リリカルとマジカルの全力全壊 A,s編 第十五話  Unknown
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 漆黒の太陽…空に開いた落とし穴…どちらも現実にはあり得ない物だ。

 だが、その光景を表現する為には、そんなあり得ない物を形容詞として使わなければならないだろう。

 ならばこれは幻想なのかと言えば…残酷なまでに現実だ。

 空に浮かぶ黒…闇の書によって生み出された球体は、周りの星々の光さえも飲み込むかのように、夜空を円形に切り取っている。

 それはまるで、底と言う概念を無くした奈落のようだ。

「なのは…」

 その深淵を見極めんとするかのように睨む複数の視線があった。

 なのはを除く、高町家一同だ。

「ね、ねえ恭ちゃん、なのはは…大丈夫だよね」

「ああ、きっと大丈夫だ!!」

 美由希の不安に、恭也が答える。

 その声が少し大きくなってしまったのも…何所か自分に言い聞かせるような響きがあったのも聞き違いではあるまい。

「……なのは」

 他の家族から一歩下がったところにいる桃子は、球体から目を離さない。

 彼女の心情は、家族とは言え他の誰にも理解が及ばない。

 いや、理解できると思う事の方が傲慢なのだろう。

 彼女はなのはの母親で、なのはは桃子の娘なのだから…。

「桃子…」

 士郎も、妻にかける言葉がない。

 娘が自分達を助けるために、はやてを連れて空に飛び出した事を、父は正しく理解している。

 桃子がなのはの母親であるように、士郎はなのはの父親なのだから…。

「お、おじさま?」

 家族の誰でもない声を聞いて、士郎がはっとする。

 他の皆も、同様だ。

 なのはの事を心配し過ぎるあまり、すっかり忘れてしまっていた。

 今回巻き込まれたのは、自分達だけでは無かったと言う事を…。

「ア、アリサちゃん…」

「一体、何が起こっているんですか?」

 アリサは今にも泣き出しそうな目で、しかし毅然とした姿勢で自分達を見ている。

「なのはははやてと一緒に飛んでいっちゃうし、街の中なのに全然人はいないし…」

 取り乱さないだけでも大したものだが…パニック寸前と言った感じだ。

 これだけ理解不能な事を立て続けに目にした上に、なのはとはやてが一緒になって飛んで行った挙句、黒い何かに呑みこまれてしまうのを目にしたのだ…むしろよくぞ我慢したと言うべきだろう。

「なのは達は…無事なんですか?」

「「「「……」」」」

 それに関しては、アリサよりも自分達の方が聞きたいくらいだが、アリサの手前取り乱すわけにはいかないので自制する。

 何時ものなのはなら、ここまで心配はしない…不安にならないだろう…何故ならば、なのはの傍には常にルビーがいたのだから…どんな状況であれ、ルビーがいれば最低限、なのはの安全は保障される…そのくらいには、全員ルビーを信頼しているが…今なのはの傍にはルビーがいない…なのはの安全の保障が出来ない。

「みなさ〜ん!!」

「「「「「え?」」」」」

 異口同音、5人の声が重なり、全員が声の聞こえた方向、頭上を仰ぐと声を発した本人が…降って来た。

 相当高い所から飛び降りてきたのか、ドスンとか形容できる着地音をたてて降って来た“少女”を見た全員が目を丸くする。

 衝撃を吸収する為だろう。

 どこぞのゴルゴンの末っ子のように四つん這いの着地だったが…そこは9歳の悲しさで、妖艶さとか色気が足りないどころか皆無だったりする。

 せいぜい、翻ったスカートがチラリズムを誘発させる程度だが、残念な事にそれに興奮しちまったら例外なくロリペドの烙印を押される相手だ。

「皆さん大丈夫ですか!?」

 高所から飛び降りてきたとは思えないほど自然な動きで立ち上がり、こちらの心配をする“人間”…何よりも驚きのポイントはそんなトンでもない事をやらかした人物が、この場の全員と顔見知りだった事だろう。

