インフィニット・ストラトス―絶望の海より生まれしモノ―#18
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[side:一夏]

 

六月の頭の、日曜日。

 

俺が久々に外出し中学入ってすぐからの腐れ縁である五反田の家に行って、帰って来た時。

 

「ああ、織斑。お前宛で小包が届いて居るぞ。」

 

寮監の千冬姉に何やら包みを渡された。

 

「はぁ、ありがとうございます。」

 

誰からだ?

 

と思って見てみる。

 

 

差出人には『槇篠技研』とだけ書かれていた。

 

………また、どこかからの勧誘だろうか。

 

とりあえず、部屋に帰ってから開ける事にしよう。

 

 

 

 

「ただいまー。」

 

と部屋に帰ってきて、ついそう言ってしまってからふと思い出す。

 

 

「…って、箒はもう別室だったな。」

 

先週まではそこに居て、こうやって声をかければ返事を返してくれていた箒は今は元、空の同室だった更識簪さんの部屋だ。

 

『姉が((超絶廃性能|リアルチート))過ぎてやってられない妹の会』なるものを結成し、和気あいあいとやっているらしい。

 

…出来る事ならば『世界最強』な姉を持つ俺も入れて欲しいのだが、『妹の』とある通り弟である俺には参加権はないそうだ。

 

それにしても…なんで箒はあんな行動をとったんだろうか。

 

部屋がえの当日、俺に宣戦布告をして脱兎の如く逃走。そのまま引越し先の部屋へと行ってしまった。

それ以来、遭遇するたびに逃げられるか、あいまいな返事しか返してくれなくなった。

 

流石に多感な年頃とは言え幼少期を共に過ごした幼馴染だ。

俺の方に非があれば直さないといけないし……昼にでも誘って、改善を図るか?

 

 

うむ、とりあえず包みを開けてみる事にしよう。

 

机に向かって封を開ける。

 

 

中身は………

 

「これは…本?」

 

本のタイトルには『今更聞けないIS用語辞典』とある。

それなりに厚い、一般的な国語辞典くらいの厚さのあるそれを適当にめくってみる。

 

うん、この一冊が入学当初からあれば大分楽だったかもしれないな。

 

「お、千冬姉発見。」

 

辞書の項目に『織斑千冬』を見つけた。

 

とはいえ、『第一回、第二回モンド・グロッソにおける日本代表。第一回優勝、第二回決勝まで上がるも棄権』としか書いてないが。

 

ふと、何か挟まってたのに気付く。

 

 

なになに?

 

 

「『織斑一夏。織斑千冬の弟で世界初の男性IS操縦者。朴念仁を超えた朴念神』………って、なんだこりゃ!」

 

辞書の項目っぽく書かれたそれの内容は俺についてだった。

 

ていうか、朴念神ってなんだよ。

 

「ん?裏に何か書いてあるぞ?」

 

何かが映り込んでいるようだったので裏返して見た。

 

『((Meet soon|すぐ、会える))…?』

どういう意味だ?

 

誰と会えるんだ?

 

ふと、脳裏には空の姿がよみがえる。

 

俺が弱かったばっかりに、ツケを立替えさせてしまった少女。

 

 

「まあ、後でゆっくりと読んでみるか。」

 

時間も時間だし、メシにしよう。

それからだ。

 

 

 * * *

 

月曜日の朝

 

「やっぱり、ハヅキ社製のがいいなぁ。」

 

「え?そう?ハヅキのってデザインだけって感じしない?」

 

「そのデザインがいいの!」

 

「私は性能的に見てミューレイのがいいかなぁ。特にスムーズモデル。」

 

「あー、あれねー。モノはいいけど高いじゃん。」

 

クラス中の女子が手にカタログを持ってワイワイと賑やかに談笑していた。

 

「そういえば、織斑くんのISスーツってどこのやつなの?見た事ない型だけど。」

 

「あー、特注品だとさ。男のスーツは無いから。どっかのラボがイングリッド社のストレートアームモデルをベースに作ったって聞いてるぞ。」

 

それにしても、よくもまあすらすらと出るようになったものだ。

 

自習もしてるが、空に教えてもらった基礎と、この間届いた本をよく読んだ成果だな。

 

