ISジャーナリスト戦記 CHAPTER15 重罪残骸
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―――衝撃!樹海の奥深くに謎の研究所が存在した!? 睦月灯夜。探検隊が挑むシリーズ第1弾、ここに開幕!!

 

 

「・・・なんて、企画なら乗り気なんだけどな。いや、無理だな精神的に。SAN値が持たないだろう、きっと」

 

きっと、じゃねーよコノヤローッ! 絶対に無理だっつーの。

はい、皆さんお久しぶりです。愉悦部の広報担当、ブラッディワインです。前回までのあらすじ・・・肩見せツインテール少女がIS学園に襲来、以上。

 

などという意味不明な説明はさておいて俺は今、長年の親友のにとりと知り合いのドイツ軍人ことクラリッサ・ハルフォーフを連れて、マドカから情報提供を受けて存在を知った樹海の中にあるという超外道な違法実験施設とやらの探索を行おうと、先の見えぬ整備など全くもってされていない野道を突き進んでいた。

内心死体が転がってはいないかと不安でならないのを抑え歩き続けて早くも三十分が過ぎるが、トラップや監視カメラといった類は依然として発見されず、その姿を一向に自分達の視界に映り込ませては来ていない。所々何か仕掛けてありそうな場所を調べてみるも空振りに終わるといった次第である。

仕方なしに先行して周りに気を配りつつ、テンションが下がる一方の場の空気を改善しようと俺は五月蝿くない程度に適当に同行者の二人と会話を試みることにした。別に喋らずに黙々と移動するのが怖くなったわけではないからな、そこらへんは宜しく頼む。

 

「おーい、にとり。樹海に入ってから今何キロだ?」

 

「えっーと、二キロちょっとぐらいだね。特に気になるものは私から見ても今のところ目に入らないけれども」

 

「だろうな。よくよく考えればこの程度進んだだけで見つかるんじゃ、違法研究所とはある意味で言い難い。最低でも入口に戻るのが極めて困難というレベル以上の距離にあるのが妥当だ」

 

「しかし、現状では『何も』おかしな点はないというのに妙ですね。奥に進めば進むほど違和感は増していくばかりだというのに・・・・・・」

 

軍人的直感からクラリッサは微かな不気味な気配を感じとったようだ。かく言う俺もにとりも既に気づいた上で警戒を強めて移動していたりする。

技術屋の直感、ジャーナリストの直感、軍人の直感、オカルト専門家の直感などがこの場に揃いも揃っている状況はもはや隙のない強力なパーティーと化して存在しているんじゃないかね、ホント。何も怖くはないってことはないけどさ。

 

思えばクラリッサとの出会いがなければ、にとりと二人で突撃・・・最悪の場合は俺の単身特攻だったんだよな。協力が取り付けられないってことはSASが無い状態なんだから生身で亡国機業を追跡してマドカと接触するほかなかったってことか。気味悪がられるのは必然だろうね、ISとの生身戦闘。

 

「にしても、不思議だよな。にとりはいいとしてクラリッサみたいなリアル軍人、それも特殊部隊の人間が一緒になって行動しているなんて普通じゃ考えられないぞ。どうしてこうなった」

 

「いやいや、灯夜が何時の間にか知り合って連れてきたんでしょうが・・・・・・」

 

「そりゃわかってるよ? でもなぁ、まさかあんな場所で出会うことになるとは露も思っていなかったさ。・・・なぁ、クラリッサ?」

 

「そうですね。私も数あるIS雑誌の中でも名の売れた貴方に休暇で訪れた先で出会うことになるとは予想外でした」

 

うむ、予想外この一言に尽きる。だってねえ、誰があんな場所でエリート軍人さんと出くわすと思いますか。確率的に奇跡にも近いエンカウント率なんだぜ?

