魔女っ娘達の夜 転
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・・・白い。

 

今のアイリスフィールの第一印象がそれだった。

 

全体的に白い衣装の所々に水色のラインが走っている。

後はひたすらレース、フリル、レース、フリル、フリル、レース、レースと・・・これはもうアクセントではなく、むしろフリルとレースで服を作ったらこんな少女趣味なんが出来ましたという方が納得できるだろう。

 

・・・明らかにやりすぎだ。

 

例えるならば、スポンジ無しにひたすら甘いクリームでショートケーキを作った上に、更に糖度MAXのシロップと蜂蜜を混ぜてかけた様な・・・甘さで頬が緩むを通り越して胸焼けがするイメージだ。

 

そしてミニスカに薄手の白ストッキング、ラインがはっきりでている。

 

・・・葵の衣装といい・・・脚線美に何かこだわりでもあるのか?

 

幸い、葵もアイリもすらりと黄金比レベルで細いが、これは確実に着る人間を選ぶだろう。

ある程度以上の女性は絶対拒否する。

 

そういう意味ではルビーの見立てはとても正しい・・・正しいのだが・・・・・・・・・いくらなんでもツインテールはやりすぎだ。

 

ツインテールが似合うのは”ロリッ子限定”なのだ。

 

ツインテールは小学低学年まで、その|境界線(デッドライン)を越えると年とともに痛くなってゆく。

 

|尻尾(テール)にするならポニーにしろ!

 

偉い人はそのあたりがわかってない。

成長したシロイアクマ(19)の違和感を見よ。

 

・・・さて、そろそろ現実に戻ろうか?

 

今そこにあるリアルは大きく分けて三つ、そう三つなのだ。

 

まずは白と黒の魔女っ娘主婦・・・葵とアイリ。

 

『ヴゥラーヴァ!!ヴゥラーヴァ!!』

 

そして杖の癖に器用に身をよじらせる|この場の元凶(ルビー)。

 

「お母様、凄い!!」

 

さらに、変身した二人を見て目の中に星を輝かせているイリヤ。

 

・・・ああ・・・きっと彼女はテレビのヒーローの背中にチャックがついていたり、女性ヒーローの中身は小柄な男だったりする事をまだ知らないに違いない。

 

・・・いずれ彼女も真実を知る事になるだろうが、しかしそれまでは態々夢のない現実の非情さと厚さを知る必要はないのだ。

 

「お母様、私も変身したい!!」

『イリヤさんもですかぁ?♪出来なくはないですしむしろカモンな感じですけど・・・今回は断る!!』

「な、なんで!?」

『ああ、そんな泣きそうな顔をしないでください。もう少し育ってからの方が面白そ・・・ゲフンゲフン、ええ?っとですね?魔女っ娘になるためにはイリヤさんには足りない物があるのですよ!!』

「ええ??」

 

ババーン!!という効果音がどこかから聞こえてきた。

判りやすく頬を膨らませてご不満を全身で表現していらっしゃるイリヤ嬢・・・人を疑う事を知らないというのは恐ろしいものだ。

 

『そう、イリヤさんに足りない物!それは萌え、メガネ、猫耳、委員長、メイド、スク水、ブルマ、ブラコン、シスコン、ロリ・・・はあるか、そして何より!羞恥心が足りない!!』

 

・・・こいつは何処まで腐っているのだろうか?

羞恥心のある奴が進んでこんな格好をするとでも思っているのか?

 

「そ、そんな・・・」

 

恐れおののくイリヤだが・・・多分判っていない。

空気を読んで合わせただけだろう。

 

断定しよう。

イリヤは良い子。

 

「そんな・・・私は魔女っ娘にはなれないの?」

『ウム、魔女っ娘への道、それはつらく険しい物!!しかしイリヤさんならばルビーちゃんが導けばきっとたどり着けます。あの魔女っ娘の星に!!』

 

何処にそんな星があるのやら、きっとどこぞの球団の星より捜しづらいに違いない。

 

しかも現在は昼間だ。

何処のアフリカの原住民なら見えるというのか?

