魔法少女リリカルなのは〜過去に縛られし少女〜  第十七話
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「静か、だね」

『安心していますか?』

「そんなことない。警戒はしてる」

そう言った私たちががいる場所はなんでもないただの海上だった。普通なら何もなくて当然だ。

だけど今は事情が違う。

何かが起きても不思議ではない。

それというのもあんな証言がとれたからこそだった。

 

 

 

調査に行くとこまでは決まったはいいのだが、なにぶん情報が少ない。

だから細かい話を聞くために、例の手紙を送ってきた人にもう少し詳しく話を聞くことになった。

そこで選ばれたのは、アリエス(お姉ちゃん)と何故か私だった。

前者はまだわかる。その人と知り合いだからで説明がつく。

だが私が選ばれたのはよくわからなかった。

といっても不満があるわけじゃないから、こういう経験を積ませるためかな、などと自己完結をしたので今更なのだが……

とりあえず私たちは急いでその人の家へと向かったのだが、そこで聞けた内容はもうすでに知っているものばかりだった。少なからず新しい情報が得られると思っていた私たちは考えの甘さを思い知らされる結果となってしまった。

「他には何か知らない? 些細なことでもいいから」

だからアリエス(お姉ちゃん)がこう聞き直した気持ちはよくわかった。

といっても本音を言うならばあまり期待はしていなかった。

だからこそ――

「……やっぱり、あれかな?」

考えるような素振りを見せてからポツリと呟いたそれは貴重なものだった。

「何か心当たりが?」

「えっと、雲の形が……いや、動きと言えばいいのかな。とにかく雲がおかしかったんです。あ! 珍しかったので写真がありますが見せましょうか?」

「……お願いします」

今は少しでも情報が欲しかった。

「えっと、これです」

見せられた写真は、彼女の言うとおり妙なものだった。

「雲が円の形をして中心がぽっかりと開いてる……なんだと思いますか、リリス福隊長」

「……正直わからない。自然にこうなったとは考えづらいけど」

だからといって、偶然である確率が零とは言い切れない。

それこそ少し変わった形の雲ぐらいなら、私だって一度ぐらいは見たことがあるのだから。

「そうですか……んっ、そういえば雲の動きがおかしいって言ってたけど、それってどういうこと?」

((アリエス|お姉ちゃん))の言葉で思い出した。

確かに彼女は雲の動きがおかしいと言っていた。

「あっ、それは、最初はいつもと変わらない普通の雲だったの。それが途中で雲が早く流れ始めたり、逆に向かって流れたりして最終的にあの形になったから」

「それって、本当?」

「うん。アリエスもあれを見てたらすぐおかしいって思うよ」

……なるほど。

それが本当だとしたら、話は変わってくる。

自然現象であるなら天気にもよるのかもしれないが、完全に不規則に動くことは無いだろう。少なくとも風が強いわけでもない一般的に良いと言われるだろう今夜の天気ならそんなことは無いと思う。

だとしたら何かの影響で雲の動きが変になったという可能性が出てくる。

もちろん合っているかどうかはわからないが。

けれど他に手がかりがないなら、こんな可能性に賭けるのもいいかもしれない……

 

 

 

そう結論付けて私たちは話を聴けた女性にお礼を言い管理局に戻った後、なのはたちに話を説明しそして考えた結果が、今こうやって海上にいることに繋がるのだった。

「何も、起きないといいけど……」

不安の声を私は口にした。

『そうですね。私もそう――』

……((愛機|エターナルパルス))の言葉はそこで止まった。

何故なら――

「マスター! 下です!」

私に警告をしなければいけなかったからだった。

無数の実弾が海面下より打ち出されてきた。

一瞬だけ焦ったがすぐに落ち着きを取り戻し、私は高度を上げて水面から離れた。

奇跡的にこれといって傷は無かった。

また他の仲間も一連の出来事を見てすぐに行動に移ったため、特に傷を負ったものはいなかった。

(どこから、打ってくる? 集中しないと)

本当ならこっちから反撃の一つもしたいのだが、もし当たらず海の飛沫などで視界が悪くなったりするなどの過程を考えると無暗に攻撃は出来なかった。

だから眼下に移る水面を警戒した。

自分でも驚くぐらい集中していた。

感覚がとぎすんでいく感じがした。

だからなのか、偶然なのかはわからない。

今まで横から感じていた風が、わずかに上から吹いている気がした。

……意味があったわくじゃない。

ただなんとなく、視線を上のほうへ向けた。

そこで見えたものは――

 

