Masked Rider in Nanoha 二十二話 再会する者 出会う者
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 月村家の中庭。そこに置かれたテーブルを囲む三人の人物がいた。五代とすずか、そしてアリサの三人だ。彼らは久々となった再会を喜び、談笑しながら紅茶を楽しんでいた。

 既に五代達が帰還して三日が経ち、すずかの誘いを受けてアリサが月村家を来訪したのだ。彼女はすずか達の言った通りの美人になっていて、五代は最初見た時別人かと思ったぐらいだった。

 当然ながらアリサは五代がクウガである事を知らなかった。だが、なのは達が魔法を教えた際にすずかからそれを教えられた経緯があり、彼と再会した瞬間こう言った。

 

―――何でアタシに隠してたの!

 

 アリサが五代と出会ったのは、なのはとフェイトが二人で隠し事をしていると思った頃。つまり蒐集活動を本格化した辺りだ。

 二人の事をすずかと話し合うために訪れた月村家でジャグリングの練習をしている五代をアリサが見つけたのが二人の関係の始まり。初対面にも関らずどこか人懐っこい五代に、アリサは好印象を抱いて兄のように慕ったのだ。そしてなのは達の事も当然相談した。これがあったおかげで五代はすずかとアリサに打ち明けて欲しいと言い出す事が出来たのだ。

 

 そんな事を思い出し、アリサは手にしたカップをテーブルへ置いて息を吐いた。それと同時に視線を五代へ向ける。

 

「ったく、アタシが隠し事嫌いだって知ってて言わないんだから」

 

「ゴメンね。ほら、俺がクウガって事はあまり人に言わない方がいいからさ」

 

「む、それもそっか。にしても、雄介さんが戻って来たなんてね。すずかも上機嫌になる訳だわ」

 

 アリサは五代を名前で呼ぶ。苗字呼びはあまり好きではないらしく、五代自身も構わなかったためそうなった。ただ、目上である事を考えて”さん”付けではあったが。

 そんなアリサの言葉にすずかが小さく微笑んだ。そして負けじとアリサへこう返す。

 

「アリサちゃんも喜んでるけど?」

 

「いいでしょ。雄介さんはアタシにとってもお兄さんみたいな人なんだから」

 

 軽い口喧嘩のようなやり取りをしながら互いに笑みを見せ合っている二人。それに五代も笑顔を浮かべる。五年経った今も変わらず仲が良い二人を見て嬉しかったのだ。惜しむべきはその成長を傍で見る事が出来なかった事だが、それでもこうしてその姿を見る事が出来るだけで五代は満足していた。

 なのは達は遠く異世界にいるが互いに連絡は欠かしていない事も五代には嬉しかった。しかし、その方法がメールや電話である事を知った五代は驚いた。ミッドにも地球製の携帯電話が通じるのかと。それにすずかとアリサも頷いて、最初同じ事を思ったと答えた。

 

 その後もそうやって話していた三人だったが、ふと五代の脳裏に声が聞こえた気がした。だが、それはアマダムの声ではない。それ以前に聞いた気がするものだ。

 そう考えて、五代は思い出したように立ち上がって空を見上げた。それに疑問符を浮かべる二人だったが、五代の見つめる先へ視線を動かしてその表情を固める。

 

 そこにいたのは、大きなクワガタ。それがまっすぐこちら目指して飛んでくるのだ。それに気付いて逃げようとするアリサだったが、五代がそれに嬉しそうな表情をしている事に気付いて思い留まった。

 

「やっぱりゴウラムだ! ホントに来てくれたのか〜!」

 

「「ゴウラム?」」

 

 五代の言葉に揃ってそう尋ねる二人。その瞬間、ゴウラムは五代の前に降り立った。それに五代は近付き、懐かしがるようにその体を触っていく。その表情は輝くような笑顔。

 そんな五代と違って、女性二人は何とも微妙な表情。彼女達も昆虫は嫌いではないが、さすがにゴウラムぐらい大きなものは別なのだろう。怖いとか不気味とかいう以前の問題。そう、どう反応していいのか分からないのだ。

 

 そんな二人へ五代はゴウラムを撫でながらその説明を始めた。自分がクウガとして未確認と戦っていた頃、共に戦ってくれた仲間の一人だと。その一人という表現に頭を傾げる二人。それに五代は苦笑しながら、光太郎のバイクであるアクロバッターを例に出した。喋り、自分の意志を持つ存在。なら、それは人と呼んでもおかしくないとの自論を告げたのだ。

 それを聞いてアリサがある事を思った。そのアクロバッターという存在の事もだが、ゴウラムは喋るのだろうかと。その質問に五代はあっさり頷くも、自分しか聞こえないし何を言ってるのかは感覚的にしか分からないと返した。

 

 そのとんでもない内容にアリサは理解を示すも大きくため息を吐いた。五代から軽く聞いた仮面ライダーとの存在。彼らが持つ仲間の異常性に呆れたのだ。

 

「はぁ……何か色々凄いわね、仮面ライダーって」

 

「そうだね。何でも出来そうな気がするよ」

 

「う〜ん……たしか光太郎さんの話だと、宇宙空間でも活動出来る人や空を自由に飛べる人もいるらしいよ。だからすずかちゃんの言葉もあながち間違ってないかもね」

 

