第十二話〜クラウドルーラー神殿〜
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「久しいの、息災のようで何よりじゃ」

 ちょうど席が三つ空いていたため、そのうちの一つに遠慮なしに腰を下ろした。

 マーティンとジョフリにも座るように促して、先に腰を下ろしていた二人を見ると片方は意外そうな顔を、もう片方はわざわざ立ち上がるのはおかしく見えると考えたのだろう、座ったまま丁寧に礼をしてきた。

「お久しぶりです、ソマリ様」

「別れてからそんなに経ってねぇだろ? けどま、無事なようで何よりだぜ……って、服替えたのか?」

「うむ、ボロボロにしてしまってな」

 以前と変わらず、その瞳に強い光を宿したヴォルフの前には地図が広げられている。

 酒の入ったコップを傾けながら言うアーベントは、どこかしら苛ついた様子だった。

 地図に目を落とすと、いくつかの印が付けられている。印の意味合い自体はよくわからないが。?印の付いた場所が一つ。簡素に点を打たれている場所が十以上、ブルーマ周辺に点在している。

「ソマリ、マーティンを預けてよいか? 今のうちに支度をしてしまいたい」

「ん、ああ。分かった、預かろう。手練が三人おれば遅れは取るまい」

 私の返事を聞くやジョフリは宿から出て行った。諸々の準備をしてくるつもりなのだろう。

 こんな時間だが、ブレイズの本拠地であるというクラウドルーラー神殿に最寄りの街であれば、それなりのコネというものがあるに違いない。

「マーティン、お主は食欲があるならしっかり喰って、休んでおけ」

「ああ……そうだな」

 どこか心此処にあらずといった雰囲気を、私は旅の疲れが出てぼうっとしているだけだと判断した。

 宿の主人に暖かい食べ物を頼み、改めて二人に向き直る。

「さて、わしも混ぜろ。どんな状況じゃ?」

「難航しています」

 ヴォルフの答えは完結で、その言葉にアーベントは更に苛立ちを強くしたようだった。

「まずは、地図の説明を。この?印は山小屋です。最初、此処が連中の拠点ではないかと思っていました」

「大外れだったぜ、完全に捨てられて誰かが立ち入った痕跡もありゃしなかった」

 後を引きとったアーベントの言葉にヴォルフも頷きをかえす。

 だが、私はそれよりもその山小屋がきになる。打ち捨てられているというなら、程度によっては拠点として利用したいところだ。

「その山小屋、どうするんじゃ?」

「どうするって、利用できないように潰すかしとかないと、面倒じゃねぇか?」

「"Terran"で管理することもできるとは思いますが、交通に悪い場所のため利用価値は低いかと思いますが?」

「お主らふたりとも要らんのか? ならわしが使っても文句ないか?」

 私の提案に二人して顔を見合わせる。この反応からさぞかし辺鄙な場所にあるのだろう。

「……好きにすればいいんじゃねぇか?」

「ソマリ様が管理していただけるというのなら、こちらとしては助かりますが」

「決まりじゃの、まだこっちの方での活動拠点を作っておらんかったから助かる」

 そそくさと地図の写しを作りながら、話の続きを促す。腰を折ったのは私だがそんなことは今はどうでもいい気分だった。

 ヴォルフは次に地図にいくつもある点を指し示す。

「こちらは、我々が連中と交戦した場所です。日に数度遭遇したこともあります。ですが、いずれも有益な情報にはなりませんでした」

「手練もいなかった。まるで時間稼ぎか、何かをごまかすために生贄を捧げられてる感覚だったぜ」

 それはつまり、全部粉砕した、ってことなんじゃろうなぁ。地図の写しをウェストポーチに仕舞いつつ、地図に目を落とす。

 遭遇地点はどれも、脈絡も関係性もないように思える。

 場所をそれぞれつないでも、特に何かの陣を描くようにも思えない。

「ふむ……特に遭遇した場所に規則性もなさそうじゃな……」

「だろ? アテが外れたとは思えないんだが、思ったより食えない連中だぜ。一応何人か生け捕りにしてみたんだが……奴ら躊躇なく自害しやがる。タチが悪いぜ」