本当に星が見えるとしたら、その視力だけで人間とは思えない。

 

「本当に!?」

『勿論、さあルビーちゃんのことは師匠と呼ぶのです弟子よ!!』

「はい、ししょー!!」

 

二人ともノリノリである。

このままタイガー道場ではないルビー道場への道が開きそうだ。

 

きっとそこはこの世ならざる場所に違いない。

 

「えーっとよ。もう良いのか?」

 

少しすすけた感じのランサーが声をかけてきた。

多分、ずっと無視されてすねたのだろう。

 

基本的に賑やかな方が好きな男だから、誰もいないならともかく、ハブられることには慣れちゃあいまい。

クランの猛犬は意外と寂しがり屋なのかもしれない。

 

「とりあえずそこの杖、テメェが元凶だっつーのは理解した」

 

ゲイボルクを取り出し、穂先をルビーに向けた。

紅い魔力が穂先を伝うようにしてルビーに向かっている。

 

「なんって言うか、とりあえず刺すぞ?」

『ひ、ひえええ!遊び球無しの直球ど真ん中ですか!?なんかとっても理不尽な事言われてませんか!?』

「うっせ、お前を残しとくと面倒な事になりそうなんだよ!」

 

なんか野性的な第六感的なものでルビーの危険性を認識したらしい。

やはり犬だけに本能の部分が強いのだろうか?

そしてランサーが感じた物は、多分正しい。

 

この世にこれほど面倒な相手もちょっと思いつかないというくらいに、|愉快型魔術礼装(ルビー)は厄介だ。

 

『くぅぅぅ!!ルビーちゃん大ぴんちです!!しかし、私たちは負けません!!世界が魔女っ娘を求める限り!!』

 

実際、需要があるかどうかは誰も知らない。

少なくとも、求めていない人間には少なからず心当たりがある。

 

そのうちの一人が他ならぬランサーだ。

 

『葵さん、アイリさん!!』

「「はい!」」

『合体必殺技です。行きますよ?!!や?っておしまい!!』

「「あらほらさっさ」」

 

・・・何故そのかけ声が出てくるのか?

 

ジェネレーションの間に横たわる大きな大きな格差を感じた気がする。

しかし、どう見ても冗談としか思えない格好をした葵とアイリの魔力がルビーに流れ込んで行くのは現実だ。

 

ルビーの本体が葵の手を離れ、妙に毒々しい極彩色の光を放って浮いている。

 

「へぇ?」

 

葵とアイリの二人から流れ込む魔力は結構な物だ。

ちょっと見れないような魔力量に、ランサーが口笛を鳴らした。

 

「ただ面倒なだけだと思っていたが、ちっとは楽しめそうじゃねえか?」

 

ランサーの好戦的な性格に火がついた。

ここで仕掛けて、準備も出来ていない相手をぶちのめして台無しにするようなことはしない。

 

それが大きな間違いだったと、ランサーは直ぐに気づく事になる。

後で、このときの判断をした自分を、殴り倒したいと思うほどに後悔する事になるなど、この時点では想像もしていなかった。

 

『いっきますよ?てりゃ!』

 

何か頑張って力を込めましたという感じの声と共に、ルビーに集められた魔力が開放される。

 

それは開放された瞬間に、世界を変質させ、作り変える。

気がつけば、ランサーの見る風景が一変していた。

 

「ほう、こいつはすげえ・・・」

 

ランサーがニヤリと笑う。

現れたのは地平線まで続く荒野、シロウの物とも征服王のものとも違う、しかし同じ物・・・。

 

「見直したぜ杖、固有結界の展開が出来るなんてな」

 

魔術の秘奥にして、魔法に近い究極の一・・・固有結界。

妖精や死徒27祖が用いる秘術・・・本来ならば驚くべき状況だろうが、人間でありながら展開するシロウや、臣下と共に固有結界を作り出す王を目にしてきたのだ。

 

杖?・・・が展開した事には少なからず驚いたが、耐性が出来ている為に驚く程度で済んでいる。

 

『も?う、杖じゃありません。ルビーちゃんですぅ?♪』

 