鋭そうな剣が誰よりも高い場所から、一人の少女に向かって飛んでいくのが見えた。

 

「っ! なのはぁぁぁぁぁあああ!」

気付けば全力で向かいながら、彼女の名前を叫んでいた。

当の本人は未だに何が起ころうとしているのか理解していなかった。

(守る、守る! 絶対に守ってみせる!」

そうして私が伸ばしたデバイスは、奇跡的に間に合い、なのはに向かってきていた剣と、彼女に触れる寸前で、衝突…………することはなかった。

勢いはそのままで、軌道だけが突然変更し――

私の身体の中心へと……

 

すっ。

 

まるでそんな音が聞こえてきそうなぐらい、あまりに自然に私の脇腹へと剣は刺さった。

 

痛みは無かった……

 

ただ、熱かった……

 

赤い液体が流れ出していた……

 

それがあの時の事故で家族が流していたものと同じものだと気づいたとき、その感覚はやってきた。

「っ……い、たい……」

ぽつりと悲痛の言葉をこぼした。

次に自分が落ちていく感じがした。

遠くで私を呼ぶ声が聞こえた。

それは少しずつ近くなってる気がした。

それが誰のものか確かめることは出来ず、私の意識は途切れてしまった……

 

 

 

目を覚ますと、そこは見覚えのある場所だった。

(同じ日に二回も来るとは思わなかった……)

そんなことを考えていたら、予想通り彼女は姿を見せた。

「まさか同じ日に二回も貴女に会えるとは思わなかったわ」

どうやら同じことを考えたらしい。

まぁ、それはともかくどうして私はここにいるんだろう?

今回は私が来ることを望んだわけでもないのに。

「私が望んだからよ」

……やはり心を覗かれるのは慣れない。

「さっそくだけれど、一つ……いえ、二つ聞いてもいいかしら?」

「なに?」

「貴女はあの結果を予測していたのではないの? 最終的に自分が傷つくことを」

あの結果?

その言葉で私は気づき、すぐさま自分の脇腹を見たが傷跡は何一つ無かった。

「ここでは現実で受けた傷が反映されることは無いから、それは心配しなくても大丈夫よ。それより質問に答えてくれるかしら?」

あの状況でそこまでわかっていたわけがない、そう答えることは出来なかった。

「……黙っていても、今は貴女の心を読んでないからわからないわ。答えてちょうだい」

「……わかっては、いなかった」

「それは、本当かしら」

「うん。だけど、最悪なのはを助けるために、自分が身代わりになることは考えていた」

私の本当の思いだった。

いくらでも覗けるはずの私の心を、見ようとはせず答えてくれることを待ってくれた。

そんな彼女に嘘はつけなかった。

「そう……なら、あと一つ。何故、そんなことを考えたのかしら?」

「なのはが……とても大切な友達が危なかったから。守ってあげたいと思った。あのままじゃ、ひどい怪我をしたかもしれないから。だから気づけた私が、それこそ命を張ってでも守らないとって思って――」

 

「っ!? ふざけないで!!」

 

そう怒鳴った彼女はとても怒っていた。

同時に、何故かとても悲しそうだった。

「友達を守る。その決意はいいわ。けれど! 命を張ってでもってなに!? それって自分の命をその子より下に見てるって事じゃない! どうしてそんなことを思えるのできるの!? どうしてそんな悲しいことを考えるのよ!?」

「そ、れは……」

「自分がいなければ誰も守れない! 貴女の言う友達だって! だったら守ってあげたいというなら、自分も大切にしないと嘘でしょう!? 最初から命を賭けるようなことを、思わないで……ちょうだい」

彼女は泣いていた。

たった数回しか会ったことはないけれど、強い心を持った人だって思っていた。

その彼女が泣いていた。

私の浅はかな考えによって。

自分が死んでも誰かが守れるなら構わないって私はあの時、思った。

その証拠に実際に狙いがなのはに向かった時、私は恐怖を覚えるより安心を感じてしまった。なのはが無事だったって。

でもなのは本人は?