「狂信者というやつじゃろ……ああいう連中は得てして自分の命も他者の命もなんとも思うとらんからな」

 敬虔な信者といえば聞こえはいいが、その信仰自体が異端、自己を顧みないというのであればそれはもう狂気の領域だ。

 少なくとも私はそう思う。

 少しの沈黙の後、二人が私とマーティンに交互に視線を向ける。

 身を乗り出し、声を潜めつつ耳を貸す用に促す。この距離で小声ではなせば、私達以外に聞き取れるものは居ないだろう。

「護衛対象じゃ。明晩出立する予定じゃが、その時にアーベント、お主一緒に来やれ」

「なんでだよ」

「移動中に一度襲われとる。大した相手ではなかったが、万全を期したい。出来ればヴォルフも連れてゆきたいところじゃが……」

「今うかつに連中の調査をやめるのはよくないだろ、優先度の高い何かが起きたって気づかれる」

 アーベントも、マーティンがどういう存在なのかおおよそ予想がついているのだろう。本気で同行を拒否するような素振りは見せなかった。

「畏まりました。私の方で調査を続けましょう。何かご入用のものがあれば用意いたしますが」

「わしの方では特に……ああ、そうじゃ。武器の手入れを頼めるかの? 大分切れ味がおちてきとるんじゃ。自分でも最低限の手入れはできるんじゃが、いかんせん限界があっての」

 そう言って腰に下げていた打刀を渡す。ヴォルフは軽く鞘からそれを抜き取り、刀身の状態を確認するとすぐにそれを収める。

「これは……私のようなものに直すのは難しいかと」

「む、そうか?」

「私達が一般に使う剣とは別の造りです、ある程度の基本的な手入れはできますが、切れ味を戻すにはこういったものに詳しい鍛冶師に頼むしか無いかと」

「そう、か……仕方あるまいな」

 ヴォルフが打刀を返してくるのを受け取り、腰に戻す。

 確かに、この地方ではあまり見かけない造りの武器だから仕方ないかもしれない。

 何かいざというときに使える代理の武器も用意しておくべきだろう。

「ブレイズ「の方々が使う武器と同じ系統に思えます、もしかしたら彼らから何かアドバイスを貰えるかもしれません」

「……ふむ」

 それならばこの後の予定としてはちょうどよいかもしれない。ジョフリに聞いてみるのも良いだろう。

「んで、目的地はどこなんだ?」

 再び声を潜めてアーベントが聞いてくる。

「ブレイズの本拠地がこの近くにある。そこまで送るのが当座の目的じゃな。その後のことはまだ未定じゃが……厄介なことになっておる」

 かいつまんで今までのあらましを話すと、ふたりとも考え込んだように黙ってしまった。

 これは直感だが、ふたりとも考えていることはまるで別のことだろう。

 ヴォルフは何やら懸念を思い浮かべ苦い顔をしているが、アーベントはというと嬉々とした表情を浮かべていた。

「オブリビオンのディードラね……いいね、燃えてきた」

「結構戦闘狂じゃな……」

 目を輝かせて拳を握るその様は、華奢なエルフの見た目とは裏腹に獰猛な獣の気配を纏っている。

「そうか? それよりも、アミュレットを奪われるとは……予想外なんじゃねぇか?」

「可能性としては考えておったよ。ただ、どこから嗅ぎつけてくるのかが気になるがの」

「状況としては一進一退ってところか」

「これから反撃じゃ」

 ドサッ、という何かが倒れる音がしたのは、その時だった。

 隣を見ると、ほとんど手の付けられていないシチューの皿の隣でマーティンがテーブルに倒れこんでいた。

 一瞬、最悪の可能性がよぎる。

 しかしすぐに別のことであると気づく。

「お主……!」

 荒い息、暗い明かりの下では一見気が付かないが顔もひどく赤い。

 額に手を当ててみると、私たちの低い体温を考えてもなお熱かった。

「これはいけない、部屋に運びましょう」

「すまん、手を貸してくれ」

 ヴォルフの手を借りつつマーティンを起こし、二人が借りていた部屋へと運ぶ。

 アーベントはジョフリと一応面識があるので、戻ってくるのを待ってもらうよう頼んでおいた。

 

 *   *   *

 