「すずか?」

「ア、アリサちゃん!?」

 ここにアリサがいる事を知らなかったのか、今度はすずかの方も吃驚している。

「な、なんでここであんたが出てくるのよ!?」

「アリサちゃんこそ、なんで結界に取り込まれているの!?」

 質問を質問でカウンターするのはマナー違反だ。

「アリサちゃん、ちょっとすまない」

 士郎がアリサに断りを入れてすずかと向き合う。

全く予備知識のないアリサに事情を説明する悠長な時間がないし、何より一つだけ今すぐに確認しなければならない事がある

「なのはは無事なのかい?」

 努めて冷静に、すずかに問いかける。

 怒鳴らないように自制できただけ大したものだ。

「師匠が言うには、なのはちゃんは無事だそうです」

「そう…か…」

 すずかの言う師匠とはルビーの事だ。

とりあえず、最悪の状況には至っていないようでほっとする。

「なのはが無事!?すずか、それ本当なの!!」

 やはり予備知識があるのとないのとでは致命的な差があるらしい。

 アリサがすずかに食ってかかるのも、ある意味で仕方がないとは思う…思うのだが…。

「説明しなさいよ!! なのはだけじゃなくはやても巻き込まれているのよ!!」

「アリサちゃん、落ち着いて、ね?ちゃんと説明するけど今は時間がなくって…」

「だが断る!!ここで聞いておかないと、訳が分からずに終わった後になってやっと事情説明されて事後承諾させられそうなんだもん!!」

 なかなか鋭いな、この子…。

「だから、私に何かさせたかったら先に何が起こっているか説明しなさい!!」

「あぅ…」

 元から一歩引く性格のすずかだ。

 押しの強いアリサが切れた状態で完全に攻勢に回った状況は分が悪い。

 このままではアリサにすずかが押し切られてしまうだろう。

「アリサちゃん…」

 なのはが無事な以上、まずは自分達の安全の確保が必要だ…っと考え、興奮しているアリサをなだめようと士郎が声をかけようとしたのだが…。

「アリサちゃん、あれ!!」

「え?」

 いきなりすずかが何かを指さし、アリサが反応して指の方向を見る。

「す、隙ありーー!!」

「な!?」

 ドスンと、アリサの延髄にすずかチョップが入った。 

 あまりに予想を超えた光景に、口と手を出そうとした姿勢のままで士郎の時が止まる。

「いった〜何するのよすずか!?」

「あ、あれ?気絶しない。えい、えい!!」

「何で!?何で連続でチョップを入れようとする!?」

 ドラマや漫画で定番の当て身だが、素人が見よう見真似で実行してもそうそう都合良く気を失ってくれるとは限らない。

「アリサちゃん気を失ってーー!!」

「無茶言うなーーー!!」

 現実はなかなか厳しいのだ。

「こ、こうなったら…」

「す、すずか、何すんのよ!!」

 もはや当て身で意識を飛ばすのは諦めたらしいすずかは、アリサの背後に回って腰に手を回してロックする。

「バックドロップはお臍で投げるんだよ!!」

「ぬなぁぁ!?」

 抗議の言葉はそのまま悲鳴になった。

 それはそれは見事なアーチを描いて、奇麗に技が決まる。 

 二人共スカートを履いていたので、乙女のシークレットゾーンとかいろいろあられもない事になってサービス満点なシーンだが、二人の名誉の為にあえて描写はしないでおく。

 デフォルメされた犬さんとかネコさんとか見ていない。

「ってそんな問題じゃない!!」

 正気に戻った士郎の言い分は実に尤もだ。

 惜しむらくは、もう少し早く正気に戻っていれば…背後の恭也とか美由紀とかドン引きしているし、一般人の桃子に至っては、「あらあら、二人共女の子がそんなはしたない事して…」なんて思いっきりずれた事を言ってついて来れていないどころか色々逃避気味だ。

「すずかちゃん!!そ、その技は良い子も悪い子も真似しちゃだめな技じゃないかな!?」

 地面コンクリだしね…意識だけでなく、別のもっと大事なものまで飛ばしたのではあるまいか?

