真・恋姫無双アナザーストーリー 蜀√ 桜咲く時季に 第45話
[全13ページ]
-1ページ-

真・恋姫無双 ifストーリー

蜀√ 桜咲く時季に 第45話

 

 

 

 

【来客、珍客、助け舟?】

 

 

 

《一刀視点》

 

諷陵を発ち数十日が経った。軍行も順調に行っていた。ところが……

 

「ご主人様、少々よろしいでしょうか?」

 

「ん?どうしたんだ朱里」

 

天幕で朝の朝議が終わり、朱里が俺に話しかけてきた。

 

「朝議では言わなかったのですが、少し気になることが……」

 

「気になること?」

 

「はい。実は、予想よりも食料の減りが早いみたいなんです」

 

「え?気のせいじゃないのか?」

 

「だといいんですが……」

 

「取り合えず、このことは俺と朱里だけに留めて置こう。朱里は今現在の兵糧から今後の消費量の算出をして報告してくれ」

 

「わかりました」

 

朱里は頷くと小走りで天幕から出て行った。

 

「食料が予想よりも少ない、か……気のせいだといいんだけど」

 

しかし、その俺の願いも数日のうちに裏切られることとなった。

 

………………

 

…………

 

……

 

「ご主人様」

 

朱里から最初の報告を受けて五日がたった。朝議の為、天幕に入ろうとするところで朱里が呼び止めてきた。

 

「どうした?」

 

「実は……兵糧の事なんですが」

 

「もしかして、また兵糧が予想より少なくなってるのか?」

 

「はい……すみません」

 

朱里は済まなそうに俯き返事をする。

 

「いや。朱里のせいじゃないんだから。朱里が謝ることじゃないよ。それで、被害のほうは?」

 

「こちらがそうです」

 

朱里から報告書を受け取り軽く読み流す。

 

「……随分手当たり次第だな」

 

「はい」

 

「どうしたのご主人様?中に入らないんですか?」

 

「あ、ああ。今入るよ」

 

桃香は中々入ってこない俺を呼びに天幕から出てきた。

 

「朱里ちゃんと話して、何かあったんですか?」

 

「うん、まあね。そのことは朝議で話すよ」

 

「わかりました。それじゃ、中で待ってますねご主人様、朱里ちゃん」

 

桃香は頷くと天幕の中に戻っていった。

 

「とにかく皆と話そう、対策はそれからだ」

 

「はい」

 

「よし、それじゃ中に入ろう」

 

俺と朱里は天幕の中に入っていった。

 

………………

 

…………

 

……

 

「それは本当ですか、ご主人様?」

 

「ああ。朱里の報告だとそれなりに被害が出てる」

 

朝議を開始し、いつも通りの報告を愛紗たちがしていき、最後に朱里が兵糧の話を持ち出した。

 

「そうなると誰かが盗み食いをしているということか?」

 

「「「……」」」

 

「うにゃ?」

 

そこで一斉に、みんなが鈴々に目線を向ける。当の本人である鈴々は状況が読み込めていないのか首を傾げていた。

 

「鈴々。夜にこっそりと兵糧を食べていないだろうな」

 

「食べてないのだ!鈴々はそこまで食いしん坊じゃないのだ」

 

「本当だろうな?」

 

「本当なのだ!……あっ」

 

「あ?」

 

「な、なんでもないのだ!なんでも!にゃはははっ!」

 

鈴々は何かを思い出したのか小さく声を上げて、なんでもないと笑って誤魔化していた。

 

鈴々は嘘をつくのが下手だからな……

 

「……そう言えばこの間の夕餉は大変旨かったな。そうは思わないか鈴々」

 

「すっごく美味しかったのだ!だから鈴々、食べ足りなくて少しだけお肉を食べたのだ!」

 

愛紗は話の論点をずらし、鈴々にかまをかけた。すると、鈴々は愛紗の思惑通りにポロッと自分が摘み食いしたことを白状してしまった。

 

「やっぱり犯人はお前か鈴々!」

 

「しまったのだ!」

 

「待て、鈴々!」

 

「待てと言われて待つおバカさんは居ないのだ〜〜っ!」

 

グルグルと天幕の中を鈴々を追い掛け回す愛紗。

 

「お兄ちゃん、助けてなのだ!」

 

(ぼふんっ!)

 

逃げ回っていた鈴々だったが俺に抱きつき、愛紗から隠れた。

 

「鈴々!隠れてないで出て来い!」

 

「まあ、まあ、愛紗。落ち着いて」

 

「ご主人様!鈴々を庇い立てするおつもりですか!」

 

「そう言うわけじゃないけど。鈴々、一つ聞きたいんだけど。摘み食いしたのは一回だけなのか?」

 

「そうなのだ。ご飯が美味しかった時だけなのだ」

 

「そっか。ありがとう。でも、摘み食いダメだぞ。鈴々が摘み食いしたことで、誰かのご飯が無くなっちゃうかも知れないんだからな」

 

「ごめんなさいなのだ。今度からはしないのだ」

 

「うん。良い子だ」

 

(なでなで)

 

「にゃはは♪くすぐったいのだ」

 

素直に謝る鈴々に俺は微笑みながら頭を撫でてあげた。

 

「はぁ、まったく……ご主人様は鈴々に甘いです」

 

「そうかな?」

 

「そうです……私だって頭を……」

 

「ん?何か言ったか?」

 

「い、いえ!なにも!」

 

小声で何か言っていたような気がしたんだけど……まあ、愛紗がなんでもないって言ってるし。

 

-2ページ-

「さて、鈴々の話を聞いて一つ分かったことがある」

 

「わかったこと?」

 

桃香は首を傾げ聞き返してきた。

 

「ああ。鈴々は夕餉が美味しかった時の一回だけと言っている。愛紗、確かその美味しかった日って二日前だったよな?」

 

「はい。私も軍行の夕餉にしては随分と美味しいと感じていましたから間違いないかと」

 

「そうなると、鈴々は犯人じゃない」

 

「どういうことですか?現に鈴々は盗み食いをしているのですよ」

 

「ああ。だけど、兵糧が減りだしたのはそれよりも前なんだ」

 

「どうしてそれを知っておいでなのですかな主よ」

 

「うん。実は朱里から相談を受けてたんだ」

 

「おいおい。なんで教えてくれなかったんだよご主人様。そんなにあたしらが信用できないのかよ」

 

「気のせいかも知れないから取り合えずは皆に知らせるのは止めておこうと思ってさ。別に信用してないわけじゃないよ」

 

「ならいいけどよ。それで、犯人は一体誰なんだ?」

 

「お姉様、今それを話し合ってるんだよ」

 

「う、うるせえな!そ、それくらい分かってるよ!」

 

蒲公英に指摘されて顔を赤くして怒鳴る翠。

 

「まったく……少しは落ち着きなさい、翠。親として恥ずかしいですよ」

 

「うぅ……母様まで……」

 

「申し訳ありません、ご主人様。お続けください」

 

翠を注意して頭を下げ謝ってくる菫。

 

「翠が言ったように犯人は誰かって事なんだけど。みんな、ここ最近、夜に何か気になるようなことは無かったか?些細なことでも構わないんだけど」

 

俺は皆を見回し、答えが返って来るのを待つ。

 

「っ!そう言えば……」

 

「雪華よ、何か思い当たる節でもあるのか?」

 

何か思い当たることがあったのか雪華は小さく声を上げた。すると隣にいた愛紗も気が付いたのか雪華に話しかけていた。

 

「あ、はい。もしかしたら何ですけど」

 

「構わないよ。教えてくれ雪華」

 

「はい。実は、四日ほど前なんですけれども夜、天幕の外でごそごそと動く気配がしたんです」

 

「巡回兵ではないのか?」

 

「いえ、そう言った気配ではありませんでした。もっとこう……こそこそ?見たいな気配って言えばいいのかな?すみません、なんて表現すれば言いか分かりません」

 

「そんなこと無いよ。十分、有力な情報だよ。ありがとう雪華」

 

「ふぇ、い、いえ。ご主人様のお役に立てたのであれば幸いです」

 

雪華を褒めると、雪華は恥ずかしそうに俯きながら答えていた。

 

「む〜っ!はいはい、は〜い!私も私も!」

 

「ん?桃香も何か気が付いたことでもあったのか?」

 

「はい!えっとね……えっと……」

 

桃香は何故か腕を組んで考え始めた。

 

「ち、ちょっと待ってねご主人様!今考えてるから!」

 

「いや、今考えてるって……」

 

「はぁ、ご主人様。桃香様は無視してくださって構いませんので話を進めてください」

 

「そんなぁ!?愛紗ちゃん酷い、がくっ……くすん」

 

愛紗は桃香に厳しい一言を告げると桃香は肩を落としてしまった。

 

「えっと……それじゃ、雪華の証言によってやっぱり誰かが摘み食いをしている可能性はあるって事だな」

 

「えへへ♪」

 

俺は桃香を慰めるように頭を撫でながら話を続行した。

 

「ご主人様!今は会議中ですぞ!」

 

「おやおや、主が桃香様の頭を撫で、愛紗はご立腹のようですな」

 

「なっ!別にそう言うわけでは!」

 

「あんな奴のどこがいいのかネネには分かりませんぞ」

 

「だから違うと言っているだろ!ええい!早く話を進めるぞ!」

 

顔を赤くして否定する愛紗。なんだか愛紗も後でフォロー入れておかないとダメなような気がするぞ。

 

「……ふっ。主も大変ですな」

 

苦笑いを浮かべていると星と目が合い、そんな事を言われてしまった。

 

「ごほん!とにかくだ!誰かが兵糧を盗んでいるのは確かなのだ!ここは犯人を探し出し、罰しなければ!」

 

愛紗は冷やかされながらも脱線した話を元に戻した。

 

「だけどさ、、誰かが盗んでいるとは言い切れないんじゃないか?」

 

「?どういうことだ白蓮殿」

 

「いやほら。((私|あたし))のところでも遭ったんだけど、鼠が備蓄していた食糧を食べてたって事があったんだよ。あの時は直ぐに気が付いて対策したから被害は少なく済んだんだけどな」

 

「でも、このような荒野に鼠さんが居るのでしょうか?」

 

「ボクも月と同じ意見よ。森や洞窟ならともかく、荒野に鼠が居るとは到底思えないわ。外敵にも狙われやすいのに」

 

「たんぽぽもそう思うな!」

 

「白蓮殿の意見は場違いなのです」

 

「うぅ、((私|あたし))の意見は場違いなのか……」

 

ネネにきついとどめの一撃を入れられてへこむ白蓮。

 