「ちょっと待って。宇宙空間でも活動とか空を自由にとかって……それを可能にした技術って絶対地球だけのもんじゃないわ」

 

 アリサのどこか恐れるような言葉に二人が揃って視線をアリサに向けた。それを理解し、アリサは自身の予想を告げる。今のミッドにもそんな技術はないはず。ならば、その仮面ライダー達が使う技術は魔法世界よりも先を行っている。

 つまり、その仮面ライダーを作り出した相手は少なくとも地球外の存在か、もしくは異文明や外宇宙の技術を知っている。そして、そんな存在が仮面ライダーみたいな存在を作り出したとしたら企てるものは決まっていた。それに気付いたからこそ、アリサは怖かったのだ。

 

―――仮面ライダーってみんなそれぞれ戦ってた相手がいたんでしょ? じゃ、そいつらは地球の侵略者だったはずよ。じゃないと色々と納得出来ないわ。だって、そんな凄い技術はもっと大々的に発表されるはずだもの。そもそも仮面ライダーだけに使われるはずない。

 

 アリサの結論に五代とすずかが黙る。特に仮面ライダーの事実を知る五代はアリサの言葉に息を呑んでいた。光太郎達が戦っていた相手は自身と違って地球侵略を企てていた宇宙人かもしれない。そう考えていたのだから。

 一方でアリサは自身の出した答えに恐怖を抱きながらも、五代が話した事を思い出してそれを払拭しようとしていた。

 

(でも仮面ライダーはこことは別の世界の存在で、もう悪い奴を倒してくれたんだから大丈夫よ。うん、きっと大丈夫!)

 

 自分を鼓舞するように心の中でそう言い聞かせ、アリサは気を取り直して考える。その横ですずかが五代へある事を確認した。

 

「ねぇ五代さん。クウガはそういう技術とかは関係ない古代の存在なんだよね?」

 

「う、うん。桜子さんもそう言ってた」

 

「そっか。なら……もしかしてムー大陸とかアトランティス大陸なんかの話は本当だったのかも」

 

「……すずかも? アタシもそう考えたとこよ」

 

 二人揃って深刻そうな表情を浮かべていた。それに五代は何か不思議な感じを受けるが、どこかその二人が桜子の碑文を解読している時に似ていて懐かしさを覚えると同時に嫌な予感もしていた。

 そんな五代へ、二人は推論だけれどと前置いて話し出した。クウガが古代の存在ならば、少なくとも五代がいた世界にはそれを実現させる技術があった。それは、もしかしたら超技術を持っていたと言われるインカやマヤにアステカ、更にはアトランティスやムー等の滅んでしまったと思われた者達の技術が関わっていたのかもしれないと。

 

 更に、クウガ以外の仮面ライダーはそれらの技術を基にした超技術で作られた可能性があると二人は言った。そして、それを補足する材料としてすずかが語ったのは光太郎から聞いた人体改造の話。

 それを聞いた瞬間、五代が明らかに反応した事ですずかは確信した。仮面ライダーとは本来人を改造した存在だったのだと。そこから付随して考えればすずかは一つの確信に近い推測を立てる事が出来た。

 

(つまり……光太郎さんは……)

 

 そう、すずかは光太郎の秘密に気付いてしまったのだ。その苦しみを考えて表情を悲痛に歪めるすずか。だが、アリサは生憎光太郎と出会っていないため、その表情の変化に疑問符を浮かべた。

 

(すずか……? 一体どうしたっていうのよ?)

 

 しかし、彼女は目ざとく五代の表情の変化にも気付いた。そこから会話の流れを思い出して、すずかの変化の理由には光太郎と呼ばれる者が関わっていると判断したのだ。

 

「……ま、信じられない話だけど、本当に地球を狙う侵略者がいたって事か。少なくとも、仮面ライダーがいた世界には」

 

「目的は植民地とか、かな?」

 

「そんなようなとこでしょ。まったく映画じゃあるまいし……って言いたいけど、なのは達から聞いた魔法も十分それだったものね。なら、地球侵略を考えるヤツラがいても不思議じゃないわ」

 

 どこか呆然となる五代を置いて二人はそう結論付けた。そして、そこまで考えて心から安堵し同時にライダーを尊敬した。

 おそらく知られる事無き敵を相手にたった一人で立ち向かって行ったライダー達。その勝利と生き方に、一人の人間としてアリサもすずかも感じ入ったのだ。

 

(勇敢に戦った人もいた……雄々しく戦った人もいた……。きっと、それは……愛する人や世界を守るために)

 

 五代を知り、光太郎を知るすずかはそう他の仮面ライダー達を判断した。どれだけ辛かったのだろう。どれだけ悲しかったのだろう。自らの正体を隠し、一人強大な相手と戦う。物語としてはいいのだろう。だが、それを現実として考えたすずかは居た堪れない気持ちになった。

 何か代償を求める事無く、ただ守るために戦う。そんな並の者なら挫けてしまうだろう地獄。誰に頼まれたのでもなく、自ら戦いの渦へと身を投げ入れた戦士達。そんな彼らが最後まで挫ける事なく戦い抜けたのは何故か。それを考えた時、すずかに浮かんだ答えは一つだった。

