リリカルとマジカルの全力全壊  A,s編 最終話 Chaos
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 乱立する剣…空で回り続ける巨大な歯車…どこまでも果ての見えない荒野…圧倒的な光景の中にあって、男の存在感は他の全ての上に立っていた。

 砂の混じる乾いた風に向かい立ち、逆立てた銀の髪と赤い外套をなびかせながら立つ長身の男…背後にいる自分達に気が付いていないかのように、鷹のように鋭い視線でまっすぐ前を…闇の書の防衛プログラムを睨む男…しかし、何故かその背中から目が離せない…それはきっと目を離そうとしたら不安になるから、鋼のように固い印象を持っているのに、気を抜けば周りの剣と見分けがつかなくなってしまうような空虚さも、同時に感じるからだろうか?

「…何なのだ奴は?」

 己に課された責任と義務から、説明を求めたのはシグナムだ。

 いきなり何処からともなく現われたあやしい男…シグナムでなくとも、警戒するなという方に無理がある。

「彼の名前はエミヤシロウというらしい。敵じゃあ無いよ…今回はね」

 答えたのはユーノだ。

「彼はこの世界の意志ともいうべきものが、世界の崩壊を防ぐ為に送り込んできた存在、君達と似ているかもしれないね」

「世界意志…だと?」

「うん、少なくとも彼の出現はこれで2回目、前回もこの世界にとっての脅威を排除する為に出現したんだ」

 ユーノはあえて、前回エミヤシロウが出現した内容を端折った。

 この場においてはとりあえず関係のない事だし、視界の隅でフェイトとプレシアが複雑そうな顔をしているのが見えたからだ。

「味方…っと考えていいのか?」

「……そうだね」

 ユーノは苦笑するしかない。

守護者は個人の援護の為に出てきたりはしない。

 エミヤシロウが闇の書の防衛プログラムから目を離さないという事は、今回の彼のターゲットはあの黒のドーム…闇の書の闇、防衛プログラムの排除が目的だろう。

 つまり、文字通りの意味で自分達はシロウの眼中にない。

 敵対しなければ敵にならないというだけで、実質は路傍の石同然に見られているはずだ…それを味方と定義するのは色々難だが、とはいえ防御プログラムを排除するという事で自分達の目的は一致している。

 一度は真正面から敵対し、その実力を垣間見た者としては、彼の前ではなく背中にいる状況は心強い。

「…これは、封鎖結界では無いな?」

 まだまだ追求したい事は多いだろうが、とりあえず納得したシグナムの興味は、自分達がいる空間に向けられた。

「ああ、固有結界というらしい。術者…つまり彼の心象風景を具現化した“魔術”…」

「魔術か…所でもうひとつ聞きたい事があるんだが…」

 シグナムはシロウから視線を外し、ユーノに向ける。

 真剣な目で自分を見るシグナムに、何を聞かれるかと思わずユーノがゴクリと喉を鳴らした。

「お前…誰だっけ?」

「ユーノ!ユーノ・スクライアです!!」

 そう言えば、フェイトもアルフも自分の名前を名乗ったが、ユーノだけはヴォルケンリッター達に自分の名前を名乗った事はなかったかもしれない。

 相変わらず影が薄いようだ。

「…おしゃべりはそこまでだ」

 涙目で更に何か言おうとしたユーノの言葉を遮ったのはクロノ、しかし文句の声は上がらない。

その理由は誰の目にも明らかだから…防衛プログラムから発される魔力が増大している。

「…始まる」

 はやての呟きで、全員の緊張が高まる。

「夜天の魔導書を、呪われた闇の書と呼ばせたプログラム。闇の書の…闇」

 ヴォルケンリッター…そしてその主であるはやての中では様々な思いが渦巻いているのだろう。

 いよいよ決戦だ。

 

―――――――――――――――――――――――――――

 

「クロノ…これが君のプランか?」

 他の皆から少し離れた場所で、アリアとロッテを背後に従え、グレアムがクロノに問いかける。

「はい…僕達の力では闇の書の完全封印は不可能です。しかし魔術にはその可能性がある」

「しかし…君の協力者には出来ないのではなかったか?」

 ちらりと横目で見たのはなのは…そしてその手にある錫杖型の魔法術デバイス…ルビーは“自分には”出来ないとはっきり名言している。

「だから、この世界の守護者に希望を託しました」

 自分に足りない物があれば他人で補い、不足している物があれば余所からでも持ってくる…それは魔導師より、どちらかと言えば魔術師よりの割り切った考え方だ。

「上手くいけば、闇の書の完全消滅が可能です」

 守護者は世界の脅威を排除する存在…選ばれた守護者はその驚異を排除するまで止まらない。

 そして、世界意志が彼を選んだという事は、エミヤシロウには闇の書の闇を完全に排除する方法を持っているはずというのがクロノの見立てだ。

「君は…最初からこの世界で闇の書の暴走を待つつもりだったのか?」

 一歩間違えれば、クロノも世界の敵として認識されかねないギリギリだろう。

「何って無茶をするんだい。クロスケ!!」

「君に言われたくない。それにこの方法なら、多くても二人の犠牲で済む」

「っ!?」

 クロノと闇の書の主…はやての命だ。

 有言実行…自分の言葉の通り己の命を犠牲者にカウントして計画を立てているクロノの覚悟に、姉妹は息をのむしかなかった。

「グレアム提督…」

名を呼ばれ、正面からクロノの視線を受け止めたグレアムが姿勢をただす。

クロノの視線にはそれだけの覚悟がこもっている。

年長者だからと言って…いや、年長者だからこそ軽々しい態度で受け止めるべきではないと感じたのだ。

「闇の書は呪われた魔導書でした、その呪いは幾つもの人生を喰らい、それに関わった多くの人生を狂わせてきました。アレのお陰で僕の母さんも、他の多くの被害者遺族もこんな筈じゃ無い人生を進まなきゃならなかった、それはきっと貴方も…ロッテ達も…失くしてしまった過去は変える事は出来ない」

