インフィニット・ストラトス―絶望の海より生まれしモノ―#20
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[side:箒]

 

「遅いっ!」

 

授業開始のチャイムに少し遅れて一夏はやって来た。

 

そしてそれを千冬さんの怒声が迎える。

 

「す、すみません………」

「ご、ごめんなさい………」

 

素直に謝る一夏と転入生。

 

「―――まあ、事情は聞いているから今回は不問にしてやる。」

 

 

「へ?」

千冬さんの温情に一夏が素っ頓狂な声を上げる。

 

「デュノア目当ての連中に襲われたのだろう――――なんだ、その顔は。特別カリキュラムをそんなに受けたいのか?」

 

「滅相もない!」

慌てる一夏。

 

「なら、早く並べ。」

 

「はい。」

 

一夏が一組の列の端に加わるとちょうどその隣にいたオルコットが話しかけているようだった。

 

…まったく。

 

そこに二組の鳳も加わった様子。

 

 

 

「こちらの一夏さん、今日来た転校生に叩かれかけましたの。」

 

「はぁ!?一夏、アンタなんでそうバカなの!?」

 

私は内心で溜め息をついた。

 

『ああ、馬鹿。声が大きい』と。

 

「―――安心しろ。バカは私の目の前にも二人いる。」

 

バシーン

 

案の定、千冬さんの出席簿が火を噴いた。

 

 

 * * *

 

「では、本日から格闘及び射撃を含む実戦訓練を開始する。」

 

「はいっ!」

 

 

「くぅっ……。何かというとすぐに人の頭をポンポンと…」

「……一夏のせい、一夏のせい、一夏のせい……」

 

オルコットと鳳はなにやら呪詛やら文句やらをこぼしつつ、頭を押さえて涙目になっていた。

 

どがっ。

 

む、鳳が一夏に八つ当たりでもしたのか、それとも一夏が余計な事を考えたのか…恐らく後者だな。

 

「今日は戦闘を実演してもらおう。――ちょうど活力が溢れんばかりの十代女子も居る事だしな。鳳、オルコット!」

 

「な、なぜわたくしまで!?」

 

諦めろ、オルコット。

千冬さんはこう言う人だ。

 

「専用機持ちはすぐに始められるからだ。いいから前に出ろ。」

 

「だからってどうしてわたくしが…別に一夏さんでも…」

「一夏のせいなのになんであたしが……」

 

聞こえるようにしてボヤく二人、耳を塞いで聞こえないふりをする一夏。

 

「お前ら…少しはやる気を出せ。」

 

「ッ---!!」

 

 

ん?千冬さんが何か二人に耳打ちをしている?

 

「やはりここはイギリス代表候補生、わたくしセシリア・オルコットの出番ですわね!」

「まあ、実力の違いを見せるいい機会よね。専用機持ちの!」

 

何故かいきなりやる気が天井破りに近い勢いで出た二人。

 

…大かた、『一夏にいいところを見せられる』とでも言われたのだろうな。

 

私にも専用機があれば………………

いや、『アレ』は私が担い手としてふさわしくなるまでは………

 

 

「それで、相手はどちらに?わたくしは鈴さんとの勝負でも構いませんが。」

 

「ふふん。こっちの台詞。返り討ちよ。」

 

「慌てるな、馬鹿ども。対戦相手は―――」

 

 

キィィィィィ………ン

 

 

 

なんだ、この空気を裂くような音は………

 

私の耳には墜落音にしか聞こえないのだが…

 

「ああああーっ!ど、どいてくださいーーっ!!」

 

「え?なに?俺?―――って、うわぁッ!?」

 

 

空から降って来た、訓練機《ラファール・リヴァイヴ》を纏った山田先生が一夏に激突する寸前にそのままの姿勢で急停止した。

 

驚いた一夏が尻もちをついたりはしたが。

 

「なッ………あれはっ!?」

もう一人の転入生、ボーデヴィッヒが驚いている?

 

 

「はぁ…何をやっているんだか。―――織斑、そこを退け。」

 

千冬さんの指示通り、山田先生の落下コース上から退避する一夏。

 

そして、

 

「もういいぞ。」

 

 

千冬さんがどこかにインカムで声をかけたと同時、まるで見えない何かに支えられていたかのように滞空停止していたラファール・リヴァイヴが地面に墜ちた。

 

顔面から。

 

 

 

だが、激突寸前に山田先生は回転するかのような動きで頭を上に戻して軟着陸を果たす。

 

 

「さて、始めるぞ。対戦相手は山田先生だ。」

 

「だ、大丈夫なんですか?」

 

「ああ。こう見えても山田先生は元代表候補生だ。」

 