「ま、まあ。白蓮の意見は無事に成都に着いたときに活用するとして!問題なのはこれからだ。朱里」

 

「はい」

 

白蓮を庇い、朱里に次の問題を伝えて貰う。

 

「次の問題として……食料がどこまで保つかです。すでに、かなりの被害が出ています。このままでは次の目的地である荊州南陽郡までもたないでしょう」

 

「私たちが食べる量を少なくしてもダメなのかな?」

 

「ダメ、というわけではありません。ですが、いざ開戦になった場合、お腹が空いて十分な力が発揮できなくなってしまうかと」

 

桃香の提案に朱里は苦い顔をして答える。

 

「まあ、後々の事は置いておきましょう。まずは犯人を捕まえることが先決ではありませんかな、主よ」

 

「確かに、星の言う通りだな。よし!それじゃ、今夜張り込もう。見張りを俺と……愛紗、頼めるかな?」

 

「はっ!お任せください。この命に代えましても犯人を捕らえて見せます」

 

「いいな〜。愛紗ちゃん……ねえねえご主人様。私も一緒に見張りたいな」

 

「え?桃香が?……起きてられるのか?」

 

桃香の申し出に思わず本音が出てしまった。

 

「ひっど〜い!私だって起きていられるもん!だからいいでしょ、ご主人様」

 

「まあ、そこまで言うなら……」

 

「やった♪ご主人様、だ〜いすき♪」

 

(むぎゅっ)

 

「うぉ!と、桃香!?」

 

「あらあら、妬けてしまいますね、そうは思いませんか愛紗さん」

 

「わ、私は別に……」

 

愛紗は別にと言いながら何度も俺と桃香をチラ見していた。

 

-3ページ-

夜になり、俺と桃香と愛紗の三人は盗み食いする犯人を捕まえる為、近くの岩場で身を隠していた、が……

 

「ん〜、もう食べられないよぉ〜……すー、すー」

 

案の定、桃香は俺に寄りかかり眠ってしまっていた。

 

「まったく……桃香様と来たら。大丈夫ですか、ご主人様?」

 

「うん。これくらい大丈夫だよ。それより兵糧の方は?」

 

「まだ、人の気配は在りませんね……っ!ご主人様、誰か来たみたいです」

 

愛紗の言う通り、兵糧の方へ向かっていく人の気配があった。

 

『――――っ』

 

『――――♪』

 

『――――っ!』

 

『――――♪♪』

 

「どうやら、犯人は二人の様ですね。何やら会話をしているようですが、ここからでは遠くて何を喋っているのかわかりませんね」

 

「ああ、暗くてよく分からないけど、背丈から見て大人と子供かな?」

 

「そうですね。私もご主人様と同意見です。如何いたしましょう、今すぐひっ捕らえますか?」

 

「いや、相手もまだ警戒してるだろうから、もう少ししたら包囲して捕縛しよう。愛紗は後方で待機している兵を連れて気づかれないように包囲してくれ」

 

「わかりました。では……」

 

愛紗は頷くとこの場から離れて兵たちに指示を出しに行った。

 

「さてと……桃香、起きて犯人が現れたぞ」

 

「う、う〜ん……かぷっ……ぺろ、ぺろ」

 

「っ!?ちょ、と、桃香……それ俺の指」

 

寝ぼけているのか桃香は俺の指を咥えて舐めだした。

 

「ん〜……美味し〜ちゅぱ、ちゅぱ」

 

「こ、困った……手をがっしり掴まれて抜けないぞ……うひっ!ちょ、と、桃香くすぐったいよ」

 

「や〜、もっと舐めるのぉ〜」

 

だけど、桃香は寝ぼけているせいで俺の手を離そうとはしてくれなかった。

 

「ご主人様、兵の配置終わりました。あと、何があるか分かりませんので助っ人、を……」

 

「あ、愛紗!ちょうどいい所に!桃香を何とかしてくれ、寝ぼけて放してくれないんだよ」

 

「あらあら、お邪魔だったかしら?」

 

「……」

 

固まる愛紗の後ろから微笑みながら顔を出したのは菫だった。

 

「愛紗?っ!ひへへっ!な、なんへ!?」

 

「ふんっ!ご自身で考えてください。まったく、私が居ない間にそんなことをしていただなんて……」

 

「お、俺のせいじゃ……」

 

「いいえ。ご主人様のせいです。ご主人様が桃香様をお連れしなければそもそもそのようなことには……第一、ご主人様は」

 

「わ、わかった。話はあとで聞くよ。今は泥棒を捕まえよう。兵の配置は終わってるんだよね」

 

「……はい。指示があり次第、包囲網を縮める手はずになっています」

 

愛紗は言い足りなさそうな顔をしていたが俺の質問に答えてくれた。

 

「よし、それじゃ、合図と共に一気に捕まえよう。っと、その前に……桃香、いい加減に起きて」

 

(ぺちぺち)

 

桃香を揺すりながら軽く頬を叩く。

 

「あふっ……ふぁあ〜、あ、ご主人しゃま……おはよごじゃます……」

 

「まだおはようの時間じゃないけどね」

 

「?……あれれ?まだ、真っ暗だよ?それじゃ、もう一眠り……」

 

「桃香様、寝るならご自分の天幕で寝てください」

 

「あ、うん……そうするね。愛紗ちゃん」

 

「ああっ!す、菫、悪いんだけど」

 

ふらふらと歩く桃香を見て俺は慌てて菫に桃香を天幕まで連れて行くようにお願いしようとした。

 

「はい。桃香様を天幕までお連れします。さぁ、桃香様、参りましょう」

 

「あ、菫さんだぁ。ありがとうございます……ふぁあ〜」

 

桃香は菫に抱き着いて今にもそのまま意識を落としそうになっていた。

 

「ごめんね、菫。助けに来てもらったのに直ぐに引き返すことになっちゃって」

 

「いいえ。では、ご主人様、愛紗さん。((私|わたくし))はこれで……」

 

菫は嫌がることなく桃香を連れてこの場から去って行った。

 

「はぁ……桃香様にも困ったものです」

 

「ま、まあね」

 

確かにそうなんだけど、まあ、桃香の寝起きの顔が見れただけでも役得だったよな。

 

「……ご主人様、顔がにやけていますよ」

 

「っ!そ、そんなことないぞ!よ、よし!愛紗、兵たちに合図を送って一気に捕まえよう!」

 

「はぁ、わかりました……では……皆の者!取り囲めーーーーーーっ!!」

 

(((わーーーーーーーっ!!!)))

 

愛紗に溜息を吐かれてしまったが、愛紗は兵達に合図を送ってくれた。

 

『っ!?!?!?!?』

 

『――――――っ!?』

 

兵糧を盗み食いしていた者たちは突然の兵の登場に慌てふためいている様だった。

 

「どうやら相手は混乱してるみたいだな。これなら直ぐに捕まるだろう」

 

俺は急いで現場に行こうとしていたが、相手の混乱ぷりを見てそう急ぐ必要は無いと思いなおした。

 

「愛紗、ご苦労様。犯人は捕まったか?」

 

「ご主人様。は、はい、捕縛するにはしましたが……」

 

「?どうかしたのか」

 

愛紗の複雑そうな顔に俺は首を傾げて何かあったのかを聞いてみた。

 

「は、はい……少々、いえ。かなり厄介なことになるかもしれません」

 

「どういうことだ?」

 

愛紗の言っている意味が分からず、さらに首を傾げる。

 

「取り合えず、犯人をご覧ください。こちらで」

 

『――――っ!』

 

『――――っ』

 

『――――っ!?』

 

『――――っ』

 

愛紗の後を着いて行くとなにやら騒ぎ声が聞こえてきた。

 

「……この声って、もしかして……」

 

俺の中で嫌な予感が湧き上がってきた」

 

「はい、ご主人様のお考えの通りかと……」

 

愛紗も俺が何を考えているのか分かったのか、何とも言い難い表情をしていた。

 

-4ページ-

「何でこんなことになるのじゃ、七乃っ!お主、大丈夫と言っていたではないか!」

 

「え〜。そんなこと言ってませんよぉ〜。ただ、食べ過ぎなければばれないんじゃないかな〜って言ったんですよぉ」

 

「そんなの妾は聞いておらん!どうしてくれるのじゃ!」

 

「捕まっちゃったんですからもうどうすることも出来ないですねぇ」

 

「なんじゃと!?」

 

「……」

 

「……」

 

金髪で髪先にカールの掛かったロングの少女と、青髪でショートの女の子が言い合いをしていた。

 

どちらかと言えば金髪の少女が一方的に責めているんだけど……

 

でも、そんなことは重要じゃない。髪なんかよりもっと重要なことがある、それは……

 

「ん?なんじゃ貴様らは!妾をこのような扱いをして!妾が袁家だと知っているのじゃろうな!」

 

「そうだ、そうだ〜。お嬢様は偉いんだぞぉ〜、蜂蜜水を飲み過ぎてオネショをしちゃうけど、お嬢様はとっても偉いんだぉ〜」

 

「それ以上褒める出ない七乃。うははははっ!!」

 

そう……盗みを働いた人物こそ、俺たちを徐州から追いやった袁家のもの……袁術とその家臣である張勲だ。

 

「ん?どこかで見たことあるかのじゃの?どこだったかのぉ」

 

「ほらぁ、反董卓連合軍の時に袁紹さんにこき使われてた人たちですよぉ」

 

こ、こき使われてたって……ま、まあ、確かに傍から見たらそう見えるんだろうけど……

 

「おぉっ!そうじゃ、そうじゃ!麗羽姉さまにこき使われていた哀れな奴らじゃ!」

 

「はいぃ。なんも考えていないおつむがすっからかんの袁紹さんにこき使われていた人たちですぅ」

 

「うははははっ!ホント、哀れな者たちじゃ!そうは思わないか七乃」

 

「ですねぇ〜♪」

 

「そ、そこまで言わなくても……」

 

二人の言葉の攻めに膝を着く俺。

 

「ご、ご主人様!しっかりしてください!あの時のご主人様のお考えは間違っていませんでした!ですから自信を持ってください!」

 

へこんでいる俺に愛紗は励ましてくれた。

 

「うん。そうだよね……ありがとう愛紗。もう平気だよ」

 

「それは何よりです……それで、この者たちを如何いたしましょう」

 

「そうだな。とりあえず、俺たちだけで決める訳にもいかないし。明日の朝、みんなと話し合って決めよう」

 

「わかりました。おい、お前たち。この者たちを杭で牢を作り、交代で見張りだ」

 

「「はっ!」」

 

愛紗は兵に指示を出して袁術たちの周りに逃げられない様に囲いを作るように命じた。

 