「…そうだな」

呟くグレアムの胸の内に、どんな思いが去来しているのか…本人以外には知り得ない事だ。

「だから……今を戦って未来を変えましょう!!」

「クロノ?」

投げ渡されたデュランダルをあわてながらも受け取ったグレアムの目の前で、クロノが自分のデバイス、S2Uを展開する。

「…そうか、そうだな…」

『スタート・アップ』

 電子音声とともにカード状態のデュランダルが起動し、杖状態となったそれをグレアムの手が掴んだ。

「ありがとうクロノ…この手で、私は未来をつかみ取る!!」

「お父様」

「私達も」

 デュランダルを構えるグレアムの背後で、姉妹がそれぞれの魔法を準備する。

 完璧だ。

 全員の思いが一つになっている。

 これならばやれる…闇の書の悲しい歴史をここで終わりにする事が出来るはずだ。

「来るぞ!!」

 十を超える応の声が重なる。

 すべての視線が集まる先で、黒のドームが破裂し、その中にいた物が産声を上げるように…。

「吾輩…爆誕」

「「「「「「「「…は?」」」」」」」」」

 やたらとダンディな声で放たれた意味不明な言葉と、自分が見た物がちょっと理解しがたいものだった事で、一同の思考がフリーズする。

 それだけ声の主は異様というか異質というか………むしろフザケた存在だった。

「トンネルを抜けると、そこは一面のネコ畑だった」

 尚もわけのわからない事をのたまうナマモノはふやけたクッキーのような顔に三頭身のボディ、頭にネコ耳と腰から伸びる猫尻尾がついてはいるが、そこに猫独特の愛らしさは皆無……むしろ醜い。

 黒いブラウスに灰色のスカートのようなものを履いているが…かと言って雌かと言えばそれにしては声が男のものだったので性別も分からない。

 くわえ煙草をふかしている姿は世情につかれているようにも見えて実に退廃的だ。

 しかも、プログラムの影響なのか全長が数十メートルと下手なビルより巨大というジャイアント仕様と来ている。

「ごきげんよう。パーティー会場はここかね?そこの揺れるヒゲだけでイッちまいそうなミスター?」

「え?わ、私かね?」

 いきなり現われたUMAは、この場で唯一ひげをたくわえているグレアムに白羽の矢を立てたようだが、当のグレアムはいきなり未知との接触で戸惑いが先に出ている。

「ク、クロノ…私はこういった状況の経験がないのだが、何と答えればいいと思う?」

「ぼ、僕もこんなのは初めてです」

 経験がある奴の方が珍しかろう。

「あ、あいつは…」

「アレの事をしっとるんかヴィータ?」

「主、私が説明します。アレは私達が魔力を蒐集した生き物なのです」

 はやての疑問に、シグナムが説明を始める。

 はやてを助けるために蒐集を開始した当初の話、未だに原因は不明だが転移事故を起こしてしまった。

「それで、座標も全く不明な薄暗い場所に転移してしまったのですが、そこに大量に生息していたのが猫のなりそこないのようなあの生き物だったのです」

 どう考えてもグレートキャットビレッジですありがとうございました!!

 まあそれはともかく、転移に事故ったとはいえ、はやての為に早急に魔力を集めなければならないのは変わらない。

 そして幸いというか不幸にもそこにいたナマモノ達は魔力を持っていた。

「それで…彼等には悪いと思ったのですが…」 

「…あんたらそんな訳の分からない物からまで蒐集したんか?」

 はやての為に贅沢は言ってられなかったのだろう。

 蒐集が遅れるという事は、そのままはやてに負担を強いることと同意である。

「わたしの為にやってくれたんやろうけど、あかんよそんな行き掛けの駄賃っちゅーか拾い食いのような真似は感心せんなぁ?」

 リインフォースの言っていた妙な魔力というのはこいつの事に違いあるまい。

 そりゃあこんなわけのわからない物を内に取り込めば、ロストロギアだろうが闇の書だろうが機能不全の一つや二つ起こすだろう。

「も、申し訳ありません…」

「ごめんなねえちゃん」

「ごめんなさいはやてちゃん」

「……すまぬ、主」

 はやてのお叱りに、ヴォルケンリッター達が揃って謝りを入れる。

 実際問題を起こしまくった以上、申し開きの余地などかけらも残っていない。

「そこのあなた?」

「ん?吾輩の事かね狸娘?」

「た、狸!?」

 はやての額でぴくぴくと何かがうごめいているが、なんとかそれを抑え込む。

 今回の非は間違いなく自分達の方にあるのだから…。

「…え、えっと…うちの子がご迷惑をかけて申し訳ありませんでした」

「フム、存外素直だな?それに免じて行き掛けの駄賃と拾い食い扱いしたのは聞き流そう」

「き、聞こえとったん?」

 はやての額から、タラリと気まずい汗が流れる。

 一応抑え気味の声で会話していたはずだが…デビルイヤーは地獄耳らしい。

 これでは下手な事はしゃべれない。

「そ、そんでお宅は誰です?」

「ここまできて吾輩が誰か分からぬとはなんという巡りの悪さ。ついに脳はおろか魂にまでヤニが回ったか?」

「え〜っと、私まだ未成年やからヤニはご法度…」

「今こそ自分の意志で吾輩の名を明かそう!!」

「会話のキャッチボール無視して勝手に話を進めんな!!」

 はやてが一瞬で切れて絶叫する。

 ネタを振られてそのままスルーされる事に、関西人の熱いパトスが我慢できなかったらしい。

 ブッ千切れたはやての変貌には|家族達(ヴォルケンリッター)もドン引きだ。

「吾輩の名は…」

「……ネコアルク」

「「「「「「「「「え?」」」」」」」」」

 ぼそりとした低い言葉だが、全員が声に反応して振り返る。

 そこにいたのは何とも言い難い表情でなのはを見ているフェイト、アルフ、ユーノの姿…どうやら声の主はなのはのようだが、本人は顔を俯かせているため表情が見えない。

「やっと忘れられそうだったのに、何で…ここでネコアルクが出てこなきゃならないの!?」

 もはや絶叫だった。

 そんなに嫌だったのか?

『なのはちゃん、あれはネコアルクじゃありませんよ?』

「はあ?だったら何?」

『あれはネコアルクカオス、あの退廃的な配色とCV中田 譲治.だから間違いありません!!』

 中田 譲治って…だれ?