「だ、大丈夫です!!だってこの|世界(カラダ)はきっと、ギャグで出来ていたんです!!」

「すずかちゃん、今すぐ謝るんだ!!どこか英雄ばっかり集まる場所で赤い人が泣いている気がする!!」

 色々思う所はあるがとりあえず、すずかの言う通りアリサは大丈夫のようだ。

 盛大に目をナルトにしているが、息はしている。

 ギャグ補正偉大なり、あってよかったギャグ補正、もしなかったら火曜サスペンスの音楽が流れるようなことになっていただろう。

「と、とにかくここにいたら危険なんです!!だからアースラに避難しましょう!!」

 いつの間にかギャグキャラにされていたアリサ・バニングスに幸あれと言う事で問題がクリアー…元々、すずかは結界に取り込まれた高町家の皆さんを発見し、保護する為に出張って来たのだ…何故それがキャットファイトじみた物になるのかについては全然わからないけれど…。

「しかし、アリサちゃんは大丈夫なのかい?」

「だ、大丈夫です!!ね、アリサちゃん!?…うん、大丈夫ですよ〜」

「や、やめてくれすずかちゃん!!脱力したアリサちゃんの体を人形みたいに後ろから支えて動かすのは見ていてシュールだ!!全然腹話術になってないから!!」

 この子もだいぶ朱に染まって来た…っと言うかすでに真っ赤な気がする。

 

―――――――――――――――――――――――

 

「ん?」

「どうしたヴィータ?」

「いや、なんだか親友だと思っていた相手に裏切りのファーストバックドロップを食らった挙句、これで最終回まで気絶が確定してモブキャラ化した少女の悲鳴が聞こえたような気がする」

「…なんだ?その具体的すぎる救いようのない話は?」

「……何なんだろうな?」

「知らん」

 いぶかしげな顔でシグナムが呆れるが、他の誰よりヴィータ自身がわけが分からずに首をひねっていた。

「そんな事より、今はこちらに集中しろ」

「わ、解っているよシグナム!!」

 頭を切り替えて前を見れば、そこにあるのははやてとなのはをその内に取り込んだ黒の球体、闇の書。

 今はヴォルケンリッターが四方から包囲している状態だ…いや、包囲するしかできないと言ったほうが正しいか、闇の書ははやて達を飲み込んだ直後から、この状態のまま同じ場所にとどまっている。

 それは決して停止したからでは無く、暴走までの準備時間か何かだろう。

 下手に手を出し、それによって暴走が始まるかもしれないと思えば、ヴォルケンリッター達には闇の書を包囲して来るべき時に備えるしか手がない。

「また…終わっちまうのか…」

 ヴィータが唇をかむ。

 今や彼女ははっきりと思い出していた。

 自分達が今まで主として仰いできた人間達の末路…善人もいた…悪人もいた…しかしそんな物を全て…。

「|闇(あいつ)が呑み込みやがった…」

 かみしめた上下の歯がギシリと軋み音を立てる。

 あの闇は全てを飲み込んできた。

 主も…被害者も…そして自分達の記憶も…はやてと過ごした時間の記憶もあの闇に呑まれ…。

「ヴィータ」

「っ、シグナム?」

 何時の間に傍に来ていたのだろうか?

気がつけば球体を睨んだまま、シグナムがヴィータの肩に手を置いている。

「気を抜くな、主はやてを救う…絶対にだ」

 それはどうしようもない強がりだっただろう。

 本格的に暴走が始まった場合、たった四人しかいないこのメンツだけでどうにか出来るのだろうか?