 

「ぶっちゃけ、何処で会ったのさ。はぐらかすのはナシで真面目に答えてよ」

 

いかんな、珍しくにとりさんが不貞腐れていらっしゃる。ここはお巫山戯無しで正直に答えるっきゃないな。

 

「何処ってそれは―――――

 

 

 

コミケだよ、コミケ」

 

「・・・はっ?」

 

「だから、コミケだってば。クラリッサは日本の文化が滅茶苦茶大好きで、生粋のオタクなんだよ」

 

「ちなみに部下の殆どというかほぼ全員がこちらで言うオタクです。隊長は疎いので違いますが」

 

あー、一人話題についていけない隊長さん可哀想だなーって思ってみたり。

クラリッサとのコミケでの邂逅を振り返るとなるとそれはもう簡単で今北産業で表現できたりする。

 

・俺は国際代表&代表候補生のフィギュアが販売されているという状況を明らかにするためにコミケを訪れていた。

・クラリッサは毎回恒例の如く、休暇を調整して日本に来訪。

・たまたま、スリの犯罪現場を目撃したので共闘・・・その後お互いの正体を把握して仲良くなった。

 

みたいな具合だ。今は無駄に回想している時間はないのでいちいち細部に至るまで俺は振り返らない。そもそも回想は死亡フラグって言うしね。叩き折るけどな。

 

「・・・相変わらず灯夜の周りには変人がよく集まるね」

 

「何を言う、お前だってその一人だろうに。俺が言えた義理じゃないがISが登場しなかったら今頃お前はノーベル賞ノミネートクラスの作品を作る技術者だったに違いないぞ。ほら、何時ぞやの『わたしのかんがえたじせだいのいどうしゅだん』だって改良すれば今からでも―――――」

 

「わー、わー! 思い出させないでよ、あの時の私はどうかしていたんだってば! 忘れて忘れてぇぇぇぇぇ!」

 

にとりにとっては黒歴史だったのか。俺からすれば凄い発明だったんだけどなぁ。ホバリング走行シューズ。

 

「ポカポカ殴るなよ、おい。探索に集中できんだろうが・・・・・・・・・っと、おおっ?」

 

片手のみでにとりの頭を押さえつけ体から引き離していると、急に葉がわんさか茂っている行き止まりが見えてくる。

・・・おかしい、正確には野道なのだから行き止まりなんてないに等しいはずなのに唐突だな。入り組みすぎていて道を間違えでもしたのか。俺としたことがうっかりだね。

 

 

 

―――と、言うとでも思っていたのか?

 

 

 

「不自然だな。ここに来て意図的に配置されて植物が生い茂っているとは、まるでこの先に何かあると言いたげじゃないか。常識的に考えて」

 

「経験から考えれば高確率でそうだろうね。でも、どうするの・・・仮にトラップ関連が仕掛けられでもしていたら進むのが困難になるよ?」

 

「なら、俺が先行して様子を見てくる。トラップ解除は慣れているからな、別に問題はないだろう」

 

何度怪しい場所に足を踏み入れたと思っている。アイテム回収は勿論のこと、追跡者からの逃走や撃退は幾度となく経験済みだ。奇妙な生物だって何度見たことか。

猫みたいな耳としっぽが生えた饅頭生物、ブルーベリー色の人型(?)生物、美術館で動き出すゲル○グの模型・・・エトセトラ。俺のSAN値を簡単に削れると思うなよ?

 

「ってことでちょっくら見てくるわ。すぐに戻るから待っててくれ」

 

はぐれるようなフラグを口にしつつ茂みを掻き分けていき俺は無理矢理前に進む。

罠はこれといって見当たらないのは誠に嬉しいが喜んではいられないな。早急にこの先にあるものを確認しないと・・・・・・

 

『前方に熱源あり。ロックオン及び動作が確認されていない為、危険度レベル低です』

 

SASの報告からもわかる通りやっぱり何かが待ち構えているようだ。しかし、この先程からざらついている感じ・・・良くないことの前触れなのか。嫌な予感がバリバリすんぞ。

 

「・・・・・・どうか死体とご対面しませんように」

 

敢えてフラグを立てておくことで精神的に覚悟を決めると勢いに任せて群がる葉を両手を使って左右に追いやる。そして、真正面から直視した―――――目の前に広がる光景を、視界から背けずに。

 

 

 

「ちっ・・・何だってんだよ、このザマは。死体が転がっているのは予想していたからまだいい。でもよ―――――どうしてISを装着している奴まで死んでいるんだ!?」

 

