マクロスF〜とある昼行灯の日常〜
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【いつもの日常】

 

「ただいまっと」

 

ようやく今日の訓練も終わったか。

こちとら正規のパイロットでも何でもないのに無茶させるよ、ったく。

格納庫を重しつけたまま30周の後にシミュレーターに入って模擬戦闘30戦連続はキツかった…

 

ったくオズマのバカもジェフリーの旦那も何考えてオレみたいなのに気をかけてんだか分からねぇ。

事あるごとに絡んできて訓練させようとするわ、正規のパイロットに仕立て上げようとするわ…

 

オレ、予備パイのミサイル管制員なんですけど!?

クォーターの弾幕を張るお仕事なんですけど!?

 

 

「っと、ビールビール」

 

 

ま、あんなきっつい訓練の後に飲むビールの前には全部霞んじまうわな!

 

カシュッ

 

ほっほ、この独特の音がたまんねぇ。

このビールも、このマクロス・フロンティアじゃあ中々の高級品。

まあこんなだだっ広い宇宙を1000万人以上乗せた巨大宇宙船で航海(?)してんだ、少々の不具合はあらぁな。

 

んぐっんぐっんぐっ…

っかぁあ!うめぇ!!!

この一口目の喉越しがたまらんな。

1本目を飲み下しながらPCが置いてある机に移動する。

 

「ん?PCが点滅してやがる」

 

嫌な予感がするが無視したらもっとヤバいことになりそうだ。

スイッチオンっと…

 

 

『やっと帰ってきたわね?この私を待たせるとは良い度胸してるじゃない?」

 

 

せっかくいい気分で呑んでた空気をぶち壊すかのような光景がオレの前に広がる。

ったく、このご時世【sound only】は流行らねぇってのによ。

どっかの頭のイカれた野郎(?)がご丁寧に女の声まで使ってオレに絡んできやがる。

ケッ、どっかのバカは騙せてもこのオレは騙されねぇっつーの!

そもそも、【sound only】にして喋りかけてくるのは女の真似してチャットしてくる男の野郎か、後ろめたいことやってるヤツか。とにかく深く関わったら面倒臭いことになるのは間違い無ぇ。

適度に相手して適度に満足させて適度に追い返すのが基本だな。

 

ってことでさっさとご退場願いますか。

 

 

「だぁほう。てめぇが勝手に繋げてきたんだろうがよ、オレのせいにすんな。こちとらビール飲むのに忙しいんだからよ」

 

『なっ…?!この私と話するのよりお酒をとるですって!?』

 

「だっからこの前からも言ってんだろうが、男だか女だか、どこの誰だか知らねぇやつと長時間喋る気は無ぇって。チャットだ、チャットに切り替えんぞ」

 

 

オレが最初にちぃっと優しく対応すればこの有様だ。

本当の女だったら、どんだけプライド高いんだよ…オレには合わねぇ。

オレの好みは、もちっと穏やかで家庭的でオズマんとこのランカちゃんを胸デカくして大人にしたような感じの『ちょっと、聞こえてるわよ?!』

チッ。

 

『ぐぐ…アンタなんか、私が本気になればすぐにイチコロになるんだからね!?』

 

「はいはい、ワロスワロス。寝言は寝てから言え」

 

『あったまきた…へぇ、あんたマクロス・フロンティアに住んでるんだ…?』

 

「ぶっ…ケホッケホッ」

 

 

なっ?!この物言い、まさかM・F以外のとこからアクセスしてんのか?待て、船団同士の個人的なアクセスは禁止されてた筈…これがまかり通るところ、そしてアクセスできる程度に時空断層の歪みが少ないところにいる船団と言えば…

 

 

「まさかギャラクシーからのお客さんとは…バカか!!?そっちは合法でもオレが違法扱いになるじゃねぇか!?せっかく食いっぱぐれの少ねぇとこに就職してんのにフイにするつもりか?!」

 

『へぇ、意外にも頭回るんじゃない?でも、この私の声を聞いてピンと来ないなんて…あなた音楽とか聴かないの?』

 

「くそっ、完全に人事と思って余裕ぶっかましてんだ…」

 

やべぇ、コレが大統領府にでもバレたらオレの首どころかS.M.S.全体にまでいらねぇ誤解与えちまう。さっさと切るに限る。

 

 

「これ以上お前と話している暇なんざ無い!短い付き合いだったな、また別の男捜して愚痴ってろ」

 