 相手は自分達のメインシステム…ある意味ではやて以外のもう一人の主なのだ。

「ああ、勿論だ」

 だが、その全てを理解した上でヴィータは是と答えた。

 本来ならば管理局の囲いを切り抜け、はやての元に戻り、全てを告白した上ではやてに自覚と覚悟を促すはずだったものを、それを一足飛びに飛び越してしまったため、はやてに説明をする暇もなく闇の書にはやてが捕らわれてしまった。

 状況は絶望的と言える。

 だがしかし、“その程度”の事で何もかもを諦める事が出来るほど、はやてとの日々は軽くない。

「ぜってえ、はやてを助けるんだ」

「ああ、その通りだ」

 だから笑う。

 不敵に笑って己のデバイスを握り込む、はやてを取り戻すために…もう一度はやてに笑ってもらうために…。

「シグナム!!」

「む、テスタロッサか?」

 振り返れば、一時間ほど前には敵として刃を合わせていたフェイトがこちらに向かって飛んでくる。

「あたいもいるよ!!」

「僕も!!」

 しかも一人では無い。

 使い魔のアルフと、ユーノも一緒だ。

 シグナムの眼前で制動をかけた三人が停止する。

「……事情は大まかに聞いています。はやてが…闇の書の主だったんですね?」

「ああ、その通りだ」

 もはや隠す意味もないとシグナムが告白する。

他の三人も、特に何かを言うつもりはないようだ。

事ここに至り、秘密にする理由がなくなったからだろう。

「…すまない。なのは嬢が主と共に取り込まれた」

 シグナムだけでなく、ヴォルケンリッター全員がなのはの行動を止めることができなかった。

 何故なのはがあんな行動をしたのかも、その理由も理解している。

「本来ならば、我々がやらなければならない事だった物を…すまない」

 いきなり目の前で暴走が始まったなどと、いいわけにもならないだろう。

 実際なのはは動けたのだから。

「…なのはは無事です。こちらで確認が取れました」

「そうか、何よりの朗報だ」

 フェイトの情報提供に、シグナムが演技などでは無い心の底からの安堵の息を吐いた。

 なのはの行動は…勿論、家族を守るための物ではあったが、同時に彼女が行動していなければ、ヴォルケンリッター達はここにいなかったかもしれない。

 それを自分達の為じゃなかったからと、関係ないと言えない程度には、シグナム達は不器用で義理がたい。

「これからどうするつもりですか?」

 フェイトが表情を改めて問いかける。

「主を救出するつもりだ。なのは嬢が無事と言うならば、主も無事の可能性が高いからな」

「ねえちゃんを放っておけねえしな、ついでに魔王も救出してやるよ」

 シグナムの言葉を継ぎ、憎まれ口を叩くヴィータを見たフェイトは頷きで返す。

「…分かりました。ではこれを…」

 フェイトが放り投げた物を、シグナムとヴィータがキャッチする。

 受け取った物を確認した二人が目を丸くした。

「これは…」

「カートリッジじゃねえか!?」

 ヴィータの言うとおり、それはカートリッジだった。

 今の二人に一番足りないもので、はやてとなのはを助けるためには一番必要な物だ。

「規格はあっていると思います」

「ありがたい…が、いいのか?」

「私達も、なのはとはやてを助けたいんです」

 フェイトの言葉にアルフとユーノが頷く。

 助けたい人間がいて、助けたいという思いに立場は関係ない。

 特にフェイトにとっては、なのはもはやても友人なのだ。

「…感謝する。その、妹御の事は…すまなかった」

「アリシアなら大丈夫です。少し疲れたようでアースラで休んでいます。魔力は多い子ですから」

「少しって…それは多いというレベルに収まるものなのか?」

 高位魔導師十数人分の魔力を少しとか言われれば、シグナムでなくとも突っ込みを入れたくなるだろう。

 まずアリシアが人間かどうかから疑わなければならない。

「そ、それに、アリシアを襲ったあの男の人達ですけど…」

 流石にそれを追及されると痛いところを掘り返されかねないので、フェイトがあからさまに話題を変えた。

「ロッテ達の事か?捕まったのか?」

「はい、ルビーさんが…お仕置きしてから捕まえたそうです」

 言ってから、フェイトが気まずげな空気を纏った。

 よく見ればアルフとユーノも似たり寄ったりだ。

