魔女っ娘達の夜 結
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「え?っと、つまりお兄さんは僕の倉に何かを入れてしまっておいて欲しいということですか?」

 

ギルガメッシュ(少年バージョン)はあくび交じりにシロウの言葉を要約した。

その姿はパジャマ姿でナイトキャップまでしている。

完全無欠にお休みルックだ。

 

外は既に深夜で月が昇っているので、彼の姿は間違ってはいない。

子供はとっくに寝る時間だ。

 

事実、凛と桜はとっくの昔に夢の中だ。

 

なのに、何故同じ子供のはずのギルガメッシュが寝巻き姿ながらも起きているのか、しかも遠坂邸の居間で・・・その理由は問答無用で拉致られて来たからに他ならない。

教会から熟睡している所を拉致って来たのはシロウだが、ギルガメッシュもやはり|あの男(ギルガメッシュ)というべきか・・・それとも如何にギルガメッシュといえども子供では仕方ないというべきか・・・遠坂邸に到着してシロウが起こすまで起きなかった。

 

とはいえ、今この場で彼の図太さを論じる気はない。

ギルガメッシュを連れて来たのには理由がある。

 

「すまない。色々考えた結果、君の倉ほど安全な場所を他に思いつかなかった」

「まったく、お兄さんにはご迷惑をかけてきましたから大抵の事は聞いてあげたいところですけど、何もこんな夜中にしなくても・・・明日でも良かったじゃないですか?」

「確かにその通りなのだが、こちらも可能な限り速やかに処理したい物でね」

 

そう言うと、シロウはテーブルの上に問題の代物を差し出した。

それを見たギルガメッシュがむっと呻く。

 

「これはまた・・・厳重ですね?」

 

鋼鉄製の頑丈な箱に、その上封印の符まで張られている。

これでもかというほどに硬い封印に、ギルガメッシュが目を細くしてシロウを見た。

 

「これの中身は何なんです?一応僕の倉には最高の品しか入れないようにしているんですけど?」

「聞かないでくれると助かる」

「ふむ、それはあそこにいる人達に関係する事ですか?」

 

ギルガメッシュが指差したのは、居間の隅っこで頭から毛布をかぶっているナニカ・・・数は三つ。

 

「えっと・・・何か知っている人に見えるんですけど?」

「君は気にしなくて良い」

「そういうわけにも・・・あれってランサーのお兄さんでしょう?ライダーのお姉さんもいるようだし」

「君は気にしなくて良い」

 

シロウは多くを語らず・・・語りたくもないという風に封印された物をギルガメッシュに差し出す。

それを見たギルガメッシュの額に汗が浮いた。

 

・・・つまり、これが三人をあんなにした原因?・・・それならばこの厳重さも頷ける。

 

「そ、そんなにまずい物なんですか?」

「試させる気はない。君を友と見込んで頼む」

「と、友ですか?」

 

シロウの一言がギルガメッシュをぐらつかせた。

 

ギルガメッシュがそのワードに弱い事は先刻承知。

まあ、そんな打算的な部分を抜きにしても、彼とならば友情を育むことも可能だろう。

 

大人バージョンとは不倶戴天の敵だが・・・。

 

「はあ、しかたないですね、お兄さんにそこまで言われたら」

 

ギルガメッシュはシロウからなぞの物体を受け取り、裏返しにしたりしてしげしげと見ているが、シロウ達の態度に嫌な予感を感じているのか、封印を解いて中身を確かめる気はないらしい。

 

これが大人のギルガメッシュなら問答無用で中身を改めるところだろうが、大人より子供の方が聞き分けが良いのは正しいのか?

