インフィニット・ストラトス―絶望の海より生まれしモノ―#27
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[side:一夏]

 

「空、入るぞ。」

「お、お邪魔します……」

 

夕食後、俺はシャルルを連れて空の部屋―副寮監室にやってきていた。

 

「ん、いらっしゃい。」

 

出迎えてくれた空に案内されて俺たちは部屋の奥へと進んでゆく。

 

おお、副寮監室には風呂があるのか。

しかもリビングにしっかりとしたキッチンもある。

所謂『((LDK|リビング・ダイニング・キッチン))』と言うヤツだな。

 

で、そのスペースに空の私物が殆ど見当たらない処を見ると寝室も別にあるようだ。

 

くぅっ、羨ましい―――っと、本題を見失うところだった。

 

「ああ、寮監室は生徒指導室も兼ねるからこう言う作りなんだよ。もちろん、防音だからこの部屋の外に音が漏れる事は無いよ。」

 

どうやら、俺の考えてる事は空にも見抜かれてたらしい。

そこに座って待ってて、と促されて俺とシャルルはテーブルに備えられた椅子に座る。

 

「二人とも、煎茶でいい?デュノア君は紅茶の方がいいかな?」

 

「あ、僕もセンチャで。」

 

「ん。」

 

そして湯呑みを三つ持って、俺たちの前に置いた空が俺たちの向かい側に座った。

 

「で、相談したいことって何?」

 

ずばっ、と本題に遠慮なく斬り込んでくる空。

 

俺はシャルルに目配せし、シャルルが頷いてから話し始めた。

 

「僕が一夏に取次ぎをお願いしたんです。……実は―――」

 

シャルルは男として来ているが本当は女であること。

生まれが特殊な為上司である父親と仲が悪い事。

学園には俺のデータを盗んでくるように命令されたから来たと言う事。

 

大体は俺が聞いた話と一緒の内容をシャルルは空に語る。

話を黙って聞く空は微動だにしない。

 

そして、全てを語り終え……

 

「で?」

 

心底つまらなそうに、ひどく面倒そうに空は言った。

 

「『で?』って……それだけかよ。」

 

思わず俺は空に食ってかかる。

 

「それだけだよ。そもそもで一夏。」

 

「なんだよ。」

 

真っすぐに俺の目を見てくる空。

俺も負けじと見返す。

 

「甘えるのも、程々にして欲しいな。」

 

「なッ!?」

 

「人助けしようとして、自分の手に余るかどうかを判断できないならいっそ助けない方がいい。―――共倒れになるよ。」

 

「―――」

 

冷たい空の言葉に俺は声が出なかった。

 

だけどそれは――真実。

 

「まあ、筋金入りのお人よしな一夏にとっては『話すだけでも楽になれるだろうから』って相談を受けちゃうんだろうけど。」

 

「あ、確かにやりそう。」

はぁ、と溜め息をつく空。

確かに、と納得顔のシャルル。

 

「うぐ……否定しきれない…」

 

そんな二人に対して俺は何も言い返せないでいた。

だって、事実だもん。

 

「あ、そういえば。」

 

「ん?どうした、シャルル。」

 

「千凪先生って、『世界で二人目のISを使える男性』ですよね?」

 

…そういえば、学園中の生徒ほぼ全員が勘違いしたまんまだっけな。

 

「いや、男じゃないから。」

 

「―――え?」

 

ちょいちょい、とシャルルを手招きして奥に進む空。

 

どうやら、『論より証拠』で行く気らしい。

 

「?」

 

ほいほいと付いて行ってしまうシャルル。

 

 

程なくして、

「え、えーーッ!?」

そんな、『ニア驚愕する』みたいな声が防音の行きとどいた副寮監室に響き渡った。

 

ここで『どうしたんだ!』と、飛び込んだりしてはいけない。

……もし飛び込んだらその先に待ってるのは………恐らく『 死 』だろうから。

 

 

 

お、二人が戻って来た。

 

「シャルル、どうだった?」

 

何の気なしに尋ねた俺。

けど…

 

「うん。あんまり大きくない、標準的な大きさだけど形は綺麗で………って!何言わせるのさ。一夏のえっち。」

 

「冤罪ッ!?俺は納得がいったかを聞きたかった――」

 

「成る程。僕の胸には全く興味がない…と。」

 

「………ッ!!」

 

ああ言えばこう言う、売り言葉に買い言葉。

 

ああもう、どうすればいいんだ?

 

ついでに、この際だから言わせてもらうと――『興味ない訳ないだろ!』

……俺だって、色々溢れる十五歳男子なんだよ?