 その微妙な反応を、シグナムとヴィータは理解できない。

「よくわかんねえけど、甘いんじゃねえか?あいつらがした事を忘れたのかよ?」

 納得が出来ないヴィータの意見は尤もだと思う。

 あの二人がやった事は、お仕置きで済ませていいものでは無かった。

 もし、目の前に現れたなら殴りかかっているだろう。

「ああ、それに関しては大丈夫だろ?今回ばっかりはルビーが本気で怒っていたからね…かわいそうに…」

「なんだそりゃ?」

 やはり理解は及ばない。

 及ばないが…急に遠い目になったアルフにそれ以上問いを重ねるのは何故かためらわれる。

「な、なあシグナム?あたい何か変な事を言ったっけか?」

「いや…しかし、多分これ以上追及しない方がいいのだろうな…」

 ヴォルケンリッター達は直接的にルビーから受けた被害が少ないので、納得しろと言う方が難しいかもしれないが、本格的にルビーの被害にあうのもどうせそう先の話では無いだろう。

 その時になってやっと彼女達も気がつくはずだ。

 人間、知らなくていい事も存在するのだろうと思う。

「シグナム!!」

 微妙にぬるい感じの空気を、シャマルの鋭い声が切り裂く。

 一瞬で全員が戦士の顔に戻り、球体を振り返った。

「いよいよ来やがるか!?」

 球体が黒く発光している。

 脈動するかのようなリズムで身を震わせ、中心に向かって収縮していく。

 現われたのは小柄な人影だ。

「「「「はやて(ちゃん)!!」」」」

 異口同音、複数の口から放たれたのは間違いなくこの騒動の中心人物…はやてだ。

 見間違えようなど無い。

「はやて、何してんだよ!!」

「冷静になれヴィータ!!あれは主では無い!!」

 飛び出そうとするヴィータを、シグナムが制止する。

 現われたはやてには、いつも感じる温かさがない。

 瞳からはハイライトが消え、どこを見ているかさえ分からなかった。

 仮に、あのはやてが本人だとしても、少なくとも正気ではあるまい。

「我は…闇の書の主…」

 はやての姿で、はやての声で放たれた言葉に込められた何かが、場の空気を重くし、プレッシャーとなる。

「やはり…主では無いか…」

 ベルカの騎士に、言葉の圧力だけで足を止めさせる…はやてにこんな事は出来まい。

「この手に力を…」

 掲げた手の中に、闇の書が現れる。

 その名の通り、闇色の魔力を放出するそれは、ただ在るだけで強烈な自己主張をしている。

「封印…解放」

『Freilassung』

 はやての姿をして何者かの言葉に応え、闇の書の封印が解放される。

 嵐のように渦巻く漆黒の魔力の中、はやての姿が成長し、別の誰かに変化してゆく。

 すらりと伸びた四肢を、夜色の外套が包み、露出した肌に拘束具のような帯が巻きつく、背に開いたのは二対四枚の漆黒の翼だ。

 長く伸びた髪が銀色の輝きを放ち、耳の部分からは漆黒の羽が生えた。

「また…全てが終わってしまった」

「「「「「「「っつ!!」」」」」」」

 左右の頬に赤いラインが走り、まぶたの下から血のような深紅の瞳が現われる。

 それを見た全員が、己のデバイスや拳を構えていた。

 意識するより早く、現われた脅威を認識した本能が戦闘態勢を取らせたのだ。

 この未だ名も知らぬ女は…危険だと…空気が…圧迫感がその密度を加速度的に上げていく中で…女が動く。

「皆おひさしぶりーーーー!!皆のアイドル、闇の書さんだニャ〜ン!!」

「「「「「「「……は?」」」」」」」

 そしていきなりやらかした。

 キラ☆な感じにウインクしながらポーズをとる女…本人曰く、闇の書さんはさっきまでの硬質的な雰囲気は何処へやら、擬音をつけるならば“キャルン〜♪”で砂糖のように甘ったるい感じだ。

 更には頭の上でピコンと立ち上がって自己主張したのは…。

「「「「「「「ね、ネコ耳!?」」」」」」」

 目元も、最初の鋭さは何処へやら、アーモンド形にトロンと柔らかくなっていて、威圧感などかけらもない。

 あるとしたらむしろ癒しオーラだ。

「えっと…お前誰?」

 何とか問いかけることに成功したのはヴィータ…他の連中はまだ、闇の書の豹変によるギャップのはざまで茫然自失のまま戻ってこれていない。

 なんとかデバイスなどを落とさずにすんではいるが、今なら並み以下の魔導師にだって楽勝で勝てるのではあるまいか?

