インフィニット・ストラトス―絶望の海より生まれしモノ―#19
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[side:一夏]

 

「シャルル・デュノアです。フランスから来ました。この国では不慣れな事も多いかと思いますが、みなさんよろしくお願いします。」

 

転校生の一人、シャルルはにこやかな顔でそう告げて一礼した。

 

あっけにとられて誰かが呟く

 

「お、男………?」

 

「はい。こちらに僕と同じ境遇の方が居ると聞いて本国より転入を――」

 

人懐こそうな顔、礼儀正しい立ち振る舞い、中性的に整った顔立ち。

髪は濃い金髪で黄金色なそれを首の後ろで丁寧に束ねている。

スマートで…言い変えればとても同性とは思えないくらい華奢。

 

印象は『貴公子』と言った感じだろうか。

嫌みのない笑顔が眩しい。

 

 

「き………」

 

「はい?」

前兆を察知して俺は耳を塞ぐ。

 

シャルルはなんだか判らないらしく首をかしげている。

 

ああ、馬鹿。早く耳を塞げ。

でないと大変な事に―――

 

「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

 

耳を塞いでなお、耳を衝く黄色い悲鳴。

 

窓ガラスがビィィン、と共鳴を起こす。

 

「男子!三人目の男子!」

 

「しかも、うちのクラス!」

 

「美形!しかも護ってあげなくなる系の!」

 

「可愛い系の千凪くんがいなくなっちゃったけど、これで勝つる!」

 

「地球に生まれて良かった〜」

 

皆さんお元気な事で。

 

ちなみに、空は女子だと知っているのは俺と箒とセシリア、鈴に簪さんに千冬姉ほか教職員のみ。

クラスメイトたちは今だに男子だと思ってる。

 

 

そういえば、隣のクラスや他学年から誰も来てないな。

おそらく教職員の皆さんが頑張っているんだろう。

みなさん、お仕事お疲れ様です。

 

 

「あー、騒ぐな。静かにしろ。」

 

「み、みなさんお静かに。まだ自己紹介が終わってませんから〜!」

 

そんな女子たちを抑えようとする千冬姉と山田先生。

 

『正直、面倒』という態度を隠さない千冬姉と勢いに負けてる山田先生。

 

俺はもう一人の転校生に意識を向ける。

 

輝くような銀髪。白くも見えるそれを腰近くまで下ろしている。

左目にはとても医療用とは思えない黒眼帯。

 

眼帯に隠されていない右目は赤色を宿している―――が、その温度は限りなくゼロに近い。

 

「………………」

 

今だに口を開かず、腕組みをした状態で教室の中の様子を下らなそうに一瞥して、今はその視線を千冬姉に固定している。

 

「……挨拶をしろ、ラウラ。」

 

「はい、教官。」

 

いきなりたたずまいを直して直立で素直に返事をするラウラ。

 

その変化にクラス一同ぽかん、とする。

 

対して異国の敬礼を向けられた千冬姉はさっきとはまた違った意味でめんどくさそうにした。

 

「ここではそう呼ぶな。私はもう教官ではない。ここではお前も一般生徒だ。私の事は織斑先生と呼べ。」

 

「了解しました。」

 

ぴしっと伸ばした手を体の真横に付け、足は踵であわせて背筋を伸ばしたその姿からどう見ても軍人、もしくは軍関係者だ。

千冬姉を『教官』と呼んでる所からして間違いなくドイツの。

 

…とある事情で千冬姉は一年ほど、ドイツ軍のIS部隊で教官をやっていた。

その後一年間を開けてから今のようにIS学園で教師を始めたとか。

 

……出来ればこの事実を本人から聞きたかったんだけど、聞けたのはついこの間。

山田先生を始めとする学園関係者から。

 

まあ、色々事情はあるんだろうけど………

 

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒだ。」

 

「………………」

 

名前だけ名乗って黙ったラウラ、その先を待って黙るクラスメイト達。

 

「あ、あの、以上ですか?」

 

その空気に居たたまれなくなった山田先生が出来る限りの笑顔で声をかけるが無慈悲な即答に撃退される。

 

ああ、泣きそうになってるよ…まったく、先生を虐めるなよな。

 

 

ふと、ラウラとばっちり目があった。

 

「!貴様がっ―――」

 

つかつか、と足音をたててこちらにやってくるラウラ。

 

むっ!?