 

 

出来るのなら目を背けるついでに吐いてしまいたい状況が俺の視界全体には展開されていた。

一言で例えるのならそれは『惨状』だ。白衣を着た男女数名がそれぞれ体の一部がもがれ切り取られたせいで出血多量を起こし死亡しているのに加えて、黒い装甲のISを身に纏った少女が大量に血が付着した剣で自らの腹部を突き刺すようにしてだらりと手を揺らしている。血が黒く固まっていて雨で洗い流されていないのを見ると死後からそんなには経過していないようだった。

 

一旦二人の下へ戻り予め死体が転がっている旨を伝えると、礼儀として手を合わせてから何があったのか知るために白衣の物色を行う。ISの方はクラリッサとにとりが検証に移ってくれているので特に俺がどうこうするということはなかった。

 

「研究員のカードキーに手帳、家族の写真、血まみれの資料か。残念だが遺品として家族に送ることができそうな物はないな」

 

死体も事情が事情だ。俺達ではどうすることも出来ないので精々供養する程度しか行えない。

苦い気持ちを抑え他に研究所の手がかりになりそうなものを探すも結局、生身の死体の方々からはめぼしい収穫はカードキーと手帳以外得られず終わった。一方で、IS付きの少女の死体を見ていた二人はというと黙々と自分を殺すようにして解析を進め、事態の解明と直前までのデータ入手を試みていた。

 

「どうだ、そっちの方は」

 

「・・・映像記録が残っていたから観てみたけれど、一番の被害者はこの子だね。どうやら、未完成の改良型VTシステムのデータを取るために利用されたようだよ」

 

「挙句の果てにはシステムが異常をきたし暴走・・・その末に研究員を殺害。そして自らも耐え切れず絶叫し特殊な能力が付いた近接ブレードで腹部を強制的に突き刺し死亡、といった事がここではあった模様です」

 

「そう、か・・・・・・で?特殊能力とやらはブリュンヒルデのモノと同一か?」

 

「擬似再現、ではありますがほぼ同一と言っても過言ではないでしょう。コアの方は証拠物件として一応抜き取っておきましたが回収しますか?」

 

「ああ。このまま回収せず放置しておくのは危険だからな。下手に軍に返すわけにもいかないとなると俺らが預かるのが妥当だろう」

 

こちらとしてもコアの入手はアドバンテージになる。手に入れた経緯は好ましいものではないにしろ、立ち止まる余裕がない自分達は前に進むほかないのだ。

手のひらサイズのコアを丁重にしまい込み血が付着した手帳に書かれた手記を頼りに改めて進路を見直す。映像記録も参照して目的地がもっと進んだ先にある小さな洞窟の中にあることを特定し、樹海に入った時よりも俺達は半ば急ぎ足で真実を確かめるべく向かっていった。

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

―――ほぼ同時刻の、IS学園食堂ではというと転校したてのセカンド幼馴染こと凰鈴音が一夏とその取り巻きと共に昼食を食べつつ彼との再会に喜びを噛み締めていた。

 

「まさか、ISとはまったく無縁の中華料理店の看板娘になると信じて送り出したお前が代表候補生になって帰ってくるなんて・・・俺は悲しいぞ。およよー(棒)」

 

「棒読みで悲しむなっ! というか、アンタが此処にいることの方がよっぽど驚きじゃない。何だってIS動かしちゃったのよ」

 

「んー、成り行きでっていうか、何というか・・・・・・」

 

少なくとも望んで入学したって訳じゃないのは確かだな。今じゃプラス思考で進んで勉学に励んではいるけども、まだ認めきれていない点は少なからずあったりする。・・・もっとも、不満を言う相手が行方不明な以上何もできなくてどうしようもないが。

 

「どうも試験会場の案内の手紙にミス(という名の細工)があったみたいで、それで本来行くはずのないIS学園の会場に迷い込んだ。でもって、実技試験の待機室に何故か押し込まれて・・・現在に至ると」

 

「・・・オーケー理解したわ。ようは嵌められたってことね、いつかアンタを嵌めた奴をあたしが直々にぶん殴る」

 