見上げれば、とんでもなく巨大化したルビーが浮いている。

その下には葵とアイリが魔法少女のコスチュームのまま立っていた。

 

「まさかこんな奥の手を使えるなんて思っちゃあーいなかったが、これなら全力でやれそうだぜ?」

 

ランサーの闘争本能は既にこの戦いに向けた期待で昂ぶっている。

固有結界の能力はわからないが、それを含めて叩き潰せば良い。

 

むしろ万全の相手を倒す事こそがランサーの闘争心を満足させる。

 

『フフフ、無理ですよランサーさん、この固有結界が展開された以上、あなたにできる事は何もありません?♪』

「あぁ?」

『ひ、ひえええ?。う、嘘じゃないですよ?』

 

ドスを込めたランサーの言葉に、ルビーが怯えた。

ランサーとしては素面のつもりだが、戦いの予感に少し酔っていたかもしれない。

 

「はっ!テメェ、一合も交わさないで、オレに勝てる気でいるんじゃねえだろうな?調子くれてんじゃねえぞ?」

『そ、その?ほ、ホントなんですよ??この固有結界の中ではですね?特殊な条件があって、自分以外の人に触る事が出来ないんです?』

「何?」

『だから戦うなんて出来ないんですよぉ?」

 

ランサーがポカーンとした顔になる。

 

「・・・攻撃が無効化される固有結界だと?もしかしてあいつらも?」

『はい?、葵さんとアイリさんの攻撃もキャンセル対象です』

「なんだそりゃ!?」

 

ランサーが声を上げるのも無理のないことだ。

ルビーの言葉を信じるのなら、この固有結界にはどうしようもない欠点が存在する。

 

相手の攻撃がキャンセルされるというのは、確かに最強の防御だろう。

しかし、自分の攻撃もキャンセルされるというのなら本末転倒だ。

 

これでは確かに負けないかもしれないが、同時に勝つことも出来ない。

むしろ固有結界を展開する魔力の分だけマイナスだろう。

百害あって一利無しにしか見えない。

 

「どういう事だテメェ!?折角面白そうになってきたって所で水差しやがって!!何ふざけた固有結界なんぞ展開してくれてんだよ!?」

『んん?つまりですね?この固有結界の名前はぁ?【主婦の昼下がり(マシンガントーク)】って言いましてぇ?、つ?ま?り?ある条件を満たさないと解除されませ?ん、ヌフ、ヌフ』

 

どこぞの警部補のように笑うルビーに、ランサーの額に青筋が浮いた。

実に神経を逆なでする話し方だ。

素で殴り飛ばしたくなってくる。

 

「だっから!何でそんな固有結界作ってどうするんだっつーんだよ!?この結界から出れねぇってだけじゃねえか!?さっさと解除しろよ!!」

『いえいえ?ここからが本番なのですよ?あは?♪』

 

ルビーが笑った。

かなり黒い、具体的に言えばノート一つで新世界の神になるとかのたまう高校生並の腹黒さだ。

 

ランサーが引きつった笑みを浮かべる。

確かに笑っているが、これはもう切れる寸前だろう。

 

「ほう、おもしれえ。何が出来るか俺に見せてみろや!」

 

期待したやるせなさに対する八つ当たりも込めて、今のランサーはゲイ・ボルクを構える。

 

ランサーの見ている前で葵とアイリが動いた。

彼女達はお互いに向き合い・・・。

 

「お久しぶりですね、衛宮さん?」

「はい、お久しぶりです遠坂さん」

 

・・・何故か挨拶を始めた。

 

「さっきのは娘さんですか?」

「ええ、イリヤスフィールと言います。これからご近所さんとして、娘と夫共々よろしくお願いしますね」

 

・・・しかも何故か引越しの挨拶に移行した。

 

「・・・おい」

 

ランサーは視線を楽しそうに話し合っている二人からルビーに移した。

相変わらずでかいルビーを前にしていると見下されているような気になってきて、不快感が増す。

 

『なんですかあ?♪』

「・・・・・・」

 