 

「出来れば一番深いところに頼む、決して這い出してこないようにな」

「這い出してこないようにって・・・生き物ですかこれ?生き物はちょっと困るんですけど?」

「心配ない。それは・・・ちょっと存在自体が難のある代物だが、物であることには違いない」

「ふーん、そうなんですか?そういえば話は変わるんですけど、お兄さん?」

 

どうやら眠気が吹っ飛んだギルガメッシュがシロウに話を振って来た。

 

「何かな?」

「魔法少女っていると思います?」

「「「「ぶ!!」」」」

 

四人分の空気を噴出す音が重なった。

しかし、ギルガメッシュは気がつかなかったようで話し続ける。

 

・・・やはり大物だ。

 

「なんか僕の友達が見たって言ってるんですよ。空を一直線に飛んでいく黒いちょっと育ちすぎな感じの魔法少女」

「ほ、ほう・・・中々興味深い話だな・・・」

 

視界の端で、三つの毛布達磨がびくびくともだえている。

そのうち一つが特に良く動いていた。

 

毛布の隙間から黒い長髪が覗いている。

 

「もう都市伝説みたいになっていますよ。でも僕らから見たら笑っちゃいますよね、そんないかにもな魔法少女なんているわけ無いのに」

「そ、そうか?・・・いや、そうだな」

 

・・・多分、葵だろう毛布達磨が断末魔の痙攣をしている。

 

この分では冬木市全域に広がっていると考えるべきか?

 

幸いというべきか、アイリは意識を乗っ取られてからろくに移動していなかったので人目にはつかなかったのだろうが・・・それにしても空を飛ぶ熟した魔女っ娘とは少しひどくないだろうか?

 

一日経たずに都市伝説を一つ増やすとは・・・やはり|あの厄介者(ルビー)は侮れない。

噂一つですんでよかったと考えるべきか否かはともかく、人の噂も75日・・・そろそろ日付が変わるのであと74日か・・・視界の隅でもだえている物体に関しては見ない聞こえない考えない事にした。

 

色々トラウマ物の騒動だったが、何とかこれで・・・。

 

「そういえばお兄さん?」

「ん?」

「実はもう一つ新しい都市伝説が出来たらしいんですよ」

「は?出来た?」

 

シロウは首をかしげた。

 

「その名も、【怪奇 ハート男】!」

「ハート男?」

 

怪奇と言う所からして、少し物騒な物を感じる。

変質者でも出回っているのだろうか?

それはそれで、別の意味で物騒な話だ。

 

「夕方の薄暗くなり始めた時間に現れるんですって、なんでも獲物を探して徘徊しているとか・・・ってどうしたんですお兄さん?」

「いや・・・」

 

ギルガメッシュの言葉に、シロウの中でなにかが引っかかった。

そういえば何かが足りない気がすると部屋を見回してみれば、今回の犠牲者の3人、それに自分とギルガメッシュ・・・子供達は素直に寝ているのを確認済み。

アイリとイリヤは駆けつけてきた切嗣に任せたのでここにはいない。

 

・・・やはり何かが足りない気がする。

 

「それでですね、ハート男は全身に黒いハートのマークをつけていて、『アオイ?ドコダアオイ?』と意味不明だけどもの悲しい泣き声を上げながら獲物を探しているんですって、獲物を見つけると自分の体のハートを移植してしまうって言う・・・」

 

アオイ・・・青い・・・蒼い・・・あ、おい?・・・葵・・・葵!?

 

「・・・時臣か」

「え?」

「時臣のことかぁ!!!」

 

いきなり立ち上がったシロウにギルガメッシュがびびる。

 

「な、なんですかお兄さん!?超ですか!?穏やかな心で怒りに目覚めたんですか!?最初から髪は逆立ってますけどこれから金色になるんですか!?」

「・・・すまないギルガメッシュ、私は行かねばならない。しかもこの上ないほどに緊急だ」

 

メタなことを抜かすギルガメッシュの言葉をばっさり切る。

予想が正しければ、ギルガメッシュの勘違いを正している暇すらない。

 

時臣は自分にハートがプリントされている事に気づいていなかった。

普通なら気づきそうな物だが・・・時臣は遠坂だ。

 

・・・|お家芸(うっかり)が発動しているとすれば、何も気づかず、あのファンシーモドキで葵を探しに出た事も考えられる。

 