「ネコアルク…カオス?」

『はい、遠野家の地下に広がるグレートキャットビレッジで稀に爆誕するらしいグレートカオスキャットです。しかもジャイアント仕様ですから略して|GNAC(ジャイアントネコアルクカオス)ですね〜』

「吾輩の|名乗り(みせば)を奪ったのは何処のドイツ…な、貴様は……!そんな、貴様は……!!!つ、つまり、貴様は……!」

 ネコアルクがなのはを見てあわてだした。

 そう言えば、ネコアルクはルビーに頭が上がらなかったようだが…カオスもそうなのだろうか?

「大魔王!!」

「何で初対面の相手にまで大魔王なんて呼ばれなきゃならないのかな!?」

 なのはが気にしている事をストレートにボーリングマシーンの如く掘削してくれた。

 どうやらカオスがおののいていたのはルビーではなくなのはの方にだったらしい。

「ふ、あきらめろ大魔王、貴様の事は世界が大魔王として認識している」

「また大魔王って言ったーーー!!」

 暴走しているなのははともかく…今こいつ気になる事を言ったな?

 なのはが世界に認識されているって…まさか本体と同じく、世界の触覚的能力でも持っているのか?

 しかも世界に認識されるなんて英霊や英雄クラスの人材…ということはそのうち、なのはに英霊の座からスカウトが来るかもしれない。

 きっとそいつは白い小動物姿で「|世界(ぼく)と契約して英霊になってよ」などと甘い言葉で近寄ってくるかもしれない。

「クロノ君!!」

「は、はい!?」

「と、とにかく、あのネコアルクもどきを倒せば全部終わるんだよね?」

「た、多分…」

 大分物騒に要点のみ簡潔に纏めて言えばそう言う事になる。

 あのネコアルクカオスがどうであれ、その本質は闇の書の防衛プログラムに他ならない。

 放置しておいたら何をやらかすか分かった物では無いので、いろいろな意味で見逃すという選択肢はないのだ。

「ほう、つまり吾輩とくんずほぐれつキャットファイトしよ〜じゃあ〜りませんか!?っという事かねお嬢さん?実に熱烈なお申し出に少しドキドキでございます〜」

「なのはを大魔王って呼んだ人とはOHANASIするって今決めたの!!」

 おや?…不特定多数の人間がぎくりとしたな?

 しかもなのはが何時になく好戦的でオレンジな人形師みたいなことを言っている…これは本当に逆鱗に触れたか?

「ずばりゴメン被る」

「「「「「「話が進まねーからとっとと受けろやーーー!!」」」」」」

 これでも、この世界をかけた最終決戦である。

「まあ…いいだろう。かつてない豪華なステージに、なんかカメラ中継とかも始まっております」

 アースラがモニターしている事を言っているのだろうか?

 それに気がつくとは大したものだが、褒める気が微塵もわいてこない。

「では皆さんお待ちかね、ニクキュウ〜〜〜、ファイトッッッッ!」

「「「「「「「「な!!」」」」」」」」

 先手はカオスが取った…って言うかいかにも体に悪そうな真っ黒なビームを目から出すなどと、生き物の所業では無い物を目にすれば、先手くらい取られても仕方がない…“初見”でそんなでたらめに対処しろという方に無茶がある。

 カオスの混沌ビームは驚きで硬直しているはやて達に、逃げる暇も防御する暇もなく盛大な爆発を起こした。

「怪猫、天を揺るがす。気をつけろ、次は太陽ごと吹き飛ばしかね…んむ?」

 爆発の煙が薄れ、その先に|桜色に輝く魔法陣(プロテクション)を見たカオスが眉をひそめる。

「その技はネコアルクの時に見ているよ!!」

 初見では対処できない…しかし初見じゃなければ話が違う。

 出鱈目とは不意打ちでこそその真価を発揮するのだから、なのはは以前のネコアルクの奇行をその目にしていた事で、多少なりともナマモノに対する耐性を獲得していた。

「ニャンとまあ…おや?」

 ふと気がつけば、カオスの体を光る鎖が拘束していた。

「フム…亀甲縛りとはマニアックな…」

「フザケンナ!!そんな特殊な縛りしてないだろうが!!」

「普通に拘束しているだけです!!」

 鎖の根元をたどって見れば、アルフとユーノがダブルでチェーンバインドを展開している。

 耐性を獲得していたのはなのはだけではなかったらしい。

 ちなみに縛り方はカオスの言うようなマニアックな物ではなく、普通のミノムシ…逆さ吊りじゃないから通常状態でもリバースがつく。

「フム…只今絶賛新しい世界の扉を開けつつある吾輩であるが、いきなり自分の趣味を問答無用で他人に押し付けるのはどうよ?と思い侍りいまそかり、そのあたりどうだろねボーイズ&ガールズ?」

