インフィニット・ストラトス―絶望の海より生まれしモノ―#21
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[side:一夏]

 

なんだかすごく不機嫌だった箒だが、『昼食を一緒にどうだ』と誘った処、一気に上機嫌になった。

 

それこそ、打鉄を装着したまま小躍りするくらいに。

 

まあ、小躍りと言うよりは演舞に近かった気もするけど、それは置いておく。

 

 

それにしても、流石は箒。

歩行も難なく出来たし、演舞までやってのけるとは。

 

「うっし。屋上行くか。」

 

着替え終わった俺はシャルルに食堂の場所と昼休みの時間を伝えてから屋上を目指して歩いていた。

 

 

きっと食堂ではシャルルが大変な事になってると思うが、俺としてもここ最近妙に疎遠になっている幼馴染との関係修復をしたいので生贄になってもらおう。

 

 

と、あと一フロアで屋上という処まで来た時―――

 

 

ドドドドドドド……………

 

と、まるでバッファローの群れでも近づいて来ているかのような音がして振り向いたら、

 

 

「あっ、一夏!助けて!」

 

シャルルが大量の女子に追いかけられていた。

よっぽど怖かったのか涙目になりながら。

 

素早く俺の背後に隠れたシャルル。

 

その結果、俺まで取り囲まれる結果になった。

 

 

取り囲んだ女子の目はギラギラと輝き、鼻息荒く俺たちを睨むかのように見据えてきている。

 

 

「あー、えーと………」

 

どうやって説得すれば………と思案していたら、

 

 

 

スパパパパパ――――――ァン

 

 

「いったーー!」

「うぎゃっ!」

「あうっ!」

 

 

唐突に駆け抜ける嵐。

 

そして駆け抜けた後に残るのは頭を抱えてうずくまる女子の群れ。

 

 

「まったく。バカどもめ。」

 

「ちふ―――織斑先生。」

 

「まったく、手を焼かせるな。織斑、お前が面倒を見ろと言っただろう。」

 

「え?でも…」

 

スパァン

 

「あ痛ッ!」

 

「口答えするな。」

 

「―――はい、織斑先生。」

 

物凄く、理不尽です。

 

しっかり面倒見ろよ、と言い残して立ち去ってゆく千冬姉。

 

説教(但し肉体言語で)をもらった女子たちは渋々散ってゆく。

 

「なんか、ごめんね?」

物凄く済まなそうにしてくるシャルル

 

「いいさ。シャルルが悪い訳じゃない。」

そう言いながら無意識に、俺の手はシャルルの頭にいっていた。

 

「わっ…」

おお、撫で心地は中々にいいな。

 

と、為されるがままになってるシャルルの頭を鳥の巣状態にする作業をしていると…

 

「一夏っ!」

「一夏さん!」

「………なんで私まで?」

 

鈴とセシリアと簪さんがいた。

 

と言っても、簪さんは鈴とセシリアに拉致されてきた様子。

 

強制はいかんぞ、強制は。

 

「お昼休みだというのに、どこに行かれるおつもりなんですの?」

 

「そうよ!あたしや転入生の事も放っておいて、一夏のくせに何さまのつもり?」

 

世界初の男性IS操縦者の一夏様―――なんて思ったらきっと蹴られるんだろうな。

 

どげっ。

 

「あんた、なんか物凄く下らない事考えたでしょ。」

 

ご明察。

そして予想通りの反応をありがとう。

 

「お前な……」

 

っといけない。

これ以上待たせると箒の機嫌がまた急速落下だ。

 

俺は行くぞ。

 

 

「ちょっと!何処行く気!?」

 

「逃がしませんわよ!」

 

「あうあう…」

「一夏、待ってよー。」

 

結果:全員、屋上まで付いてきた。

 

 * * *

 

「………どういう事だ。」

 

屋上に着いた時、一瞬だけ表情が華やいだ後に一気に不機嫌顔になった箒はドスの効いた声と殺気のこもった視線を俺に向けてきた。

 

「…俺が知るか。」

 

 

「ご、ごめんね?」

「僕が一夏に助けを求めちゃったから…」

 

簪さんとシャルルは箒に謝り、

 

「ふん。」

「ふふふ、抜け駆けは許しませんよ。箒さん。」

 

「ぐぬぬ………、だが今回は一夏に誘われたのだぞ、私は。」

 

「あり得ないわね。」

「あり得ませんわ。」

 

むっ、なんでだ?

 

「だって、あの一夏よ?そんな甲斐性あるわけないじゃない。」

酷い事をさらっと言う鈴。

そして頷くセシリア。

 

 

………泣いて、いいよな?