「シロウさん?」

 

何時の間にか、葵が毛布達磨から人間に進化していた。

潤んだ目を上目遣いに、両手を祈るように組んでシロウを見上げている。

 

「夫を、お願いします」

「最善を尽くそう。・・・既に手遅れかも知れんが・・・」

「それでも、貴方しか頼れません」

「え?っと、お兄さん?一体何が?」

 

いきなりシロウが叫びだしたかと思ったら、何故か決死の救出劇に挑む勇者とそれを送り出す者達のような状況が目の前で展開されている。

置いてきぼりにされたギルガメッシュはモブA扱いで付いて行けない。

 

ついていけるわけがない。

 

「その期待に・・・応えるとしよう」

 

最後までギルガメッシュを無視して、ニヒルな笑みを残したシロウは・・・たぶん戦場に向かって飛び出していった。

残された面子が、その頼もしい背中を見送る。

 

・・・ギルガメッシュ以外。

 

「まったく、なんだって言うんですか?」

 

最後まで置いてきぼりにされたギルガメッシュは、少し拗ねながらもシロウから託された物を空間の歪みに放り込む。

 

「あ、もう遅いんで客間のベッドを借りますね、お休みなさい」

 

これ以上かかわらない方が良いと空気を読んだギルガメッシュはさっさと退出していった。

 

・・・何故この子があの|暴君(ギルガメッシュ)に成長するのかは本当に神秘の領域だ。

 

結果から言えば、この後数日に渡って遠坂夫婦は家に引きこもる事になる。

そして久しぶりに現れた時臣は髭をそり、髪も清潔感のある長さになっていた。

葵にいたっては、あの長い髪を切るのを躊躇ったのかポニーテールにして伊達メガネをかけると言う有様だ。

二人のこの格好は数年にわたって続けられる事になる。

 

・・・この件に関係した全員が、ルビーの危険性を共通認識し、二度と忘れる事はないだろう。

 

確かに被害は大きかったが、この程度で済んだのは僥倖だろうとシロウは判断した。

 

・・・いや、判断したかったのだろう。

 

だから、見落として忘れてしまっていたのだ。

ルビーが言っていた言葉の意味を・・・・・・それをシロウが思い出したのは、色々な人間に|心の傷(トラウマ)を刻んだ魔女っ娘事件から数年後・・・穂群原学園の文化祭において勃発した第2ラウンド。

 

ザワザワと、体育館に集められた全校生徒のまえでは文化祭恒例の学園最高の美女を選ぶミスコンが開催されていた。

ここ数年は現生徒会長がミスを取り続けている。

今回も不動だろうが、番狂わせを期待してオッズを出している猛者までいた。

 

すでに大方のエントリー者は出尽くし、残りは5名このままかけは揺るがないかと皆が思っていたところに次の候補がステージに現れた。

 

「・・・はぁい、穂群原学園の皆?こんにちわー。最近流行の女の子、無口無表情ツンデレキャラ、カレイド☆トパーズで?す」

 

生徒たちは現れた人物と、言っている事はかなり陽気な内容なのに徹頭徹尾棒読みというギャップを見て・・・。

 

「「「「「「「「「「魔女っ娘ぉぉぉぉぉぉ!!!!?」」」」」」」」」」

 

全員で異口同音を達成した。

今、彼らはかってないほど心を一つにしている。

 

ステージの上にいるのは・・・多分原型はシスター服っぽい何かを魔改造した代物を着ている銀髪に金の瞳の背の低い少女・・・カレン・オルテンシア。

 

自分でツンデレキャラを名乗るだけあって、無表情で立っている彼女の姿はどうしようもなく魔女っ娘で・・・体育館の空気を一人で支配していた。

 

所々に包帯を巻いているのはキャラ付けか?

