インフィニット・ストラトス―絶望の海より生まれしモノ―#31
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[Side:簪]

 

「はー、終わった終わった。」

 

教師陣の事情聴取から解放された私たちは盛大に凝り固まった体をほぐすべく聴取に使われた部屋の前で伸びをしていた。

 

まあ、『事情聴取』と言っても『織斑先生が容認した』『((千凪先生|そらくん))の指示に従っただけ』という大義名分が私たちにはある。

それ故に『聴取』と言うよりは『危ない事してるんじゃない』という、小言や注意の類ばかりだった。

 

 

唯一の例外が――箒がその『左手首にある薄紅色の珠のついた紅い紐』について。

 

『舞梅』は切られていたハズの((最適化|フィッティング))機能を作動させ、『箒の為の機体』となっていた。

 

 

更に四人。

 

私と箒と織斑君とシャルル君。

 

その四人が全員が全員、聴取が終わるまで解放されなかった。

 

そんなこんなで食堂がそろそろ閉まりそうな時間。

 

「さて、飯食べに行こうぜ。そろそろ食堂が閉まりそうだし。」

 

と、織斑君が言ったその時だった。

 

「お、居たいた。おーい、そこのキミたち。」

 

「?」

 

突然呼び留められて私たちは振り返る。

 

そこに居たのは…

「えっと……槇村さん?」

 

槇篠技研の副所長さんだった。

 

「久しぶりね。」

 

「どうしたんですか?」

 

「ああっと、人探ししてるのよ。」

 

「?」

 

「シャルル・デュノア君。」

 

シャルル君を?

 

「シャルル・デュノアは僕ですけど…」

 

「ああ、丁度よかった。はい、これ。」

 

シャルル君の手になにやら封筒が手渡される。

 

「確かに届けたからね。で、篠ノ之箒さん?」

 

「は、はい。」

 

今度は箒。

やっぱり、『舞梅』の事かな…

 

「舞梅のこと、よろしくね。詳しい事は空から聞いて貰える?」

 

「は、はあ…」

 

「それじゃ、時間とらせちゃって悪かったわね。」

 

「いえ…」

 

「それじゃあね。頑張りなさいよ。」

 

 

颯爽と立ち去ってゆく槇村さん。

 

「何というか、嵐みたいな人だな。」

 

「うん、そうだね。」

 

織斑君とシャルル君もあっけにとられていた。

 

 

かしゃ、かしゃ、かしゃ、かしゃぁん―――

 

その時、妙に時計の音が気になって壁に掛けられていた時計を見上げた。

 

「―――あ、」

 

そして、気付いた。

 

「どうした、簪。」

 

「時間。」

 

私が時計を指さすと皆も時計を見上げる。

 

そして、

 

「あ。」

 

皆で気付く。

 

「ああああああああああああっ!」

食堂の営業時間がたった今終了した事に。

 

 

「………どうしようか。」

 

「購買も閉まってるだろうし………。」

 

 

「そうだ、副寮監室にはちゃんとしたキッチンがあったはずだ。そこで食材と場所を借りよう。」

 

なんて織斑君が言いだした。

 

なんで副寮監室の中の事をそんなに知ってるのか小一時間ほど問い詰めたい(当然正座)気持ちをぐっとこらえて、空腹を何とかする為に私は賛成。

 

箒とシャルル君も同様だったので私たちは副寮監室を目指して急いだ。

 

 

 * * *

 

 

副寮監室に辿り着いて、返事がないけど鍵は開いてたから勝手にお邪魔したところ…

 

「ふーふー、あむ……もくもく…」

 

ずずっ……「千凪、替玉と卵。」

 

ちゅるん…「あ、私も替玉お願いします。」

 

ダイニングキッチンの、リビング側の台をカウンター席よろしく使い、((スーツ姿の女性|おりむらせんせい))と((ワンピースを着た童顔メガネの女性|やまだせんせい))、そして((サイズのあってないオレンジのチェック模様パジャマ着用中な銀髪少女|ボーデヴィッヒさん))が並んでなにやらずるずるとやっていた。

 

麺的な意味で。

 

「…どこの駅の蕎麦屋だ?」

 

箒が思わずそう言ったくらい、その光景は異質なのに不思議と違和感を感じさせなかった。

 

「あ、お品書。」

 

私が見つけた壁の掲示物。

 

「前来た時はこんなの無かったぞ…」

 

「全然気付かなかった……」

 

織斑君とシャルル君はあとで『O・HA・NA・SHI』しようか。

一人当たり四半日程度。当然、正座で。

 

ああ、((ケイ素製の抱き枕|抱き石))と((凹凸の凄くて鋭い洗濯板|十露盤板))も用意しなきゃ。

 

「簪は何にするんだ?」

 

「―――へっ? あ、ええと、そ、それじゃあ私はきつねうどんがいいかな。」

 

箒の声に現実に引き戻された私は相当慌てていた。

 

「? 何をそんなに慌てているのだ。」

 

「ううん、なんでもない。」

 

「ならいいのだが…」

 

危ない、危ない。

 

ちょっと拷も――O・HA・NA・SHIに意識を裂きすぎてたみたいだ。

それにこんな事が織斑君Loveな箒にバレたら私が殺されちゃうよ。

 

「ふーふー、あむ…むむむ、…むぐむぐ、」

「あ、お稲荷さんください。」

「千凪、熱燗。」

 

「織斑先生、明日も授業があるんですから、一本だけですよ。」

 

「判っている。」

 

…そんなのもあるんだ。

 

その少し後に私たちの注文分が出来上がった。

 

私がきつねうどん、箒は力うどん。デュノア君はたぬきうどん(スプーン&フォーク付き)で織斑君はかきあげ付きの月見うどん。

 

トッピングもすればよかったかな………

 

とりあえず、久々な食事となった夕食はとてもおいしかった。

 

それにしても………

 

空くん、割烹着姿似合いすぎ。

 

 

「千凪、もう一本だ。」

 

「駄目ですよ。」

 

「熱燗を――」

 

「だから駄目です。」

 

「千凪、あ――」

 

「駄目。」

 

「千――」

 

「出しません。」

 

「…なら、ビールでいい。」

 

「アルコールはもう打ち止めです。」

 

「……この部屋には、私から取り上げた酒類が有る筈だが?」

 

「織斑先生の部屋の環境と食生活の改善、酒量管理を任されてますからね。そうほいほいとは出せませんよ。どうせ『風呂上がりの一杯』って言ってビール飲むんでしょうし。」

 

「………そうか。」

 

「だから諦めてください。」

 

「……山田君、一杯欲しくないかね?」

 

「ええと、私は………」

 

「山田先生をダシにつかっても駄目なものは駄目です。」

 

「ボーデヴィッヒ、一杯つきあ―」

「未成年者飲酒はもっと駄目です。」

 

「むぅ………」

 

………お母さん?

説明
#31:ささやかなる晩餐
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