ですってよ、箒さんや。鈴はこう見えても有言実行ならぬ有言実現しちゃう奴だから貴女の姉はマジでピンチでござるよ。

ほらほら、見てご覧なさいや。今から手をポキポキ鳴らして臨戦態勢になっちゃってるし・・・・・・俺の手にはもう負えないな、しーらねっと。

 

「そもそもこの女は何者なのだ、一夏とどのような関係にあると言うんだ?」

 

「説明してくださいますわよね、一夏さん」

 

説明もくそもなんだけどなぁ。箒と入れ替わりで転入してきて中学二年の終わりに帰国した二人目の幼馴染が鈴である、それ以上それ以下もない。・・・ということで細かい説明は面倒だから省く。

 

「アンタ達こそ一夏の何よ。片方が幼馴染ってことは小耳の挟んだ程度で知ってるけどイギリスの方はマジで知らないわよ?」

 

「まあそんな喧嘩腰になるなって、周りに迷惑だろ。・・・・・・ポニーテールなのが以前話したファースト幼馴染の箒で、イギリスの代表候補生でクラス代表の座を争った仲なのがセシリアだ」

 

「へー・・・噂のBT試作機の操縦者ってわけ。でも、クラス代表になっていないようだからド素人の一夏よりも弱いって考えてもいいわよね」

 

おいバカやめろ。どーして俺が抑えているのに敢えて煽るようなことすんだ。フォローに苦労するこっちの気持ちを考えてみろよ。そして睨み合うな、飯が不味くなるだろうが。

 

「クラス代表になっていないのは試合結果が引き分けだったからだ。んでもって、俺がより経験を積めるようにって譲ってもらったんだよ。勘違いすんなって」

 

まったく、もう少し仲良くなるような雰囲気で接してくれないかね。胃がキリキリ傷んでしょうがない。当の本人たちはともかくクラスメイトののほほんさん達はドン引いているぞ。

くそう、話題を変えなきゃ間が持たん。何だこの空気は。・・・ええと、何か話のネタになりそうな話題はないか。よく考えてみるんだ俺!!

思考をフル回転させて現状の耐え難い空気を払拭する話題を考えることに専念する。だが、簡単に発想は生まれないものだ。焦ったところで生まれるのは逆に自分を追い詰める地雷だけである。

 

「ねー、ねー、おりむ〜」

 

「・・・ん?」

 

良い案が思い浮かばずオーバーヒートを起こしかけていると、雰囲気を気にすることなく食事を進めていたのほほんさんから声が突然かかった。・・・もしかして、空気を読んで援護してきてくれているのか?

 

「ここのところ、放課後はISの特訓続きって聞いたけど今日もアリーナに行くの〜?」

 

「対抗戦も近いからな、一応は行く予定だけど―――――」

 

それがどうかしたのかと言いかけて俺は途中で固まる。嫌な予感がしてギギギ・・・と首をゆっくりと動かせば目を異様に輝かせた三人の修羅がそこには存在していた。おいおい、マジかよ・・・・・・。

 

「一夏、放課後の訓練は特別にあたしも付き合うわ」

 

「「私もな(ですわ)」」

 

「えー・・・拒否権は?」

 

「「「ないっ!」」」

 

ですよねー。一先ずこの場での言い争いは回避できたからいいものの結局は放課後に延期されただけである。とても助かったとは言えないが少しだけ安心して昼食が食べれるだけマシなのかもしれない。小声でもいいからのほほんさんには感謝しとこうかな。

 

 

「―――――計画通り(ボソッ)」

 

「・・・え?」

 

「どうしたの、おりむー?」

 

「え、ええっ!?」

 

 

一瞬、俺は悪いことを企んでいそうなニヤリとした顔を幻視した気がするけど、気のせいだよな? 貴重な和み系少女であるのほほんさんに限ってそんな・・・ねぇ?