 

(仮面ライダー、だったからだよね)

 

 そこからすずかはこう思うのだ。彼らも一人ではなかったのではないかと。クウガである五代がそうだった。未確認と戦っていた時、彼を支える者達がいた。そんな存在が他の仮面ライダー達にもいたはずだと。

 みんな、それがあったから戦い抜けた。勝利したのは、仮面ライダーの力だけではない。五代が言ったようにみんなの力が合わさったからなのだ。すずかがそう考え静かに涙する横で、アリサもまた仮面ライダーと呼ばれる存在へ思いを馳せていた。

 

(正義の味方……作り話や空想の中しかいないと思ってた。でも、居たんだ……本当に)

 

 五代の事を聞いて、ゴウラムを見た今ならアリサも心から信じられた。恐ろしい相手と戦い、世界を守り抜いた存在がいる事を。誰も知らないその影で、人では倒す事が厳しい者達を相手に、人ならざる姿と力を、とても人間らしい心で振るうヒーローがいた事を。

 

 それを誰にも知られぬようにしたのは、人がそこまで強くないのを知っているからだろう。そして、人を愛するからだろう。

 誰が喜ぶ。自分達の生活が脅かされていると聞いて。たしかにそれを守るために戦う存在がいる事を聞けば希望となり得る。だが、それは希望と同時に絶望への光でもある。彼らが倒れればそこまでなのだ。アリサはその事を理解しその決断に納得した。

 

(だから、知られないように戦ったんだ。知らないままで終わるなら、それがいいって考えて……)

 

 そこまで思い、アリサは呆れた。正気の沙汰じゃない。どう考えても絶望だ。自分が倒れればそこで終わり。助けも期待出来ない。そんな状況で命を賭けて戦うなんて馬鹿げている。そう考えたのだ。

 だが、それを心から否定出来る程アリサは捻くれていない。嫌と言う程分かるのだ。その気持ちが、その考えが。自分がもしそうなったらと仮定すれば、きっと自分はなのは達を頼らない。知られないようにするはずだ。巻き込みたくないから。

 

 そう結論を出したアリサはふとある事を思いついた。もっとこの仮定をし易い相手がいると気が付いて。

 

「……ね、雄介さん」

 

「何?」

 

 だから聞きたくなったのだ。目の前にいる仮面ライダーに。自分達の絆を深め、なのは達を助けてくれたヒーローに。

 

「雄介さんなら、どうするの?」

 

 クウガならどうするのか。いや、五代雄介ならばどうするのか。彼の戦いをおおまかとはいえ聞いたすずかは、その問いをどこか息を呑んで見守っていた。そんな二人に五代はあっさり答えた。

 

「話してみる」

 

「「え?」」

 

「言葉は通じるし、元は同じ人間だし、それに同じ体になった仲間だからさ」

 

 五代は知らない。歴代のライダー達が戦った相手のほとんどは、脳改造を施され組織に忠誠を誓わされている事を。しかし、それでも彼はそうしただろう。意思疎通が出来るのなら、分かり合う事は可能だと信じて。

 そう、五代は知らないが過去にいたのだ。悪の怪人でありながら正義の心に目覚め、ライダーと共に戦った者達が。彼らも闇より生まれし存在。だからこそ光を目指したのだ。かつて、仮面ライダーこと本郷猛はそう言ったのだから。

 

「それでも無理な時は……戦う、しかない……かな」

 

 自分の手をもう一つの手で包むようにしながら、五代はそう締め括った。彼は、まだ拳を振るう事に嫌悪感がない訳ではない。しかしそれは決して恥ずかしい事ではない。むしろ誇る事なのだ。誰かに力を振るう事に何の疑問を抱かなくなっては、仮面ライダーはライダーではなく単なる生物兵器に成り下がってしまうのだから。

 

 五代の言葉を聞いたすずかとアリサは若干の間の後で揃って謝った。アリサは五代の気持ちを考えず、そんな事を尋ねた事を。すずかはそれを止めず聞いてしまった事をだ。それに五代は気にしなくていいと笑った。

 

「別にアリサちゃんは軽い気持ちで聞いた訳じゃないし、すずかちゃんもそうじゃなかったはずだから。例えそうだったとしても、こうして謝る事が出来るなら俺は構わないよ。大切なのは悪い事をしたら謝れる事だと俺は思うし」

 

 笑顔とサムズアップを見せての五代の言葉に二人もそれを返して笑みを浮かべる。これが五代とゴウラムの再会初日の大きな出来事だった。

 

 そして、ゴウラムはこの日から月村家に生息するようになる。生息というのは、科警研と違うからかゴウラムが庭を動き回っているからだ。ちなみに餌は何だとイレインに聞かれた五代が金属と答えると、昆虫図鑑を読んで備えていたファリンがかなり残念がっていた事を追記しておく。

 

 

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「どうだい?」

 

「凄く高いです! こんなに違うんですね、眺めって」

 

 光太郎の肩に乗り、エリオは目を輝かせて答えた。ここ、ハラオウン家に光太郎とエリオが来てまだ一週間。それでも、光太郎はリンディやアルフの手助け、それにたまに顔を見せるフェイトの助言などもあり、エリオとこうして良好な関係を築く事が出来た。