今、こんな環境だから半ば禁欲生活状態になってるけどさ。

 

「―――とまあ、一夏を弄ぶのはこれ位にしておいて。」

 

って、おい。

 

「デュノア君の件については放っておく事をお勧めするよ。」

 

「え?」

 

「『親の心子知らず』。…僕が言えるのはそれだけだよ。」

 

「…?」

 

 

「デュノア君。」

 

「はい?」

 

「先生としてじゃなくて同い年の同性としてでも相談には乗るからね。」

 

「…うん。ありがとう。」

 

 

おや、空とシャルルが随分と仲良くなってるな。

 

同じ一人称が『僕』な男装女子同士だからか?

 

「一夏が悪さしたら迷わず織斑先生の所に。居なかったら僕でも構わないけどさ。」

 

「うん。」

 

「おいおいおいおい。ちょっと待て。」

 

「あと、割と強引な処と人の話を聞かない処もあるから。」

 

「なるほど…」

 

「ぐぬぬ………それに関しては否定しきれん………」

 

それからシャルルと空の世間話(八割のネタが俺)に付き合わされ、二人に散々弄られた。

 

………俺、そんなに酷く鈍いのか?

割と鋭い方だと思うんだけどな。

 

「…一夏の場合、鋭いんだけど鈍いんだよ。特定の場面に限って。」

 

むぅ、何故考えてる事がバレるんだ?

 

 * * *

[side:シャルル]

 

僕が千凪先――空と話してたら『先に戻ってシャワー浴びてる』と一夏は先に部屋に戻ってしまった。

 

 

それにしても、空ってすごいな。

同い年なのに凄く大人っぽいし、先生だし、一夏のこと良く知ってるし。

 

それに…凄く、強い。

 

「僕も、ああなりたいな。」

 

なんとなくだけど僕と似てる部分がある。

だからこそ、目指したくなる。

 

うん。先ずは空に追い付こう。

追いついたら、次は一夏と―――

 

 

 

「って、何考えてるんだろ、僕は。」

 

もうすぐ本国に強制送還されるかもしれないのに…

 

 

 

『居場所なんて、いくらでもあるんだよ。ただ、それに気付くかどうか、だよ。』

居場所なんて幾らでもある、と空は言ってくれた。

 

『だったら、ここにいろ。』

居場所なら作ってやると、一夏は言ってくれた。

 

 

「ホント、敵わないな。」

 

他人に対して降りかかった理不尽すら認めず、蹴散らしていこうとする二人。

その姿は気高くて、貴くて……凄く格好良かった

 

だからだろうか。

僕が『この学園』で『どうしていこうか』を考えているのは。

 

「っと、いけない。」

 

危なく部屋を通り過ぎるところだった。

 

「ただいまー。」

 

がちゃ…

 

部屋に入ったら電気は付いたまま。

 

「一夏ぁー……あ。」

 

まったく、一夏ったら、

「寝ちゃってる。」

 

しかも掛け布団の上に。

 

寝転がったらそのまま寝てしまったというところかな。

 

頼りになるのに、こう言う姿を見ると凄く微笑ましく思えて仕方がない。

 

「…さて、僕も着替えて寝ようかな。」

 

今日は色々あったけど、明日は普通に授業があるし…

 

そういえば空はどんな授業をやるんだろうか。

 

楽しみだな。

 

 

 

「―――シャルル……」

 

不意に、一夏に呼ばれた。

 

「びくっ!?」

 

あまりに突然の事に変な声を上げてしまう。

同時に胸が一気に高鳴る。

 

一夏は寝てる。

 

つまり、僕が夢に出てる?

 

一体どんな夢を見てるのかな

 

 

「………そっちは駄目だ。三年生に食われるぞぉ……むにゃむにゃ……」

 

 

「……一体どんな夢を見てるのさ。」

別の意味で、気になった。

 

「一夏が朴念神だってことは空の話で理解したつもりだけどさ…」

 

理不尽ブレイカーたる一夏こそが一番の理不尽なんじゃないかな、と思う。

 

部屋の照明を落としてから、僕は一夏が掛け布団の上に寝てる事を思い出した。

 

このまま放っておいて風邪でも引いたら大変だし……

 

 

「あ、そうだ。」

 

一夏にはヤキモキさせられた分の仕返しをしよう。

 

そう決めて、僕は自分の分の掛け布団を一夏にかけた。

 

そして、僕もそこに入り込む。

 

幸い一夏は寝がえりでベッドの端に寄ってるから十分寝れるスペースがある。

 

 

明日の朝、きっと驚くだろうな。

 

「おやすみ、一夏。」

 

小さくつぶやいてから僕は急激にやって来た眠気に身をゆだねた。

 

暖かい何かに包まれたような感覚はくすぐったくもあるけどすごく落ち着く……………

 

 

 * * *

翌朝、僕は一夏の悲鳴で目が覚めた。

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