 

すかっ。

 

俺が身を引くと同時、目の前をラウラの手が通り過ぎた。

 

「ッ!?」

 

避けられた途端、恥ずかしいのか顔がどんどん紅くなっていくラウラ。

元が白いから良く分かるな。

 

今度は反対の手が動いた。

 

今度は避けれそうにないから机の上に置いてあった例の『今更〜用語辞典』の背でガード。

 

べちっ、

 

「ッ〜〜〜!!」

 

痛々しい音と共に手を引っ込めるラウラ。

 

涙目になって手を庇いながら俺を恨めしそうに睨んでくる…が、全然怖くない。

 

「あー、やった俺が言うのもなんだが、大丈夫か?」

 

「ふん!私は貴様があの人の弟であることなど、認めないからなッ!」

 

思わず尋ねてみたらラウラはそっぽを向いて空いている席へと…って、そこ空の席じゃないか!?

 

 

 

「あー、ゴホンゴホン!ではHRを終わる。各人はすぐに着替えて第二グラウンドへ集合。今日は二組と合同でIS模擬戦闘を行う。――解散!」

 

パンパン、と手を叩いて千冬姉が行動を促す。

 

色々と腑に落ちない部分もあるが、今は急いで教室を脱出、更衣場所まで行かなければならない。

 

今日は…確か第二アリーナの更衣室が空いていたな。

 

「おい、織斑。デュノアを面倒を見てやれ。同じ男子だろう。」

 

おっと、忘れるところだった。

 

「君が織斑君?初めまして、僕は――」

 

「ああ、いいから。今はとにかく移動が先だ。女子が着替え始めるからな。」

 

説明と同時に俺はシャルルの手を引いて教室を出る。

 

女子は((男子|オレ))が居てもお構いなしに着替え始めるからな…

 

「とりあえず、俺らは空いてるアリーナの更衣室で着替え。これから実習の度にこの移動になるから、早めに慣れてくれ。」

 

「う、うん……」

 

なんだ?落ち着かなそうだな。

 

「トイレか?」

 

「トイ…ッ違うよ!」

 

「そうか。それは何より。」

 

とりあえず階段を駆け下り一階を目指す。

 

早くしないと―――

 

「ああっ!転校生発見!」

「しかも織斑くんと一緒!」

 

HRが終わり、解き放たれた女子たちが現れるのだ。

 

各学年各クラスから派遣された情報収集の為の尖兵たち。

 

彼女らに捕まったら最後、質問攻めにされて授業に遅刻。

 

めでたく鬼教官に怒られ特別カリキュラムが課せられるだろう。

 

それだけは何としても避けねばならない。

 

 

「いたっ!こっちよ!」

 

「者共、出会え、出会えぃ!」

 

 

「って、ちょっと待て!ここは何時から武家屋敷になったんだ!?」

 

今にもホラ貝でも持ちだして来そうな………

 

『ぶぉー!』

 

「って、ホントに持ちだしてきた!?」

 

つい、突っ込みを入れてしまう俺だが移動速度はまったく落としていない。

 

「織斑くんや千凪くんの黒髪もいいけど、金髪っていうのもいいわね。」

 

「しかも瞳はエメラルド。」

 

「きゃぁッ!見てみて、あの二人!手!手繋いでる!」

「日本に生まれて良かった!ありがとうお母さん!今年の母の日は河原の花以外のをあげるね!」

 

「そこは毎年ちゃんとしろっ!」

 

居る親は大事にするもんだぞ。

 

 

「な、なに?なんでみんな騒いでるの?」

 

状況が飲み込めないシャルルが困惑顔で訊いてきた。

 

「そりゃ、男子が俺たちだけだからだろ。」

 

「……?」

 

「珍しいんだろうさ。ISを操縦できる男が。今の所、俺たちしかいないからな。」

 

「あ、ああ!うん。そうだね。」

 

「それと、アレだ。この学園の女子は男子と極端に接触が少ないから、珍獣状態なんだよ。ウーパール―パーみたいな。」

 

「うーぱー…何?」

 

「ウーパールーパー。昔、流行ったんだ。」

 

「ふうん。」

 

と、そんなどうでもいい話をしてる場合じゃない。

今はこの包囲網を突破する方が先決だ。

 

「しかしまあ、助かったよ。」

 

「何が?」

 

「いや、やっぱり学園に男一人は辛いからな。」

 

「…あれ?もう一人いるんじゃないの?」

 

おっといけない。

本人は隠してる訳じゃないらしいが廻りはそう思ってなかったんだ。

 

「そう言われてるヤツは今入院中だからな。やっぱり居てくれると心強いもんだ。」

 

「そうなの?」

 

どうやらシャルルにとってはそうではないらしい。

 

「ま、なんにしても、これからよろしくな。俺は織斑一夏。一夏って呼んでくれ。」

 

「うん。よろしく、一夏。僕のこともシャルルでいいよ。」

 

「わかった、シャルル。」

 

 

と、自己紹介をしているうちに最後の直線に差し掛かった。

 

ここを駆け抜ければ校舎の外に出れる。

 

 

「待てぇッ!」

 

 

「ゲッ!?」

 

追いついてきた!?