「やかましい!!お前はもうしゃべるな、耳が腐る!!フェイトちゃっちゃと決めちゃってくれよ!!」

「おや〜ふと影が差したので見上げれば、鎌を振り上げて降ってくる美少女が一人?」

 言わずと知れたフェイトその人だ。

「バルディッシュ!!」

『Yes, master?』

「許す!目立って良いよ!!」

『いよっしゃーーー!!見せ場キターーーーー!!』

 一気にバルディッシュのテンションが天元突破する。

 連続してカートリッジが排出された。

『変身!!ザンバーフォーム!!』

 バルディッシュのサイズを展開している部分が二つに割れ、両側に展開される。

 同時に魔力刃もその形を鎌から直線へと…あらわれたのは黄金の刃を持つ両刃の大剣だ。

 完全に拘束されているカオスには避ける術も防御する術もない。

「撃ち抜け雷神!!ジェット…」

「おっとどっこい、エリート混沌部隊ダミアン☆ベレーかむぉ〜ん!!ダスク・オブ・ザ・キャーット!!」

「え?なぁーーーーー!!」

 まさにとどめを刺そうとしていたフェイトだが、どこからともなく現われた黒い滝に呑まれてその姿が消える。 

 否、滝に見えたのは水では無い。

 それは…。

「カ、カオス?」

 流石のなのはもこれには唖然とするしかない。

 耐性があっても十全ではないといういい例ではあるが、それはともかく数十匹の通常サイズのカオスがフェイトに降り注ぎ、押し流すようにして地面に落下していった。

「え?ええ!?な、何するんですか!?」

「フェイトちゃん!!」

 しかもそれだけではすまない。

 カオス達はフェイトを神輿のように担ぐと、そのままどこへともなく連れ去っていく。

「こら手前ら!!フェイトを何所に連れて行くつもりだい!?」

「ああ、アルフ!!チェーンバインドを解いたら!!」

「フンは!!」

 カオスの気合とともに鎖が千切れる。

 どこぞのマッチョ神父のような所業だ。

 そう言えばあの精神破綻者も中身は一緒だな。

「フェイトちゃん!!」

「な、なのは!!私は大丈夫だから!!」

「でも!!」

「私よりも奴を!!」

 ヒロインの鏡のようなとってもいい台詞を残しつつ、フェイトはカオス達にお持ち帰りされて何処へともなく連れ去られて行く。

「待ちやがれ手前ら!!フェイトを返しやがれ!!」

 まあ…流石にこの世界からは出られないとは思うし、アルフが追いかけて行ったので心配はないだろうが…。

「ルビーちゃん、今の…小さいカオスは何?」

『番長猫屋敷のカオスバージョンですね〜ネコアルクも使えますよ』

「そ、そうなの…たくさんいるんだね…ネ、ネコ妖精って…」

『そうですね〜特にネコアルクカオスは一匹いたら666匹いると思わなきゃですよ〜』

「それは多過ぎるよ!!」

 これがあながち嘘でも冗談でもないので性質が悪い。

「さらばだ麗しのハ〜レ〜クイ〜ン、君の振るチェッカーフラグの色は忘れない」

「い、いや〜フェイトは見た目確かにそんな感じだけどチェッカーフラグを振った事はないよ」

「犬3、猫7といったところだな」

「何の話!?」

 カオスの世迷い言に、きっちり合いの手を入れているユーノ……今確か戦闘中だよな?

「さて…そろそろ本題に戻ろうか?」

 そう言ってカオスが見たのはなのはだ。

 見られたなのはも思わず身構える。

「怪猫並び立たずとよく言われますが、この辺りでそろそろ決着をつけ、どちらが真の猫に相応しいか決着をつけるとしよう」

「え?これってそんな話だったかな?その前になのはは怪猫じゃないんだけど?」

「フム、それにしては事あるごとにニャーニャー鳴いているようだが…ナチュラルボーンキャーットという事かな?」

「そ、そう言われても…」

 後ろにいるネコ耳姉妹は無視ですかそうですか…。

「そ、それになのはだけじゃないよ!?」

「む?」

 いつの間にか、カオスを剣群が包囲している。

 古今東西の伝説に語られる様々な武具がその切っ先をカオスに向けていた。

「ほほう、君が先約かね?」

 まさに真打登場、数多の神剣魔剣を従えるこの世界の王…エミヤシロウが前に出る。

 守護者は世界に雇われた掃除屋である。

 そこに意思はなく、淡々と世界に命じられた命令を遂行する機械……のはずなんだが、気のせいだろうか?

 自意識のないエミヤシロウにもなのはと同じく、何やらやる気というか殺る気を感じるのは?

「……」

 無言のままに、シロウは剣軍に攻撃を命じた。

 アンリミテッド・ブレイド・ワークスの世界に存在するすべての武器がカオスに牙を剥く。

「にゃんの!!こんな時こそにゃんぷしーろーる・JC…って避けらんねーーー!!」

 ネコアルクとネコアルクカオスの当たり判定は小さい。

 その小さな体躯故だが、それが数十メートルの巨体になった場合、辺り判定?何それという事になる。

 目隠しして適当に石を投げても、後ろに放り投げない限りは当たるレベルのものににゃんぷしーろーるもくそも何もあったもんではない。

「くっ、ならば出でよわが僕ども!!」

 ずるりと、カオスの陰から黒い何かがはい出してきた。

「にゃーーー!!何か出た!!何か出て来たよルビーちゃん!!」

 それを見て悲鳴を上げたのはなのはだ。

 正体不明の真っ黒なおぞましい異形が現れるシチュは、初めて見るホラー映画に匹敵する。

 ついでにお前、やっぱり猫属性付きだろう?

『なのはちゃん、慌てず騒がずまずはプロテクションですよ』

「プロテクション!!」

 ルビーの助言になのはが即座に従う。

 展開された魔法陣に対して、グロテスクな化け物が真正面から突っ込んでくる。

「にゃーーー!!」

 悲鳴を上げたなのはの目の前でプロテクションに体当たりした化け物が…ポーンと軽い音とともに跳ね返された。

「……え?」

 なのはの口から、無意識に疑問符が漏れた。

『あはぁ〜やっぱりですね〜』

 全く慌てていない所を見ると、どうやらルビーはこの状況を予想していたらしい。

「ルビーちゃん、ドイウコト?」

『カオスって元々リーチは長いけど攻撃力がダントツに低いんですよね〜』

「にゃ、にゃんですとーーーー!?」

 なんでなのはより先に|お前(カオス)が驚く?