陽気なルビーの反応にイラッと来るが、何とか我慢した。

しかし、ゲイボルクは何時でも真名発動OKの状態だ。

 

「な ん だ あ れ は ?」

 

一字ずつ間違えないように発音する所がランサーの怒気を現している。

対するルビーはノリノリだ。

 

『これこそが固有結界【|主婦の昼下がり(マシンガントーク)】の真価なので?す。この世界ではいかに長話しようと浦島効果で内外の時間に差が出来ている為に、外に出れば殆ど時間が経っていないって言う。忙しい奥様方達の無駄話のための・・・』

「怒りの刺し穿つ死翔の槍(ゲイ・ボルク)ぅぅぅ!!」

 

予備動作無く、いきなり真名が怒声で開放された。

事前に助走をつけなければならない技だが、それを省いているくせに飛んでいくゲイ・ボルクの速度は何時になく早い。

 

怒りという+αが込められ、無数に分かれた槍がルビーに向かう。

 

『うっかりさんですねぇ?』

「チイッ!!」

 

しかし、その全てはルビーを素通りした。

アレだけの大きさの物を外すなどあるわけがない。

文字通り幻のように、槍はルビーをすり抜けたのだ。

 

必中を約束され、しかも真名を開放した状態のゲイ・ボルクが無力・・・ルビーの言うとおり、この世界では本当に攻撃がキャンセルされることが証明された。

 

『最初に言ったじゃないですかぁ?この固有結界内では物理的な力はキャンセルされるんですよ?しかも触る事も出来ません。基本、ノータッチです。どんなにロリ少女が好きでも、手を触れてはいけないのと同じ理屈ですよ』

「俺はガキに興味はねぇ!!」

 

ランサーも、ルビーの解説を忘れていたわけではない。

それでも投げずにいられなかった。

 

「それで、この固有結界の解除条件って言うのはなんなんだ?」

 

同時に、ルビーは確かに重要な事を言っていた。

この固有結界は解除条件が揃わなければ解除されないと・・・それは裏返せば解除条件が揃えばこのふざけた固有結界は解除され、現実世界に戻れるという事だ。

 

『ハイ?それはですね?』

「・・・っておい、自分で聞いといてなんだが、そんなあっさりばらすのかよ?」

『別に問題はありませんからぁ?この固有結界、【主婦達の昼下がり(マシンガントーク)】はですね?忙しい奥様の奥様による奥様のための固有結界なので?す』

「くそつまんねー事に魔術の秘奥を使ってんじゃねえよ」

『フフフ、スルーしますよ?良いですね?つまり、ここは無駄話のための世界なので、おしゃべりに飽きたら自動で解除されます』

「・・・本当にそれだけか?」

 

ランサーは疑わしげだ。

まだ何か隠しているんだろうと無言でプレッシャーをかけている。

 

その姿はどう見てもヤのつく自由業か、ガンつけるチンピラのそれだ。

 

『本当ですよぉ?まあ、逆説的に彼女達が飽きなければこのままですけどねぇ?』

 

・・・ランサーは話し続けている葵とアイリを見た。

 

話は弾んでいるようだ。

すぐに終わりそうにはない。

 

「・・・しゃあねえか」

 

諦めたランサーが、どっかりと腰を下ろす。

ルビーの言っている事が本当なら、ここで出来ることはないだろう。

話が終われば外に出られるというのなら、それを待つしかない。

 

「テメェ・・・この固有結界が解けたときは覚えていろよ?真っ先に刺し穿ってやる」

『フフフ?ン、怖いですけど、主婦の怖さを侮ったら痛い目を見ますよ?』

「負け惜しみ言ってんじゃねぇよ」

 

ルビーの言葉を負け惜しみと受け取ったランサーはごろりと横になる。

 

・・・この図太さも英雄ゆえか?