 それには光太郎の性格やエリオの素直さ、それに数少ない同性というのも大きく関わっている。ハラオウン家の男性はクロノしかいなかった。だが彼は次元航行艦の艦長をしているため、長期に渡り家にいない。つまり、本来ならばエリオは遊び相手としてアルフしかいない状況となっていたはずなのだ。

 

 フェイトがエリオを引き取る事を躊躇していた要因の一つがそれだった。だが、光太郎という兄のような存在が共にいられる事になったので現状へと相成ったのだ。

 

「よ〜し、次は少し走ってみるからね」

 

「えっ? 走るって―――っ!?」

 

 エリオが問いかけようとした瞬間、光太郎は彼を肩車したまま庭を走り出す。それに驚いて思わず光太郎にしがみつくエリオだったが、徐々にその速度や状況に慣れたのか閉じていた目を開けて目の前の光景を見てみた。周囲の景色が飛ぶように流れていく。その光景を見てエリオは驚いていた。

 

(凄い……肉体強化もしないでこんな事が出来るんだ……)

 

 エリオは光太郎から出会った時に魔法が使えないと聞いていたのだ。その証拠に念話さえ出来ない。だが、フェイトは光太郎をこうエリオに紹介した。

 

―――きっと、ミッドでも五本の指に入るぐらい強い人だよ。

 

 それを今エリオは実感していた。そして同時に思う。魔法が使えなくても、こんなに速く動く事が出来る人がいる。なら、自分も頑張れば光太郎ぐらいになれるのではないかと。加えて自分は魔法が使える。それと一緒に体も鍛えれば光太郎ぐらいにも、それを超える事も出来るかもしれない。

 そんな風にエリオは考えた。そして、光太郎が速度を落として止まったのを確認してからこう切り出した。そこに自身がフェイトと出会ってからずっと抱いている想いを込めるために。

 

「光太郎さん」

 

「どうしたエリオ君。やっぱり怖かったかな?」

 

「いえ……あ、確かに最初は怖かったです。でも、光太郎さんがしっかり足を持ってくれたの分かった後は全然怖くなかったです!」

 

 エリオがそう言うと、光太郎は嬉しそうに笑みを返す。それにエリオも笑みを返すが、すぐにそれを消してあるお願いを告げた。

 

「それで、お願いがあるんです」

 

「お願い?」

 

 エリオはどこか不思議そうな光太郎に意を決して言った。自分も光太郎のように強くなりたい。だから、色々と教えて欲しい。そうはっきり告げたのだ。

 それに光太郎は驚きを見せるも、エリオの顔を見て単なる憧れや思いつきで言っている言葉ではないと理解し少し悩んだ。彼の身体能力は改造されたための物。決して努力で身につけたものではないのだ。

 

 それを話すべきか否か。そう、このままではいつかエリオの期待を裏切る事になる。かといって教えれば、それはそれでエリオの折角の決意に水を差してしまう。

 

(どうすればいい。どうすればエリオ君の気持ちを裏切らず、無駄にせずに済む……)

 

 光太郎がそんな風に思い悩むのを見て、エリオの顔に不安の色が出始める。自分の頼みが光太郎を困らせてしまったと、そう思ったからだ。故にエリオはエリオでどうしようかと考える。何とか光太郎に頷いて欲しい。だが、あまり無理を言い過ぎて嫌われたくないのだ。

 そんな風に二人して思い悩んだ結果、先に答えを出したのは光太郎だった。光太郎は一旦エリオを肩から下ろし、しゃがんで視線を合わせた。まず確かめなければいけない事があったのだ。

 

「エリオ君は、どうして強くなりたいんだい?」

 

「えっと……僕、もう少し大きくなったらフェイトさんのお手伝いがしたいんです」

 

「それで?」

 

「だから強くなって……フェイトさんを守りたいんです。ううん、アルフやリンディさん達も、大切なみんなを守れるようになりたいっ!」

 

 エリオはそう力強く言い切った。その眼差しはどこまでも真っ直ぐで、曇りのないもの。その純粋な瞳と想いを聞いて、光太郎は嬉しそうに頷くとエリオにこう言った。

 

「分かった。俺が教えられる事は教えるけれど、それで必ず俺のようになれる訳じゃない。それだけは忘れないで欲しい」

 

 それにエリオは嬉しそうに頷き、光太郎はそれに頷き返した。そしてこの日から光太郎はエリオと簡単なトレーニングを開始した。唯一エリオがやる魔法訓練は、光太郎自身も魔法を知らない上によく分からないのであまり何か言う事はしなかった。

 しかし、それでも安易にそれに頼る事はしないようにとだけは強く言い聞かせたのだ。どんな時でも、最後に自分を助けるのは力ではなく諦めない気持ち。それをゴルゴムやクライシスとの戦いで理解しているために。

 

 それにエリオも頷き、トレーニングに励んだ。光太郎は腕立てや腹筋などを子供でも無理なく出来る程度のレベルでやらせた。簡単な格闘術も教え、軽い手合せなどもしたのだ。

 勿論鍛えるばかりではなく休憩や休みの日も設け、その際はエリオと疲れてクタクタになるまで遊んだりもした。更にエリオへ色々な話も聞かせ、その知識を広げてもらおうとしたのだ。