『え、ちょ、待っ』プツッ

 

 

PCのアクセスを落とし、通常に戻す。

一応、心配はいらないと思うがコネクターも外して…

 

よし、これで問題無いはず。あとはヤツが居ない時間帯を見つけてログを消して…

ふぅ、何とかなりそうだ。

 

 

「ん?」

 

 

あっ…ビールのこと忘れてた。

 

 

ぬるっ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※  ※  

 

 

 

 

 

 

「シェリル、そろそろ移動の時間よ。準備して…ってどうしたの、そんなに震えて」

 

「グレイス?ちょぉっと頼みたいことがあるんだけど」

 

「…何かしら?」

 

「今度の異船団ツアー、マクロス・フロンティアを候補に入れといて。ツアーが無理でも無理矢理個人的に行ってやる!」

 

「ちょ、落ち着いて」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※  ※  ※

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふあ〜…結局寝たのは2時過ぎ…呑みすぎて…眠ぃ」

 

「こら、ダイチ中尉!あなたって人は私が昨日メールしても返しもしないで!!」

 

「げ、ジェシカ大尉!?」

 

「あ、こら!!待ちなさい!!!」

 

 

ふぅ、ヤツは相変わらずだな。

パイロットとしての技量はオレと同等以上、なのに普段は本気を見せずにああやって仲間をリラックスさせて、自分自身の評価を最低限なものにして…本当に損してるぜ。

ランカも純真だからな、基本的にズボラで善人なダイチに良く懐いてる。

あの子から本当の笑顔を最初に引き出したのはヤツ、だからな…

 

ジェシカの件にしてもそうだ、フレンドリーファイアで僚機を撃墜しそうな時、あいつに助けられた。

本人は焦った感じで『悪い、ミサイル管制ミスった!?誰か当ってねぇよな?!』とか…

周りのヤツらは【偶然】で済ましてるだろうが、オレの目に狂いは無い。

ジェシカも分かってるんだろう、そうでなければああやって必要以上に絡もうとは思わないはずだからな。

 

逃げ切ったようだな、まああいつにはオレの部下でもやらないような訓練メニューを組んでるんだ、そう簡単に捕まるようでは話にならん。

 

適度に、急がず、マイペースで…今はそうやって羽を伸ばしていろ。

有事の時のため、そしてお前の為に…このS.M.S.が誇るパイロットにしてやる!!

オレは逃がしはしないぞ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※  ※  ※

 

 

 

 

 

 

 

【いつもの日常A】

 

「にゃんにゃんにゃんにゃんにーはおにゃん、と」

 

 

今日は久しぶりのオフ。ということで『娘娘』に来てみました。

ん〜、ここに来るのはいつぶりくらいかね?

確かランカちゃんがオズマの野郎におねだりして墜として、んで心配になったオズマに頼まれてオレが代わりに様子を見に行ったんだっけ。

 

 

「ほ〜、さすがは全船団にチェーン店があるだけのことはある」

 

 

店に入った瞬間、中華料理特有の香ばしい匂いがオレの鼻を擽る。

店内も綺麗にされてて清潔感にあふれている。

 

この状態を保つのも、ランカちゃんの仕事にも入るんかね?

ぐっじょぶ、ランカちゃん。

 

 

「いらっしゃいませ…って、ダイチさん?お久しぶりですね!」

 

「よっ、ナナセちゃん。久しぶり」

 

 

席案内に来てくれたのは、ランカちゃんのバイト仲間であり、同級生の松浦 ナナセちゃん。

とてもランカちゃんと同い年には見えない程の女性の一部が豊富なメガネっ娘である。

 

 

「わー、前に来てくれてから全然来てくれなかったし、ランカさんも随分と愚痴をこぼしてたんですよ?」

 

「え、マジでか?そいつぁヤバいな」

 

「ふふっ、ランカさんにとってダイチさんは頼れるもう一人のお兄さんですから」

 

 

はっは、こう言ってはくれるが絶対オズマの方が頼り甲斐あるだろ。

何せS.M.S.でも…っと、コレはランカちゃんにはナイショだっけか。

ここでうっかりナナセちゃんに零したらバレる可能性が高い。

 

オレとしては、あの仲が良い兄妹が拗れるところなんざ見たくねぇし。

 

 

 