 結局その後マーティンが体調を崩し、出発が数日遅れる事になった。

 その間にも人手を分けてブルーマ周辺を調査したものの、特にこれといった収穫はなかった。

 しいて収穫をあげるなら、ブルーマ周辺には神話の夜明け教団の関係者が多い、ということがわかったぐらいだろう。

 マーティンの体調が落ち着いた翌日、ヴォルフにブルーマを任せて私たちはクラウドルーラー神殿へと出発した。

 ブルーマの北門から出て、更に山岳地帯を進む。

 辺りは地面も木々も雪に覆われていて、今なお降り積もる雪が音をことごとく奪っていた。

 聞こえる音は雪を踏む足音と、衣擦れ。そして風に吹かれて木々のざわめく音。

 時折、木々に積もった雪が崩れ落ちて水気を含んだ音を立てる。

「雪が利益となればいいんだがな」

「そうじゃな……」

 雪が振り積もれば足跡を消してくれる。それが追跡者を振り切ることにつながれば良いが、それは逆のことも意味する。

 どちらに転ぶかは賭けになるだろう。今のところそのような気配は感じていないが。

 先導するジョフリにマーティンが続き、後ろに私とアーベントが続く。

 ブルーマを出発して数時間経った頃、ようやく建物が見え始めた。

 それは、神殿と言うよりは砦、要塞と呼ぶほうが適しているように思えた。

 切り出された石で堅牢に造られた砦には、見事なしつらえの木造の門が佇んでいた。

 いくつもの木を複雑に組み合わせて作ってあるこの門はそうそう崩されることはないだろう。

 かなり年季の入った門からは相応の歴史が感じられたし、きちんと手入れがされているためだろう、色の変化も風化による変色ではなく、よく手入れされたことによる綺麗な色合いのものだった。

 荒い呼吸を整えるのに必死のマーティンの隣で、まるで軽く走った程度にしか疲労を感じていないのだろうアーベントは砦を見上げて感嘆の声を漏らしていた。

「へぇ、これがねぇ……見事な造りだ」

「うむ、随分年季が入っとるようじゃが、それで劣化すると言うよりは、神聖さを増しとるようじゃな」

 振り返れば後ろの眺めも絶景だった。雪が降っているから視界はやや白いものの、ブルーマの街が一望できる。

 砦の見張り台からならば、この神殿に来るまでに通った山道についてもほぼ見渡すことができそうだ。

「開門せよ! グランドマスター、ジョフリの帰還である!」

 門に向かってジョフリが高らかに声を上げると、門の向こう側が騒がしくなる。

 程なくして閂を外す音が聞こえ、巨大な門が軋む音を上げつつその身を開く。

 門の向こう側で数人の騎士が敬礼とともに私達を出迎えた。

「なぁ……俺もう、帰ってもいいか?」

「お主……意外と人と関わりもつの嫌いなクチか?」

「いや、めんどくさそうでよ」

 後ろのほうで小声で話している私達の声は拾えないのだろう、こちらに気が向くことは無かった。

 とりあえずアーベントに黙って流れに任せるようにと促しておく。

「グランドマスター、こちらの方々は?」

「サイルスよ、久しいな。後ろの二人は協力者だ。そしてこの方は、陛下の嫡男、マーティン・セプティム。次期皇帝だ」

「なんと! 殿下、クラウドルーラー神殿へようこそいらっしゃいました! 皇帝をお迎えする栄誉に預かれて光栄でございます!」

「あ、ああ。うん、ありがとう。私も光栄だよ」

 未だ皇帝だの陛下だの殿下だの呼ばれるのが慣れていないのだろう、ぎこちない礼をするマーティンを見て、アーベントは苦笑していた。

「もう少し堂々してたほうがいいと思うんだが」

「無理もあるまい、先日まで一介の修道士だったんじゃからな……そして、何事もなければそのまま一生を終えるはずだった」

 だが、その運命は訪れなかったのだ。

 もう、そんな平穏は帰って来ない。

「さぁ、中へ。貴方の剣であり盾となるものが待っています」

 そう行って門の中へと足をすすめる騎士とジョフリ、マーティンもそれに続く。

 私とアーベントはお互いに顔を見合わせて、それに続くかどうか逡巡した。

 そんな私達に気づいたマーティンは歩みを止め、こちらへと向かってきた。

「二人も来てくれ。その……知った顔が多いほうが心強い。それに、今後の話もあるだろう?」

 そう行って私達に来るように促すマーティンに、ジョフリも頷いてみせる。

 サイルスと呼ばれた騎士も、私達を拒絶するようなことはせず、むしろ歓迎しているようだった。

 私達が神殿の中へと足を運ぶと、すぐさま門が閉じられ、閂が再びかけ直された。

 入ってすぐに長い上り階段が続く。門の先がすぐに建物の中というわけではないらしい。

 門を破られたからといってすぐに建物に侵入できるわけではない、ということだ。

 騒ぎを聞きつけたブレイド達が集まっていたが、ジョフリを見てまず敬礼をする。その後サイルスの言葉を聞き、誰もが慌ただしく列を作った。

 少数とはいえ、街の衛兵とは別の領域の雰囲気をまとうブレイズが隊列をなして敬礼する様は圧巻の一言だ。

「……ふむ、わしらは少し離れておいたほうがよさそうじゃな」

「だな……」

 ブレイズの列の前に連れ出され、ジョフリに何事か言われていたが、マーティンが頭を抱えているようだった。

 