「ISスーツは肌表面の微弱な電位差を検知する事によって、操縦者の動きをダイレクトに各部位へと伝達、ISはそこで必要な動きを行います。また、このスーツは耐久性にも優れ、一般的な小口径拳銃の銃弾程度なら完全に受け止める事が出来ます。あ、衝撃は消えませんので悪しからず。」

 

すらすらと説明しながら現れたのは山田先生だった。

 

「山ちゃん詳しい!」

 

「一応先生ですから。……って、や、山ちゃん?」

 

「山ぴー見なおした!」

 

「今日が、皆さんのスーツ申し込み開始日ですからね。ちゃんと予習して来てあるんです。……ってや、山ぴー?」

 

 

入学から二ヶ月。

山田先生には八つくらい愛称がついていた。

慕われてる証拠……というか、空が授業を受け持った関係で山田先生が生徒に混ざっていた影響というか…

 

「あのー、教師を渾名で呼ぶのはちょっと……」

 

「えー、いいじゃんいいじゃん。一緒に授業受けてたんだし。」

「まーやんは真面目っ子だなぁ。」

 

「ま、まーやんって……」

 

「あれ?マヤマヤの方が良かった?マヤマヤ。」

 

「そ、それもちょっと……」

 

「もー、じゃあ前のヤマヤに戻す?」

 

「あ、あれはやめてくださいっ!」

 

どうやら山田先生は『やまや』という渾名に何やらトラウマでも抱えてるらしい。

珍しい事に明確な拒否の意思表示だ。

 

「と、とにかくですね。ちゃんと先生をつけてください。判りましたか?判りましたね?」

 

はーい、とクラス中が返事をするが完全に言ってるだけだ。

これからも渾名は増えて行くんだろう。

『まーやん先生』とか。

 

「諸君、おはよう。」

 

「お、おはようございます!」

 

それまでざわついていた教室がいきなりびしっと礼儀正しい、上官を前にした一卒兵の集団になったかのように変わる。

 

一組担任にして我が姉、織斑千冬先生の登場だ。

……ほんの少しだけ、普段より嬉しそうな感じがするのは俺しか気付いてないな。あれは。

 

俺がこの間帰宅した時に出しておいた夏物スーツを着て、教壇に君臨する。

 

「今日からは本格的な実戦訓練を開始する。訓練機ではあるが、ISを使用しての授業になるので各人は気を引き締めるように。各人のISスーツが届くまでは学校指定のものを使うので忘れないようにな。もし忘れた者は学校指定の水着で受けてもらおう。それも無い者は、まあ下着でも構わんだろう。」

 

 

いやいやいや、構うだろ絶対!

男の俺がいるんだぞ?下着姿はマズイだろ、下着姿は!

 

ちなみにIS学園の指定水着は何故か紺色のスクール水着である。

 

絶滅危惧種だと言われていたが、こんな最先端の塊みたいな場所で生き延びていたとは……

ついでに言えば体操着も同じく、絶滅危惧というかほぼ絶滅したと思われたブルマーだった。

 

俺は短パンなので違うが。

 

そういえば、空は体育は長袖長ズボンのジャージ姿、水泳は始まる前だったな。

今考えると、あれは義肢を隠す為だったんだな。

 

 

さらにオマケで学校指定のISスーツはタンクトップとスパッツをつなげたようなシンプルなヤツ、空のはそれを七分袖長ズボンにした感じだった。

 

「では山田先生、ホームルームを。」

 

「は、はいっ!」

 

連絡事項を言い終えた千冬姉が山田先生にバトンタッチする。

ちょうど眼鏡を拭いていた処の山田先生はあわててかけ直してからこちらに向き直る。

 

「ええとですね、今日はなんと転校生を紹介します!しかも、二人です!」

 

「え……」

 

「ええぇぇぇぇぇぇえ!?」

 

いきなりの転校生紹介にクラス中が一気にざわめく。

 

三度の飯よりうわさ好きな十代女子の蜘蛛の巣よりも細かく複雑に張り巡らされた情報網をかいくぐって転校生が現れたんだ。

当然か。

 

俺個人としては、普通は分散させるんじゃないのか、と思うところなのだが。

 

 

「失礼します。」

「……………」

 

クラスに入って来た二人の転校生を見て、ざわめきがぴたりと止まる。

そりゃそうだ。

 

なんせ、そのうちの一人が―――男子だったのだから。

 

いや待て。空みたいに女子が男子と同じ格好してるだけってのもあり得るな。

 

さて、どんな自己紹介をしてくれるのやら………

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