「な、なんじゃと!?妾はこのままの状態で朝まで迎えろと言うのか!?」

 

「当り前だ。盗みを働いたのだ。極刑でないだけありがたいと思え。だが、それも時間の問題だがな」

 

「ちょ、愛紗。それ脅し過ぎだよ。まだそうと決まったわけじゃないんだから」

 

「いいえ。袁家と言うだけで私は怒りを覚えます。今すぐにでもこの手で……」

 

愛紗は手に持っていた得物を袁術の鼻先に当てた。

 

「ぴっーーーーーーっ!ガタガタブルブルガタガタブルブルッ!」

 

「ああ、もう!とにかく、二人の処分は明日、桃香達と決めよう。いいね、愛紗」

 

「……御意」

 

愛紗は不満そうな顔をしながらも得物を収めてくれた。

 

「ごめんね……愛紗も悪気があったわけじゃないんだ。悪いんだけど、朝まで我慢してね」

 

「……う、うむ……わかったのじゃ」

 

「うん、ありがとう。朝方は寒いだろうから毛布を持ってきてもらうように伝えておくから」

 

(なでなで)

 

俺は怯える袁術の頭を撫でて立ち上がった。

 

「ご主人様。何しておいでですか。そろそろここは兵に任せて戻りましょう」

 

「ああ、今いくよ!それじゃあね」

 

「ぁ……」

 

袁術は何かを言いたそうにしていたが、愛紗を待たせたら悪いと思い袁術に手を振り愛紗の下へと駆けて行った。

 

………………

 

…………

 

……

 

「……」

 

「?お嬢様?美羽お嬢様〜」

 

「っ!な、なんじゃ行き成り大声を出して」

 

「いえ。なんだかボーっとしてるようでしたから。どうかしましたか?」

 

「な、何にもないのじゃ!変なことを言う出ない!まったく、妾をあのような扱いをして……許さないのじゃ」

 

「??」

 

………………

 

…………

 

……

 

「ご主人様、袁術と何を話していたんですか?」

 

「対したことは話してないよ」

 

「……」

 

愛紗は疑うような視線で俺の事を睨んでいた。

 

「そ、それより、今日はご苦労様、愛紗。疲れただろ?見張りは他の人に頼んでゆっくり休んでくれ」

 

「お心遣い、感謝します。ですが、ご主人様の身を守るのは家臣である私の務め。その勤めを怠るわけにはまいりません」

 

「律儀だな〜。まあ、そういうところが愛紗らしくて俺は好きなんだけどね」

 

「なっ!?」

 

顔を赤くする愛紗。

 

うん、やっぱり怒っている顔より、笑ったり、驚いたりしている顔の方がいいな。

 

「な、何を一人で頷いているのですか!」

 

「ん〜?いや、何でもないぞ」

 

ニヤニヤしながら愛紗には何でもないと答える。

 

「うぅ〜。良からぬことを考えていますね。ご主人様」

 

「そんなこと考えてないさ。それより、愛紗の考える良からぬことってなにかな?」

 

「そ、それは……」

 

「ん〜?」

 

「〜〜〜〜〜っ」

 

顔を赤くして言葉を詰まらせる愛紗。

 

「……愛紗のエッチ」

 

「なっ!わ、わわわわわ私はご、ご主人様との逢瀬など考えてはっ!」

 

「愛紗。それ、考えてると一緒だよ」

 

「はぅ〜〜〜〜っ!」

 

思わず指摘すると愛紗は頭を抱えて屈んでしまった。

 

「あ、あの〜、愛紗?」

 

「………………しますか?」

 

「え?ごめん、聞き取れなかったんだけど」

 

小声でしかも俯いて喋っていたせいで愛紗がなんて言っていたのか聞き取れなかった。

 

「……ご主人様、こんなはしたない私を軽蔑しますか?」

 

「っ!」

 

屈んでいるせいで愛紗は上目使いで俺の事を見てきて思わずドキッとしてしまった。

 

「軽蔑なんてする訳ないだろ?」

 

「本当ですか?」

 

「ああ、だって、愛紗は俺にとって大事は人だからね」

 

「桃香様よりもですか?」

 

「えっと……」

 

「……ふふ、そこは嘘でも桃香様よりも私の方が大事と言うところですよ。ご主人様」

 

「いや……流石にそれは……嘘でもそういう事は言いたくないかな。でも、今この瞬間は誰よりも愛紗の事を大切に思ってるよ」

 

「仕方ありませんね。今日はそれで許すとしましょう」

 

立ち上がり微笑む愛紗。若干照れくさいのか頬がほんのりと赤く染まっているように見えた。

 

「愛紗……今日は一緒に寝ないか?」

 

「えっ!な、何を言っているのですか、こんな時に!」

 

「わかってる!でもなんだか今日は愛紗と離れたくない気分なんだ。もちろん兵のみんなが夜回りをしてくれているから無理だけど、一緒に寝るくらいならいいだろ?」

 

「そ、それは……」

 

「ダメかな?」

 

「わ、私で宜しければ……是非」

 

愛紗は俯きながらも了承してくれた。

 

そして、俺と愛紗は二人寄り添い天幕の中で一夜を過ごした。

 

-5ページ-

『ご主人様〜。朝だよぉ〜。起きてる〜?』

 

「ん……もう朝か……」

 

天幕の外から聞こえることに目を覚ます。

 

「んっ……」

 

「っ!な、なんで愛紗が俺の布団に?」

 

愛紗の寝顔が目の前にあり、一瞬驚いてしまった。

 

「……あ、そ、そうだった。昨日、一緒に寝たんだった……」

 

昨日、自分で一緒に寝ようと愛紗に誘ったのを思い出した。

 

「それにしても、可愛い寝顔だな……愛紗の寝顔ってこんな顔だったんだな……〜〜っ」

 

整った顔立ちに艶やかな唇。マジマジと見つめ、その可愛い寝顔に思わず照れてしまった。

 

『?ご主人様〜。起きてないのぉ〜?』

 

「ん?この声は、桃香?起こしに来てくれたのかな?ああ、おきっ……っ!」

 

ちょっと待て!この状況で桃香に声を掛けたらどうなる?

 

「……」

 

「んっ……」

 

俺の横で眠っている愛紗に目を向ける。

 

………………

 

…………

 

……

 

『な、なんでご主人様と愛紗ちゃんが一緒に居るの!?……っ!ま、まさかっ!』

 

『ち、違うんだ桃香!これには訳がっ!』

 

『ううん。言わなくてもわかるよ……ご主人様は愛紗ちゃんを選んだんだね』

 

『ちがっ!俺の話をっ!』

 

『うん。私は応援するよ。二人の事……でも』

 

『で、でも?』

 

『……ご主人様の記憶に一生残るようにするよ』

 

『ど、どういう……っ!まさかっ!』

 

『バイバイ……ご主人様……っ!』

 

『桃香ーーーーっ!』

 

………………

 

…………

 

……

 

ってなことになるなんてこと……いやいや、ある訳がない。落ち着け俺、こんな昼ドラ見たいなことが起こる訳ないじゃないか。

 

自分の妄想に突っ込みを入れる。

 

『起きてないのかな?入るよ〜』

 

って!そんなことよ悠長に考えてる暇は無かった!

 

「ちょ!まっ!お、起きてる!起きてるからまっ……」

 

(バサッ!)

 

俺の静止も虚しく、天幕の入り口の布が開け放たれたのだった……

 

………………

 

…………

 

……

 

「む〜っ!」

 

「と、桃香……機嫌直して?」

 

「ふ〜んだ」

 

頬を膨らませて俺から顔を背ける桃香。うん、でもその仕草もなんだか桃香らしくて可愛い……じゃなくて。

 

「と、桃香様……機嫌を直してください」

 

「愛紗ちゃんは良いよね〜。ご主人様と一緒に寝られたんだから」

 

「あぅ……」

 

桃香はじと〜っとした視線で愛紗を見る。

 

「まあまあ、桃香様。良いではありませんか。若気の至りですわ」

 

「うぅ〜。でもでも!愛紗ちゃんだけずるいよぉ!」

 

「これは困りましたわね〜」

 

なんとか菫が仲を取り持とうとしてくれているようだが菫も困っているようだった。

 

「まったく……これは主がいけませんぞ。愛紗と閨をともにすれば、桃香様がいじけるのは至極当然ではありませんか」

 

「反省してます……」

 

「それで、主よ。本当に寝るだけでしたのかな?」

 

「お前も興味津々だな星」

 

星に注意をされるも、すぐに別の事に興味を持たれニヤニヤと笑いながら聞いてきた。

 

「本当に寝ただけだよ。それ以上の事はしてない」

 

「え〜。なんだ、つまんないの〜」

 

「って、蒲公英も聞いてたのか」

 

「えへへ♪だって面白そうだったから!姉様もそうだよね?」

 

「えっ!?あ、((私|あたし))別に興味なんてなかったぞ。本当だぞ!」

 

「嘘ばっかり、耳を大きくしてたくせに」

 

「なっ!蒲公英、お前!」

 

「きゃ〜、お姉様が怒った〜♪」

 

蒲公英は翠から逃げる様に星の背中に隠れた。

 

「と、兎に角!今はまず、昨日の事を報告っ……」

 

「そうですわ。桃香様、名案があります」

 

話を戻そうとした矢先に菫はポンと手を叩いた。

 

「名案?」

 

「はい。我ながら、良くできた策ですわ」

 

「その策って何なんですか菫さん」

 

「ふふふっ、それはですね……桃香様もご主人様とご一緒に閨をともにすればよろしいのですわ」

 

「……え?ええぇぇぇえええっ!?」

 

菫の提案に俺は思わず声を上げてしまった。

 

「ちょ!す、菫!?何を言い出すんだよ!」

 

「あら?愛紗さんがご主人様とご一緒に寝たことが問題なのでしょ?でしたら、桃香様もご主人様とご一緒に寝れば何の問題も無いのではありませんか?」

 

「そ、そういう問題じゃ……」

 

「菫さん!」

 

俺の言葉を遮り、桃香が大きな声を上げた。

 

(がしっ!)