それとも本当に怪我をして血が滲んでいるのかと全員が気になった。

 

「ちなみに、ツンデレというのは嘘です」

「「「「「「「「「「嘘ぉぉぉぉぉぉ!?」」」」」」」」」」

「私にデレはありませんから」

「「「「「「「「「「100%ツンかよ!!?」」」」」」」」」

 

一番重要な部分が嘘だったら誰も救われないではないか・・・某頭痛薬だって半分は優しさで出来ているというのに、この魔女っ娘はそれ以下なのか?

 

ちなみに彼女の頭には狐の耳がついていて、衣装の背後からはふさふさの狐尻尾が生えている。

 

・・・二枚舌だから?

 

観客の生徒達が盛大に引いているところに次の人物がステージ上に現れた。

 

「み、みなさーん、今日は私達のステージに来てくれてありがとうございまーす。カレイド☆オパールです」

 

おどおどと、自分の名前を言い切ったのは桜・・・彼女の登場に、再び場が静まり返る。

 

「「「「「「「「「「う・・・」」」」」」」」」」

「う?」

「「「「「「「「「「うぉぉぉぉぉ!!!」」」」」」」」」」

「ひう!」

 

いきなりの喝采に桜がたじろぐ。

 

今の彼女の姿もまた魔女っ娘だ。

彼女の衣装は和服を基本にしているらしい。

 

振袖をイメージした上着に、袴の様なスカート・・・勿論ミニなので生足が覗いている。

それを恥ずかしそうに身をよじっているのが馬鹿な男心をくすぐっている。

 

そして何より、カレンとは比べ物にならない胸のボリュームに視線は釘付けだ。

 

・・・横にいるカレンは「ぽるかみぜーりあ」とか言っているが言葉の意味はわからないので無視。

彼女の視線が白いのはキャラ付けのせいだけではあるまい。

 

ちなみに、桜の担当は牛らしい・・・担当?

牛耳に牛尻尾・・・しかもご丁寧にカウベル付の首輪というところが製作者のこだわりを感じさせるが・・・実に納得できるチョイスだ。

 

「皆さん楽しんでいってくださいね?カレイド☆ダイヤです」

「「「「「「「「「「会長ぅぅぅ!!!!!」」」」」」」」」」

 

ミスコンの大本命の登場に、会場である体育館そのものが鳴動する。

彼女こそ前回のミス穂群原にして現生徒会長・・・イリヤスフィール。

 

そして観客相手ににこやかに手を振る彼女もまた・・・。

 

「「「「「「「「「「魔女な会長萌え?!!!」」」」」」」」」」

 

魔女っ娘だった。

ファンクラブの連中のテンションは鰻上りだ。

何か訳のわからないことをほざいている。

 

彼女の衣装はドレス、ダイヤというだけあってかなりシャープなイメージだ。

カレイドな要素を取り入れているが、その高貴なデザインは隠せない。

そしてそれに着られるのではなく、それが当然という風に着こなしているイリヤ・・・もとい、カレイド☆ダイヤ・・・これがアインツベルンのホムンクルスの性能という奴か?

 

「「「「「「「「「「ウサ耳さいっこーーー!!」」」」」」」」」」

 

・・・どんどんテンションがおかしくなってゆくのは気のせいじゃあるまい。

 

バニーのようなウサ耳と丸い尻尾がキュート、そしてこれまたミニスカート、普段は体育の時間くらいにしか見ることのないイリヤの脚線美に、体育館のそこかしこでフラッシュの光がはぜる。

 

そして現れる第四の人物。

 

「さあ、ゴングを鳴らしなさい!!」

 

躍り出る・・・ステージの上から飛び降りて登場するのは、やはり躍り出るという表現がやはり正しいだろう。

すとんと着地音も軽く舞い降りたのは、青の魔女っ娘・・・彼女のデザインはイリヤのそれに近いが、こっちの青いのはまず袖がない。

むしろレオタードか水着に近いものにレースやフリルをつけた感じで動きやすさ重視のようだ。

 

犬耳犬尻尾だが、むしろ彼女は狼のつもりかも知れない。

 

「ライトを当てなさい!私こそカレイド☆サファイア!!」

 