 

 フェイトを守る事は、必ずしも管理局に入る事だけではない。そう考えた光太郎は、自分がやっていたヘリパイロットの話もその一環として聞かせた。それだけではない。自身の仲間達の職業であった料理人やカメラマンなども直接的には助ける事は出来ないが、やりようによっては十分フェイトの助けになれると考えて。

 

 そして、光太郎にとってこのハラオウン家はある事を思い出させるには十分な程温もりに満ちていた。リンディが、アルフが、エリオがいる。常に賑やかで温かい笑顔が溢れていた。更に、いずれはクロノとエイミィもフェイトと共にそこに加わる事になるのだから。

 

(……おじさん達の家を思い出すな、ここは。茂君やひとみちゃんは元気にしてるかな……)

 

 ゴルゴムを倒した後、身を寄せた温かい家庭。そこの記憶が光太郎に楽しかった思い出と、悲しく辛い思い出を同時に思い出させる。

 何故なら、世話になった佐原夫妻はクライシスの最後の怪人であるジャークミドラによって殺され、帰らぬ人となったのだ。残された子供である茂とひとみは、光太郎の仲間の一人である的場響子に引き取られ、今もどこかで平和に暮らしているはず。そう光太郎は確信していた。

 

 そんな光太郎の目の前では、アルフが美味しそうに肉を食べ、エリオはリンディに今日の事を聞かれて笑みを浮かべながら答えている。そんな団欒を見て光太郎は思った。

 これを守るためにエリオは強くなりたいと思ったのだと。それは、とても尊い気持ち。誰かのために強くなりたい。それは、自分達仮面ライダーにも言える事だ。そう思った光太郎は、内心誓う。

 

(今度は、前回のようにはならないぞ邪眼。必ず俺が倒してみせる。仮面ライダーBLACK RXが!)

 

 決してこの平和を壊させはしないと。未だ居場所分からぬ邪眼。その復活がいつかは分からないが必ず倒す。今後こそ二度と復活出来ないように。そう強く誓って光太郎は密かに拳を握った。

 

「光太郎さん、お代わりはどうです?」

 

「あ、すみません。じゃあ頂きます」

 

「結構食べるよねぇ、光太郎ってさ」

 

「そういうアルフもだと思うよ?」

 

「お、言うようになったねエリオ。このこの」

 

「や、やめてよアルフ。く、くすぐったいからっ!」

 

 そこから始まるアルフとエリオのじゃれ合い。それを見て楽しそうに笑う光太郎とリンディ。こうして今日もハラオウン家の夜は過ぎていく。本来よりも早い賑やかさと少年の笑い声を響かせて……

 

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 涙を浮かべ、立ち尽くす赤髪の少女。その名はヴィータ。同じように立ち尽くす桃色の髪の女性と金髪の女性。彼女達はシグナムとシャマルだ。そして、銀髪が美しい女性もまた、同じように呆然と立ち尽くしていた。そんな彼女の名はリイン。

 そんな四人の様子に驚きを感じている者がいた。リインの妹にして八神家の末っ子ツヴァイだ。その彼女の見ている中で、ただ一人屈強な男性だけがツヴァイの隣にいる少女と男性に声を掛けた。

 

「遅かったな、翔一」

 

「ただいま。ザフィーラさんも元気そうでよかった」

 

「し、翔一―――っ!!」

 

 翔一の声を聞いた瞬間、溜めていた涙を流してヴィータが飛びついた。それをびっくりしながらも受け止める翔一。それを契機にシグナムが、シャマルが、そしてリインが動き出す。はやてとツヴァイはそんな四人に笑顔を見せていた。

 ティーダによって再会を果たしたはやては、家族全員に何としても今日の夜は家に帰る事と厳命した。それがどういう意味かは分からず、疑問を感じながら帰宅した守護騎士達。そんな彼らを待っていたのは、リビングではやてやツヴァイと微笑む翔一の姿だった。

 

 そのため、しばし呆然となったのだ。これは夢か幻かと。そしてザフィーラの言葉に答えた声を聞いてそれが現実だと理解したと言う訳だった。ある意味で止まっていた時間が動き出し、彼女達の感情を揺り動かして。

 

 ヴィータが泣きつきながら翔一の胸を叩き続け、シグナムとシャマルは涙を拭いながらその無事を喜んだ後、軽く文句と共に彼をこついたり抓ったりしていた。一人リインだけは涙を浮かべて翔一の前に立った。

 

「直接会って礼を言いたかった。本当に、ありがとう……」

 

 それだけ告げるとリインは静かに涙を流す。ザフィーラははやての傍へ行き、家族達の様子を嬉しそうに眺めている彼女へ小さく告げた。

 

「信じて待った甲斐がありました」

 

「せやな。わたしも同じ気持ちやった」

 

 そう返してはやては翔一達を見つめながら思い出す。自分がクロノに呼ばれて、ツヴァイと共にアースラの艦長室を訪れた瞬間を。

 

(ほんま、頭が真っ白になったんは、翔にぃがいなくなった時以来やったからな……)

 