「ん、ところでオレ一人なんだけど、空いてる席ある?何なら誰かと相席でも構わねぇけど」

 

「はい、今はお客さん少ないですし、ご案内できます。それじゃ、こちらにどうぞ」

 

「はいよ」

 

 

やべぇ、この良い匂い嗅いでたら腹が鳴って仕方無ぇ。

早くメシ、メシ、メシ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※  ※  ※

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「鉄(くろがね) ダイチ、年齢28歳。元新統合軍所属、グァンタナモ級宇宙空母のミサイル管制官として勤務、3年前にオズマ・リー少佐の誘いで新統合軍を除隊、S.M.Sに籍を移す…か」

 

「ミシェル先輩、何見てるんですか?」

 

「ルカか。いや、姉さんの事で気になったことがあってな、色々と調べてるんだ」

 

「あぁ、ダイチ中尉ですね?本来ならオズマ隊長と同じくらいの階級でもおかしくないくらいの功績を挙げているにも関わらず、未だ中尉のまま。バルキリーパイロットとしても予備要員で登録されているくらいの腕の持ち主ですよ」

 

 

データ端末を覗いている二人の少年。

メガネをかけ、セットされた金髪をわずかに垂らすことによって年齢不相応の色気を醸し出す少年。

名をミハエル・ブランと言い、ジェシカ・ブランの実の弟である。

 

そして中性的な顔立ちで実年齢以上に幼く見える茶髪の少年。

名をルカ・アンジェローニと言い、S。M.S.や学校共にミハエルの後輩である。

 

この二人、オズマが率いる『スカル小隊』の隊員であり、卓越したバルキリーの操縦の腕、戦闘能力、並びに電子戦闘・解析能力を持っている。

 

 

「ふむ、オレとしては先輩を悪く言いたくないんだがな、ダイチ中尉は本当に凄腕なのか?って所で納得できない部分がある。姉さんをフレンドリーファイアから救ったことも本当のことだかどうか分からないし」

 

「それ、分かる気がします。何せ新統合軍との合同演習でもミサイル管制をしくじったり、バルキリーに乗っては危なっかしい操縦で場を荒らして、軍が張ったペイント弾幕を奇跡的な操縦でくぐりぬけて一人だけ無傷で演習を終えたとか。助けたのが事実でも偶然なのか必然なのか。実際どうなんだって話ですよね」

 

 

S.M.S.はお金を払わないと動かない傭兵のような立場なのだが、シミュレータだけでは実戦能力が落ちるからということで、新統合軍の大規模演習の際にはバルキリーだけ派遣するのだ。また、マクロス・クォーターを守る小型空母も1〜3艦派遣され、ミサイルやビーム砲といった射撃演習も実施される。

 

 

「端末に残っているのはこの数回の合同演習、そして時空断層デフォールド後の実偵察行動のみ…データが少なすぎる」

 

「えぇ、軍所属の時のデータは全て除隊時に削除、S.M.S.所属後も訓練らしい訓練には参加せず、部下と言った部下も居ず、ただオズマ隊長のシゴキを受ける日々、と言ったところですね」

 

 

これ以上のデータを探すも、全くヒットしない。

ミハエルは、ため息をついて端末の電源を落とす。

そして、ダイチが新統合軍の隊員から言われ続けられていたあだ名を口にする。

 

 

「…昼行灯、か…」

 

「行きましょう、先輩。学校遅れるとアルト先輩に何か言われますよ?」

 

「そうだな、行くか」

 

 

いくら考えても、裏づけできるデータが無いのでは仕方無い。

胸のモヤモヤする感じを内心押し込めながら、ミハエルとルカは端末を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※  ※  ※  ※

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいまっと」

 

ふぅ、腹一杯だっつーの。

チャーハンに肉まん、餃子にマーボー豆腐とよく入ったもんだ。

口の中が程よい辛さに包まれてやがる。このまま酒をロックで飲めば旨そうだ。

 

一杯だけ、一杯だけだから!!

