いきなりパチュンした俺は傷だらけの獅子に転生した
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 第三十話 それは俺がおにいちゃんだからだ

 

 

 「このお馬鹿」

 

 アースラ艦の中にある医療ルームで俺はプレシアから説教を受けていた。

 

 「…うす。すいません」

 

 「マグナモードはただでさえ危険なのに一日に二回も使うなんて…。しかも間をおかずに…。本当に馬鹿なんじゃないかしら。いえ、馬鹿ね」

 

 「断定された?!俺あんなに頑張ったのに!」

 

 アサキムやシグナムと戦っている途中で気を失った俺は気がつけばベッドの上にいた。

 全身包帯ぐるぐる巻きで。

 両腕も両足も固定されて動かない。動かせるとしたら首から上のみ。

 

 ぶっとばすぞぉおおおお!

 

 と、叫びたかったが体中に残る筋肉痛と疲労感は半端ないものだったのでそれは徒労に終わった。

 今も鎮痛剤と栄養剤の混ざった点滴を受けた状態の俺はあの戦闘後の事をプレシアから聞かされていた。

 

 フェイトがリンカーコアを抜かれた後、俺はフェイトが殺されたと思って勘違い、逆上して体に無理を言わせてマグナモードを発動させた。

 しかも、ペイン・シャウターを使って…。

 あの時の三人を撃退するにはそれしかなかったとはいえ、かなりの負担があった。

 その後、シグナムとアサキム。仮面の男の姿は見れなかったが撤退。いや、退いてくれたと言った方が正しいか。

 ガンレオンは半壊。ただでさえ弱い(武装局員やなのは達に比べて)俺のリンカーコアは衰弱してしばらくは戦闘できない状態に…。

 一週間は安静だそうです。

 アリシアの方はプレシア監修の元精密検査を受けた結果異常なしと判断された。…スフィアの方はプレシアも上手く誤魔化したらしい。

 アリシアが俺とユニゾンしていたのはフェイトの持っていたバルディッシュと俺とフェイトの戦いを捉えた映像もあったと思うんだが…。

 

 「アリシアはあなたのリンカーコアと連動して心臓を動かしていると伝えたわ」

 

 それってスフィアじゃん。

 一応、ここは((敵地|アースラ))の中なので、前もってプレシアとはスフィアの事は公言しないように打ち合わせはしている。

 

 「一応、今はあなたのレアスキルとだけ伝えているわ」

 

 「((希少|レア))((過|す))ぎる?」

 

 「レアスキルよ。普通の人が持っていそうにない。魔導師でも持っていないような珍しい特殊な力のことよ」

 

 ((希少|レア))じゃん。

 

 「まあ、取引はしたから大丈夫よ。あなたの助けた管理局員とアサキムとの戦い。あの高町なのはとフェイトの話すあなたの学園生活の態度。だいぶはっちゃけているけど悪い人ではないと判断されたお蔭で今もこうしてあなたとの面会が許されているわ」

 

 「ところでアリシアとフェイトは?」

 

 「あの子達なら…」

 

 プレシアがチラリと部屋の奥に目を向けた。

 この部屋にはベッドが二つあり、一つは俺が。もう一つはカーテンで軽く仕切られていた。…もっと早く気付けよ俺。

 プレシアの目はその向こう側に向いていて、そこに目を向けるとキャーキャーと女の子の騒ぐ声がしていた。

 このカーテンの防音力半端ないね。…はい、俺が注意散漫なだけでした。

 

 「…ら…ひゃあっ!」

 

 「…むむ、これはこれは。いいものだ」

 

 アリシアとフェイトの声がカーテンの向こう側から響いた。

 と、次はアルフの声も聞こえる。

 

 「ちょっとあんた、いい加減フェイトから離れなよっ。私はあんたをフェイトの姉だなんて思っていないんだからね」

 

 「ツンデレ乙」

 

 アリシア。どこでそんな言葉を覚えた?