「ですが、二対一では…」

 

「―――安心しろ。今のお前らならすぐに負けるだろう。」

 

負ける。

 

そう言われて困惑に染まっていた二人の目に闘志が戻って来たようだった。

 

 

「では、始め!」

 

「手加減はしませんわ。」

「速攻で落とす!」

 

「い、いきます!」

 

言葉こそいつも通りの山田先生であっても、その目つきは鋭く冷静な…獲物を狩る猛禽のような鋭いものに代わっていた。

 

先制攻撃はオルコット・鳳ペアであったが、山田先生は簡単にそれを回避した。

 

「さて、今の間に……そうだな。丁度いい。デュノア、山田先生が使っているISの解説をしてみせろ。」

 

「あっ、はい。」

 

目前で繰り広げられている空中戦を見ながら、デュノアがはっきりとした声で説明を始めた。

 

「山田先生の使用されているISはデュノア社製第二世代型IS《ラファール・リヴァイヴ》です。―――」

 

滔々と続く説明を聞きながらも私は山田先生の動きを目で追い続ける。

 

その様子を一言で言い表すならば『巧い』。

 

確かに、山田先生の戦い方には華こそないが堅実で『負けない』戦い方をしている。

 

ラファールが『扱いやすくポジションを選ばない機体である』という事を言い換えると『操縦者の使い方次第でどんな風にもなる』ということだ。

 

そして現に、山田先生はしっかりとラファールを使いこなして、一世代上を二機相手にして負けない戦いを繰り広げられている。

 

それが可能になっている要因の一つに山田先生の技量にラファールがしっかりと応えているという点は間違いなく入ってくる。

 

そんな技巧者は、オルコットと鳳の互いが互いを邪魔と思うように位置取りして、堅実に削り取っている。

 

 

「―――でも、知られています。」

 

「ああ、いったんそこまででいい。…終わるぞ。」

 

山田先生の射撃に誘導されたオルコットが鳳と衝突。

 

ちょうどそのタイミングでグレネードが投げ込まれ爆発。

 

 

爆煙から二つの影が地面へと落下していった。

 

言うまでも無い。

オルコットと鳳だ。

 

「くっ…うう……。まさかこのわたくしが…」

 

「あ、アンタねぇ……何面白いように回避先読まれてんのよ……」

「り、鈴さんこそ!無駄にばかすかと衝撃砲を撃つからいけないのですわ!」

「それはこっちのセリフよ!なんですぐにビットを出すのよ!しかもエネルギー切れるの早いし!」

 

「ぐぐぐぐ……!」

「ぎぎぎぎ……!」

 

………最大の敗因は、オルコットと鳳が協力して戦うつもりがなかった事だろうな。

 

あれが空と一夏ならば撃墜とまではいかないまでも善戦はできるだろう。

空はオルコットよりも上手な操縦者であり、一夏との仲も悪くない、むしろいい方だ。

 

周囲のクスクス笑いが始まるまで、二人はいがみ合い続けた。

 

 

「さて、これで諸君にもIS学園教員の実力は理解できただろう。以後は敬意を持って接すすように。」

 

ぱんぱん、と手を叩いて千冬さんが意識を切り替えさせる。

 

「専用機持ちは………織斑、オルコット、デュノア、ボーデヴィッヒ、鳳か。では十四人一組になって実習を行う。グループリーダーは専用機持ちだ。では、別れろ!」

 

千冬さんが言い終わるが早いか否か、

 

あっという間に二クラス分の女子(私と専用機持ち除く)は一夏とデュノアの元に大集合をしていた。

 

「………十四人ずつと言われたのを聞いて居なかったのか?」

 

状況を見かねたのか千冬さんは面倒そうにひたいを指で押さえながら低い声で告げた。

 

「このバカどもが。出席番号順に一人ずつ各グループに入れ!一組の一番から順に先ほど言った順で入れ!次にもたつくようなら今日はISを背負ってグラウンドを百周させるぞ!」

 

千冬さんの脅しもあり、群がっていたクラスメイト達はそさくさと散ってゆく。

 

さて、私の組は………一夏の所か。

 

「ええと、いいですかーみなさん。これから訓練機を一班一機取りに来てください。数は『打鉄』が三機、『ラファール』が二機です。好きな方を班で決めてくださいね。あ、早い者勝ちですよー。」

 

山田先生の指示が飛ぶ。

 

「……………」

 

むっ…

 

一夏の視線が、山田先生に…?

 

ぎゅむ。

 

「いってぇ!」

 

とりあえず、足を踵で思いっきり踏んでおいた。

 

まったく、デレデレおって。

 

………私のはまったく気にしないくせに………

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