 

 

ガチャ

 

 

「へぇ…私を放って外食しただけでなく、メールも電話もせずにお酒呑んで寝るだけ、って?私もナメられたものね」

 

 

 

が、オレを程よい心地ではなく、地獄へまっさかさまに落としてくれたのは腕組みして仁王立ち、薄暗い部屋でにこやかに(?)微笑んでいるジェシカの姿だった。

 

 

「げ!?じぇ、ジェシカ??何でこんなところに…て言うか鍵は?どうやって入った?!」

 

「ふふ、そんなの管理人さんに借りたに決まってるじゃない…」

 

 

こ、こぇえ〜…

オレは背筋がゾクゾクしてくるのを抑えるだけで精一杯だ。

 

そうこうしている間にも、ジェシカは微笑みながらゆっくりオレに近づいてくる。

 

 

「ま、待て。オレの方が年上だよな?!それに妙齢の女性がオレのようなところに一人で来るのは色々と誤解を…」

「あら、階級は私の方が上よ?それに私のことを気にしてくれてるんだ…?ふふっ、これで彼氏ができなかったら貴方に貰ってもらえば良いし」

「ちょ、い、今はプライベートだから階級は関係無…って近い近い!!オレには不幸な結末しか見えねぇぞ?!」

 

 

ちょ、何でオレの首に手を持ってくんの?あれ、だんだん締め付けが激しく…ぐぇ?!

オレの意識は、彼女が何か喋っているところを最後に途切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※  ※  ※  ※  ※

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あ、落ちた。

意識が無くなったみたいね、私の手からズルリと彼の身体が滑り落ちる。

 

 

はぁ、全く。

この私としたことが、本当に無様なものね。

こんな私、ミシェルには見せられないわ。

たった一人の男の為にここまでするなんて、ね。

 

 

私は本来ならばこうやってることも無かったでしょう。

 

『あの』ミッション時…スナイパーである私は後方で僚機の射撃援護をしていた。

でも、敵機との近接戦闘をする僚機の援護に回ろうとした瞬間…私の指は敵機に照準する間もなくライフルのスイッチを押してしまった。

これは私の数多の戦場経験の中で唯一の、気が緩んだ瞬間だったんでしょう。

ぐんぐん近づいていく射線…正直、私は『やってしまった』と思ったわ。それほど正確に、僚機光の奔流は向かっていった。

でもその時、奇跡は起きた。

 

突如横から割り込んでくる白い物体。それがミサイルだということに私はしばらくの間気づかなかった。しばらく?いや、この表現は正確じゃないわね。走馬灯のように、ゆっくりと私の目の前の光景がコンマ送りで映し出される。これは私が極限にまで集中した時に見えるビジョン。

 

ミサイルの射出元を見ると…目立つオレンジカラーのバルキリーバトロイド。

ダイチが乗る、バルキリーだった。

 

 

数瞬の間にここまで見れたって事は奇跡に近い。でもそのお陰で私は真実を知っている。

 

 

私は彼に、恩がある。

人として、助けてもらった。

『味方殺し』の汚名をかぶらなくて済んだ。

 

そして何より。

 

 

「zzzzzz…」

 

 

本格的に眠りに入ったこの無防備な姿。

何かこう、母性をくすぐられると言うかなんと言うか…

食事も外食以外まともにしていなさそうだし。

 

うん、私が何とかしてあげなくちゃ、って気になるのよね。

 

 

うふふ、ダイチってばこんな感じだし、女性受けは芳しくなさそうだしライバルは少なそうで助かるわ。

同僚としても、パートナーとしても。

 

 

私はスナイパー。

絶対に逃がしてあげない。

狙った獲物は逃がさない。

 

覚悟しなさい、鉄 ダイチ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※  ※  ※

 

 

 

 

 

 

 

 

【いつもの日常B】

 

 

「こんにちは〜、娘娘です!出前のお届けに来ましたぁ」

 

 

 

「おら、ダイチぃ!いつまで休憩してやがんだ、さっさとシミュレーターに入れ!!」

 

「バカ野郎、まだやらす気か!?オレの脳みそ限界だっつーに」

 

「限界を超えてこそたどり着く境地がある!!そこに至れ!」

 

「てめぇと一緒にするんじゃねぇ脳筋!!」

 

 

 

「…何、この状況…」

 

 

 

 

 

私は今、お兄ちゃんが所属しているS.M.S.の隊舎に来てるの。

本当は一般人が入っちゃダメなんだけど、お兄ちゃんの妹と認識されてるから、門番の人にも顔パスで入れてもらえる。ふふ、ちょっと優越感を感じちゃうかな。

 

ここには私が好意を寄せてる男性が2人いる。

言わずと知れた、お兄ちゃんと、ダイチさんだ。

昔のことはあまり覚えて無いけど、この2人にはとてもお世話になったし、今も可愛がられてる。

だから、私の好意も、その…身内に対する感情なのかな?あはは、よく分からないや。

 