 

 

・・・一時間後。

 

「それで■■■」

「そんな○○○、本当ですか?」

 

葵とアイリはいまだ話し込んでいる。

ずっと喋りっぱなしだ。

 

そしてそれをうんざりした目で見る男が一人。

 

「おい、まだ終わらねぇのか?」

『女性は皆おしゃべり好きだというのは古今東西変わること無い真理でしょう?』

 

ああ、そうだなとランサーは納得した。

こう見えて、彼もまた文字通り伝説を作った英雄、その中には女性関係の話も含まれ、子供まで作った男だ

 

女性の生態について思うところがあるのかもしれない。

 

『それとも降参します?』

「は!冗談はテメェの存在だけにしとけ」

 

そういうとランサーはまた昼寝に戻った。

 

この世界には何もない。

何処までも続く砂漠には生物すらいない。

 

・・・だから時間を潰すためにはとにかく寝る方が良いのだ。

 

 

 

 

 

 

 

・・・四時間後。

 

「それで今度は凛が桜の云々」

「判ります。家のイリヤも云々」

「やっぱり、娘って言うのは何処も云々」

 

葵とアイリはいまだ話し込んでいる。

しかもずっと切れ間無くだ。

 

そしてそれを退屈そうにあくびしながら見ているランサー。

 

・・・そろそろ寝て時間を潰すのも限界だ。

 

「女って言うのはどうしてこう話す事に事欠かないのかねぇ?」

『それは男女の差でしょうかねえ?』

 

 

 

 

 

 

・・・六時間後。

 

「そういえば■■■」

「そんな○○○、本当に?」

 

葵とアイリはいまだ話し込んでいる。

 

それを遠目に見ていたランサーが立ち上がった。

聞き捨てならないことを聞いたからだ。

 

「ちょっとまて、その話題は最初に話しただろーが!?」

 

やはり聞き間違えではない。

 

『甘いですねーランサーさん?女性の会話という物はネタが無くなると一回戻って何度でも同じ話題を繰り返す無限ループに突入するのです!!これはもうセイントに同じ技は二度通じないのと同じくらい当然の事なんですよ』

「マジか?」

 

マジである。

 

 

 

・・・九時間後。

 

「オイ杖ヤロウ!?」

『杖じゃなくてルビーちゃんと呼んで欲しいんですけどぉ?それと私は野郎じゃないですよ?』

「んな事はどうでも良い!!お前あの二人に何かしただろう!?」

 

葵とアイリはいまだ話し込んでいる。

 

「クスクスクス・・・」

「フフフフフフ・・・」

 

ちなみに無限ループは5週目までは数えていたが、面倒くさくなってその後は数えていない。

 

『何かって、何です?』

「全然話がおわらねぇねぞ!?」

『ああ、それに関しては素です。主婦の楽しみの一つですからねぇ?井戸端会議』

「納得できねぇ!!」

 

 

 

・・・十一時間後。

 

『あれ?誰か来ましたね?』

「何?」

 

ルビーの声に、殆ど拷問を受ける苦行者のようになっていたランサーが顔を上げる。

 

不可侵の筈の固有結界に変化が起こっていた。

空の一角がひび割れ、亀裂からにじみ出た黒い魔力が結界内に侵入してくる。

どうやら外から無理やり固有結界をこじ開けて内部であるこの世界に入り込んで来ようとしている様だ。

 

「私の領域でかってしているのは何処の誰かしら?」

 

固有結界に侵入してきたのはメディア(キャスター)だった。

たなびく黒のマントに、紫のドレス、フードで顔を隠している彼女を見間違うわけがない。

 

「お、おお・・・」

 

その姿を見たランサーは不覚にも感動で打ち震えた。

|彼女(キャスター)なら・・・魔術師のサーヴァントならきっとこの状況を何とかしてくれる。

いかに理不尽にふざけた存在とは言え、最高の魔術師の英霊である彼女なら、きっとこの固有結界ごと何とかしてくれるはずだと・・・そんな風に希望に満ちた目で彼女を見ていると、彼女のほうも見上げてくるランサーの視線に気がついたらしい。

 

「あら、ランサー?貴方何をしているの?」

 

フードで顔半分が隠れているが、明らかになんでこいつこんなとこにいるんだ?という不信の視線を感じる。

しかし、そんな事も今は関係ないし気にならない。

 

「良いところに来てくれた!実は「あ、メディアさ?ん」何ぃ!?」

 

ランサーの言葉をぶった切って、葵とアイリがキャスターを呼んでいる。

 

「な、何あれ?」

 

空中でうろたえたためか、浮遊しているキャスターがよろめく、二人の格好に度肝を抜かれたのかと思ったが・・・・・・何故頬が紅い?