もしかしたら目の前の彼女のように泣いているのかもしれない。

考えれば考えるほど、自分がどれだけ馬鹿なことを思ったのかを知った。

それを教えてくれた人はまだ泣いていた。

だから私はそっと近寄り――

「ごめんなさい。そして、ありがとう。私をそこまで思ってくれて」

そう告げて、前になのはにしたように彼女を抱きしめた。

「……約束してちょうだい。もうあんなことは考えないと」

「うん。約束する」

「……でも貴女は、もし誰かが同じように危険に晒されたら、また行くのよね?」

「うん。でもそれは、自分を大事にしないとか、自分の命を比較しているからじゃない。大事な人を守りたいから。例えどんな時でもこの思いだけは間違ってはいないと思うから」

「……わかったわ。急に取り乱してごめんなさい」

「謝らなくてもいい。私が悪いんだし」

「こういう言葉は素直に受け取っておきなさい……そ、それで。あの」

なんだか急に少し焦っているような感じがする。

顔は見ることができないし、どうしたのだろう?

「ね、ねぇ。これは、いつまで続くのかしら?」

……忘れてた。

どうしてさっき顔を見ることが出来ないのか不思議に思わなかったのだろう?

「ご、ごめんなさい」

「い、いえ。嫌ではなかったから気にしなくていいわ」

顔が熱い。

今、すごく顔が赤くなっていると思う。

彼女もそうなのだろうかと思い、ふと見てみると眼が合った。

また最初と同じで二人して同じことを考えていたらしい。

私はなんだか気持ちが通じ合っているような気がして嬉しかった。

もう少しだけ彼女の傍にいたいと思ったが、どうやらここで時間切れらしい。

「帰るみたいね?」

「うん。また、今度」

「そうね、また会いましょう」

その時、不意に私の知らない記憶が流れ込んだ。

断片的でほとんどがよくわからないものだったけど、一つだけはっきりしたことがあった。

どうして身体の中心を狙われた私が、ずれて刺さったのかようやくわかった。

消える直前、これだけは伝えないといけないと思った。

「私を助けてくれて本当にありがとう」

彼女の驚いたような表情を最後に私の意識は再び途切れた。

 

 

 

眼を覚ますと、白い天井が見えた。

体制と下に感じる感覚からベッドに寝かされていることは理解できた。

とりあえず、身体を起こそうと力を入れた瞬間。

「ッ!?」

脇腹に激痛が走った。

情けないことに一人で起きるには無理があるようだ。

その時タイミング良く扉が開いた。

そこには一人の少女がいた。

「リリスちゃん!? 眼を覚ましたんだね!」

「うん。ごめん、なのは。心配かけて」

「リリスちゃんは謝らなくていいの。謝るのは、私なんだ……から。ごめ、んね。ありが……とう」

それだけ言うとなのはは泣き出してしまった。

なのはの性格上、ここで下手に慰めたりすると余計に悪化しそうと思った私は、黙っての頭をなでることにした。

少しでも安心してもらえるように。

それからほどなくしてなのはが泣き止んだころだった。

もう一人だけ来訪者が来たのは。

「リリス福隊長!? 良かった。本当に良かった……」

「心配かけて、ごめん」

「いえ、無事ならそれでいいんです」

そう言った彼女は少しだけ眼が腫れていた。

少し前に泣いていたのかもしれない。

そんな彼女たちのために私が出来ることは、一刻も早く身体を治して元気な姿を見せることだろう。

そのためには――

「二人とも、シャマルさんを呼んできてもらえる?」

これを二人に頼むのが、いいんだろうと思った。

多分私を治療してくれたのはシャマルさんだと思うから。

「わかった、呼んでくるね。行こう、アリエス」

「はい、なのは隊長。リリス福隊長はもう少し休んでてください」

二人はそうして出て行ったが、私は少し気になることがあった。

(あの二人、なんだか自然に話してたけど、いつから仲良くなったんだろう?)

そんなことを気にしながら、私は少しの間また横になるのであった……

 

 

 

 

 

 

???side

 

……驚いた。

まさかあの子が私の記憶を読み取れるほど、繋がるとは思わなかった。

「ありがとう、ね……」

仕方が無かったとはいえ、私はあの子の身体を一度は操った。

そうしなければあの子は……

でもどんな理由があるにせよ、自分の身体を操れる……言い方を代えればのっとれる相手に向かって何の躊躇もなく礼を言うなんて。

「どこまで、優しいのよ? リリス……」

それがあの子だと、良くわかってるつもりだったのに。

「私もまだまだ甘いわね」

誰にも聞こえない孤独な世界で私は呟いた。

そして、届かないと知りながら……

「ねぇ、リリス? 貴女はまた私の――」

ここにいないあの子に向けて呟いた。

 

 

――最愛のお友達になってくれるのかしら?――

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