誰が操作したのか、言われたとおりに彼女にスポットライトが集まる。

言われなくとも注目せざるを得ないが、全員の視線が今一微妙だ。

 

彼女は何を勘違いしているのか、ミスコンというよりも、プロレスのリングインと言うほうが正しいのではないかと誰もが思っていた。

 

・・・自分でゴングを鳴らせとか言っていたし。

 

「このルヴィアゼリッタ・エーデルフェルトの雄姿、その目に焼き付けなさい」

「「「「「「「「「「魔女っ娘が本名名乗ってんじゃねぇ!!」」」」」」」」」」

 

魔女っ娘としてそれはタブーだろとブーイングが起こる。

それを鼻で笑うルヴィアゼリッタ・エーデルフェルト。

 

「フン、アウェーでのブーイングなど、あって当然。不利な状況でこそルチャの空中殺法が映え、そして私の雄姿は光り輝くのですわ!!」

 

本当に・・・一体彼女はここをどこと勘違いしているのだろう?

 

「はぁい、お待たせみんな!愛と正義の執行者、カレイド☆ルビーのプリズムメイクがはじまるわよ!!」

 

そして現れるオオトリ・・・普段の隙のない彼女を知っているからこそ呆気に取られるその姿。

紅い魔女っ娘なデザインになびくマント・・・そして黒の猫耳に猫尻尾。

 

五人の魔女っ娘がポーズをとると、彼女達の背後で花火状の魔力が爆発した。

 

『再び魔女っ娘の理想を掲げるために、野望成就のために、皆さんお待たせしました!ルビーちゃんは今帰ってきましたぁ?そして祝・魔女っ娘宝石戦隊結成、ああ?ルビーちゃん夢がかなって感激です!!』

 

そして興奮している元凶(マジカルルビー)・・・どこの悪夢な台詞をはいてやがるのか、堂々と空中浮遊して浮かれている。

 

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「凄い演出だな、どうやってんだアレ?・・・おい一成、お前このこと聞いていたか?」

 

100%予想外の展開に、士郎が隣にいる一成に伺いを立てた。

 

「いや、しかしさすが会長、自分のイメージを完全破壊して文化祭を盛り上げるために貢献するとは、それにあの女狐も・・・これは少しあやつに対する認識を改めねばならんな」

 

・・・だめだ。

 

一成が会長贔屓なのは今更だ。

これでは文字通りの意味で話にならないが、しかし一成もやはりイリヤのイメージが粉砕されたのは認めざるを得ないらしい。

 

「むう、あれぞまさしく魔女っ娘でござる!!」

「む、何か知っているのか後藤君?」

 

その代わりの答えを返してきたのはクラスメートの後藤君だった。

なぜかステージ上の五人に一際熱い視線を向けている。

 

ちなみに語尾にござるを付けるのは最近見た時代劇の影響によるマイブームらしい。

 

「士郎殿は知っているでござろうか?以前起こった魔女っ娘の噂を?」

「ああ、聞いたことあるな、なんかとんでもない速さで飛んでたとか、リアル魔女っ娘は実は年増だったとか・・・そういえばダート男なんていう変質者の噂もあったきがするぞ?」

「ハート男でござる。競馬は関係ござらん、そして何を隠そう。拙者も目撃者の一人なのでござるよ」

「何ぃぃぃい!?」

 

これは士郎も素直に驚きだったが、サービスでさらに大げさに驚いておく。

その反応に後藤君はご満悦だ。

 

「あの空中に浮かんでいるステッキにも見覚えがあるでござる。それに会長達からも、あの時の育ちすぎな魔女っ娘と似たような雰囲気を・・・ところで士郎殿、そっちで真っ白になっている父兄は何事でござる?」

「え?だ、大丈夫ですか!?」

 

そこにいたのは、真っ白になってうつむいている一組の男女、しかも見覚えがある。

 