フードの下で見えないはずの目が、二人の着ている衣装に釘付けになっているのがわかるような気がするのは何故だ?

 

「パ、パーフェクト・・・完璧なデザインだわ!!」

「ちょっと待て、戻って来いキャスター!!」

 

思わずランサーが止めに入る。

怒鳴りつけた事で、キャスターがはっとする。

 

「し、醜態をさらしたわね・・・」

「ああ、本当に醜態だったな・・・まさかお前まであんな格好をしたいなんていわないよな?」

「い、言うわけ無いじゃない、馬鹿馬鹿しい!!」

 

・・・否定したくせに、チラチラと魔女っ娘の衣装を横目で見ているのはどういうわけなのだろうか?

 

「メディアさーん。こっちに来て一緒にお話しませんか?」

「お、お話って・・・」

「ここには女だけですし、夫の話などいかがです?無礼講という事で」

「・・・面白そうね?」

 

ランサーは愕然とした。

 

・・・いま、きゃすたーはなんといった?

 

ショックのあまり、思考が全部平仮名になってしまうほどの驚きようだ。

 

「そ、それと・・・良かったらその服を良く見せてくれるかしら?」

「勿論ですよ、かわいいでしょう?」

「ええ、本当ね!」

 

ランサーにはこの時点ですでに理解不能だ。

空中をスーッと滑るように移動して、キャスターが葵とアイリの側に降りる。

 

「裏切り者!!」

 

・・・確かに仇名が裏切りの魔女だ。

 

『まっ、女なんてこんなもんですよ。ガンバ!!』

 

元凶(ルビー)に慰められて、涙が出そうになった。

多分男の子だからとかそういうのは関係ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・十六時間後。

 

「あら、いけない。ついつい話し込んでしまったようですね?」

 

誰が言っただろうか?

いや、誰が言ったかなどどうでも良い。

 

それに対するランサーの応えはウェルカムの一つだけ、これで話が切れた。

やっと終わる。

 

「カ、カカカ・・・オレは耐え切ったぞ!?」

 

どこぞの悪魔超人のように笑うランサーが勝利宣言した。

彼はこの十六時間、わいわいかしましく話す女三人を見ながら、一人何もする事無くただそこにいるだけという精神的苦痛の時間を耐え切ったのだ。

 

今ならリストラ要員で窓際に追いやられた会社員の哀愁を語れるだろう。

共感だって出来るに違いない。

 

「待ってろよ杖!!今ぶっ壊して・・・」

「じゃあこの続きはどこかゆっくりできるところでじっくりと・・・」

「すいませんギブで!!」

 

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『フッ、勝利の味というのはいつも空しい物なのです』

 

知った風な事を言うルビーの目の前では、精魂尽き果てたランサーがこうべをたれている。

既に固有結界は解除されているが、ランサーが復活する様子はない。

 

・・・ランサーの苦行は更に十時間に及んだのだ。

 

「テメェ・・・キャスター・・・裏切りの贖いはさせてやる」

「何を言っているのかしら、この駄犬は?」

「犬と・・・呼ぶんじゃ・・・ねえ・・・」

 

禁止ワードを言われても、ランサーは中々復活できないでいる。

 

「そういえば、貴方達こんな所で一体に何をしていたの?それにあの杖、何かとんでもなく黒い魔力を放出しているわね?」

「今更・・・かよ」

 

キャスターは魔力を感じ取ってここに来ただけで、何が起こっているのかまったく知らなかったし、言うタイミングが無かった。

事情を知らなくて当然だ。

 

・・・罪がないとは言わないが。

 

『悪は滅びました魔法少女は永遠に不滅です!!さあ皆さんご一緒に!!』

 

ビシッと葵とアイリが勝利の決めポーズをとった。

割とお約束な感じのアレである。

 

「お母様、すごいわ!!」

 

プラスイリヤも一緒になってポーズをとっていた。

 

「な、何この可愛い生き物?」

 

そして一人の馬鹿(キャスター)が携帯電話の写メで激写していた。

勿論、イリヤ中心に熱い視線を向ける彼女・・・すでに彼女も何か大事な物を無くしかけているのか?