「そ、そんニャ…それじゃあ大きくなった意味がまるでナッシング!?」

 むしろマイナスだろう。

 元のサイズだったらやりようもあったかもしれないが、大きくなったことでデメリットしか目につかない。

「……ねえルビーちゃん?という事はあの怪獣さん達は?」

『張りぼてですね』

「……」

 混沌の獣を指さして問いかけたなのはに、ルビーがあっさりと答えてくれた。

「あは、あははっはっははーーー!!」

 何やら壊れたように笑うなのはの周りに、曼陀羅魔法陣が展開される。

「怒りの|大虐殺祭(ジェノサイドカーニバル)――――――!!」

「ぬおおおお!!これが白い大魔王様の全力全開か!?八つ当たりじゃねーーーか!!勝手にビビったのはお前だろ!?」

「五月蠅い!!なのはびびってないもん!!大人になったんだから漏らしそうになってないもん!!」

 ああなるほど、そう言う事か…本人の言う事を信じれば、ギリギリで踏みとどまったようだが…それはともかく、カオスの言うとおり明らかに八つ当たり込みな桜色の破壊光線が雨あられと降り注ぐ…カオスの巨体と合わせて、もはや怪獣大決戦の様相を呈してきた。

「あ、危うくウェルダンに焼きあがる所だったZE!!」

 砲撃がおさまったそこで、カオスは未だにその姿を保っていた。

 ただし髪の毛はアフロになっている。

「くっ、しぶとい!! アフロになるくらいで済む火力じゃなかったはずなのに…」

『なのはちゃん、あれがギャグ補正というものです!!』

 明らかに致命傷でも笑いごとで生き残り、常識を完全シカトした行いを是とするそのギャグ補正の恩恵…カオスならばその存在故に最大限受けられるだろう

 実際、|大虐殺祭(ジェノサイドカーニバル)を受けてもアフロになる程度で耐えきられてしまったのだ。

 この補正を超えてダメージを与えるのは並大抵のことでは無い。

「思ったより厄介だけど…つまりもっと大火力が必要って事だね!!」

『そのとーり!!なのはちゃんの理解が早くて助かります!!』

 元々才能はありまくりな子だったが、そろそろ本格的に目覚めたか?

 ルビーも煽るんじゃねえ!!

「強くなりたきゃ魚を食いな!!」

『「うん?」』

 なのはとルビーがちょっとお話ししている間に、カオスはアフロな髪に櫛を通し、ブローを済ませて完全復活していた。

 何と言う早業、驚きのスピードだ。

「やるなお嬢さん、ならば吾輩もラストアークで答えねばなるまい」

「ラストアーク?」

 なのはの脳裏に、ネコアルクが使ったアンゴルモアハンマーが思い出された。

 原理も理屈も全く不明に、空から巨大なキノコを降らせたあれだけはまずい、その一撃でジュエルシードが砕けたのだ。

「召還!カレイドステッキストライク!!」

「ええーーーー!!?」

 カオスの言葉に対し、なのはが犯した失態は二つ…一つはルビーの名に反応してしまった事、二つ目はなまじネコアルクのアンゴルモアハンマーを見ていたため、とっさに頭上を見上げてしまったことだ。

 それが何であれ、頭上から来る事が分かっていたのだから、問答無用に現場から距離を取らなければならなかった。

「何でルビーちゃんが落ちてくるの!?ここはルビー星じゃないんだよ!?」

 確かに頭上にはなのはの予想通りの物、巨大なルビーが自分目がけて落下してくるのが見えたが、それにびっくりして体が硬直してしまう。

『あはぁ〜ジャイアントカレイドステッキ、これって肖像権を主張したら勝てませんかね?』

「裁判に持ち込む前に今をどうにかしてよ!!」

 なのはの言う通りだ。

 でも、突っ込みを入れている間があれば少しでも避けろ。

「…|約束された勝利の剣(エクスカリバー)」

『「っ!?」』

 絶体絶命のなのはにぎりぎりかすらない至近距離を、光の斬撃が逆袈裟に立ちあがった。

「ニャンと!?」

 今度はカオスが驚きの悲鳴を上げる番だ。

 空に向かう斬撃は、その途中にあったルビー(?)を簡単に両断したのだ。

『あぁ〜ん、ジャイアントルビーちゃんが〜』

「今のは…」

 戯言を抜かすルビーを無視して、なのはは背後を振り返る。

 そこにいたのは黄金の剣を振り上げ、残心しているシロウだ。

「助けて…くれたんですか?」

 守護者として降臨したシロウには自意識がないはず…なのになのはを助けたのか?

 あるいは摩耗したはずの、何らかの感情をルビー相手にぶつけたようにも見える。

「じゃんけん…ちねぇ!」

「っ!!」

 余韻に浸る暇もない。

 ここぞとばかりにカオスがグーパンで殴りかかってくる。

 確かに全長数十メートルの巨体によるパンチは下手な攻撃よりも威力があるだろう。

 ただしこの場合、殴りかかった相手が悪かった。

 自分に向かってくる巨大質量を目にしたなのはは、おびえどころかむしろ目をぎらりと輝かせて杖を構え、砲撃を放つ。

「ふっ、未熟だな?」

 なのはの構えた杖はあらぬ方向を向いていた。

 当然カオスにはかすりもしないが…。

「ふっふっふ、改めてちぬが良いってチョイ待ち!!お前のそれはどう見てもライザーソードのパクリだろ!!」

 砲撃が止まらない。

 桜色の奔流が噴き出し続けているそれはまさしくライザーソード……パクリと言われてぐうの音も出ないなのはが真っ赤になる。

「こ、ここからがオリジナルだもん!!」

『魔法術式の…二』

「七の刃(なのは)!!」

 斬撃と言うには凶悪過ぎるそれが振り下ろされる。

 しかも一刀では無い。

 第二魔法、|万華鏡(カレイドスコープ)によって増えた斬撃は≪七の刃≫の名が示すとおり、七振りに分裂してカオスにカウンターを叩き込む。

「ふるぼっこいやーーーー!!苛めカッコ悪いーーーーー!!」

 大軍さえ振り払えそうな七刀は、個人に叩き込むにはオーバーキルが過ぎるが、ジャイアントネコアルクカオスに対してはちょうどいい大きさだ。

 別々の七方向から一度に食らったダメージでカオスがズタボロになりつつ、もんどりうって吹っ飛ばされた。

 数十メートルの巨体が空を飛び、地面にたたきつけられると猛烈な土煙が舞い上がる。

「キャット! ラック! キャット!ここは地獄だネコったれ!」

「ま、まだ立ち上がるの!?」

 なのはの奥の手を食らって尚、このナマモノは即座に立ちあがりやがった。

 どう言うレベルのタフネスだろう?