「と、遠坂さんじゃないですか!?どうしたんです。こんな真っ白になって!?」

「好きで年を重ねる女なんているわけないのに・・・」

「・・・とっくに記憶から風化したと思っていたのに・・・」

 

うつろな目でぶつぶつと何か言っている二人に、士郎たちはどうしていいかわからずに顔を見合わせることしか出来なかった。

 

 

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「ぎ?ぃ?る?が?め?っし?ゅ??」

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいお兄さん!まさかあんなとんでもない物だったなんて知らなかったんですよ!!」

 

体育館の隅でシロウにアイアンクロウで詰め寄られているギルガメッシュ少年。

 

「おい、シロウ?何だよあの杖!?やたら物騒な魔力を放出しているし、ルヴィアはどうなったんだよ!?」

 

更には何が起こっているか理解できずに慌てている、今回ルヴィアの保護者となったウェイバー・・・案外、ウェイバーことロードエルメロイ二世は時計塔内での人気は高いのだが、なんでもルヴィアは彼の才能を開花させる能力に惚れ込んだらしく、師と仰いで尊敬しているらしい。

しかしウェイバーが弟子にするのを面倒くさがったため、休暇に日本に来ているのを知り、押しかけ弟子よろしく今回ついてきたとの事だ。

 

・・・それでこんな騒動に巻き込まれていれば、彼女の幸運量も高が知れる。

 

「今はこっちの話が先だ。ウェイバー・・・ギルガメッシュ?私はアレの恐ろしさを暗に示唆していたはずだぞ?何故出した?」

「そ、それはカレンさんが・・・」

「カレンが?」

「お兄さんの弱点が何かないか捜していてついうっかり口が・・・」

「滑ったんだな?」

 

・・・やはり慢心王でうっかり王か?

 

「はい、カレンさん相手ではうまくかわしきれずに・・・その・・・」

「ええい、あの腹黒陰険シスターが!!」

 

ステージを見れば、カレンが自分を見てニヤリと笑った。

アレは絶対素だと確信する。

 

きっと死なば諸共とか考えているに違いない。

やってしまったものは取り返しがつかないので、この際自分達だけでなく、シロウ達も巻き込んで恥ずかしさを分散させる狙いか!?

敵はルビーだけではないのか!?

 

「さてと、とりあえず私がリーダーってことで良いわよね?」

 

今の状態でも十分なカオスだが、それに輪をかけるのが凛だ。

子供の時でさえ、征服王や自分に啖呵を切る彼女・・・成長して空気の読めなさがパワーアップしている。

 

「ちょっとお待ちなさい遠坂」

 

そして彼女と水と油のルヴィア・・・遠坂とエーデルフェルトには勿論因縁があるが、それを抜きにしても始めて対面した瞬間から相手を終生の敵と認識するような二人だ。

 

それを目の前で見た三人の背中に冷や汗が流れた。

 

「この誇り高きエーデルフェルトが遠坂の後塵を拝するなど、冗談じゃありませんわ」

「うっさいわねルヴィア、昔っからこういうものは赤が先陣を切るって決まってんのよ」

 

・・・何処の先陣を切るつもりだ?

 

・・・何時からここは戦場になったんですか?

 

・・・これ以上フォローができない事は止めてほしいんだが?

 

三者三様の心理は・・・まあ届くわけが無い。

凛とルヴィアの魔術刻印が光って唸っている。

 

「・・・やむをえん、強制的に事態の収拾を図る。手を貸せ」

 

シロウの言葉にギルガメッシュは涙目で、ウェイバーは魔術師としての責任感と神秘の秘匿の観点から頷いた。

 

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『ああ、なんてお約束!!なんてテンプレ!!お互いを深く知り合うために戦うなんて!!お願いです、私を取り合って戦わないで「「「やかましいわボケ!!」」」」はう!!』

 

空中を漂っていたルビーを、矢と剣と魔力弾が打ち据えた。

 

『何奴!?』

 

かなりの威力があったはずだが、それでもルビーは墜落せず、自分を攻撃した相手を誰何している。

この無駄な頑丈さもゼルレッチの仕込みか?