 

何気に一番この時代に順応しているのが彼女だったりする。

魔術師であるという事と器械音痴は必ずしも一致しないらしい。

 

更にルビー、葵、アイリ、イリヤがリクエストに応えてさまざまなポーズをとり・・・山の国道は何時の間にかミニコスプレの撮影会場となっていた。

 

『私の時代、きたる!!』

 

ルビーは調子に乗っている。

乗りすぎている。

 

・・・だから気づかなかったのかもしれない。

 

気配を消して、最後の良心が接近していた事に・・・。

 

「・・・いい加減にしろ」

「「「「『あ!」」」」』

 

忍び寄っていたシロウ以外の全員の驚きの声が重なった。

葵とアイリの胸に突き立っているのはねじれた歪な短剣・・・二刀流、【破戒する全ての符(ルール・ブレイカー)】。

 

葵とアイリのナルトな目が瞬き一つで正常に戻る。

 

「「え、えっと・・・」」

 

二人そろって首をかしげ、周囲を見回し、最後に互いの姿に引いた後で自分の格好に気づき、硬直し、血の気が引いて青くなった。

 

「よし!!」

『ふ、不意打ち!?汚い、正義の味方が子供の夢を壊すようなことをしていいんですか!?』

「騙して呪い級の契約を結ぶような奴に言われたくはないわ!!」

 

尤もだ。

 

『こ、こうなったら・・・ちょっと早いですけどイリヤさん!?』

「え?私?」

 

全員の視線が集まる先で、イリヤがついてこれずにぽかんとしている。

 

『今こそ貴女にルビー道場の免許皆伝を与えます!!』

「え?いいの、私何もしてないよ?」

『あ た え ま す?!!』

 

・・・何かルビーがどんどんなりふり構わなくなっている。

追い詰められている証拠だろう。

 

『さあ、私を手にとって二代目プリズマ☆イリヤに!!』

「させるか!!」

『ヘブ!!』

 

イリヤの元に飛んでいこうとしたルビーだが、したから伸びてきた手が本体をつかんで地面のアスファルトにたたきつけた。

 

『イタタ・・・誰ですかもう・ルビーちゃんだって怒るんですからね?』

「こちとらとっくに沸点超えてるんだよ・・・」

『ヒイイ、ゾンビ?ゾンビですか!?』

 

生気を使い果たした顔は確かにゾンビに見えるが、正体はランサーだ。

まだ【主婦の昼下がり(マシンガントーク)】のダメージが抜けてない体に鞭打ってルビーをつかんでいる。

 

「よくやった!」

「は、早くやれ、シロウ・・・」

『あ、シロウさん!ダメです。・・・そんな、ルビーちゃん心の準備が・・・い、いきなり?せっかちさんですね、もっと優しくお願いします。・・・こんな事初めてなんです。いきなり二人がかりだなんてそんな・・・』

「「貴様(テメェ)はちょっと黙ってろ!!」」

 

相手が杖では艶っぽい事になりようがないということもあるが、それ以前の問題として相手がルビーではいろんな意味で全力拒否だ。

 

シロウが分厚い布と鎖を投影し、布でルビーを包む。

その上から鎖を受け取ったランサーが幾重にも巻きつけて拘束する。

これでルビーの動きは封じた。

 

再契約が出来なければルビーはそのうち停止する。

 

「こっちだランサー!!」

「おうよ!!」

 

最後にシロウが投影した頑丈な金属製の箱にランサーがルビーを叩き込み、閉じたシロウが構成を弄って元から開かない箱へと作り直して封印完了。

それを確認したシロウとランサーは互いの手を握り合う。

 

・・・どこかでファイト一発の掛け声が混じっていた気がするのは気のせいか?