 居なくなった時受けた衝撃。それと同じ衝撃を持って翔一は帰ってきた。そうもう一度思い返し、はやてははっきりと告げた。

 

「お帰りなさい、翔にぃ!」

 

「……ただいま、はやてちゃん。それに、ヴィータちゃん、シグナムさん、シャマルさん、ザフィーラさん、リインさん」

 

「お姉ちゃんもリインなら、リインはどう呼ぶですか? それにリインにもただいまって言ってほしいです!」

 

 翔一の呼び方に疑問を投げかけるだけでなく呼ばれなかった事にツヴァイがそう怒って言うと、翔一は両手を合わせて謝った。そして彼女へもただいまと言ったのだ。呼び方については”リインちゃん”とする事で決着した。それにツヴァイが満足そうに頷くのを見て、はやて達は笑い声を上げる。

 そこから少々遅いが全員揃っての夕食となった。久しぶりの翔一の料理にはやて達は懐かしさを感じている中、唯一ツヴァイだけが初めて味わう美味しさに感激していた。それにはやてが、翔一がレストランで働いていた事を教えるとツヴァイは納得した。その様子に翔一が出会った頃のはやてを重ねて優しく微笑む。

 

 その後もはやて達が翔一がいない間の話をしながら食事は進む。そんな時、はやてがふと思い出して告げた言葉で翔一は自分のしなければならない事を思い出す事となる。

 

「あ、そうそう。翔にぃのバイクもちゃんとこの家にあるんよ」

 

「そうなんだ……って、バイクで思い出した。クロノ君から聞いたけど五代さんも戻って来てるんだよね?」

 

「うん、そうや。今は海鳴のすずかちゃん家に戻ってる」

 

「俺、五代さんに渡す物があるんだ。それ、渡しに行きたいんだけど」

 

 翔一の言葉に全員が不思議そうな表情を浮かべると視線を彼へ向けた。それに翔一は自分がティーダの世話になる前の話。つまり科警研での話をするとはやて達の表情が変わっていく。そう、息を呑みながらだ。

 その雰囲気に翔一が戸惑っていると、はやてが説明したのだ。五代が帰還した際に話した内容を。しかも、そこで過ごしたのは一日にも満たないのに、こちらでは五年以上が経過していた事もだ。

 

 それを聞いて翔一は同じだと確信する。そして更に共通しているのは、二人共に新たな力を連れて来ている事。それは、五代の言葉を借りるなら闇の力に対抗するためとはやては告げた。それを聞き、翔一の表情が険しくなる。彼にもその闇の力に心当たりがあったのだから。

 

「それって……まさかっ!?」

 

「うん、五代さんも邪眼の事や言うとった」

 

「あたしらもそう考えてる」

 

「闇の書の闇さえ飲み込んだ相手だ。そう簡単には死なんという事らしい」

 

「私達も、色々と調べてはいるんだけど……」

 

「手掛かり一つ見つからん」

 

 はやての言葉をキッカケに、ヴィータが、シグナムが、シャマルが、ザフィーラがそう告げていく。そんなどこか辛気くさい空気を変えるべく、ツヴァイが明るく言った。

 

「大丈夫です! リイン達には、仮面ライダーが三人もいるですよ!」

 

「そうだな。ツヴァイの言う通りだ。主も翔一も元気を出して。皆も暗い顔をするな」

 

 そう言ってリインは笑ってある仕草をする。それに全員が笑顔を浮かべてそれを返した。それは、サムズアップ。希望を与える彼らの合図。どんな状況でも諦めず、必ず勝利をもたらす”魔法”。と、そこで翔一ははやてに尋ねた。

 

「はやてちゃん、さっきリインちゃんが言ってたけど仮面ライダーが三人って俺と五代さんと誰?」

 

 それにはやてが嬉しそうに笑みを見せると、こう言った。五代が連れてきた光太郎という男も仮面ライダーなのだと。しかも、その名は翔一が知っている存在。そうはやては告げて笑うと家族達を見渡した。

 

「その名は〜……」

 

「「「「「「仮面ライダーBLACK RX」」」」」」

 

 はやての区切った意味を理解し、六人はそう続けた。その響きを聞いて翔一は驚きと同時に喜んだ。自分が出会った仮面ライダー。それが手助けに来てくれたと、そう思ったからだ。しかもRXはキングストーンを持った存在。つまり、クウガと同じく邪眼を封印出来る可能性を持っている事も考えられる。

 

 そこまで考え、翔一は確信した。自分が戻った理由。それは二人の支援をするためだと。邪眼が狙うキングストーン。それを持つクウガとRXの支えになる。それがアギトの役目なのだろう。そう感じたからだ。

 それともう一つ。この八神家の者達に会うためだとも思った。突然の別れではなく、今度別れる事があればきちんと言葉を交わして別れるために。そう考えて翔一は心に誓う。仮面ライダーアギトとしての誓いを。

 

(絶対に、今度こそ邪眼を倒してみせるんだ。仮面ライダーとして、必ず!)