「あ、おはろ〜ヴィータン、一万年と二千年前から愛してるよ〜相変わらず幼児体型だニャ〜?」

「やかましい!!何でいきなり初対面の相手にマイナーな卵料理みたいな呼ばれ方した揚句、一番でっかい劣等感ぶっ刺されなきゃならねえんだ!?」

 元々切れやすい性格をしていたが、一瞬でヴィータが切れた。

 それを見た闇の書が一昔前のいわゆるぶりっ子スタイルを取る。

「ええ〜ひっど〜いヴィータンったら、私の事を忘れちゃったのかニャン?」

「そのあからさまに男に媚を売る語尾と、わざわざ両手で挟むバスト強調のポーズをとりやがったのは何か?あたしに対する当てつけかよ!?」

「うん当然、未来に期待できないヴィータンはただのロリなのだ〜。ほ〜らほ〜らヴィータンには逆立ちしても不可能な胸の谷間ニャン♪うらやましいニャロメ?」

「決めた…てめえは敵だ!!」

 胸の下で腕を組み、神経を逆なでしまくる闇の書にヴィータが宣戦布告し、同時に断言する。

 こんな奴は知らねえと…正直に言えば頭の片隅と言うか、遠いいつかの記憶の中にこの闇の書を名乗る女の姿があるようなないような気はしているのだが、少なくとも中身とは初対面だ。

 こんな濃いキャラと出会っていたら、いくら記憶が摩耗しようが絶対に忘れないに違いない。

 よしんば知っていたとしても、グラーフアイゼンの頑固なシミにするのだから関係ないと自己完結した。

 まーさーにカオス…何と頭の悪い会話だろう?

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

「「「……」」」

 闇の書の中から、同じ光景を見ていた“三人”は目を丸くし、ポカーンとした顔になっていた。

 特に自分のそっくりさんのはっちゃけぶりを見た管理人格の女性なんか魂が抜けかけている。

 色も消えて真っ白…トーン代が浮きそうだ。

「え、えっと…な、何って言ったらいいか…」

「え?い、いや違う、違うんです!!」

 なんとか自我を取り戻したなのはが何かを言うより早く、抜けかけていた魂を飲み込んだ彼女が反論するが、まずは主語を入れろ…一体何を否定したいのか全然わからない。

「い、いや〜意外やったな〜お姉さんも案外大胆なんやね…」

「だ、だから違うんです主!!あれは私ではありません!!」

「って言われてもな〜」

 モニターに映る女性と、目の前にいる女性を同時に視界に入れて見比べる。

 わざわざそんな事をしなくても、着ている物が違うだけで瓜二つだ。

 あえて違いを探すならば、

目の前にいる方の印象を奇麗、現実世界にいる方は可愛いという感じだろうか?

「…奇麗系の一号と可愛い系の二号でファン層もばっちりゲットやね、結構あざとい営業するな〜」

 そしていつかV3へと…って何が営業やねん?

「だから違うんです!!何かおかしいんです!!陰謀です!!バグです!!」

 見てて哀れなくらいにうろたえている。

 最初に見た時には機械みたいに冷淡な感じだったが、案外表情が豊からしい。

「あ、あの〜闇の書は元からおかしかったと思うんだけど…」

「しゃらっぷ魔王!!そう言う問題では無い!!」

「ま、また魔王って呼ばれたーーー!!」

 勇気を出したなのはの発言だったが…主以外には全然容赦ないなこの女…しかも、ほぼ唯一の突っ込み役をつぶしやがって、どうやってこの場を収めるつもりなんだ?

 はやては根っからのボケ役だぞ?