 

「はい?」

 

「菫さん、それいい考えです!」

 

桃香は菫の手をがっしりと握り笑顔で答えていた。

 

「それは何よりです」

 

「いやいや!何よりって!」

 

「それじゃ、今日はご主人様と一緒に寝ますね!」

 

「え、えええ!?」

 

「あ〜っ!桃香様だけずる〜い!蒲公英もご主人様と一緒に寝たい!雪華もそうだよね?」

 

「ふえ!?あ、あのわ、私は、そ、その……ふぇ〜」

 

「あわわ、朱里ちゃん……」

 

「う、うん。私たちもご主人様とご一緒に……はわわ」

 

「……恋もご主人様と、寝る」

 

「恋殿ぉ〜〜〜〜っ!それはなりませぬぞぉ〜〜!あんな、獣と一緒に寝ては!襲われてしまいますぞ!」

 

俺はそこまで節操悪くないぞ。

 

「……あ、あの。私もご主人様と……」

 

「月っ!その言葉だけは言っちゃダメ!」

 

「で、でも、詠ちゃんもご主人様と」

 

「わーっ!わーっ!わーーーーっ!ありえないから!あんなやつと一緒に寝るなんてぜっっっったいにありえないから!」

 

「……」

 

もう、あまりの展開に思考が追い付けなくなってきた。

 

「よぉ〜し!それじゃ、ご主人様と一緒に寝る順番を決めよぉ〜♪」

 

「「おおっ〜!」」

 

俺を差し置いて話はどんどんと決まっていった。

 

「慕われていますな、主」

 

「は、ははは……はぁ」

 

もう、笑うしかなかった。

 

-6ページ-

話が脱線して約一時間後。ようやく本来の目的である袁術の処遇について話し合うことができた。

 

「一体いつまで待たせるのじゃ!」

 

「そうです。お嬢様が干からびたらどうするんですかぁ!」

 

待ちくたびれたのか袁術は頬を膨らませて文句を言っていた。

 

「……えっと、ご主人様?」

 

「うん……彼女たちが俺たちの兵糧を盗み食いしていた張本人だ」

 

朱里の戸惑いの声に俺は頷いた。

 

「何を話しているのじゃ!早く妾を放すのじゃ!」

 

「放すわけないじゃん」

 

「なんじゃと!?」

 

蒲公英は何言っちゃってんの?っと言いたげな表情で答えると、袁術は驚いた声を上げた。

 

「妾を誰だかわかって言っておるのか!」

 

「当たり前じゃん。西涼でも有名だよ」

 

「ほほう。妾はそんなにも有名か」

 

「そりゃもう」

 

「そうじょろ、そうじゃろ!うはははははっ!」

 

蒲公英の言葉に笑い出す袁術。

 

「考えなしに突っ込んで兵を無駄に減らす、無能な太守」

 

「なんじゃと!?」

 

「あらら、本当のことを言われちゃいましたね、お嬢様」

 

「七乃っ!お前まで何を言うのじゃ!」

 

「え〜。だって本当の事じゃないですかぁ〜。孫策さんにも負けちゃいましたしぃ〜」

 

蒲公英にバッサリと切られ声を上げる袁術。そして、なぜかそれに追い打ちをかける張勲。

 

「え、えっと、取り合えず話を進めてもいいのかな?袁術たちをどうするかだけど」

 

「決まっています。即刻首を刎ねるべきです」

 

「な、なんじゃとっ!?」

 

「ちょ、ちょっと待ってください!お嬢様は何も悪くありません。全てはこの私が悪いんです。ですから、刎ねるのでしたら私の首をお願いします。ですからどうかお嬢様だけは」

 

「いや、お前も同罪なのだが」

 

「あっ、そうでした。てへっ♪」

 

愛紗の言葉に自分の頭をこつんっと叩き舌をペロッとだす張勲。

 

「てへっ♪ではない!何とかするのじゃ七乃!妾はまだ死にたくないのじゃ!」

 

「……話が進まないな」

 

「そうですな。ですが、なんとも賑やかな者たちですな……いや、袁家はっと言った方がよろしいですな」

 

まったく話が進まない状況に呆れていると星が俺の隣に来て話しかけてきた。

 

「し、失礼しますっ!」

 

その時だった、一人の兵が軍議中の天幕へ駈け込んできた。

 

「なんだっ!軍議中だぞっ!」

 

「も、申し訳ありません!で、ですが、我々の後方、砂塵を巻き上げ何者かが近づいて来ていますっ!」

 

「なんだとっ!部隊の所属と数はっ!」

 

「ただ今確認中っ!おって連絡が来るかとっ!」

 

「まさか曹操軍が……」

 

「それは無いと思います」

 

愛紗の言葉に朱里はすかさず異議を唱える。

 

「なぜそう言い切れる」

 

「それはもうここが曹操さんの領地ではないからです」

 

「俺も朱里の意見に賛成だ。あの時、曹操はもう俺たちを追う意思はなかった。じゃなかったらとっくにもう俺たちを追いかけてきているはずだ」

 

「では、一体どこの部隊と言うのですか」

 

「それは待ってればすぐにわかるよ。でも、とりあえず警戒だけはしておこう」

 

「わかりました。各隊に通達っ!直ぐに動けるように部隊を配置っ!」

 

「りょ、了解っ!」

 

愛紗の命令に慌てて出ていく。

 

「主よ。袁術たちの処遇、如何いたしましょう」

 

「とりあえず今は後方の部隊が分かるまでは保留かな」

 

「そうですね。でも一体誰なんでしょうね?」

 

桃香も首を傾げて考えていた。

 

「案外、私たちを助けてくれる人たちかもしれませんね」

 

あっけらかんと答える桃香。

 

しかしそれが数時間後には新たな問題を抱えて現実のもととなるのだった。

 

………………

 

…………

 

……

 

「判明しましたっ!赤い牙紋旗に太史の文字。孫策軍の太史慈様ではないかと!」

 

「……まずいですね」

 

兵の報告に顔を歪める朱里。

 

「え?なんで?朱里ちゃん、どういうこと?」

 

理由が分からず首を傾げる桃香。

 

「それはですね……ここに袁術さんが居るからです」

 

「え?なんで居たらダメなの?」

 

雛里が袁術を見ながら答える。だけど、それでもまだ分からないでいる桃香。

 

「と、桃香様……袁術がだれに倒されたかお忘れですか?」

 

「え?……あっ」

 

桃香は思い出したのか小さく声を上げた。

 

「そう言うことです。雪蓮殿たちと同盟組んでいる私たちの所に袁術たちが居ると知れれば黙っては居ないでしょう。最悪、同盟破棄の恐れがあります」

 

「そうだよね。それじゃ袁術ちゃんたちにはここに居て貰うことにして私たちは優未さんたちをお迎えしに行こう」

 

「はっ」

 

愛紗の説明に納得した桃香は優未たちと会っている間、袁術と張勲はここに隠れていて貰うと皆に伝えた。

 

「それじゃ、優未さんたちをお迎えに行こう!」

 

「ちょ!妾を放って置くのか!?待つのじゃぁ〜〜〜〜〜っ!!」

 

「お嬢様、ちょ〜っとここでお留守番してましょうね〜。そうしないと今すぐ首が飛んじゃうかもしれませんよぉ〜」

 

「ぴーーーっ!それは嫌なのじゃっ!お、大人しく待っているのじゃ!」

 

「あぁ〜、恐怖に震えるお嬢様、最高っ!」

 

……本当に袁術の家臣なんだよね?張勲って……

 

俺は袁術の震える姿を見て喜ぶ張勲に疑問が浮かんでいた。

 

-7ページ-

「やっほ〜っ!一刀君!元気にしてた?」

 

「ああ、とりあえずはね」

 

元気良くて手を振って優未が現れた。

 

「お久しぶりです優未さんっ!優未さんも元気にしていましたか?」

 

「もっちろん!元気がとりえみたいなものだからね!そっちは大変だったみたいだね。袁紹に攻められてさ」

 

「ええ、まあ……でも、こうして皆元気に居ますから!それに新しい仲間も増えたんですよ!」

 

「へ〜……ってっ!あ、あそこに居るのって呂布じゃないの!?」

 

「はい!」

 

「は、はいって……ねえねえ一刀君、大丈夫なわけ?」

 

あっけらかんと答える桃香に優未は俺に小声で話しかけてきた。

 

「ああ、とてもいい子だぞ」

 

「…………??」

 

自分が見られていると分かったのか、恋は小首を傾げていた。

 

「ならいいけどさ……っ!」

 

「優未?」

 

頷く優未だったが直ぐに何かに気が付いたのか目線をそっちに向けていた。

 

「しっ……」

 

「し?」

 

「しっ……雪華ちゃ〜〜〜〜んっ!会いたかったよぉ〜〜〜〜〜っ!」

 

優未は雪華を見つけて猛ダッシュで雪華の下へと向かっていった。

 

「ふぇえっ!?ゆ、優未さんっ!?」

 

「あぁ〜〜んっ!元気にしてた?私が居ない間、寂しくなかった?私は寂しかったよぉ〜〜〜っ!」

 

「ふぇ。わ、私は元気にしてました」

 

「そっか〜〜っ!ん〜〜〜っ!相変わらずすべすべもちもちのほっぺだねぇ〜。お持ち帰りしたいっ!」

 

「ふぇえええっ!?ご、ご主人様ぁ〜〜、た、助けてくださいぃ〜〜〜」

 

優未のあまりの猛アタックに涙目になりながら雪華は俺に助けを求めてきた。

 

「そ、それで、優未はここまで何しに来たんだ?」

 

「あっ!そうそう、そうでした!」

 

優未は今まで忘れていたのか本来の目的を思い出したようだった。だけど、雪華からは離れようとはしなかったけど。

 

「ふぇ〜」

 

涙目になって眼で訴えてくるも俺にはこれ以上どうすることもできなかった。ただ、早く話を終わらせて雪華を解放してやることくらいしか。

 

「あっ、でももうちょっと待っててね〜」

 

そう言いながら優未は雪華に抱き付きながら何かを探しているのかキョロキョロとあたりを見回していた。

 

「……(にかっ!)見つけた〜〜〜っ♪」

 

「えっ?」

 

(むぎゅ〜)

 

「あわわっ!?」

 

「や〜んっ!雛里ちゃんも元気にしてた〜?私はすごく会いたかったよぉ〜」

 

「あ、あわ、あわわ……し、朱里ちゃ〜ん」

 

「えっと……ごめんね、雛里ちゃん。私じゃ無理だと思う」

 

「そ、そんなぁ〜、ご、ご主人様ぁ〜」

 

優未に抱き付かれ助けを求める雛里もまた、涙目になっていた。

 

「あ、あの……ご主人様?あの方は一体……」

 

「ああ、彼女は……優未、みんなに挨拶してくれるかな。初めての人も居るし」

 

「あっ、うん。了解!はぁ〜、堪能堪能♪」

 

「あわわ……」

 

「ふぇ〜……」

 

雛里と雪華はヘナヘナと地面に座り込み、優未はなぜかお肌がツルツルになったように見えた。というか、本当にツルツルになってないか?どことなく光沢が増したような……

 

「えっと、はじめましてっ!姓は太史、名は慈、字は子義。只今、しぇれっ、と孫伯符の下で将をしてます。同盟ということでこれからお付き合いがあると思うけど、宜しくね」

 

菫や翠たちに挨拶をする優未。

 

「ちなみに……一刀君とは将来を誓い合った仲で〜す♪」

 

優未は俺の腕に抱き付き、とんでもないことを口走った。

 

「はぁっ!?ちょ!ゆ、優未、何言い出すんだ!?俺はそんなこと誓ってないぞ!?」

 

「え〜?そうだったかな〜♪」

 

「ご主人様……」

 

「桃香、信じてくれ。俺はっ」

 

「ちゃんと説明して下さいね、ご主人様?」

 

笑顔で話す桃香だったが、顔をひくつかせ、眉がピクピクと動いていた。

 

ダメだ、桃香は完全に信じきってるぞ!そ、そうだ!愛紗なら……っ!