 

 

 

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◇◆◇

 

 

 

 

閑話休題。

 

手に入れたデータから現状では研究所はもぬけの殻ということが暫定的に判明し、一気に道程を突破した灯夜一行はトラップに悩まされることなく無事に目的地への侵入を果たしていた。内部はというとまだ電力が供給されているらしく室内の電気が余裕で付けられるようになっていたりする。

しかし、念には念を入れて彼らは持参した懐中電灯を使用し、薄暗い広くて冷たい廊下を周囲を注意深く観察しながら現在進行系で歩いていた。

 

 

 

 

「・・・血生臭いな、とてつもなく臭いが漂ってくる」

 

「マスクあるけど、いる?」

 

「いや、結構だ。お前らは兎も角、俺はこういうキツイ臭いには職業柄慣れているからな。あんまりどーってことはない」

 

「あー・・・成程ね。じゃあ、私には辛くて耐えられないから遠慮なくさせてもらうよ」

 

にとりが一人マスクを装着したのを横目に、俺はご丁寧に壁に設置してあった施設の階層ごとの見取り図にライトを向け現在位置を確認する。

こちらが入手したいデータが有りそうな場所の位置を簡単にメモ帳に書き写してリストアップしてはみたが何せ部屋数が多い。優先順位を見極めてしらみ潰しに回っていくとするか。

 

「安全確認をしたいですね。まずは監視モニターがある所にでも行きましょうか」

 

「妥当な判断だな。ま、この研究所の今の様子からして幾つか監視カメラがイかれているかもしれないが行ってみる価値はある」

 

「鍵の方は任せてくれて構わないよ。カードキー仕様のもの以外ならお手の物だから」

 

三人で顔を合わせ頷くと、SASの部位展開を何時でも行えるよう設定し俺が先行しながら安全確認を取る。

さながら潜入モノのドラマか映画を想像するがこれは現実だ。人々の作り出した物語にはない本当の緊迫感が今も電流が流れるように背中へ走っていて背筋を震わせていた。・・・ここからは慎重に行かないとな。

 

「―――人影はなし、と。音を立てないよう静かに降りてこい」

 

「「(こくり)」」

 

モニタールームは入口のあった現在いる地下1階のすぐ真下の地下二階の奥に設けられている。反対側には研究員が利用していたであろう食堂も見て取れた。距離的に結構離れているため、食堂の中の様子まではここからでは垣間見ることはできないが後々様子を見に行くことにしよう。人が集まる場所なら資料が置かれていても何ら不自然ではないのだから。

暫くして、この階の端に位置する所まで歩いた俺達の前には黒くて重々しい鉄の扉が現れた。

 

 

 

「見た目はアレだけど普通の鍵によるロックみたいだね。ちょちょいのチョイで開けるから待ってて〜」

 

「10秒で頼む」

 

「灯夜さん、幾ら何でもそれは急かし過ぎでは・・・・・・」

 

何を言っているんだ。だって、にとりなんだぜ? この程度のことは―――――

 

「ほれ、解錠♪」

 

「早っ!!」

 

お茶の子さいさいなのだ。いやー、経験がものを言うね。閉じ込められまくった時にわざわざ鍵なんか探さずに己らの技術で脱出を図った結果がこれだよっ!!

 

「右よし左よしっと・・・誰もいないしカメラは起動しっぱなしのようだ」

 

「予想通り一部見れないところもあるけど許容範囲内だよ。じゃ、早速施設内の様子を見てみようか。ええと、操作パネルを動かしてと――――」

 

にとりがカメラを動かしている傍らで俺とクラリッサは後ろで腕を組み複数の映像に目を向ける。入口に近い部屋では外と同じような光景があったようなので、恐らくこれが臭いのキツかった主な原因だろう。踏み入れるのは極力控えたほうがよさそうだ。

 

「残念ですが生きている人間は暫定として私たちだけのようですね。仮に生きていたとしても空腹には耐えられず餓死してしまうでしょう」

 

「外の死体が死後から1週間近く経過していると仮定すると研究員の生き残りがいるのは確率からして絶望的だな。尋問対象がいないのは惜しいが残された資料で今回は我慢しようか」

 

「ええ、せめて実験体となっていた少女の同類が一人でも生き残ってくれていればまだ良かったのですが・・・・・・そう都合良くはいきませんね」

 