 

 

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 ジェイルラボの研究室。そこでジェイルは一心不乱にあるデータを調整していた。しかし、その画面に”Error”と表示される。それにもめげず、ジェイルは再び打ち込みを開始するもまた同じ事が起きる。それは、ジェイルが龍騎に渡したい力のための作業。だが、それは一向に進まない。その原因というか理由はジェイルも把握している。

 

「やはり無理なのか……ベントカードの製作は」

 

 ジェイルが創ろうとしているのは、新しいベントカード。それを決意したのは、真司に聞いたサバイブの力の一端。龍騎だけではなくドラグレッダーも強化されて別の姿に変わるのだと真司は教えた。それを聞いたジェイルは色々と考えた結果、龍騎の強化はその体ではなく使う力にしようと思ったのだ。

 故にベントカードを新しく作ろうとしているのだが、中々上手くいかないのが現状だった。手法としては、実際のベントカードのデータを使い、それを変化もしくは強化しようとしている。しかしそれが成功しないのだ。

 

 ちなみに目指しているのは、真司があったらいいなと言った他のライダーの物。主にトリック等の特殊系のカードだ。だが、それを真司の抽象的な説明だけで再現するのは難しく、現状で可能だと思うのは現在ある物のコピーが精一杯だとジェイルは考えている。

 それと、ブランク体の完全再現までは未だに実現していないが既にある程度までなら終わっていた。現在残った一番の問題はその装着プロセスをどうするか。即ち変身方法だった。瞬間的にしようとすれば、バリアジャケットとなり魔力が必要になる。それでは意味が無いのだから。

 

(元々魔力無しの人間用にと考えているからねぇ)

 

 未だにどうしても変身だけが壁になっているのだ。現状は完全にバリアジャケットで、その強度が従来より二割ほど高いだけ。どうしてもそれが限界なのだ。それ以上を望むと完全再現が不可能になる。

 ただ、これを実際に装着する事に変えると全てが解決出来るのだ。ただ、その分重量や持ち運び等で改善点はある。しかし、それならば強度は実現可能な段階にあった。

 

 そこまでを考え、ジェイルはため息を吐いた。簡単に行くと思っていた事が中々行かない。だが、それにイラつく事はない。真司が自分の世界に帰る日はまだ遠い。それまでに完成させればいい。そう思っているからだ。

 既にライダーシステム自体の解析は順調に進んでいるし、最高評議会もジェイルが仕事を選別しているのを知って以降は興味を持ちそうな物を送ってきているため進みもいい。だが、それも今のジェイルにしてはそこまで興味をそそるものではなかったが。

 

「前途多難だねぇ……」

 

 そう呟くジェイルは、どこか楽しそうに笑っていた。こんな苦労も人生のスパイスさ。そんな風にさえ取れるような表情で彼は伸びをする。無限の欲望はその方向を知らずみんなの笑顔のために向け出していた。

 

 

 その日、ラボに珍しく、いや初めて客人がやってきた。その名は、トレディア・グラーゼ。ジェイルの考えていた計画の同志だ。その彼がここに来たのは、ある事実を確かめる事だった。

 

「……では、本当にクーデターは中止と?」

 

「ええ。もうドクターには、いえ私達にはそんな気持ちはありません」

 

「それどころかぁ、今ではマリアージュは私達の敵ですねぇ」

 

「貴方の考えも分からないではありません。しかし、我々は平和に暮らそうと決めたのです」

 

 信じられないといった表情のトレディアに、ウーノが、クアットロが、トーレが告げる。その後ろには微妙な表情の姉妹達がいる。真司もそこにいたが、彼はトレディアを知らないため、疑問を感じてばかりいた。

 何故ここにジェイル達以外がやってくるのか。そして、クーデターを起こして欲しいと言わんばかりの言い方や雰囲気が真司にどこか嫌悪感を感じさせた。

 

(何でこの人は平和に暮らす人達を苦しめようとするんだ? 管理局って警察みたいなところなのに……)

 

 既に真司は管理局の事を簡単ではあるが教えてもらっている。次元世界の治安維持をし、犯罪者達を逮捕したり裁いたりする組織。つまりは地球で言う警察みたいなものだと。そして、ジェイルに戦闘機人を作るように言ってきたのはそこだとも。

 

 真司はそれを聞いて驚いたものだ。警察が犯罪者に協力を頼み、しかも内容が人体改造と同義だったのだから当然と言える。それについて感じた事を真司が告げると、ジェイルは呆れるように言ったのだ。

 どこでもある事だと。完全真っ白な正義なんてない。どこかで汚れていても、それに気付きもしないのが”正義の味方”の正体だ。そう嘲笑うかのようにジェイルは真司へ答えたのだ。そんな事を思い出している真司の目の前ではトレディアがウーノ達の言葉に表情を歪めていた。

 

「……そうか。それでどうするんだね?」

 

「貴方を止めるべきなのかもしれませんが……」

 

 トレディアにそう言って、ウーノは視線を彼から逸らす。そして、そのまま視線を真司へ向けた。それに真司は少し驚くも、何となくウーノは自分の意見を求めているような気がして小さく頷いてみせる。

 すると、それにウーノが微かに笑みを見せて頷き返した。真司は意を決してその場から歩き出し、ウーノの隣へ向かう。トレディアはラボにいないはずの部外者然とした真司の存在にやや驚いたようだったが、その視線を鋭くしてその顔を見つめた。

 

