インフィニット・ストラトス―絶望の海より生まれしモノ―#37
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[side:一夏]

 

「おー晴れたな。」

 

「そうだね。」

 

週末の日曜日。

天気は素晴らしいくらいの快晴という絶好の外出日和に俺は『ある女子』と二人で街に繰り出していた。

 

まあ、『ある女子』っていってもシャルなんだけどさ。

 

楽しそうに笑顔を浮かべるシャルは半袖のホワイト・ブラウス。

その下にはライトグレーのタンクトップで、同色のふわりとしたティーアード・スカートの短さが健康的な脚線美を演出している。

 

なんとも、季節とシャルに合ったかわいらしい服装だ。

 

ちなみに俺はごく普通の薄い青の半袖Yシャツと長ズボンという服装だ。

 

流石に、制服で繰り出すのは中々にマズイものがあるからな。

なんせ、『IS学園の制服を着ている男子』なんて俺一人だ。

 

悪目立ちしすぎるだろ。

 

「で、一夏。今日はどこに行くの?」

 

「ああ。臨海学校の水着と、ちょっとな。」

 

「ちょっと?」

 

「まあ、適当に店を見て回るつもりだ。」

 

「ん、わかった。」

 

 

「よし、それじゃあ行くとするか。」

俺は何気なくシャルの手を取り――

 

「うん―――って、一夏ぁッ!?」

 

「うん? どうした?」

なんでそんなに慌ててるんだ?

 

「ててて…手……」

 

「手? ああ、駅前は人が多いからな。はぐれたりしたら大変だろ。」

 

「そそそ、そうだね。それじゃあ、仕方ないよね。それじゃあ、行こっ!」

 

「お、おい、引っ張るなって。」

 

急に歩きだしたシャルに引っ張られて俺も歩き始める。

 

 

「ん?」

 

ふと、なんだか見られてるような気がしてちょっと立ち止まる。

 

「一夏?」

 

……勘違いか?

 

まあ、シャルほどの美少女なら人目も引くし、一緒にいる俺に殺意のこもった視線の一つや二つは向けられるのは当然か。

 

「何でも無い。さ、行くぞ。」

 

「うん!」

 

 * * *

[side:   ]

 

「……………」

「……………少々、危なかったですわね。」

 

駅前へと向かっていく一夏とシャルロット。

 

その姿を物影から窺うふたつの影があった。

 

一人は躍動的なツインテール、もう一人は優雅なブロンドヘアー。

 

つまるところ、鈴とセシリアである。

 

ちょっとばかり勘が良くて(但し女性関係は除く)視線に鋭い一夏に見つけられかけたがなんとか隠れていたのだ。

 

「……あのさあ。」

「…なんですの?」

 

「……あれ、手ぇ握ってなかった?」

「握ってましたわね。羨ましい限りですわ。」

 

虚ろな目の鈴と若干引き気味のセシリア。

 

「そっか。やっぱりそっか。あたしの見間違いでもなく、白昼夢でも悪夢でもなく、やっぱりそっか。」

 

握りしめた鈴の拳は既にISアーマーが部分展開していて準戦闘モードに入っていた。

 

「――――よし、殺そう。」

 

「り、鈴さん!((ISの展開|そんなこと))をしたら空さんの拷も――((着座説法|おせっきょう))が待ってますわよ!?」

 

 

 

なんとも恐ろしき十代女子の純情であった。

 

衝撃砲が砲身を展開。

衝撃砲発射まであと二秒。射線上に居る人は巻き添えにご注意あれ。

 

「あら、あれは……むぐっ?」

「し―――きゃ、むぐ」

 

いきなり物影に引き込まれたセシリアと鈴。

 

ご丁寧に口まで塞がれもがもが、としか喋れない。

 

そして、二人をそんなふうにした犯人は何やら切羽詰まった様子だった。

 

 

そのまま一、二分ほどを緊張感と沈黙が支配し、ようやく犯人は「ふう」という溜め息と共に二人を解放した。

 