「もう少し観てから最終的判断をするか。予定より早く研究所が見つかったおかげでまだ帰るまでに余裕がある。人が集まれそうなエリアを絞って見直そう」

 

クラリッサが言ったままの現実である可能性があるのは言われずともわかっている。だが、諦めの悪い自分は認めきれず頭に引っかかりを感じて額に手を添えながら画面を凝視し限りなく低い可能性を一人探し求めていた。

そして、細かな点も見逃さぬよう齧りつく勢いで目を光らせること約十分。やはりダメだったかと溜息をついているとにとりがカメラを調整し終え、単に電源がついていなかっただけのモニターの一つに光がともった。

 

「食堂の隣の倉庫だけカメラの電源が切れていたみたいだから復旧させておいたよ」

 

「あ、ああ。それはご苦労なことなんだが―――――――一ついいか?」

 

「・・・ん? 何?」

 

「俺の見間違えならいいんだけどさ・・・・・・その、倉庫の一角だけ不自然に明かりがついていないか?」

 

具体的に言えば業務用の冷蔵庫らしきものが置かれている場所付近のことなんだが。

目を手で擦って再確認しても自分には電気がついているようにしか思えないのである。二人にはどう映るか是非とも意見を聞きたいね。

 

「本当・・・みたいですね。意図的に一角だけを明るくしているのでしょうか」

 

「にとり、別の角度から映像を見ることは出来ないのか?」

 

「一台しか基本的に設置されてないようだから今の位置から僅かにずらす程度のことしか出来ないよ。はい、どうぞ」

 

映す角度を変えられるコントローラーの前に促されて座り、俺はギリギリの位置まで映像に調整を施す。

微妙な位置取りに焦りを覚えつつもゆっくりと慎重にカメラを向けると、光が反射している鏡のような光沢を持った台が視界へと入り込んだ。

 

「ただの切り忘れなのかな・・・? それとも―――――『・・・あっ!?』―――どうしたの?」

 

「何か映ったのかっ、クラリッサ!?」

 

「え、ええ。ほら、机の端の影に白い糸のようなものが大量に乗っているのが見えませんか。二ヶ所ほど」

 

指摘を受けて、クラリッサが指で示した位置を拡大し三人全員で再度確認する。すると、どうだろうか・・・・・・無数の糸が纏まっていてまるで髪のように動いているではないか。否、もはやそれは髪としか言いようがなかった。

ぼーっとしてはおられず立ち上がって鍵の入った金庫のハンドルを捻り、俺は倉庫の鍵がなくなっていることを確認してから部屋を飛び出した。

 

「二つあったということは、二名の生存者がいるのか・・・?」

 

「白い髪からして暴走を起こしていたIS操縦者の少女の仲間でしょう。血液が部屋になくキレイだった状況から推測するに二人はあの部屋に避難して今まで耐え忍んでいた、何処か違いますか?」

 

「いいや、寸分狂わず同じ予想だ。しかし、鍵がなかった状況を見ると誰かが意図的に避難させたかそれとも自力で逃げ込んだか。どちらにせよ、倉庫は現在限りなく密室状態に近い。真っ当な手段で入れるとは思うなよ」

 

最悪ピッキングでもカードキーでも入れないことを想定しなければならないだろう。

・・・えっ、強硬手段として特攻を仕掛けてぶち破るかって? 必要とあらば勿論躊躇わずやってやりますとも。

 

 

 

 

〜廊下全力疾走中〜

 

 

 

 

「マジかよ・・・カードキー手に入れても意味ねえじゃん」

 

ピッキングも当たり前ですが出来ません。指紋認証ってどういうことよ。←こういうことだよ。

 

「仕方ないですね、私のISの攻撃で入口を無理矢理にでも作りますか」

 

「砲撃や斬撃で穴を開けたところで暫くは通れないだろうが。火傷したいのか」

 

丸ごと吹き飛ばしたらそれはそれで危ないしな。SASの武装もこの分だと使用を抑えるしかない。でも、手詰まりになりかけているわけじゃないぞ。

 

「・・・やるんだね、アレを。『許されざる迷宮攻略シリーズpart02』を」

 

「緊急事態だかんな、やらざる負えんだろう。・・・・・・じゃあ、そういうことで二人は離れてろ。助走をつけてくる」

 

これからお見せするのは冒険モノのチートプレイで見かけたことがあるだろうテクニックを追跡者から逃げるゲームに使ったらどうなるかという一種の例だ。

誰にでも出来るわけじゃないのでご注意を。私、睦月灯夜はこれでも特別な訓練を受けた上で試みております。だから良い子は真似しないでね?