「初めまして。俺、城戸真司って言います」

 

「……トレディア・グラーゼだ」

 

 やや緊張した面持ちの真司。それに対し、威圧感を放つトレディア。そんな二人を見つめるナンバーズ。それでも真司は臆する事なく自身の考えを告げた。

 

「何でクーデターを起こしたいかは知らないですけど、それで何が起きるか考えた事があるんですか?」

 

「何?」

 

「革命って、確かに俺のいた世界でも何度かあった。でも、それで亡くなった人が沢山いる。その頃は、言論の自由とか表現の自由とか無かったから仕方なかったのかもしれない……。でも、ここは違う」

 

 真司はそう言ってトレディアを見据える。それにトレディアも強い視線を返す。その眼力に負けないと心で強く思い直し、真司は続けた。

 言葉で変えられる事が出来る。思いをぶつける事で分かり合う事は出来る。犠牲を出さずに、誰かを死なせずに、世界を動かす事は出来る。理想論でしかない。でも、真司はそれを心から信じている。

 誰だって死にたくないし、親しい相手が死ぬのも嫌だ。それを考えれば、どうして犠牲を出そうとするのか。そう真司は問いかけた。それに対しトレディアは躊躇う事なく答えを放つ。

 

「綺麗事で世界は変わらん。現に、今も私がいた世界は内戦の真っ只中だ」

 

「それでも! それでも俺は殺しあうべきじゃないと……思う。だって……」

 

 その真司の言葉に全員が視線を向ける。それを受け、真司は何かを決意したように息を軽く吐いて言い切った。

 

「憎しみは、憎しみと空しさしか生まないから」

 

 真司は心からそう告げた。ライダーバトルで何度となく見せられてきた人の業と性。その罪深さや醜さを知りながらも、真司は人を信じている。愛する人のために自身の命を賭けられる強さを、見も知らぬ人達のために己の存在を消し去ってもいいと思える優しさを、彼は知っているからだ。

 だからこそ告げる。拳を振り上げる前に、言葉を尽くそう。振り下ろす前に、相手の言葉を聞こう。最後の最後まで分かり合う気持ちを無くさないように。真司はそう思ってトレディアに語った。自分がジャーナリストをしていた事を含めて。

 

「決して言葉は無力じゃない。力を振るうのなら、それはいつでも誰かのためじゃなくみんなのためにしないといけないと俺は思います」

 

「……甘い。そして青臭い考えだ」

 

「だけど、それが一番良いって誰だって思ってる」

 

 そう真司はトレディアへ即答した。その言葉に思わず返事を詰まらせたトレディアへ真司は駄目おしとばかりに確認した。違いますか、と。その言葉と彼の目を見て、トレディアは一瞬だがその迫力に気圧された。

 真司は言った事は正論。しかし、それが厳しい現実を知らず、見た事もない者が言っている理想論であったのならトレディアは一笑の下に伏しただろう。だが、真司の目はそういう物を見て、感じてきた者の目だった。そんな悲劇や苦痛を知りながらも、まだ希望を捨てない者の目。それは、トレディアには眩しく恐れるものだった。

 

(そうか……スカリエッティが心変わりをしたのは、この男が原因か。希望を、この者が与えてしまった。混乱による改革ではなく、対話による改革という、そんな夢物語を……)

 

 トレディアは知らない。そもそもジェイルは彼の思想に共感などしていなかった。ただ都合よく利用するために話を合わせただけに過ぎなかったのだ。

 それを知るはずもないトレディアでも真司の言葉にジェイル達の説得を断念した。そして、彼は真司へ背を向けるとこう言った。

 

―――君の考えがどこで変わるか楽しみだ。

 

 その言葉に真司は反論しなかった。トレディアはそんな真司に逆に違和感を感じたが、何も言わずにそれで去って行った。この後、本来ならトレディアは発見したマリアージュを起動させた時、それに襲われ死ぬ事になる。

 しかし、それを防ぐ者がいた。そう、龍騎とナンバーズだ。彼らはジェイルが密かにトレディアへ付けていた発信機を使い位置を特定。マリアージュの危険性を聞いた真司が主導し、それを破壊するべく後を追っていたのだ。

 

 ドラグセイバーで斬り伏せられて地を這うマリアージュ。それを見下ろす龍騎の背へトレディアは呆然となりながらも問いかけた。どうしてここにと。それに、龍騎ははっきり答えた。

 

―――理不尽から命を守るのが、仮面ライダーだから。

 

 それは、時に新暦七十三年の出来事だった。

 

 

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次回はいよいよ五代と翔一の再会話です。そして光太郎が知るプロジェクトFate。真司は、いつも通りのほのぼの予定。

 

ゴウラムは、五代達が帰還して三日後にいなくなったのでやっと再会です。時間軸がバラバラのため、混乱させて申し訳なかったです

説明
五代がアリサとゴウラムと再会する時、仮面ライダーの存在が意味する恐ろしさをすずかとアリサは知る。
光太郎はエリオと触れ合う事で過ぎし日の情景を思い浮かべ決意を新たにしていく。
はやてと再会した翔一は、そのままミッドの八神家で家族と顔を合わせる。
そして真司はとある人物と出会い、その考えへ一石を投じる事となる。
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