 

「あ、愛紗っ!君なら信じてくれるよねっ!」

 

「ご主人様……」

 

「うんうんっ!」

 

「私も優未殿とどういう御関係なのかじっくりとお伺いしたいです」

 

こ、こっちもかーーーーっ!!

 

「だ、だから。俺と優未はっ」

 

「将来を誓い合った仲♪」

 

誤解を解こうと桃香たちに説明をする俺にすかさず話に割り込んでくる優未。

 

「ちっがーーーうっ!ゆ、優未っ!ちょっと黙ってて!?話がこじれるからさっ!」

 

「え〜っ♪」

 

え〜っと抗議の声を上げるもすごく上機嫌な優未。

 

「「ご主人様っ!」」

 

桃香と愛紗に詰め寄られ、俺は俺はどうしたらいいんだよ!

 

「あらあら、太史慈さん、少しご主人様をからかい過ぎですよ。そろそろここへ来た目的を教えてはいただけませんか?」

 

「ありゃりゃ、怒られちゃった。あ、それと私の事は真名で呼んでもらっていいからね。私の真名は優未。これからよろしく!」

 

「((私|わたくし))の真名は菫と申します。こちらこそ宜しくお願い致します、優未さん」

 

菫に注意され、舌をペロッと出して俺から離れた優未。そして、真名を交換していない菫たちと交換し合っていた。

 

「それじゃ、なんでここに私が来たか説明するね。実は……」

 

優未の話をなぜか俺は両腕に桃香と愛紗に抱き付かれながら聞く羽目になった。

 

-8ページ-

《優未視点》

 

あれは袁紹軍が一刀君たちの領地に攻め込むと報告があった日の事だった。

 

「じゃっじゃ〜〜っ!それでは発表します!私はっ!」

 

大きな声を出し高々に私は発表する。

 

「一刀君たちに救援物資を送りに行こうと思いますっ!」

 

腰に両手をあてて胸を張って答える。

 

「……」

 

「あははっ」

 

眼頭に指を当てて首を振る冥琳の横で大笑いする雪蓮。

 

「……今がどういう状況かわかって言っているのだろうな、優未」

 

「もっちろん!袁術を倒して呉、内部が安定してないってことはわかってるよ」

 

「だったらなんでそんな話が持ち上がってくるのだ?」

 

「そりゃ、同盟結んでるし。助けあわないとね!」

 

「……雪蓮、お前からも言ってやってくれ」

 

冥琳は呆れながら雪蓮に私を説得してくれと話を振る。でも、それは逆効果だと思うんだよね〜。

 

「え〜?別にいんじゃない?」

 

「雪蓮っ!」

 

「さっすが、雪蓮。わかってる〜♪」

 

雪蓮の適当な返答に冥琳が声を上げる。ほらね、やっぱりこうなった。雪蓮と私は少し思考が似てるからそういうと思ったんだよね。

 

「将が一人抜ければそれだけ呉の統一に時間が掛ってしまう。それは、お前も分かっているだろ、雪蓮」

 

「ええ。わかってるわよ」

 

「だったらなぜ優未を行かせる?それだけの利点があるようには到底思えないぞ」

 

「もう、頭が固いわよ冥琳。そんなの簡単なことじゃない、利点が無いのであれば作ればいいのよ♪」

 

「……どういうことだ?」

 

「ふふっ。つまり、優未を行かせられるだけの利点をこちらで作っちゃえば良いってこと♪」

 

片目を閉じて可愛く決める雪蓮。

 

「……なるほどな。それだけの利点を作る、か……」

 

顎に手を当てて何かを考え始める冥琳。

 

「冥琳がああやって考えてる時って、結構えげつないこと考えてるのよね〜」

 

顔を寄せて小声で話しかけてくる雪蓮。

 

「聞こえているぞ、雪蓮」

 

「知ってるわよ〜。冥琳は地獄耳だもんね」

 

「はぁ、まったく……酒も呑んでいないのに酔っているように見えるぞ、雪蓮」

 

冥琳は怒ることなく、それとなく注意をする。普通なら怒るところだよね。

 

「よし、優未。劉備軍に物資を送ることを許可しよう」

 

「え、本当に良いの?」

 

「ああ、こちらもそれ相応の利益を得る条件をだす。それをこれから雪蓮と話し合う」

 

「え〜っ!?まだやらなくちゃいけない書簡がこんなになるのに!?」

 

「善は急げというだろ?お前も許可を出したのだ、責任もって付き合ってもらうぞ。それにサボらずやっていればこんな山積みになることも無かったのだぞ」

 

「ぶー、ぶーっ!冥琳、横暴っ!」

 

「優未。お前は至急、亞沙にこれを渡してくるのだ。劉備軍に送る物資の一覧だ」

 

口をとがらせて抗議する雪蓮だったけど、冥琳はいつもの事だと言わんばかりに無視して竹簡に必要な物を書き込んで私に手渡してきた。

 

「りゅか〜い。それじゃ、行って来ま〜〜す♪」

 

やった〜、あとはこれを亞沙に渡せば、この地獄のような書簡作業から開放されるっ!

 

私は意気揚々と立ち上がり部屋から出ようとした。

 

「それを亞沙に渡した後、間違っても逃げようなどと思うなよ。お前の分は残しておくからな。もし逃げた場合……」

 

「ば、場合?」

 

「ふふっ、私に言わせたいのか?」

 

冥琳はニヤリと笑い眼鏡をクイッと直すと光りが眼鏡に反射した。

 

『も、戻ってこなかったら……やられる!』

 

脳裏にこの言葉が木霊した。

 

「〜〜っ!わ、渡したら直ぐに戻ってきます!」

 

冥琳の不気味な表情に私は危険を察して大きな声で答えた。

 

「よし。ではよろしく頼むぞ」

 

「は、はいっ!!」

 

私は未だに不適に笑う冥琳を背に部屋から急ぎ出た。

 

(ばたんっ)

 

「……はぁ、怖かった」

 

扉を閉めて部屋から少し離れて溜息をついて安堵した。

 

「もぉ、冥琳怖すぎ!あれだから、男の一人も出来ないんだよっ!まあ、それは私も言えた事じゃないんだけどさ」

 

廊下を歩きながら冥琳の文句を言う。

 

「まあ、呉の事と、雪蓮の事を考えて動いてるって事は分かってるんだけどね」

 

「でも、少し頭が固すぎな気がするんだよね」

 

でも、まあ。後が怖いから早くこれを亞沙に渡し戻ろっと。

 

「待っててね一刀君。直ぐに会いに行くからね!」

 

私は空に向かい一刀君に届くように大きな声で伝えた。

 

-9ページ-

《一刀視点》

 

「というわけで、今。私がここに居るって訳」

 

優未は経緯を私情を挟みながら説明してくれた。

 

「そっか、色々あったんだね」

 

「そうなんだよ!色々あったんだよ!だからね、この荒んだ心を癒す為に……」

 

「ふぇっ!」

 

「あわわっ!」

 

雪華と雛里に目を向ける優未。それに気が付いた二人は慌ててなぜか俺の後ろに隠れてきた。

 

うん、取り合えず両手に桃香と愛紗、足と腰に雛里と優未に抱きつかれてまったく身動きが取れないんだけど。

 

「いいな〜、一刀君。雪華ちゃんと雛里ちゃんに抱きつかれて」

 

いや、指を咥えて見られても……

 

「それより優未さん。どうして私たちがここに居るって分かったんですか?益州に向かっては居ますけど、私たちがどこを通って行くかは知らないと思うんですけど」

 

「え?あ、うん。それはね。冥琳が『多分、朱里の事だ。あまり兵を疲弊させない道を選ぶだろう』とか言って、まずは諷陵に向かえって言われたの」

 

「まあ、確かに後衛支援があるわけじゃないからな。少しでも戦闘は回避する方向で居たけど。ここまで的確とはな。恐れ入ったよ」

 

「まあ、私としては、無事に会えたから、そう言うのはどうでも。いいんだけどねあ、それとこれが私が持ってきた物資の一覧っ」

 

優未が書簡を渡そうとしたその時だった。

 

『いつまで妾を待たせるのじゃ〜〜〜〜っ!!』

 

(ぴたっ)

 

優未は手渡す瞬間に聞こえた声に動きを止めた。

 

「あれれ?なんだか、すごく聞きなれた、思い出すだけでも腹立たしい声が聞こえてきたね」

 

優未は笑いながら話しかけてきたが、その雰囲気は穏やかではなかった。

 

不味いな……この様子だと、説明しても納得しなさそうな気がするぞ。

 

「……会わせてくれるよね、一刀君?受け渡しの話はその後だよ」

 

「……ああ、わかった」

 

ここで首を横に振れば呉からの援助は無くなる、それどころか同盟破棄にもなりかねない。俺は頷くしかなかった。

 

………………

 

…………

 

……

 

「いつまで待たせるのじゃ、妾を無視して!」

 

「まあまあ、お嬢様。もう少し待ってみましょうよぉ」

 

「どれだけ待てば良いのじゃ」

 

「ん〜、そうですね〜……二刻くらい?」

 

「そんなに待てるわけが無いであろう!」

 

「ですよね〜」

 

「それじゃ、直ぐに終わらせてあげるね」

 

文句を言う袁術に優未は話しかけた。

 

「やっと着たのじゃ、いつまで待たせるつもりだったのじゃ!……ぴっ!」

 

やっと来たのかと文句を言いながら振り向く袁術、そして、そこに立っている人物を見て小さく悲鳴を上げた。

 

「あれれ!?太史慈さんがどうしてここにいるんですか!?」

 