 *   *   *

 

「ジョフリ、ひどくないか?」

「何がです?」

「さっきの演説のことだよ。もっと前に言ってくれればよかったのに」

「それでは意味がありません。陛下は思うことを言えばよかったのです」

「そういうものだろうか……」

 ようやく一息つけるところに来たからか、マーティンは多少緊張が解けたようで飲み物を前にテーブルへとついていた。

 マーティンは果実を絞って水で薄めたものを、私とアーベントは私の荷物に入っていたお酒で乾杯しつつテーブルを囲んでいた。

「いやいや、なかなか良い演説だったと思うぞ?」

「だな。お前みたいな立場のやつの演説っていうのは、内容じゃねぇ。いや、内容もそうだが、それでどれだけ人を奮い立たせられるかだ、と思うがね」

「ならば合格ではないかえ? 皆沸き上がっていたじゃろう」

「そういう、ものなのだろうか……」

 未だに悩めるマーティンを前に、苦笑しつつ酒を飲み干す。

「ま、せいぜい頑張ることじゃな。で、今後の話というのは?」

 ワイン瓶から新たなワインをコップに注ぎ、ジョフリを見る。

 外から微かに聞こえる、ブレイズ同士の剣戟の音に耳を傾けつつ、次の言葉を待った。

 ジョフリは、武器が並べてある棚から一振りの刀を持ってやってくる。

 作り方こそシンプルなものだが、質は悪くない。ブレイズが使う刀と同じ物のようだ。

「君に、ブレイズの一員となってもらいたい」

「断る」

 私の即答に、ジョフリとマーティンが凍り付く。二人からすればそれは予想外の事だったのかもしれない。

 ただ隣でアーベントだけが小さく苦笑していた。

「今後ずっとというわけではない。だが、この危機の間だけは、ブレイズとしてマーティンの傍に立っていてもらえないか?」

「断る」

 しばしの沈黙、連続しての即答にジョフリは絶句した。

 少しの間、暖炉の薪が爆ぜる音だけが響く。

 その沈黙を破ったのはマーティンだった。

「ソマリ、私からも頼む。この危機の間だけでも、傍に居てもらえると心強い」

「ふん。傍に、ね」

 辛辣な言い方だったかもしれない。

 マーティンは少し残念そうに表情を曇らせた。

「お主らの気持ちはわからんでもない。じゃがな、公的機関とでもいうべきブレイズに所属するようなことはできんよ」

「俺達は吸血鬼だぞ? お前たちにとっては協力者かもしれねぇが、何も知らない下々の人々ってやつからすりゃ、敵でしかねぇ。そういうのを内部に迎えるってのは危険過ぎるだろ」