 

「よし、やるか」

 

―――体の表面全体に高密度の結界を展開。背後に仮想敵を想定し加速準備、開始。

 

かつて友人に巻き込まれてさまよった館で出会った人型の怪物から逃げる際に俺は純粋なモノ探しをあまりせずに力任せで攻略をしてきた。王道ではピンチになる展開がわざとらしいぐらい多発することを知ったが故に対策を時間をかけて練り上げ、睦月灯夜は今ここにいる。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああっ!!!!」

 

退路を失ったら新たな退路を自分で作り出せばいい。その思いと共に俺は地に足を踏みしめて駆け抜け、扉から1mの地点で更に力をいれて大きく跳躍した。

 

 

 

「迷宮攻略シリーズ、その2!『壁破壊抜けショートカット』!!」

 

 

 

説明しよう! 『壁破壊抜けショートカット』とは、ジャンプに回転を加え高速スピンのままドアや壁に向けて攻撃をぶつける技である。

通常、普通の人がやれば鈍い音をたてて終わるはずのその一撃は、酷いと言わざるを得ない程の破壊力を持って金属を諸共せず穴を順調に削り・・・もとい、陥没させて子供一人が通れる程度の穴を徐々に形成していく。

 

(・・・やっぱ、硬いな〜)

 

本来なら飛んですぐにぶつかれば『ドバンッ!』っと突き破るように穴が出来上がるはずなんだけど、無駄に硬いせいでペースが遅れてしまっている。時間も押すし、単体攻撃はやめて複数の攻撃を組み合わせて一気に突破するかね。気を集中させてっと。

 

「迷宮攻略シリーズ、その15・23・48!『春の腹パン祭り』『フラグ粉砕ドリル』『トンファーキックEX』ッ!!」

 

ドアが、壊れるまで、俺は、怒涛のパンチのラッシュを、止めないッ!!!!

 

「勝ったね・・・」

 

「え、何がですか?」

 

「扉はこの時点で間違いなく灯夜の手によって破壊される運命を辿るってことだよ。アレは只の連続パンチなんて代物じゃない、一つ一つに執念がこもっていて只管に相手を打ち砕こうとするんだ。ホント、何度助けられたことか・・・・・・」

 

またまたにとりさんや、お世辞が過ぎますよ。俺はただブルーベリー色の野郎♂共が気に入らなかったから全力でぶつかっただけのこと。・・・べ、別にあんた達友人を守ろうとしたわけじゃなんだからねっ!

さてと冗談は置いといて、そうこうしている間にやっとのことで完全に穴が内側まで貫通した。内部のほんの僅かな光が漏れて足もとを照らして影を作っている。

 

「ふぅ、よっこらしょういちさんと・・・・・・んっ?」

 

「―――ッ!?」

 

間を開けずして破片に気を付けながらくぐり抜ける。だがその先には、中学生になったばかりの子供といった印象を受ける小柄の体型の、白髪の少女二人組が待ち構えていた。

片方の少女は怯えた様子で、こちらを警戒して睨みつけてくるもう一人の少女の後ろに隠れて袖を掴み震えている。話しかけるとすれば警戒しまくっててジト目な前の少女に限るな。

 

「誰・・・?」

 

「えーっと、怪しいと自分で言うのもなんだけど君達を保護しにきた人間だ。元々は、この研究所で行われていた違法研究の調査に来ていたんだが偶然にもここに設置されていた監視カメラを通して君達を見つけてな、たった今扉を破壊して入ってきたわけだ」

 

我ながらさらりと衝撃発言してるね。そのせいで、名も知らぬ少女はギョッとして後ろの子同様に体を震わせちゃったわ。てへぺろ♪

 