「それはこっちの台詞だよ。なんでここに居るのかな?」

 

笑顔の優未だったが、袁術に向けている殺気は半端じゃなかった。

 

「そ、そそそそんなことお主には関係ないじゃろ。わ、妾は孫策の言う通り呉を離れたのじゃ、その後はか、勝手ではないか」

 

震えながらも強気の発言をしようとする袁術。

 

「ふ〜ん。でも、それって雪蓮との約束だよね?」

 

「へ?」

 

「それって、私には関係ないよね?」

 

「ぴぃーーーーーっ!」

 

「た、太史慈さん!?」

 

優未が得物を出したことに袁術は悲鳴を上げ、張勲さんは驚きの表情を見せた。

 

「さてと……もう、思い残すことは無いよね?」

 

「あ、あああるのじゃ!まだ、あるのじゃ!」

 

「……へ〜。それは何かな?」

 

「そ、それはじゃな……な、七乃っ!」

 

「えぇええっ!?ここで私に振るんですかぁ!?」

 

「ふ〜ん。あんたが答えてくれるの、張勲?」

 

「あ、あははは……えっとですねぇ〜」

 

愛想笑いをする張勲だけど、それで事態が解決するわけも無く……

 

「そっか、やっぱり無いんだね……それじゃ、お別れだよ」

 

高く得物を掲げる優未。

 

「やなのじゃぁーーーーっ!まだ死にたくないのじゃぁ〜〜〜〜〜っ!!助けてたも〜〜っ!!」

 

「今更命乞い?そうやって泣き叫べば誰かが助けてくれるとでも思ってるのかな?これだから袁家は……」

 

泣いて命乞いをする袁術に優未は冷めた目視線で蔑んでいた。

 

「お嬢様をやるのであれば私を代わりにやってください!ですからお嬢様の命だけはっ!」

 

「な、七乃っ!何を言うのじゃっ!」

 

「私はお嬢様のお世話係も兼ねています。ですから、これくらいはしないと」

 

「……ふんっ」

 

「あぅっ!」

 

「七乃っ!」

 

袁術を庇う張勲に優未は得物を振り下ろし、腕を切り裂いた。

 

「どう、痛いでしょ?これでもまだその無能な主を庇う?」

 

「あ、当り前です……私は美羽様の家臣ですから……っ!」

 

「まだそんな口が利けるんだね」

 

優未はさらに七乃の腕に傷をつけた。

 

「な、七乃っ!」

 

「だ、大丈夫ですよ、お嬢様。だから泣かないでくださいね」

 

張勲は痛いのを我慢して心配する袁術に笑いかけていた。

 

「優未殿っ!これは少しやりすぎではっ!」

 

見かねた愛紗が優未に抗議した。

 

「……何が?」

 

「何がって……これはあまりにも惨い仕打ち。いくらなんでもやりすぎです」

 

「あははっ、これが?」

 

愛紗の言葉に優未は呆れた声で笑っていた。

 

「それじゃ、愛紗。私たち呉が、こいつらにどんなことをされてたか知ってて言ってるんだよね?」

 

「そ、それは……」

 

「そうだよね。わかる訳ないよね、実際に受けてみないとその苦しみは分からないんだから……だから、邪魔しないで」

 

「っ!」

 

優未の凄味に愛紗は黙るしかなかった。

 

「さてと、邪魔が入っちゃったけど。そろそろお別れしようか」

 

「ひぃぃぃぃっ!!ガクガクブルブルっ!」

 

「お嬢様っ!」

 

「七乃ぉぉっ!!」

 

「……じゃあね」

 

抱き合う二人に優未は無情にも得物を振り下ろそうとした。

 

「「ーーーーーっ!!」」

 

-10ページ-

(がきんっ!)

 

「……なんで邪魔するのかな一刀君」

 

優未が得物を振り下ろした瞬間、俺は自分の得物でそれを止めた。

 

「いくら一刀君でも、許さないよ」

 

俺を睨み付ける優未。普段俺に向けている視線じゃなく、本当に敵に向けるような鋭い目線だった。

 

「優未がどれだけこの二人を恨んでるかは俺には分からない」

 

「だったら、邪魔しないでくれるかな?」

 

「それは出来ない」

 

「なんで?」

 

「ここは呉じゃないからね。それに今は俺たちが彼女たちを保護してるんだ。勝手に殺されちゃ困るんだよ」

 

「……」

 

優未は俺を睨み続け得物を戻そうとはしなかった。

 

すごい力だな……押さえておくのがやっとだ。

 

「……退いて」

 

「退かないよ」

 

「……退いてくれないと私が持ってきた食料とか薬、あげないって言っても?」

 

「ああ」

 

「私たちが同盟破棄するって言っても?」

 

「優未さんっ!?」

 

優未の言葉に桃香が驚きの声を上げた。それでも俺は……

 

「ああ」

 

迷うことなく頷いた。

 

「……」

 

「……」

 

暫く睨みあう俺たち。

 

「……はぁ。やめやめ」

 

優未は得物を引いて溜息を吐いた。

 

「一刀君、一つ聞きたいんだけど」

 

「なに?」

 

「もし本当に私が雪蓮に同盟破棄の事を伝えたらどうするつもりだったの?」

 

「え?あ、あ〜……どうしよう?」

 

「ええ!?な、何も考えてなかったの?」

 

「いや、考えていなかった訳じゃないけど、そうなったらまずいかなとは思ってたよ」

 

「それって何も考えてなかったと同じだよ」

 

た、確かにそう言われちゃうと返す言葉が無い。

 

「で、でも、信じてたし」

 

「何を?」

 

「優未がそんなことしないって」

 

「っ!」

 

微笑みながら答えると、なぜか優未は黙ってしまった。

 

「ゆ、優未?」

 

「えっ!な、何かな?一刀君」

 

「いや、急に黙ったからどうしたのかなって」

 

「な、なんでもないよ!あは、あはははははっ!」

 

「それならいいんだけど……っ!いてててっ!」

 

「む〜〜〜っ!」

 

なぜか桃香に思いっきりお尻を抓られてしまった。

 

「ご主人様っ!」

 

「は、はいっ!」

 

桃香の強い口調に思わず背筋を伸ばして返事をしてしまった。

 

「とりあえず、優未さんはお疲れだと思うので用意した天幕で休んでもらおうと思います、それでいいですよね!」

 

「は、はい。それで構いません」

 

「そういう事だから菫さん。お願いします」

 

「はい。かしこまりました、桃香様……ふふふ」

 

頷く菫はなぜかおかしそうに笑っていた。

 

「あ、えっと?」

 

「さあ、優未さん。こちらへどうぞ」

 

「あ、は、はい。それじゃ、一刀君、またあとで書簡を渡しに来るね」

 

「あ、うん。またあとで」

 

優未は菫に連れられて天幕から出て行った。

 

「えっと……もしかして桃香、怒ってる?」

 

「怒ってません」

 

「いや、どう見ても頬を膨らませてる時点で怒ってるよね?」

 

「怒ってませんっ!」

 

「は、はい……そ、そうだ!袁術たちをどうするか決めないと」

 

一回目より強い口調で言われてしまい、俺はそれ以上何も言えなくなり、話を変えた。

 

「ひっぐ……ひっぐ……」

 

「よしよし、もう大丈夫ですよお嬢様」

 

目を向けると張勲が袁術をあやしていた。

 

「でも、ぐす……七乃が怪我を……妾のせいで、怪我を……」

 

「これくらい何ともありませんよぉ。それより、お嬢様がご無事で何よりです」

 

「ぐすっ、七乃ぉ〜〜〜〜〜っ!!」

 

大丈夫と答える張勲だったがその顔色はあまりよくは無かった。

 

「張勲さん」

 

「あ、はい。なんですか?今、お嬢様をあやしているんで後にしてほしいんですけどぉ」

 

「あやすにしても、その怪我じゃ袁術も安心できないだろ?」

 

「ああ、これですか?こんなの対したことないですよ。唾でもつけとけば治っちゃいますよ」

 

あっけらかんと答える張勲だが、やはりどこか無理しているように見えた。

 

「ダメなのじゃ、ちゃんとちりょうを受けないとダメなのじゃ」

 

「お嬢様……」

 

涙で目を腫らしながらも強い口調で答える袁術。

 

「袁術の言う通りだよ。それじゃ、ちょっとだけ張勲を借りても良いかな?」

 

「何をするのじゃ?」

 

「腕の治療をするんだよ。その間、待っててくれるかな?」

 

「ぐす……分かったのじゃ。ここで待ってるのじゃ。だから七乃を治してたも」

 

袁術は涙を拭き座り直して俺にお願いをしてきた。

 

「ああ、任せて……さあ、行きますよ」

 

「ひゃうっ!?」

 

張勲を抱きかかえると、驚いたからか、可愛らしい悲鳴をあげた。

 

「あ、あの、どこまで行くんですか?」

 

「そこの椅子だよ」

 

「だ、だったら一人で歩けますぉ」

 

「怪我人なんだから無理しないの。ほい、到着っと」

 

張勲を椅子に座らせて治療を開始する。

 

「ふわ〜、凄いですねぇ。本当に傷が治って行っちゃってます」

 

張勲は傷が塞がって行くのを見て驚いていた。

 

「これでよし。もう平気だと思うけど、あまり無理しないでね」

 

「……わぁ〜、本当に元通りですね」

 

治療が終わり、張勲は腕を回し、調子を見ていた。

 

-11ページ-

「お嬢様、もう平気ですよ」

 

「っ!ほ、本当かえ?」

 

「はいぃ。ほら、この通り」

 

「〜〜〜っ!良かったのじゃ〜〜っ!」

 

「おっとっ!いきなり飛びついたら危ないじゃないですかぁ、お嬢様」

 

嬉しさのあまり、張勲に飛びつく袁術。

 

「七乃を治してくれて、ありがとうなのじゃっ!」

 

「どういたしまして。それで、俺たちも聞きたいことがあるんだけど、なんで俺たちの食料を盗んで食べてたんだ?

