げる。

「キャ!!」

「な、何するんやなのはちゃん!?」

 抗議の声にかまっている時間すら惜しい。

 すでに部屋の中には、なのはでも感じる事が出来るほどの魔力が発生している。

 物理的な影響まで及ぼし始めた魔力が風となり、部屋の中を荒れ狂う。

「レイジングハート!」

『プロテクション、展開します』

 自分と背後の二人を守るため、なのはの前にプロテクションが展開される。

 アリサとはやてが目を丸くして息を飲んだのが、背を向けていても感じられたが、なのはの方には構っていられるだけの余裕がない。

「な、何よこれ?」

「なのはちゃん、何が起こっているん?」

 二人の言葉を無視して、なのはがレイジングハートを構える。

「レイジングハート、セットアップ!!」

『承知しました』

 待機状態のレイジングハートから桃色の光が放たれ、なのはの体を白いバリアジャケットが覆う。

 目の前で変身を見られてしまったが…仕方がない。

即座にレイジングハートを砲撃モードに変更し、何時でも撃てる状態で待機させる。

「な、なのは?」

「あれは、デバイスか?なのはちゃんも魔導師?って事はこれは魔法なんか?」

「え?」

 今何か…背後のはやてが聞き捨てならない事を言わなかったか?

『なのは様、来ます』

「は、はい!!」

 思わず背後に振り返ろうとしたが、レイジングハートの声に前に向き直る。

 疑問は後で問いただせるのだから、今は目の前の事に対処しよう。

「…ベルカ式の魔法陣?」

 部屋の中心で光を放ちつつ回転しているのは、以前ヴィータ達と接触した時に見たのと同じ物、中心に三角形を置く銀の魔法陣だ。 

「あれは…」

 魔法陣の中心から何かが浮き上がって来た。

 出てきた物は一見して本、しかもその意匠には見覚えがある。

「夜天の書!?」

「闇の書!?」

「「…え?」」

 思わず叫んでから、一瞬の沈黙を経てなのはは今度こそ背後を振り返る。

 そこには、はやてがおそらくなのはと同じ驚きの表情で見返してきていた。

「はやてちゃん?」

「なのはちゃん?」

 とっさに何を言えばいいのか、なのはには分からなかった。

 はやてもそれは同じらしい。

 互いに二の句が出てこない。

『なのは様、気を付けてください!!』

「っ!!」

 レイジングハートに言われ、あわてて構えなおすが、その頭の中では一つの仮説が組みあがって行く。

今この場で起こっている事が魔法による物だと理解できる。

尚且つ、バリアジャケット姿になったなのはを魔導師だと断定出来た。

そして夜天の書を見ただけで闇の書と判別できる人物…魔法のないこの世界で、それら全ての条件を満たすような人物は、なのはのようなイレギュラーを除けばおそらく…一人しかいない。

「まさか、はやてちゃんが?」

 「まさか」をつけたのは余計だっただろう。

 ここまでくれば断言できる…今代の夜天の書の主は、自分の後ろにいるはやてだ。

「こんなに近くにいたなんて…」

 ため息の一つも吐きたくなる。

 ずっとお話ししたり、遊んだりしていた相手が探していた人物だったとは…まるで幸せの青い鳥のようだ。

 探索に出ているフェイト達の脇をすり抜けて、夜天の書とその主がなのはの目の前でそろうなど、どれだけの皮肉が効いているのだろう?