「で、でも、ここの扉は頑丈で壊すのなんて無理なんじゃ・・・・・・」

 

「手こずりはしたな。おかげで腕はまだ痺れて疲れているし、疲労感も尋常じゃない。しかしだ、優先すべくは幼い命・・・ってことで、もう大丈夫だ。気を無理に張らなくてもいい、力を抜いてゆっくり休め」

 

「あっ―――」

 

そっと頭を撫でてやり、着ていた大きいジャケットと野宿を見越して用意した予備の服をそれぞれに羽織らせてやる。

倉庫の中は少女らのような布一枚の薄着では少し肌寒い。いつまでもこの場にいるよりはさっさと引き上げて早く健康状態の確認の為に永琳の下へ向かったほうが良いな。資料は帰り際にダッシュで回収すれば問題ないし。

一先ず俺達は少女二人を連れて、一刻も早く車に乗り込むことを第一に扉の壊れた倉庫を離れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうか・・・君達はつまり、情の移った研究員に隠れるように言われてあの部屋に待機していたんだな。食料は必然的にあり、簡単な排泄も出来る場所も置かれている倉庫に」

 

「・・・うん」

 

「大体の事情は把握した。資料も必要な分は回収できたことだし何も問題はないからな、今はこれからの君達の処遇について考えていこう」

 

永琳に診察を頼んだ後が問題なんだよな、正直なところ。そのまま預けるとか言語道断だし無責任だし・・・見つけたのは俺なんだから責任取らないといけないよな。

 

「わたしたち、どうなるの?」

 

「んー、取り敢えずは体に異常がないか見てもらって、その後は―――――俺んちで引き取ろうかと思っている。ちなみに実家でね」

 

職業柄、今住んでいるアパートに住まわせてしまうのはアウトだかんな。人が必ずいる安全な場所と言えばやはり実家しかない。

 

「お金は大丈夫なの、灯夜。いくらそこそこの金持ちだからといって子供二人も養えるのか不安だよ?」

 

「金なら心配いらない。以前捕まえた亡国機業の件でたんまりと報酬はゲットしている。二人ぐらい養う程度なら造作でもねえよ。・・・だが、問題なのは俺が受け入れるかどうかじゃなくて、この二人が賛成するかどうかだ」

 

嫌なら無理につれていくつもりはない。そんときゃ、そんときで他のメンバーにでも頭下げて頼み込むのもアリだ。

果たしでどう出るかね、この少女達は・・・・・一歩前に踏み出すか停滞を望むのか実に見ものだな。

 

「・・・時間をください」

 

「いいぞ、気長に待っているから。その気になったら何時でも声をかけてくれ」

 

若いうちは悩むのがデフォルトと言われているぐらいだ。心が落ち着くまで二人して相談でもなんでもするといい。その間に受け入れ準備を俺はちょくちょくと進めておくから。

 

「ああ、よく考えたら二人共、ちゃんとした名前がなかったんだったな。生活云々決める前にまず帰ったら一緒に考えて決めようか、いいだろう?」

 

「うんっ、一緒に考える!」

 

「私、名前・・・欲しいです」

 

おお、乗り気で何よりだ。やっぱ、子供は元気が一番だよ。悲しい顔なんて似合わないってつくづく思う。

たとえ時代がアレでも守らなくちゃいけないよな、子供の笑顔ってやつはよ。

 

 

樹海から大きく離れ、俺達は途中パーキングエリアによりつつ永遠亭まで車を走らせ道路を駆けた。

 

 

 

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1万2千字とかなげえよwww時間かけすぎwww

と言いたくなるね。

ここから先の話はTINAMIにて更新します。見にくいかもしれませんが、これからもよろしくお願いします!

イラストも勿論描くよ! 東方がOKならなろうで新作書く予定だよ!(運営さんお知らせはよー)

新訳篇もピクシブでやっています。では、次回予告―――行きましょうか。

 

次回、「CHAPTER16 恋愛定義」 お楽しみに!

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遅くなってすまぬ。にじファンにも最後の更新として上げてきたよ。
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