 

「ふはは調子に乗るなよ魔女っ娘戦隊」

 

やる気無さげというか・・・いやいやという感じの棒読みな台詞が聞こえてきた。

全員の視線が集まるそこにいたのは・・・。

 

「「「「「「「「「「誰!?」」」」」」」」」」

 

赤い外套姿の男、顔には何処かで見たような仮面がついている。

なんだか通常の三倍の動きが出来そうな仮面だ。

 

・・・姿赤いし。

 

「ぼ、僕たちがいる限り・・・これ言わないとダメですか?え、やっぱり?・・・はあ、お・・・お前たちの好きにはさせない」

 

なんだか泣きそうな声の、金色の鎧に身を包んだ小柄な人影・・・百式か?

顔にはなんだか霊験あらたかそうな面をつけている。

仮面から零れている透明な液体はまさか本当に涙か?

 

「世の為、人の為・・・って言うかシロウ!俺にも顔を隠す物をくれよ!!」

「私の名前を大声でばらすな!!」

 

最後は紅いロングコートを着た長髪の男、見た目は現代風で一番浮世離れしていない。

 

「普通だ」

「ああ、普通だ」

「普通だ」

 

何故か見ていてほっとする。

最初に登場したカレンからこっち、異常な人間ばかり見ていたので精神が平穏を求めているのだろう。

赤いところが最初の男とかぶっているが、きっと彼の名前はジョニーかもしくはライデンなのだろう。

 

「俺を見て普通って言うんじゃねぇ!!」

 

5・7・5の俳句調字足らずで普通といわれたジョニー・ライデンさん(仮名)が切れた。

なんか青筋を立てて怒りだしたが、普通という言葉に何かコンプレックスでもあるのか?

 

『か、感動ですシロウさん!!こんなサプライズでステージを盛り上げに来てくれるなんて?!!』

「名前を出すなと言うに・・・それに盛り上げに来たわけではない」

『それではご好意に甘えまして、でたな悪の手先!!』

「相変わらず人の話を聞かんのか?それと私に対して悪の手先とは良い度胸だな?」

 

シロウも妙なスイッチが入ったようだ。

そして始まるリアル特撮・・・。

 

『みなさ?ん、私にちょっとだけ魔力(ゲンキ)を分けて・・・』

「させるか!!」

『うわ、シロウさん!?貴方ともあろう者が変身シーンと必殺技を発動している時に攻撃は禁止というお約束(ゴールデンルール)を忘れたんですか!?』

「知っているが、この場ではあえて知らんと言わせてもらおう!!しかも貴様、態々平行世界ではなくこの場にいる人間から魔力を集めようとしたな!?」

『そういう設定ですから』

「設定って言うな!!」

『これって絶対お金を取れると思うんですよ、皆さん大盛り上がりでテンション高くなってるみたいですし、お金の代わりに献血感覚で魔力を提供してくれても良いじゃないですか?』

「良いわけあるか!?」

 

観客も多少巻き込む形で展開されるリアルスペクタクル・・・大ボスでラスボスなルビーと対決しているシロウの横では、ギルガメッシュとカレンがアマレスよろしく、意外にもがっぷり四つに組んでいる。

 

「何をしに来たのかしらこの■■■野郎」

「カ、カレンさん。女の人がそんなことを口にしちゃ・・・」

「やかましいわよ×××で○●◎のくせに・・・」

「う、うわ・・・」

 

あのカレンが接近戦なんぞ仕掛けてきたのはこれが理由だったのだ。

この先の自分の評価を気にしているのか、カレンの言葉は至近距離にしか聞こえないほどの音量だ。

口撃がギルガメッシュの心をえぐるマンツーマンの精神攻撃。

 

「に、逃げちゃだめだ。逃げちゃだめだ。逃げちゃだめだ・・・」

 

本当は逃げ出したいだろうが、目に涙をためてギルガメッシュは耐える。

 

・・・がんばれギルガメッシュ少年!!