「い、いきなり何をするんですの!?」

「一夏たちを見失っちゃうじゃない!――って、アンタッ!」

 

「す、すまない。だが私の方も緊急事態だったのだ。」

 

犯人は、ラウラだった。

だが、普段の怜悧な姿はそこに無く、なんとなくくたびれた様子だ。

 

「頼む、匿ってくれ。」

 

素直にぺこり、と頭を下げるラウラに毒気を抜かれた二人は事情を聞く。

 

「どうしましたの?」

 

「それがだな、」「らーうーらーちゃーん」「へぅっ…」

がっし、とラウラの肩が掴まれた。

 

「あ。」

 

「駄目じゃない、突然いなくなっちゃ。さ、行くわよ。」

 

「お、オルコット、ふ、鳳!助けッ―――」

 

 

あっという間にラウラが拉致されてゆく。

 

その様子は売られに行く子牛―――いや、狼に捕まった哀れな野ウサギだろうか。

 

「……なんだったの?」

 

「……さぁ。」

 

鈴とセシリアは訳も判らず、とりあえずラウラの冥福だけは祈りつつ一夏の追跡を始める事にした。

 

 

[ちなみにその頃……]

 

タァン――

 

「ヒット、右二〇。次弾込め。」

 

「はいッ!」

 

箒は、空に((観測手|スポッター))をしてもらいながら狙撃訓練をしていた。

 

 * * *

[side:一夏]

 

「えーっと、水着売り場はここだな。」

 

俺たちは駅前のショッピングモールの二階に到着した。

 

交通網の中心でもあるここは電車(地下鉄含む)、バスが通っておりタクシー乗り場も完備という、市内のどこからでも来れ、何処へでも行ける、そんな凄まじい場所なのだ。

 

そして、駅舎を含む周囲の地下街が全て地下通路で繋がっているショッピングモール――ここ、『レゾナンス』は衣食住すべてに通じる場所で衣は量販店からブランドまで、食は和洋中問わずに完備、住に関しても家具屋や電器屋などが入っている。

 

更に各種レジャー施設もあるので子供からお年寄りまで、幅広く対応可能という。

 

曰く『ここになければ市内のどこにもない』とか。

 

 

そんな複雑怪奇な場所だが、俺にとっては中学の頃はよく弾と鈴の三人で繰り出してきたので庭も同然、迷うことも無い。

 

「ところで、シャルも水着を買うのか?」

 

「そ、そうだね……一夏はさ、その……僕の水着、見たい?」

 

何故に俺に振る?

 

まあ、正直言えば――見たい。

 

シャルほどの美少女の水着姿だ。下手な雑誌に載ってるグラビアアイドルよりもキレイなんだろうけど……………後が怖い。

 

よし、ここは無難に行こう。

 

「そうだな…折角だし、泳ごうぜ。海は俺も久しぶりだから結構楽しみにしてるんだよ。それに、海に入らないと詰まんないぞ。」

 

よし、これならば明言は避けてるから大丈夫なはずだ。

 

「そ、そうなんだ。じゃ、じゃあ、折角だから新しいの買おうかな。」

 

握る手にきゅっ、と力が入る。

まあ、痛くないが。

 

「それじゃあ、売り場が違うから三十分後にここでいいか?」

「あっ―――」

 

手を離すとシャルが物惜しそうな声を上げた。

まるで『欲しいモノがあるけど中々言いだせない子供』の表情を浮かべて俺をじぃっと見つめてくる。

 

「ええと……どうかしたか?」

 

「えっ、あ、うん。何でもないよ。」

 

「そうか?それじゃあ三十分後に。」

 

「う、うん。」

 

こくん、と頷いてシャルは女性用水着売り場へと入って行った。

 

色とりどりの水着が飾られ雰囲気はそこだけ南国の様だ。

 

「っといけねぇ。俺も選ばないとな。」

 

と、言っても男物の水着は種類も多くないし色もそれほど多くは―――

 

「……随分と奇妙な色というか、奇抜な色が多いな。」

 

色数は多いが、マトモなのがあまり多くない。

 

俺が選んだのは無難なネイビーのヤツだ。

 

それを買って、俺が待ち合わせ場所に行くと既にシャルはそこにいた。

 

「あれ?早いな。もう終わったのか?」

 

「あ、ううん。ちょっとね―――その、一夏に選んで欲しいなって思って…」

 

そうか?