「し、少々お待ちをーーーーー!!」

 レストランの注文取りのような事を言ったかと思えば、いきなり複数のウィンドウを開いた管理人格さんが、ちょっと血走った眼を皿のようにして覗き込む。

 しばらく高速でスクロールしている画面をにらんだ後、はっとして動きを止めた。

「こ、これは!!」

「ん?何か言い訳の材料でも見つかったのん?いい加減自分の隠された一面を受け入れんと…」

「言い訳じゃありません主!!私にあんな頭軽いアーパー属性もないです!!それよりこれを見てください!!」

「どれどれ…おお、これは!!」

「わかっていただけましたか!!」

 モニターを覗き込んだはやてが盛大に声を上げ、女性が心底ほっとした安堵の溜息を吐く…甘いな…何にも分かっていない。

「いんや、全然わからん。何って書いてあるのかさえな」

 ヴォルケンリッターの主であっても、はやて自身はあくまでも魔法の素人なのだ。

 複雑な術式を見せられた所で一ミリたりとも理解出来るわけがない。

 そこの所を分かっておらず、ぬか喜びさせられて突き落された管理人格さんが盛大にこけた…この女、少なくともボケのリアクションは出来るらしい。

「何で半端に理解したみたいな反応をするんです!?わからないなら分からないと言ってください!!」

「うん、そっちの方が面白そうやったから、それでこれは何なん?」

「うわ、主じゃなかったら殴りたいー!!」

 盛大な下剋上発言…そろそろパニックでショートするんじゃなかろうか?

 すでに泣き出しそうになっているのが哀れだ。

「と、とにかくですね、闇の書の中に変な魔力があるんです!!」

「変な魔力?どんな魔力ですか?」

 やっと復活してきたなのはも会話に加わって来た。

 魔導師でもあり魔術師でもあるなのはだ。

 少なくとも、素人のはやてよりは話が分かるだろう。

「よくぞ聞いてくれた魔王、貴女がここにいてくれたことに感謝を!!」

「レイジングハート…いい加減撃って良い?」

『もう少しだけ話を聞いてからにしましょう。何か予定外の事が起こっているみたいですし、聞き終えた所でGOです』

「とにかく、蒐集した魔力に変な物があって、それが外側の私に影響を与えているんです!!」

 つまり、外にいるドッペルゲンガーさんがおかしいのは、その魔力に影響されたからだと言いたいらしい。

「はあ、言いたい事は分かるんですけど、そんな事がありうるんですか?」

 なのはの疑問は尤もだろう。

 蒐集の能力は、闇の書の前身である夜天の書からの物だ。

 元々魔力を蒐集する能力を持つデバイスが、吸収した魔力によって動作不良を起こすなどと言うのは本末転倒にも程がある。

 普通ならば、真っ先に対策を立てられるべき問題のはずだ。

「そ、その通りなのだが…しかし事実影響は出ているわけで…」

 どうやら、書を管理する役目を持った彼女にも理解できない事らしい。

 パニックを経験して感情の制御がきかなくなったのか、う〜んと言う感じに唸っているのがちょっと可愛いと思う。

 この短時間でえらい変わりようだ。

「具体的には、どんな魔力なんですか?」

「それが、私も未だかってみた事のない魔力で…あえて言うなら猫っぽい?」

「猫っぽい?」

 それは、外の彼女の頭にあるネコ耳とかに関係しているのだろうか?

 だとしたらめちゃくちゃ影響を受けているな…。

「猫からも収集できるんですか?」

「リンカーコアを持っていれば可能だ…が、この魔力は猫ともちょっと違うような…何だこのどす黒い…いやむしろどすグロい魔力は…一体騎士達はナニからこの魔力を蒐集したんだ?」

 管理局で最高レベルの危険指定を受けているデバイスが唸っている姿と言うのは、おそらくかなりレアなのだろうとは思う。

 問題の魔力と言うのは、話だけでも何やらあまりまっとうな代物ではなさそうだが…そんな訳の分からない魔力を持っている猫っぽい何かとは一体どんな生き物だろうか?…何故かあまり追求したくない衝動を感じる。