 

「え、っと・・・」

 

唖然と二人の早業を見ていることしかできなかったキャスターは、まずはショックを受けている葵とアイリを見た。

 

・・・顔が赤いのは羞恥だろう、どうやらきっちり記憶は残っているようだ。

 

そして魔法少女になりそこなった事が不満なのか頬を膨らませているイリヤと、やり遂げた達成感に胸を熱くしているシロウとランサーを順番に見て・・・。

 

「ほ、本当に何なのよ・・・これは!?」

 

自分も関わったくせに最後まで事情を知らず状況についていけなかったオリジナルの魔女は、一人だけの疎外感を感じていた。

 

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その頃の佐々木さんは?。

 

「フム、昔より夏の暑さがきつくなったような気がする。これもまた時代の流れによる弊害という物だろうか?」

 

柳洞寺の山門で、竹箒を片手に掃除をしていたアサシンは空を見上げて唸った。

ここ数年の日本の気候は右肩上がりに暑くなり続けている。

何百年という単位の昔を知るものとしては、その差に驚く事も多い。

 

「佐々木さーん?」

「む?一成少年か?」

 

呼ばれて見れば、めがねを掛けた小学生の一成が盆を持って近づいてきていた。

乗っているのは冷えた麦茶だ。

 

「ご苦労様です。差し入れをお持ちしました」

「忝い。いただくとしよう」

 

受け取り、口に含めばキンと頭痛に似た冷たさが来る。

これまた彼の時代には無かった冷たさだ。

冬ならともかく、夏にこれだけ冷えた飲み物を味わう事は出来なかった。

 

「・・・そう考えれば悪い事だけでもないのか?」

「?・・・良くわからないことをおっしゃる。所でメディアさんの姿が見えないようですが?」

「あの女狐なら、しばし前に出て行ったぞ?何か気に入らぬ事でも起こったのではないのか?」

「そうなんですか?放っておいても宜しいので?」

 

・・・この子は年に似合わない喋り方をするなーと思いつつ、アサシンは首をかしげた。

 

「何故、私がそこまでしてあの女の世話を焼いてやらねばならん?」

「え?お二人は恋仲ではないのですか?」

 

・・・思いっきり麦茶を噴いた。

 

「一成少年、何故そんな答に至ったのか聞いても?」

「ここに来た時からご一緒でしたし、てっきりそうだと・・・違うのですか?」

「見当違いだな」

 

サーヴァントどころか魔術師の世界の事も知らない一成に、自分達の関係を説明する事は難しい。

なので今現在最も重要な事に釘を刺しておく事にした。

 

「良いか少年?あの女には既に心に決めた御仁がいる。そしてそれは私ではない。私とあの女が恋仲などと間違っても言って良いことではない。」

「そ、そうなのですか?」

 

妙なプレッシャーを感じた一成が気圧される。

何か地雷でも踏んだのだろうかとビビる一成の肩に、アサシンの手が置かれた。

 

「他の坊主達にも言っておかなければならない。そんな世迷言をあの女に聞かれれば、何が起こっても保障できぬ」

「わ、わかりました」

 

それだけで、事の危険性の大まかな所を理解してくれた一成が駆け足で去ってゆく。

きっと他の坊主達の誤解を解きに行ったのだろう。

 

「フム、これにて一件落着」

 

近くで大きな魔力が発生した事に気づくような感覚を持たないアサシンの心は、近い未来に起こりえた悲劇を回避した事で、見上げる青空のように晴れ晴れとしていた。

 

説明
第四次聖杯戦争が終わり、冬木の街は多大な犠牲を払いつつも平穏を取り戻した。そんな中、戦後処理を行っていた遠坂家では大師父、キシュア・ゼルレッチの残した箱の片隅にあった“それ”が発見された。最大級の災厄の種であるそれを…。 他のサイトにあったFateの逆行再構成物の外伝であり、時臣矢アイリスフィールなどが生きていて葵も健在です。他に第五次聖杯戦争のサーヴァントもいます。
リリカルとマジカルの全力全壊に通じるお話です。

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Fate

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