「そ、そうか……そうだな」

 王室、そしてブレイズの信用に関わる問題である以上、誘われたとしても踏み込むわけにはいくまい。

 何かあって露呈した場合、大きな問題として帝都どころかこの地域一帯を揺るがすことになりかねない。

「それに、ブレイズ内部もすべてが受け入れられるというわけではあるまい?」

「確かに……快く思わぬものもいるやもしれん……」

「じゃから、ブレイズに入って傍にいるという案は無しじゃ」

 二杯目のワインを空にして、二人を見る。

「せいぜい今までどおり、皇帝と友好関係にある謎の協力者、程度にしておけ」

「義を持って報いたいところだが……」

「気持ちだけ受け取っておこう。それよりも、先の話をしよう。アミュレットについてじゃが……」

 面倒になり話を無理やり変えてしまうことにした。

 アミュレットを奪われた以上、奪い返さなくてはならない。その足がかりが、今は何もない状態だ。

「のぅ、ふとおもったんじゃが……アミュレットを物理的に壊されたらどうなるんじゃ?」

 ふとした思いつきを口にした瞬間、ジョフリが固まった。

 正直、私やアーベントならばまずそうするだろう。自分たちが所持していることに意味が無い限り、だが。

「そうそう簡単に壊せるものとも思えないが」

 マーティンの言うとおりで、簡単に壊せるようなシロモノでは無いだろう。だが、少なくとも私が敵ならば壊そうとすると思うのだ。

「手遅れにならないうちに手を打たねばならぬな、急ぐ理由が増えた。ソマリ、帝都に向かってもらいたい」

「帝都に誰かおるのか?」

「うむ、バウルスという、皇帝の警護を任されていたブレイズが居る」

 それはつまり、皇帝を守りきることが出来なかった男ということか。

「彼に帝都での敵の動きを探る用に伝えてある。彼は優秀なブレイズであり、皇帝を暗殺されたことをひどく悔やんでいた。今頃何か敵の尻尾を掴んでいるかもしれない」

「……まあいいじゃろ、バウルスという男を探せばいいんじゃな?」

 皇帝付きのブレイズともなれば気配だけで判別も付きそうだが、一応主だった特徴を聞いておく。

「彼は帝都のエルフ・ガーデンという地区にある、ルセール・ブロードという宿を拠点にしている、そこに向かってくれ……それと」

 ジョフリの視線が私から離れ、アーベントの方へと向いた。

 アーベントは何やら微妙な表情になっている。

「なんだよじーさん?」

「アーベント、君はまだブルーマ周辺の調査を続けるのか?」

「……そのつもりだが」

「ならば、この神殿周辺は調査から除外してくれ、この周辺についてはブレイド達で調べよう。何かあればすぐに、なければ三日ごとに情報交換のためにブルーマまで出向こうかと思うが」

「共同歩調ってわけか、構わねぇぜ」

「ありがとう、頼もしい仲間を得られて光栄だ」

 

 *   *   *

 

 話が終わり、それぞれに解散することとなり、私はクラウドルーラー神殿の中を見て回っていた。

 その最中、刀の手入れをしているブレイドに教えてもらい自分の刀の手入れをしたりする。

 手入れを教えてくれたブレイドの男が驚くほどに、見事な作りの刀だったらしい。

 名工の業物かもしれないなどと言っていた、確かにそのような魅力を感じて選んだのだが、業物には一歩及ばない気がしないでもない。

 彼に礼を言い、幾つか手製のポーションを礼として贈っておいた。

 刀の手入れを終えて、なんとなしに資料室へと足を運ぶ。

 何かしら知っていたほうがいい情報があるかもしれないとか、そんな殊勝な心がけ──などではなく、なんとなくそちらへ行かないといけないような気がしたのだ。

 資料室のドアを開けると、そこには最近見慣れた姿があった。

「なんじゃ、せっかく休める場所に来たというのにまだ寝とらんかったのか?」

 見慣れた人影、マーティンは眠たそうな目を本からゆっくりと離すと、こちらへと向けてくる。

 ひどく緩慢な動きからは疲労の色がありありと見て取れる。

「ああ、ソマリか……いや、寝付けなくてな」

「好きにするがよいさ、そのうち慣れるじゃろ」

 手持ち無沙汰になり、近場にあった本を開く。

 ディードラの多様性について書かれた本の中には、確かに私がクヴァッチやオブリビオンゲート向こう側で出会った者を指しているであろう記述も見つかった。

「不安で、寝付けないんだ……」

「酒でも煽って寝てしまったらどうじゃ?」

 提案してみるも、マーティンは肯定も否定もせず、どこか寂しい笑いを浮かべるだけだった。

 感情の整理が追いついていないのだろう。どこか、感情に支障をきたしたような、そんなぎくしゃくした空気を感じる。

 休めと言っても、素直に休むとも思えない以上、解決は時間に委ねるしかないのだろう。

「なあ、ソマリ……私に皇帝などという大役が務まると、思うか?」

「知るか、務まらなかったらやめるとでもいうのか? 生憎じゃがな、お主にそんな選択肢は残っておらんよ」

「……私の意思は介在できないということか」

「皇帝も随分数奇な運命だったそうじゃし、お主もそうなのかもしれんな」

 一つだけ気にかかることがあったけれど、今はそれを飲み込んでおくことにした。

 少なくとも、今の彼に話せる内容ではない。

(皇帝の命は潰えて、それでも運命はまだ廻っておる……のう、ユリエルよ。マーティンをお前の運命に飲み込んで連れて行くような事にはせんでくれよ……?)

「ソマリ、どうした?」

「ん? ああ、いや。少し考え事をな……マーティン、この地は冷える。暖かくして、甘いものでも食べて、一先ずよく体を休めることじゃ。体が弱っていると心まで弱ってしまうからの」

 唐突な私の言葉にきょとんとしているマーティンを後に、私は資料室を後にした。

 

説明
更新が遅くなりました。最近うまく文章が出て来ません、限界ということか……ぐふっ。
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