 やはりギャグ補正は侮れない。

「こうなったら…」

「ま、まだ何か出てくるの!?」

「……」

 何か企んでいるらしく、気合いを入れているカオスに対して、なのはとシロウが揃って身構える。

「は?」

「……?」

 二人の見ている前でいきなり直立不動となったカオスから、ジャキンという金属的な音がした。

 何の音だろうと思っていると、カオスのスカートから猛烈な白煙が噴出して視界を白く染め上げる。

「何これ!?」

『ジェットですね〜』

「ジェット!?」

『ネコアルクとカオスの主武装は鍛え抜かれたツメ、ひかるビーム、そしてもしやジェットですから』

「“もしや”って何!?」

 律儀に突っ込みながらもなのはは思い出した。

 ネコアルクがどうやって自分達の前から去ったのかを…奴はロケットよろしく空に向かって飛び去るつもりだ。

「逃げるの!?」

「真実まっこと、地球を一秒で七周半して汝に突撃する超技とかあったりするゼ。まあ、問題は三周あたりでこっちの体が溶け始めるコトにゃのだが」

「そんな所までネコアルクそっくり!?」

 言っている間にカオスがテイクオフした。

 初めはゆっくり、徐々に速度を上げて空を目指していく。

「紙一重の戦いだった。おそらくニボシ一匹分の差……一歩間違えれば、倒れていたのは私の方だったかもしれないな……」

 確かに倒れていないが、なのは達だって倒れていない。

 嘘、大げさ、紛らわしい事を言っているとJAROに目をつけられるぞ?

「行かせない!!ルビーちゃん、レイジングハート!!」

『承知しました。なのはさま』

『おっけ〜ですよ〜とらんすふぉ〜む』

 なのはの意思に応え、ルビーに合体していたレイジングハートが自身の意志で解体する。

 新たなるフレームが展開され、再構成されたそれは銃と弓を合体させた重量級武器、マジカルルビー砲撃モードだ。

「……」

「え?エミヤシロウさん?」

 狙いを定め、周囲の魔力を砲口に収束させて行くなのはに、いつの間にかシロウが並び立つ、その手に持つのは黒弓と捻じれた剣…つがえた時点でサンダーストームを発しているカラドボルグには、なのはに負けないくらいの魔力が込められている。

「むぅ、途端にイヤな予感に包まれる吾輩」

 どうやら自分を狙っているなのはとシロウに気がついたようだが…それはすでに予感ではなく、明確にそこにある危機だろう。

「スターライトブレイカーーー!!」

「|偽・螺旋剣(カラドボルグ)」

 桜色の砲撃と捻じれた剣が同時に放たれる。

 雷光を纏い、空気を螺旋にえぐりながら突き進むカラドボルグとスターライトブレイカーの砲撃が一つとなり、桜色の雷光を纏う螺旋剣となって、一直線にネコアルクカオスに向かって飛んだ。

「お前がこのボイスを聞いているということは、父さんはもうこの世にはいないのだろう。どうか父さんの勝手を許してほしい。ただ一つだけ……お前がメイド喫茶デビューする姿をこの目で見られない、それだけが心残りだ。いや、まだあった。予約済みの沙那の神フィギュアが月末あたりに届くはずなんだが……ああっ!待てっ切るなっちょっまっ」

 最後にはネコアルクカオスも観念したらしく、何やら辞世の句というかここでは無いどっかにメッセージを残しつつ、最後にはリアルタイム交信しているようだったが、先方にうざがれたらしく、切られた所で螺旋剣に追いつかれ、その巨体は閃光の中に消えた……|末期(まつご)の言葉としては最低クラスではないだろうか?

「殺った!!じゃなくてやったよ!!」

 なのはの黒い部分が顔をのぞかせたような気がするが…きかなかった事にしよう。

『まだですなのはちゃん!!』

「あ、あれ!!」

 ルビーの警戒した言葉に、はっとしたなのははすぐに“それ”を見つけた。

 ネコアルクカオスの巨体が消え去った…その代わりに、黒い球体状の何かが残される。

『きっと防衛プログラムのコアですね…』

「コア!?それじゃああれをどうにかすればいいんだね!?でも…」

 理屈ではあれを破壊すればエンディングだ。

 逆に、なのは達がプログラムコアを破壊しない限り終わらない。

 時間をかけてでも、コアが健在であればカオスは再生されてしまうだろう…谷津自身相当にしぶとそうだし。

 だがしかしあのコアは螺旋剣の一撃と星光の殲滅者の合わせ技…なのはとシロウの最強の一撃でも破壊できずに残った代物…現場においての最凶にして最強の破壊力を持ってしても破壊できない物をどうする?

『大丈夫ですよなのはちゃん』

「え?あ、シロウさん?」

 なのはの見ている前で、シロウが手の中に作り出したのは捻じれた短剣。

「……」

 シロウは躊躇なくコアに向けて短剣を投げつける。

 どう見ても投げナイフとして使うのには向かない形状だが、シロウの並外れた技能により、狙いたがわずコアに向かって一直線に飛んで行く。

『|破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)、ギリシャの神話、コルキスの魔女メディアの持っていた宝具、裏切りの短剣、その能力は刃に触れたあらゆる魔術による生成物を初期化する力です』

「あ…」

 思わずなのはは声を漏らしていた。

 捻じれた切っ先がコアに触れた瞬間、ガラスが割れるような音とともに球体は砕け、闇色の残滓が飛び散る。

 すべての魔術の初期化…それは魔法による産物にも有効だったらしい。

 それ自体が魔力で編まれたものであるプログラムコアがルール・ブレイカーの刃を受けた場合、肉体のように確固たるものを持たないそれの末路は、完全な消滅しかない。

「……」

 多くの犠牲と悲しみを生み出したプログラムの最期を、なのはは不謹慎と思いながらも美しいと……数度の瞬きの後には魔力の残滓すら残らず消え去る光景には、潔さと同時に儚さも感じさせるものだったとなのはは思う。