 

「さて、遠坂凛にエーデルフェルト?」

 

最後の一人、ウェイバーはルビーの次に厄介な二人を同時に相手していたが、特にどうという事無く葉巻を取り出した。

一応、教育機関の施設内で葉巻を取り出す事に何か問題はないのだろうか?

 

「まず遠坂凛?僕は君の父親から、君が時計塔に来た暁には後見人になるように頼まれている」

「う・・・」

「そしてミス・エーデルフェルト?確か日本にまでついてきたのは僕に弟子入りするためだったな?」

「う・・・」

 

あの凛とルヴィアが揃ってたじろぐ。

ウェイバーの実力はこの三人の中ではダントツに低いのだ。

凛とルヴィアが相手では真正面からではどうにもならないが、押さえ込むことだけなら出来なくもない。

 

要は勝てる場所で勝てばいいのだ。

 

「つまり僕は将来君たちにまじゅ・・・あー色々と教える講師になる予定だ」

「「うう・・・」」

 

これまた学校には相応しくない短いナイフを取り出し、葉巻の先端を切り取る。

更に慣れた手つきで口に咥えるとジッポを取り出して火をつける。

 

・・・ジッポがアミドラブル大戦略のグッズなのは突っ込んだ方が良いのか?

 

彼が深く息を吸うのに合わせて、葉巻の先端が灰になった。

 

「単位の覚悟完了か?」

 

なんかいろいろ混じってる気がする。

 

大勢の人の目の前、しかも体育館という場所で堂々と喫煙するのと同じくらい、これまた堂々と脅迫を始めた。

蛇に睨まれた蛙のように、二人が硬直するのを見たウェイバーは、やっと自分が注目されている事に気がつく。

 

「何だ?ちゃんと携帯灰皿は持っているぞ?喫煙者のマナーだからな」

「「「「「「「「「「それ以前の問題だ!!」」」」」」」」」」

 

具体的には校則違反、日本全国大抵の学校の生徒手帳に載っている。

教師でも決められた場所以外では吸わない。

 

どちらでもなくてもTPOは弁えよう。

 

「なんだ?やはり日本は面倒な国だな」

 

やれやれと面倒くさそうなウェイバーだが、何気に一番の大活躍だった。

 

そして大いに盛り上がったこの年の文化祭は、伝説化して五人の魔女っ娘の名と実名と敵役の三人の事は長く穂群原の歴史に語り継がれる事となる。

 

ちなみにミスコンの方は当然の如く1?5位まで魔女っ娘が独占した。

 

イリヤが一位で桜が二位である。

二人とも応援という後方支援に徹していたので”色々晒さずに”すんだことでポイントが高かったらしい。

 

結局、この騒動は行過ぎたレクリエーションの一環として処理される事になったが、それに奔走したのは五人の元魔女っ娘な少女達・・・ちなみに、どうしても聞き分けの悪い奴は教師、生徒問わず生徒会に連行し、OHANASIをして納得してもらったとの事・・・生徒会室から出てきた直後の彼らは実に空ろな瞳をしていたとの目撃談がある。

 

・・・ちなみに、この時にシロウの弓術を見た美綴綾子が雷に打たれたようなショックを受け、弟子入り志願したのはまた別の話だ。

 

『フフフ・・・ルビーちゃんはまたもどってきますよぉ?あい・しゃる・りたーん?』

 

・・・魔女っ娘は不滅である。

 

説明
第四次聖杯戦争が終わり、冬木の街は多大な犠牲を払いつつも平穏を取り戻した。そんな中、戦後処理を行っていた遠坂家では大師父、キシュア・ゼルレッチの残した箱の片隅にあった“それ”が発見された。最大級の災厄の種であるそれを…。 他のサイトにあったFateの逆行再構成物の外伝であり、時臣矢アイリスフィールなどが生きていて葵も健在です。他に第五次聖杯戦争のサーヴァントもいます。
リリカルとマジカルの全力全壊に通じるお話です。

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