俺の意見は割と役に立たないと思うんだが…

 

だがまあ、シャルがそう言うならそうしよう

 

「それじゃあ、実物を見に行くか。」

 

で、女性用水着売り場足を踏み入れた訳だが…うーむ、なんというか別世界だな。

種類やデザイン、色数の多さに思わず尻ごみをしてしまう。

 

とはいえ、シャルに意見を求められている訳だから入らざるを得ない。

 

日曜日と言う事もあってそこそこに客(当然女性)がちらほらと見える。

当然、向こうも俺が入ってきたということですぐに気付いたようだ。

 

「そこのあなた。」

 

「ん?」

 

キョロキョロと周囲を見回してみたが俺とシャルくらいしかいない。

 

「男のあなたに言ってるのよ。そこの水着、片づけておいて。」

 

と、名前もしらない相手からいきなり言われた。

 

ISが普及した――というか、有名になって十年あまりで女尊男卑の風潮があっという間に浸透した。

 

どの国でも女性優遇制度が設けられ、男はこうして街を歩いているだけで、見ず知らずの女性から命令される始末。

 

けど、俺は――

 

「そう言うのは店員に頼むか自分でやってくれ。人にやらせてばかりいると、人間馬鹿になるぞ。」

 

そういうのが大っ嫌いだ。

知り合いや手を貸さないとでき無さそうな人ならともかく、見ず知らずの相手に言われる筋合いはない。

それに俺にだって((矜持|プライド))はある。

 

「ふうん、そう言う事言うの。自分の立場が判ってないみたいね。」

 

そう言って女性客は警備員を呼ぼうとする。

これで『いきなり暴力を振るわれた』とか言われたら問答無用で有罪確定。

冤罪である事も疑わずに刑務所行きだ。

 

……俺の場合は、研究所送りで生体標本の可能性も高いが。

 

とりあえず心配そうにしてるシャルにはこっそりとプライベートチャンネルを使って『他人のフリをしてくれ』と言っておく。

 

「どうしました?」

 

警備員がやってくる。

 

「こいつが私に暴力を――」

「いいえ、水着を片づけておけと言われたのを断っただけです。」

 

と、言ってから俺はシャルに視線を向ける。

 

ハッ、としたシャルは、

「そうです。彼は何もしてません。」

そう証言して擁護に回る。

 

 

一時は身分を証明すれば何とかなるって言われてたけど、それだと証拠隠滅防止のために現行犯逮捕されやすいらしいな。

 

「それでも疑うというのなら、ちょっと連絡させてもらえますか?」

 

ついでにもうひと押ししておこう。

警備員は俺の願い出に頷いたので携帯電話を取り出して学園に電話をかける。

 

休みの日だけど、誰か居る筈だ。

 

ルルルルル、ルルルルル、ガチャ。

 

『はい、IS学園です。』

 

「あ、自分は一年一組の織斑です。織斑先生か山田先生、千凪先生は居ますか?」

 

『少し待ってね。』

 

今日は休みだから先生方もいないのだろう。

内線に切り替わる。

 

程なくして、

 

『はい、千凪です。』

 

「あ、一年一組の織斑です。ちょっと厄介な事になりまして…」

 

俺はあくまで『先生と話してる』風を装う。

まあ、実際に空は先生だけど仲良しの先生だと庇ってるって思われそうだからな。

 

『判った。携帯、スピーカーモードにして。』

 

「はい。」

 

ピ、とボタンを押すと声が全体に聞こえるようになる。

 