「ああ、なのはちゃんあれ!!」

「ええ?あーーーーー!!」

 はやての声に振り返ったなのはは、外の様子を見た瞬間に全てを悟り、叫んでいた。

 

――――――――――――――――――――――

 

『あはぁ〜』

「ムム、何者ニャ!?」

 いきなり聞こえてきた間延びした声に、やたらと芝居がかった口上で闇の書が反応する。

 ただし、何者とか誰何するまでもなく、この状況で「あはぁ〜」とか言いつつ介入してくる奴なんて一人…もとい、一本しかいない。

「とうとう来たよ…」

「来ちゃいましたね〜」

「あいつお祭り好きだからな、参加しないわけねーんだよな…」

 フェイト、ユーノ、アルフはすでにあきらめモードで声の聞こえた方向を振り返れば、案の定ビルの屋上にいるルビーと…。

「何でアリシアまで!?」

 フェイトの叫ぶ通り、アースラで休養していたはずのアリシアまでいる。

『さてさて〜そろそろ行きましょうか。でもアリシアちゃん?体は大丈夫なんですか?』

「は、はい。もうすっかり大丈夫です」

 ジュエルシード20個分の魔力マジパネェ、チートすぐる。

「アースラで休んでいたのだって、姉さんの過保護なんです。子供扱いして、本当は私の方がお姉さんなのにー」

 ぷくーっと頬を膨らませている幼女をお姉さんと言うのは色々難だろう。

 ほっぺを突っついてぷにぷにしたいとは思うがなあ!!

『ではでは〜問題無しって事でキバっていきましょうか〜』

「はい、お願いします」

『ガブッとな〜』

 別に噛んではいない。

 もともとルビーに歯はないし、しかしこういうのは様式美であって理由は二の次だろう。

 ルビーから七色の光があふれ出し、アリシアの体を包み込む。

 光が弾けたそこにいたのは、魔女っ子姿のアリシアだ。

「さ、颯爽登場!魔法美幼女!!」

『真打登場!マジカルルビーちゃん!!』

 ビシッとポーズまでつけて、変身が完了した。

 同時に、お約束の花火が上がってものすごく派手だ。

「ル、ルビーさん?う、上手くできたでしょうか?」

『エクセレント!!完っぺきですよアリシアちゃん!!』

「で、でもみんな静かになっちゃいましたけど…」

『アリシアちゃんがものすごくかっこ可愛いからです!!(断言)』

「そ、そうなんですか?」

『そうなんです!!(断言)』

 

 ことばたくみにようじょをだまするびーには、てんばつがくだればいいとおもいました…マル。

 

『ってわけでそこの猫娘!!』

「は、はい?私ですニャ!?」

 脈絡も何もあったもんじゃないが、他に猫娘に該当する人物はいない。

『あはぁ〜海鳴の町でお茶目や楽しい事をするときはまずルビーちゃんに許可を取らないといけない決まりを知らないなんてどこのモグリですか〜?月に代わってお仕置きしちゃいますよ〜?』

「そ、そんニャ決まりがあったのかニャン!?」

「「「「「「「ないない」」」」」」」

 慄く闇の書に全員で否定してやった。

 いくら海鳴が地方都市だと言っても、そんなふざけたローカルルールなんてあってたまるか…さっきから思っていたのだが、この猫娘…ヴァーカだ。

 間違いない。

「だ、騙したニャね!?」

『騙される方が悪いんですよ〜』

憎々しげな闇の書と、悪人な台詞を吐くルビー…一体誰がこの状況を収めるのだろう?

「くうう、よく分からない脅威を感じるけれど、負けニャいニャ!!」

『あはぁ〜ど〜んとやってみなさ〜い』

 両者の背後でちょっと造形が狂った竜虎が相打っている。

 お前ら…|主人公(なのは)抜きで盛り上がり過ぎだろう。

 

 

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リリカルなのはに、Fateのある者、物?がやってきます。 自重?ははは、何を言ってるんだい?あいつの辞書にそんなものあるわけないだろう?だって奴は・・・。 ネタ多し、むしろネタばかり、基本ギャグ
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