 と、まあ、今のやりとりで分かった。

 フェイト俺は同じ部屋の医療ルームで手当てを受けていて、今は俺とテスタロッサ一家。そして、アルフの五人だけのようだ。

 

 「い・い・か・らっ。フェイトから離れなっ。隣のあいつも目が覚めたようだからそこに行けばいいだろっ」

 

 「本当っ」

 

 シャッ。とカーテンを開く音がすると、そこにはベットの上でもみくちゃにされたのか少し顔の赤いフェイトとアリシアを後ろから引きはがそうとしているアルフ。そして、アルフに抱えられたアリシアの姿があった。

 ちなみにカーテンを開けたのはアルフだ。

 アリシアを抱えながらよくそのような動作ができたものだ。

 

 「よお、アリシア。フェイト。怪我はない「お兄ちゃああああん!」がぶぁ!」

 

 

 

 アリシアはロケット頭突きを放った。

 ((鳩尾|きゅうしょ))に命中した。

 効果は抜群だ。

 

 

 

 その時の俺は包帯じゃなくて気合の鉢巻を巻いていたのかもしれない。

 なんとか、気を失わずに俺に飛びついてきたアリシアに声をかける。

 

 「げ、げんぴそうぺぱないか」

 (訳:げ、元気そうじゃないか)

 

 今の俺にモン○ターボールを投げられたら確実に捕獲されるだろう。

 

 「ゅん」

 

 涙声になりながらもアリシアは俺に抱きついてくる。

 ただ…。アリシアから感じられる『傷だらけの獅子』のスフィアに何の違和感を感じなかったことからアリシアとスフィアの関係は未だに現状維持とみて大丈夫だろう。

 

 「(じー)」

 

 「…フェイトも無事だったんだな」

 

 俺とアリシアのやりとりを見ていたフェイトに気が付いたので声をかけてみる。

 

 「ふぇ?!う、うん。なんとかね。ただ、リンカーコアを取られちゃったけど…」

 

 …あ〜。そう言われればそうだった。

 

 「あんだけ大見得をきっておいてな」

 

 アルフ様の言う通りです。

 出来ることなら土下座をしたいところだが生憎なことに四肢は固定されているのでそうすることも出来ない。

 

 「アルフっ。言い過ぎだよ」

 

 「構うもんか!…私は認めない。少なくてもプレシア。あんたがフェイトにしてきたことを許すことなんか出来ない!」

 

 「「「・・・」」」

 

 アリシアからしてみればついさっき知らされた真実。

 フェイトはアリシアの代わりに作られたクローンで、そのアリシアが生き返らせるためにジュエルシードを集めさせていた。

 そして、その出来が悪いたんびに彼女を鞭で折檻、いや。拷問に近い仕打ちを受けさせていた。

 そんな主人をただ見守っていることが出来なかったアルフはプレシアに逆らうも返り討ちにあう。

 それだけじゃない。

 プレシアはこう言ったのだ。

 

 ≪貴女はアリシアの代わりのお人形。あなたは娘じゃない≫

 

 俺だってその場にいたらプレシアをぶん殴っていたかもしれない。

 しかも、原作とは違い、プレシアが虚数空間に落ちていく際にフェイトは腕に怪我を負った所為か、

 

 ≪私はあなたの娘じゃない。だけど、あなたが望むならどんなものとでも戦える。私があなたの娘だからじゃない。あなたが私の母さんだから≫

 

 と、伝えると同時に時の庭園は崩落していった。フェイトはプレシアの答えを聞くことが出来ずに別れたのだ。

 それが訳の分からない人物。俺がアリシアとセットになって目の前に現れた。しかも幸せそうに見える団欒(だんらん)を見て良い気分がするはずもない。

 

 「…あ〜、たいした言い訳にもならないと思うけど。…俺が邪魔なら消えるよ?お前達の前に二度とあらわれないようにも努力はする。だけど、プレシアの気持ちも考えてはくれないか?」

 