『IS学園、一年一組副担任の千凪です。うちの生徒がなにやらご無礼を働いたようですが…』

 

「そ、そうよ!暴力を振るったのよ!」

 

まだ言うか。

 

『判りました。―――織斑。銃殺、電気椅子、斬首、縛り首、火あぶり、釜茹で、磔、切腹から好きなのを選びなさい。』

 

空が、なんだか千冬姉に似てきた気がする。主に嗜虐的な意味で。

 

「――――え?あ、あの…千凪先生。まったく俺が生存する可能性を見いだせないんですけど。」

銃殺と電気椅子以外は江戸時代の処刑方法だ。

 

しかも、学園ならIS用の銃に近接用ブレード、工作用のバーナーと道具はあるか作れるのどちらかだ。

 

衝撃砲あたりで『銃殺』されたら俺は『床の頑固な赤いシミ』になるだろう。

 

 

『なら、研究所で検体になるってのも加えてあげるわ。』

 

「それ、確実に解剖されます。」

 

『明日の朝刊の見出しは「世界初の男性IS操縦者、女性に暴行し極刑に処される」で決まりになりそうね………』

 

「えっ………」

 

驚いた声を上げたのは警備員と言いがかりをつけてきた女性客だった。

っていうか、空が『IS学園一年一組副担任』と言った時点で気付けないか?普通。

 

『うちの生徒の不始末は追って謝罪させていただきます。処分の際はお呼びしますか?』

 

「え、えーと…一度監視カメラの映像を確認してみますので少々お待ちを―――あれ?」

 

警備員があまりに事が大きくなりすぎた為に『確認する』と言った時、言いがかりをつけてきた女性客は姿をくらましていた。

 

「まったく……災難でしたね。先生もお騒がせしたようで。」

 

「あ、千凪先生。解決しました。」

 

『あら、そう。折角介錯の用意までしておいたのに。』

 

………酷い。

 

とりあえずスピーカーモードを切って、普通の状態に戻す。

 

「お騒がせしました。」

 

『気をつけてよ。』

 

「はい。」

 

ピっ、と切って一件落着だな。

 

と、思ったら―――

 

「ああっ!いいところに、助けてくれっ!」

 

涙目になったラウラが俺の背後に回り込んで、隠れるように身を縮めていた。

 

「ど、どうしたんだ、ラウラ。」

 

ガクガクブルブル。

 

狼に睨まれた子ウサギのように震えるラウラは、なんというか普段とのギャップが妙にかわいらしく見え、庇護欲をそそられる。

 

『よし、お兄ちゃん頑張るぞ』的な。

 

「ラウラちゃーん。」

 

「ひっ―――隠れる場所は………あそこだっ!」

 

「ちょ、ラウラ?」

「わ、わぁっ!?」

 

ラウラに引き摺られ俺とシャルは試着室に押し込まれた。

 

本来一人が入る事を前提にした半畳もないスペースに三人。

 

いくらラウラが小柄とはいえもうぎゅうぎゅうだ。

 

「なあ、一体――」「しっ、声を出すな。見つかる。」

 

ラウラに口を押さえられ、俺は否応なく黙らされる。

 

 

「おっかしいわね。確かこっちに逃げてきたと思ったんだけど……むむ、流石代表候補生。」

 

すぐ外から聞こえてきた声は聞きおぼえがある。

 

確か、槇篠技研副所長の槇村さんだ。

 

…でも、なんで槇村さんがラウラを追いまわすんだ?