その、件のダイチさんから出前の注文を受け、それで私が配達に来たんだけど…

 

 

目の前には、お兄ちゃんに指差されながら罵られてるダイチさんの姿があった。

 

 

「…って、えぇえええ!?」

 

 

うそ、お兄ちゃんってパイロットの仕事辞めたんじゃ…

ううん、それにダイチさんもひょっとしたら。

 

 

「やぁ、ランカちゃん。そのチャイナドレス、とっても可愛いね。ダイチ中尉なら今、見ての通りオズマ少佐に扱かれてる途中だよ」

 

「あ、ミシェル君」

 

 

唖然としていた私に話しかけてくれたのは、お兄ちゃんの部下だという、ミシェル君。

私より年上で、いつもにこやかに、まるで子供に対するかのように接してくる。

 

うぅ…私ってそんなに子供っぽいかな?

 

あ、ダイチさんがお兄ちゃんにお尻蹴られて機械の中に入れられちゃった。

 

 

「ねぇ、ミシェル君。ダイチさんとお兄ちゃんていつもあんな感じなの?」

 

 

少し唇を引き攣らせながらも聞いてみる。

 

 

「あぁ、まあ概ね。ダイチ中尉って強そうじゃないのにオズマ少佐の攻撃を悉く避けてしまうんだ。だからシミュレーター1回につき20分て上限があるんだけどそれをフルに使って訓練することになるから半端なく疲れるんだ…。オレ達は撃墜されるか、オズマ少佐に少しの傷をつけて1スパン終了ってことになるんだけど…」

 

ミシェル君は、そこで言葉を切って再びお兄ちゃん達の方に視線を向ける。

 

「ほら、見てごらん?アレだけの弾幕、そして高機動の近接戦闘を仕掛けられながらも、ダイチ中尉は牽制することなく紙一重で避けきってしまう。最初は偶然かと思っていたけど、こうも連発されると、ね」

 

 

ん〜、お兄ちゃんが昔凄腕のパイロットだったということは私も知っている。

でも私を引き取ってから少しずつパイロットとしての仕事を減らし続けて今では完全に事務職をこなしているって聞いてる。

そんなお兄ちゃん、今でも凄いのかな?

 

 

「凄いよ?オズマ少佐は昔から凄腕のパイロットだったし、ランカちゃんとの約束を守ってスクランブルや戦闘待機からは外れてるけど、シミュレーターでの訓練は欠かしたことが無い。今でもその訓練時間はオレ達を上回っているくらいだからね」

 

「…そっか。じゃあ二人とも凄いんだね?」

 

 

うんうんと、にこやかに頷く私を見て、ミシェル君はちょっと眉を顰めていたんだけど、私は仮想画像に夢中になってて気づかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※  ※  ※

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ふぅ、危ない危ない。ついランカちゃんにオズマ隊長のこと口を滑らせるところだった。

どうしても、オズマ隊長って言ってしまいがちになるけど、勘のいいランカちゃんのこと、すぐに違和感に気づいてしまうことだろう。

オズマ隊長から言い含められていること、絶対に言うわけにはいかない。

 

ランカちゃんは、親しい人や身内の人が傷付いてしまうことを極度に嫌う。

それも、まるで発狂したような感じになるそうだ。

オズマ隊長がランカちゃんを引き取って少しした時の戦闘で傷を負い、それをランカちゃんに見られて騒ぎになったそうだ。

それから、オズマ隊長はランカちゃんと約束した。

 

『決して危ないことはしない。パイロットは辞めて事務職とかの後方職に就く』と。

 

ランカちゃんは、今もそのことを信じてる。

 

 

これはオレがS.M.S.に入り、スカル小隊に所属した時に聞かされたことだ。

オレはオズマ隊長に念を押された。

 

『絶対ランカに、オレのことを話すな』。

 

なんとも妹想いな人だよ、オズマ隊長は。

見ててげんなりするくらいの溺愛っぷりだからな。

そうそう、溺愛って言えば…

 

 

「ぷはぁ〜っ!!やぁあっと終わった!腹減った、メシメシ…って、ランカちゃん?」

 

「何ぃ?ランカだとぉ?!」

 

「わお、オレの昼飯出前してくれたんランカちゃんだったんか〜!このダイチ、感激の極み!!」

 

「あ、ありがとう。ダイチ兄さん…」

 

「うっひょぉ、旨そう!ほら、ランカちゃんメシまだだろ?中華マン3つもあるから一緒に食おうや」

 

「え…い、良いんですか?!」

 

「て、てめぇダイチ!人の妹を誘惑するとはオレにケンカ売ってんだなそうだなよっしゃ表出ろ「お兄ちゃん?うるさい」…ハイ、スイマセン」

 

 

ぷっ…くくくく。

ランカちゃん、こんな人がいる中でそんな表情してたらバレバレだよ?