 

マズイぞ。

このままじゃ特別カリキュラム決定だ。

 

 

「ねぇねぇ、おねーさんたちにきみの事をおしえ―――ヘぶぅッ!?」

 

ドタドタドタッ!

 

盛大な音と共に追手が一斉に転んだ。

 

そして転んだ前列に足を取られて更に転ぶ追手たち。

 

放っておくのはなんだか気が引けるが助けた途端、即捕縛だろうから見捨てる。

 

「今のうちだ、逃げるぞ!シャルル!」

 

「う、うん!」

 

 

その後、追手の悲鳴らしき叫びが聞こえてきたのが不思議だったが、俺たちはどうにか第二アリーナの更衣室へと辿り着く事が出来た。

 

「さて、急いで着替えないとまずいぞ。」

 

言いながら制服のボタンを一気に外してベンチに投げ、勢いでTシャツも脱ぎ捨てる。

 

「わぁっ!?」

 

「?」

 

なんだ?

 

「荷物でも忘れたのか――って、なんで着替えないんだ?急がないと遅れるぞ。シャルルは知らないかもしれないが、うちの担任はそりゃもう時間に厳しい人で――」

「う、うんっ?き、着替えるよ?でも、その…あっちむいてて、ね。」

 

「まあ、着替えをじろじろ見るつもりはないが……そういうシャルルはこっちをじろじろ見てるよな。」

 

「み、見てない!別に見てないよ!?」

 

両手を突きだして慌てて床に顔を向けるシャルル。

 

なんでこいつはこんな反応をするんだ?

 

まるで男子が着替えてる教室に踏み込んでしまった女子みたいだぞ?

 

 

「………」

 

なんだろう、視線を感じる。

 

「シャルル?」

 

「な、なにかな!?」

 

視線を向けるとシャルルはこっちにちょこっと向けていた顔を慌てて壁の方に向け直し、ISスーツのジッパーをあげた。

 

「うわ、着替えるの超早いな。なんかコツでもあるのか?」

 

空が言うには『最初から着てればいい』との事だが、どうも落ち着かないんだよなぁ…

 

「い、いや、別に……って、一夏まだ着てないの?」

 

着替え終わったシャルルとは違い、俺はまだISスーツを腰まで通したところで止まっている。

 

「これ、着る時に裸っていうのがなんか着づらいんだよなぁ。引っかかって。」

 

「ひ、引っかかって?」

 

「おう。」

 

「………」

 

ん?なんでシャルルは顔を赤くしてるんだ?

 

「よっと。よし、行こうぜ。」

 

「う、うん……」

 

お互いに着替え終わって、俺たちはグラウンドへ急ぐ。

 

急ぎながらも、

 

「そのスーツ、なんか着やすそうだな。どこのヤツなんだ?」

 

「あ、うん。デュノア社製のオリジナルだよ。ベースはファランクスだけど、ほとんどフル・オーダー品。」

 

「デュノア?……そういえば、シャルルの苗字もデュノアだよな。親戚か何かか?」

 

「親戚じゃなくて、僕の実家だよ。父が社長をしてるんだ。一応、フランスで一番大きなIS関連企業だと思う。」

 

「ああ、そういや訓練機のラファールもデュノア社製だったな。凄いじゃないか。」

 

「そ、そうかな。」

 

俺が正直に言ったらシャルルはちょっと恥ずかしかったのか顔を俯け気味にする。

 

「道理で、どこか俗世離れしてるっていうか、気品があるというか…うん、貴公子然としてる訳だな。『いいとこ育ち』って感じか?」

 

「いいところ…ね。」

 

シャルルが視線を逸らしてきた。

 

どうやらこの話題はご法度らしいな。

以後気をつける事にしよう。

 

 

「それより、一夏の方が凄いよ。あの、織斑千冬さんの弟だなんて。」

 

「ははは、こやつめ。」

 

「へ?」

 

「―――いや、なんでも無い。まあ、あれだ。お互い地雷を踏んで一機ずつ減ったって事で。」

 

「?? 良く分からないけど…」

 

「って、こんな事してる場合じゃない!急ぐぞ、シャルル!」

ふと、急いでいた筈が歩いていた事に気付いた俺はシャルルの手を取って走り出す。

 

「わっ!い、一夏、急に引っ張らないでよ!」

 

「悪い!遅刻するかの瀬戸際だ。勘弁してくれ!」

 

 

見えてきた第二グラウンドでは、鬼が腕組みして待っているように俺には見えた。

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