『なのは様、夜天の書と共に、大きな質量が転移してきます』

「え?あれは…手?」

 魔法陣から抜け出してきた夜天の書の下部を、誰かの手が掴んでいる。

「離せヴィータ、このままではお前まで巻き込まれるぞ!!」

「やなこった!!シグナムこそ意地でも離すんじゃねえぞ!!」

 しかも、何やら聞き覚えのある声まで聞こえてきた。

「「え?」」

 疑問の声が二つ重なる。

「い、今の声は…」

「まさか…」

 これまた、声に聴き覚えがあるのはなのはだけじゃないらしい。

 はやても吃驚しているのが振り返らなくても分かる。

 やがて、アリサも合わせた三人が見ている前で、まるで烏賊釣りのように人間が書に釣りあげられてくる光景には、流石に目を丸くした。

「シ、シグナム?ヴィータやシャマル、ザフィーラまで、一体何しとんの!?」

「……」

 なのはは思わず天を仰ぐ。

 仰いだところで、見えるのは見知らなくない自分の部屋の天井…今日の星座占いを見そこねてしまったが、魚座はきっと最下位に違いない。

「あ、主はやて!!」

「はやてちゃん!?」

「うお、なんで大魔王までいるんだよ!?」

「……」

 認めたくない現実を直視させてくれたヴォルケンリッター達にありがとう。

 そしてヴィータに関しては特に、後でちょっと大魔王とは誰かをじっくり問いただそうと心に誓う。

 何でザフィーラが犬モードで腹を見せているのかも含めて…その「いじめないでネ」な視線を見ていると…意味もなくちょっと泣きたくなって来るのでやめてほしい。

「こ、ここは…」

「し、しまった。私達まで」

 更に、何やら見覚えのある仮面男二名のおまけまでついてきた。

 一人部屋であるなのはの部屋の人口密度は、たった数秒の内にとんでもなく跳ね上がっている。

「どうしたなのは!?」

「大丈夫なの!?」

 しかも、帰宅していた高町家の武闘派メンバーまで、駆けつけてきた。

 おそらく異常を感じてきてくれたのだろうが…扉をけ破りながら物騒な小太刀を手に乱入してきたらいくらなんでもびっくりするだろう?

「にゃーーー!?」

「なのは…この人たちは誰だい?」

「え?」

 一瞬のうちに自分の部屋がとんでもないことになり、頭真っ白で悲鳴を上げたなのはだが、士郎の言葉に正気に戻る。

 見れば…士郎だけでは無い。

 恭也と美由希も小太刀を構え、ヴォルケンリッターの四人を警戒している。

 剣士の本能が四人の脅威を感じ取ったらしく、すでに戦闘モードだ。

「なんだ?お前ら?」

 そして、ヴォルケンリッター達もやはり、三人の実力を見抜いたらしく戦士の顔になる。

 友人と三人にぎやかにお泊まりの話をしていたなのはの部屋は、一瞬で戦闘のこう着状態が成立していた。

「えっと、なんだか知らないけど、いきなりなのはの部屋でなし崩し的に最終局面に突入したような気がするの?」

『おそらく、なのは様の思ってらっしゃる通りかと…』

 とうとう、自分の部屋で世界をかけた戦いがクライマックスを迎えるまでになってしまったらしい…運のなさと言うか巻き込まれ方もここに極まれりだろう。

 もはや自分の部屋ですら、安息の場所では無くなったのだな〜と、なのはのどこかで諦めのスイッチが入った。

 

――――――――――――――――――――――

 

「アリシア、大丈夫!?」

 闇の書と共にヴォルケンリッターに加えて男達までいなくなった世界で、フェイトは脱力した妹に呼びかけていた。

「う、うん…大丈夫だよ。フェイトお姉ちゃん」

 弱弱しいながらも返事が返って来た事に、フェイトがほっとする。

「よかった…」

 蒐集された時にはどうなるかと思ったが、いきなりアリシアがどうにかなるような危険はないようだ。ジュエルシード二十個分の魔力は伊達ではなかったらしい…っとなると、問題はもう一つの方だ。

「師匠、大丈夫ですか!?」

 ザックザクと言う音を立てているのはすずかだ。

 夜では無く昼間、しかも高低差のない場所で、空を飛べないすずかは不利だとアースラに残っていたのだが、ヴォルケンリッターと男達がいなくなったことで転移して来ていた。

 そんな彼女が何をしているのかと言えば、両手に三本ずつの計六本の黒鍵を使い、モグラのように地面を掘り返している。

 ルビーが生き埋めにされたあたりの地面だ。

 大分深く、しかも完全に埋まっているようで、ルビーの姿はまだ見えない。

『あはぁ〜〜〜〜〜!!』

「師匠!!」

 聞き覚えのある笑いに、すずかが笑みを浮かべる。

 やはりと言うべきか当然と言うべきか無事だったようだ。

『あはぁ〜〜〜はははっはははは〜!!』

「え?」

 聞き覚えのない笑い方に変化した。

 今までの経験から、とっさに掘り返すのをやめたすずかが背後に飛んだ直後、地面が割り砕かれ…まさに割り砕くという感じで爆発した地面の下から、見覚えのある杖が飛び出して来る。

『やあってくれるじゃないですか〜〜〜あの毛むくじゃらの愛玩動物共〜〜〜!!』

 初めて見る反応だが、ルビーは怒っている…のか?

 何時になく、放出される魔力がどす黒い。

 フェイトにすずか、アリシアまでちょっといつもと違うルビーに引き気味だ。

『あはぁ〜〜〜〜はははっはっはあーーー!!』

 何か……とんでもなくやばい物が目を覚ましてしまったかもしれない。

 

 

説明
リリカルなのはに、Fateのある者、物?がやってきます。 自重?ははは、何を言ってるんだい?あいつの辞書にそんなものあるわけないだろう?だって奴は・・・。 ネタ多し、むしろネタばかり、基本ギャグ
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