だからいつまで経っても子供って言われるんだ。

子供って言えばランカちゃんは怒るけど…

今のご時世、素直に喜怒哀楽の感情を表情に出せるのは稀。

 

いつまでもその純粋さを持ってて欲しいね。

 

 

 

はぁ、オレもクランにもうちょっと素直になりたいところ。

少しでもその純粋さを分けて欲しいよ。

 

 

ダイチ中尉はもう少し、好意ってものに敏感になりましょうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※  ※  ※  ※

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だきゃらだ、オレは思うわけだや!!宇宙で一番可愛いのはランカじゃちょ!ダイチもしょう思うだろ?」

 

「あぁ、はいはい。思う思う。だからジョッキを握るのはそろそろやめようか」

 

「何をバカにゃことを!!お前は全然分かってにゃい!!」

 

 

はぁ、めんどくさ。

 

オレは今、オズマ(泥酔一歩手前)と居酒屋にいるわけだが…

今日ランカちゃんに酷く冷たくされたせいかヤケ酒中なわけだ。

そりゃあ気持ちは分かるが…

 

こいつをこのまま放っておきたいとこだが、ランカちゃんに『お兄ちゃんのこと、お願いしますね』っていわれちゃあ仕方ない。とことんまで付き合って、んで家にまでとどけてやるのがオレの役目だわ。

 

 

「だいたいにゃぁ、お前はいつもじゅるいぞ?! りゃんかとにゃか良くお喋りしやがって…最近はオレともあんにゃ仲良く話してくれないってのに…んぐんぐ…」

 

「オレに言うなや。ランカちゃんも年頃なんだ、いつも一緒にいるお前とは話しづらい時もあるわそりゃ」

 

「うぅ…」

 

「ほれ、その1杯飲んだら帰ぇんぞ?あまり遅いとランカちゃんが心配するからな」

 

「うぅ…ランカぁ…」

 

 

ダメだ、完全に泥酔状態になりやがった。

こいつ、図体が無駄にデケェから連れて行くのに相当な体力使いそうだ。

ったく、何でオレが…

 

 

会計を済ませ、オズマの脇をオレの肩に乗せ、夜道を歩く。

 

くっ、やっぱ今日の訓練の疲れが残ってんな。

ったく、こいつの課す訓練は日々レベルが上がっていくんだから、こっちとしたらたまんねぇ。

もう28だぜ、オレ?

ミシェルとかルカとか、お前には直属の部下がいるだろうに、何でオレなんだろうねぇ?

 

 

「…うぃっ…ランカ…オレが絶対…守る…心配…するな…ダイチも…ういっ…」

 

 

くくっ。

 

何だかんだ言って、オズマはこういうやつだって再認識させられる。

心配すんな、お前ら兄妹とは古い馴染なんだ。

 

さすがにあの訓練は自重してほしいがよ。

お前一人で無理な時は…オレが手を貸してやる。

 

 

やがてオズマの家にたどり着き、寝ないで待ってただろうランカちゃんが迎えに出てくる。

 

「お兄ちゃん?!もう、こんなになるまでお酒飲んで!!」

 

 

この、小さな純真な笑顔を守る為なら…。

 

な、親友!

 

 

 

 

 

 

 

 

説明
西暦2059年。マクロス・フロンティアは新天地を求め、銀河を彷徨う。
1000万人を超える人々の中に、軍事力を持った民間団体が存在する。民間軍事プロバイダー会社、『S.M.S.』。そこに所属する、一人の男がいた。どこにでもいそうな、平凡(?)な男。
通称、『昼行灯』。
この物語は、そんな男の日常を綴ったものである。
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コメント
TINAMIだったのかぁ!!別のところだと思ってひたすら待ってたんですがたった今発見できました。よかった〜!(ピキュルー)
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