 

「っといけねぇ。」

 

「どうした、一夏。」

 

「いや、コイツを忘れてた。」

 

俺は皆で付いてるテーブルに用意してきた弁当を乗せる。

 

食堂のおばちゃんに頼んで貸してもらった二段の重箱に納められたそれは今日千冬姉に渡した弁当と一緒に作ったものだ。

 

いや、これを作ったついでに千冬姉にも弁当用意した、というべきか。

 

 

「これは……?」

 

「弁当。俺が作った。」

 

「ええっ!?」

 

驚くセシリア、簪さん、シャルル。

 

「一夏さんて、料理できるんですのね。」

 

「おう。千冬姉が働きに出てた分、家の中の事は俺がやってたからな。」

 

最初は下手だったが、文句は言っても残さず食べてくれた千冬姉にいい物を食わせてやりたくて猛練習したからな。

料理はそこそこに自信がある。

 

「さて、あとは食べながらだ。昼休みが終わっちまうぞ。」

 

「そうだね。」

 

シャルルの同意を得て、俺は弁当箱のふたを開ける。

 

中身は片方には俵型のおにぎり(おかずがあるから具なしの塩結びに海苔を巻いただけ)、もう片方には出汁巻き卵、アキ兄直伝の若鳥の唐揚げ、ひじきの五目煮、ほうれん草の胡麻和え、アスパラガスと人参のベーコン巻等々…

定番な弁当のおかずを詰めてある。

 

でも六人分にするには大分少ない。

 

「しょうがないわね。私もこれ分けてあげるわよ。」

 

と鈴がタッパーをだしてきた。

 

「おっ!」

 

「酢豚よ。思いたったから作ってみたの。」

 

「そりゃ楽しみだ。」

 

「えっと、わたくしも、サンドイッチを作って来ましたのよ。宜しければ…」

と、今度はセシリアがバスケットをテーブルの上に置く。

 

「あ、ああ…。あとで貰うよ…」

 

言いたくはないがセシリアに料理の適性は皆無だ。

見た目こそ問題はないが、味は『酷い』の一言に尽きる。

 

その証拠に鈴は『うげっ』と小さくつぶやき、箒と簪さんは引き攣った苦笑いを浮かべている。

 

「では……」

 

めいめいが弁当に手を伸ばし――あ、誰一人としてセシリアのサンドイッチに手を出さなかったが。

 

「あ、おいしい。」

 

「そりゃよかった。」

 

食べた途端、箒、セシリア、鈴の三人が落ち込みだした。

 

「ど、どうしたの?」

 

 

「………理不尽ですわ。」

「………負けた。」

「………また、腕を上げたんだな、一夏。」

 

困惑して声をかけた簪さん

返ってくる答えは、なんというか何か色々なモノが砕けたような感じがする

 

「もしかして口に合わなかったか?」

 

俺自身、自分で作ったから味は判ってるが…冷めて不味くなってないか不安になって、三人が食べたヤツの味を再確認する。

うむ、これなら問題は無い筈だ。

 

…ということは、アレか?

 

俺や千冬姉の味覚に合わせて作ってるからな。

箒は別としても鈴やセシリアにとってはイマイチだったのかもしれないな。

 

うむ、精進せねば。

 

「そ、そんなことないですわ!」

「う、うん!とってもおいしいわよ!ね?」

「そ、そうだな!」

 

む?どっちなのか判らないな。

 

 

「あ、そうだ。箒、ちょっとコレ食べてみろよ。」

 

一口大に箸で切った唐揚げを箸で持ち上げる。

 

「な、なに?」

 

「だから、いいから食べてみろよ。」

 

「い、いや、だが…しかしな……」

 

箸の先を見たり視線を外したりしながらしどろもどろする箒。

 

「……………」

「……………」

 

そしてその隣と更に隣から『じとー』と睨んでくるセシリアと鈴

 

唐揚げはまだあるし………なんで睨む?

 

「ほら、食べてみろって。」

 

「い、いや…そのだな…あー……ごほんごほん。」

 

表情が緩んで締まって、無表情になったかと思えばまた緩む。

 

……今の箒の心理状態はどうなってるんだ?