 

むむむ、と唸りながら足音が遠ざかって行き、誰となく溜め息が漏れる。

 

 

と、その時…

 

「あ。」

「え。」

「ッ!」

 

ドアが開き、山田先生と目があった。

 

「……何をしてるんだ、お前らは。」

 

その後ろには頭が痛そうに額を押さえる千冬姉。

何故かその後ろにはセシリアと鈴もいる。

 

というか、二人は千冬姉に捕縛されていた。

 

 

「ラウラちゃん、みーつけたー!」

 

「ひぃっ!」

 

そしてその現場に突撃してくる槇村さん。

 

「…やれやれ、千凪が言っていたのはこう言う事か。」

 

がっし、ぎりぎりぎりぎり、

 

「あうちあうち、あうぅぅぅぅ!!」

 

突っ込んできた槇村さんの頭を千冬姉の手が捉え、しっかりと締め上げる。

 

そのアイアンクロ―の痛みに耐えかねての悲鳴があたりに沈痛な雰囲気をまき散らしていた。

 

[ちょうどその頃…]

 

「ほらほら、もっとうまく使わないと。懐に飛び込まれるよ!」

 

「くっ………!」

 

「近接射撃戦と近接格闘戦の切り替えは思い切り良く!」

 

「でりゃぁぁぁッ!」

 

「おおっ。((瞬時加速|イグニッション・ブースト))。でも、タイミングがあまり宜しくないかなぁ。」

 

箒は空相手に掛り稽古ならぬ掛り模擬戦をやっていた。

 

「その距離だと間合いが近すぎ…おおっと!」

 

緊急回避をする空。

 

ちょうどその場所を舞梅の右手に持つ鉄扇が通り過ぎた。

 

「おっとっと。鉄扇の事忘れてたよ。危ない危ない。」

 

概ね、空に翻弄される箒だったが、有効打に近い攻撃を何発か掠らせてその成長の早さを見せつけていた。

 

 * * *

 

千冬姉と山田先生に事情を説明し、暴走しそうになっていた鈴を俺とセシリアが宥め、ラウラはシャルの背後に隠れるようにして拘束されている槇村さんから逃げようとした数分の後、

 

「なるほど。そう言う事でしたか。」

 

ようやく俺たち三人が試着室にぎゅうぎゅう詰めになっていた理由を理解してもらえた。

 

ちなみに鈴とセシリアは挙動不審に物影から様子を窺っていたので捕縛したとの事。

 

 

「ところで、先生たちも水着を買いに?」

 

「ああ、そんなところだ。」

 

シャルが問いかけると千冬姉は柔らかめな微笑みを浮かべてそう応えた。

 

「すぐに済ませて退散するつもりだがな。」

 

俺、その次にシャル、ラウラ、鈴、セシリアと視線を流す千冬姉。

 

どうしたんだ?

 

「あ、あー、私ちょっと買い忘れがあったので行ってきます。ちょっと量もあるのでオルコットさん、鳳さん、デュノアさん、ボーデヴィッヒさんはついて来てもらえます?槇村さんは学校で千凪先生が『水着を頼む』と言ってましたのでそちらをお願いします。」

 

そう言って、有無も言わさずに四人を連れて行ってしまう山田先生。

 

ラウラだけはホッとした様子だったが。

 

そして槇村さんは目を輝かせて女性用水着コーナーへと突撃してゆく。

 

 

俺がそんな唐突な状況変化に唖然としていると、

「まったく、要らない気を使う。」

 

「え?」

 

「まあ、言っても仕方がないか。―一夏。」

 

「な、なんですか、織む―――千冬姉。」

 

態々名前で呼んできてるってことは教師と生徒じゃなくて姉と弟で、と判断して言いかえる。

 

まあ、途中まで対教師用の口調だから嫌に丁寧になってるけど。

 

でもまあ、久しぶりの姉弟水入らずの状況だな。

 

「どっちがいいと思う?」

そう言って千冬姉が見せてきたのは専用のハンガーに掛けられた二着の水着。

 

どっちもビキニタイプで片方はスポーティーながらメッシュ状にクロスした部分がセクシーさを演出している黒水着。

もう片方は一切の無駄を省いたかのような白水着。

 

なんというか、対極だな。

 

「うーん、俺としては黒なんだけど、白も捨てがたいんだよなぁ……」

 

「どうしてだ?」

 

「シンプル・イズ・ザ・ベスト。」

 