 

「ああ、それはですね……」

 

張勲さんは苦笑いを浮かべながら説明してくれた。

 

張勲さんの話によると、雪蓮たちに城を攻め落とされてから歌を唄い路銀を稼ぎながらここまで来たらしい。

 

そして、丁度、俺たちを見つけそのまま荷物に隠れて着いてきてしまったらしい。

 

「と、まあ。こんな感じですねぇ」

 

あっけらかんと答える張勲に開いた口が塞がらなかった。

 

「あれれ?どうかしましたか?」

 

「い、いやぁ……随分とたくましいなと思って」

 

「まあ、私は平気でしたけど、お嬢様は結構駄々をこねてましたけどね」

 

「な、何を言うか、七乃っ!妾は駄々などこねてないぞっ!」

 

「あれ〜?そうでしたっけ〜」

 

「そうなのじゃっ!」

 

「♪〜〜」

 

胸を張る袁術を張勲は嬉しそうに見ていた。

 

「ご主人様、そんな事より、この者たちをどうするおつもりなのですか?」

 

「どうするって、どういう事?」

 

「ですから、彼女たちの処遇です。先ほどは優未殿が引いてくれたからいいようなものの、一歩間違えば同盟破棄もありえたのですよ」

 

「まあ、そうなんだけどさ。そうならなかったんだからいいじゃないか」

 

「良くありません!相手はあの袁家なのですよ、袁家っ!この意味を分かっておいでですか?」

 

「でも、二人だけで何か出来るわけでもないし、それに袁家、袁家って言うけど。袁紹も曹操に負けて実質、袁家は滅んでるじゃないか。そこまで気にすることでもないと思うけど」

 

「はぁ……星、お前からもご主人様に何か言ってやってくれ」

 

愛紗は呆れながらも星に話を振っていた。

 

「ふむ。まあ、主には主のお考えがあるのだろうから、別に良いのではないか?」

 

「星、お前までもっ!」

 

「まあ落ち着け愛紗よ。では、一つ聞くがあの間の抜けた袁術に何かできると思うか?」

 

「……」

 

愛紗は振り向き袁術たちを見た。

 

「のう、七乃。お腹空いたのじゃ」

 

「お嬢様、もう少し我慢しましょうね〜」

 

「うぅ、もうお腹がペコペコなのじゃ……」

 

「困りましたね〜。それじゃ、私のお乳を飲みますか?」

 

「なんとっ!七乃は牛だったのかえっ!?」

 

「……確かに」

 

袁術と張勲、二人のやり取りを見て納得する愛紗。

 

「であろう?だったら、主や桃香様に一任するのも良いのではないか?と言うか、主はもうすでにお決めのようだがな。そうですよね、主?」

 

星はニヤリと笑い俺に話を振ってきた。

 

「ま、まあね」

 

「……はぁ、何となくご主人様の言いたいことは想像はつくが……」

 

愛紗も半分諦めかけたように溜息を吐いた。

 

「えっと……袁術たちを保護しようと思うんだけど……ダメかな?」

 

「ダメに決まっていますっ!私は反対です。後々、私たちの足枷になります!」

 

愛紗は袁術たちを仲間にするのは反対だと強く拒否してきた。

 

「……理由を聞いても良いですかな、主よ」

 

「あ、ああ。さっきの張勲を気遣う袁術を見て本当はそれほど悪い奴なんじゃないかなって思って」

 

「私もご主人様と同じ意見ですっ!仲間を気遣う人に悪い人はいないと思いますっ!」

 

「桃香様もですか……」

 

俺の意見に桃香も賛同してくれた。

 

「まあ、お二人がお決めになったのですから我々がどうこう言うつもりはありませんが」

 

「おや、私はもともと主が決めたことに文句を言うつもりは無いぞ」

 

「なっ!」

 

「そうですね……多分、そうなるだろうと私も思っていましたから」

 

「朱里までもっ!」

 

「お兄ちゃんだから仕方ないのだ」

 

「り、鈴々までも……これでは私だけが悪者ではないか」

 

「いや、そうやって愛紗が反対意見を言ってくれるから意見が一辺倒にならなくて済むんだ。いつも助かってるよ愛紗」

 

「ご主人様……」

 

「愛紗……」

 

俺は愛紗の両肩に手を置いて見つめた。

 

「は〜い。そこまでだよ、愛紗ちゃん♪。ご主人様とイチャイチャするのは」

 

「っ!と、桃香様っ!べ、別に私はっ」

 

俺と愛紗の間に桃香が割り込んできた。

 

「それじゃ、袁術ちゃんを仲間にするってことでみんなも良いのかな?」

 

愛紗は顔を赤くして言い訳をしようとしたが桃香はすでに話を進めていた。

 

「はい。構いませんぞ」

 

「鈴々もなのだっ!」

 

「((私|あたし))も別にいいぜ」

 

「ご主人様が良いならたんぽぽも賛成っ!」

 

「私たちも問題ありません」

 

「です」

 

全員が俺の意見に賛成してくれた。

 

「ありがとう、みんな……さてと」

 

俺は袁術たちに向き直った。

 

「あっ、お話は決まりましたか?」

 

「ああ」

 

張勲は俺が振り返ったことに気が付いて話しかけてきた。

 

「君たちさえよければだけど、一緒に行かないか?」

 

「私たちがですか?」

 

「ああ、どうせ、行く当てもないんだろ?」

 

「ええ。ここで見捨てられたら、また美羽様の歌で路銀を稼いで生活するこちになりますね」

 

「だったら、俺たちの力になってくれないかな?もちろん、働いてくれた分だけの給金はだす。どうかな?」

 

「どうします、お嬢様?」

 

張勲は袁術に話を振る。

 

「妾は構わぬぞ。それに、そなたは七乃を助けてくれた恩人なのじゃ。今度は妾がお主たちの力になるのじゃ」

 

「ありがとう。これから宜しくな、袁術」

 

「うむっ!それと、妾の事は真名で呼んでも構わぬぞ。主様、これから宜しくなのじゃ」

 

「ぬ、主様?」

 

「およ?お主が皆の主ではないのかえ?」

 

「まあ、そうだけど」

 

「なら、主様で良いであろう。そうだな、七乃」

 

「はぃ〜、それでは北郷さん、じゃなかったご主人様。これから宜しくお願いしますね」

 

「ああ。こちらこそよろしく、張勲」

 

「私の事も真名で構いませんよ。真名は七乃です」

 

「わかった、七乃、これからよろしく」

 

「はい、お嬢様ともどもこれから宜しくお願いします」

 

「よろしくなのじゃ!」

 

こうして新しく、美羽、七乃が仲間に加わった。とりあえず、しばらくは客将扱いと言うことになった。

 

-12ページ-

「さてと……どうやって優未に伝えようかな……」

 

重い足取りで優未の待つ天幕へ向かう。

 

「頑張ってください、ご主人様っ!」

 

俺の横で両手を握りしめ、ガッツポーズをしながら俺を元気付ける桃香。

 

「あらあら、ご主人様。もうお話はお済になったのですか」

 

歩いていると天幕の前で菫が待っていた。

 

「ああ。優未は中に?」

 

「はい。中でご主人様をお待ちになっております」

 

「わかった。それじゃ、行ってくるよ。あ、そうだ。菫が居ない間に話し合っていたことだけど」

 

「はい。愛紗さんたちにお伺いいたします。まあ、何となくですが、どんな展開になったかは今のご主人様のお顔を見れば想像ができますが」

 

菫は俺が言う前に言いたいことが分かったのか微笑みながら頷いた。

 

「そ、そんなに顔に出てる?」

 

「はい。ご主人様は直ぐに顔に出ますわ」

 

「……本当に?」

 

「はい。ご主人様は結構わかりやすいですよ」

 

「そ、そうだったのか……」

 

桃香に話を振ると同じ返答が返ってきた。

 

「ま、まあ。まずは優未さんに話ましょう、ご主人様っ!」

 

落ち込む俺に桃香は慌てて話を変えた。

 

「そうだな……それじゃ、行ってくるよ」

 

「はい。行ってらっしゃいませ、ご主人様」

 

菫に見送られて俺と桃香は優未の待つ天幕の中へ入った。

 

「お待たせ、優未」

 

「あ〜っ!やっときたっ!もう、待ちくたびれたよぉ」

 

頬を膨らませて怒る優未。なんだか少し可愛いな。

 

「ごめんごめん。やっと話がまとまったところだったんだ」

 

「ああ、袁術の事?それで、どうなったの?」

 

「うん……俺たちの所で客将として働いてもらうことにした」

 

一瞬、躊躇しながらも、俺は正直に答えた。

 

「そっか。うん、そういう事なら了解したよ」

 

「え?……それだけ?」

 

「うん。そだよ」

 

あっけらかんと答える優未に思わず拍子抜けしてしまった。

 

「ほ、本当に良いのか?」

 

「うん。多分、雪蓮もここに居たら同じこと言うと思うし。あ〜、でも……」

 

「で、でも?」

 

「あの子が居たら、ものすごく怒るんだろうな。間違いなく」

 

「あの子って?」

 

「そっか、まだ一刀君たちは会ったことが無いんだよね。あの子って言うのは雪蓮の妹の事だよ」

 

「雪蓮の妹?」

 

雪蓮の妹ってことは……孫権、の事かな?確か、孫堅の子供は孫策、孫権、あとは孫尚香の三人だったはずだ。

 

「そっか……孫権さんも女性なんだ」

 

「あれ?一刀君知ってたの?」

 

「え?あ、ああ。歴史で勉強したから」

 

「歴史?」

 

「あ、ああっ!何でもないよ、こっちの話っ!」

 

「ふ〜ん。気になるけど、今はこっちが大事だよね。それじゃこれを見てね、もちろんだけどこっちにもそれなりに要求させてもらってるから、ちゃんと読んでね。問題なかったら判を押してもらうから」

 

優未は気になりながらもさっき渡し損ねた書簡を手渡してきた。

 

「拝見させてもらうよ……」

 

優未から書簡を受け取り、中を確認する。

 

中に書いてあったのは食料、薬、武具の数が記されていた。

 

そして……

 

「要求として、天の世界の技術提供、か……」

 

確かに、ここではまだ発明されていない知識を俺は持っている。きっとそれだけで武器になるんだろう。

 

「ご主人様、私も見てもいいですか?」

 

「ああ、はい」

 

「ありがとうございます、どれどれ……」

 

桃香も俺から書簡を受け取り内容を確認した。

 

「どうかな、桃香?」

 

「……はい。私はいいと思いますよ」

 

桃香は書簡の内容で問題ないようだ。

 

「そっか、なら……俺もこの内容なら問題ないかな」

 

「ホント?それじゃ、ここに判を押してね」

 

優未は別の書簡を取り出してここに判を押してくれといってきた。

 

「っと、これでいいかな?」

 

「うん。問題ないよ。それじゃ、この二つの書簡は私が預かっておくね。あ、それと、一刀君たちが成都を治めるまで客将として一緒に居るから。よろしくねっ!」

 

「うん!ちゃんと送り届っ、じゃない。見届けないといけないからね。雪蓮たちに報告するためにもさ」

 

「そっか。ありがとう優未」

 

「ありがとうございます、優未さん!」

 