 「なにをっ」

 

 アルフが俺を睨みつけてくるが俺は構わず話す。

 

 「例えば、アルフ。お前の場合だとフェイトが死にかけていたらどうする?」

 

 「そんなの助けるに決まっているだろう!」

 

 「フェイトがそれを望んでいなかったら?」

 

 「それでも助ける!」

 

 「どんなことがあっても?」

 

 「どんなことだってしてやるさ!………あ」

 

 まあ、つまりはそういうことなんだよな。

 

 力や技術を持っている人だと尚更そうだ。

 プレシアはアリシアを生き返らせるほどの力も技術は無かった。だけど、諦められるほど無力でもなかった。

 力が無い人はいずれは諦めることが出来る。

 不屈の信念を持つ人なんてそうそういない。というか、そんなにいたら世界はあちこちで戦争や紛争が巻き起こる。だって、自分の意見をまるまる通そうとしたら争うものだろう。

 それは口げんか。大げさに言うと戦争だったり。

 力の無い人はどこかで妥協し諦め抗うことを忘れる。いや、抗おうとはしなくなる。

 多くの人間が周りの大勢の人間からも「それは無理だ」と言われれば諦めてしまう。

 俺だってそうだ。

 

 転生特典でガンレオンの力を手に入れたお蔭で今こうしてここにいられる。だけど、そんな力が無くてアサキムに狙われたら、俺は間違いなく諦めていた。

 アサキムに殺される運命をそのまま受け止めていただろう。

 

 だけど、俺は((力|ガンレオン))を持ってしまった。

 だから、抗うことが出来る。死にたくないしね。

 

 「…だからといって、はいそうですか。一緒に暮らしましょうなんて出来るか!」

 

 「一緒に暮らせるうちが花だぞ?…もう、本当の家族に会えない奴もいるんだからな」

 

 「…え?」

 

 「俺には理由があって、もう本当の家族には会えないんだよ」

 

 プレシアの話だと俺のいた世界は虚数空間に呑まれて消えたことになっているが似たようなものだろう。二度と帰れないというあたりが特に…。

 

 「…そんな」

 

 「でも、幸せだったぜ。一生分とは言わないけど幸せだった。だからこそフェイトとアルフ。アリシアにプレシアには一緒に暮らしてほしい。でも、そこに俺は関係ないからな。アリシアの事が解決するまでは俺も離れることが出来ないけど…。別にずっと一緒じゃないといけないという訳でもないし…」

 

 いざとなったら無人世界でガンレオンでのサバイバル生活だな。

 スフィアリアクターによる無人世界でのサバイバル生活。

 ((熱帯雨林|ジャングル))の王者た…。ストップだ俺。

 

 シリアスが嫌いだから無理矢理馬鹿なことを考えてしまった。が、フェイトが悲しそうな目で俺を見てきた。

 そんな目で見ないで欲しい。

 同い年に見えても((九歳|フェイト))の倍は近くの親の愛情を受けて育った元二十一歳なんだ。

 

 「お兄ちゃん。なんでそんなことを言うの…」

 

 アリシアもまた俺を見る目が悲しそうだった。

 アリシアにはまだ俺が転生者だということは言ってはいない。というか、言っても理解していない。理解しているのはプレシアとクロウの二人だけだ。

 

 「それは俺が(魂的に)((年上|おにいちゃん))だからだ。…ごめん、プレシア。後は頼む。なんだか、また眠くなってきた」

 

 それに長男は下に弟や妹がいると何かと我慢を強いられることもあるので我慢することには慣れているのだ。あの時の俺には妹はいなかったけど…。

 

 「…ええ、あとは私がやっておくから寝ていなさい」

 

 「…ん。また、何かあったら起こして」

 

 プレシアが俺の言葉に答えた後、俺を悲しそうに見る目をしたフェイト達の視線に答えることもないまま再び眠りについた。

 

 

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第三十話 それは俺がおにいちゃんだからだ
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