あとは、白の方がストイックなイメージが湧くから下手な連中が寄りつきにくそうだしな。

………今回の臨海学校に限って言えば関係者(ほぼ女性)以外は居ないだろうけど。

 

「なるほどな。では、こちらにするとしよう。」

 

そう言いながら千冬姉は白い水着を元あった場所に戻す。

 

「え?それで決めていいのか?」

 

「折角、弟が選んでくれたのだからな。」

 

そう言われると俺は何も言えない。

 

「それに、白を推す理由に『男が寄りつきにくいだろう』とか思っていだろう。」

 

「う、バレてたか。」

 

「まったく。要らない心配をするな。」

 

「そうだよな。千冬姉は昔っからアキ兄一筋だったもんな。」

 

それで何度も束さんと衝突してたっけ。

 

で、それを『仲がいいな』と眺めるアキ兄、ハラハラと見守る俺と箒って光景がある種のお約束だった。

 

「……ふん。」

 

誤魔化すような、それでもって寂しそうな表情。

まだ、十年も経ってないから、振り切るには時間が足りないか。

 

「で、お前の方はどうなんだ?」

 

「え?俺?何が?」

 

突然に切り返されて俺はイマイチ状況が読み取れずに素で返す。

 

「何が、もなにも…お前は彼女を作らないのか?幸い学園内には腐るほどいる。より取り見取りだろう?」

 

まあ、確かにそうだけどさ……

 

「そうだな……ラウラなんかはどうだ?色々と問題はあるが一途だし容姿も悪くないだろう?」

 

「まあ、確かにラウラは可愛いけどさ…」

 

「ならデュノアか?オルコットか?それとも鳳か。…私の見立てでは篠ノ之や千凪、更識あたりもいいとは思うがな。」

 

まあ、確かに箒なら一番付き合いが長いし気心も知れてる、ある種家族みたいなもんだったし。

空も……まあ。

更識さんというと簪さんの事だろうが、彼女は『友人の友人』あたりだからな…

 

「まんざらでもなさそうだな。まあ、つまるところ…」

 

「余計な心配する前に自分の方を何とかしろ、だろ。わかったよ、余計な心配はしない。」

 

「それでいい。」

 

にやり、と笑って千冬姉はレジへと向かってゆく。

 

俺はレジに同行すべきか、他の人を待つべきか迷い…結局、待ち合わせの目印になる事にした。

 

千冬姉が水着を買い、山田先生たちが意外に少ない…というか小袋一個で終わりという量の買い物を終わらせて戻ってきたところで生徒組と教師組に別れた。

 

俺たち生徒組は中断されたシャルの水着選びやラウラの水着選びをしてから五人で昼食を取った。

 

その後も二、三の店を覗いて回ったほかは、わいわいとはしゃぐシャルたち一行に付き従っていた。

 

まあ、なんだかんだでみんな楽しそうだったから充実した休みになったと言えるかな。

 

 

 

………そういえば箒はまったく姿を見なかったけど、どうしてたんだろうか。

 

 

[その頃………]

 

「おかわりは用意してあるから遠慮なくね。」

 

「はふはふ…ああ。」

 

狙撃、単発射撃、連射、弾幕伸展と一通りの射撃訓練を終えた箒は空のところで昼食を取っていた。

 

ちなみにメニューはお手製の炒飯と卵スープであったとか。

 

(絶対に、負けないからなッ!)

 

「午後はゆっくりと体を休める事。あ、一緒にここ行く?」

 

「―――これはっ!何故、こんなものを?」

 

「ふふふ、ちょっとツテがあってね。」

 

「是非とも!」

 

「それじゃあ、出かける支度ができたらここにまた。」

 

「ああっ!」

 

先ほどまで鬼気迫る勢いで訓練をこなしていた女傑の姿は無く、ただ華も恥じらう、十代乙女がそこにいた。

 

「あれだけの運動量の後だ。カロリーなど、体重計など、もう怖くないっ!」

説明
#37:休日×買い物×ドタバタ騒ぎ
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