「いいって、いいって。私も暫く、雪華ちゃんや雛里ちゃんをすりすり、もふもふ出来ると思えば役得だしね!」

 

………………

 

…………

 

……

 

「ふえっ!〜〜〜〜っ!」

 

「あわわっ!〜〜〜っ!」

 

「ん?どうしたのだ二人とも」

 

「い、いえ。なんだか一瞬、背中がぞわぞわっとして寒気が……」

 

「私もです」

 

「ふむ……二人して風邪か?主に看病でもしてもらうか?」

 

「ふえっ!?な、何を言い出すんですか、星さんっ!ご、ご主人様に看病してもらうだなんてっ!」

 

「……(コクコクッ!)」

 

「なに、主はああ見えて結構献身的だぞ。私の時など……おっと、これは言わないでおこう」

 

「な、何があったんですかっ!?」

 

「あわわっ、気になります」

 

「はっはっはっ!気になるなら。実際に主に看病してもらうのだな」

 

「ふぇ〜〜〜」

 

「あわわっ……」

 

星にからかわれてるとも知らず、一刀に看病してもらっているところを想像する二人であった。

 

………………

 

…………

 

……

 

「ええっ!?は、判を押しちゃったんですかっ!?」

 

天幕の中で朱里がひときわ大きな声を上げた。

 

「えっ、だ、ダメだったのかな?内容も取引するものも、問題ないと思ったんだけど……」

 

「出来れば、私たちにも相談してほしかったです」

 

「で、でも、取引する材料はご主人様の天の知識だけだったんだよ?」

 

「本当にそれだけでしたか?」

 

「え?う、うん……そうだと思うけど」

 

「ああ、俺と桃香が確認したんだから間違いないと思うぞ」

 

朱里の確認に俺も桃香も頷く。だって、二重で確認したんだ。二人同時に間違えることは無いだろう……多分。

 

「はぁ……わかりました。今回は構いません。でも、次からはちゃんと持ち帰って私たちにも見せてくださいね」

 

「はい。以後気を付けます」

 

「私も、次からは気を付けるね」

 

朱里に以後、同じ間違いをしないと誓う。

 

「……本当にそれだけだといいんですけど……」

 

朱里は俺たちに聞こえない声でポツリと呟いた。

 

《To be continued...》

-13ページ-

葉月「はい!っという訳で今回のお話は如何だったでしょうか?」

 

愛紗「い、いきなりだな」

 

葉月「たまにはこんな始まりも良いかなと思いまして」

 

愛紗「ふむ。しかし、ここに来て美羽と優未が出てくるとは思わなかったぞ」

 

葉月「そうですね。でも、優未に関してはそうでもないんですよ」

 

愛紗「そうなのか?」

 

葉月「実は、伏線を張っていましたから。インスパイヤにも載せていますが第33話です。気になる方はもう一度読んでみてはいかがでしょうか?」

 

愛紗「ふむ。そうだったのか……しかし、仲間になるとは聞いていなかったぞ」

 

葉月「そりゃ、言っていませんでしたからね。まあ、優未は一時的に仲間になっただけですから、ずっとって訳じゃありませんよ」

 

愛紗「ふむ。だがしかし、この世界の優未も積極的だからな……」

 

葉月「一刀を取られるのが心配ですか?」

 

愛紗「なっ!べ、別にそんなことは心配していないぞ!ほ、本当だぞっ!」

 

葉月「ホント、愛紗は分かりやすいですね。そんなに顔を赤くして否定されても説得力無いですよ」

 

愛紗「うぐっ!」

 

葉月「まあ、優未によって、場をかき乱されるのは覚悟しておいた方がいいですね」

 

優未「優未と呼ばれたような気がして、私、参上っ!」

 

葉月「おっ、噂をすれば」

 

優未「なになに〜?私の事、話してたの?あっ!それとも、私とぉ〜、一刀君のぉ〜、将来の事かな?」

 

愛紗「そんな訳あるか〜〜〜〜っ!!なぜ、貴様とご主人様の将来になるのだっ!」

 

優未「だって〜、ねえ?」

 

愛紗「ねえ?ではないっ!ご主人様と将来をご一緒するのはこの私だっ!」

 

葉月「へぇ〜」

 

優未「へぇ〜」

 

愛紗「な、なんだ二人してニヤニヤと笑いよって」

 

葉月「愛紗って」

 

優未「結構大胆だよね」

 

愛紗「な、なにっ!?」

 

優未「ご主人様と将来をご一緒するのはこの私だっ!」

 

愛紗「〜〜〜っ!!」

 

葉月「愛紗っ!俺の事をそこまで思ってくれていたのかっ!」

 

優未「ご主人様っ!ずっとお慕いしておりました!」

 

葉月「さあ、私の胸飛び込んでおいで、愛紗っ!」

 

優未「ご主人様っ!」

 

葉月・優未「「抱きっ!」」

 

愛紗「あ、ああ……ああああああっ!?!?!?」

 

優未「あらら、行っちゃったよ」

 

葉月「行っちゃいましたね」

 

優未「どうしよっか」

 

葉月「そうですね……取り合えず、次回予告でもしておきましょう」

 

優未「次回っ!一刀君と優未がイチャイチャラブラブに桃香、愛紗が嫉妬の眼差しの巻っ!」

 

葉月「んなわけない」

 

優未「え〜っ!なんでよ〜。ぶーぶーっ!」

 

葉月「そんなの書いたら私の命がありませんよっ!」

 

優未「私、関係ないし♪」

 

葉月「ひどっ!」

 

優未「まあ、いいじゃんっ!どうせ、その内書くんでしょ?」

 

葉月「……」

 

優未「書くよね?」

 

葉月「……」

 

優未「か・く・よ・ね?」

 

葉月「双虎戟を取り出して脅してもダメですよ」

 

優未「え〜〜〜っ!そんなこというと、双虎十字戟にして振り回すよ?」

 

葉月「そんなに書いて欲しいんですか?」

 

優未「もっちろん!」

 

葉月「雪華とのイチャイチャより?」

 

優未「ええっ!?そ、それは……迷うな」

 

葉月「迷うんだ」

 

優未「う〜〜んっ!どっちがいいかな〜〜。ああん、決められないよっ!」

 

葉月「悩んでいるようなので、次回予告しちゃいますか。次回はいよいよ、あの親子が登場、出来たらいいな〜。いつもなんか脱線しちゃうんでもしかしたらお預けかも?」

 

優未「う〜ん。一刀君を取るか、雪華ちゃんを取るか……むむむっ」

 

葉月「……ではまた次回お会いしましょ〜〜」

 

優未「え?ちょ、ちょっと!まだ私考えてたのに!ひどいよぉ〜!」

説明
お待たせしました。
第45話投稿します。

今回から軍行を開始した話になります。
にしても、もう45話まで来ちゃいましたね。
一体この話はいつ完結するんだろうか・・・
脱線ばかりしてるから終わりが見えない・・・

それではお楽しみください。

この作品では、
一刻=1時間
一里=4km
として話を進めています。
総閲覧数 閲覧ユーザー 支援
6825 5006 43
コメント
一刀=獲物ですねwww(ven)
オレンジぺぺ様>雪華ちゃんぺろぺろ(挨拶)それだけ一刀は魅力的なんじゃないですか?なんせ、魏に居て華琳に首を刈られてないくらいですからね。(葉月)
ロンリー浪人様>あ〜、そう言えば、そんな挿絵ありましたね。しかも、色塗るとかまで宣言して……仕事が忙しくて忘れてた……仕事が一段落したら頑張ります><(葉月)
そう言えばなのですが、以前出てきたミニ桃香の絵ってどうなるのでしょう? 出来れば着色されたのが見たいなー、と思ったもので。(ロンリー浪人)
Satisfaction様>ですね。袁家が居るだけで、良くも悪くも賑やかになりそうですしね。(葉月)
mokiti1976-2010様>そこが人を信用する人たちの欠点でもありますよね。まあ、二人ともお人好しですし。(葉月)
量産型第一次強化式骸骨様>誤字報告ありがとうございます。ふっふっふ、それは後々わかりますよ〜(葉月)
本郷 刃様>ですね。美羽は基本良い子だと思います。ただ、ワガママなだけだと思います。子供のころにあった駄々っ子みたいな感じですよね。(葉月)
ファイズ様>まあ、憎めないおバカさんたちの保護はもう少し先ですかね。(葉月)
賑やかな行軍になりそうですね、続き楽しみにしてます(ミドラ)
朱里に相談してれば後々有利になるように事を運べたはずなのに…そして優未さんも加わった。何かそのうち麗羽様ご一行も普通に来てそうだが…。(mokiti1976-2010)
なにやら優未が口走ってましたね、送り届けるとか。あまり良い予感はしないなぁ。7p「只今、ゆきはっ、と孫伯符の」→「只今、しぇれっ、と孫伯符の」、9p「ここまで的確とわな」→「ここまで的確とはな」、12p「私かいいと思いますよ」→「私はいいと思いますよ」では?(量産型第一次強化式骸骨)
やはり軍略的なものもいいですね。といいますか、美羽は悪い子じゃないですし、七乃は想いゆえに黒いだけですから、基本は良いやつですからね、二人ともw(本郷 刃)
美羽たちが保護されたのだからこの際麗羽(と書いてバカ)と側近二人は原作だと保護するけどここでは保護しないほうがいいのでは?(つかあのバカのせいで一刀が華琳のもとにいきかけたのだから)(ファイズ)
アルヤ様>雛りんモフモフ!ああ、なんだろ。遠くで朱りんが嫉妬の眼差しをっ!(葉月)
ロンリー浪人様>はっはっはっ!って、そうなったら私が桃香と愛紗にやられちゃいますよ!「なにが」「やられちゃうのかな、葉月さん?」で、でたーーーー!!(葉月)
叡渡様>なぜか、前回から結構な人気があるんですよね、優未は。なぜだろう?美羽は、まあ、成り行きで出てきちゃいました。こうやって勢いで書いていくので自分でも展開が読めない!(葉月)
やっとだ・・・・・・。どれだけこのときを待ちわびたことか・・・・・・。やっと見れたぞ、雛りんモフモフ!(アルヤ)
……天の技術云々=一刀の婿入りってことじゃないよな? もしそうなら、愛紗や桃香が……ひぃっ!!?(ロンリー浪人)
タグ
恋姫†無双 真・恋姫†無双 アナザーストーリー 蜀√ 

葉月さんの作品一覧

PC版
MY メニュー
ログイン
ログインするとコレクションと支援ができます。


携帯アクセス解析
(c)2018 - tinamini.com