「街が…」

 コアの消滅で、脅威は排除されたとシロウが判断したのだろう。

 アンリミテッド・ブレイド・ワークスの世界が解除され、破壊されていない本物の海鳴の街が二人の周りに戻ってくる。

 生まれ育ち、見慣れた街の姿になのはは安堵の息を吐いた。

「あ、あの…」

 余韻が消えるのを待って、意を決したなのははシロウに話しかける。

「助けてもらってありがとうございます。プレシアさんの時も…あの時はごめんなさい」

「……」

 シロウは答えない。

 ただじっとなのはを見ている…その視線を受け止め、見返す。

「その…私…ずっと…」

「おいこら…」

「そうなんです。ずっとおいこらなんなんです…って、は?」

 会話に妙な合いの手が入れられ、思わず振り向けば至近距離で自分を睨んでいるヴィータと目があった。

「ヴィ、ヴィータちゃん?何で怒っているのかな?それにとっても近いんですけど?」

「お前にもあたしが怒ってるのがよーく解るように近づいてんだよ。それよりも何してんだ?」

「え?何って…」

 シロウとお話ししているのだが…それでは聞くまでもなく見たまんまだし、鬼気迫る気配を発散しているヴィータは間違いなくそんな答えを求めていない。

「ここは愛しさとか切なさとか心強さとかで皆で力を合わせて勝利を勝ち取る所だろうが!!」

「ええ!?そんな熱血少年漫画な設定をなぞらなくても…」

「何二人だけでさっさと片付けて他人お断りな二名様限定の甘い世界作ってんだよ!?空気読めや!!」

「あ、甘い世界!?」

 いや…二人だけの世界に入っているってわかっているのなら空気を読むのはむしろお前の方だぞヴィータ…そして何で真っ赤になるんだなのは?

 ユーノが何にショックを受けたのか知らないが、白い灰になってる?

「見ろ!!って言うか聞け!!フルボッコの曲だって今やっとかかった所だなんだぞ!!」

 

てっとてのぬっくもりが〜〜〜〜♪

 

 割とやけっぱちな音程なのは気のせいではあるまい。

「はやて姉ちゃんからもこのKYに何か言ってくれよ…って姉ちゃん?」

 これだけ騒いでいながら、はやてから何のリアクションもないので変だなと思ってヴィータが振り返って見れば…はやての様子がおかしな事になっている。

 具体的には頬に赤みがさして、騒いでるなのは達には目もくれず、まっすぐ一点だけを見ている。

「ええな〜かっこええな〜」

「「「「「「は?」」」」」」

 しかも何やら唐突に変な事を言いだした。

 全員ではやての視線をたどってみると…シロウの背中に突き当たる。

「男の哀愁漂う背中って〜さいっこうやな〜」

「「「「「「何―――!!」」」」」」

 予想外というか斜め上を何かが素通りしていった。

 驚きで硬直する一同には目もくれず、はやてがシロウの傍に近寄る。

「あ、あの〜わたし〜八神はやてって言います〜危ない所を助けていただいてありがとうございました」

 はやては胸の前で手を組み、祈るようなポーズでシロウを見上げている。

 その前の中にはキラキラした光があり、精一杯女の子としての自分をアピールしていた。

 こ奴…どうすれば自分を最大限に可愛く見せられるか熟知している行動だ。

「はやてちゃんが女の子している…」

 なのはが初めて見る友人の一面に引いている。

「あ、あたしの姉ちゃんがこんなに可愛いわけがねえ…」

『ヴィータちゃん、家族としてその感想はどうなんでしょ?なのはちゃんもはやてちゃんが可哀そうですよ〜彼女も女の子なんですから〜』

「「うう…」」

 珍しいルビーの突っ込みを受けて二人がうめく。

 確かにその通りなのだが…普段のはやてを知っているだけに、なんか納得がいかない。

 やはり日ごろの行いとイメージは大事だ。

「あ…もう行ってしまうんですか〜?」

 見れば、現界出来る時間が過ぎたのか、シロウの姿が急速に薄れ始めて行く。

 やがてその体は魔力の粒子になり、儚い一時の夢幻のように、何も残すことなく消え去った。

「もう〜イケズな人やね〜」

 シロウが消えてもシナを作り、女の子モード継続中のはやて……真面目に誰だよこいつ?

「なのはちゃん!!」

「はい!?」

 シロウが去り、目標を失ったはやては、今度はなのはをロックオンして突撃してきた。

「さっきの人!!エミヤシロウさんと知り合いなんやろ!?」

「え、うん…まあ…」

 知り合いというか…命がけの真っ向勝負とかやらかした仲だ。

 とはいえ、あの時のエミヤシロウとさっきのエミヤシロウは、同一人物でありながら厳密には別人という複雑で厄介な関係でもあるので説明が難しい。

「紹介して!!」

「全然遠慮ないね、はやてちゃん!!」

「恋する乙女は無敵なんや!!」

 無敵なのは乙女ではなくお前だろうと思う。

 今日のはやては恐ろしく行動的だ。

 しかも両肩に手を置かれ、がっしりとホールドされているので逃げる事も出来ない。

 まだ魔法使い状態で肉体強化が掛っているはずなのに、振り払える気がしないとはこれいかに!?

「で、でも駄目だよ。そんな簡単に会える人じゃないんだから…」

 今回はたまたま闇の書という脅威が存在した為に現界してきたが、それこそ世界崩壊規模の大災害でも起こさなければシロウとの再会はかなわない。

 その場合、もれなく抹殺対象に認定されてしまうので、甘い恋愛とかあこがれとかの要素は皆無だ。

 そもそも、守護者として現界したシロウには感情がないし、友人としてはやてにそんな事をさせるわけにもいかない。

 この世界をくまなく探せば同一人物が見つかるかもしれないが、それはエミヤシロウと同一人物でありながら別人の某シロウさん…英霊エミヤシロウとは別人…むしろ|守護者(アレ)はなるべきではない未来である。