 

「あ、これってもしかして、日本ではカップルがするっていう『はい、あーん』っていうやつ?仲睦まじいね。」

 

シャルルがそんなことを言って納得したように微笑む。

 

そして、その一言で虎仙人と戦女神に変容する鈴とセシリア。

 

「だっ、誰がっ!なんでこいつらが仲いいのよ!?」

「そっ、そうですわ!やり直しを要求します!」

 

シャルルに食ってかかる二人。

 

「そ、それじゃあ、みんなで食べさせあいっこならどうかな」

 

「ん?別に態々そんな事しなくても………」

 

突き刺さる視線が二つ。

 

その物理的干渉力を持ってるとしか思えない視線に俺は屈した。

 

「ま、まあ、それでいいと思うぞ。」

 

「ま、まあ、一夏がそれでいいって言うなら、付き合ってあげてもいいわよ。」

「わたくしも。本来ならはそのようなテーブルマナーを損ねるような行為は良しとは致しませんがここは日本。『((郷に入っては郷に従え|ゴーイング・ゴウ))』ですわね。」

 

セシリア、英語で『郷に入っては郷に従え』は『((When in Rome do as the Romans do.|ローマではローマ人のするようにせよ。))』だぞ。

………大丈夫か英国人。

 

「じゃ、さっそくもーらいっ!」

 

いきなり鈴がそういって俺の箸から唐揚げをかっさらう。

 

「あ、こら!」

 

「もぐもぐ……うん、イケるわねこれ。」

 

まあ、鈴の口にもあったらしい。

 

さて、仕方ないからもう一切れ………って

 

「唐揚げがもう無い?」

 

 

「………ごめんなさい。おいしくてつい…」

 

顔を紅潮させて俯く簪さん。

 

「まあ、美味しく食べてもらえたなら作り手としては嬉しい限りだ。」

 

さて、困った。

 

是非にとも箒には唐揚げの感想を聞きたいのだが残っているのはさっき俺が味見で齧って半分になった唐揚げが一個。

 

「あー、悪い。唐揚げがもう売り切れた。…俺が半分齧ったヤツは流石に嫌だろ?」

 

「べ、べつにかまわないぞ。」

 

「そうなのか。それじゃあ、はい、あーん。」

 

俺は手元に確保されていた半切れをつまんで差し出す。

 

「あ、あーん。」

 

箒はぎこちないながらもそう言いながら口を開け、唐揚げを頬張る。

 

流石に恥ずかしかったらしく頬が赤い。

 

「いいものだな…………む?」

 

「どうした、箒。」

 

「この味は…アキトさんの……」

 

「っしゃあっ!」

箒の呟きに思わず歓声をあげてしまった。

 

「ようやく再現できたぞ。アキ兄の唐揚げ。」

 

「本当か!?」

 

「ああ。アキ兄の遺したノートの『適量』としか書かれてなかった漬けタレの調合。ようやく見つけたぜ!箒にも確かめてもらいたかったんだ。」

 

アキ兄が俺たちに作ってくれた唐揚げ。

醤油をベースに生姜とおろしニンニク。そこにコショウと隠し味に大根おろし。

 

但し、ノートには『適量』としか書かれていなかった分量をようやく見つけたのだ。

 

 

「ねえ、『アキ兄』って誰?アンタ姉弟は千冬さんだけでしょ?」

 

喜ぶ俺と箒に鈴が疑問成分百パーセントで尋ねてきた。

 

「ああ、鈴は知らなかったか。………そりゃそうだよな。アキ兄がいなくなったのは俺らが小学三年の時だったもんな。」

 

「『いなくなった』?」

 

「ああ、高校の交換留学の為にフランス行ったら向こうで事件に巻き込まれたらしくてさ…結局、帰ってこなかったんだ。推定死亡。葬式もちゃんとやったんだが………」

 

「…あの時の千冬さんは見てられなかったな。」

あのころの千冬姉は、本当に荒れていた。

 

道場破りを繰り返し、町の不良集団を幾つも潰滅に追い込んだりもした。

 

まあ、その手の破壊活動を二、三週間続けたら((不良集団|えもの))が枯渇したのか、荒れ狂う姿は見せなくなったが………

 

代わりに、束さんと一緒になって何やらやり始めた。

 

今思えば、一緒になってISを作っていたんだろう。

 

千冬姉がテストパイロット、束さんが作成者として。

 

そして、その一年後に二人は『白騎士事件』を起こした。

 

「………ごめん、一夏。」

 

「いや、もう昔の事だからな。―――さて、俺はそろそろ行くかな。」

 

「何処へいくんですの?」

 

「アリーナの更衣室。確かこの時間帯は第一アリーナが空いてた筈だな。」

 

 

「ん?一夏ってもしかして実習で毎回ISスーツ脱いでんの?」

 

「着っぱなしでも問題ないとは言われてるんだけど、どうも落ち着かないんでな。弁当箱は俺の机にでも置いておいてくれ」

 

俺は『ご馳走さまでした。』と手を合わせてから席を立つ。

 

余り食べれていないが、この空気の中で食事するのは俺には無理だ。

 

 

「………思い出したらアキ兄のこと思いっきりぶん殴りたくなってきたな。」

 

その一発には、全てを込めて。

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