『でも〜なのはちゃんが第二魔法をちゃんと使えるようになれば、並行世界ですけどかなり近いシロウさんには会いに行けますよね〜』

「ルビーちゃん!!」

「ほんまに!?」

 ルビーは絶対面白がっていると思う点について…。

「なのはちゃん!!ハリーハリーハリー!!」

「いきなりそんな事を言われても!!ってあ!!」

 なのはの体が再び七色の光に包まれ、光が消えたそこには元の姿に戻ったなのはがいた。

「な、なのはちゃんが縮んでもうた!?」

「じ、時間切れ見たい」

「そ、そんな〜」

「ざ、残念だったねはやてちゃん?でもどっち道なのはにはまだ並行世界を移動するような魔術は使えないの、ごめんね」

「そ、そうなん?」

「魔法使いになればできると思うけど…今のなのはは魔術師だから、ルビーちゃんの力を借りてやっと少し魔法使いの力を使えるくらいなの」

 がっくりと肩を落とすはやて、見た目に分かるほど背中の六枚羽もしおれてる。

 あの羽は飛ぶだけじゃなく感情表現にも使えるのか…しかしそれも数秒…ピンと以前よりも鋭角に跳ね上がると同時、はやてが力強く立ち上がる。

「わたし|復活(リボーン)!!よーし、そんならわたしが魔法使いになったる!!」

「「「「「そう来たか!!」」」」」

「そんでシロウさんに会いに行く!!所で魔法使いって魔導師や魔術師と何が違うんの?」

「「「「「何にも知らないで魔法使いになるつもりだったんだ!?」」」」」

 突っ込みどころが多過ぎる。

 この暴走娘…ブレーキというものがないのか?

 手段は選ぶためにあるんだぞ?

「だ、駄目だよ!!そ、そんな不純な考えで魔術を習ったら」

「ほえ?」

「魔術はとっても危険なの!!」

『あれ?その割にはすずかちゃんにはすぐにOK出してましたよね?』

「ルビーちゃんシャラーーーーップ!!」

 はやてのなのはを見る目が半眼になり、全身から嫌な汗が噴き出してきたなのはの肩に手が置かれ、ギギギと振り返って見れば三白眼なはやてと目と目で通じあう。

 はやての目は、犯人を追いつめる刑事のようなだったとなのはは後に語る。

「なあなのはちゃん?」

「は、はやてちゃん?」

「…ひょっとして…なのはちゃんもシロウさんの事好きかな?」

「にゃーーーー!!」

 真っ赤な茹蛸状態になっては言い訳もへったくれもない。

 なのはは全身で口以上に物を語っている。

『そう言えば前回、なのはちゃんシロウさんに頭撫でられてましたね?あの時実はこっそりフラグが立ってた?さっすがシロウさん、一言もしゃべらず女心を落とすなんてパネェですね〜』

「くぁ!!ルビーちゃん!?」

「ちいっ!!かなり先を越されてしまっとるのか!?なのはちゃん怖い子!!」

 はやてが拳を握って少年漫画のようにわななく…乙女は何処に行った?

「な、なのは怖くないよ!!」

 いや、お前は色々な意味で怖い。

 そしていつの間にか戻って来ていて、電柱の陰からハンカチを噛みつつ、涙目でなのはを覗き見ているフェイトも怖い。

 更には、フェイトに何と声をかけていいのか分からずおろおろとしているアルフと…さらに後方の電柱の陰から盗み見しているプレシアはどうしたものか…ちなみにその足下で白い灰になっているユーノは誰にも見向きされていない…処置なしだ。

「……なのはちゃん?」

「にゃ?」

「私達は親友や」

「う、うん…」

 何か色々思う所がないわけじゃないが、なのははとりあえず首肯する。

「でも恋にかけては宿敵と書いて友と読む!!」

「ライバルじゃなくて!?」

「そうとも言うな!!」

 一体だれが調子に乗った|こいつ(はやて)を止めるんだ?

 

――――――――――――――――――――――――――

 

「フフフ、子供達の|恋バナ(じゃれあい)というのはどうしてこうも微笑ましいのだろうなクロノ?あの子達を見ていると昔の君を思い出すよ」

「そ、そうですね…」

 クロノは隣に立つグレアムの言葉に生返事を返した。

 その口からは軽くエクトプラズムが出ている。

「それにしても…我々は何をしに来たんだったか?」

「え、えっと…さあ…」

 これは自虐ネタだろうか?

 気まずさMAX状態でクロノはまともな答えを返すことが出来ない。

 死まで視野に入れて勢いこんで来て見れば、完全観客者扱いで何もさせてもらえなかった…いや、最初のカオスの不意打ちに硬直し、その後に始まった大規模広範囲戦闘に介入の糸口さえも見つけられなかったのだから、力不足とか自業自得と言われても反論の余地はないのだが…あの戦闘は一見してフザケテはいる物の、使用された魔法や魔術は高度なものだったし、普通の魔導師の出る幕などなかったと、言い訳ならいくらでもできるがしかし…。

「こんな…こんなあっさりと決着がつくとは、クロノ?君の見通しはすごいな?」

「そ、それほどでも…」

 クロノだってここまで見越していたわけではない。

 そしてグレアムも本気で思っているわけではないだろう。

 これは要するに…軽い現実逃避だ。

「それに対して…ははは、私は何をしていたんだろうな?」

「お父様!!」

「衛生兵!!えいせいへーい!!」

 いきなり卒倒したグレアムとそれに駆け寄る猫姉妹の姿には真面目にビビった。

 おそらく十年に及ぶ重責とか罪悪感とかが一気に解消されたため、精神のブレーカーが落ちたのだろう。

「命短しはしゃげよ若人」

 名言っぽい言葉とともに、グレアムの病室直帰が確定した。

 今度こそ駄目かもしれない。

 慌てたリンディの指示で、アースラから駆けつけてきた魔導師の皆さんに連れられて行くグレアムと付き添いの猫姉妹を何とも言えない目で見送り、気がつけばクロノだけが残っていた。

 近くではまだなのは達のじゃれあいが続いているが、今さらあの騒ぎの中に突入していく気力もないクロノは、どうしようもなく一人ぼっちで絶賛孤立中だ。

「…世の中は、こんなはずじゃなかった事ばかりだよなこんちくしょう!!」

 悲しさとやるせなさと孤独感を胸に、クロノは夜空に輝くオリオンに向けて叫ぶことしかできなかった。

 

説明
リリカルなのはに、Fateのある者、物?がやってきます。 自重?ははは、何を言ってるんだい?あいつの辞書にそんなものあるわけないだろう?だって奴は・・・。 ネタ多し、むしろネタばかり、基本ギャグ
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